コスト縮減を図ったプレジャーボート簡易浮桟橋の設計 ~浮体構造物ってなに?~ (株)建設コンサルタントセンター 設計部 増田 浩章 1. はじめに 清水港では、平成 13 年に「清水港・巴川におけるプレジャーボートの適正な利用に関する 推進計画」を策定し、清水港および巴川に整備してきた暫定係留施設(写真-1)を、平成 23 年度完成を目的として、恒久係留施設に再整備を進めてきた。その一環として、折戸地区に おいて、小型船溜まりとこれに附属する駐車場、緑地の計画整備(折戸ボートパーク)をして いる(写真-2)。 (1)巴川 2 号係留場 (2)巴川 4 号係留場 写真-1 巴川の係留状況 本文は、清水港折戸ボートパークの整備事業において、従来仮設やイベント等に用いられ ている簡易な浮体構造物を、浮桟橋ならびに浮消波堤として使用し、コスト縮減を図った事 例について報告するものである。 清水マリンパークヨット係留場 巴 川 計画箇所 折 戸 湾 折戸マリーナ 写真-2 折戸ボートパークの実施箇所(H24.11 供用予定) 1 2. 折戸ボートパークの計画概要 【水域施設】 ●係留可能隻数 :200 隻 ●浮桟橋 :4 本(UNIT-Z)、幅員 2.0m ●係留形式 :7.0~10.0m 艇 係船ビーム形式 12.0~14.0m 艇 係船杭形式 (施設整備費削減のため、ダブルバー ス) ●連絡橋 :4 本、幅員 0.6m(進入防止門扉付) ●給電・給水施設:26 基(8 隻当り 1 基設置) ●浮消波施設 :防波堤開口部(風向き SSW)からの波消施設の設置(UNIT-X) ●既設貯木杭撤去:計画水域には貯木杭が残っているため、撤去する ●航路標識灯 :浚渫範囲の四隅に設置 港口から係留水域までの航路に既設と同等の小型簡易標識灯を設置 【陸域施設】 ●駐車場 :120 台(砕石舗装)+3 台(アスファルト舗装※) ※車いす使用者用駐車場は、施設の表示や滑りにくく平坦な仕上げとするため ●排水施設 :既設護岸の側溝を利用するが、船揚施設についてはクレーンが載荷することか ら、暗渠排水とする 大小各 1 基、多目的 大 1 基(女性兼用) ●トイレ :男子用 ●照明灯 :4 基 夜間利用を考慮して、浮桟橋との連絡橋付近に 1 基ずつ設置 2.88 -1.95 -2.19 -2 -4.16 2.82 -0.97 2.56 -2.12 2.6 -2.04 2.89 2.51 -0.56 8m 7m 2m Aバース 船揚施設 -0.90 2.87 -2.30 2.88 3.2 2.56 3 7m -1.53 3.2 8m 8.0m:12隻 2m Bバース 2.86 2.61 NO.7 3.48 -2.54 104.6m 碇けい杭 Φ400×t12,L=15.0m 4本 3.3 3.71 1 29m 12m -1.54 7.0m:27隻 3.31 3.0 2.60 -4.19 6m係船ビーム 碇けい杭 12本 Φ500×t14,L=18.5m 3本 2.6 2.9 3.39 TA.4 2.91 碇けい杭 Φ400×t12,L=15.0m 4本 7.0m:26隻 T11 2.67 2.8 2.55 2.89 -2.13 -1.07 5m係船ビーム 27本 碇けい杭 Φ600×t9,L=18.5m 4本 道路 折戸3号 2.5 2.88 2.53 -1.45 3.4 7.0m:14隻 9 5m係船ビーム 14本 -1.34 2.51 2.87 24 8m -2.16 -1.08 -2.49 2m Cバース -3.84 103m 碇けい杭 Φ400×t9,L=14.5m 5本 6m係船ビーム 10本 7.0m:14隻 40 -2.53 -1.01 (計画水深-2.6m) 8.0m:10隻 NO.6 10m -2.59 2.88 2.61 折戸6号道路 -4.28 10.0m:14隻 -2 15m 35m 10m 124m 7m係船ビーム 14本 -1 -0.60 8.0m:12隻 碇けい杭 Φ500×t14,L=18.5m 7本 第一陸上貯水場 (資材置場) 25 2.85 2.65 -1.10 -2.07 -0.97 TA.3 2.84 -2.18 3.84 3.56 41 56 57 2.82 2.57 -0.46 10.0m:14隻 15m 37m -2.23 -1.72 112m 7m係船ビーム 12本 10.0m:24隻 Dバース -0.38 73 -0.10 -0.48 -1.69 88 -0.51 89 -1.66 17.5m -2.42 15m 3.33 2.81 2.46 碇けい杭 Φ600×t9,L=14.5m 6本 -2.95 14m 3.50 72 駐車場 -1.29 8.0m:10隻 2m 10m 碇けい杭 Φ600×t12,L=19.0m 6本 -2.06 -2.12 -0.47 2.83 2.42 -0.84 3.27 -4.02 -0.85 -2.55 -0.41 NO.5 -1.78 105 長 12.0m:18隻 (SKK490) -1 -2 係船杭 φ600xt12x19.0mx7本 120 -0.55 2.84 2.39 -0.56 2.82 -1.90 3.01 3.5m短長ビーム 12本 123m -3 φ600xt14x19.0mx6本 (SKK490) 2.67 -1.69 ス R2 リッ 1m プ -4 係船杭 104 2.80 2.44 -0.71 14.0m:5隻 浮桟橋 2.81 TA.2 2.82 係船杭 φ600xt9x14.5mx12本 2.97 -0.48 2.42 -0.65 0.11 -0.42 0 2.83 -0.01 (SKK490) -0.17 0.01 -2.19 -0.68 -1.78 2.81 2.83 0.86 2.54 2.57 0-2.07 清水港木材産業 協同組合 折戸リングパーカー工場 -1.25 浮消波 ユニットX 25基 -2.19 -2.56 -2.38 -0.43 -2.14 2.63 2.63 2.82 2.57 0.13 -1.92 図-1 折戸ボートパーク 折戸 2 -1.37 3.92 -1.45 -1.36 -1.76 2.83 2.83 2.50 -1.38 -0.78 -1 浮消波堤 -2 2.82 -2.15 -1.64 -1.26 -1 -0.85 -1.29 -1.98 -1 -0.25 3.浮桟橋 3.1 浮桟橋とは 浮桟橋とは港湾などにおいて、水上に箱 状の浮体を浮かべ陸域と連結した係留施設 をいう。箱状の浮体は係留杭などで固定す る。(図-2)。浮桟橋は潮位変動に追随する ため、干満差の大きい海域において、プレ ジャーボートなどの小型船の係留施設とし て利用しやすく、マリーナで多く採用され ている。 3.2 浮桟橋の構造 材質は、木製のものもあれば耐久性の高 い鋼製やコンクリート製のものもある。他 の係留施設(岸壁・桟橋など)と同様、船 舶を係留するための係船柱や船舶着岸時の衝 図-2 浮桟橋のイメージ 撃を和らげるための防舷材が設置されている。 浮桟橋は、主に次のもので構成される。 主桟橋、補助桟橋(フィンガーや係船ビーム)、係留杭、渡り橋 3.3 浮桟橋の種類 主桟橋は、その種類として次のものがある。 ・セパレートタイプ(写真-3) 甲板(アルミフレームと木製床)にフロートを取り付けたタイプで最も一般的である。 ・モノコックタイプ(写真-4) 甲板とフロートが一体となったタイプで、浮力が大きいため安定性が高い。 ・ユニットタイプ(写真-5) 甲板とフロートを一体にした小型のパーツを繫げて桟橋とするタイプで、湖や池など波 の影響が小さい水域で採用されている。 写真-3 セパレートタイプ 写真-4 モノコックタイプ 3 写真-5 ユニットタイプ 3.4 採用した浮桟橋の特徴 1)浮桟橋の構造形式 ・外殻 FRP の中空モノコック構造(アルミサイドフレーム、防舷材付) 2)従来の使用例 水上遊歩道や簡易係留施設などに使用されている。 写真-6 に「山口国体」のカヤック競技での使用事例を示す。 写真-6 国体での事例 3)採用した浮桟橋の特徴 今回採用したモノコックタイプは、現在主流であるア ルミセパレートタイプに比べて安定性に優れ経済的と なった。 モノコックタイプの浮体の経済性は、初期費用、維持 費用等を含めて比較検討した結果、アルミセパレート タイプの約 86%となった。 床面はすべり止め加工を行い、木製の質感を施した (写真-7) 。 写真-7 本事業での浮桟橋 4. 浮消波堤 4.1 浮消波堤とは マリーナは比較的静穏な水域に設置されるが、うねりや強風、航行船舶により発生する波 により浮桟橋や係留船舶が大きく揺れ、利用度が低下することがあり、被害が生じることも ある。浮消波堤は、このように水域を利用する上で所定の静穏度を確保するために設ける。 浮消波堤は大きな箱のようなものを連続して海に浮かべて、チェーンなどで係留する。 4.2 浮消波堤の構造 浮消波堤は、標準的なモノコックタイプの他、各メーカーにより消波機能を高める構造を 有するタイプがある。 浮波消堤は、主に次のもので構成される。 浮体本体、係留索、係留アンカー 4.3 浮消波堤の種類 簡易な浮消波堤のタイプは、材質による実績等から木製、鋼製、樹脂製などがある。 写真-8 木製タイプ 写真-9 樹脂タイプ 写真-10 鋼管タイプ 4.4 採用した浮消波堤の特徴 1)浮消波堤の構造形式 ・外殻の硬質樹脂と内部発砲スチロールのモノコック構造 ・外殻はリサイクルポリビレン製(車のダュシュボードと同様の素材)のため、鋼製や 4 コンクリート製の浮桟橋と同等の耐久性を備えている。 2)従来の使用例 従来の使用は、野外イベント用の仮設浮桟橋や水上作業の仮設浮足場、仮設荷台船として 使用されているケースが多い。 写真-11 イベント利用例 写真-12 3)採用した浮消波堤の特徴 簡易作業台船例 1径間当り一般図 構造は、樹脂+内部発砲スチロールで 側面図 あり浮力低下はない。今回、貯木場跡地 の利用計画のため、貯木杭に係留チェー 既設貯木杭間 約15m 太陽電池式標識灯 (両端の貯木杭に設置) 係留金具 (SUS304) ンで固定する方法をとった。このため既 UNIT-X 係留チェーン (既設) 貯木杭 設係留杭撤去費用及び浮体を固定するた (B2000×L2000×H300,5基) (SBC490,HDZ) HHWL +1.64 めのアンカー等が不要となりコストが縮 LWL +0.04 減された(図-3、写真-13)。 GL.-2.00 5.性能確認 本浮体構造を採用するに当り、恒久的 平面図 な施設としての実績が少ないことから、 (既設) 貯木杭 性能を確認するため平成 22 年 5 月に計画 水域内で試験施工を実施した。浮体に関 しては、関係者が実物に乗って安定性に 係留金具 UNIT-X 係留チェーン (B2000×L2000×H300,5基) (SBC490,HDZ) (SUS304) ついて検証した。体重80kgを悠に超 既設貯木杭間 約15m える私が飛び跳ねたが、びくともしなか 図-3 本事業での簡易浮消波堤 った(写真-14(1))。 浮消波機能を検証するため、実際の計画 と同様、既設の貯木杭に設置した(図-14(2))。 目視により観察したところ、風波による浮体の 風上側と風下側で波高の違いが確認できた。 5 写真-13 本事業での簡易浮消波堤 (1)浮桟橋としての実験 (2)浮消波堤としての実験 写真-14 浮桟橋の実験 6.今後の課題 今回の業務完了後に、本事業で浮消波堤に使用したモノコックタイプの浮体を用いて、よ り消波機能を増すための試みとして、同浮体に可変式水中制御板付(穴あり及び穴なし制御 板)消波装置を設け、東海大学海洋学部臨海実験所にて応用的試験を実施した。 浮体による消波性能の確認のため、2 次元造波水槽による模型実験・反射率及び透過率の変 化を観察した。本実験は,ゼニヤ海洋サービス株式会社製浮桟橋「ユニット X」を,浮体式消 波装置として利用して,その消波性能を実験的に検証するために実施したものである. 「ユニット X」をベースとした浮体式消波装置の消波性能検証は,単一式(「ユニット X」 そのもの)消波装置を基礎的実験として,さらに可変式水中制御板付(穴あり及び穴なし制 御板)消波装置を提案し応用的実験として行った。 ● 実験方法 本実験では、以下の 3 種類の実験モデルを 用いた。 ・単一平板浮体式消波装置 ・可変式水中無孔制御板付消波装置 ・可変式水中有孔制御板付消波装置 各浮体式消波装置モデルを写真-15 に示す。 ● 実験装置及び計測機器(図-4) 写真-15.1 実験は長さ 52.0m,深さ 1.5m,幅 1.0m の 2 次 置 単一平板浮体式消波装 写真-15.2 無孔制御板付浮体式消波装置 (制御板角度 15°) 元水路を使用して行った.造波は実海域を想 定して不規則波とし,反射波および透過波の 波高を計測することにより浮体式消波装置モ デルによる波浪低減効果を測定した。 写真-15.3 有孔制御板付浮体式消波装置 (制御板角度 15°) 写真-15 消波機能向上の実験 6 52.0 12.0 1.0 1.0 1.0 波高計 CH5 消 波 材 ロードセル アンカー 係留索 2.5 2.4 0.6 波高計 CH4 0.68 1/30 8.4 係留索 2.5 0.6 波高計 CH2 波高計 CH3 ロードセル アンカー 27.4 造 波 機 波高計 CH1 1.0 2.3 (m) 図-4 実験装置の概要図 今回実験に使用した浮体式消波装置の内,反射率及び透過率に関して最も消波効果が顕著 に現れたのは,有孔制御板(6°,15°)付浮体式消波装置であった. 今後、消波効果向上の手段として、参考となる実験となった。 7.おわりに 浮桟橋ならびに浮消波堤に、従来タイプとは異なるイベント等仮設的に利用されていたモ ノコック構造の浮体を採用し、コスト縮減を図った。本構造を本格的な浮桟橋に利用したケ ースは珍しい。浮体式構造物としては従来のユニットタイプに比べて安定性があり低コスト である。反面高質感は低い。今後、これらの特徴を踏まえて、消波機能向上の構造改良や、 耐用年数等の要求度に応じて優位性がみられる場合には、検討して行きたい。 個人的には、コンサルタントとしては、公共事業におけるコスト縮減は常に意識しなけれ ばならない。これからも今回のような新技術新材料の活用等、斬新な試みにチャレンジして ゆきたい。 以上 7
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