からだの中の海 - TDK株式会社

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TDK Science Information Vol.Ⅲ
境界はワンダーランド
短い時間のあいだに、ある種のプランクトンが大増殖して海
や湖沼の水の色が変化する現象を赤潮と呼びます。プラン
クトンの種によって赤褐色、緑色、黄緑色、青緑色などさまざ
まですが、海の場合はふつう赤潮と総称されています。近年
では海洋汚染などによる海水の富栄養化問題と関連して研
究がすすめられています。
写真は、エチオピア近海の赤潮。
からだの中の海
血液は体内に取り込まれた太古の海水の名残といわれます。
海ばかりではなく、内部環境である人体の血液にも
今、重大な異変が起きているようです。
血液は太古の海水
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海水を水で3倍に薄めると、人間の血液の塩分濃
異なる海流が接する境界のことを“潮境”といい
度とほぼ等しくなります。これは人間を含む脊椎動
ます。潮境が海面に現れたところでは、海水の色が
物の遠い祖先が、海洋から陸に上がって生活するよ
違ったり、泡や浮遊物などが集まったりして筋状に
うになったとき、海水の塩類濃度は現在の3分の1
見えます。これは“潮目”
と呼ばれ、昔から豊漁の目
の薄さであったことを物語るといわれます。
印とされてきました。潮目というのは海流の吹きだま
TDK株式会社編
マグネットワールド
磁石の歴史と文化
人類史最大の境界問題
りのようなもので、浮遊生物であるプランクトンも多
く、これをエサとする魚類が群れをなして押し寄せ
るからです。
暖流である黒潮と寒流である親潮が出会う東北
第1章 人類と磁石の出会い
第2章 磁石に魅せられた科学者たち
第3章 磁性の謎解きと20世紀の磁石
海水の塩類濃度が一定であるように、海水のpH
は約8.1の弱アルカリ性を保っています。海水に溶け
込む大気の二酸化炭素の量が、気温などによって増
地方の三陸沖は、世界的な好漁場として有名です。
減しても、このpHは変動することはありません。これ
黒潮という名は、透明度の高い海水が青黒く澄んで
は海水に含まれる炭酸やその塩類によって、pHが
うになります。このことから心臓の拍動には、少なく
定状態を保ち、海水の温度や大気の温度も、規則
みえることに由来します。かたや親潮の海水の透明
一定に保たれているからです。これは化学用語で緩
とも食塩のほかに、カルシウムイオンとカリウムイオン
的な変動を繰り返します。これは海洋も大気も、地
度は低く、色もやや濁った緑色を呈しています。こ
衝作用と呼ばれます。
が必要なことが分かります。
球上で循環しつつフィードバック制御をしているから
の違いは主にプランクトンによるものです。親潮の海
興味深いことに血液にも似たような緩衝作用があ
人間の血液においても、カルシウムやカリウムのイ
です。これを言い換えれば、地球システムは環境破
水は黒潮とくらべて著しく栄養塩類が豊富です。プラ
り、約7.4の弱アルカリを保ちます。酸性食品やアル
オン濃度がわずかに増減しただけで、心臓機能は
壊に対して、ある程度のバランス回復能力があるこ
ンクトンはじめ、海藻や魚類をよく育てるので、親潮と
カリ性食品を食べたからといって、血液のpHがすぐ
重大な影響を受けます。したがって、生物進化の過
とになりますが、環境破壊が度を過ぎれば、地球シ
呼ばれるのです。
に酸性やアルカリ性に傾かないのは、血液の緩衝作
程で、血液のイオン組成は、ほとんど変化しなかっ
ステムは暴走・迷走を始めます。
用によるものです。
たと考えられます。血液は体内に取り込まれた太古
プランクトンとは、浮遊生活を送るさまざまな海洋
生物の総称です。顕微鏡でしか観察できない細菌類
海水には、ナトリウム、塩素、カリウム、カルシウム、
の海水の名残といわれるゆえんです。
プランクトンの大量増殖による赤潮も、以前は季
節的な自然現象でした。しかし、現在の赤潮の多く
や藻類などの微小プランクトンから、ルーペでも観察
マグネシウムなどのイオンが含まれています。海水の
19世紀のフランスの生理学者ベルナールは、組織
は、海洋汚染が原因となっています。近年は有害化
できる体長2∼3mmのミジンコ類のほか、体長が数
塩類のほとんどは、食塩(ナトリウムと塩素)によるも
細胞を取り巻く体液のことを内部環境と呼び、生物
学物質の氾濫によって、人体の内部環境である血液
10cm以上もある巨大プランクトンもいます。プランク
のですが、他の微量元素も血液の生理作用に重要
はその内部環境を一定に保つ機能があることを指
にも、赤潮のような異変が起きていて、アトピーや成
トンの姿形が、太古の生物をしのばせるのは、いず
な役割をはたしています。
摘しました。この考え方を継承したアメリカの生理学
人病の増加は、その現れともいわれます。
解剖によって摘出した組織を長時間保存するため
者キャノンにより、1932年に提唱されたのが、有名な
現代世界は経済発展と自然保護という2つの潮流
原始生命は海に誕生し、そこで長い時間をかけ
に、生理的塩類溶液(前身はリンゲル液)
と呼ばれる
ホメオスタシス
(恒常性)
という概念です。動物の体
がぶつかりあい、巨大な潮目を形成しているようで
て進化を遂げ、やがて陸上生活をするようになりま
ものが使われます。たとえばカエルの心臓を摘出し
温や血液の塩分濃度やイオン組成、
pHなどが、常に
す。はたしてこの潮目は、人類を滅亡させる赤潮と
した。人間の体重の約70%は水ですが、これがカエ
て、血液がわりに食塩水を流しても、心臓の拍動は
ほぼ一定状態を保つのも、ホメオスタシスの作用に
なるのでしょうか、それとも問題解決の突破口にな
ルやイモリなどの両生類では約80%、イカやタコなど
すぐに停止してしまいます。この食塩水にカルシウム
よるものだというのです。
の軟体動物では約90%、クラゲなどの腔腸動物では
イオンを加えてみると、しばらくの間、拍動を続けま
20世紀の地球科学は、地球システムにもホメオス
何と95%にもなります。一般に下等な動物ほど水の
すが、やはり停止してしまいます。ところが、そこに
タシスに似た機能があることを明らかにしました。海
含有量は多くなり、また血液の塩類濃度も海水に近
カリウムイオンを追加すると、心臓は再び拍動するよ
洋の塩類濃度やイオン組成、大気の組成はほぼ一
れも海洋をただよう無脊椎動物だからです。
フェライトコア、マグネット、磁気ヘッド、インダクタ、トランス、EMI対策部品、電源、セラミックコンデンサ、
TDKは 圧電製品、センサ、高周波部品、半導体、PCカード、太陽電池、電波暗室、光ディスク、FA機器の総合メーカーです。
技術の“境界領域 ”に挑む
TDKのファイン・エレクトロニクス
海水を冷却水として大量に使う火力発電所や化学プ
ラントでは、プランクトン類の付着防止対策が必要で
すが、これを防ぐのに海水の電気分解が利用されて
います。海水を電気分解すると、海水と陰極との境
界面で還元反応が起き水素が発生し、陽極との境界
面では酸化反応が起こり塩素が発生します。このと
き海水中で発生する次亜塩素酸(HClO)
の殺菌作用
を利用して、付着防止に役立てます。同じ原理をつ
かってトイレの貯水タンクに微弱電流を流し、水道水
に含まれる塩素イオンから次亜塩素酸を生成させ、
悪臭や汚れを防ぐ装置も実用化されています。この
ような電解装置には、耐食性や触媒能にすぐれ、メ
ンテナンスも容易な電極が求められます。
TDKでは、高耐食性のチタン基板に、貴金属酸化物
を主成分とする電極触媒膜を焼き付けコーティング
した金属電極を開発しました。これは、従来の白金
めっき電極にくらべ耐食性や触媒能のみならず電流
効果にもすぐれ、省エネ効果がきわめて高いことが
特長です。海水電解、食塩電解、高速めっき用、イ
オン水などの水電解用など、用途に応じた各種電極
をラインナップしています。写真はイオン水分解用の
電極。
わたしたちの身近にある磁石を、歴史的・文化的な
背景を混じえて紹介した、楽しい磁石のガイドブッ
クです。知ってるようで意外と知らない磁石の素顔
を分かりやすく解説。磁石の魅力や驚きを、存分に
発見することでしょう。
監修・編者/TDK株式会社 佐藤 博
著者/吉岡安之
問合せ/日刊工業新聞社
TEL.03-3222-7131(販売)
判型/A5判・269頁
定価/2310円(税込み価格)
るの でしょうか 。潮 目 のゆくえが 気 になります。
(文/吉岡安之)
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「境界はワンダーランド」はインターネットでもご覧になれます。
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1998.10.N