Nov 9 Issue

MSA Partners
2007年11月9日発行 第204号
LLC
MSA Partners LLC
516 Fifth Avenue, 9th Fl.
米国製薬業界週報
P3
ノバルティス、ガルバスの安全
性情報を提出
メルク、筋肉減弱症などの治療
薬候補でGTxと提携
増える未処理出願対策としての新規定
P4-5
アムジェン、ESAのラベル改訂を
発表
FDA、エビリファイの適応拡大を承
認
ワックスマン議員ら、OTC新法案
を下院委員会に提出
製薬企業ニュース
P6-7
第一三共とイーライリリー、プ
ラスグレルの良好な試験結果を
発表
米国リウマチ学会議ダイジェス
ト
バイオニュース
P8
アミカス、シャイアの子会社と
ライセンス契約
研究関連ニュース
[email protected]
http://www.msapr.com
暫定差し止めとなった新規定を追う
先週の週報でもお伝えした通り、
バージニ
ア州東部地区連邦地方裁判所は10月31
日、グラクソ・スミスクライン(GlaxoSmithKline、以下GSK)が申請していた、米国
特許商標局(USPTO)によるパテント出願
に関する新規定施行の差し止め請求を暫
定的に承認した。
この差し止め請求が却下
されていた場合、翌日11月1日からは請求
項の数、継続出願の数を中心に制限が加え
られ、米国のパテント出願の戦略に大きな
見直しが必要となるところであった。
今回の差し止めは、
あくまで暫定的なも
のであり、最終的にUSPTOによる新規定が
施行されるかは、今後の裁判の進展に委ね
られている。
連邦議会でも50年以上ぶりに
パテント法の抜本的な改正が試みられて
いる折、本号ではUSPTO新規定をめぐるこ
れまでの動きを検証したい。
製薬業界に深刻な影響をもたらす
米国特許商標局の新規定
行政関連ニュース
Tel: 212.764.4760
パテント出願を変えようとする米国特許商標局
目次
インタビュー
New York, NY 10036
週報2007年7月13日発行第188号でも取
り上げたように、米国パテント法は、ここ
数年抜本的な改正の必要性が盛んに論じ
られている。
ますます進む技術の革新に伴
い、パテント出願件数は加速度的に増加、
同時にその内容もますます複雑になって
いる。
しかし現行法は1952年制定当時の状
P8
メ ル ク、臨 床 試 験 を 中 止 し た
HIVワクチンの分析結果を発表
MSAパートナーズは、日米間の
コミュニケーションを目指す日
本の製薬業界を、市場調査・リ
サーチ・コンサルティングなど
現行法におけるパテント出願プロセス
パテント出願の際、
出願者が発明につい
て独占権を得ようとする内容を定義した
ものが請求項(Claim)である。請求項に
は、独立請求項(Independent Claim)と、
独立請求項を引用して記載した従属請求
項(Dependent Claim)と呼ばれるものがあ
る。製薬・バイオテク系の出願では基本的
に、独立請求項で対象化合物を広範囲の
種類で『請求』し、従属請求項は、より『限
定』的に定義された化合物を全てを含める
こととなる。
USPTOによる新規定が施行された場合の継続出願
I
本週報に関するご意見・特集記
事へのリクエストなどをお寄せ
下さい。
況にあわせて作成されたため、時代の流れ
に対応しきれなくなっているというのが、
改正派が掲げる主な改正の理由である。
実
際、USPTOが抱える未処理出願件数は3年
後には100万件を超すと見積もられてお
り、審査に数年を要することは珍しくない
状況である。
技術革新のペースが速いIT業
界は、
審査に長期を要するパテントの急増
にとりわけ不満を募らせており、9月7日に
下院議会が改正法案を通過させたのも、
IT業界による後押しが大きく作用してい
ることは間違いないだろう。
このような状
況下、USPTOが審査の迅速化と未処理出
願削減を掲げ、自ら打ち出したのが、今回
問題となった新規定である。
C
I
= 最初の出願 (Initial Application)
C
= 継続出願 (Continuation Application)および
I
C
P
あらゆる面から
サポートします。
出典:米国特許商標局
一部継続出願 (Continuation-in-Part Application)
C
P
=
請願書(Petition)によって可能となる継続出願および
一部継続出願
C
•
出願者は、基本的に継続出願および一部継続出願(=C)は、
2回までしか行えない。しかし、請願書等を提出すれば、3回
以上の継続出願あるいは一部継続出願(=P)が可能となる。
P
•
継続出願および一部継続出願は、並列(Parallel、左図)また
は直列(Serial、右図)での提出が可能である。
1
2007年11月9日発行 第204号
製薬・バイオテク系の出願は、権利
保護を確実にするため、まだ詳細が明
らかでない研究初期段階で行われるこ
とが普通である。そのため、できるだ
け広い範囲の請求が従来より行われて
おり、結果として請求項も膨大なもの
となることは珍しくない。
パテント審査は、大まかに捉えると
①出願者が出願書類をUSPTOに提出、
②USPTOは最初の審査結果を出願者
に通知、③最初の通知が拒絶通知で
あった場合、出願者は請求項を削除、
また稀ではあるが追加するなどして出
願を修正、④USPTOは最終的にパテン
ト付与あるいは拒絶を出願者に通知、
というプロセスを踏む。
最初の審査で最終的にUSPTOに拒絶
された場合、出願者は審査の継続を申
請することができる。ここで行われる
のが、継続出願(Continuation Application、請求の範囲はオリジナルの出願
と同一の発明でなければならない)、
あるいは一部継続出願(continuationin-Part Application、CIP、一部新規事項
を含み得る)である。USPTOはここで
も最初の審査と同様に審査結果を出願
者に通知し、出願者による内容修正、
USPTOの最終審査通知という過程が
踏まれる。拒絶された場合、出願者は
再び継続出願を行うことが出来る。
2度目の継続出願でも、最終的に
USPTOが拒絶した場合、出願者は通常
ここで、継続審査請求(Request for
Continued Examination、RCE)を提出す
る。RCEも、継続出願と同様の過程を
経て、USPTOから最終審査結果が通知
される。
もしRCEの最終審査結果が拒絶で
あった場合でも、
出願者は3回目となる
継続出願を行うことが可能である。以
上のような過程の繰り返しにより、出
願者が希望する限り、現行法ではほぼ
際限なく審査継続が可能である。そし
て継続出願および審査は、
オリジナルの
出願日が優先出願日(最初の出願日)
として維持される。そのため新たな発
見がオリジナル出願日以降にされること
が多々ある製薬・バイオテク業界では、
継続出願および審査は、とりわけ重要
な権利保護の手段となっている。
新規定がもたらす影響
2
以上のような状況が、審査の長期
化の原因の一部であることは想像に
難くない。USPTOによると、継続出
願・審査は2004年までは出願数全体
の24%であったが、2006年には30%近
くにまで増加している。
USPTOはその他の審査長期化の原
因として、似たような内容の出願を
同じ出願者が複数行うことも挙げて
いる。パテント法は、1つの発明に対
し複数のパテントを取得すること、
および同じ発明の明らかなバリエー
ションのためのパテント出願を禁じ
ているため、USPTOは重複を識別し
なくてはならない。
そこでUSPTOは、継続出願あるい
は一部継続出願、RCEそして請求項
の数を制限することを意図した新規
定を、未処理出願数削減のために必
要なものとして提案したのである。
まず2006年1月3日に新規定案を公
示したが、続く4ヶ月に渡る公衆意見
聴取期間には、500を超える意見が寄
せられた。USPTOは2007年8月21日に
最終版の新規定を公示、続く11月1日
より施行することを発表した。
新規定に盛り込まれた第1の変更
点は、請求項の数は独立請求項を5つ
まで、従属請求項も含めて合計25ま
でと限ったことである(5/25請求項の
基準)。この基準を超えた場合、出
願者は審査補助書類(Examination
Support Document、ESD)を提出する
ことが新たに義務付けられている。
ESD提出には、全世界のパテント・
データベースおよび関連の非パテン
ト文献の詳細な調査を事前に行わな
くてはならない。ESDは、文献一覧、
特許性に関する詳細な説明など、含
むべき数多くの事項が詳細に規定さ
れており、準備に相当な時間と費用
を必要とすることが予想される。
新規定はまた、「特許性的に識別
性の無い請求項」も5/25請求項の基
準に含めるとしている。具体的には、
当該出願と同じ発明者を含み、当該
出願の出願日から2ヶ月以内の出願
日あるいは優先出願日を有する、全
ての関連出願の開示が必要となる。
もし審査官が、当該出願と大幅に重
複する請求項を有する出願があると
判断した場合、関連請求項は特許性
的に識別性が無いとみなされ、開示さ
れた関連出願全てに5/25請求項の基準
が適用される。
こうしてUSPTOは結果的に、5/25請
求項の基準に出願者が従うことを要求
すると共に、保持する請求項の選択を
出願時に行うことを、ある意味で強制
していると考えてもいいだろう。
さらに新規定は、基本的にCIPを含む
継続出願は2度まで、RCEは1度限りに
制限している。これは継続出願の乱用
防止も意図された規定だが、制限数を
越えた出願を希望する場合、制限数を
超えた出願の内容が、それまでに提出
不可能であったことを証明する請願書
を提出する必要がある。
USPTOに対する各方面の抵抗
以上のような新規定は、施行予定日
である11月1日以前に出願されたもの
にも適応されるとしており、各界から
の強い反発を買うこととなった。まず
8月22日には個人の発明家T. タファス
博士が直ちにUSPTOを提訴した。GSK
は10月9日に提訴、10月25日には米国
知的所有権法協会(AIPLA)他、数団
体がGSKを支持する意見陳述書を提出
し、チャールズ・シューマー上院議員
も連邦議会による法改正の動きを指摘
の上、施行の繰り延べ要請を行ってい
る。さらに、IBMのような巨大IT企業
も新規定は損害をもたらすとして、新
規定反対の宣言書を提出した。いずれ
も新規定施行間際の行動であったが、
当面は現状維持ということになった。
裁判所は差し止めの理由として、次
ページのインタビューに記載されるよ
うにGSKの主張を認める見解を示して
いる。公衆の利益についても、新規定
が施行された場合、現行パテント保護
を前提に費用がかさむ開発に取り組ん
できた企業の計算に、直ちに影響が出
ることを挙げている。全般的に今回の
裁判所判断は、本訴訟の今後の進行
が、GSKに有利となることを予想させ
るものに傾いていると言えるかも知れ
ない。しかし裁判所は同時に、新規定
がたとえ未処理出願を2.7%しか減らさ
ないことを指摘しつつも、その効果を
否定はしていない。本件は上院による
改正法案承認にも影響を与えると思わ
れ、今後の動きが注目される。◆
2007年11月9日発行 第204号
インタビュー
製薬業界に深刻な影響をもたらす、米国特許商標局の新規定
スターン・ケスラー・ゴールドスタイン&フォックス法律事務所 ディレクター エリザベス・ハーネス博士
ワシントンDCのスターン・ケスラー・ゴールド
スタイン&フォックス法律事務所のバイオテ
ク/ケミカル・グループの責任者であるハー
ネス博士は、科学者でもある弁護士とし
て、知的財産の世界的な保護および関連
法施行について、バイオテク企業にアドバ
イスを提供している。そこで今回は博士
に、米国特許商標局(USPTO)が提案する
パテント出願新規定について伺った。新
規定の施行は11月1日に予定されていた
が、グラクソ・スミスクライン(GlaxoSmithKline、以下GSK)が裁判所に請求してい
た暫定的差し止めによって阻止された。
――USPTOが制定した新規定によって
もたらされる最も重要な変化、そしてそ
の理論的根拠についてお聞かせください。
ハーネス 今回の新規定の制定は、
USPTOは非常に多くの未処理出願を
抱えているということで理由付けさ
れています。
特にソフトウェア分野の
未処理出願件数は、膨大な数に上り
ます。ソフトウェア技術の中には、パ
テント出願に対する最初の通知を得
るまでに3年から5年かかるものもあ
ります。しかし、新規定は出願全てを
対象としており、USPTOは未処理出
願数削減のために必要との見解を示
しています。
新規定の主要ポイントの1つは、出
願1件に許される請求項数を制限す
るというものです。現行規定では、出
願者が申請する請求項に、数の制限
はありません。米国パテント法では伝
統的に、出願に様々な領域の請求項
を含めることは出願者にとって重要
となっています。例えば、製薬関連の
出願では、化合物の種類を幅広く執
り、期待する薬学的効果を持つか持
たないかわからなくても、
それに関わ
る多くの置換基を請求項に含めます。
しかし、化合物の種類の幅が中程度
のものに関する請求項、
そして臨床応
用が期待されるリード化合物となる
特定の化合物に関する請求項も必要
です。新規定は、1件の出願につき、
5つの独立請求項、合計で25の請求項
に制限しています。こういった制限
は、製薬企業にとって過酷なものとな
ります。
新規定のもう1つの大きなポイント
は、継続出願の制限です。パテント
後、GSKの主張がおそらく認められ
るとの見解を示しています。また規
定制定は、継続出願の権利を認めて
いる連邦議会制定の現行パテント法
に反するとの見解も示しています。
少なくとも現時点では、バージニア
州東部地区の判事は、GSKの主張に
は勝訴する可能性が十分にあり、新
規定施行はGSKに回復困難な損害を
与える可能性があると判断したため、
暫定的差し止めを認めたのです。
エリザベス・J・ハーネス博士
――たとえGSKが本件で勝訴しても、連
邦議会には現在、USPTOに規定制定の
権威を与える法案があります。これは将
来的に、USPTOによる新規定の施行を
可能にはしませんか?
申請は、医薬品に対する保護を確実
にするため、非常に早い時期に行う
必要があります。しかし例えば、そ
の時点では何がリード化合物となる
か、あるいは前臨床データはあって
も臨床データは無いといった事が起
こり得ます。製薬およびバイオテク
分野では、データがさらに揃い、請
求項をより良くサポートできるよう
になるずっと後になってから、継続
出願をするのが一般的でした。新規
定は、継続出願を最大2件に制限しま
す。 以上は、米国で行われてきた伝
統的なパテント申請に非常に大きな
制限を加えることになります。
――継続出願が制限されると、企業は
データが出揃うまでパテント出願を待た
なくてはならなくなるのでしょうか。
ハーネス GSKは、新規定は新薬開発
を抑え付けることになるという議論
を展開しています。臨床データが揃
うまで申請を保留することは不可能
であり、またパテント承認が確実で
ない限り、企業は薬品を製品化する
ために何百万ドルも費やしたがらな
いというのが、その理由です。
――法廷は、この問題をどのように解決
するとお考えですか。
ハーネス GSKは、新規定は性質上実
質的な法の改変であり、連邦議会は
USPTOに手続き上の規定変更の権限
しか与えていないと主張しました。
地方裁判所は、この点については今
ハーネス 法案が議会を通過して、大
統領がそれを立法化すれば、その通
りです。現在のところ、下院を通過
したパテント改正法案は、確かに
USPTOに広く規定制定の権限を与え
ています。上院法案は、まだ承認さ
れていません。上院法案は規定制定
の権限を認めていません。
――IT業界は、USPTOの新規定をどの
ように捉えているのでしょうか。
ハーネス 巨大IT企業は、パテントで
保護された数多くのソフトウェア技術
にロイヤリティを支払っており、
パテン
ト認可数を抑えたいはずです。新規
定のメリットはそこにあります。
しか
し興味深いことに、GSKの立場を援
護するために提出された重要な書簡
の1つは、IBMからのものでした。
プロフィール
Elizabeth J. Haanes, Ph.D
現法律事務所にて弁護士業務に携わる
以前は、コロラド州のバイオテク企業で、
分子ワクチン・グループのプロジェクト・コー
ディネーターを務めた。ウィルス学とワク
チン開発に特化したポスト・ドクター研究
をミネソタ大学、および大手製薬企業にお
いて修了。ミシガン大学より生物学学士
号、ミネソタ大学より微生物学博士号、法
務博士号をコロラド大学より取得。
3
2007年11月9日発行 第204号
今週の行政関連ニュース
アムジェン、ESAのラベル改訂を発表
CMSにはNCDの再考を求める
4
用量のESAを使用すべきという、
医療
従事者への推奨事項が追記された。
他にも用法・用量欄に、ESAは貧血が
化学療法に起因している癌患者にの
み使用するべきであり、化学療法が
終了した患者への使用は中止するべ
きであると明示された。
アムジェン(Amgen)は11月8日、貧血
症治療を適応とするヒト組み換え型
赤血球生成促進因子(EPO)製剤とし
て知られる赤血球生成促進剤(ESA)
について、FDAおよびジョンソン・エン
ド・ジョンソン(Johnson & Johnson、以
下J&J)と協力し、製品ラベルの内容
を改訂したと発表した。
ESA製剤にはアムジェンのアラネスプ
(Aranesp)とエポジェン(Epogen)、
J&J の 子 会 社、オーソ・バイオテク
(Ortho Biotech) の プ ロ ク リ ッ ト
(Procrit)がある。3剤は慢性腎臓病患
者の貧血症および非骨髄性悪性腫瘍
患者における化学療法が引き起こす
貧血症を適応とし、エポジェンとプロ
クリットは、上記2適応に加え、手術
後の輸血の必要性低減や、HIV感染
者のジドブジン(zidovudine)治療に伴
う貧血症治療などの適応を持つ。
今回のラベル変更は、ESAの有効
性と安全性プロファイルに関する
FDAとの協議を反映しており、
ブラッ
クボックス警告の強化および変更、
適応および使用法欄への情報追加、
警告欄への癌の試験に関する情報追
加、および用法・用量欄への慢性腎
臓疾患患者に対するヘモグロビンレ
ベル範囲の明示が行われた。
慢性腎不全(CKF)患者に対するブ
ラックボックス警告欄には、低レベ
ルのヘモグロビンレベル(11.3g/dL、
10g/dL)
に達するようESAを投与され
た群に比べて、高レベルのヘモグロ
ビンレベル(13.5g/dL、14g/dL)に達
するよう投与された群では死亡率と
重篤な心血管イベントリスクが高
まったことを示す2件の臨床試験結
果が追加された。用法・用量欄には、
ヘモグロビンレベルは10~12g/dL以
内に維持されるべきであるとの変更
が追加された。また、ESAによって十
分にヘモグロビンレベルを高めても
治療が奏功しないCKF患者に対する
用法・用量およびヘモグロビンレベ
ル監視に関し、ESAによって貧血や疲
労などの症状や、生活の質が改善さ
れたことを示す比較試験データは存
在しないことが記載された。
癌患者に対するESAのラベル変更
CMSにNCD再考を要求
癌患者に対するブラックボックス
警告欄には、ヘモグロビンレベルが
12g/dL以上に達するようにESAを投
与された進行性乳癌、頭頸部癌、リ
ンパ腫、非小細胞肺癌のいずれかの
患者において、腫瘍の進行と生存率
の低下が引き起こされたことを示す
6件の試験結果が、強調して記載され
た。また、ヘモグロビンレベルが12
g/dL未満に達するようESAを投与さ
れた癌患者で、生存率の低下や腫瘍
の進行を示すリスクが排除されたわ
けではないことと、これらのリスク
や重篤な心血管イベント、血栓イベ
ントを最小限に抑えるには、赤血球
輸血の必要性を回避できる程度の低
アムジェンとオーソ・バイオテクは同日、
メディケア・メディケイド・サービスセン
ター(CMS)が今年7月末に定めた、腎
疾患以外の癌患者および腫瘍性疾患
患者へのESA使用に対する保険償還
を制限するナショナル・カバレッジ・ディ
ターミネーション(National Coverage
Determination、以下NCD)の最終版に
関して、CMSにNCD再考を促す新し
い証拠を提出する予定であることを
発表した。NCDは償還の条件として、
ESA使用前のヘモグロビンレベルが
心疾患を発生していない患者におい
て10g/dL未満であること、治療開始4
週間後のヘモグロビンレベルが変わ
らず10g/dL未満の場合に限り治療の
CKF患者に対するESAのラベル変更
ESAの主なラベル変更・追加事項
癌患者に対するESAラベル変更内容
・ヘモグロビンレベルが12g/dL以上になるよう投与さ
れた癌患者において生存率の低下と腫瘍の進行が見
られた
・ヘモグロビンレベルが12g/dL未満になるよう投与さ
れた場合でも生存率の低下と腫瘍の進行などといっ
たリスクが排除されるわけではない
・ESAは、貧血が化学療法に起因する場合にのみ使
用すべき
CKF患者に対するESAのラベル変更内容
・ヘモグロビンレベルが高レベルになるよう投与した場
合に死亡率と重篤な心血管イベントリスクが高くなる
・ヘモグロビンレベルは10~12g/dL以内に維持される
べき
続行を認めることなどを定めている。
アムジェンは、癌専門医がESAの使
用によってヘモグロビンレベルを10~
12g/dLの範囲に維持できるよう、現在
のヘモグロビンレベルの上限10g/dLを
改訂するようCMSに要求する予定。
また、アムジェンはNCDの再考を
促すための新証拠として、米国血液
学 会(ASH)と 米 国 臨 床 腫 瘍 学 会
(ASCO)が先月発表した、ヘモグロ
ビンレベルの目標が10~12g/dLの範
囲の際にESAの使用を推奨するとし
た臨床指針や、今回のFDAとの協力
で作成されたESAラベルの変更内容
はNCDとは異なる見解を反映してい
ること、また、ESA使用に伴う目標ヘ
モグロビンレベルを10~12 g/dLの範
囲に維持するとした、欧州医薬品審
査庁(EMEA)が先月発表した製品情
報の変更などを提出する。
オーソ・バイオテクは新証拠とし
て、
アムジェン同様にASHとASCOに
よる臨床指針やEMEAによる製品情
報変更の他、様々なヘモグロビンレ
ベルにおける赤血球輸血の危険性の
データなどを提出する。
一部報道によると、FDAは今回の
ラベル内容について、医療従事者に
赤血球輸血を回避する程度の低用量
のESA使用を指示しており、CMSの
償還ポリシーと一致しているとの見
解を示しているという。また、CMS
の広報担当は、ESAのラベル変更を慎
重に検討すると述べた。
今後のESA償還に対するCMSの動
きが期待される。◆
2007年11月9日発行 第204号
今週の行政関連ニュース
FDA、エビリファイの適応拡大を承認
青年期を対象とした初の統合失調治療薬
大塚製薬とブリストル・マイヤー
ズ スクイブ(Bristol-Myers Squibb)
は11月6日、13~17歳の青年期におけ
る統合失調症治療を適応とした非定
型抗精神病薬エビリファイ(Abilify、
一般名aripiprazole)の補足新薬承認
申請(sNDA)をFDAが承認したと発
表した。
承認の根拠となったのは、世界13
カ国の101の施設で、様々な人種の
302人の統合失調症と診断された13
歳から17歳の青年を対象に、6週間に
渡って行われた多施設二重盲検無作
為化プラセボ比較試験。全被験者は、
同試験の登録時に深刻な統合失調症
のエピソードを持つ、入院の必要な
患者だった。被験者は、最低3日間の
統合失調症治療薬を服用しない期間
を経た後、無作為にエビリファイ1日
10mg用量か1日30mg用量のどちら
か、
もしくはプラセボを投与された。
主要評価項目は、治療開始第6週
目における陽性・陰性症状評価尺度
(PANSS)と呼ばれるスコア中央値
の、
ベースラインからの変化だった。
PANSSは、最低30点(症状なし)か
ら最高210点(最も深刻な症状)の範
囲で評価される。結果、エビリファ
イ10mgと30mg投与群では、PANSS
総合スコア中央値のベースラインか
らの変化が、プラセボ群に比べて大
きく有意な改善が見られた。
エビリファイは2002年に統合失調
症治療薬としてFDAに承認された
が、若年者に投与する場合の有用性
は確認されていなかった。また、そ
の後2004年9月に、双極性感情障害の
急性躁病の治療を適応として追加承
認を受けた。成人の大うつ病患者を
対象とした抗うつ病治療の補助療法
としても、FDAから優先審査指定を
受けていた。◆
ワックスマン議員ら、OTC新法案を下院委員会に提出
■FDA、キアディスのATIRをオーファ
ンドラッグ指定
FDAは11月6日、
キアディス・ファー
マ(Kiadis Pharma、以下キアディス)
の主力製品候補であるATIRを、免疫
再構築の治療と、同種骨髄移植後の
移植片対宿主病(GvHD)の予防を適
応として、
オーファンドラッグに指定
すると発表した。同製品候補は現在
フェーズI/II臨床試験段階にあり、
2008年のフェーズIII試験開始が予定
されている。
GvHDは、ドナーの免疫細胞が患者
の細胞や臓器を侵食することによっ
て起こる症状で、ATIRは、自己免疫
を攻撃する免疫細胞を選択的に除去
することによって、GvHDを予防する
よう設計されている。
キアディスは、
オランダのアムステ
ルダム拠点の腫瘍関連治療薬開発に
注力する製薬企業。血液癌患者に施
される骨髄移植手術や同手術に伴う
合併症分野に力を入れている。
■FDA、クレストールの適応拡大を承認
FDAの権限強化を狙って
ヘンリー・ワックスマン下院議員は
11月6日、エドワード・ケネディ上院
議員、トム・アレン下院議員と共に
非処方箋医薬品近代化法2007(NonPrescription Drug Modernization Act of
2007)を下院政府改革委員会に提出
した。同議員によれば、この法案は
10月18日に行われたFDAの小児用医
薬品の諮問委員会で、6歳以下の小児
を対象としたOTC薬の咳および風邪
薬の販売中止が勧告されたことを受
けて起草されたもので、非処方箋
(OTC)医薬品の安全性と有効性に
関するFDAの権限強化を目指す内容
となっている。
ワックスマン議員は、現法の下で
FDAが諮問委員会の勧告に従いOTC
薬の小児への販売を中止しようとす
れば、規制関連のプロセスに数年を
要するが、その間、場合によっては
小児の健康に深刻な影響を及ぼす可
能性のある医薬品は販売され続ける
ことになると主張。今回の法案は
FDAに対し、こうしたプロセスを経
その他の主なニュース
ずに医薬品の販売中止などの迅速な
対応を可能にするものだと述べた。
本法案は①一般薬の標準承認制度
で承認された医薬品に重大なリスク
があることを理由に、その制度が改
正・廃止されるべきと判断したとき
と、②諮問委員会の審議の後に、一
般薬の標準承認制度で承認されてい
る医薬品に有効性を示す証拠がない
と判断したときの両ケースにおいて、
通常こうした制度の改正に必要とな
るプロセスを踏まずにFDAが一般薬
の標準承認制度を改正・廃止できる
ようにしている。
また同法案は、現在は連邦取引委員
会(FTC)が持つOTC薬広告に関する規
制権限をFDAに与えることや、9月に成
立 し た FDA 改 正 法
(FDA
Amendments Act of 2007)で定められた処
方箋医薬品の消費者向け広告(Directto-Consumer、以下DTC広告)に関する違
反で課せられるような罰金刑を、
OTC薬
のDTC広告に関する違反にも同様に適
用するよう提案している。◆
アストラゼネカ(AstraZeneca)は
11 月9日、スタチン系薬剤クレストー
ル
(Crestor)
に関して、
高コレステロー
ル患者におけるアテローム性動脈硬
化症の進行を遅らせる食事療法の補
助療法としてFDAが承認したと発表
した。
クレストールは現在までに、悪玉
コレステロール(LDL)、ApoB、ト
リグリセリドなどを低下させる、
また、
成人の高コレステロール患者におけ
る善玉コレステロール(HDL)を増加
させる食事療法の補助療法などで承
認されている。
今回の適応拡大は、動脈内のプラー
ク蓄積に対するクレストールの効果
を検証するMETEORと呼ばれる試験
データを根拠として承認された。同試
験では、LDLコレステロールが高く、
心血管リスクの低い早期のアテロー
ム性動脈硬化症患者において、
クレス
トールが同疾患の進行を遅らせたこ
とが示された。
5
2007年11月9日発行 第204号
今週の製薬企業ニュース
第一三共とイーライリリー、プラスグレルの良好な試験結果を発表
プラビックスとの比較で心血管イベントリスク減少
イーライリリー(Eli Lilly)と第一三
共株式会社(以下、第一三共)が共同
開発する抗血小板治療薬候補プラス
グレル(prasugrel)が、心臓発作のリス
ク 軽 減 に 関 し て、クロピドグレル
(clopidogrel)に対し統計的優位性を示
したとする研究結果がニューイングラン
ド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)
の11月15日号オンライン版に掲載され
た。クロピドグレルは、ブリストル・マ
イヤーズ スクイブ
(Bristol-Myers Squibb)
とサノフィ・アベンティス(SanofiAventis)がプラビックス(Plavix)のブ
ランド名で共同販売している。
同研究
結果は11月3~7日までフロリダ州オー
ランドで開催された米国心臓協会
(AHA)の学術集会でも報告された。
プラスグレルは、
承認されれば昨年
約60億ドルを売り上げたプラビックス
の競合薬になると見られている。
また、
プラビックスのパテントが2011年に失
効することや、2014年にはイーライリ
リーの所有するパテントの約半分が失
効することからも、
同社にとってプラ
スグレルの早期承認は重要な課題と
なっている。
チエノピリジン(thienopyridine)クラ
スに属するプラスグレルおよびクロピ
ドグレルは、血小板表面でP2Y12アデ
ノシン二リン酸(adenosine diphosphate)
受容体を遮断し、
血小板の活性化およ
び凝集を抑制する作用を持つ。
これら
抗血小板治療薬は、
動脈硬化や心臓発
作、
脳卒中を引き起こす可能性のある
血小板凝集を防ぐと期待されている。
アスピリン(aspirin)とチエノピリ
ジンを併用する抗血小板療法は、
急性
冠症候群の血栓性合併症を防ぐため
の治療や、経皮冠動脈インターベン
ションを受けている患者に標準的に施
行されている。一方で、現在の標準治
療薬であるクロピドグレルによる治療
は、
患者の多くでアテローム血栓事象
の再発が見られることや、
抗血小板作
用に限度があること、
作用開始が遅い
こと、などの欠点も認識されている。
また、抗血小板療法には、治療を強化
6
プラスグレルとクロピドグレルの有効性と副作用の比較
プラス
クロピドグ
ハザード比
すると出血性合併症のリスクが増
グレル
レル
大するという問題もある。
0.81
643名
781名
主要評価
TRITON TIMI-38と呼ばれる多施
(9.9%)
(12.1%)
項目
設実薬対照比較フェーズIII臨床試
0.89
心血管死
133名
150名
験では、
クロピドグレルと新規のチ
(2.1%)
(2.4%)
0.76
非致死的
475名
620名
エノピリジンであるプラスグレルの
心筋梗塞
(7.3%)
(9.5%)
効果を比較するため、
経皮冠動脈イ
1.02
61名
60名
ンターベンションを受ける予定の急 非致死的脳
卒中
(1.0%)
(1.0%)
性冠症候群を発生するリスクが中 重度出血
1.32
146名
111名
度から重度の1万3,608名を対象に、
(2.4%)
(1.8%)
6~15ヶ月に渡ってプラスグレルも 生死にかか
1.52
85名
56名
(1.4%)
(0.9%)
しくはクロピドグレルを投与した。 わる出血
4.19
致死性の
21名
5名
また、
全患者に低用量のアスピリン
出血
(0.4%)
(0.1%)
を毎日投与した。
複合主要評価項目
差を持って高かった。
を心血管死、非致死的心筋梗塞、非致
研究では、重度出血リスクが他の治
死的脳卒中の割合とした。
療群より高い、「75歳以上の高齢者」
結果、主要評価項目とした心血管系
「体重60kg以下の患者」
「一過性脳虚
イベントによる死亡者数は、クロピド
血発作または脳卒中の既往歴を持つ
グレル群で12.1%相当の781名だったの
患者」の3つの治療群も特定した。こ
に対し、プラスグレル群では9.9%相当
れら治療群に関しては、
プラスグレルの
の643名とプラスグレル群で良好だっ
用量を下げる方が適切かどうか判断
た。これはプラスグレル群において心
するために、
複数の臨床試験における
血管イベント発生リスクが19%減少し
薬物動態データを現在検証中という。
たことを意味する。また、クロピドグ
研究班は、全死亡例、心臓発作、脳
レル群とプラスグレル群それぞれで、
卒中、
重度出血の発生例による複合評
心筋梗塞の発生率は9.7%と7.4%、
緊急
価項目を用いた分析から、
プラスグレ
血管再開通術を必要とした割合は
ルはクロピドグレルより複合イベント
3.7%と2.5%、血栓性閉塞の発生率は
発生率を統計的有意に13%減少させ
2.4%と1.1%と、
心血管イベント発生率
たと評価、
プラスグレルの臨床上の実
はプラスグレル群で顕著に低下した。
質的有用性が示されたとした。
さらに、心筋梗塞発生後に心血管系イ
また、プラスグレルによる治療は、
ベントで死亡した率は、クロピドグレ
経皮冠動脈インターベンションを受け
ル群の0.7%に対しプラスグレル群は
た急性冠症候群患者において血栓性
0.4%と、プラスグレル群で統計的に有
閉塞を含む虚血性イベントの発生率
意な低下が見られた。
を顕著に減少させる一方、
致死性の出
出血性合併症については、重度出血
が見られた割合は両群とも低かったが、 血を含む重度出血のリスクを増加さ
せ、
クロピドグレル群とプラスグレル
プラスグレル群で2.4%、クロピドグレ
群で全体的な死亡率に顕著な差は見
ル群で1.8%とプラスグレル群で高く、
られないとの見解を示した。
出血リスクはクロピドグレル群に比べ
第一三共とイーライリリーは今回
てプラスグレル群で32%高かった。重
の良好な結果を受けて、
2007年中にプ
度出血者のうち、生死にかかわる出血
ラスグレルの新薬承認申請をFDAに
を起こした割合はそれぞれ1.4%と0.9%
提出する予定。プラスグレルのプラ
と、プラスグレル群で高かった。さら
ビックスに勝る有効性と重度出血の
に、致死性の出血に関してはクロピド
リスクを、
FDAがどのように判断する
グレル群で0.1%、プラスグレル群で
かが注目される。◆
0.4%と、プラスグレル群で統計的有意
2007年11月9日発行 第204号
号
今週の製薬企業ニュース
ノバルティス、ガルバスの安全
性情報を提出
ノバルティス(Novartis)は11月6
日、ジ ペ プ チ ジ ル ペ プ チ ダ ー ゼ
(DPP)IV阻害剤ガルバス(Galvus)
の安全性に関する追加情報を、欧州
医薬品審査庁(EMEA)に提出した。
欧州で行われた臨床試験において、
同剤100mgを1日1回投与された患者
群で、50mgを1日1回もしくは2回投与
された患者群に比べて、肝酵素の上
昇が見られたことを受けたもの。同
社はEMEAの医薬品諮問委員会であ
るCHMPと協議した結果、推奨用量
を50mgの1日1回投与、
もしくは2回投
与に変更するよう提案した。
同臨床試験の分析では、100mgを1
日1回投与された患者群において、肝
酵素値のバランスが不均衡だった。
また、アスパラギン酸トランスフェ
ラーゼ(AST)とアラニントランス
フェラーゼ(ALT)が標準的上限値の
3倍に上昇した患者の割合は、100mg
1日1回投与群で0.86%、50mg1日2回
投与群で0.34%、50mg1日1回投与群
で0.21%だった。
同社は同日、ガルバスの別の臨床
試験結果も発表した。同臨床試験は、
メトフォルミン(metformin)経口剤
による治療が奏功しなかった2型糖尿
病患者576名を対象に24週間実施さ
れ、
メトフォルミンと同剤の併用療法
の効果を検証したもの。結果、ガルバ
ス併用投与による有効性と認容性は、
メトフォルミン単独投与の場合と同
様だった。同臨床試験では、ガルバス
50mgを1日2回投与した。
同社は2型糖尿病治療を適応とし
てFDAからガルバスの承認見込み通
知を今年2月に受け取っており、現在
は最終承認に向けFDAと協議中だ。
ち
なみにガルバスと同じ作用機序を持
つ メ ル ク(Merck)の ジ ャ ヌ ビ ア
(Januvia、一般名sitagliptin)は、米国
と欧州ですでに承認されている。 ◆
メルク、筋肉減弱症などの治療
薬候補でGTxと提携
メルク(Merck)は11月6日、加齢性
筋肉減弱症やその他の筋骨格疾患の
治療薬候補として有望な選択的アン
ドロゲン受容体モジュレーター
(SARM)の開発で、GTxと提携した
と発表した。SARMはテストステロン
の受容体に結合することによって、
筋
肉や骨の強化、性的機能の改善、気分
の回復などの効果を現わすという。
GTxはテネシー州を拠点としたバイ
オテク企業で、癌や骨粗鬆症、筋肉萎
縮などに関与するホルモン経路に選択
的に作用する小分子薬の発見・開発に
特化している。今回の提携には、同社
が癌患者の筋肉減弱症治療を適応に
フェーズII臨床試験中のSARM、
オスタ
リン(Ostarine)も含まれる。
合意の下両社は、
それぞれのSARM研
究プログラムを統合する。
またGTxは契
約一時金4,000万ドルの他、提携開始後
3年間に渡って1,500万ドルの研究費用
の償還を受ける。他にもGTxは、医薬品
候補の開発や、同医薬品が複数の適応
で承認された場合などの段階に応じた
マイルストーン金を総額4億2,200万ド
ル受け取る権利を有する。
なお同社は、
提携による他の医薬品候補の開発と承
認の成功に応じたマイルストーン金と、
製品の発売後は世界売上に応じたロイ
ヤルティも受領する。
一方メルクは、GTxの株価終値の30
日間平均に40%のプレミアムを乗せた
3,000万ドルを投資する他、現在開発中
のSARM候補薬の今後の開発費用をす
べて負担し、またオスタリンや提携か
ら生まれた他のSARM候補薬が承認さ
れた場合の商業化を担当する。◆
米国リウマチ学会議ダイジェスト
11月6~11日までマサチューセッツ
州ボストンで開催中の米国リウマチ学
会議(ACR)から、注目される試験結
果を取りあげる。
ロ シ ュ(Roche)は 関 節 リ ウ マ チ
(RA)治療を適応として開発中のアク
テムラ(Actemra、一般名tocilizumab)
に関して、良好なフェーズIII臨床試験
結果2件を発表した。
アクテムラは初の
ヒ ト 化 抗 ヒ ト イ ン タ ー ロ イ キ ン -6
(IL-6)受容体モノクローナル抗体で、
RAに対する独自の作用機構を持つ。
ロ
シュと中外製薬は日本国外で同化合
物のフェーズIII臨床開発プログラムを
共同で行なっている。
アクテムラの有効性と安全性を疾患
修飾抗リウマチ薬(DMARDs)と比較
した、DMARDsが十分に奏効しないリ
ウ マ チ 患 者 1,216 名 を 対 象 に し た
TOWARDと呼ばれる試験では、試験開
始から24週間後にRAの症状が20%軽
減されたことを意味するACRスコア
レベル、ACR20に達した割合が、ア
クテムラとDMARDsの併用群では
61%だったのに対し、DMARDs単独
群では25%と、併用群で顕著に良好
だったことが示された。疾患の寛解
率は併用群で30%だったのに比べ、
DMARDs群では3.4%だった。
OPTIONと呼ばれる試験では、同じ
くDMARDsに十分に反応しない623
名のリウマチ患者を対象にアクテム
ラを4週間ごとに静脈内投与する群
とプラセボ投与群を比較した。両群
にはメトトレキセート
(methotrexate)
が週1回併用投与された。ACR20、
ACR50、ACR70を達成したのはアク
テムラ群でそれぞれ59%、44%、22%
だったのに対し、プラセボ群では
27%、11%、2%だった。疾患の寛解
率はアクテムラ群で28%だったのに対
し、プラセボ群では1%だった。
セントコア(Centocor)はシェリン
グ・プラウ(Schering-Plough)と共同
で開発したゴリムマブ(golimumab)
について、強直性脊椎炎の症状を顕著
に軽減、主要評価項目を達成したとす
る試験結果を発表した。
試験は356名の強直性脊椎炎患者
を対象にしたフェーズIIIプラセボ対
照比較試験で、主要評価項目は14週
目における同疾患の症状が20%改善
されたことを意味するスコアレベル
(ASAS20)に達した割合とした。試
験開始14週後、ASAS20を達成したの
はゴリムマブ50mg、100mg投与群でそ
れぞれ59%と60%だったのに対し、プ
ラセボ群では22%と、
ゴリムマブ群で
顕著に良好な結果が見られた。◆
7
2007年11月9日発行 第204号
今週のバイオテクニュース
アミカス、シャイアの子会社とライセンス契約
ライソゾーム病の治療薬候補で
アミカス・セラピューティクス
(Amicus Therapeutics、以下アミカ
ス)は11月8日、同社のライソゾーム
貯蔵障害(ライソゾーム病)に関する
3つの薬理学的シャペロン化合物の開
発について、シャイア・ファーマスー
ティカルズ(Shire Pharmaceuticals)の
子会社であるシャイア・ヒューマン・
ジェネティック・セラピーズ(Shire
Human Genetic Therapies、以下シャイ
アHGT)と戦略的提携を行うと発表
した。アミカスは、提携後も米国にお
けるこれら化合物の商業化に関する
権利を保持する。
ライソゾーム病は、細胞内にある小
器官の1つであるライソゾームに関連
した酵素が生まれつき欠損している
か活性が著しく低いために、分解され
るべき物質が体内に蓄積する先天代
謝異常疾患の総称。現在同疾患には、
約30種類があり、代表的なものには、
α-ガラクトシダーゼAの欠損による
ファブリー病、β-グルコセレブロシ
ダーゼ欠損によるゴーシェ病、α-グ
ルコシダーゼ欠損によるポンペ病な
どがある。
今回の提携には、現在フェーズII段
階にある、
アミカスのファブリー病治
療薬候補アミガル(Amigal 、一般名
migalastat hydrochloride) 、同じく
フェーズII段階にある、
ゴーシェ病治
療薬候補であるプリセラ(Plicera、一
般名isofagomine tartrate)、フェーズI
段階にある、ポンペ病治療薬候補
AT 2220(一般名deoxynojirimycin)が
含まれる。これらの3化合物の有効成
分は、
いずれもFDAからオーファンド
ラッグ指定を受けている。
合意の下、アミカスは払い戻し不可
能な契約一時金として5,000万ドルを
シャイアHGTから受け取る。また、ア
ミカスは、3つの治療薬候補開発プログ
ラムの臨床及び承認の成功に応じたマ
イルストーン金を1億5,000万ドルと、
売上に応じたマイルストーン金と段階
的かつ2桁のロイヤルティを最高2億
4,000万ドルまで受け取る。3つの治療
薬候補の世界的な承認に向けた費用
は、2社が折半して負担する。ロイヤル
ティと分担費用を除外すると、この提
携は4億4,000万ドルの規模となる。
シャイアでは、提携で獲得するシャ
ペロン化合物が、同社の持つファブ
リー病治療薬レプラガル(Repragel、一
般名agalsidase alfa)、ハンター症候群
治療薬エラプレス(Elaprase、一般名
idursulfase)
などの既存薬ポートフォリ
オの拡大や、ポンペ病治療分野への進
出の道を開くと期待している。◆
今週の研究関連ニュース
メルク、臨床試験を中止したHIVワクチンの分析結果を発表
アデノウィルスに対する免疫とHIV感染との因果関係を示唆?
メルク(Merck)は11月7日、HIVワ
クチンV520の有効性に関する分析結
果を発表した。
V520はHIV構成タンパ
ク質であるgag、pol、nefの3種だけを
抽出し、
風邪ウィルスの一種であるア
デノウィルス(Ad5)をベクターとし
て体内に送達させるワクチン。
これら
3種のHIV遺伝子は、CD8と呼ばれる
キラーT細胞の産生を促すと考えられ
ていた。CD8は、細胞ベースでのHIV
に対する免疫反応を引き出し、
HIVに
感染した細胞を認識して攻撃する細
胞。
V520は、
HIVに感染するリスクの高
い 非 感 染 者 約 3,000 名 を 対 象 に、
2004年から臨床試験が行われていた。
しかし臨床試験の1つSTEPの安全性
データを分析した独立データ安全性
監視委員会(DSMB)は今年9月、同
試験が有効性の評価項目を達成して
いないと判断し、
ワクチン接種の中止
を勧告、
メルクもこれを受けて臨床試
験を中止していた。
8
8
Ad5に対する免疫力別にみた
今回発表されたSTEPの事後
STEPでのHIV感染者数
分析は、DSMBによる9月の分
免疫力
Ad5に対する
プラセボ接種群
V520接種群
析以降10月17日までに感染が
免疫力
(HIV感染者数/ (HIV感染者数/
確認されたすべての例を含む
(単位:ユニット)
接種総数)
接種総数)
HIV感染について行われた。こ
の分析によると、
ワクチン接種
20/382
20/394
>18
群の男性被験者914名のうち
8/140
4/142
18~200
49名、プラセボ接種群の同922
200~1,000
14/229
7/229
名のうち33名がHIVに感染し
た。
なおSTEPはAd5に対する既
7/163
2/157
1,000<
存の免疫レベルが高い被験者
出典:メルク資料よりMSA作成
でよりHIVへの感染が見られ
いう。
るかどうかを確認するよう設計され
一部報道は、メルクが開発している
たものではなかったが、
Ad5に対する
HIVワクチンが奏効しない場合、
同様の
免疫レベルが高かった778名の被験者
作用機序を持つ他社のワクチンも同じ
において、
HIV感染者はワクチン接種
ように奏効しない可能性があること、
群で21名、プラセボ接種群で9名と、
またワクチン接種により逆にHIV感染
その差はより顕著だった。
の危険性が上昇する可能性があること
メルクでは現在、
ワクチンの有効性
で、今後同様の臨床試験で被験者登録
の欠如に対するHIVウィルスの遺伝
が困難になるとの懸念を示した。◆
的多様性の影響や、
Ad5免疫レベルと
HIV感染リスクとの関連性などにつ
いて、
より詳細な分析を行っていると
本ニューズレター掲載の情報は、公開情報を基にMSAが編纂したものです。弊社は、当該情報に基づいて起こされた行動によって生じた損害・不利益等
に対してはいかなる責任も負いません。掲載記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。 Copyright © 2003-2007 MSA Partners LLC