2012年度 - 同志社大学

2012 年
同志社大学
スポーツ健康科学部
二宮ゼミ 3 期 生
スポーツ・マネジメント関連図書
書評
目次
1. 『 サ ッ カ ー ビ ジ ネ ス の 基 礎 知 識 』
射場本
綾
米田
真
関
航
2. 『 地 域 密 着 が 成 功 の 鍵 ! 日 本 一 の チ ー ム を つ く る 』
3.『 ス ポ ー ツ を 仕 事 に す る ! 』
4.『 オ タ ク の 行 動 経 済 学 者 、 ス ポ ー ツ の 裏 側 を 読 み 解 く 』
篠木
浩司朗
5.『 オ リ ン ピ ッ ク は な ぜ 世 界 最 大 の イ ベ ン ト に 成 長 し た の か 』
城村
千佳
6.『 ス ポ ー ツ ・ マ ネ ジ メ ン ト と メ ガ イ ベ ン ト
J リーグ・サッカーとアジアのメガスポーツ・イベント』
田口
雄介
7.「 ス ポ ー ツ の 経 済 と 政 策 」
田中
慧
8.『 団 塊 マ ー ケ テ ィ ン グ 』
東
晃太郎
9.『 3 万 人 調 査 で 読 み 解 く 日 本 の 生 活 者 市 場 』
太箸
匠真
山中
勇二
李
思昂
10.『 勝 負 は 試 合 の 前 に つ い て い る !
米国スポーツビジネス流「顧客志向」7 つの戦略』
11.『 サ ー ビ ス ・ ク ォ リ テ ィ ― サ ー ビ ス 品 質 の 評 価 過 程 』
『サッカービジネスの基礎知識』
広瀬一郎
シーロック出版社
2011 年
1F100037
射場本
綾
この本はこれからサッカービジネスに携わるにあたって最低限必要な知識が
凝 縮 さ れ た も の と な っ て い る 。 特 に 1993 年 に 日 本 で 開 幕 し た J リ ー グ に 焦 点
を当てつつ、プレミアリーグ、フーリガン事件など海外のサッカーについても
記載されている。
日 本 に J リ ー グ が 創 設 さ れ た こ と は 、こ れ ま で の ス ポ ー ツ ビ ジ ネ ス に お い て
なかったものであり、これから日本においてプロスポーツリーグを創設するも
のにとってビジネスモデルを提示することとなった。J リーグを創設するにあ
たった経緯は、世界で活躍するには国内でリーグ戦を作り、サッカーレベルを
向上させるためであった。メキシコオリンピックで銅メダルを獲得して以来、
目 立 っ た 活 躍 は な く 存 在 し て い た JSL(日 本 サ ッ カ ー リ ー グ )。前 半 で は JSL の
組織と異なる J リーグ誕生まで時系列にそって描かれている。特に、J リーグ
の制度やガバナンス、顧客サービスのイノベーションへのアプローチについて
は 読 み 応 え が あ る 。当 時 は 大 手 の 企 業 や W 杯 に か か わ っ て い た 電 通 が J リ ー グ
は成功しないと手を引いていたが、懸念されていた「人気」と「動員」につい
ての解決に向けた博報堂や初代チェアマンを務めた川淵の活躍が時系列にそっ
て詳細に描かれている。
後半では J リーグ創設後のグローバル視点に対するビジョンとして海外の事
例について書かれている。例えば、サッカービジネスの様相を変えた移籍問題
として「ボスマン判決」がある。ボスマン判決とは選手年棒の高騰化を招いた
事 件 で あ る 。一 方 で 、放 映 権 の 高 騰 化 を 招 い た「 マ ー ド ッ ク 化 現 象 」。ス ポ ー ツ
には「公共性」をもつユニバーサルアクセス権がありながらも、放映権を独占
するテレビ局が出てきた。ロサンゼルス五輪以降、スポーツがビジネスとして
捉えられるようになり、またメディアが介入することによってスポーツにルー
ル改正や試合数の増加や日程変更など影響が出てくるようになった。
本書の最後では、J リーグが低迷する打開策として筆者が「東アジア・プレ
ミアリーグ」を提唱している。近代でもっとも成功したとされるプレミアリー
グ と UAAF チ ャ ン ピ オ ン ズ リ ー グ を ベ ン チ マ ー ク し た 考 え で あ る 。こ れ か ら サ
ッカービジネスに関わる人に読んでもらいたい著書である。
『地域密着が成功の鍵!
藤井純一
日本一のチームをつくる』
ダイヤモンド社
2011 年
1F100071 米 田
真
プ ロ 野 球 と J リ ー グ で 社 長 を 務 め た 、た だ 一 人 の 男 で あ る 藤 井 純 一 が 着 手 し
た組織改革、マネジメントが紹介されている。スポーツビジネスの世界とは無
縁だった著者が北海道日本ハムファイターズとセレッソ大阪、競技も土地柄も
異なる二つのチームを再生、変貌させた要因について書かれている。野球とサ
ッカーという日本の最高峰のプロスポーツの経営を引き受け、輝かしい実績を
残した手腕に迫っている。
形 式 は 第 一 章 か ら 第 四 章 、そ し て 終 章 の 大 き く 五 つ の 章 か ら 構 成 さ れ て お り 、
著者の経験が時系列で述べられているので、まるで自分が体感した出来事かの
ように感じさせてくれる。なかでも文脈で実名のプロ選手が登場するあたりは
現 場 の 雰 囲 気 を 感 じ ら れ 、所 々 で 挿 入 さ れ る 写 真 も 読 み 手 の 顔 を ほ こ ろ ば せ る 。
また、スポーツビジネスの書籍にも関わらず、専門用語がほとんどないため非
常に読みやすい。さらに終盤では著者を一躍有名にしたドラフト会議の裏側も
語っておりファンならずとも楽しめる一冊といえる。
本書の大きな流れは、
「 地 域 密 着 」を キ ー ワ ー ド に 進 ん で い く 。日 本 の プ ロ ス
ポーツ経営は親会社の出資や少数のパトロンによって支えられるケースが多い
ため、チームの自立した経営に至りにくいと指摘している。単なる親会社の広
告塔としてのチームでは赤字を出しても許されるといった甘えが生じる。そこ
から自立への挑戦が生まれた。親会社の好不調に左右されないチーム経営に不
可欠なのが地元のファンに愛されること、愛されるチームづくりだった。ここ
で注目すべきなのが、セレッソとファイターズで大きく異なる地域密着の形が
紹介されていることである。セレッソでの課題が「ゼロから始めて愛着を持っ
てもらうこと」であったのに対し、ファイターズでは「最初の人気をこれから
も継続すること」であった。対象となるチームの性質や土地柄で取り組むべき
課 題 も 手 法 も 異 な る の で 、二 つ の ケ ー ス を 対 比 し て 考 え て み て も 面 白 い と 思 う 。
一貫してこの本が伝えたかったのは、地元に愛されることがスポーツビジネ
ス を 成 功 に 導 く と い う こ と で あ る 。そ れ は 経 営 陣 の 力 は も ち ろ ん 、選 手 や 監 督 、
チームスタッフがひとつの組織として共通の課題に立ち向かうことを示してい
る 。旧 態 依 然 と し た 経 営 か ら 脱 し 、新 た な ス ポ ー ツ ビ ジ ネ ス の 形 を 体 現 し た「 も
ってる社長」の成功談である。
『スポーツを仕事にする!』
生島淳
筑摩書房
2011 年
1F100139
関
航
本 書 は 実 際 の ス ポ ー ツ に 関 わ る 4 人 の 実 体 験 な ど を も と に 、い ま 日 本 で 急 成
長を遂げているスポーツの職業についてまとめられたものだ。日本のスポーツ
ビジネスの“いま”を考えるために、著者はアメリカのスポーツビジネスとの
比較をしながらわかりやすく説明をしている。
まず、アメリカのスポーツビジネスの特徴として、ビジネスと学問が統合し
ている点が挙げられる。ここで言う学問とは数字であり、これはブラッド・ピ
ッドが主演で映画でも話題となった「マネー・ボール」を例に出し説明されて
いる。それは、チームの勝利数を上げるために必要な数字のことである。これ
は、これまでの野球の攻撃面における常識であった打率、本塁打、打点から出
塁率を意識したチーム作りに、また守備面においては守備範囲における守備の
成功率といった数値を意識したチーム作りへの変容のカギとなる数字である。
野球に徹底的な分析を取り入れ、チームの勝率を上げていくという手法だ。も
ちろん、勝利へ導くためには、ベースとなるコーチの指導力も大切になってく
るが、こういったテクニカルな面と学術的なアプローチが相互作用をもたらし
てこそ、素晴らしい結果を生むということをマネー・ボールは教えてくれるの
だ。また、選手の技術的な面をカバーするトレーニングを行うためにも、この
数字による分析の結果は必要とされるのだ。また、ピッチレベルのスポーツビ
ジ ネ ス か ら 一 歩 引 い て 、 ス ポ ー ツ の マ ス コ ミ に 関 し て ア メ リ カ の 「 ESPN」 と
いうスポーツメディアの事業形態を取り上げ、それが今後、スポーツメディア
の進むべき方向と筆者は述べている。
「 ESPN」の 事 業 体 系 は 、ス ポ ー ツ の ラ イ
ブ 中 継( テ レ ビ 、イ ン タ ー ネ ッ ト )、速 報 性( イ ン タ ー ネ ッ ト 、ESPN ニ ュ ー ス )、
エ ン タ ー テ イ メ ン ト 性( 華 や か な 解 説 陣 、看 板 番 組「 ESPN ス ポ ー ツ セ ン タ ー 」
の 娯 楽 性 )、 分 析 力 ( テ レ ビ の 解 説 、 イ ン タ ー ネ ッ ト 、 雑 誌 )、 特 集 力 ( 雑 誌 、
テレビのドキュメンタリー)といった、とても大きな幅の「娯楽」をスポーツ
だけで提供できるといったことを、今後の日本のスポーツビジネスをより良い
ものにしていくために、私たちは是非参考にすべきだと思う。
では、日本のスポーツビジネスの現状はどのようなものなのだろうか?著者
は 、こ の 点 に 関 し て 、日 本 は ア メ リ カ ほ ど 大 胆 な 人 材 登 用 は 行 わ れ て い な い が 、
土壌がなかった産業から、少しずつ、スポーツビジネスの形態はより良い方向
にかわりつつあると述べている。その代表がアスリートのマネジメントだ。事
務 所 や プ ロ ダ ク シ ョ ン と い う 言 葉 を 聞 く と 、よ く 芸 能 人 を イ メ ー ジ し が ち だ が 、
今ではトップアスリートの多くは、このようなスポーツ選手を専門とした事務
所に所属している。そのおかげで、自分のプロモーションやブランディングな
ど様々なビジネスの窓口が開け、選手というコンテンツがビジネスとして成功
するモデルが誕生したのだ。
これらを参考にしながら、私はもっと幅広い知識や経験を積み重ね、スポー
ツビジネスに関わり、その可能性を広げたいと感じた。
『オリンピックはなぜ世界最大のイベントに成長したのか』
マイケル・ペイン
グランドライン社
2008 年
1F100050 城 村
千佳
い ま か ら お よ そ 2500 年 前 の 古 代 ギ リ シ ャ で 行 わ れ た ス ポ ー ツ 大 会 。 そ れ が
オ リ ン ピ ッ ク の 起 源 で あ る 。一 時 は 消 滅 し た オ リ ン ピ ッ ク で あ る が 、1892 年 に
パリのソルボヌで行われた国際的なスポーツ会議でピエールド・クーベルタン
男 爵 に よ っ て オ リ ン ピ ッ ク の 復 活 が 提 唱 さ れ 、 近 代 オ リ ン ピ ッ ク は 1896 年 に
ア テ ネ で 第 1 回 大 会 が 開 催 さ れ た 。本 書 は そ の 近 代 オ リ ン ピ ッ ク が ど の よ う に
発 展 し て い き 現 在 の 世 界 最 大 の ス ポ ー ツ イ ベ ン ト に 成 長 し た の か を 、元 IOC(国
際 オ リ ン ピ ッ ク 機 構 )役 員 で あ る ジ ョ ン・ペ イ ン が 時 系 列 を 追 っ て 説 明 し た も の
である。近代オリンピックが始まった当初はごく小規模なものであり、また政
治色が大変色濃く出ていたのでこの時代の批評家の間ではオリンピックは長続
き し な い だ ろ う と い う 意 見 が 多 く 出 て い た と い う 。そ ん な 中 、IOC の 会 長 に フ
ァン・アントニオ・サラマンチが就任した。著者であるマイケル・ペインは本
書 の 中 で 彼 の 元 で 20 年 間 働 い た 経 験 を 経 て 、 サ ラ マ ン チ が オ リ ン ピ ッ ク を 発
展 さ せ た 第 1 人 者 で あ る と 言 っ て い る 。彼 が IOC 会 長 に 選 出 さ れ た 数 日 後 の モ
ス ク ワ 大 会 は 81 カ 国 が 参 加 し た が 、米 国 の 五 輪 ボ イ コ ッ ト の 呼 び か け に 65 カ
国が答え、競技場は精彩を欠いた。五輪上で冷戦が行われたのである。また財
政も深刻化しており、五輪が政治的圧力に屈さないほどの資金も調達出来てい
な か っ た の だ と も 示 さ れ て い る 。こ の よ う な 状 況 の 中 で サ ラ マ ン チ は IOC が 基
盤を築くために何が必要なのかを見極め、3 つの重要なことを決めた。1 つは
財 政 的 に 自 立 す る こ と 。彼 が IOC 会 長 に 就 任 し て す ぐ に 財 政 確 保 委 員 会 を 作 り 、
オリンピックを頂点とするオリンピック・ムーブメントを実行出来るようにす
るためのさらなる財源を確保するという任務が与えられた。そして五輪の立て
直しは放映権料収入の獲得とオリンピック・ブランドを利用したスポンサー集
めという 2 つの財政政策をベースに進められた。2 つ目はオリンピック・アジ
ェンダの見直しである。政治色が強かった当時の五輪を変えようと、世界の指
導者たちと直接的に対話し、個人的なつながりをつくり、この先指導者たちが
オリンピックを危険にさらす様な状況になったとしても、関係を築くことで事
前 に 把 握 出 来 る は ず だ と 考 え た の で あ る 。そ し て 最 後 は 団 結 で あ る 。
「オリンピ
ック・ムーブメント全体が危機に直面している、そこから抜け出すには皆で力
を合わせて取り組むしかない」というのは本書中に示されたサラマンチの言葉
である。彼は志に訴えかけることで、オリンピックファミリーをひとつにまと
め上げていったのである。
こうして、オリンピックはサラマンチ達の尽力もあって、現在では世界で最
も大きく、最も経済的効果のあるスポーツイベントに成長を遂げた。もしも近
代オリンピックの始まりの頃にサラマンチらが先を見据えた五輪計画を実行し
ていなければ、我々は五輪という存在を知らないままであったかもしれない。
本書を読んで、スポーツマーケティングではサラマンチのように先を見据える
能力が重要であるということを実感させられた。
『オタクの行動経済学者、スポーツの裏側を読み解く』
望月衛
ダイヤモンド社
2012 年
1F100146 篠 木
浩司朗
本 書 は 、 全 18 章 か ら 構 成 さ れ 、 各 章 に は こ れ ま で ス ポ ー ツ に お い て 一 般 的
で あ り 、大 部 分 の 人 々 が 推 す 戦 略 や 出 来 事 が な ぜ 行 わ れ 、起 こ っ て し ま う の か 、
また本当にそれが有効であるのか、といった点についてサッカー、野球、フッ
ト ボ ー ル 、バ ス ケ ッ ト ボ ー ル の 5 種 の ス ポ ー ツ の デ ー タ を 比 較 し て 述 べ ら れ て
い る 。そ の 中 で も 、私 は 今 回 注 目 し た 特 に 2 つ の 章 に つ い て 以 下 に 述 べ て い く 。
ま ず 、 注 目 し た 章 は 「抜 け 目 の な い GM は 2 割 9 分 9 厘 の バ ッ タ ー を 選 ぶ 」
と い う 章 に つ い て 。 一 般 的 に き り の い い 数 字 、 ホ ー ム ラ ン で い え ば 29 本 で は
な く 30 本 、打 点 で い え ば 99 打 点 よ り も 100 打 点 の 方 が 年 俸 に 大 き な 影 響 が 出
る。これは受験などにおいても確かに切りのいい数字の方が良い結果につなが
りやすいのは言うまでもないが、野球のバッターにおいて 3 割のバッターと 2
割 9 分 9 厘のバッターでそれほど大きな年俸の差がでる価値はあるのだろう
か ? 結 果 は NO で あ る 。 3 割 ち ょ う ど の バ ッ タ ー は 最 終 試 合 で 途 中 交 代 し て 試
合 に 出 な い こ と も 多 い 。も し 出 場 し て い れ ば 年 俸 が 下 が る か も し れ な い は ず だ 。
このように数字を意識するあまり本当にその数字に価値があるのかという部分
を 見 逃 し て い る こ と が 多 く 、 抜 け 目 の な い GM は 高 い 3 割 バ ッ タ ー は 放 出 し 、
安い 2 割 9 分 9 厘バッターを獲得し、戦力を下げずに節約をする。
次 に 注 目 し た 部 分 は 「地 元 が 有 利 な の は な ぜ か ? 」と い う 章 で あ る 。 過 去 ど の
スポーツにおいてもホームチームが有利という事実は変わらない。しかしホー
ムで試合をすることによって球が打ちやすくなるわけでも、フリースローが入
りやすくなるわけでもないことをデータで実証し、観客の声援が選手のプレー
に大きな影響を及ぼすことはないと分かった。また、遠征による波乱万丈も調
べてリストから除外された。ビジターチームにとっての不利な日程の偏りは地
元の利を一部説明でき、大学スポーツではとくにそうだが、多くのスポーツで
は無関係だった。では、何が地元を有利にするのか?ファンが騒いでいること
は確かに関係があるのだが、それは一般の人たちが考えているところとは別の
ところに影響している。それは審判である。多くの審判は、大事なプレーの判
定を下すといった大きなストレスをホームチームにひいきすることで和らげて
いる。また、審判は正しい判定を下そうとして観客の反応をヒントにしている
のかもしれない。そしてこれが地元有利な理由の 6 割を占めている。
このように普段スポーツにおいて私が一般的であることが多くのデータを使
うことで間違いだと気づき、違う角度で真実を追求することができると気付い
た良い機会となった。
『スポーツ・マネジメントとメガイベント
J リーグ・サッカーとアジアのメガスポーツ・イベント』
高橋由明
早 川 宏 子 H.ド レ ス
S.ゾ ェ ダ ー マ ン
文眞堂
2012 年
1F100154 田 口
雄介
筆者各々の主張が章ごとに分かれており、さながら小説の短編集のような構
造である。しかし、その内容にはもちろん関係性があり、現在のスポーツ・マ
ネジメントの性質や直面している課題を的確に指摘している。
本書ではスポーツの本質とは何かを考察する事から始まり、J リーグの組織
編成が解説され、欧州プロサッカーとの比較によりその性質が世界的に見て稀
少であることが明らかにされている。また、労働とスポーツの関係を論じる事
で、スポーツ産業という比較的新しい概念をより明確なものとし、これからの
発展の方向性を示唆している。後半に入ると、メガスポーツ・イベント開催に
おける種々の問題を経済学的・経営学的・社会学的・環境学的視点から考察し
ている。その中で私が興味深いと感じたものを以下に挙げる。
第 1 章 で は 余 暇 と し て 、イ ベ ン ト と し て の「 ス ポ ー ツ 」の 意 味 を 経 済 学 の「 労
働 」 の 視 点 か ら 説 明 し て い る 。 著 書 よ り 「 経 済 学 的 に 労 働 の 概 念 と は 、 1.肉 体
エ ネ ル ギ ー の 支 出 で あ る こ と 、 2.目 的 意 識 的 行 為 で あ る こ と 、 3.そ の 結 果 生 み
出されるものは他の人にとって価値のあるものであり、その対価としてお金の
支 払 い が 行 わ れ る こ と で あ る 。 ス ポ ー ツ 競 技 を 行 う 選 手 の 活 動 は 、 1.四 肢 の 肉
体 的 エ ネ ル ギ ー の 支 出 で あ り 、 2.監 督 と プ レ ー ヤ ー が 四 肢 を 使 用 し 競 技 で 勝 利
を獲得するための目的的行為であり、それは何かを製造するとか、映画を製作
す る と い っ た 目 的 意 識 的 行 為 と 同 じ で あ る 。 し か も 、 3.競 技 に よ っ て 提 供 さ れ
る試合は、製造される製品、ホテルのサービス、さらに想像される本や映画と
同じであり、他人にとって有用であり、有用であるがゆえにお金の支払いを受
けるような経済的価値を生み出すものである」と筆者は主張する。全てのスポ
ーツ・マネジメントの根本に位置するものであり、これこそマネジメントの領
域内でのスポーツの本質なのではないか。
第 7 章 、第 8 章 で は 、ス ポ ー ツ と そ れ ぞ れ の 地 域 の 文 化 的 側 面 と の 関 係 性 が
述べられている。そこでは開催国の文化がイベントの運営に与える影響につい
て書かれている。しかし、私はその逆こそ意識するべきなのではないかと考え
る。メガスポーツ・イベントは国民のアイデンティティを形成すると筆者は言
う。その通りであると思うが、実際に世界規模の大会を開くにあたっては、自
国の文化だけではなく、他国の文化への配慮が欠かせないので、自然とメガス
ポーツ・イベントを開くことによって、他の地域の文化が開催国の文化に影響
を与えることとなる。グローバリズムが唱えられる今日においては、その影響
こそ考察して今後の開催に向けて議論しあうべきではないかと感じた。
全体として、過去の文献に対する著者の意見やメガスポーツ・イベントを否
定的に捉えた意見も書かれており、この書籍を読むことで様々な意見に触れら
れる。メガスポーツ・イベントを包括的に捉えることができ、イベントの研究
をこれからしていこうという方には大変おすすめできるものとなっている。
「スポーツの経済と政策」
伊多波良雄
横山勝彦
八木匡
伊吹勇亮
晃洋書房
2011 年
1F100158 田 中
慧
本書は 4 人の著者らがスポーツの経済及びスポ―ツの政策に関連する様々な
テーマについて十三章に分けて論じており、始めの一章でスポーツの現代社会
における役割というものを理論的に説明し、それを踏まえて各章ごとのテーマ
について考察している。以下にその一部を抜粋する。
筆者らは第一章にてスポーツの持つ重要性は芸術的感動、参加による感動、
物語による感動、学び成長する喜びの価値からなる経験価値を創造するところ
にあり、この価値創造が市場の中でどのように行われ、それが経済の発展にど
のように結びつくのかを紐解いていくことの重要性を説いている。また社会文
化的価値としてライフスキルという自己意識、共感性、効果的コミュニケーシ
ョ ン ス キ ル 、対 人 関 係 ス キ ル 、意 思 決 定 ス キ ル 、問 題 解 決 ス キ ル 、創 造 的 思 考 、
批判的思考、感情対処、ストレス対処の要素で構成される能力は、スポーツを
通じて養成するという形でスポーツの社会的役割を高めていくことも必要と述
べている。
そして、近年「新しい公共」という人を支えるという役割を官と言われる人
たちだけが担うのではなく、教育や子育て、街づくり、防犯や防災、医療や福
祉などに地域で関わっておられる方々一人ひとりにも参加していただき、それ
を社会全体で応援しようという新しい価値観が提起され、その担い手としてい
かにしてスポーツを利用していけばよいか、そのメリットや実現のための問題
点を述べている。
その他にも、グローバリゼーション化しているスポーツ用品産業の現状を具
体的なデータから分析し、課題を見つけ今後の展望を考察しミズノなどの大手
の メ ー カ ー の 営 業 戦 略 を 示 し て い る 。そ う し た 企 業 の CSR の 重 要 性 に つ い て も
地域スポーツの発展に貢献するなどの例を挙げながら述べている。
以上のように、本書はスポーツが及ぼす経済的・社会的な影響について様々
な視点から考察されており、現在のスポーツというコンテンツを知るためには
欠かせない概念が多く述べられており、また具体的なデータも多く示されてお
り現状を理解するのに非常に適していると感じた。本書を読みスポーツが持つ
経験価値の重要さを再認識したと共に、その価値を伝えていくことのメリット
を認識し、またその難しさも理解した。さらに、序章で著者らが「スポーツに
は、現代社会が抱える問題を解決する力があると確信している」と述べている
ように、その力を伝えていく努力を絶えず継続しなければならないと感じた。
『団塊マーケティング』
電通シニアプロジェクト
電通
2007 年
1F100029 東
晃太郎
少子高齢化の流れにある世界のうち、現在日本はその先頭ランナーとなって
いる。今後その流れに乗った世界の他の国々において、これから日本は参考と
なるモデルを創ることになるだろう。本書は、シニアマーケットに取り組んで
いきたい人にとって、その羅針盤となり、またわかりやすく具体的な事例に満
ち た 内 容 と な っ て い る た め 、初 学 者 に と っ て も 肩 の 凝 ら な い 内 容 と な っ て い る 。
今、
“ 定 年 ”や“ 団 塊 ”と い う 話 題 が マ ス メ デ ィ ア な ど で よ く 登 場 し 、団 塊 世
代に大きな注目が集まっている。マスメディアだけでなく、団塊への注目は企
業 で も 同 様 の こ と が 起 こ っ て い る 。2007 年 に 団 塊 世 代 の ト ッ プ ラ ン ナ ー で あ る
1947 年 生 ま れ が 60 歳 に な り 、い わ ば 定 年 年 齢 を 迎 え た 。50 兆 円 と も 言 わ れ る
団塊世代の退職金の運用を一手に引き受けたいと考える金融・保険業界、リタ
イアを契機にした住み替えやリフォームなどの住宅ニーズを掘り起こしたいと
考 え る 住 宅・不 動 産 業 界 、そ れ 以 外 に も 医 薬 品 業 界 や 健 康 食 品 な ど の 関 連 産 業 、
スポーツ関連産業、余暇関連産業といった企業群が、団塊世代に向けた新しい
商品やサービスを打ち出している。本書は第 2 章までが、電通が行った調査を
もとに、現在のシニアの気持ちや行動の面での特徴、実際に退職した人の退職
後の変化や現状、今後の暮らし方や退職金の使いみちなどが、様々な観点から
考察されている。また、団塊の世代への調査と団塊以前の世代への調査を比較
す る と 、団 塊 世 代 と こ れ ま で の シ ニ ア の 特 徴 の 違 い が 実 に 明 ら か で お も し ろ い 。
第 3 章 で は 、“ 団 塊 退 職 期 市 場 ” は 1. 定 年 退 職 記 念 型 消 費 2. リ タ イ ア イ ン フ
ラ 型 消 費 3. 自 己 実 現 型 消 費 の 3 方 向 に 分 け ら れ る と し 、 ま た 団 塊 退 職 に よ る
消 費 押 し 上 げ 効 果 は 8 兆 円 、 経 済 波 及 効 果 は 15 兆 円 に も 及 ぶ と 推 計 さ れ て い
る。第 4 章では、団塊世代の願望に関する調査から「 したい生活像」を 6 つの
グループに分け、それぞれの特徴が考察されている。最後の第 5 章では、団塊
マ ー ケ テ ィ ン グ の 実 践 ノ ウ ハ ウ と し て 、10 の ポ イ ン ト が 現 在 進 行 中 の ケ ー ス ス
タディを交えながら紹介されている。
本書は、電通の調査結果をもとに、さまざまな観点から団塊世代の特徴が考
察されている。例えば、食生活・スポーツライフ・趣味活動・旅行ライフ・フ
ァ ッ シ ョ ン ・ シ ョ ッ ピ ン グ ・ 仕 事 と ボ ラ ン テ ィ ア ・ メ デ ィ ア 接 触 ・ IT ラ イ フ ・
マネーライフ・ヒューマンネットワーク・夫婦コミュニケーションなど、実に
さまざまな観点から調査されているため、幅広い分野のシニアマーケットに取
り組みたい人たちにとって参考となる書籍になるであろう。また、具体的な事
象を交えながら説明されているため、初学者にもわかりやすい内容となってい
る。筆者も述べている通り、シニアの特徴が変わってきているのは本書の調査
からみても明らかなため、今後もその時代におけるシニアの特徴を捉えること
が重要であり、これからの調査・研究を見ながら注目していきたい。
『3 万人調査で読み解く日本の生活者市場』
三菱総合研究所編
日本経済新聞出版社
2012 年
1F100020 太 箸
匠真
世 界 金 融 危 機 (リ ー マ ン シ ョ ッ ク )や 東 日 本 大 震 災 な ど 環 境 変 化 を 経 験 し た 現
代では、多くの消費者がバブル経済下のような大量生産・大量消費型の社会に
違和感を覚えるようになった。こういった違和感は個人の領域には収まらず、
社会的な流れとして様々な点で変化をもたらした。こういった変化を的確に読
み取ることで、本書では今後の消費について、価値観・生活行動・消費行動等
に 関 す る 設 問 を 設 け た 調 査 を 3 万 人 規 模 で 行 う こ と に よ っ て 、以 前 と は 違 っ た
新しい消費の形であるニューノーマルと称した消費の型を提唱している。
この調査を行うに当たって利用されているシステムが興味深かったため、ま
ず 紹 介 し て お き た い 。 生 活 者 市 場 予 測 シ ス テ ム ( mif) と い う シ ス テ ム で 、 現
在 、実 際 に 運 用 さ れ て お り 、有 効 サ ン プ ル 数 3 万 人 分 の 2 千 問 か ら な る 個 人 属
性 や ラ イ フ ス タ イ ル 、消 費 等 の あ り と あ ら ゆ る 設 問 か ら 得 ら れ た デ ー タ が WEB
上 に 蓄 積 さ れ て お り 、 登 録 を し て い る 企 業 等 が WEB を 介 し て 必 要 な 情 報 を 必
要なだけ得られるというものである。このシステムは今後さらに活用されてい
くことであろう。
本 書 の 構 成 と し て は 、「 商 品 ・ サ ー ビ ス 」「 世 代 」「 ラ イ フ コ ー ス 」「 地 域 」 の
4 本 の 柱 に 分 け ら れ 、そ れ ぞ れ に「 思 考 の 補 助 線 」を 引 く こ と で 、従 来 の 業 種 ・
業界に閉ざしたリサーチからは見えてこない意外な発見を与えてくれるものに
なっている。
その中でも、特に私が興味を抱いたのが、世代編の中にある「団塊世代・シ
ニアのライフのニューノーマル」についてである。この世代は、少子高齢化を
迎えた現代にとって大きな割合を占める世代であり、今後の消費を担っていく
世代であると考えられるため、特に注目した。本書におけるこの世代の行動特
性としては、旅行や一人の趣味の時間を好む傾向にあり、また女性では、仲間
やコミュニティを形成して行動する傾向があることが挙げられている。このこ
とから言えるのは、今後はシニア向けの団体ツアーを企画し、ただ旅行をする
のではなく、その場でコミュニティを形成することで、リピーターに繋げよう
という戦略が立てられることである。
このように、本書は膨大なデータを基に消費者の特性が明らかにされていく
ことで、今後の課題が浮き彫りにされ、その解決策、戦略が立てやすいという
ところに魅力がある著書となっている。ただ単に新しい発見があるばかりでな
く、自分の目先の課題として捉えられるため、是非読んでみていただきたい。
『勝負は試合の前についている!
米国スポーツビジネス流「顧客志向」7 つの戦略』
鈴木友也
日 経 BP 社
2011 年
1F100176 山 中
勇二
1995 年 か ら 2010 年 ま で の 15 年 間 で 、 MLB の 売 上 高 は 5 倍 に な り 、 70 億
ド ル に 達 し た 。そ の 間 の NPB の 売 上 高 は 1200 億 円 で ほ と ん ど 変 わ っ て い な い 。
本 書 で は ア メ リ カ の メ ジ ャ ー ス ポ ー ツ 、 特 に MLB に 焦 点 を 当 て 、 そ の ス ポ ー
ツビジネスの成功の裏側にあるオーナーによる球団経営や、リーグ運営におけ
る MLB と NPB の 違 い 、ス ポ ン サ ー シ ッ プ ビ ジ ネ ス の 経 緯 な ど に つ い て 具 体 例
を挙げながら解説している。筆者は本書の中で、結果を残さなければ首が飛ぶ
米国スポーツ業界では、チケットやスポンサーシップ、放映権やグッズ販売と
い っ た 収 益 活 動 、広 報 や 社 会 貢 献 活 動 、自 治 体 や 議 会 へ の ロ ビ ー 活 動 な ど の 様 々
な活動領域において日夜新たなアイデアが生み出され、共有され、進化してお
り、これらの原点に米国の圧倒的な顧客志向が存在すると述べている。日本と
米 国 の 顧 客 志 向 の 捉 え 方 に つ い て は 、MLB と NPB の 球 団 経 営 の 方 針 の 違 い や 、
ス タ ジ ア ム の 経 営 の 違 い か ら も 顕 著 に 見 て 取 れ る 。MLB で は 、チ ー ム を 強 く す
る こ と で 収 益 を 伸 ば す こ と が 、リ ー グ に よ っ て オ ー ナ ー に 義 務 付 け ら れ て い る 。
そのため、地域貢献活動や球団経営に力を入れるとともに、スタジアムにエン
ターテインメント性を多く取り入れることで、野球「を」見に来るから、野球
「も」見に来るというように観客の観戦意図を転換させてきた。それに対して
NPB は 、球 団 は 企 業 の 宣 伝 広 告 と い う 捉 え 方 が 未 だ に な さ れ て お り 、企 業 ス ポ
ーツの延長であるとされている。しかし、本書は最後に、米国のやり方がすべ
て正しいとは思っていないと指摘している。むしろ、社会的・文化的背景の異
なるアメリカでの「正解」が日本での「正解」にならないことのほうが多いか
もしれない。しかし筆者がアメリカという国にこだわり続けてきたのは、そこ
には日本スポーツ界にとってたくさんの「ヒント」が埋もれているかもしれな
いと感じたからである、と主張している。
本書は、アメリカのスポーツビジネスがなぜ成功して、日本のスポーツビジ
ネスはなぜ発展途上なのかがよくわかる内容になっている。しかし、そこで勘
違いしてはいけないのが、日本のビジネスモデルを否定しているのではなく、
そこにはまだ様々な可能性が存在していることを示唆しているのである。米国
における成功例を参考に、日本独自の経営を行うことがこれからの日本のスポ
ーツビジネス成功のカギになると本書を読んで強く感じた。
『サービス・クォリティ―サービス品質の評価過程』
山本昭二
千倉書房
2010 年
3F120015 李
思昂
現代の先進国の経済社会に共通した経済構造変化の特徴として「経済のサー
ビス化」という現象が取り上げられている。特に日本は生産、消費、雇用など
の経済構造に占めるサービスの割合も増大している。本書は、サービス業の分
析にとどまらない、無体財のマーケティングとしてのサービス・マーケティン
グの基礎理論を提示する。また、サービス品質の評価過程におけるモノ・マー
ケティングとの違いをサーベイ実験により明らかにする。品質評価の構造と評
価過程の作動原理である知覚リスクと手がかり利用を分析して、マーケティン
グ戦略への示唆を与えている。
サービス業者にとって消費者が提供されたサービスをどのように知覚し、ま
た購入し消費したサービスにどのような評価を下すかは、競争行動を決定する
ために欠かせない情報である。第一章では、経済学やマーケティングにおける
「サービス」に関する考え方を知ることによって、サービス生産や交換にまつ
わるどのような問題が重要な課題となってきたのかを整理している。第二章で
は、サービス品質の測定と尺度開発の経緯を説明して、消費者の購買行動への
影響要因の検討をしている。第三章では、サービス品質の問題を取り扱ってい
る。特にサービス提供組織にとって最も困難な課題―知覚リスクを説明した。
知覚リスクは、品質評価の困難なサービスの選択、購買においては外部情報探
索行動に影響する大きな要因と著者は考えている。また第四章では、サービス
品質の評価過程を実験によって解明した。著者は消費者の情報取得行動がサー
ビ ス と モ ノ や 消 費 者 の 態 度 、知 覚 リ ス ク な ど に よ っ て 変 化 す る 様 子 を 探 索 し て 、
サービス・マーケティングで主張されてきた様々な仮説、命題を統合的に理解
できるような枠組みの開発も行った。
スポーツ分野のなかで、特にスポーツイベントと最近盛り上がってきたスポ
ーツツーリズムがサービスを提供していることから、私たちはスポーツ消費者
の購買行動を理解し、彼らの評価を測定することを考えなければならない。ス
ポーツサービスに関する研究はあるが、スポーツにおけるサービス品質の測定
がまだ少ない。そのため、スポーツにおけるサービス品質の測定と尺度開発を
これから重視していくべきである。