第2稿と講師添削(2011年1月)

○ 外)ウージ畑
青々とした葉が風にそよぐウージ(さとうきび)畑の全景。上空から米軍の戦闘機が飛
び去る。轟音が辺りに響く。
タイトル入る。
○ 外)オバーのウージ畑
オバーが米軍基地に隣接した自分のウージ畑を手入れしている日常風景の全景。その上
空を米軍戦闘機が飛び去る。
それを見上げて嫌な顔をする気の強そうなオバーのアップ。
○内)オバーの家
黒バックに米軍戦闘機の轟音。オバーがそれに驚いて飛び起きる。
壁に飾ってある、額縁に入ったオジーの写真アップ。
日めくりのカレンダーをオバーがめくると、この日は休日。カレンダーには孫の恵(め
ぐみ・通称メーグー)がクレヨンで書き込んだ「メーグーの日」の文字と本人の似顔絵。
思わずニンマリ笑うオバー。
オバーはいそいそと嬉しそうに外出着に着替えると大きめのバッグを手に持って孫の家
を目指して家から出発する。
この二行、シノプシス(粗筋)的な書き方(それともモンタージュ的な感覚?)
。つまり
起きた事の単調な説明になっている。着替えるアクションの詳細は?外に出て行くシー
ンが必要なら、家を出た時点で別シーンになります。
「孫の家を目指して」と書かれても、見ただけでは分かりません。
○ 内)近所のパン屋さん
シーサー印の焼きたてパン屋さんにやって来たオバー。
ドアを開けるとチャイムが鳴り、
中年の女性店員が声をかけつつ表に出て来る。
おい しそうな パンが焼ける映像などを入れると、どれほど大切なパンなのかの提
示が出来ます( ステーク の提示)
。
パン屋店員
「はいさい、いらっしゃ い」
オバー
「だー、メーグーにお土産買って行こうね」
オバーがメーグーを訪ねる頻度は?例えば毎月のイベント的な感じにするとか。その辺
も(オープニングのカレンダーに頼り過ぎなくても(ちょっと曖昧)
)
、店員との最小限
の会話の中で示せます。ここでの会話に、 沖縄色 (超ローカル色)が欲しいですね。
オバーは孫のお土産にパンをいくつかみつくろってレジに持って行きお金を払う。
1
オバー
「これ、もらおうね」
パン屋店員
「はいはい」
戦闘機の爆音が店内に響く。顔をしかめるオバー。
オバー
「最近、アメリカーの演習、増えてないねぇ?」
パン屋店員
「はっさ、だからよ」どういう意味?
オバーは、大袈裟な動作でロケット砲を構え、爆音のする方向に向けて戦闘機を撃ち落
とす真似をする。
(実際には武器は持っておらず)店員と顔を見合わせて笑う。
オバー
「もう毎日うるさいさぁ。
わったー家にロケットランチャーがあったら
バンみかして撃ち落とすんだけどね、あははは」
動作で見せているのに、更に台詞で説明しています。
現在の原稿では、ここがオバーの性格を示す最初のアクション。じゅうぶんに活用して
いますか?オバーの性格やアクションで観客がフックされるのが、
ここだと遅すぎます。
パン屋店員
「あははは。はい、ありがとうね」
支払いを終えて、シーサー印の紙袋に入ったパンを持って店から出る。
シーサーとは?特別なパン?もしそうなら、簡単な特徴が書かれていた方がいい。
○ 外)バス停
屋根付きバス停でベンチの真ん中に座るオバー。バス停の後ろにはウージ畑が広がって
いる。バスが到着し、乗り込む。
沖縄のプロダクションで、
実際にバスを借りるのって、
どのくらい難しい事でしょうか?
○ 内)バスの車内
オバーは一番前のシルバー席に座る。席に着いたオバーの後ろにシルバー席のマークが
見える。
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○ 外)道路
バスが道路を走る全景。道路にはヤシの木、その背景は青い海、青い空。
○ 外)孫の家
孫の家に到着したオバー。庭で遊んでいた幼稚園児の孫メーグーが、喜んで駆け寄って
来る。オバーはお土産のパンを手渡すと、飛び上がってはしゃぐ。オバーの手を引いて、
家の中に入る。シーンとして説明だけ。生きてない。
アクト1、長過ぎ。ここまでで既に事件(プロットポイント#1)が起きないと。
○ 外)朝焼け
別の日の朝。
鶏の鳴き声が戦闘機の音にかき消される。いずれも音声のみ。
音の使い方(オバーの悩み)を強調しているのはグッドです。振動まで入れて、オジー
の写真がカタカタ揺れれば、もっと強調出来る。
○ 外)オバーのウージ畑
オバーがウージ畑を手入れしている全景。
休憩して腰を伸ばしているオバーの前を軍服の男性米兵が一人で通りかかる。オバーは
足元の小石を拾って投げつけるが、ぜんぜん届かず、米兵も気づかない。
最初のシーンに入れましょう。オバーの性格をよく表しているアクションです。
○内)オバーの家
別の日の朝。
戦闘機の爆音でまた驚いて目覚めるオバー。怒って枕を天井に投げつける。
枕は天井に届かないが、
壁に飾ってあったオジーの写真がガタッ傾いて落ちそうになる。
驚くオバー。
愚鈍な繰り返し。住民が騒音に対して怒っている事は、ある程度誰もが知っているステ
レオ・タイプなので。
オバー
「あげっ、オジーも怒ってるのかね ?」
カレンダーをめくると、メーグーがクレヨンで手書きの誕生日ケーキの絵。手を叩いて
喜ぶオバー。
オバーは外出着でバッグを手に持って孫の家を目指して家から出発する。
紙面なら簡単に文章を省略出来ますが、映像にした時に、同じ日常の繰り返しを見せて
飽きさせないようにするには、それなりの工夫が必要になります。2回見せずに毎月イ
ベントのように情報が伝えられれば(台詞などで。でも、直接的に 説明 しては駄目
3
ですよ)
、オバーの日常は1回の流れでじゅうぶんです。
○ 内)近所のオモチャ屋さん
オバーはオモチャ屋さんに入って来る。若い女性の店員が迎える。オバーは孫のプレゼ
ントの熊のぬいぐるみを選んで買う。
オモチャ屋店員
「いらっしゃいませ」
オバー
「孫にプレゼント買いましょうね。これなんかいいんじゃない?」
オモチャ屋店員
「女の子でしたら、喜ぶと思いますよ」
この辺り、非常に工夫のない台詞ですよ。
店員は、大きめの紙袋に詰める。オバーはお金を払って店から出る。
○ 内)近所のパン屋さん
シーサー印のパン屋さんで、いつものパンをレジに持って行きお金を払うオバー。釣り
銭を受け取る間、シーサー印の紙袋を大きめの紙袋にまとめるため財布をレジ台に置く
オバー。財布を取るのを忘れて、そのまま店から去る。
先に全てを見せたら、全てが台無しです。
『ランチデート』で、黒人が別の席に着くのを
はじめに見せるようなもの。もう少し、ぼかしましょう。
○ 外)パン屋さんの入口
大きな紙袋とバッグを手に持って店から出るオバー。しばらくして普段着の白人米兵が
お店にやって来る。入口でお店の人と鉢合わせする。来客を店内に迎え入れてから、あ
わててお店の外に飛びだすパン屋の店員。オバーを探して、きょろきょろする店員。
オバーと白人の鉢合わせ、
いいシーンになるはずですよ。
もっと膨らませてみて下さい。
きょろきょろする店員は、いい セットアップ になるかも。
○ 外)バス停
オバーがバス停のいつものベンチの真ん中に座っている、さっきの米兵が無遠慮に隣に
座る。嫌な顔をして間を空けるオバー。
白人は袋を持っているが、オバーは気付かない訳ですよね。映像的にはいくらでも作り
込めますが、脚本上でも書き込む必要があります。はじめから先入観で、オバーがそっ
ぽを向いているとか(もし、パン屋の入口で鉢合わせしていたら尚更、そっぽを向きま
すよね)
。
4
バスが到着すると米兵がシーサー印のパン屋の紙袋を手に持って先に席を立つ。オバー
はその紙袋を見て、米兵の手から奪い返そうとする。米兵は驚き、そのパンを護ろうと
して奪い合いになる。
オバー
「うり、わーむんどー!(これは私のものだ)
」
米兵
Impossible uselessness and this are my bread.
(駄目、これは僕のパンだよ)
Hey, lady! What are you doin'? That's mine!
沖縄顔のバスの運転手が二人に声をかける。米兵が英語で答える。
説明してから台詞を書いていますよ。
運転手
「どうしました? 乗らないんですか?」
米兵
Okay! Wait a second. I’m ganna ride.
(オッケー、ちょっと待って、すぐ乗る)
米兵がパン袋を手にバスに乗り込む。続いてオバーが乗り込む。
○ 内)バスの車内
先に乗った米兵は、一番前のシルバー席に座る。怒ったオバーはシルバーシートのマー
クを指さして文句を言う。
オバー
「やー、うり、みーらんばー!(お前はこれが見えんのか!)
」
ジェスチャーで示せば、字幕はいらないでしょう。以下、英語の部分も含め、映像本編
では、字幕無しで通しましょう!「映像で物語を語る」
、の真骨頂です。
だが米兵にはまったく通じない。困ったポーズの米兵。
オバー
「エー、クマヤ、シルバーシート、ヤンドー、席ウチレー(ここはシルバー
シートだよ。席を移動しなさい)
」
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怒りで頭をかき乱すオバー。
運転手
「まあまあ、言葉が通じないからここは許して
」
オバーが運転手の顔を見ると、さっきの沖縄顔がなんと米兵の顔に変わっている。オバ
ーは運転手を突き飛ばす。
ははは、ヤスミンのクリップからのアイデアですね。でも、ここでは唐突すぎます。
オバー
「あんたまでアメリカーの味方ね!」
すると横から若い女性の笑い声。セーラー服を着たその女子高生の顔も米兵。
例えば、ヤンキー・ギャルが、白人に色目を使って見ている、とかだけでじゅうぶん。
オバー
「あんたもね!」
女子高生の胸ぐらを掴んで怒鳴るが、
ふとバス乗客の異変に気づいてバス全体を身渡す、
オバー。バス全体の映像。5 6人乗っている乗客は全員米兵の顔。全員同じ顔で笑い出
す。
ちょっと幼稚な方向に行ってしまいました。 いろいろなタイプの人 が白人(この状況)
にどのように反応するかはシーンとして非常に面白い。もっと人間味溢れる面白く簡潔
なエピソードを考えてみましょう。ここが膨らませどころです。前半の繰り返し部分を
カットすれば、その為の紙面はじゅうぶんにあります。
オバーは荷物を投げ出して、幼児のように床にひっくり返り手足をバタバタさせて喚き
散らす。
オバー
「ああああああ!!!!」
○外)バスの車窓と車内
一転してバスの車窓から、いつもの外の風景を見る穏やかな場面。沖縄の田舎の町並み
に青い海、青い空。バスの走行音。
○内)席にいるオバー
窓にもたれかかって寝ていたオバーが飛び起きる。途中から夢だった。
ここにメーグーが登場する夢を入れましょう。夢を見ながら、オバーがニヤニヤしてた
りして。オバーの気持ちが立ち直った所で、もう1発パンチ!
(立ち直りが早いのも、オバーの性格でしょう)
6
バスはやがてオバーの目的地のバス停に近づく。車窓の風景を見て、乗り過ごしそうだ
と気づいたオバーが慌てて停車ボタンを押すとチャイムが鳴り、バスが停車する。
バスの運賃箱の周辺
オバーが席を立ち、運賃箱まで歩いて行って、運賃を払おうとしてバックの中の財布を
捜すが見つからない。焦ってバックの中を引っ掻き回すオバー。
オバー
「チャースガヤー、財布ネーランサー(どうしよう財布が無い)
」
オバーの取り乱した様子を見て、運転手が近寄って声をかける。オバーはその顔を見て
驚く。説明してからの台詞。
運転手
「どうしました?」
オバー
「アイエーナー、
(あれまぁ)あんた顔が戻っているさ! なんでね?」
その声に驚いた運転手がバックミラーで自分の顔を確認する。
理屈では、ここで沖縄人の方が白人より冷たいと筋が通りますが、沖縄人に悪いかな?
(皆、知らんぷりするとか)
すると米兵が近づき、オバーの代わりにバス賃を運賃箱に入れる。運転手は振り向いて
その運賃を確認する。目を見張るオバーに、笑いながらシーサー印のパン袋を差し出す
米兵。
オバーはじめに彼のパンを奪い取っていて、ここで金だけ出してもらう方が自然かも。
そして、礼も言わずに去る。金とパンだと、かなり偽善っぽい?それを無にするオバー
は、もっと凄いですけど。どっちがいいかな?僕も悩みます。
○外)目的地のバス停
そのパンの袋を受け取ったオバーは礼も言わずに、さっさとバスから降りる。
バスから降りて歩道に立ったオバーは、バスの中の米兵を見る。米兵は親指を突き立て
て得意そうなポーズを見せる。大げさに顔をそむけて見せるオバー。バスは走り去る。
オバーはバックとプレゼントの入った大きな紙袋、米兵からもらったパン袋を持って立
っている。その後ろを乗って来たバスが走り去る。
荷物をまとめようとしたオバーは、大きな紙袋を覗いてみる。すると中にパン袋がある
ことを見つける。2つのパン袋を並べて持って目を丸くするオバー。
自分の勘違いに驚き、大笑いをする。
7
○黒バックにスタッフロール
エンディングは音声だけで展開する。
オバーが孫(メーグー)の家に到着したという情景。
音だけだともったいない。メーグーの笑顔が映像的にこの作品の良心にもなります。
孫(メーグー)
「あいっ、おばあちゃん!」
オバー
「はいはい、これ約束したプレゼントね」
メーグー
「ありがとう、わー、かわいいねー」
オバー
「それと、はい、いつものね」
メーグー
「あれっ、今日は2つもあるね、なんで?」
オバー
「なんでかね? オバーがチュラカーギー(美人)だからかね? あはは」
オバーの言葉の語尾に重なるように米軍戦闘機の飛び去る音。タイトル入る。
ここで見せるオバーの表情(リアクション)が、この作品の最終的な 解決 になりま
す。オバーは相変わらず顔をしかめるのか、そうでないのか?
それが彼女の キャラクター・アーク です。
メッセージ的には、沖縄の時事問題をもう少しだけ、さらっとかすめた感じが欲しいで
すね。そうすると作品に深みが出る。 風刺 の感覚です。どのような時事ネタが使えそ
うですか?今も昔もあるような沖縄の米軍基地問題ではなく、そのサブジェクト(題材)
に関する、2011年の今ネタは何ですか?
その辺にいいアイデアが欲しいのと同時に、何か後半にもうひとひねり、ストーリー的
なひねりが欲しいですね。
アレクサンダー・ペイン監督の作品のようなちょっと辛口の演出やアイデアが欲しい気
がします。僕のクラスの教材でもある『ハイスクール白書』や、
『アバウト・シュミッツ』
『サイド・ウェイ』などの映画のユーモア感が参考になりますよ。
引き続き、がんばりましょう!
やす
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