解釈力と言語表現力が豊かな人材を育て,社会に送り出したい

【研究者インタビュー No.126】
解釈力と言語表現力が豊かな人材を育て,社会に送り出したい
別府大学 文学部 国際言語・文化学科 准教授 山野 敬士 (やまの・けいし)
専門: アメリカ南部文学。アメリカ演劇。
が好き。だって好きだから」という言い方をします。し
かし,この表現では,なぜ好きなのかという肝心な点
が人に伝わりませんね (笑い)。伝われば,話し相手
と喜びや驚きをもっと共有することができます。それ
ができないのはとてももったいない。言葉の力をつけ
るには,自分の経験を解釈する力をつける必要があ
ります。学生には文学や物語に接して解釈力をつけ,
ひいては生きる力をつけ,社会人として巣立って欲し
いと考えています。(写真と文/安部博文)
▲別府大学のキャンパスにて。
●アメリカ南部文学はどういう内容の学問でしょう?
アメリカはかつて南北に別れて戦争をしたことがあ
ります。一口にアメリカといっても歴史的に見ると一
枚岩ではありません。実際,アメリカの南部には北
部とは異なった独特の文化が存在します。南部文学
を研究することによってアメリカという複雑な国の全
体像の一部を窺い知ることができると思います。
アメリカ南部の文学者の例としては,マーク・トウェ
イン,ウィリアム・フォークナー,テネシー・ウィリアム
ズ,フラナリー・オコナー等がいます。
例えば,フォークナーの作品には,家族や家に対す
る思いの深さや家督を継ぐことに対する脅迫観念が
描かれたものがあって,日本文学に近い感覚を感じ
ることができます。しかし南部には黒人奴隷という日
本人には想像しにくい制度もありました。歴代大統
領の選挙戦を見ると,南部で勝利することが大統領
就任の条件のようになっています。若者が大好きな
ロック音楽のルーツは南部黒人の歌=ブルースです。
このような関連を発見するごとにアメリカ南部への関
心が深まります。
私の研究はテネシー・ウィリアムズという白人作家
の作品分析を通して,上に述べたような南部独特の
特徴を考察することです。私はローリング・ストーン
ズやエリック・クラプトンなど英国ロック音楽のルーツ
への関心からアメリカ南部文学の研究の道に入った
ようなものです(笑い)。そこで文学だけでなく音楽や
映画・演劇などにも目配りしてアメリカ南部とは何か,
そこから現代の我われは何が学べるのか,追求して
いきたいと考えています。
●教育のポリシーは?
自分が感じたことや思いを表現するのに,自分なり
に一歩踏み込んで考えた言葉を使って語れる人に
なって欲しいと思っています。よく学生は「私はこれ
【山野 敬士 (YAMANO Keishi)プロフィール】
▼1967 年,大分県別府市生まれ。別府
大学の界隈で生まれ育つ。幼少時代か
ら絵を描くことと読書が好き。広島カー
プのファンである父の影響で幼少時代
から野球も好き。別府市立上人小学校
に入学。40 名以上の学級が 1 学年に 7
つのマンモス校(翌年,近隣に新設校がで
きマンモス状態は解消) 。野球も盛んで校
内にチームが 9 つあり互いにしのぎを
削る状況。そのうちの 1 チームに所属。
並行して小学 2 年から近所の剣道場に入門。得意科目は図
画と国語。別府市立北部中学に入学。剣道部に所属。イギリ
スのロックバンドであるローリング・ストーンズ(RS)のファンに
なる。RS の歌詞の意味を知るため英語の勉強に力が入る。
RS の音楽を調べるうちルーツがアメリカ南部のブルースにあ
ることを知る。▼新設の大分県立羽室台高校の 1 期生として
入学。仲間と剣道部を創設。RS や E・クラプトンなど白人音楽
を通じてブルースのルーツである南部アメリカへの関心が深
まる。マーク・トウェインやフォークナーなど南部白人文学に
触れる。▼1986 年 3 月,同高校を卒業。同年 4 月,広島大学
文学部英文学科に入学。初めての下宿生活。同級生と交流
し,大学生活を楽しむ。大学受験から解放され,読書と音楽と
広島カープの試合観戦の生活。広島カープのリーグ優勝・日
本シリーズ 8 戦は鮮烈な印象として記憶に残る。文学部の学
科対抗ソフトボールのメンバーとして活躍。試合前後,先輩や
院生と気楽に話す機会に恵まれ,大学院の存在や英米文学
の評論の世界があることを知り関心が深まる。卒業論文のテ
ーマはテネシー・ウィリアムズの戯曲「欲望という名の電車」
の登場人物の人物像分析。大学院に進学し,アメリカ南部文
学の戯曲を中心に掘り下げたいという思いが高まる。▼1990
年 3 月,同学部を卒業。同年 4 月,同大学大学院文学研究科
英語学英米文学専修博士課程前期に入学。研究テーマは卒
論に続き T・ウィリアムズの戯曲「ガラスの動物園」の人物像
分析。残酷な内容の物語を美しい文体で記述し,読み手の心
を揺り動かす作家の背景にも目配りする。▼1992 年 3 月,同
博士課程前期を修了。同年 4 月,同博士課程後期に入学。
T・ウィリアムズの研究を継続しながら 1940 年から 60 年にか
けての南部文学の作家研究を進める。暴力的な物語である
にもかかわらず読後に倫理感や道徳感を意識させるコーマ
ン・マッカーシーの作品群に衝撃を受ける。中でもテネシー州
の方言を交えて書かれた「Child of God.」は研究対象として現
在も取り組んでいる。▼1995 年 3 月,同博士課程後期を単位
取得退学。同年 4 月,別府大学に着任。
平成 22 年度大学等産学官連携自立化促進プログラム / 地域連携研究コンソーシアム大分 / 取材時期 平成 23 年 3 月