21 世紀を担う人づくり ―オリンピック・パラリンピック教育の推進をとおして― 渋谷区立広尾中学校 校長 松田 芳明 学校データ 学校名 渋谷区立広尾中学校 住所 〒150-0011 東京都渋谷区東 4-13-25 学級数・生徒数 6学級 182 名(平成 27 年 12 月現在) 開校年 昭和 22 年 4 月 URL http://home.j02.itscom.net/hiroo-j/index.html 学校の紹介 広尾中学校は、渋谷随一の文教地区に在り、國 學院大學、日本赤十字看護大学、聖心女子大学、 青山学院大学と連携した取組を行っています。ま た、隣接する都立広尾高校とは「都市型一貫教育 校」の指定を受け、6年間を見通した教育活動を 展開し、中学生、高校生の双方にとって刺激とな る連携授業も行っています。 1 スポーツ教育推進校からオリンピック・パラリンピック教育推進校へ 私が校長として着任した平成 26 年度から、東京都教育委員会の“スポーツ教育推進校” 事業が“オリンピック教育推進校”事業へと移行することとなりました。これまでの本校 の教育活動を発展させ、オリンピック教育として実施可能なものは何かと探ることから始 めました。すると、隣接する國學院大學の留学生との交流やブラインドサッカー大会の会 場校であることなどがありました。 國學院大學にお願いし、留学生を招聘する回数を増やし、それぞれの国のオリンピック の取組や思いを話していただきました。栄養士と相談して、留学生が来校する日は、彼ら の祖国の料理を取り入れた給食にもチャレンジしました。また、ブラインドサッカー協会 に依頼し、生徒に「IBSA ブラインドサッカー2014 世界選手権大会」の運営ボランティア をさせていただきました。その為には障害者理解をきちんと進める必要があると考え、日 本赤十字看護大学に依頼し、障害者理解教育の授業を行っていただきました。日本赤十字 総合福祉センターの見学やそこでの体験も行いました。また、Global Manner Springs 社 の江上いずみさんを講師に招き、 「おもてなしの心」について学び、ボランティアの際に役 立てたいと考えました。 本校が考えるオリンピック・パラリンピック教育の目的は「オリンピック・パラリンピ ックを題材として、世界に広がる多様な価値を学ぶ。」こととであり、具体的には、以下の 6点の実現を目指しています。 ◆オリンピック・パラリンピックの歴史や意義を理解する。 ◆国際的なスポーツ大会等が、国際親善や世界平和に果たす役割を理解する。 ◆世界の国々の文化や歴史を学び、交流を通じて国際理解を深める。 ◆スポーツを通して心身の調和的な発達を遂げる。 ◆進んで平和な社会の実現に貢献する態度を養う。 ◆東京オリンピック・パラリンピックの成功に貢献する態度を養う。 2 2年目のチャレンジ(「総合的な学習の時間」の改編) 平成 27 年度となり、オリンピック・パラリンピック教育推進校は、各学年 35 時間以上 オリンピック・パラリンピック教育(以下 オリ・パラ教育と略す。)を行うことが義務付 けられました。本校では、オリ・パラ教育の目的を達成するための柱として、強みや継続 可能かということを検討し、国際理解教育、福祉教育(障害者理解)、都市開発の学習、に 絞り込んで「総合的な学習の時間」の再編成を行うこととしました。 (1)国際理解教育 国際理解教育は、どこかの特定の学年で行うのではなく、留学生との交流をどの学年も 毎年行うようにしました。学齢に応じて交流の内容や質がレベルアップするように考え、 3年間交流を積み重ねることで、国際感覚が身に付くよう期待しています。 1年生では、外部から講師を招へいし、江戸文化である切り紙細工を留学生とともに体 験し、言語よりもボディランゲージを中心に交流できるようにしました。 2年生では、後ほど述べる都市開発の授業と合わせて東京の伝統工芸・文化について調 べ、秋の校外学習で2年生自身が体験学習をしてきます。その体験で作成したものを留学 生にどのようにして作るかなど紹介したり、ものによっては留学生の前で実演したりしま す。そこでは、自分たちが用意した原稿をもとに、一生懸命留学生に伝えることを心掛け 取り組みました。 3年生では、修学旅行での体験をもとに、京都や奈良の 紹介を含めて、交流することを前期に計画し、後期では日 本の伝統や文化について留学生が楽しく体験していただけ るよう準備しました。グループごとに「折り紙」 「もんじゃ 焼き」 「おにぎり&味噌汁」 「武道」 「書道」などの体験を用 意し、留学生とともに活動をしました。3年生は、留学生 が日本語をどの程度話すことができるかにかかわらず、一 緒に楽しむことを心掛けました。 留学生との交流 (2)福祉教育(障がい理解教育) 福祉教育(障がい理解)を 1 年生で行うこととし、 パラリンピック等について学び、日赤看護大学のご協 力の下、障害についての理解を深めるとともに、多様 性を認め、多文化・共生社会の一員としての自覚を高 めるよう期待しています。また、毎年ブラインドサッ カー東日本リーグに会場を提供し、生徒はブラインド サッカー体験や大会運営のボランティアに取り組んで います。 ブラインドサッカー大会の会場設営 (3)都市開発の学習 都市開発については、2 年生の社会科地理の「身近な地域調べ」を発展的に捉え、東京 都全体がオリンピック・パラリンピックに向けどのように発展していくかを調べることと しました。また、渋谷区の都市整備についても知り、それを進めている人たちとの交流に よって、街づくりの課題や開発の意図、区民としてどのようにかかわっていくべきかにつ いて考える機会と捉えました。白根記念渋谷区郷土博物館・文学館のご支援により、渋谷 川の歴史について学び、渋谷区都市整備部の全面支援により、渋谷の都市開発についてプ レゼンテーションを受け、渋谷駅地下の工事現場の視察も行いました。 これらの3つの柱に加え、体力向上の取組やスポーツについて知る機会、オリンピアン やパラリンピアン等との交流を行い、全体として各学年 35 時間以上の取組としています。 3 IOC の視察 平成 27 年 11 月 20 日(金)に IOC の Mr. Bill Morris(Expert Advisor)、Mr. Cedrick Daetwyler(Head of Engagement)、河村裕美さん(Olympic Games Department)の3 名と東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の 3 名が本校に来校されまし た。本校のオリンピック・パラリンピック教育について紹介し、避難訓練、終学活、清掃 活動、部活動をご覧いただきました。また、短時間ではあったが生徒との直接交流も実現 しました。本校にいる東京代表でフランスに遠征したサッカー選手や高円宮杯で全国大会 に進出することができたサッカー選手などとも懇談することができました。運動が得意で はない生徒とも対話し、東京オリンピックへの期待について話をしていただきましいた。 4 まとめに代えて 留学生との交流については、イベントというよりも、日常から接することをねらいとし、 学校の授業外でも交流が可能な仕組みも作っています。校外でも留学生とちょっとした会 話を交わす生徒が増えてきています。また、留学生から日本の良さを学ぶことも多くある ようです。福祉教育では、障害者と直接触れ合うことで、人生を楽しんでいることを知り、 さらに応援したいという気持ちにつながっている生徒も見受けられます。都市開発の学習 から、新しい渋谷の街を楽しみにしている生徒がたくさんいます。 オリンピック・パラリンピック教育を通じて、自らの頭で考える生徒、自分の人生をデ ザインできる生徒、変革やチャレンジをし続ける生徒の育成ができればと考えています。 平成 28 年度 オリンピック・パラリンピック教育の全体計画 渋谷区立広尾中学校 学校教育目標 学校における具体的なねらい 将来の変化を予測することが困難な時代に、自らの人生を切り拓き、生涯を生き抜く力を 子供たちに培っていくことが求められていることを踏まえ、以下の教育目標を定める。 ☆自らの頭で考える生徒の育成 ☆自分の人生をデザインできる生徒の育成 ☆変革やチャレンジをし続ける生徒の育成 オリンピックを題材として、世界に広がる多様な価値を 学ぶ。 ◆オリンピック・パラリンピックの歴史や意義を理解 する。 ◆国際的なスポーツ大会等が、国際親善や世界平和に 果たす役割を理解する。 ◆世界の国々の文化や歴史を学び、交流を通じて国際 理解を深める。 ◆スポーツを通して心身の調和的な発達を遂げる。 ◆進んで平和な社会の実現に貢献する態度を養う。 ◆東京オリンピック・パラリンピックの成功に貢献す る態度を養う。 (ボランティアマインドの醸成) オリンピック・パラリンピック教育の目標 (1)自らの目標を持って自己を肯定し、自らのベストを目指す意欲と態度を備えた人 (2)スポーツに親しみ、 「知」 、 「徳」 、 「体」の調和のとれた人 (3)日本人としての自覚と誇りを持ち、自ら学び行動できる国際感覚を備えた人 (4)多様性を尊重し、共生社会の実現や国際社会の平和と発展に貢献できる人 学ぶ オリンピック競技 パラリンピック競技・ 障害者スポーツ 日本文化 文 化 国際理解・交流 環境 ○陸上競技が、古代オリンピック、 近代オリンピック競技大会で主要 な競技として発展した成り立ちを 学ぶ。 (各学年 保健体育、社会) ○パラリンピックの歴史、意義、人 物、競技種目等や、障害者スポー ツのルールなどを学ぶ。 (各学年 保健体育、総合) ○運動会をオリンピックに関連付けて企画する。 ○外部指導者を招いてオリンピックの各種目を体験し たりすることなどにより、体育授業の充実を図り、体 力向上を図る。 (各学年 保健体育、特活) ○ブラインド・サッカー東日本リーグの大会運営ボランティア活動に参加しオリンピック・ パラリンピックへの理解を深める。 (1年 総合) ○外部指導者を招いてパラリンピックの各種目や障害 ○日本赤十字看護大学の協力を得 者スポーツを体験したり、体育授業の充実を図ったり て、障害者理解教育の講座を受 することなどにより、障害者理解を促進するととも 講し、障害者をサポートする際 に、体力向上を図る。 (各学年 保健体育) の基本的な知識・技能について 学ぶ。 (1年 総合) ○外部団体と連携し、東京や日本の伝統文化・芸能等を ○外部講師を招へいし「おもてな 鑑賞するとともに、実際に体験することにより、深く しの心」について学び東京の魅 理解する。 力への理解を深め、おもてなし (各学年 総合) の心や態度を身に付ける。 (各学年 道徳、総合) ○海外の学校や団体と様々な文化交流を進める。 (総合) ○國學院大學の留学生との交流により、日本の良さを発 信する。 (各学年 外国語、総合) ○東京や郷土、日本の伝統文化・ 芸能を学ぶ。また、校外学習や修 学旅行、美術・音楽の授業と関連 付ける。 (各学年 国語、社会、 音楽、美術、総合) ○世界の国々の歴史・文化・芸能等 の特徴や多様性を学ぶ。 (各学年 社会、音楽、道徳、外国語、総合 など) ○東京 2020 大会の会場予定地の開 ○東京 2020 大会の会場予定地・周辺等を見学し、大会 発等について学ぶ+ 「渋谷の開発」 運営や街づくりにおけるバリアフリーへの対応を学 (1・2年 総合) ぶ。 (1年 社会、総合) 1年 国語 社会 音楽 ○書初め(4h) ○ブックトーク(4h) ○世界の国々(2h) ○異文化理解(1h) ○「世界ともだちプロジェクト」(クロアチア共和国) ○日本の伝統音楽(1h) 美術 ○ユニバーサルデザイン(1h) 教 科 等 と の 関 連 保健体育 英語 支える (知る) (体験・交流) ○歴史、意義、人物、国際親善や世 ○ブラインド・サッカー東日本リーグの大会運営ボランティア活動に参加しオリンピック・ 界平和に果たしてきた役割等、オ パラリンピックへの理解を深める。 (1年 総合) リンピック・パラリンピックの精 神や価値について学ぶ。 (各教科、道徳、特活、総合) オリンピック・ パラリンピックの精神 ス ポ ー ツ する 観る ○オリンピック・パラリンピック、スポーツの歴 史、精神、価値(1h) ○運動やスポーツの多様性(1h) ○指導者を招いてオリンピック・パラリンピックの 種目を観て、体験する(2h) ○学校の文化祭(3h) ○オーストラリアの兄(1h) ○ブラジルから来たサッカーコーチ(1h) ○イギリスの本(1h) ○チャイナタウンへ行こう(1h) ○あこがれのボストン(2h) 2年 ○書初め(4h) ○ブックトーク(4h) ○首都東京(1h) ○日本の伝統音楽(1h) ○日本の伝統美術(2h) ○運動やスポーツが心身の発達に与える効果と 安全(1h) ○指導者を招いてオリンピック・パラリンピックの 種目を観て、体験する(2h) 3年 ○書初め(4h) ○ブックトーク(4h) ○法の下の平等(1h) ○高度成長とオリンピック(1h) ○多様性の中で生きる(1h) ○世界の音楽(1h) ○「歴代オリンピック関連楽曲」(1h) ○日本の伝統美術(6h) ○文化としてのスポーツの意義(1h) ○国際的なスポーツ大会が果たす文化的役割(1h) ○指導者を招いてオリンピック・パラリンピックの 種目を観て、体験する(2h) ○Enjoy Sushi(9h) ・日本の食文化について関心を高める ・日本の食文化であるすしについて知る ・日本の食文化の紹介 ○観光案内(2h) ○フィンランドの暮らし(3h) ○落語(4h) ○住まいと生活文化(3h) ○日本文化の紹介(4h) ○「渋谷の開発」(4h) ○「東京下町再発見」(10h) ○【留学生との交流】「東京下町再発見」発表(2h) ○「世界ともだちプロジェクト」 ○広尾防災 Jr チーム(5h) ○「日本の伝統・文化」(6h) ○「おもてなし」(2h) ○【留学生との交流】「留学生歓迎会」(3h) ○「世界ともだちプロジェクト」 ○広尾防災 Jr チーム(5h) 道徳 ※別途計画をする。 総合 時間数 ○福祉教育(障害者理解教育)(10h) ※認知症ボランティア講習 ○ボランティア活動(2h) ○「渋谷の開発」(10h) ○【留学生との交流】切り紙細工(2h) ○「世界ともだちプロジェクト」 ○広尾防災 Jr チーム(5h) 計 55時間 計 47時間 計 47時間
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