図1 アイリスとは - 日本自動認識システム協会

虹彩(アイリス)による本人認証技術
◆アイリスの特徴
「アイリス(虹彩)とは目のどの部分でしょうか」という質問に
どれくらいの人が正しく答えられるでしょうか。多くの人が、網膜
と混同しているのではないでしょうか。アイリスとは黒目の内側で
瞳孔より外側のドーナツ状の部分のことを言い、瞳孔の開き具合を
調 節 す る 筋 肉 か ら 構 成 さ れ ま す( 図 1 )。つ ま り ア イ リ ス は 外 界 か ら
眼球内部へ入射される光の量を調整する機能をもつ部分であり、カ
メラの絞りに相当します。
人の目はおよそ妊娠6ヶ月頃までに形成され、その時点で瞳の部
分に孔が開き、その開口部、すなわち瞳孔から外側に向かってカオ
ス状の皺が発生することが知られています。この皺の成長は生後2
年ほどで止り、それ以降、変化することはありません。この皺の形
状(模様)は遺伝子の作用と発育時の環境により外部に現れるもの
であり、遺伝的影響度が少ないことが知られています。そのため、
アイリスの模様は指紋などと同様にその人固有のパターンとなり、
同一人の左右の目でも異なり、一卵性双生児でも異なるパターンに
なります。疾病などのアイリスへの影響に関しては、アイリスが目
の表面(角膜の下)に存在することから眼球内部の疾病などの影響
を受けることはほとんどなく、目の充血にも影響を受けることがあ
りません。また、目の不自由な方の多くは、視神経の障害であり、
ほとんどの場合アイリスは正常に存在します。
アイリス(
虹彩)
アイリス(
虹彩)
瞳孔
網膜
水晶体
角膜
図1 アイリスとは
1
◆アイリス認識の概要
アイリス認識とは、上記で述べたアイリスの特徴を利用して、デ
ジタルカメラで撮影したアイリスのパターン画像をデータ化し、予
め登録してある本人のアイリスデータと比較照合することにより個
人を特定するものです。個人認証にアイリスを用いることの主な利
点を下記に示します。
① 認識精度が高い。
② 非接触での認識が可能。
③ 偽造が困難。
④ アイリスは安定している(生涯ほとんど変化しない)ため再
登録が不要。
良好なアイリスパターン画像が得られた後の処理ついて以下に順次
説明します。
(1)局部化処理
得られた目の画像からアイリス部分を切り出します。これはアイ
リスの外側の境界(白目とアイリス)とアイリスの内側の境界(ア
イリスと瞳孔)とを、明るさの違いなどを用いて検出することによ
り行われます。この様子を図2に示します。
図2 局部化処理
(2)特徴抽出
・ 分析帯の決定
アイリスの外側境界から内側境界までを8層に分割した分析帯を
決定します。この時、目蓋やまつ毛によりアイリスの一部が隠れる
ことで誤ったアイリスデータとなることを防ぐ為、特徴抽出を用い
て使用する範囲を制限します。この様子を示す概念図を図3に示し
ます。濃い線で囲まれた分析帯が使用されます。周囲の明るさによ
って瞳孔の大きさが変化し、アイリス部分の形状(外側境界と内側
2
境界との間隔)が変わりアイリスデータが変化することを心配され
ますが、アイリスは瞳孔の大きさを調整する筋肉の模様であるため
その大きさが変化しても模様は相似的に変化するのみで、取得する
アイリスデータは変わりません。
・ 分析
アイリスの中心を原点として極座標を考えます。特殊なフィルタ
ー に よ り 各 分 析 帯 の ア イ リ ス の 濃 淡 の 変 化 を 抽 出 し ま す 。濃 淡 の 変
化をディジタル・コード化することにより256バイトのアイリス
データが生成されます。
図3 分析帯の決定
(3)マッチング
このコード化されたデータを入力されたアイリスデータとし、あ
らかじめ登録されている本人のアイリスデータとマッチングを行う
ことによりハミング距離値を算出します。
(4)本人判定
正規化された距離値(ハミング距離)が、所定の値よりも小さい
ならば本人と判定し、大きいならば他人と判定します。この判定の
為 の 閾 値 ( C.P.) は 、 大 量 の ア イ リ ス デ ー タ を 収 集 し 統 計 的 に 処 理
す る こ と に よ り 決 定 さ れ て い ま す 。こ の 様 子 を 図 4 に 示 し ま す 。C.P.
より左側の山は、本人同士のアイリスパターンで照合した結果の分
布、右側の山は他人同士のアイリスパターンで照合をした結果の分
布を示したものです。ハミング距離は排他的論理和の計算であるた
め、他人同士が全くバラツキをもっていれば、0.5を中心として
分布します。本人同士のハミング距離は、全く同じであれば0です
が 取 得 時 の 環 境 条 件 な ど に よ り 0 .1 程 度 を 中 心 と し て 分 布 し ま す 。
これらの分布は2項分布に合致することが確認されており、通過エ
ラ ー ( F R R )、 阻 止 エ ラ ー ( F A R ) と も 、 計 算 上 1 2 0 万 分 の 1
以下の精度が得られます。
ところで、良くいただくご質問として、眼鏡等に貼り付けた目の
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写真で認識されたりしないのかといったものがあります。このよう
な場合、アイリス認識の装置では照明として近赤外線を用いている
ため、生体(角膜)と比べて反射率が異なり正常なイメージを得る
ことができないので排除可能です。
← 大 類似値 小 →
C.P
↑大 出現率 小↓
0
本人 ← | →
他人
図4 本人判定
◆アイリス認識の応用
本人確認のための個人認識技術には別途紹介されているように数
多くの技術が存在します。今後は世の中が益々、電子化されパーソ
ナル化の傾向が進むと考えられ、各種の本人確認の技術がそれぞれ
の特長を生かした分野で使用されていくと考えらます。
アイリス認識の特長は非接触で認識可能であり、煩わしさが少な
いことから第 1 に入退出のゲート管理への応用が考えられます。入
場者が荷物や鞄を持っていて両手がふさがっていたりしても認識が
可能でありスムーズな運用が期待できます。高度なセキュリティを
要求される特殊な工場施設、機密室などでの応用が考えられます。
さらに認識速度が高速化されれば定期券や乗車券を不要とするチケ
ットレスシステムも可能です。現在の自動現金預払機(ATM)に
おいては4桁の暗証番号を入力することにより本人確認を行ってい
ますが多くの人が暗証番号を忘れないために生年月日や電話番号を
使用しています。このため鞄やサイフごと紛失した場合には容易に
暗証番号を知られてしまう危険性があります。ATMにアイリス認
識 装 置 を 実 装 す る こ と で 、暗 証 番 号 だ け で な く カ ー ド も 不 要 と な り 、
安全性だけでなく利便性も向上します。またカード内にアイリスデ
ータを保存しておき、そのデータと照合を行うことでより簡易にシ
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ステムが構築可能となります。最近、アイリスのようなバイオメト
リクスを用いた認証システムが法的に認められようとしてますが、
そ れ に よ り 電 子 商 取 引( エ レ ク ト ロ ニ ッ ク ・ コ マ ー ス )や サ イ バ ー ・
モールのようなシステムでの利用が進むものと思われます。アイリ
ス認識装置を小型化して携帯端末と一体化することで近い将来さら
に応用が広がるでしょう。
そ の 他 と し て は 機 密 情 報 へ の ア ク セ ス 管 理 、金 庫 、貸 し 金 庫 な ど 様 々
な応用が可能です。
◆今後の市場展開と技術見通し
アイリス認識技術の実用例としては、入退出のゲート管理用とし
て 製 品 化 が な さ れ て お り( 図 5 )、既 に 様 々 な 場 面 で 使 わ れ て お り ま
す。また、自動現金預払機(ATM)においても日本を含め世界各
国において導入が開始されております。今後は、企業内といったロ
ーカルなネットワーク上のアクセスから、電子商取引を中心とした
オープンなネットワークを介したアクセスまで、本人認証手段とし
ての採用が進むものと考えております。
図5 実用例(
入退出のゲート管理)
アイリス認識技術は、既に述べたような優れた特長を持っている
為に最も安心で使いやすいものといえ、本人確認手段の主流となり
うる技術として位置付けられるものと考えております。アイリス認
識はデジタルカメラ技術とそれにより取得された画像を処理するプ
ロセッサ技術で基本的に実現されております。そのデジタルカメラ
やプロセッサは、すさまじい勢いで進歩しておりますので、アイリ
ス認識装置の高機能化,小型化,低価格化にそのまま反映させるこ
と が 可 能 で す 。ま た 、デ ジ タ ル カ メ ラ は 、パ ソ コ ン や 携 帯 電 話 等 様 々
な 機 器 に 標 準 的 に 組 込 ま れ る よ う に な っ て 来 て お り ま す 。そ の た め 、
将来的には、そのカメラを利用してアイリス認識処理を行うことに
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より、本人確認を必要とする幅広い分野での利用が期待できるもの
と考えられます。
「用語解説」
F A R ( F a l s e A c c e p t R a t e ):
他 人 を 排 除 出 来 ず に 本 人 と し て し ま う エ ラ ー で 、シ ス テ ム の 安 全 性 ,
信頼性に関わる。
F R R ( F a l s e R e j e c t R a t e ):
本人が本人として認識されないエラーで、システムの使い易さに関
わる。
◆参考文献
[ 1 ]「 エ レ ク ト ロ ニ ク ス 」 誌 9 8 年 2 月 号 p . 4 8 , 『「 虹 彩 」 の 識 別
でセキュリティを守る』
[ 2 ] J . G . D a u g m a n : " T w i -d i m e n s i o n a l s p e c t r a l a n a l y s i s of
c o r t i c a l r e c e p t i v e f i e ld p r o f i l e s " V i s i o n R e s . V o l . 2 0 , p p . 8 4 7
∼ 856( 1980)
[ 3 ] ”B I O M E T R I C S P e r s o n a l I d e n t i f i c a t i o n i n N e t w o r k e d
Society”, Kluwer Academic Publishers (1996)
[ 4 ] http://www.oki.co.jp/
技術キーワード
アイリス,虹彩,ハミング距離,FRR,FA
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