衰退か、それとも復活か? ――インドネシアにおけるカカオ産業の危機と変容、1887~2014―― 千葉大学 妹尾 裕彦 http://orcid.org/0000-0001-8249-8196 インドネシアは今日、コートジボワールとガーナに次ぐ世界 3 位のカカオ生産量を誇っ ている。インドネシアのカカオ生産の歴史は、決して短いわけではないが、その生産量は 長らく「低位安定」状態にあった。このため、この国が世界のカカオ主産地の一角を占め るようになったのは、他の主要生産国と比べるときわめて遅く、たかだか 1990 年代以降の ことであるに過ぎない。つまりインドネシアは、カカオの主要生産国としては「ニューカ マー」である。 しかし、それにもかかわらず、インドネシアのカカオ生産は早くも 2000 年代後半から、 衰退傾向が目に付くようになってきている。言うなればこの国のカカオ生産は、危機的な 局面に突入しているのである。また、加工に目を向けると、旧来の南北問題の図式からは み出すような構造的な転換の只中にあると見なしうる。要するに、インドネシアのカカオ 産業は現在、生産面でも加工面でも、明らかに大きな岐路に立っているのである。 本報告では、まずインドネシアのカカオ生産史を簡単に振り返りながら、この国のカカ オ生産が危機に陥るに至った経緯とその実態とを、明らかにする。次いで、この危機に際 して、どのような対策が実施されてきたのかを見た上で、これらの対策は、少なくとも現 時点では、基本的にはあまり実を結んでいないことを示す。また、カカオ生産の危機の原 因を理解する上で有用なフレームワークを紹介し、その意義と限界を検討する。その上で、 このフレームワークをふまえながら、19 世紀末~21 世紀初頭までのインドネシアのカカオ 生産の興亡サイクルを明らかにし、その実態を探る。実のところインドネシアのカカオ生 産は、小規模ながら過去にも幾度かの興亡サイクルを経験しており、それらの実態を把握 することによって、今次の危機をより深く適切に理解することができるのである。さらに、 このフレームワークをふまえながら、主産地のカカオ農家が、今次の危機にどのように対 応しているのかを描き出す。これらの作業によって、歴史的パースペクティブからインド ネシアのカカオ生産の危機に関する含意を導き出し、また加工面の構造的な転換動向も踏 まえつつ、この国のカカオ産業の危機と変容の方向性を示すこととしたい。
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