KPM成功事例詳細紹介 第5回:株式会社北海道アルバイト情報社様

KPM成功事例詳細紹介
第5回:株式会社北海道アルバイト情報社様
1.HAJの待ったなしの出版印刷
株式会社北海道アルバイト情報社様(村井俊朗社長、北海道札幌市、略称「HAJ」)は、
「求職者や
求人企業のニーズや地域性をもとに様々な視点からの総合求人情報誌(「アルバイト北海道」
「クルー」
「40歳からの仕事」など多数)を制作・発行している」情報出版社です。(図1)
図1.社屋概観と発行情報誌の一部
最も新しい求人情報を定期刊行物として北海道全域に発信し続けなければならないため、印刷機械
の突発停止は企業の根幹を揺るがす事態となります。単なる「印刷会社の機械」というのではなく、
「出版社の印刷部門」という認識が大前提であり、待ったなしの印刷=出版を受け持つ責任重大の部
門なのです。
印刷事業部はMISによって工程管理されています。1日数十台単位で処理される入稿、下版、C
TP出力、印刷、製本、出荷までのタイムスケジュールがすべて
何時何分単位で計画=管理されて
います。印刷は何時何分から何時何分までに刷了と細かに決められているのです。それもそのはずで
す。入口の入稿最終締め切りと、出口のトラック出発時間がきめられているのだからです。この限ら
れた時間内に情報誌を作らなければならないため、分単位の管理が必要になっているのです。
つまり小森製の輪転機2台(うち1台は旧東芝製)・枚葉機2台の全4台は、常に安定稼動が義務
付けられているのです。そのために、予防保全に積極的に取り組んでいるのです。(図2)
図2.HAJ印刷製本工場の皆様。前列中央が三野義明工場長様
2.安定稼動する4台の機械
図3は修理履歴表です。
06年8月から07年7月の修理件数を見ますとと、L426は0回、L440は1回、OA―4
A1Yは2回、LR438は2回、4台合計でわずか5回です。主力機であるLR438は突発故障
が2回ありましたが、それぞれ修理時間はわずか1時間(合計2時間)でした。ほぼ4台とも、故障
修理による停止のない安定稼動をしていると言ってよいでしょう。
図3.修理履歴表
特にメインとなる輪転機2台は、小森による「年次点検」を2年前から定期化し、安定稼動を図っ
ているのがわかるでしょう。また、L426とOA―4A1Y(以下「A1Y」と略)は機械納入後
11年目、12年目となっていますが、4年前・3年前と比較すると修理件数が激減していることが
わかります。機械は古くなってきているのに、修理が減っているのです。
この安定稼動を支えているものこそ、現場メンバーの創意工夫に満ち満ちた、日々のメンテナンス
活動に他なりません。
3.わかりやすく具体的な日々のメンテナンス
自社製チェックシートを使った日次保全
主力機であるLR438S(A横全判輪転機)(以下「S38」と略す)の例を紹介しましょう。
メンテナンス項目は、毎日、毎週、毎月、3ヶ月、6ヶ月、1年というサイクル毎にチェックシート
が作られています。
図4は毎日のものですが、6日間分が1枚になっているのは、項目が曜日によって多少異なるため
です。折機・クーリング/ドラッグ・ユニット・給紙・コンプレッサー・電流計・付帯設備・加湿器
をベースに、水曜日はユニットのセンサーとドライヤーなど2項目が追加され、土曜日は3項目が追
加されています。しかも、何を持ってOKとするのか判断基準が簡潔に書かれているのです。
数値や具体的な動きを判断基準とすることは、非常に重要であり有効です。チェックするメンバー
による知識や技術の違い、ある時にはその日の調子や気分などによって、判断が異なっては困るから
です。同時にこの判断基準に基づく日々の保全は、標準的な機械技術=印刷技術の体得ともなります
ので、有効です。
場所
折機
月 日( 土 )曜 記入者
項目
・元エアー圧確認(0.55MPa±0.05)
・グリース給配装置インジケーターピンの飛び出し
・オイルフィルターのハンドル操作 クーリング/ド ・冷却部ロータリージョイントの水漏れの有無
ラッグ
・冷却部冷却水温度(安定時20℃以下)
・ロータリージョイントの水漏れ
ユニット ・冷却水温度(27℃前後)
・オイルフィルターのハンドル操作 ・給紙、インフィード 元圧確認(0.55MPa±0.05)
給紙
コンプレッサー ・吐出温度(83℃以下)
A/ 回転
電流計
・H液量確認
・シリコンアプリケーター液量確認
付帯設備
・ウェブガイドセンサー清掃 2ヶ所 (刷了後)
(インフィード、クーリング)
加湿器
・コンプレッサー点検
吐出温度(100℃以下)
図4.S38の日次チェックシート
月
日( 土 )曜
場所
記入者
項目
クーリング/ ・冷却部ロータリージョイントの水漏れの有無
ドラッグ ・冷却部冷却水温度(安定時 13℃以下)
ユニット
・ロータリージョイントの水漏れ
・冷却水温度(27℃前後)
コンプレッサー ・吐出温度(83℃以下)
・H 液量確認
付帯設備
・シリコンアプリケーター液量確認
・EPC センサー清掃(2 ヶ所)
図5.A1Yの日次チェックシート
さらに12年目のA1Y輪転機の毎日のもの(図5)は、S38と内容が異ります。「古くなれば
項目が増えるのではないか」と思われるのが自然でしょう。しかし項目は少ないのです。なぜでしょ
うか。まず機械の構成上の違いや性能や状態、品質の要求レベルなどが異なります。そればかりでは
ありません。現場メンバーの経験や技術の違いなども総合的に判断して、もっとも現実的なものを選
択しているのです。
この様な、文字どおり「現場」から出発した具体的な項目こそ、最も効果があるのです。
アルバイトを使った保全の役割分担
毎週・毎月の項目は、多岐にわたるため、その内容の難易度や現場メンバーの職務内容などから、役
割分担しています。図6の上段・2段はオペレータのやる項目ですが、下段の清掃や整理・整頓はア
ルバイトにやってもらう項目になっています。
アルバイト用は図7にあるように、実施項目を毎日、週2回、週1回、毎月単位にして、S38、
A1Y共通、個別機械事に分けています。内容は掃除や整理整頓にかかわる「5S」の項目です。そ
の場合、誰でも出来るように具体的なレベルまで項目を落とし込み、その報告を義務付けています。
項目の内容とその注意事項をじっくり読めば、保全活動をするメンバーの具体的イメージがわいてく
るでしょう。何を考え、何をどう保全しているかが、手に取るようにわかるはずです。
筆者の経験から言いますと、チェックシートや指示書などを読んで、具体的な活動がイメージとし
てわいてこないようでは、魂の入っていない形式的なおざなりのものに堕しているケースが多いです。
この具体性こそ、“現場全体”を“現場全員”でメンテナンスするのだという、熱意と仕組みのすば
らしさを証明していると筆者は思います。
S38メンテナンスチェックシート
12月
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
1
2
3
4
5
3日
7日
10日 14日 17日 21日 24日 28日
(土) (水) (土) (水) (土) (水) (土) (水)
記入者 記入者 記入者 記入者 記入者 記入者 記入者 記入者
毎週土曜日必ず行って下さい
メンテシートにて調整箇所を確認し調整
版の排版
APCガイド清掃
べアラーワイパー給油
安全バー清掃
Pローラーインキかす清掃
折機型替
ファンナウトローラー清掃
チョッパーテーブル周りのインキ付着
インキ供給センサー清掃
センサー類(ウェブ、耳端、チャック、糊位置、
ペースト位置、新巻取、バタツキ)
水曜日はオレンジの部分だけ(時間に余裕がある時は、月1のメニューも行って下さい)
3日
7日
10日 14日 17日
(土) (水) (土) (水) (土)
月1で必ず行って下さい
記入者 記入者 記入者 記入者 記入者
インキ壺清掃(メンテシートの日付を更新して下さい)
インキ壺受け皿清掃
ベアラーワイパー交換
折機清掃
水舟水位センサー清掃
紙切れ検知機センサーの清掃
クーリングローラーの表面の清掃
集中グリスポンプ
(3箇所)0番
給紙部
(10箇所)0番
調量ローラー
(各2箇所)0番
ロータリージョイント (10箇所)2番
ニッピング・縦ミシン (4箇所)2番
8? 12はグリスアップです
3日
7日
10日 14日 17日
(土) (水) (土) (水) (土)
アルバイトさんに指示を出し行ってもらって下さい 記入者 記入者 記入者 記入者 記入者
インキヘラの清掃
工場内床の清掃
棚の補充(洗い油、オイル、両面テープなど)
納品物を棚に納める
ブラン洗浄の洗い油、紙粉クリーナーの補充
巻取りを動かすレールの清掃
月1
給紙部リフター内の清掃
月1
ドライヤーのフィルター清掃
週1
コンプレッサーフィルター清掃
週1
配電盤・シリコン水槽フィルター清掃
週1
フォーマー部ステップ上の掃き清掃
月1
ユニット内掃き清掃
月1
機械裏の床清掃
月1
グリーンの部分は水、土曜日必ず行う
3日
7日
10日 14日 17日
(土) (水) (土) (水) (土)
ラジュ、白書、アパマンの前日に必ず行って下さい 記入者 記入者 記入者 記入者 記入者
ドライヤーフード内のインキかす清掃
ブランケットの880幅の紙粉
フォーマーテフロン確認
折機内880幅の紙粉
チョッパーテーブル周りのインキ付着
図6.週次・月次チェックシート
<注>OP:オペレータの略です
毎土曜日OP実施
21日 24日 28日
(水) (土) (水)
記入者 記入者 記入者
毎月1回OP実施
21日 24日 28日
(水) (土) (水)
記入者 記入者 記入者
アルバイト実施
21日 24日 28日
(水) (土) (水)
記入者 記入者 記入者
定期刊行物前実施
メンテナンスチェックシート
4日
4月
7日 11日 14日 18日 21日 25日 28日
(水) (土) (水) (土) (水) (土) (水) (土)
38 A1 38 A1 38 A1 38 A1 38 A1 38 A1 38 A1 38 A1 38 A1
作業が終了したら社員に報告して下さい
1 インキヘラの清掃
水、土 共通
2 工場内床の清掃
水、土 共通
3 スタバンの清掃
水、土 共通
4 棚の補充(洗い油、オイル、両面テープな 水、土 共通
5 納品物を棚に納める
水、土 共通
6 ブラン洗浄の洗い油、紙粉クリーナーの補充
水、土 共通
7 さいらくを縛りパレットに積む
水、土 共通
8 ごみ箱のゴミを捨てる
水、土 共通
アルバイト実施
9 ヤレのパレットとカゴを指定した場所に置 水、土 共通
10 キクパレットの補充(製本から)
水、土 共通
11 ペースタワンプを捨てる
水、土 共通
12 洗浄布の組み換え
水、土 共通
13 枚葉のゴミ捨て
水、土 共通
14 枚葉のモップがけ
水、土 共通
15 版曲げの版カスの清掃
共通
水、土 共通
水、土 共通
16 ウェスを切って補充
17 軍手の洗濯
毎日
18 機械室コンプレッサー(水洗い)※1、2 水、土
19 コンプレッサーフィルター清掃
週1
20 ドライヤー、ブロアのフィルター清掃
週1
21 配電盤・シリコン水槽フィルター清掃
週1
22 品検装置のフィ(エアーで吹く)
週1
23 戻りの水槽フィルター交換
週1
24 巻取りを動かすレールの清掃
月1
25 給紙部リフター内の清掃
月1
26 フォーマー部ステップ上の掃き清掃
月1
27 ユニット内掃き清掃
月1
28 機械裏の床清掃
月1
29 ドライヤー、ブロア、主モータのフィルター月1
※1 円筒フィルター(週1)をやったら、名前を
※2 温度が99℃を超えたら、報告
図7.アルバイト用チェックシート
共通
S38
S38
S38
A1Y
共通
共通
共通
共通
共通
A1Y
■週2回
■週1回
■月1回
4.自社開発した保全ソフト
交換スパン設定によるシグナル発信
図8はPCの画面を写したものです。
図8.管理ソフトPC画面
図9.管理ソフト画面の抜粋
ブランケット、水着ローラー、調量ローラー、インキローラーの交換管理ソフト画面です。ソフト
はEXCELベースでつくられています。4色の輪転機であるため、まず墨藍赤黄の4色に区分し、
更に上部下部に区分されています。つまり1項目ごとに8箇所を管理するようになっています。
それぞれには、まず交換スパンが設定されています。交換した日付を入力すると自動的に時計が経
過日数を刻み、交換時期が近づくと黄色の文字になり、交換期間を過ぎると赤字となり、ポップアッ
プ画面で警告を発するのです。ここでは「2色目上部の調量ローラーが交換時期です」とポップアッ
プされています。
その他にも折機部品・水装置・オイル等の部品交換管理やローラーの調整等々の管理は、EXCE
Lの他のSHEETを開くことによって見ることが出来ます。図9はその一部です。この様に交換や
調整しなければならない多数の項目を、全て網羅しスパン管理していこうとしているのです。
その場合、交換スパンの暫定設定や設定検証中の項目を作り、自社にあった本当の交換スパンをき
めようとしています。図9で説明するならば、茶色の数字は暫定スパンを表しています。テフロンテ
ープの交換スパンを例にとれば180日となっていますが、既に356日経過しており赤字となって
います。交換を怠足り放置しているわけではありません。メーカーや資材などからの一般的寿命リス
トや経験から、この交換スパンは暫定設定されているのですが、それは使用状況や環境など多岐の要
素によって異なってきます。HAJで稼動するS38の本当の、最も確実な交換スパンは一体いつな
のかを、常に検証しているのです。そして、管理ソフトにフィードバックしているのです。
「育てていく」ことがHAJの強さ
HAJにおいては、日常保全の内容にしろ保全ソフトにしろ、完成されたものは一つもありません。
常に機械稼動状況、保全や清掃の状態、オペレータの意識や技術、つまり「現場状況」に踏まえて、
常に改善が図られているのだからです。
このことについて、この管理ソフトを開発した林智仁輪転チームリーダーはこう語っています。
「みんながやる気をなくして、赤字警告を無視したり、手抜きになっては元もこもありません。い
っしょに育てていくのです。」と(図 10)。
現場状況を常に見据え、それを変えながら、絶え間ない改善活動で「育てていく」、ここにHAJ
の最大の特徴と強さがあると筆者は思います。
図10.KOMORIマンから指導を受ける林智仁リーダー(左)
5.作業ロスの低減・品質の安定の要因分析と対策
作業ロス分析
絶え間ない改善活動という特徴は、作業ロスの削減においても発揮されています。
図11はその系統図の一部です。まず「汚れ、版キズ、色調不良、ヒッキー、ブラン残り、折りズ
レ、見当不良など」の印刷障害や、「スタバントラブル、刷良時ペースター、断紙、折機詰まり、A
PC失敗、機械調整など」の機械不具合を抽出します。それを「材料による要因、機械的な要因、オ
ペレーション技術の要因、その他要因」に分類し、それらを更に、「要因」→「トラブルロス内容」
→「理由」→「対策」と深めていくのです。
図11.作業ロス要因系統図(一部)
この様な系統分析を基礎にしながら、更に具体的な「トラブル内容」の分析を進めていきます。
たとえば、APC失敗という「トラブル内容」に対しては、「APCが失敗したら→自己診断画面で
失敗箇所の確認→履歴ボタン→エラー履歴ボタン→失敗の詳細確認」を、オペレータに義務づけまし
た。その情報をもとに「エラー表示の分類→原因→対処法詳細→対処の流れ」を作成し、作業ロスの
削減を図っているのです。
品質の安定
「品質の安定」に対する解消の手法も同様です。
前提として、基準濃度とドットゲインの設定とその測定を実施しています。これは、全機で200
4年度から継続的に行われています。
この前提の上に、次のように要因分析がなされています。「HAJ設備に対応した材料(インキ・
用紙・ブランケット)・標準化された技術力」とまず4つに分け、それぞれの具体的な要因と対策を
分析しています。
たとえば、「インキ」については、要因を「紙剥け、紙粉堆積、図柄の再現性の向上、インキのセ
ット性」と分析し、その対策として「表面化工の適正化→再生上質の平滑度アップ、紙面温度の適正
→用紙保全方法の検討」を導き出しています。ここでも、具体的な次元にまで問題を落としこんでい
るのです。
こうした具体的で地道な活動を現場から積み上げていくという特徴は、“企業風土”となっている
といえるでありましょう。
6.HAJのオペレータの“職務”とは?
この様な現場の取り組みについて、「昨年までは保全は特殊なことでしたが、今年からは一般業務の
一つです。」と、三野義明工場長は評価されています。
更に保全に取り組む姿勢について次のように語っています。「機械の省力化・自動化が進む中、機
械に触れることもなく、良い製品が短時間にできるようになりましたが、そこまで機械がやってくれ
るのは、使う側の高度な機械管理が出来ていればのことです。オペレータの“職務”とは機械を回す
ことだけではなく、機械管理・保全が出来ることが必要なのです。たとえばチェックシートは保全の
手段でしかなく、習慣づけが出来ればシートがなくても自ずと意識し目視や測定が自然とできるよう
になるでしょう。これが目標です。
」と。
今後は、「過去のブッシュ・メタルの機械(四六半裁単色機、B2単色輪転機、2色輪転機)での
保全や機械の扱い方の教訓まで含めた保全技術力や、印刷や製本用語などの印刷知識技術力の、共有
をもはかっていきたい」と抱負を語っています。
オペレータの保全活動と技術力の向上を、人材育成の視点から“オペレータの職務とは何か”まで
踏み込んで作り上げようとしている株式会社北海道アルバイト情報社様。「みんなで育てていく」と
いう自主性と自走の“企業風土”が有る限り、北海道の大地のような存在で有り続けるでありましょ
うし、停滞など無縁の言葉となるでしょう。
文責:予防保全チーフアドバイザー
川名
茂樹
なお本稿は、
『印刷雑誌』
(日本印刷学界機関誌、印刷学会出版部発行)2008 年 1 月号「続・印刷
現場の予防保全」連載第1回、の内容と同等のものです。