11.067_SRR1C_BBF 2012.6.26 23:35 ページ67 現在、在籍するスタッフは松山氏以 るいは喧しくないこと。つまり音響の存 先はやはり減衰し 下5名。組織としての運営コンセプトを 在を観客が忘れてしまうようなサウンド ていきます」 うかがったところ、仕事は楽しくなけれ づくりをいつも目指します」 ばいけない。と氏は即答する。 「仕事の依頼を受けることは、 『助け てほしい』 と頼まれていることと同じ。だ RCFとの出会い 遠達性能の高さ から、会場のすみずみまで明暸度を確 保できること。それはまぎれもなくスピー さて、 『BBF’12 』 では今回スピーカ カー・システムとしての完成度が大きく ったら何とかしなくては、と考えるんです。 ー・システムに「RCF」社のモデルが全 上がったのだと確信した。ただそれ故 そうすれば、逆にこちらがお願いしたと 面的に採用されたことは先にも述べた かセットアップに注意を払わないとエリ きには身をもって対応してくれます」 とおりだが、3 箇所あるステージのうち アカバーに乱れが生じることも同時に体 仮に親しい間柄になくても、まずそう メイン会場となる 「BIG BEACH STA- 験、事前のプランニングの緻密さがカ いった気持ちを持った上で常に関係を ギになる、そう実感したと振り返る。 築きたいと語る。古来、大事にされて GE」およびサブステージ「RED BULL STAGE」双方で「RCF」社のラインア きた「日本のこころ」を感じる思いだ。 レイ・モデルが採用されている。そのう 今回のイベントでは、システム構築から そうした考えの下、 「カムストック」社の ちメイン会場には同社のフラッグシップ 音出しまで、ほぼ計画どおりに進行でき セールスポイントは「人」だと言い切る。 モデルとなる 「TTL55-A」をハイボック たとのこと。それについては後述しよう。 「プロフェッショナルであることは技術 スに、サブウーファーは「TTL36AS 」 そうした見解や過去の経験をふまえ、 との出会いに ここで松山氏と 「RCF」 を持っていて当然。それ以上に大切な といった、3種類の および「TTS56-A」 ついて聞いてみる。 「カムストック」社が 「Martin Audio」のユーザーでもある のは人とのコミュニケーションです。そ キャビネットを用いたラインアップでシス れが無くては決してうまく行かない。制 テム構成がなされた。日本に上陸して ことは先にも述べたが、当時このスピー 作側や演出家、もちろんアーティストら 、早速システム・ 間もない「TTL55-A」 カー・システムを扱っていた輸入代理店 と話ができて仕事は初めてまわり出し、 プランニングを行なった松山氏にその 「バラッド」 との深い縁がそもそものきっ そして楽しくなるのです」 感触をうかがってみたいところだが、そ かけ。氏は新しく取扱いが始まる 「RC と教えてくれた。 の前に氏がラインアレイ・システムへ持 F」の情報をキャッチし、早速試聴。そ 松山氏は高校を卒業後、ミュージシ つ印象を確認しておきたい。 こで好印象を得た。特定のキャラクタ ャンを目指して岡山から上京。糧を得 松山氏がラインアレイを初めて体験 るため紹介で、ある舞台関連の総合 したのは「 L アコースティックス」社の 会社に飛び込んだところ、そこで音響 「V-DOSC」だった。日本で使われは に魅入られたのだと話す。その後およ じめてまだ間もない頃で、会場は「東 そ15年、キャリアを積み上げて起業を 京国際フォーラム」 。残念ながらフライ 决意している。氏が音響に携わって、 ングはできずにグラウンドスタックだっ 最も興味深いと感じるのは終演後、満 たが、3 階席まで明暸度を確保できる 足して帰る観客の顔、そしてその声を聞 ことに感嘆したという。 く時。それが今なお現場を続ける原動 「驚異的なシステムが登場したもの 力になっているという。しかしそうした結 だと記憶しています。それまでのフォー 果を得ようとするには、当然音響として ラムでは、3 階席の奥では音がぼやけ の完成度の高さが要求される。そこで てしまっていました。本当に驚きました 現場に向かうとき、最も大切にしている ね。その後、コンパクトな「DV-DO ことを聞いてみると、 SC」でも印象は変わりませんでした。ポ 「心地良い音を提供することに尽きま イントソースだと、ある程度の距離まで す。具体的には耳が痛くならない、あ エリア確保はできるのですが、そこから 2012年5月31日13時。 舞台袖に音響機材車が滑り込み搬入開始。見事なチームワークとスピードで機材群が捌かれていく 「RCF」最大のスピーカー・ケース。 H590×W1170×D988袢のサブウーファー 「TTS56-A」を3本収納、運搬できる Prosound・67 11.067_SRR1C_BBF 2012.6.26 23:35 ページ68 ーというものを持たず、 りから音圧減衰をはじめるカバーエリ 「音」 という空気を介した物理現象。重 SRユースのモデルに アを計画。スピーカー・アレイの設計に 要なのはそうしたプランが机上に終わ ありがちな喧しさを感 入った。事前に用いたのは「RCF」社 らず実現するのか否か。そして、要とな じない。氏の言葉を借りれば「普通の 音」がしたのだという。さらにタイプの異 開発のシミュレーションソフト 「Shape 」 。こ Designer(シェイプ・デザイナー) 「TTL55-A」の性能ひとつにかかって なる、例えばスタジオ・モニターや、ま れを用いてキャビネットのセットアップ数 るサウンド・クオリティは? そこはまさに いる。 たキャビネット・サイズの大小にも関わら 値を算出し、そして予測される音圧分 だが、松山氏のなかで渦巻く懸念 ず、すべて同じ傾向のサウンドを奏で 布を「EASE Focus 2(イーズ・フォーカ は最初の音が出た瞬間、喜びに変わ るところにも強烈なインパクトを感じた。 ス) 」で図表化。さらに「Google」の写 った。 そこで今年、音響を担当する 『B I G に「RCF」 BEACH FESTIVAL’12』 真地図と組み合わせることで詳細なサ 「システムのチューニングを終え、音 ウンドマップを作成し、專門家でなくて を出したとき鳥肌が立って、年甲斐も無 をぜひぶつけてみたい。それが見事実 も音の振る舞いが一目でわかる資料を くガッツポーズでした。日本初であり、 現したのである。 近隣住民用にと主催側に提出してい の これまで誰も現場では 『TTL55-A』 とは設備などで る。ちなみに「EASE 」 サウンドを聴いたことがありません。も 多用される定評ある建築支援ソフト。 しも期待どおりに鳴ってくれなかったら」 騒音へのクレーム0件 野外フェス必至の難関 完全クリア! 松山氏が今回音響プランニングを するにあたりエネルギーを傾けたのは これを 「RCF」社が提携することで「Sh- 社運をかけて導入したと氏は謙遜 との連携を実現、現場 ape Designer」 するが、実際2 万人超を満足させるシ に入る前の段階で高い精度のプラン ステムの物量である。気が気ではなか ニングが可能となる。 ったのが正直なところといえるのではな いだろうか。 近隣への騒音対策。これについては 「エリア内では充分な音圧を、そして 制作サイドからの強い要望を受けての 外には一切音を漏らさない」 。このテー 「一昨年、昨年と続き、近隣から騷 ことだった。一般的に野外での催しに マに青写真は完成した。が、扱うのは 音への苦情が多かったらしいのです。 おいて、このポイントは避けて通れない 問題。真っ先に押さえるべき重要事項 のひとつである。 そこで氏は、ステージから60m地点 にあるハウス・ブースを少し見越すあた 下手フライングを開始。 「HOIST SPACING」 と 呼ばれるチェーンと 「TTL55-A」用のFLY BARと を連結、その下に最上段の「TTL55-A」4本をス タンバイ 68・Prosound ピンを使って角度決めを した後、防砂ネットを被せ ていく。留め具には結束 バンドを使用。 『BBF’12』 で使用された「TTL55-A」 にはラバー製のレイン・カ バーが装着されていたが、 ビーチという場所がら砂 を嫌って「カムストック」で 急ぎ用意したものという ところが今年、終わってみると最終的に 最 下 段 2 本 を 連 結 し て セ ッ テ ィ ン グ 終 了 11.067_SRR1C_BBF 2012.6.26 23:35 ページ69 クレームは1件も無かったと聞いていま す。これには興味深いエピソードもあ り、ケミカル・ブラザーズの本番を聴い た制作スタッフが 『この音量の大きさで は完全にリミットを超えている』 と感じ、 外回りの担当へ急いで打診したところ、 外周では 『まったく聴こえていません』 と 返答が来たのです。こうしたことからも、 しっかり制御できていたことが証明で きましたし、何より素晴らしかったのは 音のクオリティです」 それは、あたかも巨大なオーディオ ルームで体感するようなスタジオグレー という言 ドのサウンド。まさに「Hi-Fi」 葉が的確な品位の高さだった。また屋 外にもかかわらず音が風に流されにく いことも体感した。 実際われわれも当日、会場内のさま ざまな地点で音の状況を確認したが、 エリア指定外のポイント、つまりステー ジから客席後方に向け離れ、ハウスブ ースを超えたあたりから以降は超低域 が若干ブロードだったものの、松山氏 のプランニングどおり見事に音は遮断 され演目内容を把握できないほどの効 果を確認。一方、エリア内での再生音 圧は高く、また音の質感についてもク リアながら柔らかで、長時間の聴取で もまったく聴き疲れしないクオリティを確 保していた。 この距離減衰を制御できるのは、 「TTL55-A」のキャビネットごとに搭載 されるDSPの働きによるもの。コントロ 「RD NE ールは「RCF」社が提供する と呼ばれるソフトウエア上からPCを T」 ﹁ ーT でT 見L え5 づ5 ら︲ いA が﹂ 、の やI や/ 奥O ま部 っと たア とン こプ ・ ろイ にン あプ るッ のト が。 確レ 認イ でン き・ るカ バ サブウーファーのセッティング・シーン。 メジャーで間隔を図りながら 「TTS56-S」の位置決めをし、その上に「TTS36-AS」を載せていく Prosound・69 11.067_SRR1C_BBF 2012.6.26 23:35 ページ70 通じて行ない、レベル、フィ ルター、遅延といったさまざ まなパラメーターを含め、シ ステムを一元管理できるし くみを採用している。 では次にメイン会場で使 われたサウンド・システムを 紹介していこう。 スピーカー・ プロフィール スピーカー・システムは片 横に12本並べられたサブウーファーのセン ター4本の上にインフィル・スピーカー「ART 410-A」を設置 側「TTL55-A」を14段用いたアレイが メイン・スピーカーを吊っているすぐ隣 で「ミニクーパー」までフライング?! 何 とこちらは総人力稼働! ! ステージ近くの下手客席に設置さ れたウッドデッキ (VIP席) に向けら れた「TTL31-A」 Hzから20kHzまでを網羅し、サイズは 380(H) ×1020(W) ×550(D) とラー と柔軟なコントローラビリティを実現。 一列。サブウーファー「TTL36AS」お 巧みに両立させている。 よび「TTS56-A」がそれぞれ12本とい ジモデルとしては比較的コンパクトな部 うラインアップ。ちなみにサブウーファー 類ながら最大143dBもの音圧を提供 は「RCF」社から来日したテクニシャン する。 高効率と高品位、さらに高耐久性能を 松山氏によると、特にサブウーファ ーについて秀逸と感じた部分が良質な のアドバイスなどにより、すべてステージ 1キャビネットあたり4台のパワーアン 低域。これまで体験したことがない音 前一列に固め、ある一定の間隔を持 プを内蔵するアクティブ型となっており、 の速さ、そしてハウスブースにおいても たせて設置された。均一な低域のサ 出力総計は3500W。大出力ながらデ 音が近くに感じ、制御の効いたサウン ジタルアンプの採用で重量67kgと、現 ドには耳を奪われたと印象を話す。 ービスをねらっての方針である。 フルレンジボックス 「TTL55-A」は 12インチのウーファーを2 基、ミッドレ ンジには1基の10インチを。高域には 3基のドライバーを持ち、 ここには 「RCF」 場で負担の少ない質量に収めている。 一方、サブウーファー「TTL36AS」 「ただ反省もありました。サブのキャ ビネット同士を近接させ過ぎたせいか、 は18インチコーンドライバーを2 基搭 低域が直線的なサービス分布になった 載。同じくアクティブ型で下限35Hzか きらいがあります。それは結局プランど 社オリジナルのウェーブガイドを搭載。 らの再生が可能。 「TTS56-A」は21 おりの結果を示してはいたのですが、 3ウェイ構成となっている。また、水平指 向角度は90 度、垂直は最大7 度まで 対応。このスペックで周波数特性は50 インチの大口径ユニットを 2 基備え、 実際にはもう少し広がったほうが現実 6800W の出力で最大音圧 145dB 、 再生周波数30Hz を実現する超弩級 的でしたね。対策として両端のキャビ のサブである。 これら3 種のシステムには ネットの方向を変えることで緩和されま したが、次回への課題として18インチ モデルをフライングしてみるなど、また違 いずれも96kHz/32bitスペ った低域の作り方を現在模索している ックのDSPを内部に持たせ ところです」 ることで、より緻密な最適化 幣誌「顔の見えるスピーカー試聴会」テ スターとしてお馴染みの「イノックスサウ ンドデザイン」井上 朗氏(写真左) 。試 聴に訪れたゲストにも関わらず思わず 搬入作業に飛び入りする場面も。「つ い身体が反応しちゃって」 と相好をくず しながら現場の終始を見守った 音でオーディエンスの 盛り上がりを 先導するために… 今回の「BBF’12」でハウス・オペレ ーションを担当したのは「カムストック」 voice from Guest クリーンでパワフルそしてSmooth 井上 朗氏(イノックスサウンドデザイン) 春先に「RCF」社のコンパクト・ラインアレイをデモ使用する機会があり、様々な音楽に対する再生能力の高さを実感しました。特 にピアノや生ストリングスの再生においては素晴らしい音楽性を感じました。今回は大規模会場での運用、そして「RD-net」という コンピューターでのシステム管理が拝見できると聞き仕込みから見学しました。『BBF’12』で聴いたサウンドはクリーンでパワフル、 それでいて「RCF」らしい音楽性も保たれた素晴らしいものでした。40m離れた卓席で本番120db。全く歪なし、Sub-Lowは 100mの距離までしっかり届いてリスナーが踊っていました。今度の運用では更なるシステム化やデジタル伝送、2重安全性の確保、 ワイヤリングシステムのメーカーとしての取り組みなど改善点も多く見受けられました。次は所謂、生バンドでのサウンドメイクにト ライしてみたいですね。 70・Prosound 11.067_SRR1C_BBF 2012.6.26 23:35 ページ71 本番を迎えたハウス・ブース。コンソールは「マイダス・ヘリテイジ 3000」 。DJライヴではアナログ・コンソールを使用することがステ イタスとして定着しているという DJモニターに使用された「TT25SMA」 と 「TTS28-A」 (写真左) 。右のスタンド立てスピー カーはサイドフィルの「ART410-A」 。フロントフット・モニターにも「TT25SMA」を使用 いて14年、現在現場チームのトップと 中島氏は今回で『 BIG BEACH FESTIVAL』は2回目の参加。やはり して采配をふるう。 に所属する中島 聡氏。同社に籍を置 関係者の間では評判。それが今回、 サウンドには一切リクエストが出なかっ ミックス時には前年からの懸案事項で た。これは驚きの事実だったと関係ス 長野県出身で今年38歳になる中島 ある近隣への騷音対策に気を配った タッフが漏らしている。 氏、竒しくも松山氏と同様、高校在学 という。しかし当然ながらチケットを買 またDJイベントでは特に重要となる 中は音楽の道を志す。しかし同時に裏 って楽しみに来てくれる観客には存分 低域のコントロールについては18イン 方として音楽に携わる仕事ができれば に楽しんでもらいたい。特に盛り上がり チと21インチ、2種あるサブウーファー との思いが芽生え、音響の専門学校 が予想されるヘッドライナーの「ケミカ 「RD が2 系統に分けられているため、 へと舵を切った。指導を受けた師か ル・ブラザーズ」を頂点に、イベントの NET」を用いてPC上からコントロール ら音響にもさまざまな職種があることを 時間軸としてサウンドづく りを盛り上げて を行ない、各アーティストがその都度送 教わるなかで、氏がSRへと進むきっか いく必要がある。そこで場内の収客数 りこんでくるソースをジャッジ。整えてい けとなったのは、スタジオに籠もるよりも を監視しながら、それに見合った音量 くことでイベント全体を俯瞰した統一感 ツアーや野外といった現場にオープン を都度設定し、細かなケアを心がけ を持たせた。 なイメージを抱いたことから。そして卒 た。しかしまだもうひとつ未知数を残し 「DJイベントにおける最良のミックス 業と同時にSR カンパニーの門を叩い ていた。それは「RCF」が持つ実力の については経験が少ないこともあり、ま た。そこで3 年間、研鑚を積むなか松 程だ。 だ模索中の段階ですが、今回はお客 山氏と出会うことになる。 「前日のリハーサルといっても、音楽 さんの盛り上がりや周囲のスタッフの反 「カムストック」へ籍を移すことになっ イベントとちがって出演者が参加して実 応を含めひとつの達成感はあります。 たのは、遊びに来ないかと誘われ松 際に音を出してくれるわけではありませ ただ、もっとできることがあるのではと気 山氏が担当する、ある本番を観て衝 ん。したがって目安を立てるには手探 付いたこともあり、勉強を重ねなければ 撃を受けたのがきっかけだった。ぜひ りだった部分がありました。後半はメ と改めて思っています」 その演目スタッフに加わりたいと猛アピ ーターとにらめっこ状態でしたね」 ール、見事椅子を手に入れたことが転 機となった。 あくまで謙虚な姿勢を崩さない中島 氏がミックスにおいて目指したアプロ 氏。しかし大型イベントをやりきったと ーチは、上がる観客のテンションをこち いう自信と安堵とが同居する笑顔は軽 やかで、爽やかそのものだった。 新しい師となった松山氏がこだわる らが追いかけるのではなく、少し先回り 独自といえる音づく り。中島氏に求める をして観客の盛り上がりたい心を音響 ● のもやはり 「心地良いサウンド」だ。 サイドが先導して引き上げていく。いわ で見事に大役をはたした 『BBF’12』 「これまで音響機器の使い方など具 ば水先案内人として機能することだとい 「RCF 」のスピーカー・システム群。今 体的な操作方法などは一切教わった う。それを繰り返すことで満足を得ても 回はDJイベントということで充分なリハ 記憶がありません。すべてニュアンスで らう。積極的でエンジニアとして素晴ら ーサルもできない過酷な状況にありな リクエストが飛んでくるので、それを具現 しい取り組み方といえるだろう。その際、 がら、素晴らしい結果をこの耳で実際 化するためにどうマシンを操るのかを自 未知数だった「RCF 」がどこまで追従 に体験できたことは貴重な体験だった。 してくれのかが懸案だったわけだ。し 制御の効いた遠達性能、なめらかな音 かし杞憂はまったく無用だった。 色、そして観客の心を揺さぶる音楽性。 分なりに考えてきました」 そんな中島氏が現場において大切 と考えるのは終演後、観客が満足して 本番時、ハウスブースに詰める 「ケミ 出口に足を向けてくれること。そのため カル・ブラザーズ」のマネージャーは音 まぎれもなく今後、話題をさらうサウン の努力は惜しまない、と覚悟を明かす。 や照明にこだわりを持ち、うるさがたと ド・システムのひとつになることだろう。 どうやら堂々のデビューを飾ったようだ。 Prosound・71 11.067_SRR1C_BBF 2012.6.26 23:35 ページ72 RCF Product Specialist オスカー・モラ氏 インタビュー RCFが誇る高いポテンシャルとは。 前頁でご覧いただいたとおり、大成 タリングが可能です。これによりセッテ 功といえるパフォーマンスを見せ『BIB ィングの容易性とコントロールの柔軟性 で見事日本 BEACH FESTIVAL’12』 を実現しています。また「TTL36-AS」 にデビューを果たしたモデル「TTL55- と 「TTS56-A」サブウーファーですが、 A」。実は同イベントには本国イタリア 前者はフライング対応となっており、18 から来日し、サウンド・システム・プラン インチ・ユニットを2本搭載。パンチの や実際の現場でのサポートをしながら あるローエンドが特徴です。後者には スムースな運用を導いたテクニシャン がいた。絶好の機会と帰国の前に時 21インチ・サイズのユニットがやはり2 本。ユニットの動きが速く、18インチ 間を割いてもらい、サポートを務めたオ 並の動きをしながら広い面積で空気を システム構築の方法、そして現場での スカー・モラ氏に同機の特徴や使いこ 押すので、これまでにない質感が期待 セットアップ手順を教えてください。 なしについて話を聞いた。 できます。どちらも弊社の独自設計ユ OM 最初はソフトウエア 「Shape Des- ニットを使っており、コーン紙とボイスコ igner」を使い、会場サイズなどアコー イルに特徴を持たせて歪みなく良質の スティック情報をインプットしたり、チェ ックボックスに指示を与えることでアレ についての印象 が一昨日の 『BBF’12』 60Hzを再生できます。ともにパワード 型となっており、DSPを搭載します。 PS 「TTL55-A」に戻りたいのです はいかがでしたか。 が、やわらかなハイエンドに特徴を感じ が、よりイージーながら詳細なところが TTL55-A/TTL36-AS/ TTS56-A プロサウンド (以下、PS) 早速です イの角度などを算出させることから始め ます。これは他社も同じかと思います オスカー・モラ (以下、OM) 日本の ました。 特徴です。もしくは現場の詳細や使用 音響チームやエンジニアが素晴らしい OM それはユニット構造に特徴があ するスピーカー・システムの情報を弊社 こと、またレベルの高さが良くわかりま と呼ばれ、インピーダ ります。「ICC 」 に送っていただくと、われわれが必要 した。私はサポートに来ていましたが、 ンスの上昇を抑えるボイスコイルを持 な数値などを提供するといったサポー 逆にこちらが勉強になった部分も多く ち、歪みを軽減。位相特性も良好な トも行なっています。 あります。印象的だったのは、ひとつの 数値を示しています。また弊社ではミド PS 「Shape Designer」で算出され 目標に向かってみなさんが進んでいた ルクラスの「TTL33-A」を最初にリリー たデータを持って現場に入るのですね。 ことです。海外とは辿る道が違うだけで スしましたが、大型市場への参入をし OM そのとおりなんですが、持ち込む 同じ頂上を目指すことに変わりないのだ たくてラージを設計した経緯がありま 際にデータシートが複数にわたると煩雜 なと思いました。 す。 「TTL33-A」の質感をキープしな ですね。そこでソフトウエア上で「View PS では今回使われたスピーカー・ がらスケールアップするには大きな努力 システムについて、それぞれ簡単に教 が必要でした。大型のドライバーであ Report」を指示すれば、すべての数値 を1 枚にまとめた作表ができるようにな えてください。まず「TTL55-A」です。 のスイートさを出すには、と研究を重ね っています。 OM 最も大きな特徴は、キャビネット てようやく実現しています。 PS 内にDSPが搭載されており、ソフトウ エア 「RD NET」を通じてさまざまなパ ラメーターをコントロールできること。 ソフトウェアを 利用したセットアップ 催しによっても異なるかと思いま すが、使用する物量の判断はどのよう にすれば良いのですか。 OM 必要な数値さえ入力すればソフ 各々のアンプやユニットの状態、そして PS オスカーさんはテクニシャンでも トウエアが判断してくれます。フライング 温度、またキャビネットの角度までモニ あるのですが、これらのモデルを使った 方法に危険があるときや、もし本数が BIG BEACH STAGEのサブウーファー・セッティングと防滴カバー 72・Prosound 11.067_SRR1C_BBF 2012.6.26 23:35 ページ73 : Dーピるオ Jフー自ー モァカ由ル ニーーなミ タ﹁ 空ッ ーST間ク NUT ス XB2 の M72 ︲ 音 11A 楽 28︵ と ︲ 4 お AA本︻酒 ︵S︶メ 2︵、イが 本2サン楽 ︶本ブ・し ︼︶ウスめ 、 Disco Ballon - ティモ・マース、マティアス・タンツマン、ネイサン・デトロイト、大沢伸一らが出演した REDBULL STAGE【メイン・スピーカー:TTL33-A/TTL36AS(4/2対向) 、DJモニタ ー:TT25-A(2本) 、NX15SMA(4本) 、インフィル・スピーカー:TTL31-A(2本) 少ないといった無理があれば「できな 程でほとんどの内容はご理解いただけ 濡れても心配は皆無です。次にコネク い」 と言ってきますし、仮にやらざるを得 るかと思います。そこはわれわれも考え、 ション部分ですが、 「TTL55-A」の場 合コネクターの位置が側面になるので ない場合には「RCF」に資料を提供し ユーザーフレンドリーになるよう工夫を て相談して下されば、経験値を加味し しています。 すが、パネル自体が奧まって接点が深 た対策をご提案できます。 PS ソフトウェアの入手方法は? いところにあるため水滴が入りにく くなっ などのような屋外だと、 PS 『BBF’12』 OM 弊社のサイトからすべて無償でダ ています。さらにオプションで接点の周 よほどの例外を除いて騒音対策は必 ウンロードが可能です。 囲を覆うレインカバーを用意しています 須かと思います。今回、音を届かせる 範囲を限定されていましたが、どのよう なしくみになっているのでしょうか。 OM スピーカー・キャビネットにDSP 最適な低域構築と 雨天対策 PS では次にサブウーファーの好ま ので、よほど激しい風雨でなければユー ザーは特に対策の必要はありません。 サブについてもコネクションは背面です が、やはりカバーの用意がありますので をベースにした、そうした対策に対応す しい設置のノウハウをお願いします。 同様です。完全防水ではありませんが、 るテクノロジーが備わっています。遠距 OM 防滴のための仕様は整っています。 おすすめできるセットアップ方法 離、中遠距離、中距離、近距離を制 としては、ステージ下の中央に等間隔 御、アジャストするパラメーターです。こ で並べるのがベターです。それに加え、 れらは本体に装備されたスイッチでも サブは各3段とし、サンドイッチされた中 設定できますし、 「RD NET」を接続 央のキャビネットを180度反転してカー くりの信念を教えてください。 すれば、それらの物理スイッチは自動 ディオイド、つまり指向性を持たせる方 OM でバイパスされてPC 上からの遠隔操 法が最良かと思います。こうすれば スピーカー・システムはフラットな状態に 作に切り替わります。したがって「Shape 「Shape Designer」で拡散パターンの してお客様にお渡しする。つまり色の付 Designer」で事前に算出されたデータ コントロールが可能になり、最適な音 いていない状態を提供することで、エン RCFが掲げるポリシー PS 最後に「RCF」社のスピーカーづ 2 つのポイントがあります。まず を元にクラスターを組み上げるのが基 場を形成できます。 ジニアに自由な画を描いてもらいたい。 本となりますが、セットアップした後でも PS コンサートホールの場合はセンタ そうした思いで作っています。次に社の 音を聴きながらの再補正が可能です。 ー位置での設置が難しいですね。 運営姿勢についてですが、 「RCF」で さらに音圧分布など詳細なデータが必 OM そうした場合には両脇にセットを は仕事に従事するスタッフに団結力が 要になるときには「EASE Focus」を加 し、やはりカーディオイド設定を用いるこ あり、チームのみなが同じ方向を向い えれば、よりプランニングの精度が上が とで中央付近でのポーラパターンの重 ているのが自慢です。セールスも工場 ります。 「EASE Focus」は「RCF」の 複を回避します。これがピークやディッ で働く者もチームワークが強く、愛情を ソフトウエアではありませんが、弊社が プを作らない方法です。キャビネットの 持って製品を作っています。今回の ライセンス契約をしてユーザーへの負担 数量は2:1 の割合で3 本が一組にな の現場でもわれわれが日本 『BBF’12』 はありません。また、コントロールが難 ると考えて下さい。 のスタッフとチームを組んでひとつの目 しい低域のロールオフについても 「Sh- PS 屋外の場合、雨天対策はどの程 標に向かうことができたのも 「RCF」の 社風のおかげではなかったでしょうか。 と ape Designer」の「クラスターサイズ」 度必要ですか? いうところで指示が出てきます。 OM まず、キャビネットの塗装につい PS どのような場合でもチームワーク PS これらのソフトウエアの習得は難 てはポリユリアと呼ばれ、本来屋根など は大切で、良い仕事をするには欠かせ しいですか。 に使われる樹脂塗料をさらに軽いもの ない要素ですね。今日は長い時間、 OM 音響の経験者であれば、1時間 へと改良し塗布しています。したがって ありがとうございました。 Prosound・73
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