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めざすは交通におけるユニバーサルデザイン

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めざすは交通におけるユニバーサルデザイン
∼福祉交通の現場より
株式会社ふれ愛交通
代表取締役道野隆
はじめに
04年5月に浜松で開催された「第10回高齢者・障害者のモビ
リティと交通に関する国際会議」で弊社の福祉専用車両での輸送
人員が年間5万2千人にのぼることが報告されると、参加者から
大きなどよめきがおきました。タクシー事業者として、これだけ
の福祉輸送していることが日本国内では、めずらしいのが実態で
す。弊社の輸送実績の伸びこそが「介護・福祉輸送」の大きな将
来の展望を切り開くもの、と自負することができた瞬間でもあり
ました。同時に、日本国内での福祉輸送のベースがあまりにも低
いためこの程度の取り組みが評価されてしまうのは複雑な心境
でもあります。
交通バリアフリー法の制定を機に、高齢者、障害のある人等の移
動円滑化の促進が求められています。昨年は、5年経過の「法」
見直しの年となり従来の「ハートビル法」とも統合された「新バ
リアフリー法」の制定を見ました。
今回の公演に寄せて、障害者、高齢者を含むあらゆる人が、平等
に社会資本から便宜を享受できる社会を創りあげていくことを
目的とした交通事業者として、現場からの主張をまとめました。
■衆議院議員秘書を経て、
平成11年
㈱東陽運輸
入社、柏原支店長、取締役
歴任。平成16年より㈱ふ
れ愛交通代表取締役。国会
秘書時代は、当時の与党の
「バリアフリーワーキン
ググループ」の幹事議員事
務局を務め、「交通バリア
フリー法」の素案創りに奔
走。
■現在、福祉車両、一般タ
クシー合わせて50両。福
ますます増える福祉輸送需要
祉車両の輸送実績は、平成
18年度は68000人、
ヨーロッパで福祉個別輸送が登場したのは、50年も前の事にな
ります。スウェーデンやイギリスでは、公共交通機関であるバス、 近畿運輸局管内でトップ。
■現職、全国福祉輸送サー
電車または、一般のタクシーとは別に、また、これらと住み分け
ビス協会近畿支部理事、大
をしながら発展してきた福祉輸送はスペシャル・トランスポー
阪福祉タクシー運営協議
ト・サービス(以下 STS)と呼ばれ、大企業にまでなっていま
会幹事、大阪府福祉有償運
す。ところが、近年ヨーロッパではSTSは減少する傾向にあり
送運営協議会中部ブロッ
ます。それは、交通機関もユニバーサルデザインという考え方が
ク委員、株式会社ふれ愛交
徹底され、障害ある人々による電車、バスなど公共交通機関の利
通代表取締役
用が比較的に楽になっているからです。このようにSTSは普遍
的なものではありえないし、あっては困るものです。公共交通機関
が今までいかに多くの障害ある人々を排除してきたか。それを補い、移動を保障する個別輸送機
1
関は残念ながらこの日本においてはまだまだ必要であるといわな
ければなりません。2001年「国民生活基礎調査(厚生労働省)」
によりますと、
「日常生活において外出に影響のある人」の総数は
全体の3,2%となっています。これを人口に置き換えると40
8万人と推計されます。また、高齢化率の推移を見ると2000
年には17.3%であったのが、2010年には22,5%、2
020年には27,9%と推計されています。高齢化の急速な進
展にともない移動制約者は急増していくことが見込まれています。
福祉輸送発展を疎外してきたもの
このような需要の高まりが見込まれる中で、日本において、そのS
TSに近い交通機関は何なのか?ということになりますが、残念な
がら従来からのタクシー事業者やバス事業者はその期待を裏切り
つづけてきたと言わなければなりません。タクシー会社に平均1台
という福祉車両の少なさが、そのやる気を物語っています。交通バ
リアフリー法の制定にともない、ノンステップバス導入事業者には、
通常バスとの差額の半額が補助されるようになったことで、路線バ
スを中心に低床バスは爆発的に増えましたが、一切の補助がなかっ
たタクシーについては程遠い現実です。
国土交通省の調べによると、平成18年現在、タクシー事業者が提
供している①車椅子やストレッチャーに対応する車両を導入している事業者が、5610事業者、
9137両。②ホームヘルパー資格を有する運転者を擁したタクシー車両によるものが、595
事業者、2554両となっており、両者をあわせても約1万1700両、タクシー車両の総数2
7万3181両に占める割合は4.3%に過ぎず、継続的、反復的需要に必ずしも応えきれてい
ない現状があります。
新バリアフリー法では、2020年までに、福祉タクシーを1万8000台にする目標値が出さ
れていますが、例えそれが達成されたとしても需要に応じきれるものとは言えません。
これらの原因の第1は、国の交通行政として障害ある人々の輸送
が、ほんの最近までその責務として位置付け、指導されてこなか
ったことにあります。1990年成立したアメリカのADA法で
は、「障害者にとって一切の不利益は差別である。」ということが
明記されその不利益(差別)の撤廃が国(行政)の責務としてい
ます。すなわち、車椅子の人が他人の力を借りずに自力で何処へ
でも行けるようにするという法律です。ここを拠り所に、建物、
交通機関のユニバーサルデザインが実現されていっています。
日本の場合、1993年に「障害者基本法」制定、2001年
に「交通バリアフリー法」の制定でやっとその端緒に立ったと
ころです。第2に、タクシー事業者の賃金体系も大きく影響さ
れています。運転手の賃金体系はだいたい出来高の歩合制とい
うことになっており、その日その日のメーターの出来高によっ
2
て給料の額が増減するシステムです。だから運転手はすごい努力をしてミナミやキタの歓楽街、
空港、駅など長距離を見込める場所へ車を回しているのです。そこからすると、福祉タクシーな
どは「リフト操作など時間がかかる割に近くの病院や施設の行き先で割が合わない。」という実
態になっています。お客様はやっとの思いで予約を取ったものの、営業所からメーターを倒して
きたり、運転はプロであるが介護には全く素人であったり、無愛想であったり。そういう苦情が
よせられるのも会社の賃金システムに要因があります。第3に車両メーカーについても多くの問
題があります。私たちがヨーロッパのSTSで眼を見張るのはそのシステムだけでなく車両スタ
イルそのものです。そもそも「リフト車」という車両が生まれるに至った経過はどういうもので
あったのか?多いに疑問を感じています。イギリスのロンドンタクシーやヨーロッパのSTSに
利用されている車両はいわゆるFFエンジンでエンジンルームが車両前方にあり、そのことで超
低床が実現されています。そのため、車椅子の乗降はスロープでおこなうことができるのです。
これに比べ日本のメーカーは一切そんな努力をおこなわず、わざわざ値段の高い、乗降時間がか
かる、今ある車輌にリフトの設置という道を選んだわけです。障害ある人々を乗せるために車両
の開発をわざわざする気のなかった顕れが、世界的に時代遅れの「リフト付タクシー」車両なの
です。乗る側にとって魅力ある車両の開発をしてこなかった責任が多いにあると言わなければな
りません。また、私たちが八尾市でコミュニティバスの導入車両として提案しようと、幾つかの
車両の「試乗会」を開催した時、試乗会に参加した国産発の低床小型バスが、くしくも車椅子が
車両内で回転できないことが露呈し、障害者当事者から指摘を受けたこともありました。バリア
フリーへの認識も経験も車両開発という側面で大きな遅れをとっていると言わざるをえません。
「移動は権利」新しい時代に向かって
スペシャル・トランス・ポートとして発展するタクシー
「新バリアフリー法」では、正式にタクシーも公共交通機関
として、法の対象機関として認定されました。そして、福祉
輸送の運行形態が今や、ドア・ツー・ドア、ベット・ツー・
ベットのトータルな介助(介護)が求められている中で、こ
れを担いうるのは、タクシー事業者しかありません。日本の
タクシーシステムの専門性、24時間の配車体制を生かした
タクシー事業、新しい発想の福祉交通のシステムをつくりあ
げることが究極の目的であります。充分な準備が必要なことでありますが、その端緒に立つべき
時であると考えています。
大阪府下で福祉タクシー事業を営む事業者で結成されている大阪福祉タクシー運営協議会(代表
関淳一 東洋タクシー代表取締役)の粘り強い働きかけの中で、全国で初、またタクシーに対す
る国の事業として初めて「福祉輸送普及モデル事業」として「共同配車センター」の設置、運営
が国、大阪府、大阪市、堺市の持ち寄りで開始されることになりました。今までのように何週間
も前から事前の予約をしなくとも、利用者がセンターに電話すれば、欲しい時に会社の垣根を越
えて最寄の車が向かうというもので、これにより新たな需要の喚起が望まれています。
STSコストの社会的負担を
但し福祉交通のコスト負担を誰がどの程度負担するか、また、財源をどう確保するかと言う議論
は一貫して積み残されています。毎日利用される方にとってはやはり高い運賃だからです。
アメリカのSTSは、利用者負担がバスなどの公共交通機関の運賃の2倍を超えない範囲と決め
3
られています。このため、州によって違いがあるものの、STSの費用捻出には、目的税による
ものや、医療費の一部から生み出しているものがあります。アメリカのメディケイト(低所得者
保険)では、医療費の1%(年間1000∼1500億円)を用いて340万人(人口の1、7%)
の送迎サービスをおこなっています。日本のタクシー会社もできるだけの経営努力をして利用者
の負担分を軽減しようとかつかつの経営状態で運営しています。役所の無駄を排して民間活力で
事業展開していくことには大賛成ですが、ボランティア団体の献身性や民間事業者の経営努力だ
けに、この問題が任されているような日本の現状は憂うべきものがあると言わざるを得ません。
今こそ、STSに係わるコストの社会的な負担を議論すべきところに来ています。
厚生労働省が介護における「移動」という議論を一貫して積み残し、介護保険や障害者支援費で
運転中は「介護」と認められない、という対応を取っている事は、多いに異論のあるところで、
私達も大きく働きかけてきた部分でもありますが、一方で「移動」に係わる費用の社会的な負担
の議論を抜きに、何でも「介護保険」に押し込んでしまうのはやめてよ、という厚生労働省の意
見も一理あるところなのです。今後、STSに係わるコスト負担について多いに考えていく時期
に来ていると思います。
利用しやすい車両の開発を
国土交通省が中心となり、03年3月には「平成14年度バリ
アフリー化タクシー車両等の開発及び標準仕様策定報告書」が
まとめられました。利用しやすい、低価格で豊富な福祉車両の
開発が望まれています。その部分では、従来の発想を大転換し
て、車両メーカーも開発に取り組む時期に来ています。国もま
た、従来では福祉タクシーに利用できる車種や、車体の保安基
準が盾となり非常に限定されたものになり、福祉車両の開発に
ブレーキをかけてきました。例えば、ロンドンタクシーの車両では、日本国内では自家用自動車
では運行出来ても、タクシー車両としては運行できません。費用的にも利便性も「脱リフトタク
シー」の開発は急務の課題です。この部分でも日本は世界的に遅れをとっていると言わざるを得
ません。弊社は、既に近畿運輸局と現場で汗をかいて、小中学校での送迎用車両に従来認められ
なかった車両の設備設置を実現した経過もあります。問題なのは、自動車メーカーが従来障害者
当事者と利用しやすい車両についての意見交換、利便性のある交通について話し合う場が設けら
れてこなかった事にあります。今後、そのような議論が全国的に起こってくることを期待するも
のです。
総合生活移動産業への発展
2006年7月に国土交通省は、タクシーサービスの将来ビジョン小委員会を設置し報告書をま
とめました。今後の望ましいタクシーの将来像として、タクシー事業が「総合生活移動産業」へ
転換して行くべき時期に来ていると報告されています。それは、単にお客さんを運ぶだけの仕事
から、移動について利用者の生活全般になされる多面的なサービスを提供すべき事業へと転換を
図るべきと明言されています。まさに高齢者、障害者の移動を取り組むことによって真に地域社
会に根付いた高度なサービスの提供ができる産業への転換の、取っ掛かりになることは間違いな
いと言えます。
コミュニティ交通の発展と共に
福祉タクシーのみが発展するということはありません。タクシーは個別輸送で限定的な輸送であ
るからです。まずは、電車、バスなどの公共交通機関の改良でどれだけの交通困難者を利用させ
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ることができるのか、ということが課題です。ロンドンでは5種類の交通機関が全ての市民の移
動をカバーし、障害の度合いに応じて利用できる交通を自ら選らび利用されているのです。ST
Sや福祉タクシーは最も障害の度合いの高い人の交通手段であります。ユニバーサルな福祉交通
体系を確立していく中で、それぞれが存在意義を発揮していくのだと考えます。
そういう観点からも、我が東陽運輸グループでは、福祉タクシー事業だけではなく、バス事業と
して大阪府、大阪市教育委員会よりの委託事業で養護学校36コース(36台)の通学バスの運
行をおこなっており、府下最大の受け持ち台数であります。今後も様々なコミュニティ交通の分
野へも挑戦し、新たな交通システムづくりを提案、発信していくつもりでいます。
おわりに
アメリカのADA法のことについてもう少々述べたいと思います。日本国内では、当時自民党参
議院議員であった八代英太さんによってこのADA法が紹介されました。また、娘さんであり公
設秘書であった前島ゆきさんがADA法を学ぶため渡米され、その紹介に尽力されました。「福
祉の黒船が来ますぞ」「車椅子で自力で行けないエンパイアビルはアメリカで差別ビルと言われ
ている」と訴えておられたのが印象的でした。アメリカでは、車椅子の人が自力でバスに乗れな
い、また自由にビルへ入れない事が「差別」とされています。日本社会も改めてADAに学ぶ事
柄は多いのではないかと痛感します。
弊社(株式会社ふれ愛交通)のイメージキャラク
ターとして、新屋英子さん、小林育栄さんに登場戴い
ています。弊社のパンフレット、ポスター、またホー
ムページで、おふたりの笑顔が拝見できます。パンフ
レットはちょっとした物語仕立て、新屋さんと小林さ
んが掛け合うショートストーリーにして、福祉タクシ
ーの概括を紹介する仕立てになっており、これが各方
面から面白いとたくさんのお褒めの声を頂いていま
す。何より、おふたりの人柄そのものが、弊社の福祉車両のイメージのようです。益々高齢化が
進むこれからの日本社会、みなさんがこのパンフレットの新屋さんのような笑顔で暮せる社会を
作り上げなければなりません。私達交通事業者の使命であると思っています。
(道野 隆)
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