【香港】香港政府「2013 年施政方針演説」 ~安定の中での変化追求と

2013 年 1 月 24 日
三菱東京 UFJ 銀行 香港支店
【香港】香港政府「2013 年施政方針演説」
~安定の中での変化追求と市民への実質的奉仕~
2013 年 1 月 16 日、香港の梁振英(C.Y. Leung)行政長官は就任後初の施政方針
演説を実施したので、その内容について以下で概観したい。
1.はじめに
梁行政長官にとって初めてとなる今回の施政方針演説では、「穏中求変・務実為
民(安定の中で変化を求め、市民への実質的な奉仕をする)」をテーマに、昨年の
行政長官選挙の際のマニフェストに沿う形で、経済発展に加え住宅問題、高齢化問
題、格差社会・貧困問題などの民生問題に重点を置く方針が示された。特に、価格
高騰によって一般市民の手の届かない存在となっている住宅問題は、香港大学など
の事前アンケートでも市民の最大関心事となっていたが、今回の演説の中では、政
府として具体的な計画を示し民生問題解決に全力を尽くす姿勢がアピールされて
いる。
また、従来、香港政府は、自ら経済に干渉せず、「小さな政府1」として機能して
いたが、演説では「市場原理が機能しない状況においては政府が経済に対して一定
の役割を果たすべき」とし、
「大きな政府」への転換についても言及された。
2.施政方針演説の内容
施政方針演説では、香港が世界各国と緊密に連携し、多様な人脈を築きながら成
長してきた経緯を述べたうえで、中国本土の改革開放・成長と共に今後もアジア太
平洋における優位性と発展性を保つ方針を示し、経済産業や市民生活が引続き発展
するために、政府は経済成長と住宅問題、貧困問題、高齢化問題、環境問題等に効
果的な政策を講じることを約束した。
また、中国政府に支持され、香港基本法(日本の憲法に相当)にも明記されてい
る「一国二制度」に基づいて現在の「香港市民による高度な自治」が可能となって
おり、その結果、香港が「物流・金融の国際的拠点」として成長していることを強
調するとともに、国家主権と香港基本法の権威を守ることが香港全体の利益に繋が
ると述べた。
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香港は過去の歴史的背景から積極的不介入政策による「小さな政府」と「最小限のインフラ整備」によって低税率を実現し、そ
れに伴う内外の企業活動・貿易の活発化によって大きな経済発展を遂げてきた経緯がある。
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業務開発室
アドバイザリーチーム
担当:西島 智 (Satoshi Nishijima) 木上 寿治(Toshiharu Kigami)
小島 知之(Tomoyuki Kojima)
TEL: (852) 2823-6991 Fax: (852) 2536-9107
Email: [email protected]
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(1)経済の発展のために
①経済発展政策
経済発展の為には、政府が市場の状況に応じ適切に対応することが必要2であると
し、経済発展委員会の設置を含む具体的な政策として以下の内容を発表した。
■【経済発展委員会の設置】
「経済発展委員会」を設置し、政府主導で高レベル且つ分野の垣根を越えた検討
を行い、その中で香港独自の優位性や中国本土政策の有効活用法を探り、当地の経
済基盤拡大と長期的な成長促進に向けた戦略的な政策の立案を行うこととした。
経済発展委員会には「航空・運輸業界部会」、
「展示会・旅行業界部会」、
「製造業・
ハイレベル科学技術および文化・創造(クリエイティブ)産業部会」、
「専門サービ
ス業部会」の4つの専門作業部会が置かれ、専門性を活かした提案を政府に対して
実施する。
■【香港と中国本土との協力】
中国香港経済貿易緊密化協定(CEPA)を更に活用するため、
「CEPA 協働作業部
会」設置を中国商務部に提案し、合意を得たことを発表し、本土全域への香港企業
進出支援や、中小企業による CEPA 利用を促すこととした。
また、中国中央政府によって「先行先試の地域(開放政策などを他地域に先駆け
てテストする地域)」に位置付けられている広東省と香港との「協力枠組み協定」
に沿って、資金・人材・技術面で優位性と経験を持つ香港が広東省と金融業・貿易
業・観光業などでの協力を推進する。
■【香港と海外との経済関係】
各国と自由貿易協定(FTA)締結を進めるとともに、香港の中国・ASEAN 自由貿易
協定(ACFTA)への加盟に尽力する。
②産業発展政策
■【金融サービス業の発展について】
中国中央政府による第 12 次5ヵ年計画において、香港はオフショア人民元業務
の中心であること、国際的な資産管理センターであることが盛り込まれていること
に触れるとともに、人民元建てクロスボーダー決済と人民元建て債券・証券の発行
を取り上げ、香港は人民元の国際化に向けた理想的な実験場であると述べた。
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「市場が良好である場合、政府は経済に対して不介入であるが、市場が悪化した状況下では政府が経済に積極介入すべきであ
る」ということが梁振英行政長官の持論。
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また、政府は香港の金融業の多様化と国際金融センターとしての地位と機能向上
の為に政府に対して専門的でハイレベル且つ有効的な意見提案を実施する機関と
して「金融発展局」を設立する。
■【工業・商業及び専門サービス業務の発展について】
CEPA により、製造・物流業のみならず医療等のサービス業を営む香港企業も優
先的に中国本土進出が可能である。
また、香港には国際的な司法機関や法律事務所が設置されており、アジア太平洋
地域における国際的法律サービスの中心となっていることから、「調査和解監督指
導委員会」を設置し、国内外に香港の裁判や調停関連サービスを展開する。
■【国際運輸センターとしての香港について】
中国中央政府による第 12 次 5 ヵ年計画では、香港が国際物流において中心的地
位を築くことが目標とされているが、香港の運輸業は高度に国際化しており、充実
した金融インフラや整備された法制度、優秀な人材により運輸業に関連するサービ
ス業務も良好に発展している。
政府は今後設置される専門研究部会による意見を参考に、一層香港の運輸サ
ービスの発展とグループ効果3を推進する。
③優勢産業育成政策
政府が設置を予定している経済発展委員会は、香港のもつ 6 種の優勢産業(「医
療」
、
「環境保護」
、
「検査測定・認証」
、「教育」
、
「先端科学技術」、
「文化・クリエイ
ト」)の育成と発展および前政権時代の政策の見直しについて検討を進め、政府に
意見を提出する。
④中小企業発展政策
中小企業が香港経済の支柱であることを強調し、「中小企業委員会」の指導の下
に中国国内および海外市場開拓や研究開発や創業支援、そしてブランド育成などを
行う。
(2)住宅および土地問題解決のために
香港は海に囲まれ山の多い地形であるため、住宅用の土地面積が乏しく且つ住宅
開発が困難なこと、また、中国本土はじめ海外からの投資資金により香港の物件価
格および賃貸価格が高騰を続けていることから、現在、一般市民が一生かかっても
住宅を手に入れることが難しい状況になっている。
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香港運輸業界で行われている運輸会社間の相互協力体制。
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そのため、今回の施政方針演説では、この住宅問題を最大の民生問題と位置付け、
現在進行中の公共住宅の建設計画に加え、新たな建設用地確保と建設計画を発表し、
短期および中・長期的な住宅提供を約束する内容となっている。
①新規住宅・土地供給計画
■【短期・中期的新規住宅供給計画】
ⅰ)2018 年から 5 年間に公共住宅を最低 10 万件以上供給することを政府目
標とする。
ⅱ)品質を保ちつつ施工を早める建築方法を検討するとともに、建築評価の簡
素化を検討する。
ⅲ)香港住宅協会に沙田の土地を割り当てるとともに、沙頭角地域を開発し公
共賃貸住宅を建設することにより、合計約 1,000 戸を供給する。
ⅳ)住宅の建ぺい率を適切に引き上げる。
ⅴ)公共住宅委員会は、公共住宅の悪用取り締まりを強化し悪用物件を回収す
ることにより毎年約 7,000 戸以上を確保する。また、公共住宅の新規建築
により毎年 15,000 戸を確保し、合計で毎年 22,000 戸以上を供給する。
ⅵ)新しい持ち家プロジェクトである「居屋計画4」による公共住宅の低価格分
譲を 2014 年に 2,100 戸先行販売する。なお、公共住宅の購入資格の無い月
収 1 万香港ドル以上 4 万香港ドル未満の香港永久性居民についても「居屋
計画」に申請可能とする。
ⅶ)
「置安心5」計画を廃止し、置安心計画用とされていたダイアモンド・ヒル
地域など 4 箇所の土地を「居屋計画」による分譲住宅用に変更する。
■【長期的新規住宅供給計画】
「長期的住宅計画監督指導委員会」を設立し、公的・私的問わず市民の全ての住
宅需要(賃貸・所有含む)を再調査すると共に、社会階層各層の中長期的住宅需要
を評価し、新長期的計画を策定。その後、それに対する市民へのヒアリングを予定。
■【新規土地供給】
人口増加に伴い、土地需要は一層高まることが予測される。このため、政府は産
業用地の住宅用地への転用可否や、カイタック地域の工業用建物を住居用に改築出
来るか否かなど、あらゆる手段を検討する。なお、大規模な土地開発には 10 年、
20 年といった長時間を要することから、土地開発・供給は香港の将来を担う現在の
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公共住宅の低価格分譲販売スキーム。
公共住宅を即購入することが困難な状況を改善するために、入居後5 年間は家賃形式で毎月資金を貯蓄する機会を設け、5 年
経過後に当該物件を購入するかどうかを選択可能とした住宅購入スキームで、曾蔭権(Donald Tsang)前行政長官による 2012
年-2013 年予算案に盛り込まれていた。
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青年らの為の対策。
②既存計画見直し等による住宅開発用土地供給増加
■【短期・中期的な住宅開発用土地供給増加】
政府は既存計画の見直し等による短期・中期的な住宅・土地供給増加を強力に推
進。
ⅰ)昨年 8 月に発表された約 11,900 戸の住宅建築計画について計画区域の見直
しを行い、2016 年までにその見直しを完了させる予定。また、政府用地を
住宅用地に転用することで更に土地供給が可能。
ⅱ)植樹されず荒廃あるいは整地されずにいる「緑化地帯」を 2017 年までに
住宅用地に転用することで約 13,500 戸の住宅供給が可能。その後数年で更
に 9,500 戸の供給が可能。
ⅲ)現在進行中の工業用地の転用計画により、約 14,600 戸の住宅供給が可能。
更に計画が順調に進行した場合は 5,800 戸の住宅供給が可能。
ⅳ)西鉄線錦上路駅周辺の開発を行う(約 8,700 戸の住宅供給が可能)
。
ⅴ)都市再開発局は、今後 4 年間で 4.9k㎡の土地を供給可能(約 4,700 戸の住
宅供給が可能)
。
ⅵ)過去 3 年間に「城市規制委員会」に住宅用途への転用申請のあった工業用
地を再検討する(転用可能となった場合は約 45,000 戸の住宅供給が可能)
。
ⅶ)ダイアモンド・ヒル地域やラマ島など 4 箇所にある未開発地を積極的に利
用することを検討する(公的私的住宅建築を行う場合、約 15,000 戸の住宅
供給が可能)
。
■【長期的な住宅開発用土地供給増加】
ⅰ)新界東北新発展地区の開発を行う(約 53,800 戸の住宅供給が可能)
。
ⅱ)洪水橋新発展地区を開発する。
ⅲ)新界北部地区(粉嶺地区および上水地区)を開発する。
ⅳ)北部および元朗地域の荒廃農地の転用を検討する。
ⅴ)ランタオ島の積極的開発・発展を行なう。
ⅵ)ビクトリア湾以外の地域(ランタオ島北部など数箇所)で海の埋め立てに
よる土地拡大を検討する。
ⅶ)地下空間および都市の地下施設の開発を研究する。
③商業用地・施設増加政策
■【商業用地と商業施設の増加政策】
ⅰ)九龍東地区開発事業の推進により香港に中環地区に匹敵する第2の商業区
を建設する。
ⅱ)カイタック空港跡地の開発発展を推進する。埠頭は今年度中にオープンし
公共住宅の入居も開始予定。
ⅲ)老朽化した工業ビルの改修活動を推進し、工業以外の用途への使用も可能
な建物に再生することを検討する。
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③自然環境保全・文化財保護
■【港湾と海浜の保全、歴史的建築や文物の保護】
政府機関として「海浜管理局」を設置し、香港の貴重な財産であるビクトリア湾
の保全に努める。
(3)貧富格差の拡大、高齢化問題、労働問題解決のために
①貧富格差対策
■【貧富委員会の設置】
「貧困援助委員会」を設置し、「貧困」の認定と具体的な援助政策を政府に提案
し、実行する。
②高齢化対策
■【高齢化問題と介護対策について】
ⅰ)高齢者に対するサービス券配布を実験的に計画する。
ⅱ)社会福利署は、2014 年から 2015 年までに高齢者用施設のベッド数を 1,700
床増設するとともに、病院管理局は病院のベッド数を 130 床増設する。
ⅲ)6 年内に 9 億香港ドルの予算により高齢者介護施設を改修する。
ⅳ)障害者就業訓練計画(通称「日の当たる道」訓練計画)で提供する手当て
と就業試用給料補助金額を引き上げる。
③労働者対策
■【労働者問題対策について】
ⅰ)労働者の交通費負担を軽減することを検討する。
ⅱ)12 箇所の就業支援施設で無料で就業支援を実行する。
ⅲ)「労働者顧問委員会」は男性の3日間の出産休暇取得制度化を支持する。
政府は早期立法化を推進する。
ⅳ)労働局は昨年 11 月に「標準労働時間政策研究報告」を発表する。政府は、
政府及び雇用主、労働者の代表による「標準労働時間専門責任委員会」を
設置して検討と議論を重ね、今後の標準時間制度の方向性を模索する。
ⅴ)外国人家政婦の雇用主に課していた「外国人家政婦雇用税」を今年 7 月末
に廃止する(廃止に伴う政府の税収減は毎年約 15 億香港ドルと試算)
。
(4)自然環境の保全と育成のために
①環境汚染対策
■【大気汚染改善】
ⅰ)大気汚染を、2020 年までに「新大気指数」に基づき改善する。
ⅱ)100 億香港ドルを予算計上し、大気汚染影響度が大きいディーゼル車 8 万
台以上を削減する。
ⅲ)公共交通機関の車両更新を進め、電気自動車も導入する。
ⅳ)遠洋航路の汽船に汚染排気の少ないディーゼルオイル使用を推奨する。
ⅴ)
「環境と自然保育基金」に 50 億香港ドルの予算を計上する。
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■【廃棄物削減とリサイクル促進】
廃棄物について、廃棄物の減少とリサイクルの促進を中心に進め、
「生産者責任制」
と「廃棄者自己負担制」を段階的に実行する。
(5)教育と医療について
①教育対策
■【幼児教育】
「幼児教育無料化可能性研究専門委員会」を設置し、幼児教育無料化の検討を開
始する。
■【学校教育】
2013 年度から、各学校への毎年の特殊学習支援手当の上限を現在の 100 万香港ド
ルから 150 万香港ドルへ増額する。
②医療対策
■【医療の充実】
政府が昨年実施した病院管理局に対する 25 億香港ドルの追加支援(通年の支援額
404 億香港ドル)
により、
病院管理局は 2014 年に緊急医療ベッドを 150 床増設する。
■【監督指導委員会の設立】
病院管理局は、設立から 20 年超の間、国際的に高水準の医療を提供し続けている
が、政府は、今後の高齢化と人口の増加に対応するために「監督指導委員会」を設
立し、病院管理局の運営支援を実施する。
■【中国医療の積極支援】
政府は「中国漢方医薬発展委員会」を設立し、漢方医学の発展を支援する。
(6)交通網の整備と文化芸術等の振興について
①交通・運輸政策
香港地鉄(MTR)の路線整備を推進し、南香港島線や沙田‐中環線などを来年か
ら 2020 年までに相次いで開通させる。これにより香港の人口の 70%が住む地域を
鉄道が結ぶことになる。
②文化芸術と体育の発展
香港政府は、文化芸術予算として毎年 30 億香港ドル以上を計上して支援している
が、今後も映画など映像分野を含む芸術人材の教育を支援する方針。
また、2012 年のロンドン五輪の成果6を踏まえ、体育教育・文化の育成を支援すると
ともに、世界レベルのスポーツ大会を誘致する活動を推進する。
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「中国香港」として参加し、自転車競技で銅メダルを獲得するなど健闘。
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(7)選挙制度と地方行政改革について
■【普通選挙に関するヒアリング実施と地方行政について】
ⅰ)時機を見て、2017 年特別区首長選挙7の方法と 2016 年立法会8選挙方法に
ついて市民へのヒアリングを実施する。
ⅱ)18 の区議会に、各 1 億香港ドルずつ予備予算を置き、各区の重点改善項目
に使用する。
3.まとめ
梁行政長官による初の施政方針演説は、経済発展に向けた経済発展委員会、金融発
展局などの設立や、貧困格差問題など民生問題への対策として貧困援助委員会などが
政府に対して対策提言を行うなど、組織面において政府主導色が強化されている。
今回の内容に対して梁行政長官を支持する親中派政党や一部の市民・業界団体から
は、「各種委員会設置は市民の要求に迅速に対応する為の良策」、「中国・欧州経済の
低迷の影響を受ける現況下では、むしろ政府の介入が必要」、
「経済発展委員会設置は
広く各業界から意見を聞く姿勢の表れ」など、肯定的な意見が出された。
一方で、民主派政党や経済団体等からは、「経済振興策はじめ民生対策にも具体性
が無い」、
「18 もの既設・新設専門委員会・部会の乱立は、単に梁行政長官支持者の受
け皿を用意する為のものだ」といった批判的意見が出されたほか、多くの市民から不
動産価格高騰に対する追加抑制策が盛り込まれなかったことや、住宅用地確保の為の
計画も長期間を要するものであることに失望の声が挙がった。
演説後に香港大学民意研究計画が市民 1,021 名を対象に行った調査では、施政方針
の内容に「満足」と回答した人が 35.8%(前回9は 47%)
、
「不満」と回答した人が 24.4%
(前回は 19%)となり、前回に比べ大きく評価が低下している10。
しかし今回の施政方針演説は、市民による反対デモが頻発している「国民教育」の
導入問題11や梁行政長官本人の違法改築問題など、梁行政長官への世論の逆風の最中
での発表であり、施政方針の内容に関わらず批判的な反応になりがちな環境であるこ
とを勘案する必要があろう。
演説直後から不動産価格が上昇に転ずる中、梁行政長官の真価が問われるのは、今
後発表が予定12されている「2013 年‐2014 年予算案13」とその実行力となる。引続き
動向を注視したい。
以 上
7
香港特別行政区行政長官選挙。
香港特別行政区立法会、日本の国会に相当。
9 曾蔭権(Donald Tsang)前行政長官最後(2011 年)の施政方針演説。
10 このほか、
「普通」と回答した人が 34.5%、無回答が 5.5%。
11 義務教育期間に中国国民としての道徳教育
(共産党への理解等)を実施する政府方針に対し香港市民が強く反対し延期された。
12 2013 年 2 月下旬との報道があるが、日程は未定。
13 施政方針に基づいて具体的な予算と日程を立法会に提案するもの。立法会での議決後に実行される。
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2013年施政方針演説概要一覧
政府が「
経済発展委員会」を設立し、その下に「
航空・運輸業界部会」、
展示会・
旅行業界部会」
、「製造業・
ハイレベル科学技術および文化・
政府による経済へ 「
の関与
創造(
クリエイティブ)産業部会」
、「
専門サービス業部会」
の4つの専門
金融
経済政策
法律
運輸
本土との協力
海外関係
中小企業
住宅と土地の供給
税制
貧困対策
高齢化対策
民生政策
介護対策
介護施設対策
障害者対策
大気汚染対策
環境保護
廃棄物対策
幼児教育
教育
教育、医療
医療
普通選挙
地方行政と政制発展
区議会予算
作業部会など4分科会を置き、政府に提案実施。
オフショア人民元業務を発展させ、「
金融発展局」
を設立し、香港金融業
を更に発展させる方法を研究。
国内外で香港仲裁調停サービスを進め、アジア太平洋地区の法律サー
ビス中枢である香港の地位をアピール。
国際航運業務を発展させ、付加価値の高い航運業務へ展開。
本土と香港が連携したC EP A 協働作業部会を設置しC EP A 利用を促進
するとともに、中国全土への進出を支援。広東省と香港との協力枠組み
協定に沿い、協力を促進。
A C FT Aへの加盟に尽力し、各国とのFTA締結を促進。
中小企業とのコミュニケーションを強化し、適当な支援を増強。香港の
商工会がブランド向上のために内陸に展示会を開くことを支援。
新規計画による住宅・
土地供給増加。
既存計画の見直し等による住宅開発用土地供給増加。
外国人家政婦を雇う家庭に課せられている「
家政婦税」
を廃止。
「
貧困援助委員会」
を設置し、「貧困」
の認定と具体的な援助政策を提
案実行。
高齢者に対するサービス券配布を実験的に計画。
社会福利署は、2014年から2015年までに高齢者用施設のベッド数を
1,700床増設するとともに、病院管理局は病院のベッド数を130床増設。
6年内に9億香港ドルの予算により高齢者介護施設を改修。
障害者就業訓練計画(通称「
日の当たる道」
訓練計画)
で提供する手当
てと就業試用給料補助金額を引き上げ。
大気汚染について、2020年までに「新大気指数」に基づき改善。
100億香港ドルを予算計上し大気汚染影響度の高いディーゼル車8万
台以上を削減。
公共交通機関の車両更新を進め、電気自動車も導入。
遠洋航路の汽船に汚染排気の少ないディーゼルオイル使用を推奨。
「
環境と自然保育基金」
に50億香港ドルの予算を計上。
廃棄物減少とリサイクルの促進を進め、「
生産者責任制」
と「
廃棄者自
己負担制」を段階的に実行。
「
無料幼稚園教育研究専門委員会」
を設置し検討開始。
2013年度から、各学校への毎年の特殊学習支援手当の上限を150万
香港ドルに増額。
病院管理局は、2014年に緊急医療ベッドを150床増設。
監督指導委員会を設立し、病院管理局の運営支援を検討。
「
中国漢方医薬発展委員会」
を設立。
2017年長官選挙方法と2016年立法会選挙方法について市民へのヒア
リングを実施。
18の区議会に、各1億香港ドルずつ予備予算を設定、各区の重点改善
項目に使用。
(
資料)
香港政府資料、ホームページを基に三菱東京UFJ銀行香港支店業務開発室作成
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