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休日自伐林業家を目指して-僕は絶対に山を諦めない-
岡山県支部
奥山総一郎(H8 年林)
岡山県支部総会では、昭和 61 年から講演会を行っている。
第 29 回目となる今回は、県森林組合連合会総務部企画指導課に勤務する美作地区真庭市
の奥山氏が、自身の活動と林業への想いを講演した。(平成 26 年 8 月 23 日)
美作は桧の原木生産量が二年連続日本一
皆様、こんにちは。ようこそ美作へお越しくださいました。森林林業と木材産業に携わ
るものとして、美作の地を簡単にご紹介します。美作は昨年まで、桧の原木生産量が二年
連続日本一でした。今年も、大災害等、特別なことが無い限り日本一を記録できるものと、
プライドをかけ、業界一丸となり頑張っております。
皆様方が家を建てる際は、高知県に次ぎ全国で二番目に創設された森林整備目的税「お
かやま森づくり県民税」から、建築費の一部助成措置がありますので、是非、県産材を使
用した家を建てて頂きますようお願いいたします。
さて、今日は、私のここ最近の、休日の活動を発表するわけですが、何分不慣れでござ
います。お聞き苦しい点や、途中で頭が真っ白になって硬直したり、日本語が幾らかおか
しかったりするかもしれません。最後までどうか温かい眼差しで見守って頂きますよう、
最初にお願い申し上げます。かなり手前味噌な内容となりますので、我慢して聞いて下さ
い。
林家・五代目跡継ぎの長男
私は、昭和48年に県北の真庭市(旧落合町)の林家・五代目跡継ぎの長男として生ま
れ、現在41歳です。祖母(今年百歳)
・父母・妻・娘三人の8人家族です。農地は水田 20
㌃(飯米)、畑 10 ㌃(自家用野菜・ピオーネ)にプラス和牛を一頭飼養しています。
所有森林は約6㌶で自宅から車で15分圏内に8カ所、樹種構成は桧99%、杉1%で
檜の齢級構成は5齢級~25齢級です。
気候は比較的温暖で、温厚な住人が多い。大河ドラマ宮本武蔵のロケ地となった醍醐桜
が有名ですが
道の駅「醍醐の里」には、地場で取れた新鮮な野菜や特産品が毎日並んで
いますので機会があれば、是非お立ち寄り下さい。
県森連勤務で森林所有者
私の本業は、岡山県森林組合連合会で企画・組合指導の担当ですが、休日に林業を始め
るに至った理由は、8年前に2年間・木材共販所(原木市場)への異動がありました。当
時、就職以来十数年が経過しておりましたので、一通りの仕事はこなす自信が付いていま
したが、共販所の業務は全くの未経験で、丸太の価値を見定めることなど全く出来ません
でした。先輩や、同僚、時には後輩の指示に従い、ただただ右から左へ丸太をフォークリ
フトで移動したり、丸太の選別の補助をしたり、何ともやるせない毎日を送っておりまし
た。それどころか、私より一回り以上若い後輩が桧のセリをしている姿に正直羨望を憶え
たのを今でも決して忘れはしません。人生初めての挫折感に、叩きのめされた折、私の脳
天に幼少の頃の山の思い出と共に、ビビッと閃いたのであります。「あ!山があるじゃあな
いか!自分は森林所有者、自分は出荷者になれるのだ」と。
それからというもの、林業に関する仕事に携わっていながら、自分の山の手入れを一切
していなかった自分に、疑問と不信を抱くように成ったのでした。
祖父と父の長期策略に見事ハマってしまった!
時期を同じくして、まるで虎視眈々と「今か、今か」と、手ぐすねを引いて、待ち伏せ
していたのでしょうか?父親が一緒に晩酌をしているとき「おい!一緒に山の木を出さん
か?」と言うのでした。
それは、大変魅力的な言葉でした。娘が誕生し、少々生活が厳しい時期でしたので、「ほ
いきた!」二つ返事で快諾した私でありました。
幸い我が家のすべての林地は隣接との境界が確定されており、また、林業経営を行うの
に必要なすべての道具が整備されておりました。このような条件も作用して、その年の秋
から、親子で搬出間伐に着手したのであります。以来 6 年目となります。
目標を掲げて手取り50万円以上
休日林業というアドバンテージの副業活動ではありますが、4年間で100立米、目標
は年間50立米、手取り50万円以上の実績を積み上げることを目標に掲げ活動していま
す。
経営方針としてはコスト削減と省力化を目指しています。そのため、父親にもきつく釘
をさされておりますが、機械装備の増強は極力押さえるとともに、作業外注は搬出のトラ
ック輸送に限っています。また、森林組合の一組合員ですので当たり前の話ですが、100%
系統を利用しています。更に、年間4㌧の不要材などは地元の「真庭バイオマス発電施設」
に発電用として供給、軽トラで出荷することなどを心がけています。
持続的な施業のために
将来とも安定兼業(サラリーマンとしての月給取り)、休日利用で木材生産を続けるため
には、平日に疲れを残さないことが必要です。
今後の高齢級・大径木化に備えるために必要不可欠な機械装備として、父親とも相談の
うえ、グラップル(ベース4t)を導入しました。
また、林業はあらゆる産業の中で一番消費カロリーが多い作業です。16~20 ㎝の丸太や
高齢木に対応するためには、林道整備が不可欠ですし、身体を壊さないためにも道は必要
です。特に、作業道新設は山の地形を変える作業となるため、人任せにはできません。そ
のため、林内作業車(クローラー1.2t積載)も導入しました。
更には、作業中の怪我などにも要注意です。これまで、チェンソーによる全治2週間の
創傷や作業を欲張った結果、失敗したことなど限りありませんが、失敗しない作業体系を
構築して頑張っています。
山の経済的価値は低下の一途
平成 25 年度の林業白書によると林業経営収支は、長期低迷、減収の一途をたどっていま
す。森林組合・民間問わず、外部に作業を委託すると、国・県からの補助金があっても林
家には山からの恵みはほとんどありません。
しかし、自分でこつこつと勉強と技術の向上を図り、経済的に許す範囲で機械や道具を
増強しつつ作業を継続していくと、いくらかは手元に残っていきます。しかも、手入れを
したあとは、美しい山と新たな技術がもれなく手元に残り、いいことずくめです。
このような山を残してくれた先祖に感謝しなくてはなりません。
休日自伐林家「奥山林業」の今後の活動
昨年、妹が家を新築する際に、大黒柱7寸角5.5㍍をプレゼントしました。すると妹
夫婦に大変喜ばれたことをヒントに、私は、一人6次産業化に挑戦することになりました。
中古の簡易製材機を購入、付加価値を付けるため、適木の伐り旬にこだわった天然乾燥
製材を直販する活動です。同級生の大工さんへ板材を提供し造作で使って頂きたいと相談、
出所がはっきりした半製品づくりを目指しています。なにより、家族と山と共に暮らして
いくために、儲かる林業経営とすることが必要なのです。
これからも家族と山と共に暮らしていくために
山は祖先からの贈り物です。祖父の歌をここに紹介します。
〔詠み人:奥山尋牛(三代目順平)
〕
「子供の日
「谷水に
一番好きな
缶ビール漬け
山に行き
「持ち山は
「若いとき
張り切って
手の甲ほどの
「間引く木に
栗の穂を接ぐ」
下草を刈る
ものなれど
つらがんなよと
植えし桧に
未だ見ぬ孫へ
家の外濠ぞ
言い聞かせ
手を廻し
吾のおかしさ」
子供よ守れ」
幹をさすりて
汝は太れり
斧入れにけり」
吾は細れり」
祖父は短歌を詠むのが趣味の一つでした。新聞広告の裏が白いものを集めては、ご飯粒
ののりで帳面を作り、畦や見通しの良い獣道に腰掛けては、懐から帳面と万年筆を取り出
し短歌を記す姿を今でも憶えています。
そんな祖父が亡くなった年に祖母が自費出版で選りすぐりを編纂したものがご覧の短歌
集です。その中には、山に関したものが幾つか見受けられます。先ほどの私が山に開眼し
た頃に改めて、この短歌集をひもときますに、初めてその祖父の思いが私の胸にあふれ、
益々山にのめり込ませるのでした。
子孫に誇れる山づくりを目指す
今伐っている木は、父・祖父・祖先が植え、育てた木であります。祖父・父が投下した
資本が、桧の成長という果実となり、それを私が収穫しているのです。
また、間伐は収穫と同時に残した木を育てる同時作業です。作業道新設と搬出間伐によ
り、山の価値を高め子孫へ渡す使命が私にはあります。山を育てるインフラを私の代で完
全に整備したいと考えています。壊れない道づくり・境界の明確化・所有面積の増加(規
模拡大)も進める必要があります。
これからも、私の行う手入れにより更に、価値を高め、子孫に誇れる山づくりを継続し
ていこうと思っています。私が死んだ後も、子孫に誇れる、恥ずかしくない山づくり、奥
山分家には親子三代で育て上げた、とても良い木があると言われるような山づくりを、急
がず欲張らずのんびりと牛の歩みのように着実に目指します。
最後になりましたが、この様な発表の場を頂きました美作分会の皆様に心から感謝しま
す。ご静聴誠にありがとうございました。
(休日自伐林家「奥山林業」ブログURL http://oku3so16.exblog.jp/ )