勝利の女神だね 小さなピカソたちの夢ー本当にあった話だよー ちい おんな こ 小 さな 女 の 子 だった。 う ね 生 まれてからずっと 寝 たきりである。 かあ いっしょうけんめい おんな こ せ わ お 母 さんは 一 生 懸 命 に 女 の 子 の 世 話 をするけれど、 つか は ときどき 疲 れ 果 ててしまう。 くるま お ある 車 いすを 押 して 歩 いていると、 み ジロジロ 見 られる。 あいじょう た 「愛 情 が 足 りないから こ しょうがい よ 子 どもの 障 害 がなかなか 良 くならない」 しん い と 親 せきに 言 われる。 わたし むすめ よ き もう、 私 も 娘 もこの 世 から 消 えてなくなりたい…… おも の う り な ん ど そんな 思 いが 脳 裏 をかすめていくことが 何 度 かあった。 だれ し 誰 にも 知 られないようにしていたけれど。 にい お 兄 ちゃんはやさしくて、 おも つ かあ せ な か 思 い 詰 めたお 母 さんの 背 中 をさすってくれた。 かあ ぼく 「だいじょうぶだよ。お 母 さん。僕 がついている」 やさ なん かあ ささ その 優 しさに 何 とかお 母 さんは 支 えられて、 おも しょうがい むすめ かか い 重 い 障 害 のある 娘 を 抱 えてここまで 生 きてきた。 にい ときどき ちい こえ ねが そのお 兄 ちゃんが 時 々、小 さな 声 でお 願 いをする。 がっこう いもうと つ 「学 校 にだけは( 妹 を)連 れてこないでね」 こ じ さ つ か く ち あ い つ いじめによる 子 どもの 自 殺 も 各 地 で 相 次 いでいる。 がっこう こ しゃかい い たいへん 学 校 という 子 ども 社 会 で 生 きていくのは 大 変 だ。 おも しょうがい いもうと み もしも 重 い 障 害 の 妹 を 見 られたら、 ひ たいしょう いじめや 冷 やかしの 対 象 になるかもしれないと しんぱい 心 配 だったのだろうか。 かあ にい き も いた お 母 さんはお 兄 ちゃんの 気 持 ちが 痛 いほどわかる。 つ あんしん 「そうだね。連 れていかないから 安 心 して」 い かあ そう 言 いながらお 母 さんは、 むすめ にい がっこう 娘 がお 兄 ちゃんの 学 校 ではいないことにされている、 かん ということにさみしさを 感 じていた。 かあ き も にい お 母 さんは、その 気 持 ちをお 兄 ちゃんに き ひ っ し 気 づかれないように 必 死 だった。 かあ いもうと ふ び ん お 母 さんは 妹 が 不 憫 でしかたがなかった。 おも しょうがい こ い たしかに 重 い 障 害 はある。だけど、この 子 は 生 きている。 そんざい 存 在 していないことにしなくたっていいじゃないか。 ひ ろくねんせい にい ある 日 、六 年 生 になったお 兄 ちゃんが せんしゅ えら ソフトボールの 選 手 に 選 ばれた。 だいじょうぶ おも もうそろそろ 大 丈 夫 じゃないかと 思 い、 いもうと あに かつやく すがた み かあ けっしん かた 妹 にも 兄 の 活 躍 する 姿 を 見 せたくて、お 母 さんは 決 心 を 固 めた。 くるま いもうと の がっこう おうえん い 車 いすに 妹 を 乗 せて 学 校 へと 応 援 に 行 った。 にい き も かんが お 兄 ちゃんの 気 持 ちを 考 えて、 かく おうえん 隠 れるようにして 応 援 していたのだけれど。 かあ き も てん とど そんなお 母 さんの 気 持 ちが 天 に 届 いたのか、 にい か お 兄 ちゃんのチームは 勝 った。 にい 「お 兄 ちゃん、がんばったね」。 かあ いもうと くるま お かえ お 母 さんが 妹 の 車 いすを 押 して 帰 ろうとしたときだった。 き チームメイトたちのざわめきが 聞 こえてきた。 くるま おんな こ だれ 「あの 車 いすの 女 の 子 はいったい 誰 だ?」 いっしょ ひと かあ 「一 緒 にいる 人 は、あいつのお 母 さんじゃないか?」 いもうと 「あれ? あいつに 妹 なんていたのか?」 こ ちか 子 どもたちはだんだん 近 づいてくる。 き つ 気 が 付 いたときには、 かあ いもうと こ かこ お 母 さんと 妹 は 子 どもたちに 囲 まれていた。 くるま なか ちい おんな こ 車 いすの 中 の 小 さな 女 の 子 に、 にい どうきゅうせい し せ ん そそ お 兄 ちゃんの 同 級 生 たちの 視 線 が 注 がれる。 かあ しんぞう こ ど う き お 母 さんの 心 臓 の 鼓 動 が 聞 こえてきそうだ。 がっこう い 「学 校 にだけはつれてこないでね」と 言 われていたのに……。 み こ なんにん そのとき、じーっと 見 ていた 子 どもたちの 何 人 かが て いもうと あたま な い 手 をのばして、妹 の 頭 を 撫 でて 言 ったという。 しょうり め が み 「勝 利 の 女 神 だね」 こ おうえん か 「ぼくたちはこの 子 が 応 援 してくれたから 勝 てたんだよね」 「そうだよ、そうだよ」 しょうり め が み 「勝 利 の 女 神 だよ。ありがとう」 こ なんで 子 どもたちはそんなことをしたのだろうか。 いもうと かく おも 妹 を 隠 さなければいけないと 思 っている にい き も こ つた お 兄 ちゃんの 気 持 ちが、まわりの 子 どもたちに 伝 わり、 おも なんとかしてあげなきゃと 思 ったにちがいない。 だいじょうぶ き も しかし、どうやって「大 丈 夫 だよ」という 気 持 ちを つた いもうと み き 伝 えていいのかわからず、妹 を 見 に 来 たんだ、きっと。 ちょっかんてき あたま な しょうり め が み そして、直 感 的 に 頭 を 撫 でて「勝 利 の 女 神 だね」なんて こ と ば で 言 葉 が 出 てきたのかもしれない。 いま こ い ちから き は く い 今 の 子 どもたちは「生 きる 力 が 希 薄 だ」と 言 われている。 じ さ つ あ い つ いじめによる 自 殺 が 相 次 いでいる。 ふ と う こ う ひ 不 登 校、引 きこもり、リストカット、ニート……、 いきぐる げんじつ なか 息 苦 しい 現 実 の 中 でもがいている こ すがた おも う 子 どもたちの 姿 が 思 い 浮 かぶようだ。 い ちから なん いったい、生 きる 力 とは 何 なのだろうか。 おな じ だ い いた かな おな ち い き い な か ま 同 じ 時 代、同 じ 地 域 で 生 きている 仲 間 どうしが、 ふ あ こころ なか かね ひび あ 痛 みや 悲 しみに 触 れ 合 って、 心 の 中 の 鐘 が 響 き 合 い、 なか じ ぶ ん そんざいかん そういう 中 で 自 分 の 存 在 感 をしっかりつかんでいく。 あ い て そんざいかん みと 相 手 の 存 在 感 も 認 める。 たが じ ぶ ん じ し ん こうてい そうやってお 互 いに 自 分 自 身 を 肯 定 し、 あい 愛 していくことができるのではないだろうか。 たいけん こ い ちから そういう 体 験 が 子 どもたちの 生 きる 力 をはぐくんでいく えいようぶん 栄 養 分 になるのではないのだろうか。 とき にい その 時 、お 兄 ちゃんがどこにいて、 かお かあ どんな 顔 をしていたのか、お 母 さんはおぼえていない。 なみだ み 涙 でかすんで 見 えなかったから。 この 絵 本 の 作 品・作 家 「オレンジたくちゃん」 「星空のカーニバル」 「私の心の形」 富山県高岡養護学校中等部 3 年 北九州市立小倉南特別支援学校高等部 2 年 宮崎県立赤江まつばら支援学校高等部 3 年 金田 拓也 大場 勇也 渡部 智穂 「風車と犬」 「みてみて〜いっぱいとれたよ♡」 「ナウマンゾウとぼく」 北海道白樺高等養護学校 3 学年 茨城県立北茨城養護学校小学部 3 年 長野ろう学校中学部 3 年 北俣 利奈 豊田 翼 宮澤 鴻生 発行元 NPO法人 Pand A -J 東京都千代田区飯田橋2−7−1 三政ビル2階 PandA−J研究所 「ぼくのあじさい」 「ハンモックゆらゆら」 「ねこさんとダンス」 埼玉県立春日部特別支援学校高等部2年 北海道南幌養護学校高等部 2 年生 静岡県立富士特別支援学校 中学部B課程2年 松本 和樹 西村 卓也 早房 洋佳 URL:www.panda-j.com
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