2Dセルアニメーションの 演出表現を意図した 3DCGアニメーション

2005 年度 修士論文
2D セルアニメーションの
演出表現を意図した
3DCG アニメーション
提出日 : 2006 年 2 月 3 日
指導
: 大石 進一 教授
早稲田大学大学院理工学研究科
学籍番号 : 3604U082-1
関本 竜平
目次
第 1 章 序論
4
1.1
背景 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
4
1.2
本論文の目的 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
6
1.3
本論文の構成 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
6
第 2 章 準備
8
2.1
初めに . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
8
2.2
アニメーション . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
8
2.2.1
2 次元セルアニメーション . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
9
2.2.2
3DCG . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10
2.3
3DCG と 2 次元セルアニメーションの比較 . . . . . . . . . . . . . . 12
2.3.1
2.4
研究の方向性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13
結び . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14
第 3 章 Maya
15
3.1
初めに . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15
3.2
3 次元グラフィックスソフト:Maya . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15
3.2.1
モデルの作成 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15
3.2.2
キャラクタの操作 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16
3.2.3
アニメーション . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16
3.2.4
ダイナミクス・シミュレーションフェクト . . . . . . . . . . 16
3.2.5
ペイント・ペイントエフェクト . . . . . . . . . . . . . . . . 16
1
3.2.6
3.3
ライティング・シェーディング・レンダリング
. . . . . . . 17
MEL:Maya Embedded Language . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17
3.3.1
MEL コマンドの種類 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17
3.4
制作環境 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19
3.5
結び . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19
第 4 章 制作
20
4.1
初めに . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20
4.2
制作 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20
4.3
4.2.1
絵コンテ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20
4.2.2
モデリング . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22
4.2.3
質感設定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23
4.2.4
アニメーション仕込み . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24
4.2.5
アニメーション付け . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24
4.2.6
カメラワークとライティング . . . . . . . . . . . . . . . . . 27
4.2.7
レンダリング . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 27
4.2.8
仕上げ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 28
結び . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 28
第 5 章 開発内容
29
5.1
初めに . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 29
5.2
動作 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 29
5.3
ツールの意図 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 30
5.4
結び . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 31
第 6 章 評価・検証
6.1
評価・検証
6.1.1
32
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 32
フレームを落とす際の作業の評価 . . . . . . . . . . . . . . . 32
2
6.1.2
フレームを落とす際の実用性の検証 . . . . . . . . . . . . . . 33
6.1.3
演出意図の実現性の検証 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 34
6.1.4
今後の課題 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 37
6.1.5
結び . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 38
謝辞
39
参考文献
41
参考 Web ページ
41
3
第1章
1.1
序論
背景
昨今,日本のアニメーションはジャパニメーションと呼ばれるほど,世界的に有
名なものとなっている.そのような中,コンピュータを使ったデジタルアニメー
ション技術が発達し,アニメーションはアナログからデジタルへと移行していっ
た.そしてテレビや映画などの多メディアへの展開,インターネットとの親和性
の高さ,海外への浸透性の高さなどから,デジタルアニメーションへの期待は大
きいのである.現在における日本のアニメーションは様々な手法を組み合わせて,
1 つのアニメーション作品として世に生み出している.その核となる手法がコン
ピュータグラフィックスである.
コンピュータグラフィックスには 2 次元のものと 3 次元のものがある.3 次元コ
ンピュータグラフィックス (以下 3DCG) は仮想 3 次元空間上の形状情報から,それ
らを平面状に投射することで生成するコンピュータグラフィックスである.この技
術はリアルな表現,質感,計算された動き,カメラワーク,そしてなんといっても
生成工程が 2D アニメーションのものと異なりを見せている.従来の 2D アニメー
ションではセルアニメーションを主流に,紙に書いた何枚もの異なった絵を手書
きで描き,透明のセルロイドにカーボン転写し,そこに絵の具で彩色したものを
何枚か重ねて 1 コマずつフィルムに撮影して,アニメーションを作成していた.2
次元でのデジタル化においては,紙に描いた絵をスキャナで取り込むか,デジタ
ルペンで描いた絵をデジタルで彩色し合成するという手法である.彩色した絵を
何枚重ねても色が劣化しないので多重合成が可能になったり,使える色の数が増
4
えたり,修正が容易などの利点は多い.デジタルアニメーションではこのデジタ
ルの 3 次元と 2 次元の手法を組み合わせたアニメーション作成が主流となってお
り,今まで表現不可能だった画を生み出せるという可能性の面においても大きな
貢献をしている.
このようにデジタルアニメーションが一般的に行われている中において,3 次元
に関する技術の発達が進まれてきた.リアリティーの追求,自然現象の表現,生
成方法,ライティングの手法やレンダリング手法,髪の毛や衣服の自然な動きな
どなど.しかし,最近の日本の 2D アニメーションでは,キャラクタは手描きで,
メカと背景は 3 次元で作られることが多くなっている.ごくごく普通にテレビで
放送されているアニメーションは,2 次元と 3 次元をうまく融合させているように
思われる.しかも先ほど述べた,従来の 2D アニメーションでの手書きのセルアニ
メーションの質感を 3 次元手法において再現する試みがなされている事例も多く
なってきている.
例えば,
『あらしのよるに』という映画は手書きの画を中心に作られている.デ
ジタルによって何枚ものセルを重ね合わせ,通常 2 枚のところを 4 枚や 5 枚という
形にしてキャラクタをバラバラな状態から輪郭線や毛などの素材を合わせていっ
ている.これによって今までの 3 次元グラフィックスより味のある映像,そして手
書きのセルアニメーションよりもやわらかい表現を可能にしている.このように
手書きの 2 次元セルアニメーションをコンピュータによってさらに発達したもの
へと変貌させている.
また,
『銀色の髪のアギト』は GONZO(株式会社) によって 2 次元と 3 次元のア
ニメーションの融合を取り入れた作品である.アギトをはじめとする人物を手書
きによるアニメーションで,街を侵食する森やそれに対抗するメカなどを 3DCG
によって描き出している.GONZO は『青の 6 号』という作品において,世界で初
めて 2 次元と 3 次元の融合に挑戦した作品であり,3 次元メカパートと 2 次元セル
パートを融合し,通常のセル画では出しにくい奔放な水の表現や,ハイディテー
5
ルなメカのスピーディーなアクション等を再現することに成功している.
このような 2 次元と 3 次元の映像の融合はまだまだ発展の段階にあり,平面的な
要素と立体的な要素の融合,実写派から抽象派の映像と 3DCG では様々な手法が
試みられている.従来の 2 次元セルアニメーションの表現を大事にしつつ,コン
ピュータグラフィックスによるさらなる技術革新は,3DCG で失われようとしてい
た日本芸術としてのアニメーションの発展につながることなのである.
1.2
本論文の目的
背景でも述べたとおり,現在日本では従来の 2D アニメーションを意識した質感
によるアニメーション制作が流行している.これを踏まえ,本研究では,従来の
アニメーションの質感よりも動きに注目した.3DCG によってアニメーションを
作成すると同時に,レンダリング段階におけるプラグインツール開発と,このプ
ラグインツールをとおしてコマ割を決定し,そのアニメーションの表現に変化を
つけていくことで,今までとは違った方法での映像表現を制作していくものであ
る.自動化・機械化と作業効率化も同時に目指しているが,あくまでも人間の感
性や技能を壊したくないため,やはり自動化・機械化・効率性よりも人間の芸術性
を持たせたままでのプラグインツールの開発と制作に重きを置いている.目的と
しては,2D アニメーションの優れた部分を 3 次元アニメーションに取り入れ,そ
の両方の優れた部分を使ったアニメーションとして表現することである.
1.3
本論文の構成
本論文の構成は以下の通りである.
第 2 章では,準備として,アニメーションの説明と 3DCG と 2 次元セルアニメー
ションの違いについて述べ,続いて研究の方向性について示す.
6
第 3 章では,アニメーション制作に関して,使用するアプリケーションとそのア
プリケーションに付随している MEL というスクリプト言語の説明,そして制作環
境について述べる.
第 4 章では,実際我々がしたアニメーション制作について画像を交えて説明する.
第 5 章では,今回 MEL スクリプト言語で開発したツールについて述べ,その制作
意図を示していく.
第 6 章では,3 次元アニメーションを制作,ツールを適用してみての評価・検証を
行った.そして研究を終えての今後の展開を述べていく.
7
第2章
2.1
準備
初めに
3DCG は多くの場合,フォトリアリスティックな画像を制作する目的で利用さ
れる.そういった点では絵画の技術とは大きく方向性が異なっている.セルアニ
メーションのように毎フレームごとに手書きで絵を描く必要がないため,手軽に
アニメーションを制作する手段としても効果的である.コンピュータゲーム,映
画,アニメなどの映像表現に用いられ,コンピュータシミュレーションにおいて
も,シミュレーション結果を視覚的に認識するのに有効である.この章では現在
における 3DCG と 2 次元コンピュータグラフィックスについて述べ,その違いを
知るとともに,それぞれの特性を述べる.さらに,アニメーション制作にあたる
準備として使用するソフトの説明,制作環境を述べてゆく.
2.2
アニメーション
一般的なアニメーションの制作工程を簡単にまとめると以下のようになる.企
画・設定 → シナリオ → 絵コンテ → 動画準備 → 動画・背景 → 仕
上げ → 撮影 → 編集 → 音響 → 完成試写これらの過程において,最も
セルアニメーションとコンピュータグラフィックスの違いがでるのは,動画準備の
部分である.これからその部分や特に違いがでてくる部分を見ていくことにする.
8
2.2.1
2 次元セルアニメーション
動画としてアニメーションをするためにセルアニメーションでは,原画,背景
美術を作成する過程がある.
原画
絵コンテやイメージボード,レイアウトなどを基に,カットの基本ポーズとなる
原画を作成していく.作画枚数は必要に応じて 1 枚から数 10 枚となることもある.
また作成された原画をどういう順序で使うのか,時間軸の設計書としてアクショ
ンのタイミング (セル分け),台詞 (効果音) のキューポイント指定,カメラワーク
の指示などを記入したらタイムシートを作成する.作業者はキャラクタのディテー
ルや顔パーツ,体型,コスチュームを守らなければならないため,ある程度の作画
経験が必要である.
背景
背景原図を基に,ポスターカラーなどの絵の具を使って水彩画を描くセクショ
ンとして背景美術がある.作業として,水彩画の宿命ともいえるグラデーション
が多用されるため,色あわせに細心の注意が必要となるので,業務細分化がしに
くいセクションでもある.
動画
原画と原画の間を,タイムシートで指示された枚数に従って中割りの絵を作成
して,アニメーションにしていく.中割り作業の他に,仕上げの効率化のための
作画のクリーンアップも重要な作業である.比較的作画経験が浅くても簡単な中
割り作業からスタートできる部分ではある.そして,完成した動画の線 (均一性,
抜け,指示漏れなど) と動き (中割り) をチェックし,問題があれば作業のやり直し
9
となる.
スキャニング
セル全盛の頃は,セル版にペンと彩色絵の具をといたものを使ってフリーハンド
でトレースしたり,またトレースマシーンという機械で動画の鉛筆線を専用カー
ボンに反応させてセルに転写させる作業を行っていた.現在ではほとんどの仕上
げ作業がデジタル化されているので,スキャナで動画を読み取っている.
ペイント
現在ではデジタルペイントが全盛で,以前のアニメカラー (セルアニメーション
専用絵の具) で作業可能なプロダクションは,ほんのわずかである.デジタルペイ
ントはアナログペイントと比べて,絵の具の塗り伸ばし作業や乾き待ちの時間が
不要で,作業スペースも縮小できる.
2.2.2
3DCG
モデリング
絵コンテやイメージボードを基に,キャラクタや背景,小道具など,シーンに
使われるオブジェクトを実際に 3 次元空間内に形作っていく作業がモデリングで
ある.ポリゴンという多角形の板を貼り合わせて形を生成したり,曲線,曲面を
制御しながら形をくみ上げていったりする.
質感設定
モデリングされたオブジェクトは,そのままでは何の質感も設定されていない.
場合によっては,ポリゴンの面がそのまま見えてかくかくしていることもある.そ
10
んなオブジェクトに対して,各部分の色を設定することはもちろん,場合によっ
ては画像を張り込んだり,その画像によって凹凸や透明度を表現したり,様々な
設定を行う.具体的には拡散反射光や鏡面反射率など,現実世界の光の反射をシ
ミュレートしたたくさんのパラメータを調整していく.
アニメーション仕込み
例えば,車をモデリングしたのなら,タイヤが回転するようにボディ部分とタ
イヤは別パーツにして,タイヤがボディの動きに従うように親子関係付けという
処理を,人間や動物などのキャラクタであれば,間接部分が動かせるようにオブ
ジェクト内部に骨格構造を作っておかなければならない.これがアニメーション
前の仕込み作業であり,後のアニメーション作業をスムーズに進めるためには必
要不可欠な作業となってくる.
アニメーション
任意の時間に対して,オブジェクトや骨格構造に位置や回転の情報を与えてい
き,これがキーフレームとなる.キーフレームとキーフレームの間,つまりセルア
ニメーションでいう中割りは,コンピュータが計算で結果を算出してくれる.作
成したアニメーションをライブラリとして保存し,自由にブレンド,編集できる
ような機能を持つアプリケーションもある.
カメラワークとライティング
カメラやライトを 3 次元空間内に配置していく作業である.3DCG ならではの
実際には実現不可能なカメラアクションや,膨大な数のライトセッティングも可
能である.
11
レンダリング
最終的に全ての設定が終わったシーンをカメラから 1 コマずつ撮影していく作
業がレンダリングである.シーン内の各パーツを別々に分け,要素ごとにレンダ
リングすることもある.キャラクタや背景はもちろん,特殊効果,影や光沢,陰
影など,シーンを様々な要素に分けてレンダリングすることによって,後々の加
工や合成の効率をあげることができる.
2.3
3DCG と 2 次元セルアニメーションの比較
さて,今まで 3DCG と 2 次元セルアニメーションを見てきたが,違いは明白で
あろう.3DCG は現実世界の再現を目的としているのだった.頭の中で空間を平
面化し,2 次元空間に色を塗っていくことによって画像を表現する 2 次元イラスト
などとは,基本的な概念の異なる表現方法である.3DCG は仮想空間内に理想の
ロケーションを作り出せる半面,細かなライティングや様々な質感,天候から風
向きに至るまで,ありとあらゆるものをあらかじめ用意しておかなければならな
い.一章でも述べたが,ここの設定や質感作りにおいて現在のアニメーションは
技術革新をしている.
ところで,アニメーション付けに関して,コンピュータグラフィックスアニメー
ションの基本的な考え方はセルアニメーションのそれと変わりはなく,連続した
静止画を高速で切り替えて表示することによって全体が動いて見えるという原理
でる.アニメーション制作方式にフルアニメとリミテッドアニメというのがある.
フルアニメは画面全体,キャラクタの体全体が全部動くのが特徴である.1 秒当た
りの枚数は,12 枚または 24 枚のことが多い.フルアニメは,画面が非常に滑らか
に動き,細かな演技まで描かれ,ディズニーなどのアニメーション映画に利用さ
れているが,膨大な量の動画枚数になり,制作費用・期間がともに大きくなる.ま
た,単に作画枚数を増やせばいいだけでなく,フルアニメでの演技に関しての基
12
礎教育が求められるため,日本のテレビアニメではほとんど利用されていない.
これに対し,日本のアニメで多用される,口だけ,画面内の特定の 1,2 名のキャ
ラクタだけが動くアニメーションは,リミテッドアニメと呼ばれている.動きを
簡略化し,セル画の枚数を減らすアニメーション表現手法である.本来は表現手
法として編み出されたリミテッドアニメだが,専ら省略化のために使われるよう
になった.海外のリミテッドアニメは,動画枚数が 1 秒当たり 12 枚のことが多い
が,日本のリミテッドアニメは 1 秒当たり 8 枚が主流である.しかし,これも手描
きのセルアニメーションに特定されるものであり,3DCG を使ったアニメーショ
ンとなると,やはり 1 秒当たり 8 枚どころではなく,24 枚などが多くなる.
2.3.1
研究の方向性
我々の研究では,上記で述べた本来は表現手法として編み出されたリミテッド
アニメの表現を,つまり 1 秒当たり 8 枚,もしくはそれ相当のセルアニメーショ
ンの表現手法を 3 次元コンピュータグラフィックに取り入れようという試みをして
いる.3DCG では間の中割り画像を物理法則によって自動的に作成してくれるが,
その動きはやはり自然界による法則に成り立った動きであり,ダイナミックな動
き,モーション,表現をしようとすると様々な設定や,動きを細かく付けていか
なければならない.そこで,3DCG の利点である,1 秒当たりのフレーム数の多さ
を利用して,それを人の評価によってフレーム選択をして,フレーム数を落とす
ことによって,リミテッドアニメで出していた表現手法を出していくというのを
目的としている.それにはまず,3DCG によるアニメーションを作成し,そのア
ニメーションを基にプラグインツールを通してそのツールによる表現手法の評価
をする.
これらのことを実現するために,まず 3DCG アプリケーションの選出が必要と
なった.現在,世の中にでている 3DCG アプリケーションは様々ある.最近では
『ハウルの動く城』に使われた SOFTIMAGE|XSI (開発元:アビッド) は代表的なプ
13
ロ用アプリケーション,ハリウッドの映画などで用いられている代表的な Maya(開
発元:エイリアス) ,パワーユーザに支持されている 3ds max (開発元:オートディス
ク),プロからアマチュアまで広い支持層を持つ LightWave 3D ,国産アプリケー
ションである Shade などである.
2.4
結び
さて,我々の研究で使用しようと考えたのが,エイリアス社の開発した Maya で
ある.なぜこのアプリケーションを使用するに至ったかというと,Maya にはスク
リプト言語である,MEL(Maya Embedded Language) を持っているからである.
この MEL というスクリプト言語によって,Maya を使用するに当たって様々な利
便性が発生してくる.これからこの Maya という 3DCG アプリケーションとスク
リプト言語である MEL の説明を簡単にしていく.
14
第3章
3.1
Maya
初めに
この章では,実際に我々がアニメーション制作として使用した 3DCG アプリケー
ション,このアプリケーションに組み込むプラグインツールのスクリプト言語,そ
して制作環境について述べる.
3.2
3 次元グラフィックスソフト:Maya
Maya はプロ用に設計されたキャラクタアニメーション・ビジュアルエフェクト
システムである.
「ディペンデンシーグラフ」と呼ばれる手続き型のアーキテクチャ
に基づいているため,キャラクタアニメーションを含むようなシーンのデジタル
イメージを作成する際に,きわめて強力かつ柔軟な力を発揮することができる.
Maya で行う作業は,通常,次のようなカテゴリに分類される.
3.2.1
モデルの作成
ポリゴンサーフェス,NURBS サーフェス,およびサブディビジョンサーフェス
は異なるオブジェクトタイプで,モデリングの方法が異なっている.それぞれ独
特の長所があり,アーティストによってどのタイプを選択するかも変わってくる.
15
3.2.2
キャラクタの操作
ほとんどのアニメーションには,
「キャラクタ」という関節モデル (人,動物,ロ
ボットなど,関節によって動くあらゆるもの) がかかわってくる.キャラクタに内
部スケルトン (ボーン) を定義してスキンをバインドすると,デフォメーションで
リアルな動きを作成することができる.
3.2.3
アニメーション
Maya では考えられるほとんどのものがキー設定可能であり,アニメートするこ
とができる.これによって,様々な細かい設定ができる.
3.2.4
ダイナミクス・シミュレーションフェクト
火,爆発,流体,ヘアやファー,オブジェクトが衝突するコリジョン物理現象
など,実世界のエフェクトをシミュレートするためのわかりやすいツール郡が含
まれている.この分野は最も技術革新が進められており,まだまだ開発途中の分
野である.
3.2.5
ペイント・ペイントエフェクト
2D キャンパスペイント,3D モデルへの直接ペイント,ジオメトリを作成するた
めのペイント,スクリプトペイント,その他のほぼ無数に近いペイント操作をグラ
フィックタブレット (またはマウス) を使って,行うためのシステムが組み込まれ
ている.
16
3.2.6
ライティング・シェーディング・レンダリング
シーンやアニメーションの静止イメージやムービーをレンダリングする場合,好
きなレンダラを使用してそれらを作成することができる.この分野もダイナミク
スなどと一緒で技術革新が進められている分野である.特にシェーディングは質
感を決定付ける部分なので,質感が注目を浴びている昨今において様々な趣向が
試みられている.
3.3
MEL:Maya Embedded Language
Maya のユーザインターフェースは MEL で作成されており,MEL を使うことで
簡単に Maya の機能を拡張することができる.グラフィカルインターフェースを使
用して処理を実行し,Script Editor で生成されたコマンドをシェルフにドラッグ
して簡単にボタンを作成することができる.MEL で実行可能な機能について例を
挙げてみる.
Maya のユーザインターフェースを使用せずにすばやくショートカット
を作成し,高度な機能を実行することが可能
Maya のインターフェースをカスタマイズして,シーンごとにデフォル
トを変更することが可能
カスタムモデリング,アニメーション,ダイナミクス,およびレンダ
リング作業を実行するためのプロシージャとスクリプトを作成するこ
とが可能
3.3.1
MEL コマンドの種類
シーンコマンド
17
もっとも良く使われるコマンドで 500 種類くらいがある.シーンとそ
の環境を操作するために使われる.
アドミニストレーションコマンド
ファイルの入出力や OS へのアクセスに使用される.
ユーザーインターフェースコマンド
ボタン,ウインドウ,メニューなどの制御に使う.
関数
動きや,パーティクルの位置,その他の特別な効果を作るために使わ
れる.配列,カーブ,数学関数,乱数,色変換などの機能をもつ関数
がある.
言語として,MEL は UNIX のシェルスクリプトの流れを受け継いでいる.すな
わち,MEL は他の言語のようにデータ構造の操作や関数の呼び出しを行ったり,
オブジェクト指向の手法を利用するのではなく,実行コマンドに基づいて目的を
達成する.ほとんどのコマンドは,UNIX のコマンドラインユーティリティのよ
うに Maya を制御することができる.動作変更が可能なオプションを複数備えた
ちょっとしたスタンドアロンプログラムのようなものなのである.
18
3.4
制作環境
表 3.1: 制作環境
3.5
CPU
Pentium 4 Processor 2.80CGHz
Mother Board
P4C800-E Deluxe
Memory
512MB DDR-SDRAM x2
HDD
120GB(U-ATA) x3
OS
Microsoft WindowsXP Professional
Graphic Board
GeFORCE FX5600
結び
さて,これらツールの説明,使用するスクリプト言語,制作環境を基に,これ
からまず実際にアニメーションの制作にとりかかる.今回我々が,どのように制
作,進行していったかを次の章で述べていく.
19
第4章
4.1
制作
初めに
この章では我々が実際に Maya を使用して,どのように制作を進めていったの
か,そしてプラグインツールの説明について述べていく.
4.2
4.2.1
制作
絵コンテ
絵コンテは画コンテ,ストーリーボードとも呼ばれ,脚本を基に監督や担当演
出が作ろうとする映像を,具体的に図式化して,イメージや演出意図 (キャラクタ
の動き,台詞,カメラワーク,場面設定,音楽,効果音など) のすべての作業指示
が書き込まれた映像の設計書である.具体的な単位としてはシーンとカットがあ
り,特にシーンは同一場面設定,または関連カットのひとかたまりを示すことが多
い.通常のアニメ制作ではテレビや映画など時間数の制限があるため,カット数
を非常に気にしなければならないが,我々は特に時間の制限などがないため,追
加カットや削除カットなどの際には特に問題にはならなかった.ただカットごと
に 3DCG の様々な映像テクニックや最適な表現手法を決定しなければならなかっ
たが,なにぶん 3DCG でのアニメーション制作は始めての試みだったため,その
部分は制作をしながらの決定となった.この絵コンテと同時にイメージをわかり
やすくするために,イメージボードやコンセプトアートなどと呼ばれる美術ボー
20
ドを描いた.スケッチ画や水彩画などの技法で今回は何枚か描き,そのイメージ
を統一するようにした.
図 4.1: イメージボード
21
4.2.2
モデリング
シーン中に使用される様々なオブジェクトはあらかじめ3次元空間内に制作し
ておかなければならない.そこで絵コンテ,イメージボードを基に,登場キャラ
クタ,小道具,自然物などを一つ一つモデリングしていった.人間,桜の木,草,
鳥など登場するものはすべてこの段階でモデリングする.ポリゴン,NURBS,サ
ブディビジョンサーフェスなどを組み合わせて,頂点と面の作成をし,その頂点
を編集していくことによってモデリングしていくのが基本的な作業である.さら
に元々アプリケーション内に組み込まれているペイントエフェクトというツール
があり,それによって様々なモデリングオブジェクトがあらかじめライブラリと
してあり,それを利用することもできた.といっても表現が制限されるため,自
分たちのイメージを出すためにはやはり 1 からモデリングする必要があったため
使用できたのは草くらいであった.
図 4.2: キャラクタモデリング
22
4.2.3
質感設定
今回は 2 次元セルアニメーションの質感を出したいと考えていたのと,使用し
ている Maya7.0 の新機能としてトゥーンシェーダーの Toon メニューが追加された
こともその要因であった.トゥーンシェーディングでは,3 次元モデリングおよび
アニメーションのソフトウェアを利用して,シェーディングにわざと階調を作り,
2 次元のセルタッチやカートゥーンアニメーションの外観を作成する.オブジェク
トのエッジを検出してラインを引くセルエッジと呼ばれるプログラムと併用する.
図 4.3: トゥーンシェーディング
23
4.2.4
アニメーション仕込み
アニメーションをつける前にアニメーションをさせるために仕込みをしておか
なければならなかった.そこで 3DCG の機能を使った様々な手法を使用した.例
えば,パーティクルシステム,クロスシミュレーション,デフォーマ,キネマティ
クス,キャラクタセットなどである.パーティクルは頂点情報の集まりに,大き
さを持たせたりオブジェクトを置き換えたりすることによって,量感を表現する.
今回は綿毛が舞うシーンや花びらが舞うシーンに使用した.クロスシミュレーショ
ンは作成したキャラクタのガーメント (衣服) を,ローカルシミュレーションによっ
てドレーピングとフィッティング処理をさせる.デフォーマは生えてくる草や花び
らが咲くシーンで,始めと終わりの状態をセットしておき,その間の工程をシミュ
レートさせる.キネマティクスはアニメーションさせるキャラクタの中にボーンの
ようなジョイントをセットし,それによって関節のような動きを連動させるため
の技法である.このスケルトンのポーズ設定には,フォワードキネマティクスと
インバースキネマティクス (以下 IK) の二つの技法がある.今回我々は IK を採用
し,IK ハンドルを使い,単一のマニピュレータを移動することによってジョイン
トチェーンのジョイントをすべて自動的に回転,移動させた.キャラクタセットは
出来上がったキャラクタに依存するアニメートしたいオブジェクトをグループか
し,アニメートするときに動かしたいものすべてが一緒に動くようにセットする.
4.2.5
アニメーション付け
さていよいよそれぞれのシーンにあわせて,3 次元シーンのオブジェクトにア
クションを適用していく.基本的には,それぞれのオブジェクトに対して,特定
の時間に,移動,回転,スケーリング,カラーなどの設定値を地道に割り当てて
いく.Maya ではシーンにあるオブジェクトのアニメートを支援するツールが多数
用意されている.例えば,Trax によるノンリニアアニメーション,パスアニメー
24
図 4.4: クロスシミュレーション (左上),デフォーマ (右上),キャラクタセット (左
下),キネマティクス (右下)
25
ションなどである.Trax によるノンリニアアニメーションは,キーフレームまた
はモーションキャプチャを使ってキャラクタを使ってキャラクタをアニメートし
たら,そのアニメーションデータを一つの編集可能なシーケンスにまとめること
ができ,それを Trax Editor で管理編集していく.今回はキャラクタの走るシーン
をこれに適用した.パスアニメーションは,通常の NURBS カーブをオブジェク
トの軌道として指定することによって,オブジェクトの動きをアニメートする手
法である.カーブの方向が変わる際に,オブジェクトは自動的に左右に回転する.
図 4.5: 繰り返しなどのアニメーション
また,Graph Editor を使ってアニメーションを制御しやすく,また細かく設定
することができる.キーフレームのポイント (座標など) を通過点に動きの曲線は
作成されている.このアニメーショングラフが 3DCG の動きを決定付ける要因と
いっても過言ではない.2 次元セルアニメとの差は数学的にここから掴み取りやす
いのではないだろうか.
26
図 4.6: アニメーショングラフ
4.2.6
カメラワークとライティング
実世界では,ライトを使用しサーフェスを照らすと,サーフェスの光源に面し
ている部分は照らされ,サーフェスの光源と反対側にある部分は暗くなる.ライ
トには吸収,反射,屈折があるが,今回トゥーシェーディングを使用しているた
め,そこまでライトに重きを置く必要は無かった.カメラワークに関しては,今
回動きに重点をおいているため,重要視した点である.といってもプロのような
カメラワークセンスはないため,単純ではあるが動きのダイナミックさを後々出
せるようなカメラワークを心がけた.
4.2.7
レンダリング
この工程がやはり非常に時間を浪費する結果になった.自分がイメージしていた
感じと違う表現が結果としてできあがったり,うまくレンダリングできずに,様々
な不具合が生じていたり,修正がとにかく多かった.レンダリングしては修正,レ
ンダリングしては修正と,様々な可能性を予想して,準備万全にしてもなにかと
27
修正が入ってしまう.レンダリング方法としては,シーン全体をレンダリングす
る方法,ある単位のオブジェクトごとにレイヤーを敷き,レイヤーごとにレンダ
リングする方法と主にこの 2 つの方法で行った.レイヤーごとの方が処理として
は軽く,後の仕上げの際に合せればよいので,その方が効率のいい場合がある.
4.2.8
仕上げ
仕上げは,レンダリングした画像をアドビー社のアフターエフェクトというツー
ルで,特殊効果をつけたり,レイヤーを重ね合わせたり,最終的に動画として書
き出してゆくことになる.
4.3
結び
上述したレンダリングの段階において我々は MEL で作成したツールを適用する
ことになる.次の章ではこの MEL スクリプト言語で作成したツールの説明を行う
ことにする.
28
第5章
5.1
開発内容
初めに
スクリプト言語 MEL で作成したプラグインツールについて説明する.
5.2
動作
以下の画像がプラグインツールのインターフェースである.作成したプラグイ
ンツールの動作について述べる.
図 5.1: プラグインツールのインターフェース
29
1. クオリティーの一番低い設定でプレレンダリング
2. インターフェースの左にプレレンダリングした画像を,右に一番最初の画像
だけをそれぞれフレーム数分ラジオボタンとしてスクロール設置する
3. インターフェースの左側のプレレンダリングしたもので,使用したいフレー
ムを選択,それと連動する右側のフレームも選択する
4. 選択後の右側のフレームをデフォームレンダリング
5. 出来上がりの画像チェック&やりなおし等
以上のような工程を踏み,実際にしようする画像を決定していく.そしてこの
画像をアフターエフェクトで特殊効果や修正などをほどこし,最終的に動画へと
書き出してゆく.
5.3
ツールの意図
このツールにおいて一番重要視した点は,フルアニメとリミテッドアニメを比
較しながら自分の描いたイメージの映像表現が作り出せるかという点である.両
方が簡単なアニメーションとして比較できなければ動きのタイミングや調整とい
うのはできなくなってしまう.そこで横スクロールバーによってスライドしなが
らアニメーションのように動かし,動きのタイミングなどをつかみやすいように
した.これによってリアルタイムに自分が選んだフレームによる簡易アニメーショ
ンが確認でき,作業効率向上を図った.また,レンダリング効率を上げる試みも
ある.最初に選ぶためのレンダリング画像はクオリティーを求めてないので,一
番ロークオリティーでレンダリングできる.そして選んだフレームにのみハイエ
ストクオリティーでレンダリングすればよいため,ロークオリティーとハイエス
トクオリティーの差があればそれはレンダリングの負担を減らすことができるは
ずである.
30
5.4
結び
簡単にプラグインツールの動作とプログラムを見てきたが,以上のような意図
でアニメーションにツールを適用していく.次の章ではアニメ制作の結果とプラ
グインツールを通した結果を述べていく.
31
第6章
6.1
評価・検証
評価・検証
今回作成した 3 次元アニメーションの制作工程において,以下の 2 点について
評価・検証してみた.
1. フレームを落とす際の作業の評価と実用性の評価
2. 演出意図の実現性の検証
6.1.1
フレームを落とす際の作業の評価
フレームを落とす際の作業の評価としては,まずフルアニメとしてプレレンダ
リングした画像の羅列とこれから作ろうと思っているリミテッドアニメの状態が
わかりやすく,そして自分が思っているイメージがつかめるようになっているか
という評価を行った.モデリング,アニメ仕込み,アニメートと制作工程を踏み,
プラグインツールに通した結果,ボタンだけで段階的なレンダリングができたり,
スクロールバーを駆使しながら,アニメーションを自分の目で確かめながらフル
アニメとリミテッドアニメの比較をしつつ作業ができたので,インターフェース
の構成などはとても満足のいくものになった.
また,コマ割りに関して,ツール無しの状態だと,キーフレームを付けるときに
しか編集できず,もしフレーム数を変更したい場合に,すべてのオブジェクトに
ついてキーを編集しなければならず,動きの制御に支障をきたす恐れもある.そ
れに比べて,ツールがあった場合,キーフレームはそのままでも,並べてある画
32
像を選出だけで,それなりの効果をつけることができるため,そういった途中変
更の作業に関してはある程度軽減できる.
つまり作業としては,ツール無しでそのままレンダリングすると所謂コンピュー
タグラフィックス的な正しいだけの動き,陰影,表現になってしまい,レンダリン
グする前のアニメートするときにある程度,コンピュータグラフィックス的な動き
などを避けるために色々と動きの値を変更しながら,設定をしておかなければな
らない.その点では非常に有意義なツールとして,コンピュータグラフィックス的
な動きを抑えられるツールとして使用することができる.ただし,フレーム数を
落とすことや同じ画像を複製することでしか動きの効果をつけられないため,作
成者が意図する動きが必ずしも出せるというわけではない.もし意図する動きが
出ないならば,やはりレンダリングする前のアニメートする段階において様々な
設定を余儀なくされる.
6.1.2
フレームを落とす際の実用性の検証
実際,プラグインツールを使用するとき,2 回のレンダリング作業が必要となっ
てくる.今回我々はマシンスペックに悩まされ,初めての 3 次元アニメートだった
こともあり,なかなか思うようにスムーズに作業が進まなかった.普通 3 次元コ
ンピュータアニメーションを作成する際はネットワークレンダリングなどを駆使
してするものであるが,今回はそれを構築するほどの時間と環境はなかった.1 回
目のレンダリングは質を一番低くしてのレンダリングであるため,最もハイクオ
リティーでフルアニメレンダリングするよりは軽く処理できる.またその後にフ
レーム数を落としたレンダリングをすることで,まとを絞ったハイエストクオリ
ティーのレンダリングができる.この場合ハイエストクオリティーにさらにモー
ションブラーやテッセレーションを上げたりすれば,ますますレンダリング時間は
増え,まとを絞ったレンダリングの必要性はでてくる.ただし,ロークオリティー
とハイエストクオリティーに差がなかった場合,2 回のレンダリングの必要性があ
33
まりでてこず,最初からフルのハイエストクオリティーでレンダリングし,ツー
ルのインターフェースで選択し,単に 2 回目のレンダリングをしないでそのまま
選択したフレームだけを抽出するという作業の方が,効率がよくなってしまう.
もしプラグインツールを使用しなかった場合,すべてハイクオリティーでレンダ
リングした後,画像ビューワーで見ながら選び,選びだした画像をまたビューワー
で見るといった操作をせねばならず,二つをその場で比較したり,全体のアニメー
ションの流れを把握できないといった不便性がでてくる.このツールの場合,横
並びでシーンの比較,そしてスクロールバーでアニメーションの流れをそれぞれ
同時に評価したりできるためその点での実用性は発揮できる.ただやはりそれも
ネットワークレンダリングや分散レンダリングなどの高速レンダリングがあって
こそ,ストレスなく使用でき,何度も同じシーンを様々な角度からシーン生成す
ることができると考えることができる.
6.1.3
演出意図の実現性の検証
さて,我々の研究目的である 2 次元の特性を 3 次元に活かせているかという検
証を行う.ここではやはりプラグインツールを通さないフルアニメとプラグイン
ツールを通したリミテッドアニメの比較を行いながらの検証を試みる.3DCG が
持つ 24 または 30 フレームの動き (フルアニメ) を如何にセルアニメーションの 8
または 12 フレームの動き (リミテッド) に緩急すればいいのか.ただ単に数フレー
ムおきに緩急するのか,それとも動きの特徴を考え,ある部分では多めにフレー
ムを選び,他は 8 ないしそれよりも少なくてもいいのかなど,選び方の差はどうし
ても人それぞれ出てしまう.我々の場合そこを重要視し,自動化などをしないで
あくまでも人間の感性に依存した選び方を尊重したいため,今回においても自分
らで一番特性が出そうな形でフレームを選んでいった.ここでは 2 点に注目して
演出意図を検証してみたいと思う.1 つはオブジェクトの動きだけに注目し,レイ
34
ヤーでレンダリングした段階でのフレーム下げを検証していく.もう 1 つはシー
ンとしてある程度出来上がっている状態でのシーン全体の雰囲気も含めた場合の
フレーム下げを検証していく.レンダリングした結果は図:6.1 のとおりである.
フルアニメの方は動きについては,あまりにも綺麗な曲線的動きが目立ち,現
実的ではない印象を受けた.その動きは動物的な動きでもなく,機械的な動きで
もなく,無味乾燥な動きに感じた.これは,もともと 4 章でも述べたように 3DCG
においての動きとは,グラフエディタからもわかるようにそれぞれ x,y,z 軸の方
向に 2 次関数のグラフであらわせるような動きをしており,動きにダイナミック
さがないであるとか,無駄な動きが一切ないなどの所謂味のない映像,動きがで
きてしまう.一方リミテッドアニメの方は多少カクカクしている部分はあるにし
ろ,無味乾燥な動きには感じなかった.
このように比べて見ると,リミテッドアニメの方では画像と画像の間の状態を自
分の目が補間しているのがわかり,フルアニメではその補間すべき間の画像をも
が映るためとても不自然な感じを受けてしまう.実際に人間の目は現実世界にお
いて物体を捉えるとき,飛び飛びの映像でしか捉えられないため,勝手に間を補
間して頭の中で動きを理解している.今回のフルアニメは間の動きまで表現して
しまっているため,普段理解していない動きまで違う形で現れてしまって,頭で
理解するときに不自然な印象を受けたと考えることができる.
また,3DCG の動きが x,y,z 軸の方向それぞれに 2 次関数のグラフであらわせ
るような動きをしていることからも,現実の世界において物体の動きがグラフエ
ディタに表示されているような単純な 2 次関数曲線で表されることはなく,もっと
複雑に絡み合った曲線ないしはグラフになるはずである.その点からも人間が捉
える動きとしては不自然であり,その違和感が現れたように考えられる.
さらに,今回のこの 1 オブジェクトの動きは非常に単純な一連の動作であるが,フ
ルアニメとリミテッドアニメの間でダイナミックさの違いを感じた.フルアニメ
の方は単なる一連の動きにしか見えなかったが,リミテッドアニメの方は,さら
35
図 6.1: フルアニメ (上),リミテッドアニメ (下)
36
なる動きをつけたかったところにフレーム数の違いをつけたり,フレームの落と
し方の強弱をつけたため,ダイナミックな動きを表現することができた.このフ
レームの落とし方を間違えると,映像としてカクカクしすぎる動きがでてしまい,
逆にアニメとしてはおかしくなってしまう.動きの入りと終わり,動きのピークな
どのところでフレーム落としの強弱をつければダイナミックな映像となってくる.
6.1.4
今後の課題
以上のように,3DCG の動きを 2 次元のセル調に落とした映像の表現について
アニメーションを実際に 3 次元デジタルで制作し,ツールによって 2 次元調の動
きに落として,2 次元セルアニメの特性を活かしたアニメーション制作を試みた.
ある程度制限はあるものの,セルアニメ調の動きを出すことはできたと考えてい
る.ただし,3DCG の動きからの生成であるため,3DCG の動きの表現を消す感
じに至ったように思える.しかし,それでも十分セルアニメの表現を生成できる
し,人によって選ぶフレームは違うだろうから,ある程度限定されているものの,
様々な表現を生み出せると考えている.
このツールを使ったアニメーション制作はまだまだ改良の余地もある.
例えば,レイヤーに分けてレンダリングし,フレーム落としをした場合に,各レ
イヤーごとにフレーム落としをするために,レイヤーを統一した時に統一感のあ
る動きができなくなってしまう可能性がある.全体を見ながらフレーム落としが
できればいいが,それがなかった場合,それぞれの動きの強弱がバラバラになっ
てしまい,思ったような映像表現にするまで労力と時間が余計にかかる可能性が
ある.そこで,ツールにレイヤーごとの欄を作ってやり,それぞれのプレレンダリ
ング,選択後の欄を作ってやる必要性がでてくる.そして,イメージをつかむため
に,画像にアルファ値をつけてやり,透明度を調整することによって,それぞれの
レイヤーを重ねてリアルタイムに確認できる欄も設ける必要があるかもしれない.
37
また,やはりレンダリングを 2 回行うという過程は分散レンダリングの環境がそ
ろっていたところで,時間がかかってしまう事実は変わらない.1 回は必ずやらな
ければならない作業であるため,1 回はしょうがないが,2 回やるとなると,変更
などがあったときの時間のロスを考えるとやはりそこは 1 回にする必要性が出て
くる.
そこで,1 つはプレレンダリングの段階にハイエストクオリティーでレンダリング
してしまうという方法.しかし,この方法だと,アニメーションに変更があった
場合に対処しづらく,やはりプレ段階でレンダリングするのは効率がよくない.
もう 1 つはプレレンダリングをせず,アニメの映像だけがわかればいいので,レ
ンダービューをフレームごとにキャプチャーした画像によってフレームを選んで
いく方法をとればレンダリング時間がなくなり,動きだけのフレーム選びができ
る.しかし,この方法もあくまでもレンダリング画像での判断ではないため,で
きあがりのイメージは変わってくる可能性がある.この時間に関する問題は今後
の大きい課題となってくるだろう.
6.1.5
結び
このように 2 次元の特性を活かしたアニメーションの作成をすることができた.
しかし,レンダリング時間の問題や,レイヤーごとのレンダリングに合せたフレー
ムのインターフェースなどの問題を研究していく必要があるだろう.
38
謝辞
本研究を進めるに当たり, 終始丁寧な御指導及び御激励を賜り, その他多くの面で
も色々と御面倒を見て下さり御助言を与えて下さいました大石進一教授,に深く
感謝いたします.
また, 終始丁寧な御指導と御教示をして下さいました 21 世紀 COE 客員講師,中
谷 祐介氏, 丸山 晃佐氏, JST 研究員, 荻田 武史氏,客員講師, 松永 奈美氏に大いに
感謝いたします.
また,研究指導や日常生活において色々とお世話になりました,大石研究室博
士課程 2 年尾崎 克久氏に深く感謝いたします.
また, 同じ CG 班として意見の交換や協力などをして下さいました大石研究室
修士課程 2 年坂内 太郎氏, 徳永 克久氏, 細田 幸裕氏, 横山 大輔氏に深く感謝いた
します.
また,数値計算班でありながら相談にのってくださいました大石研究室修士課
程 2 年島本 誠氏,鈴木 大育氏,福地 健氏に深く感謝いたします.
また,日常生活や研究についての意見交換において色々とお世話になりました,
大石研究室修士課程 1 年大成 高顕氏,川崎 文裕氏,栗原 崇氏,佐藤 友規氏,町
田 智也氏に深く感謝いたします.
39
最後に, 研究だけでなく日常の生活の中でお世話になりました大石研究室の皆
様に深く感謝いたします.
40
参考文献・Web ページ
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手法を利用するセルタッチアニメ映像と従来型手法の比較制作』論文,(2002).
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ンデジタル,(2003).
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[1] アニメ制作工程
http://www.ttn.ne.jp/ miyazima/anime/anime.seisakukoutei1.htm
[2] フリー百科事典『ウィキペディア (Wikipedia)』
http://ja.wikipedia.org/wiki/
[3] GDH gonzo digimation holding
http://www.gdh.co.jp/
42