省エネチューニング 2011年1・2月号

省エネチューニング
特集2……●
●……
省エネチューニング
国際省エネルギー計画研究所
視点でのハード見直しと,運転管理(オペレーション)
という視点でのソフト見直しとの二つの側面がある。
(図 1)
(3)省エネチューニングの進め方
建物の省エネ推進は,エネルギー管理組織の体
制づくりから始まり,エネルギーの使用状況を把握・
建物のライフサイクルでみれば,設備の物理的な劣
評価し,改善目標を設定し改善活動を実施し,その
化や建物機能の社会的劣化により設備システムの改
効果を確認する流れで実行される。(図 2)
修や機器の更新が実施されるので,その時期に合わ
これらの活 動の中で,「 省エネチューニング」は
せて省エネ化改修への投資が期待される。さらに,
現 場を主 体にして運 用改 善や設 備の見 直しを行う
エネルギー診断を随時行い,省エネルギー化技術の
ことで省 エネルギー化を実 現 する改 善 活 動と位 置
使用されることが稀である。さらに、 居室の利用形態、
導入を図ることも望まれるが,これらの投資は中長期
づけられる。省エネチューニングは,その活動の手
在室人員・OA機器の増減などから、設備に課せら
計画に基づき計画されるために,すぐに実行出来ると
順やステップにこだわることなく,採用可能なチュー
れる条件は年々変化する。変化の状況は、運用管理
いうことにはならない。
ニング項目(( 4 ) 省エネチューニング項目を参照)
建物の改修や更新は、メーカーや設備設計・施工
され使い込まれているうちに徐々に明らかになってくる
一方,建物の運用では,オフピーク運転の時間が
を選定し,改善をして効果を上げていくことが大切
のエンジニアなどの建物管理関係者以外でも計画・
ため、省エネルギーの効果を上げるには変化の状況
ほとんどであり,建設当初とは運用条件が大きく異な
である。
実行できるが、こまめな調整は、当該建物の特徴を
に合わせた適切な施策が重要である。
ることも多く,省エネ化運用に向けて工夫することが
当該建物に採用できる可能性の高い項目からチャ
知り尽くしている運用管理者や管理技術者が中心と
一般に、省エネルギーの推進手法は、
出来る。
レンジして順次活動を継続していけば,省エネチュ
なって実行することで実効を得ることができる。
①運用管理の改善
「省エネチューニング」は,ビルの設備稼働状況や
ーニングはより効果的となる。省エネチューニングの
こまめな調整を柱として、省エネルギーの観点から
②設備システムの改修
負荷実態を最もよく知っている建物管理現場の運用
実施で省エネ効果を確認したら,それで終わりとせ
運用管理の改善を省エネチューニングと称している。
③機器の更新(リプレース)
管理者が,その実務の中心となることから,すぐにで
ずに,その成果をもとに管理標準へと組み込んでい
2003 年にブランドオープンした、松下電工東京本
に大別される。
も出来る活動であり,現場の知見やノウハウを充分に
くことで省エネ活動のレベルアップへとつながっていく。
社ビル(現パナソニック電工本社ビル)で実施した省
最近のシステム化、省力化、高度化、多様化した
活用することでモラルアップにもつながる効果的な省エ
省エネチューニング活動の流れを、PDCA サイクル
エネチューニングによる削減効果によって注目されるこ
建物では、自動制御をはじめ設備の運転管理上の設
ネルギー活動といえる。
で、より具体的に示すと図 3 のようになる。
ととなった。
定、調整がエネルギー使用や室内環境に大きな影響
代表 福田
はじめに
光久
を与えるようになってきている。このことから、運転管
Ⅰ…… 省エネチューニングの概要
推進の重要な課題といえよう。
運転管理の改善の大きな柱は、設備システムや機
(1) 省エネチューニングとは
建物の省エネルギー推進は、「設備システムの改修、
の「運用管理の改善」などの“ソフト”面の対策が
のチューニング(省エネチューニング)が重要といわ
重要である。
れている。
改 修や更 新で高 効 率 設 備にリニューアルしても、
「省エネチューニング」とは、当該建物のエネルギ
不適切な運転・保守によって設備の特性を生かせな
ー消費特性や建物設備の運転状況等に基づき、設
ければ、期待通りの省エネルギー効果を得ることは不
備システムや機器を適切に調整し省エネルギーを図る
・ 実施方針の決定
・エネルギー消費量の実施把握
・ 省エネチューニング項目の選定
建物の
省エネルギー
推進
B ライフサイクル再生産プロセスハード
○
プロセスハードは、設備システムの改修、機器の更新を業務の柱とした
「ESCO事業」などがビジネスとして推進されている。
図2 省エネルギー活動の流れ
エネルギー
管理組織
体制づくり
エネルギー
使用状況の
把握・評価
ステップ
アップ
Do
計画プログラムの策定
・ 実施体制・スケジュール
・ 実施前測定
・ 効果予想
改善効果
確認
(2)省エネチューニングの意義
本となる。
建物の設備は,設計・施工時に予想した条件で
2011年1・2月号
建物の省エネ推進には,建物設備のライフサイクル
改善実施
・ 省エネチューニング
実施
Check
効果検討
・ 実施後測定
・ 省エネ量確認
過程といえる。
適切な運転・保守は“設備のこまめな調整”が基
電気と保安
Plan
A
○
オペレーション
プロセスソフト
「制御の質」や「運転操作の利便性」を高める目的
で行われてきたが、最近、省エネルギーの観点から
12
図3 省エネチューニング実行のPDCAサイクル
器のチューニング(調整)である。チューニングは、
設備機器の更新」などの“ハード”面とともに、日常
可能である。
図1 建物の省エネルギー推進側面
理の改善が(改修や更新以前の問題として)省エネ
改善目標
の設定
改善活動
Action
・ 管理標準の見直し
2011年1・2月号
電気と保安
13
特集2
省エネチューニング
①エネルギー管理目標の設定(Plan)
Ⅱ…… 省エネチューニング事例
②省エネルギー対策の実施(Do)
③省エネルギー効果の検証(Check)
④計画の見直し(Action)
(1) 夏期室温緩和(室温設定の変更)事例
実施時期
である。ボイラ 2 缶の平均燃焼空気比 2.28 を 1.27 に
室温変更前:平成 14 年度 室内温湿度:26℃、50%
調整し、約 8%の効果を確認した。(図 5・6)
室温変更後:平成 15 年度 室内温湿度:27℃、50%
実施時期:平成 15 年
測 定 時 間 :7/1 ∼ 9/30、9:00 ∼ 18:00(休日除外)
一般に、夏期に室温を 1℃緩和することで、冷房
(4)省エネチューニングの項目
負荷(冷凍機消費熱量)を約 10% 削減できると言わ
おわりに
(2)ボイラの燃焼空気比改善事例
省エネチューニングの代表的な項目を表 1 に示す。
れている。図 4 は夏期室温を 1℃変更した建物の実
ボイラの燃焼空気比を適正に調整することで燃料
選定に際しては、当該建物の状況により採用の可否
績を示す。建物は、延床面積 100,000m 2 の東京近
消費量を削減できることが多くの参考図書類(例えば、
省エネチューニングの概要と事例について、(財)
を十分に検討することが必要である。
郊に立地される高層オフィスビル(地域熱源)である。
ビル省エネ手帳;(財)省エネルギーセンター)で紹
省エネルギーセンターで公表している“省エネチュー
また、チューニング項目は建物特有の内容となるこ
外気の比エンタルピと冷房消費熱量(地域熱源受入
介されている。
ニングマニュアル”などを参考として解説した。
とから、日常業務の中で発生した問題点や解決した
熱量)の間には強い相関があるので、室温変更前
本事例は、ボイラ燃焼空気比調整を実施し、その
省エネチューニングは新しい概念であるが、建物
経緯などを“カルテ”などで整理しておき、項目選定
後の受入熱量データ(回帰式)の平均差異により7
前後でボイラ用燃料消費量を実測により比較し、効
管理現場で即実行できる簡便的かつ実用的な省エネ
のヒントとすることが重要である。
∼9月の(冷水)使用熱量約7%の削減効果が得ら
果を 確 認した 事 例 である。 建 物 は 、 延 床 面 積
手法として注目されている。
れた。
35,000m 2 の複合用途ビル(炉筒煙管ボイラ設置)
表 1 代表的な省エネチューニング項目
運用管理テーマ
空調負荷の軽減
空調機器の
効率・最適運転
給排水衛生、
照明設備の
効率・最適運転
項目
室内温湿度
内容
室内温湿度条件の緩和
ナイトパージの採用
ブラインドの適正開閉
外気量
空調時外気量の最少化
CO 2 濃度による外気量制御
起動時の外気導入中止
外気冷房運転の実施
熱源機器
台数制御の適正化
冷水、温水出口温度設定変更
冷却水温度の設定変更
ボイラの蒸気圧力適正化
燃焼装置の空気比調整
冷凍機の蒸発器、凝縮器清掃
ポンプ
冷、温水量の変更(大温度差)
冷、温水ポンプの絞り運転
冷却水ポンプの絞り運転
空調機
送風量の適正化
省エネベルト採用(取替時)
コイル・フィルタの清掃
起動時、残業時の運転短縮
自動制御機器の適正調整
吹出風量のバランス調整
換気機器
全熱交換器の適切な運転
給、排気のバランス調整
CO 2 濃度による間欠運転
運転時間の見直し
給排水衛生設備 給湯温度の変更
給湯時間、範囲の見直し
照明器具
高効率ランプ導入(取替時)
照度の見直し
照明回路の細分化運用
不要箇所の消灯徹底
昇降機
時間帯により間引き運転
図4 室温設定の変更による効果
電気と保安
2011年1・2月号
室温緩和による地域熱源受入熱量の変化
30,000
平成14年受入熱量MJ
平成15年受入熱量MJ
燃焼装置
ボイラ 1
ボイラ 2
平均
ボイラ 1
ボイラ 2
平均
改善前
y=379.05x-76211.9
R 2=0.8088
改善後
図5 ボイラ燃料(ガス)消費量の差異
残留酸素濃度
10.8% 12.6% 11.7% 4.4% 4.5% 4.5% 空気比
2.06
2.50
2.28
1.27
1.27
1.27
排ガス温度
157℃
137℃
147℃
210℃
218℃
214℃
改善前
改善後
蒸気↑
蒸気↑
給水→
給水→
ボイラ
ボイラ
12.1m 3/ 日
25,000
12.1m 3/ 日
ガス↑
960m 3/ 日
ガス↑
880m 3/ 日
図6 給水量とボイラ燃料(ガス)使用量の関係
20,000
地
域
熱
源
受
入 15,000
熱
量
[
M
J
/
h
] 10,000
3,000
改善前
改善後
線形(改善前)
線形(改善後)
2,500
ボ
イ
ラ 2,000
ー
ガ
ス 1,500
使
用
量
[ 1,000
m3
/
日
] 500
0
5,000
0
14
表 2 ボイラ排ガス状態
y=379.71x-7556.2
R 2=0.7438
文献
0
10
20
30 40 50 60 70
外気のエンタルピー[kJ/kg]
80
90
100
0
10
20
ボイラー給水量(m 3/日)
30
40
1)省エネチューニングマニュアル、
(財)省エネルギーセンター
2)2010ビル省エネ手帳、
(財)省エネルギーセンター
3)冷凍空調設備の保守管理とサービス、
(社)日本冷凍空調学会
4)建築・設備の省エネルギー技術指針、
(社)空気調和・衛生工学会
2011年1・2月号
電気と保安
15