省エネチューニング 特集2……● ●…… 省エネチューニング 国際省エネルギー計画研究所 視点でのハード見直しと,運転管理(オペレーション) という視点でのソフト見直しとの二つの側面がある。 (図 1) (3)省エネチューニングの進め方 建物の省エネ推進は,エネルギー管理組織の体 制づくりから始まり,エネルギーの使用状況を把握・ 建物のライフサイクルでみれば,設備の物理的な劣 評価し,改善目標を設定し改善活動を実施し,その 化や建物機能の社会的劣化により設備システムの改 効果を確認する流れで実行される。(図 2) 修や機器の更新が実施されるので,その時期に合わ これらの活 動の中で,「 省エネチューニング」は せて省エネ化改修への投資が期待される。さらに, 現 場を主 体にして運 用改 善や設 備の見 直しを行う エネルギー診断を随時行い,省エネルギー化技術の ことで省 エネルギー化を実 現 する改 善 活 動と位 置 使用されることが稀である。さらに、 居室の利用形態、 導入を図ることも望まれるが,これらの投資は中長期 づけられる。省エネチューニングは,その活動の手 在室人員・OA機器の増減などから、設備に課せら 計画に基づき計画されるために,すぐに実行出来ると 順やステップにこだわることなく,採用可能なチュー れる条件は年々変化する。変化の状況は、運用管理 いうことにはならない。 ニング項目(( 4 ) 省エネチューニング項目を参照) 建物の改修や更新は、メーカーや設備設計・施工 され使い込まれているうちに徐々に明らかになってくる 一方,建物の運用では,オフピーク運転の時間が を選定し,改善をして効果を上げていくことが大切 のエンジニアなどの建物管理関係者以外でも計画・ ため、省エネルギーの効果を上げるには変化の状況 ほとんどであり,建設当初とは運用条件が大きく異な である。 実行できるが、こまめな調整は、当該建物の特徴を に合わせた適切な施策が重要である。 ることも多く,省エネ化運用に向けて工夫することが 当該建物に採用できる可能性の高い項目からチャ 知り尽くしている運用管理者や管理技術者が中心と 一般に、省エネルギーの推進手法は、 出来る。 レンジして順次活動を継続していけば,省エネチュ なって実行することで実効を得ることができる。 ①運用管理の改善 「省エネチューニング」は,ビルの設備稼働状況や ーニングはより効果的となる。省エネチューニングの こまめな調整を柱として、省エネルギーの観点から ②設備システムの改修 負荷実態を最もよく知っている建物管理現場の運用 実施で省エネ効果を確認したら,それで終わりとせ 運用管理の改善を省エネチューニングと称している。 ③機器の更新(リプレース) 管理者が,その実務の中心となることから,すぐにで ずに,その成果をもとに管理標準へと組み込んでい 2003 年にブランドオープンした、松下電工東京本 に大別される。 も出来る活動であり,現場の知見やノウハウを充分に くことで省エネ活動のレベルアップへとつながっていく。 社ビル(現パナソニック電工本社ビル)で実施した省 最近のシステム化、省力化、高度化、多様化した 活用することでモラルアップにもつながる効果的な省エ 省エネチューニング活動の流れを、PDCA サイクル エネチューニングによる削減効果によって注目されるこ 建物では、自動制御をはじめ設備の運転管理上の設 ネルギー活動といえる。 で、より具体的に示すと図 3 のようになる。 ととなった。 定、調整がエネルギー使用や室内環境に大きな影響 代表 福田 はじめに 光久 を与えるようになってきている。このことから、運転管 Ⅰ…… 省エネチューニングの概要 推進の重要な課題といえよう。 運転管理の改善の大きな柱は、設備システムや機 (1) 省エネチューニングとは 建物の省エネルギー推進は、「設備システムの改修、 の「運用管理の改善」などの“ソフト”面の対策が のチューニング(省エネチューニング)が重要といわ 重要である。 れている。 改 修や更 新で高 効 率 設 備にリニューアルしても、 「省エネチューニング」とは、当該建物のエネルギ 不適切な運転・保守によって設備の特性を生かせな ー消費特性や建物設備の運転状況等に基づき、設 ければ、期待通りの省エネルギー効果を得ることは不 備システムや機器を適切に調整し省エネルギーを図る ・ 実施方針の決定 ・エネルギー消費量の実施把握 ・ 省エネチューニング項目の選定 建物の 省エネルギー 推進 B ライフサイクル再生産プロセスハード ○ プロセスハードは、設備システムの改修、機器の更新を業務の柱とした 「ESCO事業」などがビジネスとして推進されている。 図2 省エネルギー活動の流れ エネルギー 管理組織 体制づくり エネルギー 使用状況の 把握・評価 ステップ アップ Do 計画プログラムの策定 ・ 実施体制・スケジュール ・ 実施前測定 ・ 効果予想 改善効果 確認 (2)省エネチューニングの意義 本となる。 建物の設備は,設計・施工時に予想した条件で 2011年1・2月号 建物の省エネ推進には,建物設備のライフサイクル 改善実施 ・ 省エネチューニング 実施 Check 効果検討 ・ 実施後測定 ・ 省エネ量確認 過程といえる。 適切な運転・保守は“設備のこまめな調整”が基 電気と保安 Plan A ○ オペレーション プロセスソフト 「制御の質」や「運転操作の利便性」を高める目的 で行われてきたが、最近、省エネルギーの観点から 12 図3 省エネチューニング実行のPDCAサイクル 器のチューニング(調整)である。チューニングは、 設備機器の更新」などの“ハード”面とともに、日常 可能である。 図1 建物の省エネルギー推進側面 理の改善が(改修や更新以前の問題として)省エネ 改善目標 の設定 改善活動 Action ・ 管理標準の見直し 2011年1・2月号 電気と保安 13 特集2 省エネチューニング ①エネルギー管理目標の設定(Plan) Ⅱ…… 省エネチューニング事例 ②省エネルギー対策の実施(Do) ③省エネルギー効果の検証(Check) ④計画の見直し(Action) (1) 夏期室温緩和(室温設定の変更)事例 実施時期 である。ボイラ 2 缶の平均燃焼空気比 2.28 を 1.27 に 室温変更前:平成 14 年度 室内温湿度:26℃、50% 調整し、約 8%の効果を確認した。(図 5・6) 室温変更後:平成 15 年度 室内温湿度:27℃、50% 実施時期:平成 15 年 測 定 時 間 :7/1 ∼ 9/30、9:00 ∼ 18:00(休日除外) 一般に、夏期に室温を 1℃緩和することで、冷房 (4)省エネチューニングの項目 負荷(冷凍機消費熱量)を約 10% 削減できると言わ おわりに (2)ボイラの燃焼空気比改善事例 省エネチューニングの代表的な項目を表 1 に示す。 れている。図 4 は夏期室温を 1℃変更した建物の実 ボイラの燃焼空気比を適正に調整することで燃料 選定に際しては、当該建物の状況により採用の可否 績を示す。建物は、延床面積 100,000m 2 の東京近 消費量を削減できることが多くの参考図書類(例えば、 省エネチューニングの概要と事例について、(財) を十分に検討することが必要である。 郊に立地される高層オフィスビル(地域熱源)である。 ビル省エネ手帳;(財)省エネルギーセンター)で紹 省エネルギーセンターで公表している“省エネチュー また、チューニング項目は建物特有の内容となるこ 外気の比エンタルピと冷房消費熱量(地域熱源受入 介されている。 ニングマニュアル”などを参考として解説した。 とから、日常業務の中で発生した問題点や解決した 熱量)の間には強い相関があるので、室温変更前 本事例は、ボイラ燃焼空気比調整を実施し、その 省エネチューニングは新しい概念であるが、建物 経緯などを“カルテ”などで整理しておき、項目選定 後の受入熱量データ(回帰式)の平均差異により7 前後でボイラ用燃料消費量を実測により比較し、効 管理現場で即実行できる簡便的かつ実用的な省エネ のヒントとすることが重要である。 ∼9月の(冷水)使用熱量約7%の削減効果が得ら 果を 確 認した 事 例 である。 建 物 は 、 延 床 面 積 手法として注目されている。 れた。 35,000m 2 の複合用途ビル(炉筒煙管ボイラ設置) 表 1 代表的な省エネチューニング項目 運用管理テーマ 空調負荷の軽減 空調機器の 効率・最適運転 給排水衛生、 照明設備の 効率・最適運転 項目 室内温湿度 内容 室内温湿度条件の緩和 ナイトパージの採用 ブラインドの適正開閉 外気量 空調時外気量の最少化 CO 2 濃度による外気量制御 起動時の外気導入中止 外気冷房運転の実施 熱源機器 台数制御の適正化 冷水、温水出口温度設定変更 冷却水温度の設定変更 ボイラの蒸気圧力適正化 燃焼装置の空気比調整 冷凍機の蒸発器、凝縮器清掃 ポンプ 冷、温水量の変更(大温度差) 冷、温水ポンプの絞り運転 冷却水ポンプの絞り運転 空調機 送風量の適正化 省エネベルト採用(取替時) コイル・フィルタの清掃 起動時、残業時の運転短縮 自動制御機器の適正調整 吹出風量のバランス調整 換気機器 全熱交換器の適切な運転 給、排気のバランス調整 CO 2 濃度による間欠運転 運転時間の見直し 給排水衛生設備 給湯温度の変更 給湯時間、範囲の見直し 照明器具 高効率ランプ導入(取替時) 照度の見直し 照明回路の細分化運用 不要箇所の消灯徹底 昇降機 時間帯により間引き運転 図4 室温設定の変更による効果 電気と保安 2011年1・2月号 室温緩和による地域熱源受入熱量の変化 30,000 平成14年受入熱量MJ 平成15年受入熱量MJ 燃焼装置 ボイラ 1 ボイラ 2 平均 ボイラ 1 ボイラ 2 平均 改善前 y=379.05x-76211.9 R 2=0.8088 改善後 図5 ボイラ燃料(ガス)消費量の差異 残留酸素濃度 10.8% 12.6% 11.7% 4.4% 4.5% 4.5% 空気比 2.06 2.50 2.28 1.27 1.27 1.27 排ガス温度 157℃ 137℃ 147℃ 210℃ 218℃ 214℃ 改善前 改善後 蒸気↑ 蒸気↑ 給水→ 給水→ ボイラ ボイラ 12.1m 3/ 日 25,000 12.1m 3/ 日 ガス↑ 960m 3/ 日 ガス↑ 880m 3/ 日 図6 給水量とボイラ燃料(ガス)使用量の関係 20,000 地 域 熱 源 受 入 15,000 熱 量 [ M J / h ] 10,000 3,000 改善前 改善後 線形(改善前) 線形(改善後) 2,500 ボ イ ラ 2,000 ー ガ ス 1,500 使 用 量 [ 1,000 m3 / 日 ] 500 0 5,000 0 14 表 2 ボイラ排ガス状態 y=379.71x-7556.2 R 2=0.7438 文献 0 10 20 30 40 50 60 70 外気のエンタルピー[kJ/kg] 80 90 100 0 10 20 ボイラー給水量(m 3/日) 30 40 1)省エネチューニングマニュアル、 (財)省エネルギーセンター 2)2010ビル省エネ手帳、 (財)省エネルギーセンター 3)冷凍空調設備の保守管理とサービス、 (社)日本冷凍空調学会 4)建築・設備の省エネルギー技術指針、 (社)空気調和・衛生工学会 2011年1・2月号 電気と保安 15
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