金利の期間構造 イールドカーブの性質 債券投資のリスク デュレーション 債券分析入門2 ファイナンス論 I . 山嵜 輝 法政大学 経営学部 . 1 / 31 金利の期間構造 イールドカーブの性質 債券投資のリスク デュレーション 内容 1 金利の期間構造 2 イールドカーブの性質 3 債券投資のリスク 4 デュレーション 2 / 31 金利の期間構造 イールドカーブの性質 債券投資のリスク デュレーション 金利の期間構造 1 金利の期間構造 2 イールドカーブの性質 3 債券投資のリスク 4 デュレーション 3 / 31 金利の期間構造 イールドカーブの性質 債券投資のリスク デュレーション 金利の期間構造とは? 金利の期間構造(term structure of interest rate) 金利の期間構造とは、残存期間(time to maturity)と金利の関係であり、金利に はスポットレートやフォワードレートなどが採用される イールドカーブ(yield curve、利回り曲線)とは、縦軸に金利、横軸に残存期間 をとった金利と残存期間の関係を示すグラフ . イールドカーブの代表的な形状として以下がある 順イールド イールドカーブが右上がり 逆イールド イールドカーブが右下がり フラット . イールドカーブが水平 4 / 31 金利の期間構造 イールドカーブの性質 債券投資のリスク デュレーション イールドカーブ Figure: イールドカーブの形状 3.50% スポットレート 3.00% 2.50% 2.00% 順イールド 1.50% 逆イールド 1.00% フラット 0.50% 0.00% 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112131415 残存期間(年) 5 / 31 金利の期間構造 イールドカーブの性質 債券投資のリスク デュレーション 金利の期間構造の仮説 イールドカーブの形状はどのような原理で決まるのか? 純粋期待仮説 フォワードレートは将来のスポットレートの期待値である、または、長期 金利は将来の短期金利の期待値の平均であるとする説 流動性プレミアム仮説 短期投資に比べて長期投資の方が流動性リスクが大きいので、長期金利に はリスク・プレミアム(流動性プレミアム)がついているという説 ⇒実際のイールドカーブが順イールドであることが多いことと整合的 市場分断仮説 債券市場は投資家および発行者の固有の事情により、満期ごとに分断され た状態で成立し、それぞれの市場ごとの需給関係で利回りが決定されると いう説 6 / 31 金利の期間構造 イールドカーブの性質 債券投資のリスク デュレーション イールドカーブの性質 1 金利の期間構造 2 イールドカーブの性質 3 債券投資のリスク 4 デュレーション 7 / 31 金利の期間構造 イールドカーブの性質 債券投資のリスク デュレーション 割引債と利付債の利回りの期間構造 問題 . スポットレートのイールドカーブが与えられたとき、割引債とクーポンレート の高い(低い)利付債の複利最終利回りのイールドカーブはどちらが高いか? . スポットレートが順イールドのとき . (解答) 複利最終利回りのイールドカーブは割引債 > 低クーポン利付債 > 高クー ポン利付債の順に高い スポットレートが逆イールドのとき 複利最終利回りのイールドカーブは高クーポン利付債 > 低クーポン利付債 > 割引債の順に高い スポットレートがフラットのとき 複利最終利回りのイールドカーブは割引債、低クーポン利付債、高クーポ ン利付債ともに同じ 8 / 31 金利の期間構造 イールドカーブの性質 債券投資のリスク デュレーション 具体例による問題解答の確認 具体例 1 年のスポットレートが 2%、2 年のスポットレートが 3%の順イールドの状況 . を考える . 2 年満期の割引債利回り . 1 割引債の複利最終利回りはスポットレートに等しいので、3% 2 . 2 2 + 100 + ≈ 98.11 (1 + 2%) (1 + 3%)2 2 2 + 100 複利最終利回り y : 98.11 = + (1 + y ) (1 + y )2 利付債価格 = 3 . 2 年満期、クーポンレート 2%の利付債利回り ⇒ y ≈ 2.989% 2 年満期、クーポンレート 10%の利付債利回り 上と同様の計算により y ≈ 2.954% 9 / 31 金利の期間構造 イールドカーブの性質 債券投資のリスク デュレーション スポットレート、フォワードレート、パーレート 問題 スポットレート、フォワードレート、パーレートのイールドカーブはどれが高い . か、低いか? スポットレートが順イールドのとき . . (解答) フォワードレート > スポットレート > パーレート スポットレートが逆イールドのとき フォワードレート < スポットレート < パーレート スポットレートがフラットのとき フォワードレート = スポットレート = パーレート 10 / 31 金利の期間構造 イールドカーブの性質 債券投資のリスク デュレーション 問題解答の証明 証明すること スポットレートが順イールドのとき、「フォワードレート > スポットレート」 . であることを示す。 . 2 年のスポットレートを r2 、3 年のスポットレートを r3 とする。 . スポットレートは順イールドなので、r2 < r3 であることから次式が成り立つ。 (1 + r3 )2 > (1 + r2 )2 この式にスポットレートとフォワードレートの関係式 (1 + r3 )3 = (1 + r2 )2 (1 + 2 f3 ) を当てはめると、次式が得られる。 1 + 2 f3 > 1 + r3 したがって、2 f3 > r3 となる。 11 / 31 金利の期間構造 イールドカーブの性質 債券投資のリスク デュレーション イールドカーブを求める手順 スポットレートの有用性 スポットレートのイールドカーブ(スポットイールド、ゼロイールド)が 得られれば、フォワードレートのイールドカーブも求まる 同様に、スポットイールドが得られれば、パーレートのイールドカーブ (パーイールド)も求まる しかしながら、実際の金融市場ではスポットレートが直接観測できるわけ ではない 一般には、以下の 2 つの市場観測値から、何らかの方法でスポットイール ドを推定する 利付債の価格 金利スワップの固定レート(スワップレート) . 12 / 31 金利の期間構造 イールドカーブの性質 債券投資のリスク デュレーション ブートストラップ法 ブートストラップ法とは? 求めたい値が複数ある状況で、まず 1 つの値が決まると、その値を利用して 2 つ目の値が決まり、さらに得られた 2 つの値を利用して 3 つ目が決まり、同様 に順次値が決まるような計算アルゴリズムの総称 ブーツの紐を穴に順々に通すような計算アルゴリズムであることに由来 数値計算分野の用語であり、元来、金融分野の専門用語ではない . 例:債券市場での観測値 利付債 A 残存年数 1 年、クーポンレート 2.0%、価格 99.51 円 利付債 B 残存年数 2 年、クーポンレート 3.0%、価格 100.96 . 円 利付債 C 残存年数 3 年、クーポンレート 8.0%、価格 114.14 円 (問題) 1 年、2 年、3 年のそれぞれのスポットレートを求めよ 13 / 31 金利の期間構造 イールドカーブの性質 債券投資のリスク デュレーション ブートストラップ法によるスポットイールドの計算 . 1 1 年のスポットレートの計算 99.51 = 2 100 + 2 (1 + r1 ) ⇒ r1 = 102 − 1 ≈ 2.50% 99.51 2 年のスポットレートの計算 3 100 + 3 3 103 + = + (1 + r1 ) (1 + r2 )2 (1 + 2.50%) (1 + r2 )2 √ 103 − 1 ≈ 2.50% r2 = 3 100.96 − 1.025 100.96 = ⇒ . 3 3 年のスポットレートの計算 14 / 31 金利の期間構造 イールドカーブの性質 債券投資のリスク デュレーション 債券投資のリスク 1 金利の期間構造 2 イールドカーブの性質 3 債券投資のリスク 4 デュレーション 15 / 31 金利の期間構造 イールドカーブの性質 債券投資のリスク デュレーション 債券投資のリスクの種類 債券投資のリスク . こ̇こ̇で̇い̇う̇債券投資のリスクとは、投資期間中のリターンが期待どおりに実現 されない可能性のことをいう . 価格変動リスク(狭義の金利リスク) 金利の変化によって債券価格は変動するリスク . 2 . 1 再投資リスク 金利の変化でクーポン収入が期待どおりの利回りで運用できないリスク 3 デフォルトリスク(債務不履行リスク) 債券の発行体が金利や元本の支払いを履行できなくなるリスク . 4 途中償還リスク 満期前の途中で元本が償還されてしまうリスク 5 流動性リスク 市場での取引が枯渇し、思い通りに売買できなくなるリスク 16 / 31 金利の期間構造 イールドカーブの性質 債券投資のリスク デュレーション 債券価格と利回りの関係 利付債価格公式の再訪 P= C C C + 100 + +···+ (1 + r1 ) (1 + r2 )2 (1 + rn )n ここで P は n 年満期の債券価格、C はクーポン収入(クーポンレートを c とす ると C = c × 100)、rk (k = 1, 2, . . . , n) は k 年のスポットレート . 利回り(スポットレート)が上昇するほど、債券価格は下落する 利回り(スポットレート)が低下するほど、債券価格は上昇する (重要)債券価格と金利の動きは反対の関係にある . 17 / 31 金利の期間構造 イールドカーブの性質 債券投資のリスク デュレーション 例題 例題 残存期間 2 年、クーポンレート 5%、額面 100 円の利付債に対して以下の問い に答えよ . 1 スポットレートが r1 = r2 = 5% のときの債券価格を求めよ 2 スポットレートが上昇し、r1 = r2 = 7% になったときの債券価格を求めよ . (解答) 1 . 2 スポットレートが上昇すると、債券価格はいくら変化したか? . 18 / 31 金利の期間構造 イールドカーブの性質 債券投資のリスク デュレーション 残存期間と価格変化の関係 割引債価格公式の再訪 P= 100 ( 1 + rn ) n スポットイールドがフラット(r3 = r5 = r )のとき、満期 n が 3 年と 5 年の割引 債価格は次式となる P3 = 100 , (1 + r )3 P5 = 100 (1 + r )5 . 残存期間が長いほど、金利変化に対する債券価格変化は大きい 残存期間が短いほど、金利変化に対する債券価格変化は小さい (重要)残存期間が長い債券ほど、価格変動リスクが高い . 19 / 31 金利の期間構造 イールドカーブの性質 債券投資のリスク デュレーション 例題 例題 スポットイールドがフラットのとき、クーポンレート 5%、額面 100 円の利付債 に対して以下の問いに答えよ . 1 スポットレートが 5%のときの残存 2 年と 3 年の債券価格を求めよ 2 スポットレートが 7%になったときの残存 2 年と 3 年の債券価格を求めよ . (解答) 1 . 2 2 年債と 3 年債ではどちらの価格が大きく下落したか? . 20 / 31 金利の期間構造 イールドカーブの性質 債券投資のリスク デュレーション クーポンレートと価格変化の関係 利付債価格の公式を参照せよ! クーポンレートが高いほど、金利変化に対する債券価格変化率は小さい クーポンレートが低いほど、金利変化に対する債券価格変化率は大きい (重要)クーポンレートが低いほど、価格変動リスクが高い 21 / 31 金利の期間構造 イールドカーブの性質 債券投資のリスク デュレーション 例題 例題 スポットレート(フラット)が 5%から 7%に上昇したとき、残存期間 2 年、額 面 100 円の利付債に対して以下の問いに答えよ 1 クーポンレート 5%の利付債の価格変化率を求めよ 2 クーポンレート 7%の利付債の価格変化率を求めよ . (解答) . 1 2 . . 22 / 31 金利の期間構造 イールドカーブの性質 債券投資のリスク デュレーション デュレーション 1 金利の期間構造 2 イールドカーブの性質 3 債券投資のリスク 4 デュレーション 23 / 31 金利の期間構造 イールドカーブの性質 債券投資のリスク デュレーション 債券価格と金利の関係 債券価格と金利の関係再考 以降では、スポットイールドがフラットであると仮定する このとき利付債価格は次式となる P= C C C + 100 + +···+ (1 + r ) (1 + r )2 (1 + r )n 金利 r と債券価格 P の関係が直観的でないのは、価格公式が線形a ではないから a 線形とは、y = ax + b のように x と y が比例の式(比例定数 a )で書けていること . 1 スポットイールド(利回り)と債券価格の関係は? 2 金利変化に対して債券価格の変化を簡単に計算する方法はないか? 24 / 31 金利の期間構造 イールドカーブの性質 債券投資のリスク デュレーション 価格・利回り曲線 Figure: クーポンレート 10%、残存 10 年の利付債 190 150 130 110 100円 90 70 10% 50 0.5% 1.5% 2.5% 3.5% 4.5% 5.5% 6.5% 7.5% 8.5% 9.5% 10.5% 11.5% 12.5% 13.5% 14.5% 15.5% 16.5% 17.5% 18.5% 19.5% 債券価格 170 利回り 25 / 31 金利の期間構造 イールドカーブの性質 債券投資のリスク デュレーション 近似による価格変化の捉え方 価格・利回り曲線の近似 債券価格と利回りの関係は曲線であったが、これを直線で近似 (前頁の例) 1 現在のスポットレートが 10%(債券価格 100 円)だったとする 2 現在のスポットレートと価格に接する接線を引く 3 接線の傾き、すなわち比例定数を求める 4 比例定数と金利変化幅を掛け算することで債券価格変化額がわかる . . . (問題) この接線の傾き(比例定数)は必ず負値(マイナス)となるが、これは何故か? . 26 / 31 金利の期間構造 イールドカーブの性質 債券投資のリスク デュレーション 近似直線 Figure: 接点 (10%, 100 円) の接線 190 150 接線 130 110 90 70 50 0.5% 1.5% 2.5% 3.5% 4.5% 5.5% 6.5% 7.5% 8.5% 9.5% 10.5% 11.5% 12.5% 13.5% 14.5% 15.5% 16.5% 17.5% 18.5% 19.5% 債券価格 170 利回り 27 / 31 金利の期間構造 イールドカーブの性質 債券投資のリスク デュレーション 金額デュレーション 金額デュレーション(dollar duration) 現在の利回りの微小変化幅を ∆r とし、このときの債券価格の微小変化額を ∆P としたとき、利回りの変化幅に対する債券価格の変化額の比 ∆P ∆r が前頁グラフの接線の傾き(比例定数)であり、これにマイナスを付けたもの D := − ∆P ∆r . を金額デュレーションという (金額デュレーションによる近似公式) 債券価格の変化額 ∆P ≈ −D × 利回りの変化幅 ∆r 28 / 31 金利の期間構造 イールドカーブの性質 債券投資のリスク デュレーション デュレーションの性質と利点 金額デュレーションの性質 金額デュレーションは正値(D > 0) 金額デュレーションは金利に対する債券の価格感応度を測る指標 同じクーポンレートであれば、残存期間の長い債券の方が金額デュレー ションが大きい 現在の金利水準 r が変化すれば、金額デュレーションも変化する 金利上昇(債券価格下落)すると金額デュレーションは小さくなる 金利低下(債券価格上昇)すると金額デュレーションは大きくなる 金額デュレーションの利点 簡単に金利変化に対する債券価格の変化が計算できる 複数の債券に対する価格変化も容易に計算できる 債券価格と金利の関係を直観的にイメージできる (問題)金額デュレーションの欠点は? 29 / 31 金利の期間構造 イールドカーブの性質 債券投資のリスク デュレーション 例題 例題 スポットイールドがフラットであるとき、残存期間 3 年、クーポンレート 5%、 額面 100 円の利付債に対して以下の問いに答えよ 1 スポットレートが 5%のとき債券価格は 100 円、6%のとき 97.33 円である が、このときの金額デュレーションを求めよ 2 スポットレートが 4.5%のとき、債券価格 P はいくらか? . . (解答) 1 2 . . 30 / 31 金利の期間構造 イールドカーブの性質 債券投資のリスク デュレーション 例題 例題 スポットイールドがフラットで以下の 2 つの債券を保有しているものとする . 1 残存期間 3 年、クーポンレート 5%、額面 100 円、金額デュレーション 250 の利付債 P1 2 残存期間 2 年、クーポンレート 7%、額面 100 円、金額デュレーション 180 の利付債 P2 スポットレートが 1%上昇(∆r = 1%)したとき、2 つの債券価格の変化額合計 はいくらか? . . (解答 1)それぞれの価格変化額を合計する方法 (解答 2)合算の金額デュレーションを使う方法 . 31 / 31
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