レスキュー3ジャパンロープレスキュー講習会 記 Ima 私は2008年3月21日∼23日の3日間、広島県呉市の大空山青年の家で行われたレスキュー3 ジャパンのロープレスキュー講習会を受講しました。この講習会は最近注目されている都市型災害にお ける組織救助(チームレスキュー)に重点が置かれており、講習会参加者をみても私以外は消防レスキ ュー隊(俗に言う オレンジ )の精鋭が占めていました。 ちなみにこのレスキュー3とはアメリカ合衆国に本部を置く緊急救助活動に関わる民間団体の名称で、 レスキュー分野で優れた能力のある3名により創立されたことにちなんで「3」と名付けられた、とい う他に「川」 「空」 「陸」の3つの分野におけるレスキュー活動という意味も持ち合わせております。 この講習会で学ぶ救助法は都市型災害に焦点を当てているため、使用する資器材(ロープ、カラビナ、 下降器を含む救助装備品の総称)が山岳救助とは少々異なるところもありますが、2日目のアンカー補 強法までの内容が参考になるかと思いますので、ご紹介したいと思います。 3日間のプログラムについて 講習初日(9:30∼20:30) ・午前(屋内で座学) ロープの構造と特性、ロープワーク ・午後(屋外で実習) アンカー構築法(ラップスリー・プルツーアンカー、ノーノットアンカー) 分散荷重アンカー(流動分散、独立分散) 下降システム⇔上昇システムへの迅速移行(ホットチェンジ法) 倍力効果(メカニカルアドバンテージシステム) ・夕食後から20:30まで(屋内で座学) 装備品の構造と特性 2日目(8:00∼21:00) ・午前・午後とも屋外で実習 アンカー補強法(アンカーサブバックタイ) ストレッチャーのラッシング法 急斜面での救助システム構築 垂直壁での上昇及び下降 ・夕食後から21時まで レスキュー哲学 最終日(8:00∼17:00) ・午前・午後とも体育館で実習 垂直壁での救助システム構築 ハイライン(チロリアン)システム構築 非常階段における救助システム構築 ペーパーテスト ・ロープの特性 日本の消防救助隊とアメリカの消防救助隊の使用ロープの違いから始まり、それぞれのロープの 構造、融点、限界静荷重、メンテナンスのやり方等を行った。その他下記のことを学んだ。 ※ちなみに日本の消防救助隊では三つ撚りロープを使用しているが、スタティックロープに順次変 更しつつあるとのこと。 1 使用したロープにはログをつける。 (使用回数、最終使用日などを記録) 2 システムを構築する場合においてメインラインは青、ビレイラインは赤・・という具合にすべて 違う色のロープでシステムを構築する。 (システムのオペレートミスの防止につながる。 ) 3 ビレイラインの余長について、余長がない場合に落下した場合は2倍の荷重となるが、1mの余 長がある場合には7.5倍の荷重がかかる。 4 エイトノットは他のタイインノットに比べて強度の低下が少なく20%の強度低下で済む。 5 プルージックでの保持荷重は900kg∼1200kgとされ、それ以上の荷重が加わると、プ ルージックが滑り出す。 6 フリクションノットに使用されるロープ径はメインロープ径の60%から70%の太さのロープ を使用するのが良い。 7 デイジーチェーンに100kgの重りをつなげ1m落下させた場合、デイジーチェーンのループ の縫い目が次々に破れることが実験でわかった。したがって、救助の際にレスキュアーと要救助 者をつなぐ振り分け救助システムには向いていない。 ロープワークはエイトノット、ボーラインノット、バタフライノット等の山岳ではごく一般的なもの であった。 ・アンカー構築法、負荷分散アンカー、ホットチェンジ法、倍力効果 1 ラップスリー・プルツーアンカー テープスリングを立ち木等に3回巻き、エンドをテープベンドで結ぶ。この3巻きのうち結び目を除い た2巻きにカラビナをかけアンカーとする。注意する点として画像のように結び目の向きを荷重のかか る方向と合わせることにより、結び目にかかる荷重をほとんどゼロにすることができる。ラップ3プル 2法でアンカーシステムを構築した場合、2本のテープスリングに荷重をかけることになるため荷重強 度が2倍となる。 2 ノーノットアンカー ロープを立ち木等に4∼5回巻き付けるだけで、その名のとおりアンカー構築のためのノット(結び 目)がない。巻き付けだけではエンドから解けてくるため、エンド処理としてエイトノットやボーライ ンノットを作り画像のように処理するだけである。特にロープワークの技術を求めるものではないため シンプルであるが、アンカーとなる立ち木に4∼5回巻き付けることによりアンカーとしての機能を発 揮するためロープ長に余裕がある場合に有効な手段である。 3 分散荷重アンカー(流動分散、独立分散) 流動分散(セルフ・イコライジングアンカー)は引っ張る方向に関わらず、常に両方のスリングにほぼ 均等に荷重がかかるアンカーでダイナミックロープによるレスキューシステムに適している。 4 ダブルフィキュアエイトループを利用した流動分散アンカー 5 独立分散(ロード・シェアリングアンカー) 荷重分散を2方向とした場合において、2本のスリングを用いて均等に荷重を支えるアンカーであるが、 システムの構成上Y字荷重となるため、安全環付きカラビナであっても荷重強度が低下する。したがっ て、スクリューリンクを使用してシステムを構築するのが望ましい。 ・下降システム⇔上昇システムへの迅速移行(ホットチェンジ法) 転落または滑落した場合においてはできるだけ迅速な要救助者のピックアップが求められる。その際 にレスキュアーを下降させ要救助者を確保し、再び上昇という作業を行うことになるが、その下降シス テムから上昇システムまたはその反対のシステム構築をできるだけ短時間に行う場合に有効なシステム である。 下降システムにはブレーキバーラックを通したメインロープがあり、マリナーノットで構成されたロ ードリリース・ストラップにはメインラインに巻き付けられたプルージックとプーリーが連結されてい る。このシステムにより安全に下降することができる。 この下降システムから上昇システムに変えるためにはブレーキバーラックにかかっている荷重をメイ ンロープに取っているプルージックに荷重を移し、ブレーキバーラックをシステムより切り離し、ロー ドリリース・ストラップに連結されているプーリーにロープを通す。これにより上昇システム(メカニ カルアドバンテージシステム)を構築し、引き揚げる。 この右画像はプーリーの代わりにカ ラビナを使用してホットチェンジシス テムを構築したものである。黄色のスリ ングに連結されているカラビナにはブ レーキバーラックの代わりにムンター ヒッチによるディスタンスブレーキシ ステムを構築している。 ムンターヒッチを構築しているカラ ビナをカラビナ1、アンカーからオレン ジ色のロードリリース・ストラップに連 結されている緑色のプルージックをプ ルージック1、メインロープに取ってい るフリーの緑色のプルージックをプル ージック2(手前側) 、プルージック2に連結されているカラビナをカラビナ2とする。プルージック2 は上昇システム(3:1)への構築を迅速化するためにあらかじめセットしておく。 ・上昇システムへの移行 黄色のスリングに連結されたカラビナのムンターヒッチをシステムから切り離すために、ロードリリー ス・ストラップに連結したプルージック1に荷重を移し、ムンターヒッチを解除後、カラビナ1にメイ ンロープを通し、プルージック2とカラビナ2を使用した3倍力による上昇システムを構築する。上昇 システムの構築が完了したら、ロードリリース・ストラップを緩めプルージック1にかかっていた荷重 を解き、上昇システムへの移行が終了する。 ・上昇システムから再び下降システムへの移行 カラビナ1にかかっていた荷重をロードリリース・ストラップに連結したプルージック1に荷重を移し、 カラビナ1にムンターヒッチによるディスタンスブレーキシステムを構築後、ロードリリース・ストラ ップを緩めプルージック1にかかっていた荷重をカラビナ1に移すことで、再び下降システムが構築さ れる。 ・装備品の構造と特性 救助で使用する装備品は一般的に山岳で使用される装備品よりもかなり大型で頑丈であるが、その分 重量もある。(カラビナはスチール製で耐荷重は40KN以上である。)主な装備品については下記のと おりである。 1 エイトカン (1)使用中にロープにねじれが生じる傾向がある (2)45m以上のラペリングではコントロールが難しくなる (3)ロープセット後に摩擦を高めることは困難である。 2 ブレーキバー・ラック (1)摩擦のコントロールレベルを変えることが可能 である。 (2)ロープにねじれが発生しない。 (3)エイトカンに比べて強い摩擦を加えることが可 能である。 3 プーリー (1)屈折部での摩擦を減少させる目的で使用される。したがって、屈折部でのロープ強度の低下を 最小限にすることが可能である。 (2)ロープ直径の4倍の直径のプーリーを使用すればロープの強度は完全に維持される。 100kgの重りを引き上げる時の荷重は使用するプーリーにより次のようになる。 ロープ直径の4倍径のプーリーでのロスは10%(110kgの荷重) ロープ直径の8倍径のプーリーでのロスは0% カラビナの場合は50%のロスとなる。 (150kgの荷重) (3)ウェイビング(テープスリング) テープ幅25mm、耐荷重20KNのチューブタイプのテープスリングである。 FEMA(連邦危機管理庁)規格でウェイビングの色と長さが決まっている。 (黄色:3.6m 青:4.5m オレンジ:6.0m 赤:7.5m) このウェイビングを使用してアンカーや簡易ハーネス、ストレッチャーのラッシングを行った。 4 その他、アッセンション、ID、ストップなどの登攀器や下降器等(省略) ・アンカー補強法(アンカーサブバックタイ) これは支点をとるアンカーの強度に不安がある場合や過大な荷重がアンカーにかかることが予想される 場合に実施するアンカー補強法である。画像のアンカーサブバックタイはポールと窓の桟を結んだもの で、上下に張ったラインにベクトルプルで展張力を強めてある。 ・急斜面での救助システム構築 向かって右側(青いロープ)がメインラインで左側(赤いロープ)がビレイラインである。 メインラインのアンカー側には前述したホットチェンジによる上昇・下降システムが取られており、 ビレイラインにはプリージックを赤と緑のプルージックを並べてダブルにしたタンデムプルージックが 取られている。 急斜面における救助では斜面の入り口でのラインの擦れや、引き揚げした要救助者の確保が困難とな ることからAフレーム(画像では二脚)を使用してシステムを構築する。 以上です。文章力が乏しいため、わかりにくい個所も多々あるかと思いますが、興味を持たれた方は資 料等をお貸しすることもできますので、気軽にご一報ください。
© Copyright 2024 Paperzz