TDK 株式会社(東京都港区) http://www.tdk.co.jp/ システム認証事業

■ システム認証事業本部
ISO14001 マルチサイト認証(統一認証)の取り組みについて
TDK 株式会社
生産本部 安全環境グループ システム管理課
主事 井川 正敏 様
TDK 株式会社(東京都港区)
http://www.tdk.co.jp/
ビューローベリタス主催セミナー
「統一認証のあり方とポイント~ガバナンスの強化とコスト最適化の両立~」
(2015 年 2 月 3 日/東京・千代田区)でのご講演より
■ はじめに~TDK とは
私が所属する安全環境グループは、労働安全衛生と環境マネジメントに関す
る本社統括機能を担っており、本日の講演タイトル「マルチサイト認証(統一認
証)」は、ISO14001 及び OHSAS18001 のマルチサイト認証を指しています。
本日は主に ISO14001 認証マルチサイト化の取り組みについてお話します。
弊社の概要ですが、TDK は 1935 年、世界初となるフェライトコア(磁性材料)
の工業化を目的に設立されました。「新しい価値を素材レベルから創り上げる」
を TDK ものづくりの原点にしています。コアコンピタンスとして、世界に誇る 4
大技術を持っています。
①世界初のフェライトコアを原点とする素材技術
②国内発のシンクロカセットテープ等のオーディオ磁気テープ技術
③電子機器の小型化、軽量化を促進するファイン積層(チップインダクタ)テクノロジー
④驚異的な高記録密度化を達成した大容量ヘッド技術
これらの技術を駆使して、様々な電子部品を製造しています。
この他にも、入手リスクの高いレアアースを使用しない素材の開発や大容量 HDD、高容量リチウムイオン電池
等、最先端技術の開発に取り組んでいます。
拠点に目を向けると、海外拠点(連結会社)は、南北アメリカ(連結 17 社)、ヨーロッパ(連結 31 社)、アジア(連結
55 社)に合計 103 社、国内には 13 社、17 の拠点があります。国内拠点(工場)の半数近くが秋田県に集中して
いますが、これは創業者が秋田県出身だったことに因るものです。ちなみに今回のマルチサイト化にあたり、秋
田県の拠点が持つこだわりが大きく影響した経緯がありました。これについては後ほどお話しします。
■ TDK の環境活動
TDK の環境活動の核となっているのは、2011 年度に制定した「TDK 環境活動 2020」です。これは電子部品業
界初の「カーボンニュートラルの達成」を目指した活動です。
カーボンニュートラルとは、「生産活動で排出される CO2 排出量(環境負荷量)」と、「製品による CO2 排出削減
量(環境貢献量)」の差引をゼロにするこ
とです。
2013 年度の実績で言いますと、排出量
が 106.3 万トン、削減量が 88.6 万トンと
なっています。活動をこのまま継続すれ
ば、2020 年度までには、双方が 100 万
トンぐらいのラインに近づきプラスマイナ
スゼロになり、カーボンニュートラルが達
成できる見込みです。
ではこうした活動は外部からはどのように評価されているのでしょうか。
まず株式会社日経リサーチによる「環境経営度調査」では、2014 年度は約 430 社中 35 位でした。
国際非営利団体 CDP(Carbon Disclosure Project)の調査結果では、データの開示度合を評価するディクロー
ジャースコアが 100 点中 73 点。気候変動緩和への貢献度や適応度合いを示すパフォーマンススコアは A~E
ランク中 B ランクでした。日系企業の平均スコアが 78 点と B ランクですから、弊社は日系企業の中では平均レ
ベルと言えるでしょう。
■ マルチサイト化の理由
次に、なぜマルチサイト化に取り組むことになったかについてお話したいと思います。
1995 年、ISO14001 認証取得が企業価値を高めるという当時の風潮を受け、とにかく取得しようと、各事業部が
取得に取り組みましたが、いざ 22 サイトが個別に取得すると相当な費用がかかり、維持管理業務もかなりの負
担になることがわかりました。
こうした問題を解決するために、またマネジメントを強化するためにもマルチサイト認証への移行が必要だという
結論になったのです。そこで 2002 年に準備委員会をつくり、検討を開始しました。
ちなみにマルチサイト化に対して各拠点から反対の声は全く上がりませんでした。それまで各拠点が認証費用を
負担していましたが、マルチサイト認証になると本社が費用を負担することになる点が大きな理由のようです。
■ マルチサイト化の経緯
弊社の環境活動は、1993 年に自主行動目標である「TDK 環境ボランタリープラン」を策定したことに始まります。
1995 年、各事業所で ISO14001 に基づく環境マネジメントシステムの導入を開始しました。大分県の三隈川工
場をモデルケースとして本社がシステム構築の支援を実施し、1997 年に弊社初となる ISO14001 認証の取得を
果たしました。その 1 年後の 1998 年には、TDK 本体の全ての生産拠点及び研究開発拠点(サイト数は 15~16)
で ISO14001 認証を取得、2000 年には国内の TDK グループ全ての生産拠点及び開発研究拠点(関連会社)が
続き、国内 TDK グループの全ての生産拠点と研究開発拠点での認証取得が完了しました。
2 年後の 2002 年に、EMS(環境マ
ネジメントシステム)統合準備委員
会が発足します。発足理由は、サイ
ト別の認証取得に複数の問題があ
った点、また全社的により前向きな
環境活動を展開する上で、方向性
を合わせ目標を設定をすることが必
要になった点にありました。
本社メンバーと ISO 認証を熟知して
いる環境管理責任者 5~6 人で構
成された準備委員会では、1 年スパ
ンのプロジェクトとして何をなすべき
かの検討が進められました。
そして 2003 年にマルチサイト認証の第 1 歩として、本社の安全環境グループが ISO14001 認証を取得。この拠
点を基点にサイトを拡張する手法を進めました。最終的に 2006 年に国内全製造拠点の ISO14001 認証の統合
が完了しました。2006 年時点で最終目標である「マルチサイト化完了」に至らなかった理由は、認証機関を 1 社
に統合できなかったためです。従って、本社安全環境グループをセンター機能とする統合の形は一先ず整えら
れたものの、認証機関が異なるため、組織単位でのグループごとに認証していく等内部に多少ひずみを抱えた
状態でした。
2006 年の国内全製造拠点の統合完了後すぐに、グローバルでの統合に向けての取り組みを開始しました。最
初に EMS 統合を図ったのは中国です。2007 年に中国のセンター機能を持つ上海の中国本部が ISO14001 認
証を取得、この中国本部を基点に中国の認証統合を進める計画でした。
2013 年にグローバル展開を視野に、秋田地区を含む全サイトの認証機関をビューローベリタスに移行しました。
そして昨年(2014 年)にはアメリカエリア 4 サイトもこの中に追加することができました。
■ OHSAS18001 認証のマルチサイト化
ISO14001 認証のマルチサイト化は全サイトを対象とする本社主導の取り組みでしたが、OHSAS18001 認証に
ついては希望する事業所のみを対象にマルチサイト化を進めました。
2003 年にマルチサイト認証に向けたシステム統合として、全社労働安全衛生システムを構築し、運用を開始し
ましたが、OHSAS18001 認証取得については各サイトの意思に委ねました。
2004 年に認証を取得した本社安全環境グループと三隈川工場を基点として、マルチサイト化を開始。2006 年に
静岡工場、2010 年に甲府工場が手を挙げ、マルチサイト認証に追加されました。
2011 年には秋田地区の事業所がまとまり、ある認証機関での審査を経てマルチサイト認証を取得、運用を行っ
ていましたが、2013 年に認証機関をビューローベリタスに移行して、本社主導のマルチサイト認証に追加されま
した。
ここで OHSAS18001 認証のマルチサイト化の裏技をお伝えしましょう。実は、労働災害が発生した工場につい
ては、再発防止対策としてマルチサイト認証への追加を条件としました。単に労災対策を実施するだけでなく、マ
ネジメントシステムを構築・運用してマルチサイト認証に参加する、という取り組みを有効な労災対策の 1 つとみ
なしたというわけです。
■ EMS 統合の進め方
まず EMS 統合マニュアルを作り、それに付随して管理体制、環境活動という全社的な統一の目的・目標、「環境
活動 2010」、内部監査体制の整備、環境影響評価の方法の統一といったシステムを構築し、それらを各事業部
に導入した後に、まとまった形で審査を受けました。
最初に秋田地区以外の拠点が統一システムを導入し、認証を順次取得をしました。秋田地区は認証機関に強
いこだわりを持っており、他の認証機関での取得となりました。
関係子会社とのコミュニケーションも当時は難しい状況にありましたが、1 年を統合への準備期間とし、マルチサ
イト化への参加という段階に進みました。
このような経過を経て EMS 統合が完了するまでには、2003 年から 2006 年までの 3 年を要しました。
その後、将来的なグローバル展開を視野に認証機関を選定し、2013 年にはビューローベリタスに移行(統一)し、
国内マルチサイト認証が完了しました。
■ グローバルマルチサイトの方法
現在、弊社には 110 社以上の拠点があり、これら全部を本社が一括してマネジメントするのは困難です。
そこでグローバルを 3 つのエリア(アジア、中国、アメリカ)に分けて、各地で現地コーディネーターを育成し、一定
の権限を与えています。
担当コーディネーターがエリア内の全情報を本社に報告し、本社の指示もコーディネーターを通して展開すると
いうシステムになっています。
2014 年にアメリカ地区がマルチサイト認証に参加しましたが、それはアメリカ地区のコーディネーターが優秀で、
マネジメントシステムの構築が円滑に進展した結果でした。
その他のエリアについては諸事情があり、マルチサイト認証にはまだ追加されていません。例えば中国エリアは
M&A により関連会社数が増加しており、マルチサイト化へ進むのは難しい状況です。またアジアエリアは、フィリ
ピン、マレーシア、インドネシア、タイ等複数の国を抱え、統一のハードルが高いのです。
そのような事情を踏まえ、今後は、コーディネーターを通じた環境活動が適切に機能し始めた時点で、マルチサ
イトへの組み入れを検討する予定です。
■ 環境マネジメント組織と内部監査体制
マルチサイト化にともない、各サイトで認証を取得していたそれまでの体系を、社長と担当役員をトップに据えた
組織に変更しました。
本社の安全環境機能長が全社の環
境管理責任者となり、従来の事業所
のトップがサイトの環境管理統括者
となり、サイトごとに環境管理責任
者がいるという組織です。
また、内部監査の体制ですが、監査
員には本社監査員とサイト監査員と
があります。
本社監査員には各事業所の環境管
理責任者レベルの人や、地区のサ
イトの環境管理の事務局的な人を
中心に、資格要件を満たした 20 人
程度が安全環境担当役員から任命
され、その監査範囲は、本社安全環境機能長、サイトの環境管理統括者、環境管理責任者です。
一方、サイト監査員の監査範囲は、サイト部門を見る役割と責任を持ちます。
■ マルチサイト化のためのシステムの統合
弊社がマルチサイト化のために制定(整備)した全社統一システムは、大きく 4 つあります。
(1) 環境憲章/全社統一環境方針
規格の要求事項を満足するよう策定されています。
(2) TDK 環境活動/全社統一環境目的・目標
「カーボンニュートラルの達成」「環境負荷量の低減」「環境貢献量の拡大」といった全社共通目標が設定され、
それらをサイトの目標プログラムに展開し、期末にパフォーマンスを評価するというシステムです。高いパフォー
マンスをあげたサイトは表彰されます。
(3) 環境マネジメントシステム文書体系
具体的に言うと、文書の整理整備と、文書管理の一元化です。
まず文書を一次文書から四次文書に分けて、それぞれの役割と管理者を明確にしました。
一次文書は環境マネジメントシステムの核となる要素及び関連文書で、いわゆる「統合マニュアル」です。
二次文書は環境マネジメントシステムを運用するため全社レベルで適用される事項の規定文書で、いわゆる「要
領」です。
一次文書と二次文書は本社レベルの文書でわれわれ生産本部 安全環境グループが作成します。
三次文書は、一次文書と二次文書に整合性を持たせてサイトで作成されます。従ってマルチサイト化にあたり、
各サイトはそれまでの文書を全部捨て、新システムに準じた三次文書、四次文書を作成しました。
また二次文書については、2006 年に ISO14001 と OHSAS18001 の二次文書を統合し、その後は統合審査に
対応しています。
(4) 文書や記録のデータベース化
文書と記録はデータベース化して、社内データベースを通じて従業員全員に開示しています。他のサイトの運用
状況の把握や、内部監査前の対象サイトの予習などに便利です。また、改訂文書の周知にも活用しています。
マルチサイト化のメリットとデメリット
マルチサイト化のメリットは、大きく 3 つあります。
(1) ガバナンスの強化
「TDK 環境活動」の目標に対して、全社がベクトルを合わせて取り組む「ONE TDK」の体制が促進されました。
特に関連会社とのコミュニケーションが良くなりました。それまでは関連会社の社長を通じて様々なことをお願い
していたので、隔靴掻痒な感じが否めず、時間もかかりましたが、システム統一により、要求事項が共有され、レ
スポンスの精度やスピードが上がりました。
また活動実績の見える化が進み、それに基づいて実績評価がなされるため、パフォーマンスが良くなってきたこ
ともメリットです。
(2) 認証審査費用と工数の削減
3 年間で、審査費用で 23%、審査工数で 18%削減できました。
(3) EMS 維持管理業務の軽減
統合システムによる法改正情報の対応や、フォーマット統一により、業務負荷が軽減されました。
一方、デメリットとしては、全社センター機能(本社安全環境グループ)の影響力が大きくなり、サイトの裁量権が
低下したことがあげられます。
マルチサイト化を開始した頃は各サイトに精通した担当者がいましたが、時間の経過と世代交代により担当者の
力量低下につながっているところもあり、それが弱みになりつつあるかもしれません。
■ 今後について
グローバル化の流れは止められないので、海外の 3 エリアに置いているコーディネーターの能力アップが課題で
す。そしてレベルアップしたコーディネーターを通じて環境マネジメントシステムと労働安全衛生マネジメントシス
テムの強化、及び ISO14001 と OHSAS18001 の認証マルチサイト化を図りたいと思っています。
国内においては担当者のスキルアップが課題です。2015 年度の規格改訂により、システムを大幅に変更する
必要がありますので、その機会を活用して、各サイトに移行内容の情報共有と理解を促し、それによって担当者
の力量アップにつなげていきたいと考えています。
ご清聴ありがとうございました。
ビューローベリタスのサービス:グローバル認証プログラム(統一認証/統合認証)