コミットメントプロファイルに関する研究 ―規定要因と

専門職学位論文
コミットメントプロファイルに関する研究
―規定要因と成果変数に注目して―
2010 年 8 月 23 日
神戸大学大学院経営学研究科
現 代 経 営 学 専 攻
所属研究室
上林憲雄研究室
学籍番号
093B261B
氏
南
名
常
之
コミットメントプロファイルに関する研究
―規定要因と成果変数に注目して―
氏
名:南
常
之
目次
序章
問題の所在 ................................................................................. 1
第1節
はじめに ............................................................................... 1
第2節
本研究の背景と問題意識 ................................................................. 1
第3節
研究目的 ............................................................................... 5
第4節
本研究の構成 ........................................................................... 7
第1章
組織コミットメント研究の変遷 ............................................................. 9
第1節
はじめに ............................................................................... 9
第2節
組織コミットメントの概念 ............................................................... 9
第3節
組織コミットメント研究の変遷 .......................................................... 10
第4節
これまでの先行研究を振り返って ........................................................ 20
第2章
組織コミットメント理論モデルとコミットメントプロファイル ................................ 23
第1節
はじめに .............................................................................. 23
第2節
組織コミットメント理論モデル .......................................................... 23
第3節
コミットメントプロファイル ............................................................ 24
第4節
先行研究の意義と課題 .................................................................. 30
第3章
仮説の設定 .............................................................................. 33
第1節
はじめに .............................................................................. 33
第2節
コミットメントプロファイル理論モデル .................................................. 33
第3節
仮説の設定 ............................................................................ 38
第4節
小括 .................................................................................. 41
第4章
調査設計 ................................................................................ 43
第1節
はじめに .............................................................................. 43
第2節
調査対象 .............................................................................. 43
第3節
調査方法 .............................................................................. 43
第5章
実証分析 ................................................................................ 46
第1節
はじめに .............................................................................. 46
第2節
調査の概要 ............................................................................ 46
第3節
分析結果 .............................................................................. 46
第4節
考察 .................................................................................. 73
第5節
小括 .................................................................................. 78
終章
要約と今後の課題 .......................................................................... 80
第1節
要約と結論 ............................................................................ 80
第3節
残された課題 .......................................................................... 92
謝辞 ............................................................................................ 94
参考文献 ........................................................................................ 95
質問票 .......................................................................................... 99
i
図表目次
表 1 組織コミットメントの概念 .............................................................. 22
表 2 成果要因 4 変数のマトリクス ............................................................ 36
表 3 コミットメントプロファイル理論モデル .................................................. 37
表 4 3 次元尺度の相関係数と平均,SD,α 係数 ................................................ 47
表 5 成果変数 4 尺度の相関係数と平均,標準偏差,α 係数...................................... 48
表 6 規定要因 4 尺度の相関係数と平均,標準変化,α 係数...................................... 49
表 7 相関係数 .............................................................................. 50
表 8 中関与型の 3 次元コミットメントデータ .................................................. 51
表 9 高関与型の 3 次元コミットメントデータ .................................................. 52
表 10 低功利型の 3 次元コミットメントデータ ................................................. 52
表 11 情緒規範型の 3 次元コミットメントデータ ............................................... 53
表 12 情緒型の 3 次元コミットメントデータ ................................................... 53
表 13 中-高関与型の 3 次元コミットメントデータ .............................................. 54
表 14 非関与型の 3 次元コミットメントデータ ................................................. 54
表 15 クラスターごとの 3 次元コミットメント比較 ............................................. 55
表 16 企業別のクラスター割合の比較 ......................................................... 56
表 17 クラスターごとの成果変数 ............................................................. 57
表 18 組織を背負う意識を因子とした高関与型と他のクラスターの分散分析 ....................... 59
表 19
自己成長を因子とした高関与型と他のクラスターの分散分析 ............................... 60
表 20
OCB を因子とした高関与型と他のクラスターの分散分析.................................... 61
表 21
リテンションを因子とした高関与型と他のクラスターの分散分析 ........................... 62
表 22 組織を背負う意識を因子とした情緒規範型と他のクラスターの分散分析 ..................... 63
表 23
リテンションを因子とした情緒型と他のクラスターの分散分析 ............................. 64
表 24 成果要因 4 変数を従属変数とした階層的重回帰分析 ....................................... 67
表 25 各クラスターと規定要因 ............................................................... 70
表 26 高関与型の 2 項ロジスティック回帰分析 ................................................. 70
表 27 中-高関与型の 2 項ロジスティック回帰分析 .............................................. 71
表 28 低功利型の 2 項ロジスティック回帰分析 ................................................. 72
表 29 中関与型の 2 項ロジスティック回帰分析 ................................................. 72
表 30 非関与型の 2 項ロジスティック回帰分析 ................................................. 73
表 31 高関与型と非関与型の 2 項ロジスティック回帰分析比較表 ................................. 76
表 32 コミットメントプロファイル理論モデル ................................................. 84
ii
序章
第 1節
問題の所在
はじめに
本 研 究 は ,事 業 が 軌 道 に 乗 っ た 歴 史 の あ る 日 本 企 業 で 働 く 人 々 に 焦 点 を
当 て ,人 々 が 持 つ 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を 複 眼 的 に 見 る 事 に よ り 複 数 の プ ロ
フ ァ イ ル(「 コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル 」)を 見 出 し ,ど の よ う な コ ミ ッ
ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル を 持 つ 人 々 が 高 い 成 果 を 生 み 出 し 得 る の か ,明 ら か
に し よ う と す る も の で あ る 。ま ず 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を 組 織 へ の 愛 着 か ら
生 じ る コ ミ ッ ト メ ン ト ,組 織 か ら 離 脱 す る と 自 ら が 損 を す る の で そ の 組 織
に 留 ま り 続 け る と い う 功 利 的 な 気 持 ち か ら 生 じ る コ ミ ッ ト メ ン ト ,組 織 に
所属している限り組織にはコミットすべきだという個人が持つ規範から
生 じ る コ ミ ッ ト メ ン ト を 3 次 元 で 計 測 す る 。そ し て こ の 3 次 元 の コ ミ ッ ト
メントを複眼的に観察することにより見出されるコミットメントプロフ
ァ イ ル の 内 ,ど の よ う な コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル が 高 い 成 果 を 生 み 出
し 得 る の か ,ま た 高 い 成 果 を 生 み 出 し 得 る コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル を
規定する要因は何なのか,本研究で提示することを目指している。
第 2節
本研究の背景と問題意識
組 織 に お い て ,い き い き と 働 き ,高 い 成 果 を 出 す 社 員 と ,仕 事 に や り が
い を 見 出 せ ず ,ひ た す ら 定 時 退 社 の 時 間 に な る の を 待 っ て い る 低 い 成 果 し
か 出 せ な い 社 員 と の 違 い は 何 だ ろ う か 。こ れ が 本 研 究 の 問 題 意 識 の 核 心 で
あ る 。本 研 究 で は ,組 織 行 動 論 の 中 で も 多 く の 研 究 が 蓄 積 さ れ た 組 織 コ ミ
ットメントの概念を使って,この問題意識の核心に触れていく。
高度成長時代は所属している企業にコミットし頑張って働いていれば,
年 功 序 列 で 給 与 が 増 え ,ま た 企 業 の 成 長 と 共 に 管 理 職 ポ ス ト も 増 え て い き ,
昇 進 の チ ャ ン ス に も 恵 ま れ た 。 し か し 失 わ れ た 20 年 を 経 た 今 , 個 人 は 企
業 に コ ミ ッ ト す る 意 義 を 見 失 い つ つ あ る よ う に 見 え る 。な ぜ な ら ば ゼ ロ 成
長 時 代 で 平 均 賃 金 が 停 滞 し ,ま た 組 織 の フ ラ ッ ト 化 が 進 み 割 り 当 て ら れ る
管 理 職 ポ ス ト も 減 っ て き た か ら で あ る 。す な わ ち 個 人 は 将 来 に 対 し て 期 待
が 持 て な く な り ,ま た 将 来 に 対 し て の ビ ジ ョ ン が 描 け な く な っ て い る た め
1
に コ ミ ッ ト メ ン ト が 低 下 し て い る の で あ る 。高 橋( 1996)は ,こ れ を「 未
来傾斜原理」が働かなくなったからだと論じた。
し か し な が ら ,個 人 に と っ て も 1 日 の 中 で 多 く の 割 合 を 占 め る 仕 事 に や
り が い を 持 っ て ,企 業 に コ ミ ッ ト し 成 果 を 上 げ た 方 が 良 い だ ろ う 。な ぜ な
ら ば 成 果 を 上 げ れ ば 周 囲 か ら 自 己 を 認 知 し て も ら え る し ,ま た ネ ガ テ ィ ブ
な 視 点 か ら 見 れ ば ,終 身 雇 用 が 崩 壊 し た と 言 わ れ る 今 ,成 果 を 上 げ な け れ
ば 給 与 が 上 が ら な い ば か り か 職 を 失 う 可 能 性 も あ る か ら で あ る 。ま た 企 業
に と っ て も ,個 人 と 企 業 の 価 値 観 が 共 鳴 し ,企 業 に コ ミ ッ ト し て 好 業 績 を
上げるコア社員の育成について強い関心があるはずである。本研究では,
高い成果を生み出し得る好ましい企業と個人の関わり方のタイプを明ら
か に し ,そ の 好 ま し い タ イ プ を 生 み 出 す た め に は ど う す れ ば よ い の か 検 討
す る こ と に よ っ て , 個 人 と 企 業 が win-win の 関 係 を 構 築 で き る 可 能 性 の
ある提言を行うことを目標としている。
こ の よ う な 問 題 意 識 を 持 っ た 背 景 に ,筆 者 の 生 い 立 ち が 関 係 し て い る の
で 述 べ た い 。 筆 者 は 2009 年 に 創 業 80 周 年 を 迎 え た 食 品 機 械 メ ー カ ー の
後 継 者 で あ る 。幼 少 の 頃 か ら ,後 継 者 と な る 意 識 付 け を さ れ て い た 筆 者 に
と っ て ,企 業 の 存 亡 は 大 き な 関 心 事 で あ っ た 。こ の 関 心 が 更 に 大 き く な っ
た 出 来 事 が あ っ た 。 父 の 死 で あ る 。 2010 年 1 月 に 事 故 死 し , 筆 者 は 34
歳 で 代 表 取 締 役 社 長 に 就 任 し た 。 正 に 筆 者 の 決 断 次 第 で , 創 業 80 年 超 の
会 社 の 存 亡 が ,ま た そ こ に 所 属 し て い る 社 員 と 社 員 の 家 族 の 将 来 が ,左 右
さ れ る 事 と な っ た 。ど う す れ ば 企 業 を 存 続 さ せ ら れ る の か ,ゴ ー イ ン グ コ
ンサーンが筆者の大きな関心事になったのは想像に難くないだろう。
そ ん な 中 ,事 業 が 軌 道 に 乗 っ た 歴 史 の あ る 企 業 が 存 亡 の 危 機 に 瀕 す る の
は ど ん な 時 だ ろ う か と 考 え た 。様 々 な 要 因 が あ る だ ろ う が ,大 き な 要 因 の
1 つとして外部環境の変化に対応出来ない点があるだろう。
「 生 き 残 る の は 最 も 強 い も の で も 最 も 賢 い も の で も な い 。変 化 に 最 も 敏 感
な も の が 生 き 残 る の で あ る 」 (Darwin, 1975)
Darwin の こ の 言 葉 は 生 物 界 だ け で は な く , 企 業 に も 適 用 で き る 。 な ぜ な
ら ば ,歴 史 の あ る 企 業 で も ,社 会 環 境 の 変 化 や 顧 客 ニ ー ズ の 変 化 な ど 外 部
環 境 の 変 化 に 対 応 出 来 ず 倒 産 ,会 社 更 生 法 申 請 や 吸 収 合 併 な ど で 消 滅 し た
2
例 は た く さ ん あ る か ら だ 。例 え ば ,世 界 一 の 自 動 車 メ ー カ ー で あ っ た ゼ ネ
ラ ル モ ー タ ー ズ は ,顧 客 ニ ー ズ が 小 型 車 ,低 燃 費 車 に 移 行 し て い る に も 関
わ ら ず ,顧 客 ニ ー ズ の 変 化 に 対 す る 対 応 が 遅 れ た た め ,結 果 と し て 会 社 更
生 法 を 申 請 せ ざ る を 得 な く な っ た 。ま た 雪 印 食 品 は ,顧 客 が 企 業 に 対 し て
コ ン プ ラ イ ア ン ス を 求 め る よ う に な っ て い た に も 関 わ ら ず ,食 肉 を 偽 装 す
る と 言 う 不 法 行 為 を 働 き ,結 果 と し て 金 の 成 る 木 で あ っ た 雪 印 ア ク セ ス が
他社へ吸収合併されてしまった。
ではどのようにして外部環境の変化に対応出来なくなるのであろうか。
1 つ は 企 業 ト ッ プ ,企 業 の 経 営 陣 が 外 部 環 境 の 変 化 に 対 応 し た 戦 略 立 案 や
意思決定が出来ない点であろう。企業に属する社員がいくら頑張っても,
競 争 優 位 を 見 出 せ る 市 場 や 競 争 優 位 を 創 り 出 す 戦 略 を 間 違 え た り ,外 部 環
境の変化に応じた意思決定が出来たりしなければ,企業は存続できない。
も う 1 つ は 社 員 が 企 業 に 関 与 し な い 場 合 で あ る 。社 員 の 企 業 へ の コ ミ ッ ト
メ ン ト が 低 い 会 社 は ,企 業 ト ッ プ が い く ら 競 争 優 位 を 生 み 出 す 戦 略 を 立 案
し て も ,社 員 が そ れ に 関 与 し な い の で 実 効 性 を 持 た な い 。ま た 企 業 に コ ミ
ッ ト し な い 社 員 は ,言 わ れ た 最 低 限 度 の 事 し か 実 行 し な い の で ,戦 略 は 有
効 に 機 能 し な い 。な ぜ な ら ば 完 璧 に 将 来 を 見 通 し た 戦 略 な ど 存 在 せ ず ,戦
略を遂行するグループや個人の柔軟性が求められるからである。
Minzberg(1998)は , 事 前 に 全 て 計 画 さ れ た 戦 略 だ け で 戦 略 は 有 効 に 機
能 せ ず ,計 画 さ れ た 戦 略 に「 創 発 戦 略 」が 加 味 さ れ る 事 に よ っ て ,は じ め
て 戦 略 が 実 現 す る と 主 張 し て い る 。ま た 一 人 の 行 動 が 大 き な 創 発 戦 略 に 繋
が る 事 も あ る と 論 じ て い る 。つ ま り 企 業 に 所 属 す る 社 員 が 積 極 的 に 戦 略 に
関 与 す る 事 に よ り ,事 前 に 計 画 さ れ た 戦 略 に 従 い な が ら も 外 部 環 境 の 変 化
に 対 応 す る 行 動 を 行 う 。そ の 行 動 が 創 発 戦 略 に 繋 が る 可 能 性 が あ り ,結 果
と し て 戦 略 が 有 効 に 機 能 す る の で あ る 。す な わ ち 企 業 を 存 続 さ せ る た め に
は ,企 業 ト ッ プ で あ る 筆 者 が ,競 争 優 位 を 生 み 出 す 戦 略 を 立 案 し ,外 部 環
境 の 変 化 に 応 じ た 意 思 決 定 を 行 う と 同 時 に ,企 業 に 所 属 す る 社 員 の 組 織 コ
ミットメントを高めることによって創発戦略を生み出す行動を促す事が,
ゴ ー イ ン グ コ ン サ ー ン に 繋 が る と 考 え た 。こ れ が 本 論 文 執 筆 に 至 っ た 経 緯
である。
3
組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を 向 上 さ せ る に 当 た っ て ,筆 者 は コ ミ ッ ト メ ン ト プ
ロ フ ァ イ ル に 注 目 し た 。コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル と は ,組 織 コ ミ ッ ト
メントを複眼的に観察することにより見出されるプロファイルの事であ
る 。例 え ば 情 緒 的 コ ミ ッ ト メ ン ト が 高 い 人 で も ,情 緒 的 コ ミ ッ ト メ ン ト だ
け が 高 い 人 ,情 緒 的 コ ミ ッ ト メ ン ト と 功 利 的 コ ミ ッ ト メ ン ト が 高 い 人 ,情
緒 的 コ ミ ッ ト メ ン ト ,功 利 的 コ ミ ッ ト メ ン ト ,規 範 的 コ ミ ッ ト メ ン ト の 3
つ と も 高 い 人 が い る は ず で あ る 。 Meyer & Herscovitch(2001)は , 組 織 コ
ミ ッ ト メ ン ト 3 次 元 モ デ ル を 複 眼 的 に 見 る 事 に よ り ,8 つ の コ ミ ッ ト メ ン
ト プ ロ フ ァ イ ル を 提 示 し た 。そ し て 8 つ の コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル ご
と に 違 っ た 成 果 を 生 み 出 す の で は な い か と 考 え た 。筆 者 が コ ミ ッ ト メ ン ト
プ ロ フ ァ イ ル に 注 目 し た 理 由 は ,従 来 情 緒 的 コ ミ ッ ト メ ン ト ,功 利 的 コ ミ
ッ ト メ ン ト ,或 い は 規 範 的 コ ミ ッ ト メ ン ト の 単 次 元 で 行 わ れ て き た 研 究 で
は ,複 雑 な 人 間 の 心 理 を 捉 え き れ な い と 考 え た か ら で あ る 。現 実 的 に ,個
人 の 態 度 を 表 わ す 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト に お い て ,情 緒 的 コ ミ ッ ト メ ン ト だ
け が 高 く ,そ の 他 の コ ミ ッ ト メ ン ト が 無 い ,と い う 状 態 は 想 像 し 難 い 。ま
た 研 究 上 で は ,各 々 の 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を 定 量 化 し て 分 析 を 行 う 場 合 が
あ る が ,情 緒 的 コ ミ ッ ト メ ン ト が 5 点 尺 度 で 4.2 で あ る が ,功 利 的 コ ミ ッ
ト メ ン ト が 0.0 と い う の も 考 え に く い 。す な わ ち 個 人 の 態 度 は ,組 織 コ ミ
ッ ト メ ン ト の 下 位 尺 度 が 情 緒 ,功 利 ,規 範 の 3 つ だ と 仮 定 す る と ,そ の 3
つのコミットメントが複雑に絡み合うことによって表わされていると考
え ら れ る 。企 業 に と っ て 好 ま し い 成 果 を 生 み 出 す 個 人 は ,ど の よ う な コ ミ
ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル( 3 次 元 の コ ミ ッ ト メ ン ト を 各 々 ど の 程 度 持 っ て
い る の か )を 持 つ の か を 探 求 す る こ と に よ り ,今 ま で 多 次 元 で 組 織 コ ミ ッ
ト メ ン ト を 研 究 し て い な が ら ,個 々 の コ ミ ッ ト メ ン ト と 成 果 の 関 係 を 調 査
し て き た 研 究 よ り も ,よ り 現 実 の 態 度 を 深 く 追 求 す る こ と が 出 来 る で あ ろ
う 。も ち ろ ん 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を 複 眼 的 に 観 察 す る こ と に よ り 見 出 さ れ
るコミットメントプロファイルが人間の複雑な心理を充分に捉えている
の か と 言 え ば 疑 問 が 残 る が ,少 な く と も 単 次 元 で 捉 え る よ り も 複 眼 的 に 見
4
た コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル の 方 が ,人 間 の 心 理 を 捉 え や す い と 言 え る
だ ろ う 。従 来 ,田 尾( 1997)1 の よ う に コ ミ ッ ト メ ン ト に 肯 定 的 な 意 見 や ,
コ ミ ッ ト メ ン ト が 強 す ぎ る と 革 新 性 が 阻 害 さ れ る と の 理 由 で( 例 え ば 松 山 ,
2005) コ ミ ッ ト メ ン ト に 対 し て 否 定 的 な 意 見 の 二 元 論 で 議 論 さ れ て き た 。
し か し ,コ ミ ッ ト メ ン ト 自 体 の 善 し 悪 し で は な く ,好 ま し い コ ミ ッ ト メ ン
トプロファイルやあまり好ましくないコミットメントプロファイルが解
明 さ れ れ ば ,コ ミ ッ ト メ ン ト 研 究 に 新 た な 視 座 を 提 供 出 来 る 可 能 性 を 秘 め
ている。
そ し て こ れ ら の 関 心 を も と に ,高 い 成 果 を 産 み 出 し 得 る 好 ま し い コ ミ ッ
ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル の 存 在 を 明 ら か に し ,ま た そ の 好 ま し い コ ミ ッ ト メ
ン ト プ ロ フ ァ イ ル を 規 定 す る 要 因 と ,そ の 好 ま し い コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ
ァ イ ル が 生 み 出 し 得 る 成 果 に つ い て 追 求 し て い く 。こ の 規 定 要 因 ,コ ミ ッ
ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル , 成 果 変 数 を 測 る こ と に よ り , 過 去 ( 規 定 要 因 ),
現 在 ( コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル ), 未 来 ( 成 果 変 数 ) を 考 察 し て い き
たい。
ま た 本 研 究 で は ,事 業 が 軌 道 に 乗 っ た 歴 史 の あ る 企 業 を ,創 業 か ら 半 世
紀 以 上 存 続 し て い る 企 業 と 定 義 づ け て い る 。業 種 や 外 部 環 境 に よ り 大 き く
変 わ る の で ,事 業 が 何 年 経 て ば 軌 道 に 乗 っ た か 一 般 化 す る こ と は 困 難 で あ
る 。し か し ,2005 年 の 国 税 庁 に よ る 報 告 で は ,30 年 間 企 業 が 存 続 す る 確
率 は 0.025%( 1 万 社 の 内 2.5 社 ) で あ る 。 従 っ て , 創 業 か ら 半 世 紀 経 っ
た企業は,事業が軌道に乗ったといっても良いだろう。
第 3節
研究目的
本 研 究 の 目 的 は ,事 業 が 軌 道 に 乗 っ た 歴 史 の あ る 日 本 企 業 に と っ て ,好
ま し い コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル と は ど の よ う な も の で あ る か ,ま た そ
の好ましいコミットメントプロファイルはどのような成果を生み出すと
想 定 さ れ る か を 明 ら か に す る こ と で あ る 。そ し て 好 ま し い コ ミ ッ ト メ ン ト
1
田 尾 ( 1997) は 日 本 企 業 が 強 い 競 争 力 を 持 っ て い た 時 代 , そ の 競 争 力 の 源 泉
は企業への帰属意識,すなわち組織コミットメントであったと主張した。
5
プロファイルを規定する要因は何であるのかを明らかにすることが出来
れば,人的資源管理施策やマネジメントコントロール施策を講じる上で,
有 益 な 示 唆 を 与 え る 事 が 出 来 る と 考 え る 。こ れ ら を 解 明 す る た め に 3 つ の
研 究 課 題 (Research Question)を 設 定 す る 。
第 一 に ,事 業 が 軌 道 に 乗 っ た 歴 史 の あ る 日 本 企 業 に お い て ,企 業 へ の 愛
着 か ら 生 じ る 情 緒 的 コ ミ ッ ト メ ン ト (Affective Commitment, 以 下 AC と
記 す ), 企 業 か ら 離 脱 す る と 自 ら が 損 を す る の で そ の 企 業 に 留 ま り 続 け る
と い う 功 利 的 な 気 持 ち か ら 生 じ る 功 利 的 コ ミ ッ ト メ ン ト (Continuance
Commitment, 以 下 CC と 記 す ), 企 業 に 所 属 し て い る 限 り 企 業 に は コ ミ
ッ ト す べ き だ と い う 規 範 か ら 生 じ る 規 範 的 コ ミ ッ ト メ ン ト (Normative
Commitment, 以 下 NC と 記 す )の 3 つ の 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を 複 眼 的 に
見 た 時 ,い く つ の コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル が 見 出 せ る だ ろ う か( 研 究
課 題 1 ) 2。 理 論 上 コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル は , 全 て の 要 素 が 高 い 高
関 与 型 (High-AC, High-CC, High-NC),情 緒 的 要 素 と 規 範 的 要 素 が 高
い 情 緒 規 範 型 (High-AC, Low-CC, High-CC), 情 緒 的 要 素 と 存 続 的 要
素 が 高 い 情 緒 功 利 型 (High-AC, High-CC, Low-NC), 情 緒 的 要 素 だ け
が 高 い 情 緒 型 (High-AC, Low-CC, Low-NC),規 範 的 要 素 と 存 続 的 要 素
が 高 い 功 利 規 範 型 (Low-AC, High-CC, High-NC), 規 範 的 要 素 だ け が
高 い 規 範 型 (Low-AC, Low-CC, High-NC),存 続 的 要 素 だ け が 高 い 規 範
型 (Low-AC, High-CC, Low-NC),全 て の 要 素 が 低 い 非 関 与 型 (Low-AC,
Low-CC, Low-NC)が あ る 。 既 存 研 究 で は , こ の 8 つ の コ ミ ッ ト メ ン ト
プ ロ フ ァ イ ル を 見 出 そ う と し た 研 究 は 存 在 す る ( 例 え ば Gellatly et al.,
2006)。 し か し , 日 本 に お い て 事 業 が 軌 道 に 乗 っ た 歴 史 の あ る 企 業 を 対 象
に,コミットメントプロファイルを見出そうとした研究は極めて少ない。
本研究の前提となる研究課題であるので,厳密な調査をしていきたい。
第 二 に ,そ れ ぞ れ の コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル に 想 定 さ れ る 成 果 に 違
い が あ る の で は な い だ ろ う か 。も し 違 い が あ れ ば ,ど の よ う な 違 い が あ る
一 般 的 に Affective は 感 情 的 , Continuance は 存 続 的 と 翻 訳 さ れ る が , 組 織
コ ミ ッ ト メ ン ト 研 究 に お い て ,情 緒 ,功 利 ,規 範 の 3 次 元 で 表 現 さ れ る 事 が 多 い
た め , 本 論 文 も 情 緒 , 功 利 , 規 範 或 い は AC,CC,NC と 表 記 す る 。
2
6
の か ( 研 究 課 題 2)。
第 三 に ,そ れ ぞ れ の コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル を 規 定 す る 要 因 に 違 い
が あ る の で は な い だ ろ う か 。も し 違 い が あ れ ば ,ど の よ う な 違 い が あ る の
か ( 研 究 課 題 3)。
本 研 究 の 目 的 は ,上 記 に 設 定 し た 3 つ の 研 究 課 題 を 明 ら か に す る こ と で
ある。
第 4節
本研究の構成
本 研 究 は ,序 章 と 終 章 を 含 め て 7 つ の 章 か ら 構 成 さ れ る 。第 1 章 ,第 2
章 で は 先 行 研 究 の レ ビ ュ ー を 行 う 。第 1 章 で は 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト の 概 念
に つ い て レ ビ ュ ー し た の ち ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト に お け る 変 遷 に つ い て レ
ビ ュ ー す る 。第 2 章 で は ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト の 概 念 そ の も の で は な く 組
織 コ ミ ッ ト メ ン ト の 理 論 モ デ ル ,す な わ ち 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト が 生 み 出 す
成 果 ,そ し て 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を 規 定 す る 要 因 に つ い て の 研 究 に つ い て
レ ビ ュ ー す る 。ま た 第 2 章 で は ,本 研 究 の メ イ ン テ ー マ で あ る コ ミ ッ ト メ
ン ト プ ロ フ ァ イ ル に 関 す る 先 行 研 究 も レ ビ ュ ー す る 。最 後 に 組 織 コ ミ ッ ト
メントに関する先行研究レビューを纏め,本研究の意義を見出したい。
第 3 章 で は ,研 究 課 題 に 基 づ い た 仮 説 を 提 示 す る 。ま ず 仮 説 を 導 く 本 研
究 の 理 論 モ デ ル を 提 示 す る 。そ の 後 ,コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル は い く
つ 存 在 す る の か を 明 ら か に す る 仮 説 を ま ず 提 示 す る 。そ し て ,コ ミ ッ ト メ
ン ト プ ロ フ ァ イ ル が も た ら す 成 果 と ,コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル を 規 定
する要因についてもいくつかの仮説を提示する。
第 4 章 で は ,調 査 設 計 に つ い て 述 べ る 。コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル を
中 心 と し ,各 々 の コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル が 生 み 出 す 成 果 ,そ し て そ
れ ら を 規 定 す る 要 因 に つ い て ,ど の よ う な 項 目 を 調 査 す る の か 述 べ る 。そ
して調査対象,調査方法に関して記し,調査の概要を提示する。
第 5 章 で は ,実 証 分 析 を 行 う 。第 3 章 で 提 示 し た 調 査 設 計 を 基 に 調 査 を
行 い ,分 析 す る 。ま ず Allen & Meyer(1990)の 質 問 票 を 基 に 作 成 し た 組 織
コ ミ ッ ト メ ン ト に 関 す る 項 目 を 基 に , AC, CC, NC の 存 在 を 見 出 す 。 そ
7
し て 各 々 の コ ミ ッ ト メ ン ト を 複 眼 的 に 見 る 事 に よ っ て ,コ ミ ッ ト メ ン ト プ
ロ フ ァ イ ル が い く つ 見 出 せ る か 実 証 す る 。そ の 後 ,各 々 の コ ミ ッ ト メ ン ト
プ ロ フ ァ イ ル と 成 果 変 数 と を 多 変 量 解 析 し ,ま た 各 々 の コ ミ ッ ト メ ン ト を
生 み 出 す 規 定 要 因 を 探 る こ と に よ っ て ,特 定 の コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ
ル を 持 つ 人 々 が ど の よ う な 成 果 を 生 み 出 す の か 明 ら か に す る と 同 時 に ,そ
れを規定する要因についても分析する。
終 章 で は ,要 約 と 結 論 を ま と め ,理 論 的 ,実 践 的 含 意 に つ い て 言 及 す る 。
そ れ と 同 時 に 残 さ れ た 課 題 に も 触 れ ,本 研 究 を 今 後 の 研 究 に お い て 道 標 と
したい。
8
第 1章
第 1節
組織コミットメント研究の変遷
はじめに
本 章 と 次 章 で ,本 研 究 に 関 す る 先 行 研 究 に つ い て レ ビ ュ ー を 行 う 。本 章
による,具体的なレビュー内容は次の通りである。
ま ず 第 2 節 で は ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト の 概 念 に お け る 定 義 付 け に 関 し て
レ ビ ュ ー を 行 う 。こ こ で は 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト と は ど の よ う な 性 質 で あ る
の か を ま と め て い く 。こ の 節 で は ,本 研 究 の メ イ ン テ ー マ で あ る コ ミ ッ ト
メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル が 研 究 さ れ る 前 に は ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト の 概 念 は ど
の よ う に 研 究 さ れ て き た の か を 明 ら か に す る 目 的 で レ ビ ュ ー さ れ る 。第 3
節では半世紀を超えて研究されている組織コミットメントの概念におけ
る変遷を時系列にまとめていく。第 4 節では,第 2 節と第 3 節でレビュ
ーした先行研究について意義と限界について言及する。
第 2節
組織コミットメントの概念
本 節 で は ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト の 概 念 に つ い て ,レ ビ ュ ー す る 。組 織 へ
の 帰 属 意 識 ,あ る い は 組 織 に 留 ま る 意 志 を 表 わ し た 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト の
概念とはどのように捉えられてきたのか確認する。
まず組織コミットメントを,組織から離れた場合に失うことになる
「 side-bet」 を 考 慮 し て , 首 尾 一 貫 し た 行 動 を 取 る 性 質 の も の と し た
Becker(1960)の 概 念 を 紹 介 し た い 。彼 は ,例 え ば ,個 人 は 昇 進 の 機 会 や 組
織 固 有 の ス キ ル ,退 職 金 な ど 組 織 を 離 れ る と 失 う も の を 考 慮 し て ,組 織 に
留 ま る か ど う か 判 断 す る と 考 え た 。す な わ ち ,個 人 が 組 織 を 離 れ る か 否 か
は , 個 人 が 組 織 を 離 れ た 際 に 失 う 損 失 ( 積 み 上 げ ら れ た 「 side-bet」) の
大きさによると考えた。
Becker と 全 く 違 っ た 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト の 概 念 を 提 唱 し た の は ,
Buchanan で あ る 。Buchanan(1974)は ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を ,
「金銭的
な 価 値 か ら 離 れ た ,組 織 の 価 値 や 目 標 ,そ れ に 関 連 し た 役 割 ,そ し て 組 織
へ の 同 一 化 と 没 入 の 強 さ 」だ と 考 え た 。組 織 に 留 ま る か 否 か は ,損 得 か ら
で は な く , 組 織 へ の 愛 着 が あ る か 無 い か で 決 ま る と い う の が , Buchanan
の主張である。
9
Mowday, Porter& Steers(1982)は , 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を ,「 特 定 の
組 織 へ の 同 一 化 (identification)と 没 入 (involvement)の 強 さ 」だ と 考 え た 。
ま た 彼 ら が 提 唱 し た OCQ(Organizational Commitment Questionnaire)
は現在でも幅広く活用される質問項目である。
最 後 に , Allen & Meyer(1990)を 中 心 と し た 多 次 元 コ ミ ッ ト メ ン ト 概 念
を 説 明 す る 。何 人 か の 研 究 者 は ,従 来 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト は 情 緒 的 コ ミ ッ
ト メ ン ト と 功 利 的 コ ミ ッ ト メ ン ト の 2 次 元 で 研 究 さ れ て い た も の を ,情 緒
的 コ ミ ッ ト メ ン ト や 功 利 的 コ ミ ッ ト メ ン ト を 更 に 細 分 化 し た り ,別 の 概 念
を 提 示 し た り し た 。例 え ば Allen & Meyer(1990)は ,人 々 が 持 つ 義 務 感 か
ら 生 じ る 規 範 的 コ ミ ッ ト メ ン ト を 提 唱 し た 。ま た 彼 ら は 組 織 コ ミ ッ ト メ ン
ト を ,「 組 織 と 従 業 員 の 関 係 を 特 徴 付 け , 組 織 に お け る メ ン バ ー シ ッ プ を
継 続 ,も し く は 中 止 す る 決 定 に 関 す る イ ン プ リ ケ ー シ ョ ン を 持 つ 心 理 状 態 」
だ と 考 え た 。彼 ら が 提 示 し た 研 究 の 意 義 は ,単 に 新 た な コ ミ ッ ト メ ン ト の
提 唱 や 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト に お け る 定 義 の 提 唱 に 留 ま ら ず ,コ ミ ッ ト メ ン
ト プ ロ フ ァ イ ル の 研 究 に お け る 素 地 を 作 っ た こ と だ と 言 え よ う 。な ぜ な ら
ば ,そ れ ま で 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト は 多 次 元 あ る と 考 え ら れ ,研 究 さ れ て き
た も の の ,各 々 の コ ミ ッ ト メ ン ト の 有 る 無 し ,或 い は 強 い 弱 い で 考 え ら れ
て き た も の を ,彼 ら は い く つ か の コ ミ ッ ト メ ン ト の 総 和 が 組 織 コ ミ ッ ト メ
ントだと主張したからである。詳細は後ほど記す。
こ の よ う に 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト の 概 念 だ け で も ,様 々 な 研 究 者 が 様 々 な
定 義 付 け を 行 い 研 究 し て い る 。半 世 紀 以 上 に 渡 っ て 研 究 さ れ て き た 組 織 コ
ミ ッ ト メ ン ト の 概 念 は ,一 見 カ オ ス の よ う に も 見 え る 。次 章 で は ,組 織 コ
ミ ッ ト メ ン ト の 変 遷 を 時 系 列 に レ ビ ュ ー す る こ と に よ っ て ,組 織 コ ミ ッ ト
メントの概念をまとめる。
第 3節
組織コミットメント研究の変遷
本 節 で は ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト の 概 念 に お け る 変 遷 に つ い て ,過 去 の 先
行研究を時系列に紐解く事でレビューしていく。
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1. Side-bet 理 論
Becker(1960)は , 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト に 限 ら ず コ ミ ッ ト メ ン ト 一 般
を 組 織 と 個 人 と の 交 換 的 な 視 点 で 捉 え よ う と し た 。 Becker(1960)は ,
個人が組織に対して首尾一貫した行動を取る理由を組織コミットメン
トで説明しようとした。そして,個人が組織に対して首尾一貫した行
動 を 取 る の は , そ の よ う に 行 動 し な い と 個 人 が 失 う も の (side-bet)が あ
るからだと主張した。
例えば,長く勤めた会社を辞めると,退職金が減額になったり,今
まで培ってきたその会社でしか通用しないスキルや知識が無駄になっ
たりする。また,転職しなければある程度,収入の見通しもつくだろ
う し ,気 心 の 知 れ た 上 司 や 同 僚 ,部 下 達 と 慣 れ た 環 境 で 仕 事 が 出 来 る 。
つまり,会社を辞めると今まで培ってきた多くのものが失われてしま
う。それを失わないがために,同じ会社に留まり続けることが組織コ
ミ ッ ト メ ン ト な の だ と Becker は 考 え た 。
Becker の 考 え は , side-bet 理 論 と 呼 ば れ , 多 く の 組 織 コ ミ ッ ト メ ン
ト研究の礎となった。また長く組織コミットメント研究で定番とされ
た情緒的コミットメント-功利的コミットメントの 2 次元の一翼(功
利 的 コ ミ ッ ト メ ン ト )を Becker( 1960)の 主 張 が 担 っ て い る の で あ る 。
2. 道 徳 的 , 計 算 的 , 疎 外 的 関 与
Etzioni(1961)は , 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を 「 道 徳 的 関 与 (moral
involvement)」,
「 計 算 的 関 与 (calculative involvement)」,
「疎外的関与
(alienative involvement)」 の 3 次 元 で 捉 え た 3 。
「道徳的関与」とは,ポジティブで強い志向性を持ったコミットメ
ン ト だ と 考 え た 。ま た「 道 徳 的 関 与 」に は ,
「 純 粋 な 道 徳 的 関 与 」と「 社
会 的 な 道 徳 的 関 与 」 が あ る と さ れ ,「 純 粋 な 道 徳 的 関 与 」 は 規 範 の 内 在
化,特定の権威への同一化を意味するコミットメントだと考えられ,
Etzioni(1961)の 研 究 は ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト 研 究 が 体 系 化 さ れ た 現 在 に お い
て , 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト 研 究 に 属 す る が , 当 時 Etzioni が 問 う た の は , 個 人 の
組織への関わり方というより広範な問題であった。
3
11
「社会的な道徳的関与」は周りからの圧力に対する感受性から来るコ
ミ ッ ト メ ン ト だ と 考 え ら れ て い る 。「 道 徳 的 関 与 」 は , 情 緒 的 コ ミ ッ ト
メントと捉えても問題ないだろう。
「計算的関与」とは,利害関係のあるビジネスマン,ビジネスウー
マ ン 同 士 の 人 間 関 係 に 見 ら れ る コ ミ ッ ト メ ン ト で あ る 。「 計 算 的 関 与 」
は,自らが行った貢献と得られるリターンを比べた時,貢献とリター
ンが等しい,或いはリターンの方が大きいと判断した時,高まるコミ
ッ ト メ ン ト だ と 考 え ら れ て い る 。「 計 算 的 関 与 」 は , 功 利 的 コ ミ ッ ト メ
ントの一種であると考えられる。
最後の「疎外的関与」は,著しく個人の行動が制限された状況で発
生するものだと考えられた。例えば,監獄で収容されている囚人や戦
争中に敵軍に捕まった捕虜などが挙げられる。彼らは強制的ながら監
獄や敵軍という組織に関与させられているのである。
「 疎 外 的 関 与 」は ,
情緒的コミットメントにも功利的コミットメントにも属さない例外的
な コ ミ ッ ト メ ン ト と し て 捉 え ら れ る だ ろ う 。 Etzioni も 「 疎 外 的 関 与 」
は否定的な関与で,コミットメントではないとしている。
Etzioni(1961)の 研 究 は , 例 外 的 な 「 疎 外 的 関 与 」 を 除 け ば , 情 緒 的
コミットメント-功利的コミットメントの 2 次元で組織コミットメン
トを捉えている。
3. 存 続 , 凝 集 , 統 制 コ ミ ッ ト メ ン ト
Kanter(1968)は , 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を 「 存 続 コ ミ ッ ト メ ン ト
(continuance commitment)」,「 凝 集 コ ミ ッ ト メ ン ト (cohesion
commitment)」,「 統 制 コ ミ ッ ト メ ン ト (control commitment)」 の 3 次
元で捉えた。
「存続コミットメント」とは,組織に留まり続ける意志だと考えら
れ て い る 。「 存 続 コ ミ ッ ト メ ン ト 」 は , 組 織 を 離 れ る と こ れ ま で 個 人 が
払った犠牲や投資が無駄になるので,組織に留まり続けるコミットメ
ントだと考えられており,功利的コミットメントの一種だと考えられ
る。
12
「凝集コミットメント」とは,社会的な関係を絶たせて特定の組織
のみ関与させたり,組織の儀式に参加させたりすることにより発生す
る 愛 着 か ら 来 る コ ミ ッ ト メ ン ト で あ る 。「 凝 集 コ ミ ッ ト メ ン ト 」 は 情 緒
的コミットメントだと考えられる。
最後の「統制コミットメント」は,組織の方向性を一致させるため
の規範に基づくコミットメントである。組織に属する人々が,その組
織の方向性が正しいものだと信じ,その方向性に基づく規範や価値観
の重要性を認知し,また日々それらの規範や価値観の影響を受けてい
る 場 合 ,「 統 制 コ ミ ッ ト メ ン ト 」 が 高 ま る と し て い る 。「 統 制 コ ミ ッ ト
メント」も情緒的コミットメントの一種だと考えられる。
Kanter(1968)の 特 徴 は ,
「 存 続 コ ミ ッ ト メ ン ト 」,
「凝集コミットメン
ト 」,「 統 制 コ ミ ッ ト メ ン ト 」 の 3 つ の コ ミ ッ ト メ ン ト に 相 関 関 係 が 存
在すると主張した点である。組織は,組織に所属している人々の組織
コミットメントを高めるために,個々のコミットメントを単独で高め
る の で は な く ,3 つ の コ ミ ッ ト メ ン ト は 相 互 作 用 が あ る の で 同 時 に 高 め
るとされる。今まで個別で捉えられていた組織コミットメントの関係
性 を Kanter が 言 及 し た 点 は 意 味 が あ る だ ろ う 。 Kanter が 主 張 し た 相
互作用をもう一歩進めるとコミットメントプロファイルに近い概念と
な っ た の だ が ,Kanter 自 身 は そ の 概 念 自 体 に は 踏 み 込 ん で 議 論 し て い
な い 。 ま た 同 じ 情 緒 的 コ ミ ッ ト メ ン ト で も ,「 凝 集 コ ミ ッ ト メ ン ト 」 の
よ う に 組 織 へ の 愛 着 に よ っ て 生 じ る も の と ,「 統 制 コ ミ ッ ト メ ン ト 」 の
ように個人が組織の価値観に共感することによって生じるものがある
と論じたのは興味深い点である。
4. 情 緒 的 愛 着 に よ る コ ミ ッ ト メ ン ト
Buchanan(1974)は ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を 組 織 の 目 標 や 価 値 ,そ し
てそれらに関した役割に対する偏向的,情緒的な愛着と定義し,組織
コミットメントと情緒的コミットメントを同一視した上で,組織コミ
ッ ト メ ン ト を 「 同 一 視 (identification)」,「 没 入 (involvement)」,「 忠 誠
(loyalty)」 の 3 次 元 で 捉 え た 。
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「同一視」は,組織の価値や目標を自らの価値や目標と同一視させ
る こ と 。「 没 入 」 は , 自 ら の 仕 事 の 役 割 を 果 た す た め の 活 動 に 没 頭 す る
こ と 。「 忠 誠 」 は , 組 織 に 対 し て 愛 着 の 感 情 を 持 つ こ と で あ る 。
Buchanan は ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト は 情 緒 的 な コ ミ ッ ト メ ン ト で あ る
と 考 え , 情 緒 的 コ ミ ッ ト メ ン ト を 3 次 元 で 捉 え よ う と し た 。「 没 入 」 や
「 忠 誠 」 は 組 織 へ の 愛 着 か ら 生 じ る コ ミ ッ ト メ ン ト で ,「 同 一 視 」 は 組
織の価値観への共感から来るコミットメントだと考えられるだろう。
5. 道 徳 的 , 計 算 的 コ ミ ッ ト メ ン ト
Kidron(1978)は , 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を 「 道 徳 的 コ ミ ッ ト メ ン ト
(moral commitment)」 と 「 計 算 的 コ ミ ッ ト メ ン ト (calculative
commitment)」 の 2 次 元 で 捉 え た 。
「 道 徳 的 コ ミ ッ ト メ ン ト 」は ,組 織 の 目 標 へ の 同 一 視 だ と 考 え ら れ ,
愛着から来る情緒的コミットメントだと考えられる。また「計算的コ
ミットメント」は,組織と個人の契約関係を重視するコミットメント
で , 個 人 の 費 用 対 効 果 や ROI( return on investment) を 考 え , メ リ
ッ ト が あ れ ば 高 ま る と さ れ る 。「 計 算 的 コ ミ ッ ト メ ン ト 」 は 功 利 的 コ ミ
ットメントだと考えられる。
Kidron は ,「 道 徳 的 コ ミ ッ ト メ ン ト 」 と 「 計 算 的 コ ミ ッ ト メ ン ト 」
に 関 す る 実 証 研 究 を 行 っ た 。 Kidron は 「 道 徳 的 コ ミ ッ ト メ ン ト 」 を 9
項 目 ,「 計 算 的 コ ミ ッ ト メ ン ト 」を 4 項 目 で 測 定 し よ う と し た 。 質 問 項
目 ,特 に「 計 算 的 コ ミ ッ ト メ ン ト 」を 測 る 質 問 に 問 題 は あ る も の の(「 計
算的コミットメント」を測る質問は給与,仕事のおもしろさ,地位,
同僚に関しての項目で形成され,必ずしも功利的コミットメントを測
る 尺 度 だ と 言 え な い ),「 道 徳 的 コ ミ ッ ト メ ン ト 」 と プ ロ テ ス タ ン ト の
労働倫理に強い相関があると実証研究で証明しようとした。
6. 態 度 的 コ ミ ッ ト メ ン ト
Mowday,Porter& Steers(1979)は ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を 組 織 へ の
愛着から来る情緒的コミットメントだと捉え,組織コミットメントを
14
組織や仲間への愛着の要素で組織の価値や目標を共有したり,組織に
留まり続けたいという願望や,組織が持つ理念や価値観への同一化の
要素を持ったりするものだと考えた。
ま た Mowday ら は 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を 「 態 度 的 コ ミ ッ ト メ ン ト 」
と呼び,組織の目標や価値観への信頼,組織への貢献意志,組織のメ
ンバーを維持したいという 3 つのファクターから形成されていると考
えた。
彼 ら の 研 究 が 高 く 評 価 さ れ て い る 理 由 の 1 つ は , 15 項 目 の 質 問 か ら
な る OCQ(Organizational Commitment Questionnaire)を 開 発 し た こ
と で あ る 。OCQ は 現 在 で も 活 用 さ れ て い る 尺 度 で あ り ,30 年 以 上 に わ
たって組織コミットメントの実証研究に使われていると言う点でも大
きな貢献だと言えるだろう。
組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト に 大 き な 足 跡 を 築 い た Mowday ら の 研 究 で あ る
が,複雑な人間の心理から来る態度を表わす組織コミットメントを情
緒的なコミットメントだけで捉えることは,組織コミットメントの 1
つの側面しか捉えていないといえよう。このことは,他の研究を見て
も明らかである。また組織コミットメントが,組織の目標や価値観へ
の信頼,組織への貢献意志,組織のメンバーを維持したいという 3 つ
のファクターで形成されているにも関わらず 1 つのコミットメントで
捉えようとした事は問題であるし,実際批判もある(例えば関本・花
田 , 1987)。
7. 日 本 の 4 次 元 コ ミ ッ ト メ ン ト
関 本 と 花 田 (1985)は , OCQ を ベ ー ス と し な が ら も OCQ の 問 題 点 を
改 善 し よ う と し た 質 問 票 を 作 成 し ,実 証 研 究 を 行 い ,4 つ の 要 素 を 抽 出
し た 。4 つ の 要 素 と は ,
「 価 値 内 在 化 」,
「 勤 労 意 欲 」,
「 残 留 意 欲 」,そ し
て「功利」である。
「 価 値 内 在 化 」は ,次 に 記 す O’Reilly& Chatman(1986)の「 内 在 化 」
とほぼ同様の考え方で,組織と個人の価値観が一致している状態を指
す。
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「勤労意欲」は,組織への愛着から来る情緒的コミットメントと同
様の考え方である。組織への愛着があるので,その組織のために積極
的に働きたいと言う意欲を表わしている。
「残留意欲」は,所属している組織に留まりたいと言う意欲を指し
ている。この残留意欲は,組織への愛着から来るものであれば情緒的
コミットメントに分類されるであろうし,何らかの理由により残留せ
ざるを得ない場合は功利的コミットメントに分類されるだろう。
最後の「功利」は,個人と組織の損得関係から来るコミットメント
で,功利的コミットメントと同様である。
関 本 ・ 花 田 ( 1985) の 研 究 は , 日 本 の 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト 研 究 に お
い て 引 用 さ れ る こ と が 多 く( 例 え ば ,高 尾 ,1998,高 木 ,2003 な ど ),
大きな貢献をしているといえよう。
8. 情 緒 的 コ ミ ッ ト メ ン ト の 下 位 尺 度
O’Reilly & Chatman(1986)は 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を ,「 内 在 化
( internalization)」,「 同 一 化 (identification)」,「 服 従 (compliance)」
の 3 次元で把握しようと試みた。
「 服 従 」と は ,3 次 元 の 中 で 一 番 浅 い 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト だ と さ れ て
おり,周りに合わせるためや,社会に適応していくために,やむを得
ず服従するものである。
「同一化」は,組織や組織に属する人々の価値観を受け入れる事に
よって生じるコミットメントである。服従と比べて,組織への愛着は
存在する。
「内在化」は,組織や組織に属する人々との価値観が一致している
状態で,組織と個人の価値観が共鳴しているとも言える。共鳴とは組
織から個人の一方通行ではなく,相互に価値観が影響し合っている状
態を指す。
O’Reilly & Chatman(1986)の 研 究 の 意 義 は , 情 緒 的 コ ミ ッ ト メ ン ト
を 「 同 一 化 」 と 「 内 在 化 」 の 2 つ の 要 素 に 分 け た 点 で あ り ,「 同 一 化 」
は 組 織 へ の 愛 着 か ら 来 る 情 緒 的 コ ミ ッ ト メ ン ト ,「 内 在 化 」 は 個 人 と 組
16
織による価値観の共鳴から来る情緒的コミットメントだといえよう。
9. 功 利 的 コ ミ ッ ト メ ン ト の 下 位 尺 度
O’Reilly & Chatman(1986)が 情 緒 的 コ ミ ッ ト メ ン ト を 2 つ の 要 素 に
分 け た の に 対 し , McGee & Ford(1987)は 功 利 的 コ ミ ッ ト メ ン ト を , 個
人 が 選 べ る 代 替 案 が 非 常 に 少 な い 状 態 か ら 来 る 「 代 替 案 の 少 な さ (low
alternatives)」と ,個 人 が 払 っ た 犠 牲 の 高 さ か ら く る「 個 人 的 犠 牲 (high
sacrifice)」 の 2 つ の 要 素 が あ る と 提 唱 し た 。
従来功利的コミットメントは,個人が払った犠牲に見合ったリター
ン を 得 る た め に 組 織 に 留 ま る も の と 考 え ら れ て 来 た が ,McGee & Ford
はそれ以外に代替案が無いので,組織に留まる事もあると考え「代替
案の少なさ」も功利的コミットメントであると考えた。
10. 3 次 元 コ ミ ッ ト メ ン ト
近年の組織コミットメントにおけるスタンダードとなりつつあるの
が Allen & Meyer(1990)の 研 究 で あ る 。こ れ ま で 各 研 究 者 が 違 っ た 名 前
をつけているが,情緒的コミットメントと功利的コミットメントその
ものの研究や情緒・功利の下位次元のコミットメントについての研究
が 大 半 で あ っ た 。 Allen & Meyer は 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を ,「 感 情 的 コ
ミ ッ ト メ ン ト (affective commitment)」,「 存 続 的 コ ミ ッ ト メ ン ト
(continuance commitment)」,「 規 範 的 コ ミ ッ ト メ ン ト (normative
commitment)」 の 3 つ 要 素 に 分 解 で き る と 提 唱 し た 。
「感情的コミットメント」とは,組織への愛着から来るコミットメ
ン ト で あ る 。Mowday ら (1979)や Buchanan(1974)が 提 唱 し た 概 念 と ほ
ぼ同様だと考えられる。
「存続的コミットメント」とは,組織を辞める時のコストに着目し
たもので,功利的コミットメントとほぼ同様である。
「規範的コミットメント」とは,コミットメントすべきだからコミ
ットすると言った組織に対する義務感や個人の規範から生じるコミッ
トメントである。従来,情緒的コミットメントと功利的コミットメン
17
トの 2 次元で研究されてきたのを,新たなコミットメントを追加し 3
次元とした事は大きな意義があるだろう。しかしながら,情緒的コミ
ットメントと規範的コミットメントとは高い相関関係にあり,定義と
して分離できても,実証においては研究の余地が残されていると言え
よう。
Allen & Meyer の 研 究 成 果 は 3 次 元 コ ミ ッ ト メ ン ト を 提 唱 し た だ け
ではない。彼らは,組織に所属する個人の態度は,組織コミットメン
トの下位次元そのものというよりは,それらが相互に密接に絡まり合
ったものだと主張している。換言すれば,個人の組織への関わり方と
は 3 次元コミットメントの総和が組織コミットメントだということに
なる。この主張は,後に登場するコミットメントプロファイルの考え
方の源流ともいえ,組織コミットメント研究の新たな展開の方向性と
して注目されることになる。この点については,後に詳述する。
11. 価 値 的 コ ミ ッ ト メ ン ト
高 尾 (1998)は , 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を 4 つ の 要 素 に 分 け ら れ る の で
は な い か と 考 え た 。 そ の 4 つ と は ,「 感 情 的 コ ミ ッ ト メ ン ト (affective
commitment)」,「 存 続 的 コ ミ ッ ト メ ン ト (continuance commitment)」,
「 規 範 的 コ ミ ッ ト メ ン ト (normative commitment)」, そ し て 「 価 値 的
コ ミ ッ ト メ ン ト (value commitment)」 で あ る 。
「感情的コミットメント」は,組織への愛着から来るコミットメン
ト で あ る 。「 存 続 的 コ ミ ッ ト メ ン ト 」 は 組 織 を 離 れ る 時 の コ ス ト か ら 来
る功利的なコミットメントである。そして「規範的コミットメント」
は,組織にはコミットすべきだからコミットすると言った義務感から
生 じ る コ ミ ッ ト メ ン ト で あ る 。い ず れ も Allen & Meyer(1990)と 同 様 の
定 義 で あ る 。Allen & Meyer(1990)と 違 う の は「 価 値 的 コ ミ ッ ト メ ン ト 」
である。これは組織と個人の価値観が一致している状態に生じるコミ
ットメントである。
実 証 分 析 の 結 果 , McGee & Ford(1987)と 同 様 , 2 つ の 要 素 の 功 利 的
コミットメントが見出された。情緒的コミットメント,犠牲の大きさ
18
から来る功利的コミットメント,代替的選択肢の少なさから来る功利
的コミットメント,規範的コミットメント,そして価値的コミットメ
ン ト の 5 つ を 高 尾 ( 1998) は 提 唱 し た 。 そ の 上 で , 彼 も Allen &
Meyer(1990)同 様 ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を 単 に タ イ プ 分 け し て 別 個 に 捉
えるのではなく,組織コミットメントの要因として複雑に絡まったも
のだと考えた。
12. 組 織 を 背 負 う 意 識
鈴 木 ( 2007) は , 情 緒 的 コ ミ ッ ト メ ン ト , 存 続 的 コ ミ ッ ト メ ン ト ,
そして規範的コミットメントの代わりに「組織を背負う意識」という
概 念 を 入 れ た 。「 組 織 を 背 負 う 意 識 」 と は ,「 組 織 の 現 在 に 対 す る 関 係
を規定するものではなく,将来,未来の組織との関係をも含む意識で
あ る と い う こ と が で き る 。」( 61 頁 ) 鈴 木 ( 2007) で は , 規 範 的 コ ミ ッ
ト メ ン ト を 外 し た 合 理 的 な 理 由 は 書 か れ て い な い が , 鈴 木 ( 2009) で
は,規範的コミットメントは,個人の価値観に近く態度として捉え難
いと言う点や,日本企業における実証研究で充分な妥当性が得られて
いないことを理由として挙げている。
「 組 織 を 背 負 う 意 識 」は 情 緒 的 コ ミ ッ ト メ ン ト と 近 い 考 え 方 で あ る 。
両者の違いは,情緒的コミットメントは組織への愛着からその組織に
留 ま り た い と い う 心 理 状 態 で あ る が ,「 組 織 を 背 負 う 意 識 」 は 組 織 の 将
来に対しても積極的に関わっていく意志を含んだものである。実際,
「組織を背負う意識」は情緒的コミットメントから見出せなかった告
発行動にも影響を与えるとされている。
「組織を背負う意識」は,組織の価値観に共鳴し,その組織をより
良 く し た い と い う 想 い か ら ,組 織 の 将 来 に 積 極 的 に 関 わ る 事 を 意 味 し ,
重要な意義を持つ概念だと考えられる。しかしながら,組織コミット
メントで幅広く認められている定義として,個人が特定組織に今現在
どのように関わるかと考えられているので,将来をも含む「組織を背
負う意識」は,その定義からすると組織コミットメントの範疇から外
れている。
19
第 4節
これまでの先行研究を振り返って
こ こ ま で ,半 世 紀 以 上 に 渡 っ て 研 究 が 続 け ら れ て き た 組 織 コ ミ ッ ト メ ン
ト の 変 遷 に つ い て レ ビ ュ ー し た 。組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト 研 究 は ,組 織 行 動 論
の 中 で も 多 く の 研 究 が 蓄 積 さ れ ,ま た 体 系 化 が 進 ん で い る と い っ て 良 い だ
ろう。
組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト 研 究 は ,ま ず Bucker ら が 主 張 し た 功 利 的 な 要 素 を
持 っ た コ ミ ッ ト メ ン ト と Mowday ら が 主 張 し た 情 緒 的 な 要 素 を 持 っ た コ
ミ ッ ト メ ン ト を 中 心 に 行 わ れ た 。功 利 的 コ ミ ッ ト メ ン ト や 情 緒 的 に コ ミ ッ
ト メ ン ト に 近 い 概 念 が ,別 の 名 称 で 呼 ば れ た り ,功 利 的 コ ミ ッ ト メ ン ト や
情緒的コミットメントを細分化することを試みたりする研究はあったが,
長年にわたって組織コミットメント研究は功利的コミットメントと情緒
的コミットメントの 2 次元で行われてきたといっても良いだろう。
そ こ に 規 範 的 コ ミ ッ ト メ ン ト と い う 新 た な 概 念 を 提 唱 し た の が Allen &
Meyer で あ る 。Allen & Meyer は 従 来 の 概 念 で あ る 功 利 的 コ ミ ッ ト メ ン ト
と情緒的コミットメントの他に個人が持つ義務感や規範から来るコミッ
ト メ ン ト を 見 出 し た 。こ れ に 関 し て 批 判 は あ る も の の( 例 え ば 田 尾 ,1997,
鈴 木 , 2007 な ど ) 確 立 さ れ つ つ あ る 概 念 で あ る と い え よ う 。
Allen & Meyer 以 降 ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を 3 次 元 よ り も 多 く で 捉 え よ
う と し た 研 究 ( 例 え ば 高 尾 , 1998) や 3 次 元 を 別 の 概 念 と 置 き 換 え て 捉
え よ う と す る 研 究 ( 例 え ば 鈴 木 , 2007) も 存 在 す る が , 今 現 在 に お け る
主 流 は ,Allen & Meyer の 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト 3 次 元 モ デ ル だ と い え よ う 。
組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト の 概 念 を ま と め た 表 を 表 1 に 掲 示 す る 。そ し て Allen
& Meyer3 次 元 モ デ ル か ら 新 た な 視 座 を 提 供 し た の が コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ
フ ァ イ ル で あ る 。従 来 ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト は 情 緒 的 ,功 利 的 ,或 い は 規
範 的 コ ミ ッ ト メ ン ト 単 独 の 概 念 が 研 究 さ れ て き た 。し か し コ ミ ッ ト メ ン ト
プ ロ フ ァ イ ル は ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を 複 眼 的 に 見 る( 例 え ば 情 緒 的 コ ミ
ッ ト メ ン ト と 規 範 的 コ ミ ッ ト メ ン ト が 同 時 に 高 い ,全 て の コ ミ ッ ト メ ン ト
が 高 い な ど )こ と に よ り ,複 雑 な 人 間 の 心 理 か ら 生 み 出 さ れ る 態 度 に つ い
て解明できる可能性を広げた。コミットメントプロファイルの研究は,
各 々 の プ ロ フ ァ イ ル の 概 念 そ の も の を 研 究 す る の で は な く ,各 々 の コ ミ ッ
20
トメントプロファイルがどのような要素から規定されているのか,また
各々のコミットメントプロファイルがどのような成果を生み出し得るの
か に つ い て 研 究 さ れ て い る 事 が 多 い( 例 え ば Wasti,2005, Gellatly et al.,
2006)。 次 章 で は , こ れ に つ い て 先 行 研 究 レ ビ ュ ー を 行 う 。
21
表 1
組織コミットメントの概念
研究者
情緒的コミットメント
存続的コミットメント
組織の価値観への共感 組織への愛着・没入
犠牲の大きさ
Becker(1960)
規範的コミットメント その他
代替案の少なさ
個人が持つ規範
その他
功利的コミットメント
疎外的
Etzioni(1961)
道徳的コミットメント
計算的コミットメント
コミット
メント
Kanter(1968)
統制コミットメント
凝集コミットメント
Buchanan(1974)
同一視
没入
存続コミットメント
忠誠
Kidron(1978)
道徳的コミットメント
Mowday et al.(1982)
態度的コミットメント
関本・花田(1985)
価値内在化
勤労意欲
計算的コミットメント
功利
残留要望
O'Reilly and Chatman
同一化
服従
McGee and Ford(1987)
情緒的側面
個人的犠牲
Allen&Meyer(1990)
感情的コミットメント
存続的コミットメント
(1986)
高尾(1998)
内面化
価値的コミットメント 愛着的コミットメント
多大な犠牲
代替案の少なさ
規範的コミットメント
少ない代替案
規範的コミットメント
*鈴木(2007)の組織を背負う意識は本研究における組織コミットメントの概念から外れているので,この表には含めない。
22
第 2章
組織コミットメント理論モデルとコミットメントプロファイ
ル
第 1節
はじめに
本 章 で は ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト の 概 念 そ の も の を 論 じ る の で は な く ,組
織 コ ミ ッ ト メ ン ト は ど の よ う な 要 因 に よ っ て 影 響 を 受 け ,そ の 要 因 に 影 響
を 受 け た 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト が ど の よ う な 成 果 を 導 く の か ,と い っ た 組 織
コミットメントの理論モデルについて先行研究をレビューする。その後,
本研究のメインテーマであるコミットメントプロファイルに関する先行
研 究 を レ ビ ュ ー す る 。こ れ ま で 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト は 多 次 元 で 研 究 さ れ て
き た も の の ,情 緒 的 コ ミ ッ ト メ ン ト が 高 い ,或 い は 規 範 的 コ ミ ッ ト メ ン ト
が高いなどと単独の組織コミットメントが高い低いで研究されてきたの
に 対 し ,コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル は ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を 複 眼 的 に
見 て い る 。最 後 に ,先 行 研 究 の 意 義 を ま と め た 後 ,課 題 に つ い て 言 及 す る 。
第 2節
組織コミットメント理論モデル
組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト の 概 念 そ の も の の 研 究 が 蓄 積 さ れ て い く に つ れ ,組
織 コ ミ ッ ト メ ン ト そ の も の を 規 定 す る 要 因 や ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト が ど の
よ う な 成 果 を も た ら す 可 能 性 が あ る の か ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト の 規 定 要 因
と成果変数に関する研究が行われるようになった。
組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト の 理 論 モ デ ル に つ い て , OCQ で 組 織 コ ミ ッ ト メ ン
ト 研 究 に 大 き な 貢 献 を 果 た し た Mowday et al.(1982)と 現 在 組 織 コ ミ ッ ト
メ ン ト 研 究 の 主 流 と な っ て い る 3 次 元 モ デ ル を 提 唱 し た Meyer &
Allen(1997)の モ デ ル を 本 研 究 で 取 り 上 げ た い 。 Mowday ら の モ デ ル も
Meyer & Allen の モ デ ル も 基 本 的 な 構 造 は 同 じ で ,何 ら か の 先 行 要 因 が 組
織 コ ミ ッ ト メ ン ト を 規 定 し ,先 行 要 因 に 規 定 さ れ た 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト が
何 ら か の 成 果 を も た ら す 構 造 と な っ て い る 。Mowday ら の モ デ ル と Meyer
& Allen の モ デ ル の 違 い は 精 微 さ で あ る 。換 言 す る と Mowday ら の モ デ ル
の 進 化 形 が Meyer & Allen の モ デ ル と い え よ う 。
Mowday ら の モ デ ル は , 個 人 特 性 , 職 務 関 連 要 因 , 仕 事 に お け る 経 験 ,
23
組 織 構 造 の 特 性 が 情 緒 的 コ ミ ッ ト メ ン ト に 影 響 し ,そ れ に よ っ て 離 職 意 志
や欠勤率,そして仕事に対する努力が変わってくると考えた。
Mowday ら の モ デ ル と 比 較 し て Meyer & Allen の モ デ ル が 進 化 し た 点
は ,ま ず 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を 規 定 す る 先 行 要 因 を ,個 人 が 変 え ら れ な い
要 因 ( 例 え ば 組 織 の 構 造 や 規 模 , HRM や 外 部 環 境 な ど ) と 個 人 が 感 じ る
心 理 的 な 要 因 に 分 け た こ と で あ る 。本 来 ,先 行 要 因 と 一 括 り に さ れ て い る
要 因 同 士 も 複 雑 に 絡 み 合 い ,そ れ ぞ れ 因 果 関 係 に あ る は ず で あ る 。研 究 を
進 め る に お い て ,あ る 程 度 単 純 化 す る 必 要 は あ る が ,Mowday ら の モ デ ル
は あ ま り に 単 純 化 し 過 ぎ て い る と い え よ う 。 ま た Meyer & Allen モ デ ル
の も う 1 つ の 進 化 は ,情 緒 的 コ ミ ッ ト メ ン ト だ け で は な く ,功 利 的 コ ミ ッ
トメントと規範的コミットメントも含んだ 3 次元モデルであるという点
で あ る 。こ れ に よ っ て ,複 雑 な 個 人 の 態 度 が よ り 現 実 的 に 捉 え ら れ る よ う
に な っ た だ け で は な く ,3 次 元 の 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を 複 眼 的 に 見 る 事 に
より本研究の主要テーマであるコミットメントプロファイルが見出せる
環境となったのである。
第 3節
コミットメントプロファイル
こ の 節 は ,本 研 究 の 主 要 テ ー マ で あ る コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル に 関
す る 先 行 研 究 レ ビ ュ ー を 行 う 。従 来 情 緒 的 コ ミ ッ ト メ ン ト ,功 利 的 コ ミ ッ
トメント,或いは規範的コミットメント単独での概念について研究され,
またその各々のコミットメント単独で高いのか低いのか議論されていた
の に 対 し ,コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル は ,例 え ば 情 緒 的 コ ミ ッ ト メ ン ト
だけ高い場合と情緒的コミットメントと規範的コミットメントが同時に
高 い 時 と は ど の よ う な 違 い が あ る の か 研 究 す る も の で あ る 。従 来 単 独 で 研
究 さ れ て い た も の は ,例 え ば 情 緒 的 コ ミ ッ ト メ ン ト が 高 い と ど の よ う な 成
果 を も た ら す か ,功 利 的 コ ミ ッ ト メ ン ト が 高 い と ど の よ う な 成 果 を も た ら
す か な ど だ け で 研 究 が 進 め ら れ ,他 の コ ミ ッ ト メ ン ト の 高 低 は 考 慮 さ れ な
か っ た 問 題 点 が あ る 。ま た ,コ ミ ッ ト メ ン ト 自 体 を 肯 定 的 に 見 な が ら 研 究
し て い る も の と ( 例 え ば 田 尾 , 1997), コ ミ ッ ト メ ン ト は イ ノ ベ ー シ ョ ン
24
の 阻 害 要 因 に な る の で 否 定 的 に 見 て い る 研 究 ( 例 え ば 松 山 , 2005) の 2
元 論 で 論 じ ら れ る こ と が 多 か っ た 。し か し な が ら ,個 人 が 組 織 に 対 す る 関
わり方や態度を表すコミットメントは肯定的に見ようが否定的に見よう
が 存 在 す る 事 自 体 は 変 え ら れ な い 事 実 で あ る 。そ れ で あ る な ら ば ,コ ミ ッ
ト メ ン ト の 存 在 を 認 め た う え で ,ど の よ う な コ ミ ッ ト メ ン ト が ,或 い は コ
ミ ッ ト メ ン ト の 組 み 合 わ せ( コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル )が よ り 個 人 と
組織にとって好ましいのかを追究した方が生産的だといえよう。
コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル に 関 す る 研 究 は , 2000 年 以 降 進 み 出 し た
が , 日 本 で は 関 本 ・ 花 田 が 1987 年 に コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル と 同 様
の 概 念 を 取 り 扱 っ た 研 究 を 行 っ て い る 。ま ず 関 本・花 田 の 研 究 を レ ビ ュ ー
し て い く 。そ の 後 ,8 つ の コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル を 提 唱 し た Meyer
& Herscovitch(2001)の 研 究 を レ ビ ュ ー し , 彼 ら の 研 究 の 実 証 研 究 を 行 っ
た Wasti(2005)と Gellalty et al.(2006)の 研 究 を レ ビ ュ ー す る 。 最 後 に ,
組 織 を 背 負 う 意 識 と い う 新 た な 概 念 を 提 唱 し て い る 鈴 木 ( 2009) の タ イ
ポロジーに関する研究をレビューする。
1.
日本におけるコミットメントプロファイル研究の草分け
日本において,コミットメントプロファイルにおける研究で草分け
的 な 存 在 な の が 関 本・花 田( 1987)の 研 究 で あ る 。関 本・花 田 は Mowday
ら が 提 唱 し た OCQ 尺 度 を 元 に ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を 6 つ の 要 因 に 分
ける尺度を使って,因子分析を行い,収束した因子を元に,クラスタ
ー分析を行った。6 つの要因の内,価値内在化,勤労意欲,残留意欲,
功利の 4 つの因子を見出し,その 4 つの因子から伝統型(価値内在化
+ , 勤 労 意 欲 + , 残 留 意 欲 + , 功 利 - ), 企 業 従 属 型 ( 価 値 内 在 化 - ,
勤 労 意 欲 + , 残 留 意 欲 + , 功 利 - ), 自 己 主 体 型 ( 価 値 内 在 化 + , 勤 労
意 欲 ±, 残 留 意 欲 - , 功 利 + ), 功 利 型 ( 価 値 内 在 化 - , 勤 労 意 欲 - ,
残 留 意 欲 - , 功 利 + ), そ し て 希 薄 型 ( 価 値 内 在 化 - , 勤 労 意 欲 - , 残
留意欲-,功利-)の 5 つのクラスターを抽出した。
そ し て 関 本 ・ 花 田 は , 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を 規 定 す る 要 因 と し て 11
の変数を用意し,実際には仕事の魅力,会社の魅力,そして給与・福
25
利厚生の魅力の 3 因子を見出した。その 3 因子から 5 つのクラスター
を 抽 出 し た 。5 つ の ク ラ ス タ ー と は ,満 足 型( 仕 事 の 魅 力 + ,会 社 の 魅
力 + , 給 与 ・ 福 利 厚 生 の 満 足 + ), 給 与 中 心 型 ( 仕 事 の 魅 力 + , 会 社 の
魅 力 - , 給 与 ・ 福 利 厚 生 の 満 足 + ), 仕 事 魅 力 欠 如 型 ( 仕 事 の 魅 力 - ,
会 社 の 魅 力 - ,給 与・福 利 厚 生 の 満 足 + ),給 与 不 満 型( 仕 事 の 魅 力 + ,
会 社 の 魅 力 - , 給 与 ・ 福 利 厚 生 の 満 足 - ), 不 満 型 ( 仕 事 の 魅 力 - , 会
社の魅力-,給与・福利厚生の満足-)である。
関本・花田はまず組織コミットメントに関して,年齢層別でパター
ン分析を行った。そこでは年齢と伝統型,或いは企業従属型とは正の
相関関係が,自己主体型,功利型,希薄型とは負の相関関係があるこ
とが分かった。
次に組織コミットメントクラスターと規定要因クラスターの関連性
を全体のサンプルを用いて調査したところ,伝統型は,満足型との関
連が強く,企業従属型は給与中心型との関連が強かった。また功利型
は,仕事魅力欠如型,給与不満型,不満型との関連が,希薄型は仕事
魅力欠如型と給与不満型との関連が強かった。自己主体型はどの規定
要因とも関連性は強くなかった。
最後に,会社ごとに組織コミットメントと規定要因の関連性を比較
し た と こ ろ ,企 業 風 土 や ど の よ う な HRM 施 策 を 講 じ て い る の か に よ っ
て,組織コミットメントやそれを規定する要因に違いがあることが確
認された。
海 外 に お い て も ,コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル の 研 究 は 2000 年 代 に
入ってから増えてきているが,四半世紀前に現在でも通用しうるプロ
フ ァ イ ル を 見 出 し て い る こ と は , 関 本 ・ 花 田 ( 1987) が 行 っ た 研 究 の
大きな意義であろう。またコミットメントプロファイルの存在を明ら
かにしただけではなく,そしてそのコミットメントプロファイルを規
定する要因との関連性についても言及した。またコミットメントプロ
ファイルの概念そのものについても言及しようとした点は興味深い。
これらのコミットメントプロファイルがどのような成果を導くのかが
解明されれば,更に意義のある研究となるだろう。
26
2.
組織コミットメントプロファイル
Meyer & Herscovitch(2001)は ,前 述 し た Allen & Meyer の 主 張 を も
と に ,1 つ の コ ミ ッ ト メ ン ト だ け が 強 い タ イ プ と 複 数 の コ ミ ッ ト メ ン ト
が 同 時 に 強 い タ イ プ が い る は ず だ と 考 え た 。 そ こ で Allen & Meyer の
3 次元モデルを基に,8 つの「組織コミットメントプロファイル
(Organizational commitment profile)」を 提 示 し た 。8 つ の 組 織 コ ミ ッ
トメントプロファイルとは,全ての要素が高い第 1 プロファイル
(High-AC, High-CC, High-NC),感 情 的 要 素 と 規 範 的 要 素 が 高 い 第
2 プ ロ フ ァ イ ル (High-AC, Low-CC, High-NC), 感 情 的 要 素 と 存 続
的 要 素 が 高 い 第 3 プ ロ フ ァ イ ル (High-AC, High-CC, Low-NC), 感
情 的 要 素 だ け が 高 い 第 4 プ ロ フ ァ イ ル (High-AC, Low-CC, Low-NC),
規 範 的 要 素 と 存 続 的 要 素 が 高 い 第 5 プ ロ フ ァ イ ル (Low-AC, High-CC,
High-NC),規 範 的 要 素 だ け が 高 い 第 6 プ ロ フ ァ イ ル (Low-AC, Low-CC,
High-NC), 存 続 的 要 素 だ け が 高 い 第 7 プ ロ フ ァ イ ル (Low-AC,
High-CC, Low-NC), 全 て の 要 素 が 低 い 第 8 プ ロ フ ァ イ ル (Low-AC,
Low-CC, Low-NC)で あ る 。 そ し て , そ れ ぞ れ の プ ロ フ ァ イ ル に よ っ
て組織市民行動や離職の意志などの成果変数が異なるのではないかと
考えた。
Meyer & Herscovitch の 研 究 の 意 義 は , こ れ 以 降 , コ ミ ッ ト メ ン ト
プロファイルの研究が増えていることからも分かるであろう。以下,
Meyer & Herscovitch の 研 究 を 基 に し た 研 究 を 取 り 上 げ て い く 。
3.
トルコにおけるコミットメントプロファイル研究
Wasti(2005)は Meyer & Herscovitch(2001)の 研 究 を 基 に , ト ル コ の
46 の 組 織 に 所 属 す る 914 人 を 対 象 に ク ラ ス タ ー 分 析 を 行 っ た 。そ の 結
果 ,8 つ の コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル は 見 出 せ ず ,6 つ の ク ラ ス タ ー
が 抽 出 さ れ た 。6 つ の ク ラ ス タ ー と は 情 緒 的 コ ミ ッ ト メ ン ト だ け が 高 い
情 緒 的 ク ラ ス タ ー (affective commitment dominant), 継 続 的 コ ミ ッ ト
メ ン ト だ け が 高 い 継 続 的 ク ラ ス タ ー (continuance commitment
dominant), 3 つ の コ ミ ッ ト メ ン ト が 中 程 度 の 中 立 的 ク ラ ス タ ー
27
(neutrals), 3 つ 全 て の コ ミ ッ ト メ ン ト が 高 い 高 関 与 的 ク ラ ス タ ー
(highly-commited), 3 つ の コ ミ ッ ト メ ン ト が 全 て 低 い 非 関 与 的 ク ラ ス
タ ー (non-commited), そ し て 情 緒 的 コ ミ ッ ト メ ン ト と 規 範 的 コ ミ ッ ト
メ ン ト が 高 い 情 緒 - 規 範 的 ク ラ ス タ ー (affective-normative dominant)
である。
Wasti は 2 つ の サ ン プ ル を 用 い て ,抽 出 さ れ た ク ラ ス タ ー と 大 き く 分
け て 3 つ の 成 果 要 因( リ テ ン シ ョ ン ,組 織 市 民 行 動 と 仕 事 の ス ト レ ス )
について分析を行った。その結果,全てのクラスターの中で高関与型
のクラスターが,リテンションと組織市民行動で好ましい成果を生み
出すことが分かった。また情緒-規範的クラスターが情緒的クラスタ
ーと比べて,リテンション,組織市民行動共により好ましい成果を生
み出すとされている。また情緒-規範型クラスターが一番仕事のスト
レスが低かった。また中立型クラスターと規範型クラスターを比較す
ると,規範型クラスターの方が,忠誠心が強く,中立型の方が利他的
な行動を志向する事が分かった。
Wasti(2005)の 研 究 の 意 義 は , Meyer & Herscovitch(2001)が 示 し た
理論上 8 つあるコミットメントプロファイル全てが必ずしも存在する
訳 で は 無 い 事 が 分 か っ た 点 と ,3 つ の コ ミ ッ ト メ ン ト が 全 て 中 程 度 の ク
ラ ス タ ー( neutrals)が あ る こ と が 分 か っ た 点 で あ ろ う 。ま た プ ロ フ ァ
イルによって成果変数が違う可能性を示唆した点も研究成果であろう。
4.
Meyer & Herscovitch(2001)の 実 証 研 究
Gellatly et al.(2006)も Meyer & Herscovitch(2001)が 提 唱 し た 8 つ
のコミットメントプロファイルを証明する実証研究を,カナダの病院
に 勤 め る 545 人 を サ ン プ ル に 行 っ た 。 彼 ら の 実 証 研 究 で は 8 つ の コ ミ
ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル が 見 出 し て い る 。但 し ,Wasti(2005)の よ う に
ク ラ ス タ ー 分 析 を し た 訳 で は 無 く , 中 央 値 (median)の 上 下 で 分 類 し て
い る 。従 っ て ,Wasti(2006)と は コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル の 抽 出 方
法が違うので,単純比較するのは問題があろう。
Gellatly ら は , コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル に よ っ て 組 織 市 民 行 動
28
とリテンションが変わるのではないかと考えた。また彼らの仮説は,
AC だ け が 高 い , NC だ け が 高 い , 或 い は CC だ け が 高 い と い っ た 純 粋
なコミットメントプロファイルがリテンションや組織市民行動に良い
影響を与えるというものであった。実際,コミットメントファイルご
とに組織市民行動とリテンションの成果変数に違いが生じたが,純粋
なコミットメントがより好ましい成果を上げるという仮説のいくつか
は 棄 却 さ れ た 。 特 に 高 い AC を 持 つ 人 が , 高 い CC や NC を 持 つ と ,
AC の 効 果 が 弱 め ら れ る と 考 え て い た が ,実 際 は ,組 織 市 民 行 動 に お い
て全てのコミットメントが高い第 1 プロファイルが最も好ましい成果
を 上 げ る と い う 結 果 が 出 た 。特 筆 す べ き 点 は ,NC に つ い て 新 た な 示 唆
を 提 示 し た 事 で あ る 。AC と NC が 高 い 時 は ,リ テ ン シ ョ ン と 組 織 市 民
行 動 に 対 す る 成 果 は 良 く な っ た が ,CC と NC が 高 い 時 は ,リ テ ン シ ョ
ンは多少良くなるものの,組織市民行動にはマイナスの影響が見出さ
れ た 。 こ の こ と か ら Gellatly ら は NC に は 2 つ の 側 面 ( 陰 と 陽 ) が あ
る の で は な い か と 考 え た 。す な わ ち AC と NC が 高 い 時 は NC の ポ ジ テ
ィ ブ ( 陽 ) な 部 分 が , CC と NC が 高 い 時 は NC の ネ ガ テ ィ ブ ( 陰 ) な
部分が出るのではないかと考えている。
Gellatly ら の 研 究 で は , コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル ご と に 成 果 が
違 う 点 に 言 及 し た だ け で は な く , 比 較 的 新 し い 概 念 で あ る NC が , AC
が 高 い 時 と ,CC が 高 い 時 で は ,正 反 対 の 成 果 を も た ら す こ と が 提 示 さ
れた。しかしながら,プロファイルを中央値に対して上下で作成して
いるので,中央値付近の数値が高いコミットメントや低いコミットメ
ントとして扱われており,プロファイルの作成方法として適正なのか
どうかという点と,各々のコミットメントプロファイルを規定する要
因に言及していない点は今後の課題であろう。
5.
タイポロジーに関する研究
鈴 木 ( 2009) は , 日 本 企 業 2 社 を 対 象 に , 情 緒 的 コ ミ ッ ト メ ン ト ,
功 利 的 コ ミ ッ ト メ ン ト ,そ し て 組 織 を 背 負 う 意 識 の 3 つ を 変 数 と し て ,
因子分析し,収束された因子に対してクラスター分析を行った。その
29
結果 5 つのクラスターが抽出された。その 5 つとは,情緒的コミット
メントと功利的コミットメントが高い情緒-功利型,情緒的コミット
メントだけが高い情緒型,全てが中程度の中関与型,全てが低い非関
与型,そして情緒的コミットメントと組織を背負う意識が高い情緒-
背負い型である。
そしてまず 5 つのクラスターと年齢の関連性を調べた。その結果,
情緒-功利型と情緒-背負い型は年齢と正の相関が,非関与型は年齢
と 負 の 相 関 が あ る こ と が 確 認 さ れ た 。 こ れ は 関 本 ・ 花 田 ( 1986) の 結
果と整合している。
次 に 会 社 ご と に 5 つ の ク ラ ス タ ー の 分 布 を 確 認 し た 。2 社 を 対 象 に 調
査をしているので,この結果だけでは断定できないが,マイクロプロ
フィットセンターを導入している企業は,中関与型,非関与型が多か
ったので,マネジメントコントロール施策が組織に属する人々のコミ
ットメントに影響していることを示唆している。
鈴木は,コミットメントプロファイルを規定する要因は,世代の違
い と 企 業 の 違 い ( 例 え ば , 企 業 風 土 , 構 成 人 員 , 採 用 し て い る MC 施
策など)であるという仮説を元に研究を行った。調査結果は,関本・
花 田 ( 1987) と 重 な る 部 分 が 多 く , 20 年 以 上 経 っ て も , 個 人 と 組 織 と
の関係のあり方に根本的な部分において大きく変わっていない事が分
かったのは意義があるだろう。
第 4節
先行研究の意義と課題
本章ではまず,組織コミットメントの理論モデルの代表として,
Mowday et al.(1982)と Meyer & Allen(1997)の モ デ ル を 取 り 上 げ た 。 両
者 の 理 論 モ デ ル の 根 本 は 同 じ で あ る が , Meyer & Allen(1997)の モ デ ル の
方 が よ り 精 微 化 さ れ て い る と い え よ う 。ま た Meyer & Allen(1997)の 理 論
モ デ ル が あ る か ら こ そ ,コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル の 理 論 モ デ ル 構 築 が
可能となった。
そ の 後 ,コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル を 中 心 に コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ
30
イ ル を 規 定 す る 要 因 と ,コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル が も た ら し 得 る 成 果
に つ い て の 先 行 研 究 を レ ビ ュ ー し た 。取 り 上 げ た 先 行 研 究 は ,関 本・花 田
( 1987),Meyer & Herscovitch(2001),Wasti(2005),Gellatly et al.(2006),
鈴 木 ( 2009) で あ る 。
関 本 ・ 花 田 ( 1987) の 研 究 で は , 日 本 企 業 を 対 象 に 四 半 世 紀 近 く 前 に コ
ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル の 存 在 を 明 ら か に し た 点 と ,コ ミ ッ ト メ ン ト プ
ロファイルの概念にも言及している点に意義があるだろう。
Meyer & Herscovitch(2001)の 研 究 を 基 に , Wasti(2005)と Gellatly et
al.(2006)の 研 究 が 行 わ れ た 。 Wasti(2005)の 成 果 は , ク ラ ス タ ー 分 析 に よ
っ て コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル を 抽 出 し ,必 ず し も 8 つ 全 て の コ ミ ッ ト
メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル が あ る 訳 で は な い 点 を 明 ら か に し た 点 と ,3 つ の コ ミ
ッ ト メ ン ト が 全 て 中 程 度 の プ ロ フ ァ イ ル を 見 出 し た こ と で あ る 。ま た プ ロ
フ ァ イ ル ご と に 違 っ た 成 果 を 生 み 出 す こ と も 確 認 し た 。Gellatly ら の 研 究
の 成 果 は ,NC に つ い て 陰 と 陽 と い う 2 つ の 側 面 が あ る の で は な い か と い
う 新 た な 示 唆 を 提 示 し た 点 で あ る 。す わ な ち ,高 い NC は AC が 高 い 時 は ,
NC の 良 い 面 が , CC が 高 い 時 は NC の 悪 い 面 が 出 る の で は な い か と 考 え
た。
鈴 木( 2009)は ,NC の 代 わ り に 組 織 を 背 負 う 意 識 と い う 概 念 を 加 え た
3 次元でプロファイリングし,5 つのクラスターを抽出した。5 つのクラ
ス タ ー は 会 社 に よ っ て 割 合 が 違 っ た の で ,企 業 文 化 や 企 業 が 実 施 す る 施 策
によってコミットメントプロファイルの割合が変わる可能性があること
が 分 か っ た 。 ま た 関 本 ・ 花 田 ( 1987) の 調 査 結 果 と 重 な り 合 う 部 分 が 多
く ,四 半 世 紀 経 っ た 今 で も 日 本 企 業 に 所 属 す る 個 人 に お け る 態 度 の 根 本 部
分は変わっていない部分が多いことも分かった。
組織コミットメント理論モデルとコミットメントプロファイルを組み
合わせるとコミットメントプロファイルを規定する要因とコミットメン
ト プ ロ フ ァ イ ル が も た ら し 得 る 成 果 が あ る こ と が 分 か る 。既 存 研 究 を 概 観
す る と ,コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル が 複 数 あ る だ ろ う と い う こ と ,コ ミ
ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル に よ っ て も た ら し 得 る 成 果 が 違 う 事 が 分 か る 。ま
た 年 齢 や 所 属 し て い る 企 業 が 違 え ば ,各 々 の コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル
31
を 持 つ 個 人 の 割 合 が 違 う 事 も 分 か る 。し か し な が ら ,ど の よ う な 要 因 に よ
っ て コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル が 規 定 さ れ て い る の か ,そ し て そ の 規 定
されたコミットメントプロファイルがどのような成果を生み出し得るの
か と い っ た 問 題 を 総 合 的 に ,研 究 し て い る 例 は 非 常 に 少 な い 。ま た 事 業 が
軌 道 に 乗 っ た 歴 史 の あ る 日 本 企 業 を 対 象 に し た 研 究 は 更 に 少 な い 。本 研 究
では,既存研究で培われた成果を基に,残された課題に取り組んでいく。
32
第 3章
仮説の設定
第 1節
はじめに
本 章 で は ,問 題 意 識 や 先 行 研 究 レ ビ ュ ー に 基 づ き ,仮 説 を 設 定 す る 。こ
れ ま で 先 行 研 究 の レ ビ ュ ー を 通 じ て ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト に 関 す る 多 く の
研 究 が 蓄 積 さ れ て い る こ と が 分 か っ た 。そ れ と 同 時 に コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ
フ ァ イ ル に 関 す る 研 究 は 少 な く ,特 に コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル を 規 定
す る 要 因 と ,コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル が も た ら し 得 る 成 果 を 総 合 的 に
捉 え た 研 究 は 更 に 少 な い こ と が 分 か っ た 。本 研 究 の 問 題 意 識 で あ る 企 業 と
個人双方にとって好ましい成果をもたらし得るコミットメントプロファ
イ ル の 存 在 を 明 ら か に す る た め ,ま ず 本 研 究 の 理 論 モ デ ル を 提 示 し ,コ ミ
ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル を 中 心 に ,そ の 規 定 要 因 と 成 果 変 数 に 注 目 し て 仮
説 を 設 定 す る 。仮 説 は 大 き く 分 け て 3 つ あ る 。ま ず 1 つ 目 は ,組 織 に お い
て い く つ コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル が 見 出 せ る の か ,を 仮 説 と し て 設 定
す る 。2 つ 目 は ,各 々 の コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル が ど の よ う な 成 果 を
生 み 出 し 得 る の か ,に つ い て 仮 説 を 設 定 す る 。最 後 に コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ
ファイルを規定する要因は何なのか,について仮説を設定する。
第 2節
コミットメントプロファイル理論モデル
本節では,本研究の理論モデルを提示する。先行研究レビューで,
Mowday et al.(1982)と Meyer & Allen(1997)の 理 論 モ デ ル を 取 り 上 げ た 。
ど ち ら の 理 論 モ デ ル も 基 本 は 同 じ で ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を 規 定 す る 要 因
が ま ず あ り ,そ こ か ら 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト が 生 ま れ ,そ し て そ の 組 織 コ ミ
ッ ト メ ン ト に よ り 成 果 が 生 み 出 さ れ る と い う 流 れ で あ る 。す な わ ち 理 論 モ
デ ル の 基 本 は , 規 定 要 因 =>組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト =>成 果 変 数 で あ る 。 本 研
究 の 理 論 モ デ ル も 基 本 的 に 2 つ の 理 論 モ デ ル と 同 様 で あ る 。本 研 究 の 理 論
モ デ ル は ,Meyer & Allen の 理 論 モ デ ル を ベ ー ス に し て い る 。本 研 究 の テ
ー マ で あ る コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル と ,コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル
を 規 定 す る 要 因 ,コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル が 生 み 出 し 得 る 成 果 変 数 を
総 合 的 に 見 る た め に , 本 研 究 の 理 論 モ デ ル は Meyer & Allen の 理 論 モ デ
33
ルに変更を加えたものになっている。
ま ず 先 行 変 数 は ,Meyer & Allen モ デ ル は 組 織 的 特 性 ,個 人 特 性 ,社 会
化 経 験 ,マ ネ ジ メ ン ト 上 の 経 験 ,環 境 の 5 つ に 分 類 さ れ て い る が ,本 研 究
理 論 モ デ ル で は 3 つ に 収 斂 さ せ て い る 。マ ネ ジ メ ン ト 上 の 経 験 も 個 人 特 性
の 1 部 で あ る と 考 え た の で ,個 人 特 性 に 含 め た 。ま た 本 研 究 で は ,文 化 に
ついては触れないので,文化を含む社会化経験を環境に含めた。
Meyer & Allen モ デ ル で は , 2 つ の プ ロ セ ス に 分 か れ て い る 。 2 つ の プ
ロ セ ス の 内 ,後 半 の 部 分 は 前 半 の 部 分 を 3 次 元 モ デ ル に 置 き 換 え た も の で
あ る 。 Meyer & Allen の 研 究 テ ー マ は 3 次 元 モ デ ル そ の も の で あ る の で ,
プ ロ セ ス を 2 つ に 分 け る 意 義 は あ る が ,本 研 究 の テ ー マ は コ ミ ッ ト メ ン ト
プ ロ フ ァ イ ル で あ る の で 本 研 究 の 理 論 モ デ ル で は 1 つ に 集 約 す る 。Meyer
& Allen モ デ ル に お け る プ ロ セ ス の 前 半 部 分 は 仕 事 経 験 ,役 割 状 況 ,心 理
的 契 約 の 3 つ に 分 か れ て い る 。本 研 究 の 理 論 モ デ ル で は ,実 際 企 業 が 企 業
活 動 を 行 い ,マ ネ ジ メ ン ト サ イ ク ル を 回 し た 結 果 ,個 人 が そ れ ら を ど の よ
う に 捉 え て い る の か を プ ロ セ ス 変 数 と し た 。な ぜ な ら ば ,個 人 の 企 業 内 に
お け る 態 度 は ,そ の 個 人 が 企 業 活 動 を ど の よ う に 認 知 し て い る の か( 肯 定
的 に 捉 え て い る の か ,否 定 的 に 捉 え て い る の か )に よ っ て 変 わ る と 考 え た
か ら で あ る 。本 理 論 モ デ ル で は ,理 念・価 値 観 ,責 任 と 権 限 や 各 制 度 を ど
のように認知しているのかを見る経営特性と周りとの人間関係や自分自
身 を ど の よ う に 捉 え て い る の か を 見 る 自 己 と 周 囲 の 2 つ に 分 け て い る 。そ
し て そ こ か ら 導 か れ る コ ミ ッ ト メ ン ト に 関 し て ,Meyer & Allen モ デ ル の
3 次元コミットメントの代わりに本研究のテーマであるコミットメント
プロファイルを配置した。
最 後 の 成 果 変 数 で あ る が ,本 理 論 モ デ ル で は 組 織 を 背 負 う 意 識 ,自 己 成
長 ,組 織 市 民 行 動 (OCB),リ テ ン シ ョ ン の 4 項 目 を 配 置 し た 。既 存 研 究 で
よく成果変数と用いられる組織市民行動とリテンションの他に新たに 2
項 目 配 置 し ,4 項 目 を 成 果 変 数 と す る 。ま ず リ テ ン シ ョ ン で あ る が ,成 果
を 生 み 出 し て も ら う た め に は ,ま ず そ の 組 織 に 留 ま っ て も ら わ な い と な ら
な い 。ま た コ ミ ッ ト メ ン ト と は 個 人 が そ の 組 織 に 留 ま る と い う 態 度 を 表 し
て い る も の で あ る の で ,リ テ ン シ ョ ン は 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト が も た ら す 最
34
も 根 本 的 な 成 果 で あ る と い え よ う 。次 に 組 織 市 民 行 動 で あ る が ,単 に 個 人
が 組 織 に 留 ま る だ け で は ,成 果 に 結 び つ く と は 限 ら な い 。む し ろ ぶ ら 下 が
り 社 員 の よ う に ,組 織 に 害 を 与 え る 個 人 も 存 在 す る 。そ こ で ,組 織 市 民 行
動 が 重 要 に な っ て く る 。組 織 市 民 行 動 へ の 意 識 が 高 け れ ば ,そ の 組 織 の た
め に 行 動 を 献 身 的 に 行 い ,チ ー ム プ レ ー も 好 ん で 行 う 。自 己 成 長 に 関 し て
は ,近 年 賃 金 制 度 の 変 更 や 働 き 方 の 多 様 化 な ど が 原 因 で ,自 己 キ ャ リ ア の
開 発 や 自 律 性 の 重 要 性 が 叫 ば れ る よ う に な り ,個 人 は 自 ら の 成 長 に つ い て
よ り 強 く 考 え る 必 要 が 出 て き た か ら で あ る 。ま た 自 己 成 長 は ,直 接 的 に は
個 人 の 将 来 の た め で あ る が ,間 接 的 に 所 属 し て い る 組 織 に も 良 い 影 響 を 与
えるので,成果変数の 1 つとして配置した。組織を背負う意識は,鈴木
( 2007) が 提 唱 し た 概 念 で あ る 。 組 織 を 背 負 う 意 識 は 組 織 へ の 愛 着 か ら
生 じ る 意 識 で あ る が ,単 に 組 織 に 愛 着 が あ る だ け で は な く ,組 織 に 愛 着 が
あ る 故 ,よ り 組 織 に 対 し て 積 極 的 に 行 動 し て い こ う と す る 心 理 状 態 を 表 わ
す 。組 織 を 背 負 う 意 識 は ,現 状 だ け で は な く 組 織 の 将 来 に 対 し て の 行 動 を
促 す の で ,組 織 変 革 に 対 し て 賛 同 し 積 極 的 に 行 動 し た り ,組 織 の 将 来 の た
め に な ら な い 周 囲 の 行 動 を 諫 め た り す る 。組 織 を 変 革 す る た め の 成 果 変 数
と し て 組 織 を 背 負 う 意 識 を 配 置 し た 。鈴 木 は 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト と 同 列 に
扱っているが本研究では組織コミットメントは飽くまで現在の個人と組
織 の 関 わ り を 表 わ し た も の と 定 義 し て い る の で ,成 果 変 数 と し て 配 置 し た 。
4 つ の 成 果 変 数 を 時 間 軸 ,す な わ ち 今 現 在 や 日 常 志 向 な の か 将 来 志 向 な
の か の 視 点 と 個 人 志 向 - 組 織 志 向 の 2 軸 で 考 え る と 表 2 の よ う に な る 。日
常 志 向 と 個 人 志 向 を 持 つ 個 人 は ,自 分 自 身 の 立 場 や 保 身 を 考 え る の で リ テ
ン シ ョ ン を 考 え る だ ろ う 。日 常 志 向 と 組 織 志 向 を 持 つ 個 人 は ,今 現 在 の 組
織 の た め に 貢 献 し よ う と 考 え る の で ,組 織 の 規 律 を 守 っ た り ,チ ー ム プ レ
ー に 徹 し た り す る だ ろ う 。ま た 将 来 志 向 と 個 人 志 向 を 持 つ 個 人 は ,自 ら の
将 来 を 見 据 え て 行 動 す る の で ,自 己 成 長 を 考 え る 。最 後 に 将 来 志 向 と 組 織
志 向 を 持 つ 個 人 は ,組 織 ,特 に 組 織 の 将 来 に 強 く コ ミ ッ ト す る の で 組 織 を
背 負 う 意 識 が 高 ま る は ず で あ る 。4 つ の 成 果 変 数 ,コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ
ァ イ ル ,そ し て 規 定 要 因 を ま と め た 本 理 論 モ デ ル が 表 3 で あ る 。本 理 論 モ
デルに基づき,仮説をいくつか設定していく。
35
表 2
成果要因 4 変数のマトリクス
将来志向
組織を背負う意識
自己成長
個人志向
組織志向
リテンション
組織市民行動
日常志向
36
表 3
コミットメントプロファイル理論モデル
規定要因
先行変数
プロセス(認知)
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コミットメント
成果変数
コミットメント(態度)
行動意欲
第 3節
仮説の設定
Meyer & Herscovitch(2001) は , AC, CC, NC の 3 次 元 を 組 み 合 わ せ
た 8 つのコミットメントプロファイルを提唱した。確かに理屈上では 8
つ 存 在 す る は ず で あ る し , Gellatly(2006)は 中 央 値 を 境 に 高 い コ ミ ッ ト メ
ントと低いコミットメントに分けて,8 つのコミットメントを見出した。
し か し な が ら , Wasti( 2005) は , ク ラ ス タ ー 分 析 を 用 い た 結 果 , 8 つ の
全 て の コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル は 見 出 せ ず 5 つ の プ ロ フ ァ イ ル と ,新
た に 3 つ の コ ミ ッ ト メ ン ト が 中 程 度 の 中 立 的 ク ラ ス タ ー (neutrals)の 6 つ
の プ ロ フ ァ イ ル を 抽 出 し た 。 本 研 究 で は , Meyer & Herscovitch(2001)が
提 唱 し た 8 つ の コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル に 加 え て ,Wasti( 2005)が
抽出した中立的クラスターを加えた 9 つのコミットメントプロファイル
の存在を確認する。まず全てのコミットメントが高い集団が考えられる。
こ れ は 個 人 が 組 織 に 対 し て 様 々 な 側 面 で コ ミ ッ ト し て い る 状 態 で ,あ ら ゆ
る 成 果 に 良 い 影 響 を 与 え る だ ろ う 。次 に AC と NC が 高 い 集 団 が 考 え ら れ
る 。こ れ は あ る 理 由 ,例 え ば 色 々 な 代 替 案 が 常 に 存 在 し て い た り ,能 力 が
高 い た め 1 つ の 組 織 以 外 に も 色 々 な 貢 献 を し て い た り し て い る た め ,功 利
的 コ ミ ッ ト メ ン ト が 低 い と 考 え ら れ る 。高 い 能 力 を 保 有 し て い る こ と が 想
定 さ れ , 1 番 目 の 集 団 と 近 い 成 果 を 上 げ る と 考 え ら れ る 。 3 番 目 は AC と
CC が 高 い 集 団 で あ る 。 こ れ は 新 卒 採 用 で 入 社 し , 長 い 年 月 勤 め て い る 集
団 が 想 定 さ れ る 。長 く 勤 め て い る と そ の 組 織 へ の 愛 着 が 高 ま り ,ま た 個 人
的な犠牲も多く払っているので功利的コミットメントも高まるはずであ
る 。能 力 的 に 必 ず し も 高 い 個 人 ば か り で は 無 い か も 知 れ な い が ,所 属 し て
い る 組 織 へ の 貢 献 意 欲 は 高 い と 考 え ら れ る 。4 番 目 は AC だ け が 高 い 集 団
で あ る 。こ の 集 団 は CC や NC が 低 い と 言 う よ り も ,そ の よ う な 事 を あ ま
り 考 え ず ,た だ 純 粋 に 所 属 し て い る 組 織 に 対 し て 愛 着 を 持 っ て い る 集 団 だ
と 考 え ら れ る 。 こ の 集 団 の リ テ ン シ ョ ン は 高 い と Gellatly ら は 主 張 し て
い る 。 5 番 目 は CC と NC が 高 い 集 団 で あ る 。 こ の 集 団 は 組 織 に 対 す る 規
範 は あ る も の の ,就 職 先 の 選 択 肢 が 少 な い 不 況 下 に 入 社 し た 社 歴 の 浅 い 社
員集団が想定される。言われたことはきっちりとやるタイプであろう。6
番 目 は NC の み が 高 い 集 団 で あ る 。こ の 集 団 は 個 人 と 組 織 の 関 係 よ り も 自
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己 の 価 値 観 を 重 視 す る タ イ プ だ と 考 え ら れ る 。自 ら の 価 値 観 に 反 す る よ う
な 行 動 は 取 ら な い だ ろ う 。 7 番 目 は CC の み が 高 い 集 団 で あ る 。 い わ ゆ る
ぶ ら 下 が り 社 員 で リ ス ト ラ さ れ な い 最 低 限 の 業 務 は 遂 行 す る が ,組 織 の た
め に な る 事 を 能 動 的 に は 行 わ な い だ ろ う 。8 番 目 は 全 て の コ ミ ッ ト メ ン ト
が 低 い 集 団 で あ る 。こ の 集 団 は 惰 性 で 組 織 に 属 し て い る か ,ま た 転 職 先 を
探 し て い る か の ど ち ら か で 高 い 成 果 は 期 待 で き な い だ ろ う 。最 後 は 全 て の
コ ミ ッ ト メ ン ト が 中 程 度 の 集 団 で あ る 。統 計 上 中 央 付 近 に 多 く の サ ン プ ル
があるだろうから,この集団には多くのサンプルが属すると考えられる。
可 も な く 不 可 も な い 成 果 は 期 待 で き る で あ ろ う 。以 上 の 事 を 検 証 す る た め
9 つの仮説を設定する。
仮 説 1- 1
人 々 が 持 つ コ ミ ッ ト メ ン ト で ,AC,CC,NC 全 て が 高 い 集 団( 高 関 与 型 )
が存在する。
仮 説 1- 2
人 々 が 持 つ コ ミ ッ ト メ ン ト で , AC, NC が 高 く , CC が 低 い 集 団 ( 情 緒 規
範型)が存在する。
仮 説 1- 3
人 々 が 持 つ コ ミ ッ ト メ ン ト で , AC, CC が 高 く , NC が 低 い 集 団 ( 情 緒 功
利型)が存在する。
仮 説 1- 4
人 々 が 持 つ コ ミ ッ ト メ ン ト で ,AC が 高 く ,CC,NC が 低 い 集 団( 情 緒 型 )
が存在する。
仮 説 1- 5
人 々 が 持 つ コ ミ ッ ト メ ン ト で , CC, NC が 高 く , AC が 低 い 集 団 ( 功 利 規
範型)が存在する。
仮 説 1- 6
人 々 が 持 つ コ ミ ッ ト メ ン ト で ,NC が 高 く ,AC,CC が 低 い 集 団( 規 範 型 )
が存在する。
仮 説 1- 7
人 々 が 持 つ コ ミ ッ ト メ ン ト で ,CC が 高 く ,AC,NC が 低 い 集 団( 功 利 型 )
39
が存在する。
仮 説 1- 8
人 々 が 持 つ コ ミ ッ ト メ ン ト で ,AC,CC,NC 全 て が 低 い 集 団( 非 関 与 型 )
が存在する。
仮 説 1- 9
人 々 が 持 つ コ ミ ッ ト メ ン ト で , AC, CC, NC 全 て が 中 程 度 の 集 団 ( 中 関
与型)が存在する。
次にコミットメントプロファイルと成果変数についての仮説を設定す
る 。 Gellatly et al.(2006)の 研 究 で は , 高 関 与 型 の プ ロ フ ァ イ ル を 持 つ 個
人 が ,組 織 市 民 行 動 に 関 し て 一 番 好 ま し い 成 果 を 生 み 出 し ,情 緒 型 の プ ロ
フ ァ イ ル を 持 つ 個 人 が ,離 職 の 意 志 が 一 番 低 い と の 結 果 が 出 た 。今 回 の 成
果変数は,大きく分けて,組織を背負う意識,自己成長,組織市民行動,
そ し て リ テ ン シ ョ ン の 4 つ で あ る た め 単 純 比 較 は 出 来 な い 。ま ず 3 つ 全 て
のコミットメントが高い高関与型プロファイルを持つ個人があらゆる面
に お い て ,高 い 成 果 変 数 を 生 み 出 す と 考 え た の で ,以 下 の 仮 説 を 設 定 す る 。
仮 説 2- 1
高 関 与 型 の プ ロ フ ァ イ ル を 持 つ 個 人 は ,他 の プ ロ フ ァ イ ル に 比 べ て ,組 織
を 背 負 う 意 識 ,自 己 成 長 ,組 織 市 民 行 動 ,リ テ ン シ ョ ン と い っ た 全 て の 成
果変数において高い値を示す。
次 に Gellatly ら が 提 唱 し た ,NC に は 陽 と 陰 の 二 面 性 が あ る こ と を 確 認
するために次の2つの仮説を設定する。
仮 説 2- 2
情 緒 規 範 型 の プ ロ フ ァ イ ル を 持 つ 個 人 は ,高 関 与 型 の プ ロ フ ァ イ ル を 持 つ
個人を除き組織を背負う意識が他のプロファイルに比べて高い値を示す。
仮 説 2- 3
功 利 規 範 型 の プ ロ フ ァ イ ル を 持 つ 個 人 は ,非 関 与 型 を 除 き 組 織 を 背 負 う 意
識が他のプロファイルに比べて低い値を示す。
同 じ く Gellatly ら や Wasti の 研 究 に 基 づ き , 以 下 の 仮 説 を 設 定 す る 。
40
仮 説 2- 4
情 緒 型 の プ ロ フ ァ イ ル を 持 つ 個 人 は ,高 関 与 型 の プ ロ フ ァ イ ル を 持 つ 個 人
を除きリテンションが他のプロファイルに比べて高い値を示す。
以 上 ,こ れ ら の 仮 説 は い ず れ も ,仮 説 1 が 支 持 さ れ る こ と を 前 提 と し た
も の で あ る 。従 っ て ,仮 説 1 の 検 証 に お い て あ る プ ロ フ ァ イ ル の 存 在 に 関
す る 仮 説 が 棄 却 さ れ た 場 合 ,仮 説 2 に お け る そ の プ ロ フ ァ イ ル に 関 す る 仮
説もまた棄却される事となる。
最 後 に ,コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル を 規 定 し て い る 要 因 に つ い て 仮 説 を
設 定 す る が ,こ れ に 関 し て は 先 行 研 究 も 少 な く ,仮 説 の 設 定 が 難 し い 。従
っ て ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を 規 定 す る 要 因 と ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト と の 関
係 に つ い て 調 査 す る た め ,探 索 的 な 研 究 仮 説 を 設 定 す る 。こ こ で は 抽 出 さ
れたプロファイルがどのような要因によって規定されているのか明らか
にしたい。
仮 説 3- 1
各々のコミットメントプロファイルを規定するのは,どのような要因か。
以 上 , 14 の 仮 説 を 設 定 し た が , 分 析 の 過 程 で 新 た な 発 見 が 出 る こ と も
考 え ら れ る 。特 に 規 定 要 因 と コ ミ ッ ト メ ン ト の 関 係 に つ い て は 探 索 的 な ア
プ ロ ー チ を 取 る こ と に よ り ,新 た な 知 見 が 見 出 さ れ ば と 考 え て い る 。そ れ
ら の 知 見 に 関 し て は ,本 章 で 掲 げ た 仮 説 と は 別 に 探 索 的 ア プ ロ ー チ に よ る
発見であることを記載する。
第 4節
小括
本 章 で は ,本 研 究 の 問 題 意 識 と 先 行 研 究 レ ビ ュ ー に 基 づ き ,コ ミ ッ ト メ
ン ト プ ロ フ ァ イ ル を 中 心 に ,コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル を 規 定 す る 要 因
と , コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル が も た ら し 得 る 成 果 変 数 に つ い て 14 の
仮説を設定した。
41
先 行 研 究 で レ ビ ュ ー し た 通 り ,多 く の 蓄 積 が あ る 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト の
中 で ,コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル の 研 究 は 少 な く ,な か ん ず く コ ミ ッ ト
メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル を 規 定 す る 要 因 と ,コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル が も
た ら し 得 る 成 果 変 数 に 関 し て 総 合 的 に 研 究 し て い る 例 は 更 に 少 な い 。従 っ
て 本 章 で 設 定 さ れ た 仮 説 を 明 ら か に す る 事 が 出 来 れ ば ,本 研 究 は 意 義 を 見
出せると考えている。
42
第 4章
調査設計
第 1節
はじめに
本 章 で は ,次 章 で 実 証 分 析 を 行 う た め に ,調 査 対 象 と 調 査 方 法 に つ い て
述 べ る 。本 研 究 の 研 究 課 題 を 明 ら か に す る た め ,事 業 が 軌 道 に 乗 っ た 歴 史
のある日本企業 3 社を対象に質問票を配布し,定量分析を行う。
第 2節
調査対象
本 研 究 の 調 査 対 象 は ,創 業 81 年 か ら 135 年 の 3 社 で あ る 。問 題 意 識 で
も 記 し た 通 り ,事 業 が 軌 道 に 乗 っ た 歴 史 の あ る 企 業 を 対 象 に し た 。事 業 が
何 年 経 て ば 軌 道 に 乗 っ た か ,一 般 化 す る こ と は 業 種 や 状 況 に よ り 大 き く 変
わ る の で 難 し い 。 し か し な が ら , 企 業 の 寿 命 が 30 年 と 言 わ れ る 中 , 半 世
紀 を 過 ぎ た 企 業 は 事 業 が 軌 道 に 乗 っ た と 言 っ て も 良 い だ ろ う 。本 研 究 で は ,
創業から半世紀経った企業を事業が軌道に乗った歴史のある企業と定義
づける。
今 回 調 査 対 象 に 3 社 を 選 ん だ 理 由 は ,組 織 構 造 が 似 て い る こ と や 同 じ B
to B 企 業 で , 単 一 事 業 を 営 み , 従 業 員 数 も 300 名 以 下 と 組 織 特 性 が 近 い
こ と が ま ず 挙 げ ら れ る 。ま た 3 社 と も 日 本 企 業 で あ る の で 環 境 も 似 て い る 。
先 行 変 数 の 内 2 つ が 近 い の で ,よ り プ ロ セ ス に よ る 影 響 が 大 き く な る と 考
えられ,今回の調査対象にふさわしいと考えた。
ま た 3 社 と も ,調 査 に 対 し 協 力 的 で 高 い 回 収 率 を 見 込 ま れ た の も ,今 回
調査対象に選んだ理由である。
第 3節
調査方法
本 節 で は ,本 研 究 の 調 査 方 法 に つ い て 述 べ る 。本 研 究 で は 配 布 し た 質 問
紙に基づき定量分析を行う。研究方法として,定量分析を選んだ理由は,
多 く の サ ン プ ル を 基 に ,規 定 要 因 ,コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル ,成 果 変
数 と 幅 広 く 関 係 を 検 証 す る た め に は 定 量 分 析 の 方 が 向 い て い る の と ,多 く
の 既 存 研 究 で は 定 量 分 析 が 使 用 さ れ て い る か ら で あ る( 例 え ば ,関 本・花
田 , 1987, 鈴 木 , 2009 な ど )。
43
質 問 紙 は ,75 問 の 質 問 か ら 構 成 さ れ て い る 。
「 ま っ た く そ う 思 わ な い( 全
く 違 う )/ そ う 思 わ な い( 違 う )/ ど ち ら で も な い / そ う 思 う( そ の 通 り )
/ と て も そ う 思 う ( 全 く そ の 通 り )」 の 5 点 尺 度 に よ り 測 定 し た 。 ま ず 性
別 や 年 齢 に 関 す る 質 問 を 4 項 目 行 い ,そ の 後 ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト に 関 す
る 質 問 を 18 項 目 行 っ て い る 。組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト に 関 す る 質 問 は ,Meyer
& Allen( 1996) の 3 次 元 尺 度 に 基 づ き 作 成 さ れ て い る 。 測 定 尺 度 は 以 下
の 18 項 目 で あ る 。
「仕事生活(キャリア)の残りをこの会社で過ごしたい」
「私はこの会社への所属意識が無い」
「この会社の課題は,自分自身の課題のように感じる」
「この会社は私にとって,大きな価値がある」
「今この会社にいるのは,それを望んでいると同時に必要だからである」
「私はこの会社に一体感を感じない」
「この会社を辞めたいと思っても,辞めることは非常に難しい」
「この会社を辞めるということをほとんど考えた事がない」
「この会社に残っている理由の 1 つは,他に良い仕事が無いからである」
「私はこの仕事を続ける義務感を持ち合わせていない」
「もしこの会社を辞めたら,私の人生で多くのものが失われるだろう」
「 他 に 良 い 条 件 の 仕 事 が あ っ た と し て も ,す ぐ に 転 職 す る の は 正 し い 事 だ と
は思わない」
「もしこの会社を辞めたら,罪悪感が生じるだろう」
「もし個人的な損失が無ければ,この会社を離れる事も考える」
「この会社の為に働く価値があると思っている」
「 こ の 会 社 に 所 属 し て い る 人 達 に 恩 義 を 感 じ て い る の で ,す ぐ に 辞 め る よ う
なことはしない」
「私はこの会社に愛着を感じている」
「私はこの会社に対して恩義を感じている」
次 に 成 果 変 数 に 関 す る 質 問 を 25 項 目 行 っ て い る 。 成 果 変 数 は 大 き く 分
けて,組織を背負う意識,組織市民行動,自己成長,リテンションの 4
項 目 で 構 成 さ れ て い る 。組 織 を 背 負 う 意 識 は ,鈴 木( 2007)と Herscovich
44
& Meyer(2002)に 基 づ い た 質 問 項 目 に 加 え ,変 革 の 意 志 や 告 発 行 動 に 関 わ
る 質 問 項 目 を 追 加 し て い る 。 組 織 市 民 行 動 の 質 問 項 目 は , Gellatly et
al.(2006)に 基 づ き 作 成 さ れ て い る 。 自 己 成 長 に 関 し て , 山 本 ( 2003) を
参 考 に 作 成 し た 。 リ テ ン シ ョ ン に 関 し て は Colarelli(1984)に 基 づ い て 作
成されている。
最 後 に 規 定 要 因 で あ る が , 教 育 や 採 用 に 関 す る 規 定 要 因 は , Snell &
Dean(1992), 上 司 と の 関 係 は 小 野 ・ 西 村 ( 1996) に 基 づ き 作 成 さ れ , そ
の 他 は 本 理 論 モ デ ル に 基 づ い た オ リ ジ ナ ル で あ る 。質 問 票 は 巻 末 に 添 付 し
て い る の で 参 照 さ れ た い 。こ れ か ら 3 社 を 対 象 に 調 査 を 行 っ た 結 果 を 基 に
実証分析を行う。
45
第 5章
実証分析
第 1節
はじめに
本 章 で は ,本 研 究 の 研 究 課 題 を 明 ら か に す る た め に 実 証 分 析 を 行 う 。ま
ず 第 2 節 で 調 査 の 概 要 を 記 す 。そ の 後 ,仮 説 の 流 れ に 従 い 分 析 結 果 を 確 認
し て い く 。そ し て 得 ら れ た 分 析 結 果 を ど の よ う に 解 釈 で き る の か 考 察 を 行
う。
第 2節
調査の概要
本 節 で は ,調 査 の 概 要 を 記 す 。本 調 査 で は 創 業 81 年 か ら 135 年 の 事 業
が 軌 道 に 乗 っ た 歴 史 の あ る 企 業 を 対 象 に 行 っ た 。3 社 と も B to B 企 業 で ,
単 一 の 事 業 を 営 み , ま た 事 業 規 模 も 300 名 以 下 と 近 い 組 織 特 性 を 有 し て
い る 。3 社 に 質 問 票 を 340 枚 配 布 し ,298 枚 を 回 収 し た 。回 収 率 は 87.6%
で あ る 。尚 ,無 効 な 回 答 は 無 か っ た の で 全 て サ ン プ ル と し て 活 用 し た 。298
名 の 内 , 管 理 職 は 58 名 , 課 長 代 理 以 下 は 240 名 で , 女 性 は 48 名 , 男 性
は 250 名 で あ っ た 。
第 3節
分析結果
本 節 で は ,分 析 結 果 を 見 て い く 。そ の 前 に ,分 析 に 必 要 な 基 礎 デ ー タ を
確 認 し ,信 頼 性 が 担 保 さ れ て い る の を 確 か め て か ら 実 証 分 析 結 果 を 仮 説 に
沿って述べる。
最 初 に コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル を 見 出 す 大 前 提 と な る ,組 織 コ ミ ッ
ト メ ン ト を 確 認 す る 。 質 問 票 で は , Meyer & Allen(1996)の 3 次 元 尺 度 に
基 づ い て い る 。尚 ,3 次 元 尺 度 は 多 く の 研 究 で 確 立 さ れ て い る の で( 例 え
ば ,Mathieu & Zajac,1990)因 子 分 析 は 行 わ な い 。各 下 位 尺 度 の 信 頼 性
を確認するだけに留めておく。
ま ず AC に 関 す る 回 答 を 集 計 し , 信 頼 度 を 計 測 し た と こ ろ , Cronbach
の α は 0.69 を 示 し , 一 定 の 信 頼 性 が 確 認 さ れ た 。 同 様 に CC の 信 頼 度 を
計 測 し ,Cronbach の α は 0.61 を 示 し ,CC も 一 定 の 信 頼 性 が 確 認 出 来 た 。
46
最 後 に NC の 信 頼 性 を 確 認 し た と こ ろ ,Cronbach の α は 0.71 と こ れ も 充
分 な 信 頼 性 が 確 認 出 来 た 。 Cronbach の α と 共 に 3 次 元 尺 度 の 相 関 関 係 ,
平 均 ,標 準 偏 差 を ま と め た も の が 次 の 表 で あ る 。表 か ら 3 次 元 尺 度 は お 互
いに正の相関関係にあることが分かる。
表 4
AC
CC
NC
3 次 元 尺 度 の 相 関 係 数 と 平 均 , SD, α 係 数
AC
CC
NC
平均
SD
α 係数
-
0.61**
0.60**
3.51
0.64
0.69
-
0.60**
3.10
0.79
0.61
-
3.50
0.64
0.71
**p<.01
次 に 成 果 変 数 の 信 頼 性 を 確 認 し て い く 。成 果 変 数 も ア プ リ オ リ に 設 定 し
て い る の で 因 子 分 析 を 行 わ ず ,信 頼 性 を 確 認 す る 。成 果 変 数 は ,組 織 を 背
負 う 意 識 ,組 織 市 民 行 動 ,自 己 成 長 ,そ し て リ テ ン シ ョ ン の 4 項 目 で あ る 。
まず組織を背負う意識の信頼性を確認する。組織を背負う意識の
Cronbach の α は 0.75 で 充 分 な 信 頼 性 が 確 認 さ れ た 。 次 に 組 織 市 民 行 動
の 信 頼 性 を 確 か め た が , Cronbach の α は 0.60 と 基 準 値 を ぎ り ぎ り 超 え
る 結 果 と な っ た 。し か し 今 回 の 抽 出 し た 結 果 が 全 て の 組 み 合 わ せ の 中 で 一
番 高 い 信 頼 性 を 示 し て い る の で ,今 回 は こ の 値 を 使 用 す る こ と に す る 。自
己 成 長 の 信 頼 性 は 0.65 と 一 定 の 信 頼 性 が 確 認 さ れ た 。 最 後 に リ テ ン シ ョ
ン の 信 頼 性 を 確 認 し , Cronbach の α は 0.63 と こ れ も 一 定 の 信 頼 性 が 確
認 さ れ た 。 Cronbach の α と 共 に 成 果 変 数 4 次 元 尺 度 の 相 関 関 係 , 平 均 ,
標 準 偏 差 を ま と め た も の が 次 の 表 で あ る 。表 か ら 4 次 元 尺 度 は 組 織 を 背 負
う 意 識 と リ テ ン シ ョ ン を 除 い て ,お 互 い に 正 の 相 関 関 係 に あ る こ と が 分 か
る。
47
表 5
成果変数 4 尺度の相関係数と平均,標準偏差,α 係数
組織を
背負う
組織を背
自己成
リテンシ
意識
OCB
長
ョン
平均
SD
α 係数
-
0.17**
0.45**
0.08
3.84
0.48
0.75
-
0.32**
0.31**
3.82
0.58
0.60
-
0.3**
3.58
0.56
0.68
-
3.40
0.79
0.63
負う意識
組織市民
行動
自己成長
リテンシ
ョン
**p<.01
最 後 に ,コ ミ ッ ト メ ン ト を 規 定 す る 要 因 に つ い て 確 認 す る 。ア プ リ オ リ
に 設 定 し た 4 項 目 の 信 頼 性 を 確 認 す る 。ま ず は 組 織 の 理 念 や 価 値 観 に 共 感
し て い る か ど う か に つ い て の 項 目 で あ る 。 こ の 項 目 の Cronbach の α は
0.83 と 充 分 な 信 頼 性 が 確 認 さ れ た 。 次 に 責 任 と 権 限 が 明 確 で あ る か ど う
か に つ い て の 項 目 で あ る 。 こ の 項 目 の Cronbach の α は 0.80 と 充 分 な 信
頼 性 が 確 認 さ れ た 。3 点 目 は 人 の 採 用 や 教 育 制 度 が 有 効 で あ る と 感 じ て い
る か ど う か に つ い て の 項 目 で あ る 。 こ の 項 目 の Cronbach の α は 0.78 と
こ れ も 充 分 な 信 頼 性 が 確 認 さ れ た 。最 後 に 周 囲 と の 人 間 関 係 が 良 い か ど う
か に つ い て の 項 目 で あ る 。 こ の 項 目 の Cronbach の α は 0.77 と こ れ も 充
分 な 信 頼 性 が 確 認 さ れ た 。 Cronbach の α と 共 に 4 次 元 尺 度 の 相 関 関 係 ,
平 均 ,標 準 偏 差 を ま と め た も の が 次 の 表 で あ る 。表 か ら 3 次 元 尺 度 は お 互
いに正の相関関係にあることが分かる。
48
表 6
規定要因 4 尺度の相関係数と平均,標準変化,α 係数
理念価値
人間関
教育採
責任と
平
理念
係
用
権限
均
-
0.29**
0.42**
0.47**
3.51 0.70
0.83
-
0.25**
0.36**
3.74 0.53
0.80
-
0.37**
3.15 0.72
0.78
-
3.52 0.69
0.77
SD
α 係数
観
人間関係
教育採用
制度
責任と権
限
**p<.01
以 上 で ,基 礎 的 な デ ー タ の 確 認 は 終 了 し た 。3 次 元 コ ミ ッ ト メ ン ト ,年 齢 ,
勤 続 年 数 ,役 職 ,成 果 変 数 と 規 定 要 因 の 相 関 を 以 下 の 表 に ま と め た 。こ れ
から仮説の検証を行っていく。
49
表 7
相関係数
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
(7)
(8)
(9)
(10)
(11)
(12)
(13)
AC(1)
-
CC(2)
0.61**
-
NC(3)
0.60**
0.60**
-
年齢(4)
0.29**
0.17**
0.04
-
勤続年数(5)
0.26**
0.11
0.12*
0.70**
-
役職(6)
0.21**
0.07
0.16**
032**
0.37**
-
組織を背負う意
0.10**
0.01
0.14*
-0.15**
-0.10
0.14*
-
自己成長(8)
0.21**
0.17**
0.23**
-0.04
-0.08
0.10
0.83**
リテンション(9)
0.64**
0.71**
0.6**
0.16**
0.11
0.16** 0.08
0.30**
-
OCB(10)
0.40**
0.35**
0.24**
0.19**
0.09
0.07
0.32**
0.31** -
理念・価値観(11) 0.57**
0.44**
0.41**
0.20**
0.17**
0.15** 0.04
0.15**
0.45** 0.61** -
人間関係(12)
0.26**
0.20**
0.24**
-0.06
-0.08
0.01
0.01
0.09
0.21** 0.30** 0.29**
-
教育採用制度
0.43**
0.46**
0.46**
0.10
0.07
0.07
-0.06
0.08
0.47** 0.27** 0.42**
0.25**
-
0.48**
0.34**
0.37**
0.22**
0.14
0.23** 0.06
0.15**
0.42** 0.37** 0.47**
0.36**
0.37**
(14)
識(7)
0.17**
-
(13)
責任と権限(14)
*p<.05 **p<.01
50
-

仮説 1 の検証
こ れ か ら 仮 説 1-1 か ら 1-9 ま で に 設 定 し た コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ
イ ル の 存 在 を 確 認 す る 。 先 ほ ど 確 認 し た AC, CC, NC を 基 に コ ミ ッ
トメントプロファイルを抽出する。クラスター分析を使い,コミット
メントプロファイルを抽出した。クラスター化は二段階で行われた。
Ward 法 ,間 隔 の 測 定 法 と し て 平 方 ユ ー ク リ ッ ド 距 離 を 用 い た 。第 一 段
階においては探索的に分析を行い,クラスターの数を定めた。解釈可
能性を考慮した結果,7 つのクラスターが妥当であると判断した。第
二段階では,クラスターを 7 つに指定し,クラスター分析を行った。
抽出されたクラスターを以下に記載する。
まず第 1 クラスターは,全てのコミットメントが中程度のクラスタ
ー で あ る 。 こ れ は Wasti の 調 査 で も 示 さ れ た ク ラ ス タ ー で あ る 。 こ の
ク ラ ス タ ー を 中 関 与 型 と 呼 ぶ 。中 関 与 型 は 38 サ ン プ ル あ り ,全 ク ラ ス
タ ー に 属 し て い る サ ン プ ル の 13%を 占 め る 。 こ の ク ラ ス タ ー に 属 し て
い る サ ン プ ル の AC, CC, NC の 平 均 値 , 標 準 偏 差 は 下 記 の 表 を 参 照
されたい。
表 8
中関与型の 3 次元コミットメントデータ
度数
最小値
最大値
平均値
標準偏差
AC
38
1.40
3.20
2.80
0.36
CC
38
2.33
3.67
3.02
0.33
NC
38
2.60
4.00
3.28
0.40
第 2 ク ラ ス タ ー は ,全 て の コ ミ ッ ト メ ン ト が 高 い ク ラ ス タ ー で あ る 。
こ の ク ラ ス タ ー を 高 関 与 型 と 呼 ぶ 。こ の ク ラ ス タ ー は 27 サ ン プ ル あ り ,
全 ク ラ ス タ ー に 属 し て い る サ ン プ ル の 9%を 占 め る 。こ の ク ラ ス タ ー に
属 し て い る サ ン プ ル の AC, CC, NC の 平 均 値 , 標 準 偏 差 は 下 記 の 表
を参照されたい。
51
表 9
高関与型の 3 次元コミットメントデータ
度数
最小値
最大値
平均値
標準偏差
AC
27
4.00
5.00
4.42
0.33
CC
27
4.00
5.00
4.56
0.29
NC
27
3.60
5.00
4.53
0.39
第 3 ク ラ ス タ ー は , CC が 低 く , AC, CC が 中 程 度 の ク ラ ス タ ー で
あ る 。 こ の ク ラ ス タ ー を 低 功 利 型 と 呼 ぶ 。 こ の ク ラ ス タ ー は 49 あ り ,
全 ク ラ ス タ ー に 属 し て い る サ ン プ ル の 16%を 占 め る 。 こ の ク ラ ス タ ー
に 属 し て い る サ ン プ ル の AC, CC, NC の 平 均 値 , 標 準 偏 差 は 下 記 の
表を参照されたい。
表 10
低功利型の 3 次元コミットメントデータ
度数
最小値
最大値
平均値
標準偏差
AC
49
2.60
3.80
3.30
0.29
CC
49
1.67
2.67
2.32
0.27
NC
49
2.20
3.80
3.15
0.33
第 4 ク ラ ス タ ー は , AC, NC が 高 い ク ラ ス タ ー で あ る 。 こ の ク ラ ス
タ ー を 情 緒 規 範 型 と 呼 ぶ 。こ の ク ラ ス タ ー は 39 あ り ,全 ク ラ ス タ ー に
属 し て い る サ ン プ ル の 13%を 占 め る 。 こ の ク ラ ス タ ー に 属 し て い る サ
ン プ ル の AC, CC, NC の 平 均 値 , 標 準 偏 差 は 下 記 の 表 を 参 照 さ れ た
い。
52
表 11
情緒規範型の 3 次元コミットメントデータ
度数
最小値
最大値
平均値
標準偏差
AC
39
2.80
5.00
3.70
0.43
CC
39
2.00
3.00
2.64
0.34
NC
39
3.40
4.60
3.90
0.29
第 5 ク ラ ス タ ー は ,AC が 高 い ク ラ ス タ ー で あ る 。こ の ク ラ ス タ ー を
情 緒 型 と 呼 ぶ 。こ の ク ラ ス タ ー は 51 あ り ,全 ク ラ ス タ ー に 属 し て い る
サ ン プ ル の 17%を 占 め る 。こ の ク ラ ス タ ー に 属 し て い る サ ン プ ル の AC,
CC, NC の 平 均 値 , 標 準 偏 差 は 下 記 の 表 を 参 照 さ れ た い 。
表 12
情緒型の 3 次元コミットメントデータ
度数
最小値
最大値
平均値
標準偏差
AC
51
3.20
4.40
3.81
0.31
CC
51
2.67
4.33
3.41
0.34
NC
51
2.60
3.60
3.20
0.27
第 6 クラスターは,全てのコミットメントがある程度高いクラスタ
ーである。このクラスターを中‐高関与型と呼ぶ。このクラスターは
67 あ り ,全 ク ラ ス タ ー に 属 し て い る サ ン プ ル の 22%を 占 め る 。こ の ク
ラ ス タ ー に 属 し て い る サ ン プ ル の AC, CC, NC の 平 均 値 , 標 準 偏 差
は下記の表を参照されたい。
53
表 13
中 -高 関 与 型 の 3 次 元 コ ミ ッ ト メ ン ト デ ー タ
度数
最小値
最大値
平均値
標準偏差
AC
67
3.00
4.60
3.79
0.34
CC
67
3.33
4.33
3.63
0.30
NC
67
3.40
4.80
3.89
0.29
そして最後の第 7 クラスターは,全てのコミットメントが低いクラ
スターである。このクラスターを非関与型と呼ぶ。このクラスターは
27 あ り , 全 ク ラ ス タ ー に 属 し て い る サ ン プ ル の 9%を 占 め る 。 こ の ク
ラ ス タ ー に 属 し て い る サ ン プ ル の AC, CC, NC の 平 均 値 , 標 準 偏 差
は下記の表を参照されたい。
表 14
非関与型の 3 次元コミットメントデータ
度数
最小値
最大値
平均値
標準偏差
AC
27
1.00
3.20
2.49
0.49
CC
27
1.33
2.67
1.95
0.41
NC
27
1.60
3.25
2.40
0.44
分 類 さ れ た 7 つ の ク ラ ス タ ー の AC, CC, NC の 平 均 値 を 記 し た も
の が 表 15 で あ る 。
54
表 15
クラスターごとの 3 次元コミットメント比較
5
4.5
4
3.5
AC
3
CC
2.5
NC
2
1.5
仮 説 1 を 検 証 し て い く と , 仮 説 1‐ 1, 1‐ 2, 1‐ 4, 1‐ 8, 1‐ 9 が
支 持 さ れ , 仮 説 1‐ 3, 1‐ 5, 1‐ 6, 1‐ 7 が 棄 却 さ れ た 。 ま た 仮 説 設
定時には想定していなかった中‐高関与型と低功利型のクラスターが
分類された。
ま た 分 類 さ れ た ク ラ ス タ ー を 企 業 別 に 見 た も の が 表 16 で あ る 。A 社
と B 社を比較すると,中関与型と非関与型にあまり違いが無く,A 社
の 方 が 高 関 与 型 ,中 -高 関 与 型 の 割 合 が 多 い 。B 社 は 情 緒 功 利 型 と 情 緒
型 の 割 合 が 多 い 。 C 社 は 高 関 与 型 , 中 関 与 型 で 全 体 の 56.5% を 占 め て
いる。3 社共通していえることは,企業に愛着を持っている個人の割
合 が 多 く ,高 関 与 型 ,中 -高 関 与 型 ,情 緒 規 範 型 ,情 緒 型 で 全 体 の 60%
~ 70% を 占 め て い る 。 高 い AC を 持 ち な が ら も プ ロ フ ァ イ ル の 割 合 が
各々違うのは,企業風土やマネジメントコントロール施策の違いが出
ている可能性がある。
55
表 16
企業別のクラスター割合の比較
40.0%
35.0%
30.0%
25.0%
20.0%
A社
15.0%
B社
10.0%
C社
5.0%
0.0%
高関与
中 -高
情緒規範
情緒
低功利
中関与
非関与
型
関与型
型
型
型
型
型
A社
11.4%
22.9%
12.1%
16.4%
13.6%
15.0%
8.6%
B社
4.4%
20.0%
14.8%
20.0%
19.3%
11.9%
9.6%
C社
21.7%
34.8%
8.7%
4.3%
17.4%
4.3%
8.7%
こ れ か ら 仮 説 2 の 検 証 に 入 る が 仮 説 1‐ 5, 1‐ 7 が 棄 却 さ れ た の で 仮
説 2‐ 3 は 棄 却 さ れ る 事 と な る 。そ れ 以 外 の 仮 説 の 検 証 を こ れ か ら 行 う 。

仮説 2 の検証
仮説 2 は 3 つの作業仮説から成り立つ。各々のコミットメントプロ
フ ァ イ ル が 生 み 出 す 成 果 変 数 を 表 し た グ ラ フ を 提 示 し た 後 ,仮 説 2- 1
から順に検証を行う。
56
表 17
クラスターごとの成果変数
5
4.5
4
組織を背負う意識
3.5
自己成長
OCB
リテンション
3
2.5
2
高関与型
中-高関与型
情緒型
情緒規範型
中-高関
高関与型
与型
低功利型
中関与型
情緒規範
情緒型
型
低功利型 中関与型 非関与型
組織を背負う意識
4.09
3.43
3.71
3.93
3.65
3.43
3.62
自己成長
4.04
3.39
3.5
3.55
3.29
3.1
3.13
OCB
4.31
3.96
3.98
3.62
3.67
3.64
3.48
リテンション
4.51
3.78
3.61
3.31
2.88
3.22
2.26
57
非関与型
仮 説 2- 1
高 関 与 型 は ,組 織 を 背 負 う 意 識 ,自 己 成 長 ,組 織 市 民 行 動 ,リ テ ン シ
ョンの成果変数の全てが一番高い。
こ の 仮 説 2-1 は 表 15 を 見 る 限 り 明 ら か で あ る 。 で は 統 計 的 に 有 意 な
の か ど う か 分 散 分 析 を 行 う こ と よ り 検 証 す る 。今 回 は 分 散 分 析 手 法 の 1
つ で あ る Tukey HSD 法 を 使 用 す る 。 Tukey HSD 法 は コ ミ ッ ト メ ン ト
プ ロ フ ァ イ ル の 全 て の グ ル ー プ と 比 較 す る の で ,1 つ の プ ロ フ ァ イ ル と
他のグループを比較するのに適している。
ま ず 組 織 を 背 負 う 意 識 に 関 し て 比 較 を 行 う 。詳 細 は 以 下 の 表 を 参 照 さ
れ た い 。組 織 を 背 負 う 意 識 に 対 し て ,高 関 与 型 と 他 の プ ロ フ ァ イ ル を 比
較 し た と こ ろ ,中 ‐ 高 関 与 型 に 対 し て は ,平 均 値 の 差 が 5% 水 準 で 有 意
であることが確認された。
高関与型の次に組織を背負う意識が高かったのは情緒規範型である。
これは純粋に情緒だけが高いプロファイルよりも情緒と規範が掛けあ
わされたプロファイルの方が高い組織背負う意識がある事を示してい
る 。 こ れ は Gellatly ら が 主 張 し た NC の 2 面 性 に よ っ て も た ら さ れ た
影 響 な の か ,も し く は AC と NC が 掛 け あ わ さ れ る と 純 粋 な コ ミ ッ ト メ
ントよりも高い成果が得られると示唆しているのかのどちらかであろ
う。
58
表 18
組織を背負う意識を因子とした高関与型と他のクラスターの分散分析
平方和
自由度
平均平方
F 値
グループ間
13.633
6
2.272
グループ内
249.214
291
.856
合計
262.847
297
有意確率
2.653
.016
多重比較
組織を背負う意識
Tukey HSD
(I) ケース
(J) ケースの
の クラスタ数
クラスタ数
の差
(I-J)
高関与型
95% 信 頼 区 間
平均値
標準誤差
有意確率
下限
上限
中関与
0.66
0.23
0.08
-0.04
1.35
低功利型
0.44
0.22
0.42
-0.22
1.10
情緒規範
0.16
0.23
0.99
-0.53
0.85
情緒型
0.38
0.22
0.59
-0.27
1.04
中 -高 関
0.67*
0.21
0.03
0.04
1.29
0.47
0.25
0.50
-0.28
1.22
型
与型
非関与型
*p<.05 **p<.01
次 に 自 己 成 長 に 関 し て ,高 関 与 型 と 他 の プ ロ フ ァ イ ル と の 比 較 を 行 う 。
詳 細 は 下 記 の 表 を 参 照 さ れ た い 。自 己 成 長 に 対 し て ,高 関 与 型 と 他 の プ
ロ フ ァ イ ル を 比 較 し た と こ ろ ,中 関 与 型 ,非 関 与 型 に 対 し て 平 均 値 の 差
が 1%水 準 で 有 意 で あ る こ と が 確 認 さ れ , 低 功 利 型 と 中 ‐ 高 関 与 型 に 対
し て は , 平 均 値 の 差 が 5% 水 準 で 有 意 で あ る こ と が 確 認 さ れ た 。
非 関 与 型 や 低 功 利 型 の 値 が 低 い の は 概 ね 予 想 通 り で あ る が ,中 ‐ 高 関
与型や中関与型の値が低いのは意外である。
59
表 19
自己成長を因子とした高関与型と他のクラスターの分散分析
分散分析
平方和
自由度
F 値
平均平方
グループ間
18.289
6
3.048
グループ内
241.085
291
.828
合計
259.374
297
有意確率
3.679
.002
多重比較
自己成長
Tukey HSD
(I) ケースの クラスタ数
高関与型
(J) ケースの クラスタ
平均
数
値の
95% 信 頼 区 間
差
標準
有意
(I-J)
誤差
確率
下限
上限
中関与型
0.94**
0.23
0.00
0.26
1.62
低功利型
0.75*
0.22
0.01
0.10
1.39
情緒規範型
0.49
0.23
0.34
-0.19
1.16
情緒型
0.54
0.22
0.17
-0.11
1.18
中 -高 関 与 型
0.65*
0.21
0.03
0.03
1.27
非関与型
0.91**
0.25
0.01
0.17
1.64
*p<.05 **p<.01
次 に 組 織 市 民 行 動 に 関 し て ,高 関 与 型 と 他 の プ ロ フ ァ イ ル と の 比 較 を
行 う 。詳 細 は 下 記 の 表 を 参 照 さ れ た い 。自 己 成 長 に 対 し て ,高 関 与 型 と
他 の プ ロ フ ァ イ ル を 比 較 し た と こ ろ ,情 緒 規 範 型 ,中 関 与 型 ,低 功 利 型 ,
非 関 与 型 に 対 し て 平 均 値 の 差 が 1%水 準 で 有 意 で あ る こ と が 確 認 さ れ た 。
多 く の プ ロ フ ァ イ ル に 対 し て 大 き な 平 均 値 の 差 が 確 認 で き た が ,情 緒 型
と 中 ‐ 高 関 与 型 に は 統 計 上 有 意 な 差 は な か っ た 。 こ れ は 純 粋 な AC が
OCB に 対 し て 良 い 影 響 が あ る 事 を 示 唆 し て い る 可 能 性 が あ る 。 或 い は
60
今 回 の 調 査 で は 見 出 せ な か っ た が 情 緒 功 利 型 や 功 利 規 範 型 の よ う に AC
と CC や CC と NC が 掛 け あ わ さ れ る と OCB に 対 し て 良 い 影 響 が 出 る
か も 知 れ な い 。こ の 検 証 は 本 調 査 で は 確 認 で き な い の で ,新 た な 調 査 研
究を待ちたいと思う。
表 20
OCB を 因 子 と し た 高 関 与 型 と 他 の ク ラ ス タ ー の 分 散 分 析
平方和
自由度
F 値
平均平方
グループ間
15.322
6
2.554
グループ内
78.520
277
.283
合計
93.842
283
有意確率
9.009
.000
多重比較
OCB
Tukey HSD
(I) ケースの クラ
(J) ケースの クラ
スタ数
スタ数
高関与型
95% 信 頼 区
平均値の差
標準誤
有意確
(I-J)
差
率
間
下限
上限
中関与型
0.66**
0.14
0.00
0.26
1.07
低功利型
0.63**
0.13
0.00
0.25
1.02
情緒規範
0.69**
0.14
0.00
0.29
1.09
情緒型
0.33
0.13
0.15
-0.05
0.71
中 -高 関 与
0.35
0.12
0.08
-0.02
0.72
0.83**
0.15
0.00
0.39
1.27
型
型
非関与型
*p<.05 **p<.01
最 後 に リ テ ン シ ョ ン に 関 し て ,高 関 与 型 と 他 の プ ロ フ ァ イ ル と の 比 較
を 行 う 。詳 細 は 下 記 の 表 を 参 照 さ れ た い 。リ テ ン シ ョ ン に 対 し て ,高 関
与 型 と 他 の プ ロ フ ァ イ ル を 比 較 し た と こ ろ ,全 て の プ ロ フ ァ イ ル に 対 し
61
て 平 均 値 の 差 が 1%水 準 で 有 意 で あ る こ と が 確 認 さ れ た 。 Gellatly et
al.(2006)の 研 究 で は ,純 粋 な 情 緒 的 コ ミ ッ ト メ ン ト で あ る 情 緒 型 が 一 番
高 い リ テ ン シ ョ ン を 示 し て い た が ,こ の 調 査 で は 高 関 与 型 が 一 番 高 い リ
テ ン シ ョ ン を 示 し た 。高 関 与 型 と 特 に 大 き な 差 が あ っ た の は 低 功 利 型 と
非 関 与 型 で あ る 。こ れ は CC が リ テ ン シ ョ ン に 対 し て プ ラ ス の 影 響 が あ
る の で , CC が 低 い 低 功 利 型 と 非 関 与 型 の リ テ ン シ ョ ン の 値 が 特 に 低 か
った可能性がある事を示唆している。
表 21
リテンションを因子とした高関与型と他のクラスターの分散分析
平方和
自由度
F 値
平均平方
グループ間
91.798
6
15.300
グループ内
84.376
277
.305
176.173
283
合計
有意確率
50.228
.000
多重比較
リテンション
Tukey HSD
(I) ケースの ク
(J) ケースの ク
ラスタ数
ラスタ数
95% 信 頼 区
平均値の差
標準誤
有意確
(I-J)
差
率
間
下限
上限
中関与型
1.29**
0.14
0.00
0.87
1.72
低功利型
1.64**
0.14
0.00
1.23
2.04
情緒規範型
1.21**
0.14
0.00
0.79
1.62
情緒型
0.90**
0.13
0.00
0.50
1.29
中 -高 関 与 型
0.73**
0.13
0.00
0.34
1.11
非関与型
2.26**
0.15
0.00
1.80
2.71
高関与型
*p<.05 **p<.01
仮 説 2- 1 に 関 し て ,他 の プ ロ フ ァ イ ル と 比 較 し て 全 て 有 意 差 が 見 出
せ た 訳 で は 無 い が ,概 ね 支 持 さ れ た と 言 っ て も 良 い だ ろ う 。全 て の コ ミ
62
ットメントが高い高関与型が他のプロファイルよりも成果を生み出す
ことが分かった。また高関与型と他のプロファイルとを比較した結果,
出 て き た 疑 問 は AC と NC が 掛 け 合 わ さ れ る と 純 粋 な コ ミ ッ ト メ ン ト と
は 違 っ た 成 果 が 出 る の で は 無 い か と い う こ と で あ る 。こ の 疑 問 を 明 ら か
にするためにも,続いて他のプロファイルの成果を検証していく。
仮 説 2- 2
情 緒 規 範 型 の プ ロ フ ァ イ ル を 持 つ 個 人 は ,高 関 与 型 の プ ロ フ ァ イ ル を
持つ個人を除き組織を背負う意識が他のプロファイルに比べて高い値
を示す。
表 15 を 見 る 限 り 仮 説 2- 2 は 支 持 さ れ て い る が , 統 計 的 な 有 意 差 を
見るために情緒規範型と高関与型を除いたその他のプロファイルとの
比 較 を 行 っ た 。詳 細 は 下 記 の 表 を 参 照 さ れ た い 。表 を 見 て も 分 か る よ う
に 情 緒 功 利 型 は 他 の プ ロ フ ァ イ ル よ り も 高 い 値 を 示 し て い る も の の ,全
てのプロファイルに対し有意差は見られなかった。
表 22
組織を背負う意識を因子とした情緒規範型と他のクラスターの分散分
析
多重比較
組 織 を背 負 う意 識
Tukey HSD
95% 信 頼 区
(I) ケースのクラ (J) ケースのクラ
スタ数
スタ数
間
平 均 値 の差
標準誤
有意確
(I-J)
差
率
下限
上限
中関与型
0.50
0.21
0.23
-0.13
1.12
低功利型
0.28
0.20
0.79
-0.31
0.87
情緒型
0.22
0.20
0.92
-0.36
0.81
中 -高 関 与 型
0.51
0.19
0.10
-0.05
1.06
非関与型
0.31
0.23
0.83
-0.38
1.00
情緒規範型
*p<.05 **p<.01
63
仮 説 2- 4
仮 説 2‐ 3 は 仮 説 1 で プ ロ フ ァ イ ル が 抽 出 さ れ な か っ た た め , 棄 却 と
な っ た の で , 次 に 仮 説 2- 4 を 検 証 す る 。 情 緒 型 の プ ロ フ ァ イ ル を 持 つ
個 人 は ,高 関 与 型 の プ ロ フ ァ イ ル を 持 つ 個 人 を 除 き リ テ ン シ ョ ン が 他 の
プロファイルに比べて高い値を示す。
仮 説 2- 4 を 検 証 す る た め に , 情 緒 型 と 高 関 与 型 を 除 い た 他 の プ ロ フ
ァイルを比較した。詳細は下記の表を参照されたい。多重比較の結果,
情緒型よりも中‐高関与型の方がリテンションは高くその他のプロフ
ァ イ ル と 比 較 す れ ば 情 緒 型 の 方 が 高 い 事 が 分 か っ た 。ま た 低 功 利 型 と 非
関 与 型 と 比 較 し た 時 は 1% 未 満 の 有 意 差 が , 中 関 与 型 と 比 較 し た 時 は
5% 未 満 の 有 意 差 が 確 認 さ れ た 。中 -高 関 与 型 の 方 が 情 緒 型 よ り も 高 い リ
テ ン シ ョ ン を 示 し た こ と か ら ,単 独 の コ ミ ッ ト メ ン ト が 高 い よ り も ,コ
ミットメント同士を掛け合わせたものの方がリテンションにはより良
い 影 響 を 与 え る 事 が こ の 調 査 で は 明 ら か に な っ た 。 従 っ て Gellatly et
al.(2006)で 主 張 さ れ た 純 粋 な 情 緒 的 コ ミ ッ ト メ ン ト で あ る 情 緒 型 の リ
テンションが高いという結果は,本研究において,明確に棄却された。
表 23
リテンションを因子とした情緒型と他のクラスターの分散分析
多重比較
リテンション Tukey HSD
(I) ケースのクラ
(J) ケースのク
スタ数
ラスタ数
情緒型
95% 信 頼 区
平 均 値 の差
標準誤
有意確
(I-J)
差
率
間
下限
上限
中関与型
0.40*
0.12
0.02
0.04
0.76
低功利型
0.74**
0.11
0.00
0.40
1.07
情緒規範型
0.31
0.12
0.13
-0.04
0.66
中 -高 関 与
-0.17
0.10
0.66
-0.48
0.14
1.36**
0.13
0.00
0.96
1.75
範型
非関与型
*p<.05 **p<.01
64
こ れ ま で 仮 説 1 で 棄 却 さ れ た た め , 実 施 で き な か っ た 仮 説 2‐ 3 を 除
い た 仮 説 2- 1, 2- 2, 2- 4 を 検 証 し て き た 。 こ れ ら を 検 証 し て い く と
あ る 疑 問 が 生 じ た 。そ の 疑 問 と は ,純 粋 な コ ミ ッ ト メ ン ト で 発 揮 さ れ る
成 果 の 他 に そ れ ぞ れ が 掛 け 合 わ さ れ る こ と に よ っ て ,単 独 で は 得 ら れ な
か っ た 成 果 が 得 ら れ る の で は な い か と い う こ と で あ る 。Gellatly ら も 規
範的コミットメントには 2 面性があるのではないかと主張していたが,
筆者は 3 次元コミットメントの各々を掛け合わせることによって何ら
か の 交 互 作 用 が 生 ま れ て い る の で は 無 い か と 考 え た 。ま た も し 交 互 作 用
が 確 認 さ れ れ ば ,高 関 与 型 や 情 緒 規 範 型 な ど 複 数 の コ ミ ッ ト メ ン ト が 高
い コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル の 効 果 が 裏 付 け さ れ る こ と に な る 。そ れ
を検証するために,これから分析に入る。
分 析 方 法 は ,組 織 を 背 負 う 意 識 ,自 己 成 長 ,組 織 市 民 行 動 ,リ テ ン シ
ョ ン の 成 果 を 従 属 変 数 と し , AC と CC, AC と NC, CC と NC, AC と
CC と NC を 掛 け 合 わ せ た 変 数 を 独 立 変 数 と し て , 階 層 的 重 回 帰 分 析 を
実 施 し た 。尚 ,コ ン ト ロ ー ル 変 数 と し て 性 別 ,年 齢 ,役 職 を モ デ ル に 組
み込んでいる。詳細は下記の表を参照されたい。
Model 1 で は ,性 別 を は じ め と す る コ ン ト ロ ー ル 変 数 を 投 入 し ,Model
2 で は AC, CC, NC 単 独 の コ ミ ッ ト メ ン ト を , Model 3 で は コ ミ ッ ト
メ ン ト を 掛 け 合 わ せ た も の を 投 入 し た 。Model 1 と Model 2 は 強 制 投 入
法 で , Model 3 は ス テ ッ プ ワ イ ズ 法 で 行 っ た 。
まず組織を背負う意識を従属変数として階層的重回帰分析を行った
結 果 を 見 て み る 。Model 1 か ら Model 3 ま で の R²の 変 化 を 確 認 す る と ,
Model 1 か ら Model 2, Model 2 か ら Model 3 に お い て , 5% 水 準 の 有
意 な 増 加 が 確 認 さ れ た 。こ れ は AC と CC を 掛 け 合 わ せ た 変 数 が 組 織 を
背負う意識に与える影響が確認されたことを意味する。
次に自己成長を従属変数として階層的重回帰分析を行った結果を見
て み る 。Model 1 か ら Model 3 ま で の R²の 変 化 を 確 認 す る と ,Model 1
か ら Model 2 に お い て は 1% 水 準 の ,Model 2 か ら Model 3 に お い て は
5% 水 準 の 有 意 な 増 加 が 確 認 さ れ た 。 こ れ は AC と NC を 掛 け 合 わ せ た
変数が自己成長に与える影響が確認されたことを意味する。
65
そして組織市民行動を従属変数として階層的重回帰分析を行った結
果 を 見 て み る 。 Model 1 か ら Model 3 ま で の R²の 変 化 を 確 認 す る と ,
Model 1 か ら Model 2 に お い て は 1% 水 準 の , Model 2 か ら Model 3 に
お い て は 5% 水 準 の 有 意 な 増 加 が 確 認 さ れ た 。 こ れ は AC と NC を 掛 け
合わせた変数が組織市民行動に与える影響が確認されたことを意味す
る。
最後にリテンションを従属変数として階層的重回帰分析を行った結
果 を 見 て み る 。 Model 1 か ら Model 3 ま で の R²の 変 化 を 確 認 す る と ,
Model 1 か ら Model 2 に お い て は 1% 水 準 の 有 意 な 増 加 が 確 認 さ れ た が ,
Model 2 か ら Model 3 に お い て は 有 意 な 増 加 が 確 認 さ れ な か っ た 。こ れ
はコミットメントとコミットメントを掛け合わせた変数はリテンショ
ンに対して有意な影響を与えないことを意味する。
こ れ ま で の 分 析 結 果 を ま と め る と , AC と CC を 掛 け 合 わ せ た も の は
組 織 を 背 負 う 意 識 に , AC と NC を 掛 け 合 わ せ た も の は 自 己 成 長 と 組 織
市 民 行 動 に 対 し て 交 互 作 用 が 生 ま れ て い る こ と が 確 認 さ れ た 。こ れ は あ
る 意 味 合 理 的 な 結 果 だ と 言 え よ う 。組 織 に 愛 着 が あ り ,な お か つ 組 織 に
多 大 な 犠 牲 を 払 っ て き た と 考 え る 個 人 は ,組 織 の 将 来 に つ い て も コ ミ ッ
ト し よ う と す る だ ろ う し ,組 織 に 愛 着 が あ り ,ま た 規 範 精 神 も 持 ち 合 わ
せている個人は自らを成長させる意欲や周りのためになる行動を起こ
そうとするだろう。
仮説 2 の分析結果を検証していくうちに生じた組織コミットメント
は 各 々 単 独 で 成 果 変 数 に 影 響 を 与 え る だ け で は な く ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン
トを掛け合わせたものも成果変数に影響を与える交互作用があるので
は な い か ,と い う 疑 問 は あ る 一 定 の 回 答 を 導 き 出 し た と 言 っ て よ い だ ろ
う。
66
表 24
成果要因 4 変数を従属変数とした階層的重回帰分析
組織を背負う意識
自己成長
Model 1
VIF
Model 2
VIF
Model 3
VIF
Model 1
性別
0.05
1.06
0.05
1.08
0.043
1.09
年齢
-0.20**
1.1
-0.22**
1.23
-0.34**
役職
0.155*
1.147
0.122* 1.187
0.148 2.022
情緒
VIF Model 2
VIF
Model 3
VIF
-0.02
1.06
-0.33
1.08
-0.05
1.09
1.23
-0.07
1.1
-0.1
1.23
-0.1
1.23
0.124*
1.187
0.08
1.15
0.048 1.187
0.049
1.187
0.174*
2.071
0.154 2.022
0.174*
2.048
1.91
-0.156*
1.948
0.012
1.91
-0.004
1.926
0.115 1.885
0.111
1.887
0.131 1.885
0.136
1.887
0.119*
1.047
0.129*
1.033
-0.133
功利
規範
情緒X功
利
情緒X規
範
R²
0.04**
0.08**
0.09**
0.01
0.07**
0.09**
ΔR²
0.05**
0.03*
0.01*
0.01
0.07**
0.02*
5.06
8.11
12.46
0.77
7.58
12.73
F
67
組織市民行動
リテンション
Model 1
VIF
Model 2
VIF
Model 3
VIF
Model 1
VIF Model 2
VIF
Model 3
VIF
性別
-0.09
1.06
-0.13*
1.08
-0.14*
1.09
0.15*
1.06
0.06
1.08
0.07
1.09
年齢
0.2**
1.1
0.09
1.23
0.09
1.23
0.11
1.1
-0.01
1.23
-0.02
1.23
役職
0.003
1.15
-0.02
1.19
-0.02
1.19
0.08
1.15
0.03
1.19
0.03
1.19
情緒
0.29**
2.02
0.31**
2.05
0.24**
2.02
0.23**
2.05
功利
0.21**
1.91
0.19**
1.93
0.43**
1.91
0.44**
1.93
規範
-0.05
1.89
-0.05
1.89
0.18**
1.89
0.18**
1.89
0.12*
1.03
情緒X功
利
情緒X規
範
R²
0.04**
0.2**
0.21**
0.06**
0.58**
0.58**
ΔR²
0.04**
0.16**
0.01*
0.06**
0.5**
0
4.09
22.97
27.79
5.65
126.33
129.39
F
*p<.05 **p<.01
68

仮説 3 の検証
最後にコミットメントプロファイルと,コミットメントプロファイ
ルを規定する要因の関係について探索的に調査を行う。
仮 説 3- 1
各 々 の コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル を 規 定 す る の は ,ど の よ う な 要 因 か 。
コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル を 規 定 す る 要 因 と し て ,本 研 究 で は ,企
業 が 掲 げ る 理 念 や 価 値 観 に 共 感 し て い る か し て い な い か ,ま た 企 業 運 営
を し て い く 中 で 様 々 な 制 度 を 構 築 ,運 用 し て い る が ,そ れ ら に つ い て 肯
定 的 に 認 知 し て い る か ,否 定 的 に 認 知 し て い る か ,ま た 或 い は 責 任 や 権
限 は 明 確 に な っ て い る か 否 か ,な ど を 挙 げ て い る 。い わ ば 企 業 が 経 営 を
し て い く 中 で 様 々 な 施 策 を 講 じ る が ,そ れ ら の 施 策 に つ い て ,そ の 企 業
に 属 す る 個 人 は ど の よ う に 認 知 し て い る か ,そ れ に よ っ て 組 織 コ ミ ッ ト
メ ン ト が 変 わ り ,ま た コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル も 変 わ っ て い く と 考
えている。
本 研 究 で は ,理 念 ・ 価 値 観 へ の 共 感 ,人 間 関 係 ,教 育 ・ 採 用 制 度 ,責
任 と 権 限 の 4 変 数 を 独 立 変 数 と し ,コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル を 従 属
変 数 と し ,二 項 ロ ジ ス テ ィ ッ ク 回 帰 分 析 を 実 施 し た 。二 項 ロ ジ ス テ ィ ッ
ク 回 帰 分 析 を 使 っ た 理 由 は ,従 属 変 数 で あ る コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ
ル が 質 的 デ ー タ で あ る の で ,通 常 の 重 回 帰 分 析 よ り も ロ ジ ス テ ィ ッ ク 回
帰 分 析 の 方 が 好 ま し い デ ー タ 分 析 手 法 だ か ら で あ る 。ま た 7 つ の コ ミ ッ
トメントプロファイルと規定要因とで二項ロジスティック回帰分析を
行ったが,統計上有意な影響があったものを検証していく。
各 々 検 証 す る 前 に ,コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル ご と の 規 定 要 因 の 平
均 値 を 比 較 し た 。 表 25 を 参 照 さ れ た い 。 平 均 値 を 比 較 し て , ま ず 分 か
ることはどのコミットメントプロファイルも人間関係は大きく変わら
な い と い う 点 で あ る 。こ れ は 人 間 関 係 の 善 し 悪 し は コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ
フ ァ イ ル を 規 定 し な い 可 能 性 が あ る こ と を 示 唆 し て い る 。次 に 高 関 与 型 ,
中 -高 関 与 型 と 情 緒 規 範 型 , 情 緒 型 と を 比 較 し て 分 か る こ と は 理 念 へ の
共感や責任と権限は大きく変わらないのに教育訓練制度は大きく違う
点 で あ る 。こ れ は 情 緒 型 の コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル を 持 つ 個 人 が 高
69
関与型のコミットメントプロファイルを持つには教育採用制度が鍵と
なる可能性を示唆している。
表 25
各クラスターと規定要因
4.50
4.00
3.50
理念
3.00
人間関係
2.50
教育採用制度
2.00
責任と権限
まず高関与型と 4 つの規定要因との二項ロジスティック回帰分析を
見 て い く 。結 果 は 以 下 の 表 を 参 照 さ れ た い 。高 関 与 型 に 対 し て ,理 念 と
教 育 採 用 制 度 の 規 定 要 因 は 1% 水 準 で 有 意 な プ ラ ス の 影 響 が あ り ,責 任
と 権 限 の 規 定 要 因 は 5% 水 準 で 有 意 な プ ラ ス の 影 響 が あ る 事 が 分 か っ た 。
人 間 関 係 の 良 さ は 統 計 上 有 意 な 影 響 は 見 出 せ ず ,ま た 高 関 与 型 に 対 し て
マイナスの影響がある事が分かった。
表 26
高関与型の 2 項ロジスティック回帰分析
高関与型
理念
B
Exp(B)
1.29**
3.62
-0.1
0.91
1.12**
3.26
責 任 と権 限
1.2*
3.3
-2 対 数 尤 度
121.3
χ²
59.65
Cox-Snell
0.182
人間関係
教育採用制
度
*p<.05 **p<.01
70
次に中‐高関与型と 4 つの規定要因との二項ロジスティック回帰分
析 の 結 果 を 見 て い く 。結 果 は 以 下 の 表 を 参 照 さ れ た い 。高 関 与 型 に 対 し
て , 教 育 採 用 制 度 の 規 定 要 因 は 5% 水 準 で 有 意 な プ ラ ス の 影 響 が あ る 。
理念は統計上有意な影響は見だせなかったが比較的大きなプラスの影
響 を 持 っ て お り ,人 間 関 係 は 若 干 の プ ラ ス ,責 任 と 権 限 は 若 干 の マ イ ナ
スの影響を持っている。
表 27
中 -高 関 与 型 の 2 項 ロ ジ ス テ ィ ッ ク 回 帰 分 析
中 -高 関 与 型
B
理念
0.35
1.42
人間関係
0.09
1.09
教育採用制度
0.59*
1.81
責 任 と権 限
-0.12
0.88
-2 対 数 尤 度
302.27
χ²
14.87
Cox-Snell
0.049
Exp(B)
*p<.05 **p<.01
次に低功利型と 4 つの規定要因との二項ロジスティック回帰分析の
結果を見ていく。結果は以下の表を参照されたい。低功利型に対して,
教 育 採 用 制 度 は 5% 水 準 の 有 意 な プ ラ ス の 影 響 が あ る 。理 念 ,人 間 関 係 ,
責 任 と 権 限 は ど れ も 統 計 上 有 意 な 影 響 は 無 い が ,全 て マ イ ナ ス の 影 響 が
ある事が分かった。
71
表 28
低功利型の 2 項ロジスティック回帰分析
低功利型
B
Exp(B)
理念
-0.15
0.99
人間関係
-0.12
0.89
0.5*
0.61
責 任 と権 限
-0.06
0.94
-2 対 数 尤 度
259.71
教育採用制
度
6.31
χ²
Cox-Snell
0.021
*p<.05 **p<.01
次に中関与型と 4 つの規定要因との二項ロジスティック回帰分析の
結果を見ていく。結果は以下の表を参照されたい。中関与型に対して,
理 念 は 5% 水 準 の 有 意 な マ イ ナ ス の 影 響 が あ る 。そ の 他 は ど れ も 統 計 上
有 意 な 影 響 は 無 い が ,人 間 関 係 は マ イ ナ ス の 影 響 が ,教 育 採 用 制 度 と 責
任と権限は若干のプラスの影響があることが分かった。
表 29
中関与型の 2 項ロジスティック回帰分析
中関与型
B
Exp(B)
理念
-0.6*
0.55
人間関係
-0.41
0.67
0.09
1.09
責 任 と権 限
0.12
1.13
-2 対 数 尤 度
215.89
教育採用制
度
χ²
Cox-Snell
7.42
0.025
*p<.05 **p<.01
72
最後に非関与型と 4 つの規定要因との二項ロジスティック回帰分析
の 結 果 を 見 て い く 。結 果 は 以 下 の 表 を 参 照 さ れ た い 。非 関 与 型 に 対 し て ,
理 念 と 教 育 採 用 制 度 は 1% 水 準 で , 責 任 と 権 限 は 5% 水 準 の 有 意 な マ イ
ナ ス の 影 響 が あ る 。人 間 関 係 も 統 計 上 有 意 な 影 響 は 無 い が ,マ イ ナ ス の
影響がある。
表 30
非関与型の 2 項ロジスティック回帰分析
非関与型
B
理念
-1.14**
0.321
-0.42
0.659
-1.09**
0.335
-0.75*
0.475
人間関係
Exp(B)
教育採用制
度
責 任 と権 限
-2 対 数 尤 度
127.26
χ²
53.697
Cox-Snell
0.165
*p<.05 **p<.01
第 4節
考察
本 節 で は 前 節 で 行 っ た 分 析 結 果 を 踏 ま え て ,こ の 結 果 を ど の よ う な 解 釈
が出来るのか検討していきたい。
ま ず 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を AC, CC, NC の 3 次 元 に 分 類 し , 7 つ の コ
ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル を 抽 出 し た 。7 つ の コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ
ル は 仮 説 に 基 づ い た ,高 関 与 型 ,情 緒 規 範 型 ,情 緒 型 ,中 関 与 型 ,非 関 与
型 の 5 つ と , 仮 説 で は 設 定 し て い な か っ た 中 -高 関 与 型 , 低 功 利 型 の 2 つ
で あ っ た 。既 存 研 究 で も 見 出 さ れ て い た 5 つ を ,事 業 が 軌 道 に 乗 っ た 歴 史
の あ る 日 本 企 業 に お い て 確 認 し た 点 に 加 え ,今 ま で 見 出 さ れ て い な か っ た
73
コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル を 抽 出 し た 点 は 意 義 が あ る だ ろ う 。新 た に 確
認 さ れ た 中 -高 関 与 型 と 低 功 利 型 も 合 理 的 な 存 在 理 由 が あ る と 考 え る 。中 高 関 与 型 に 関 し て , 高 関 与 型 や 中 関 与 型 が あ る な ら ば , 中 -高 関 与 型 も あ
り 得 る だ ろ う し ,低 功 利 型 に 関 し て は ,新 卒 社 員 な ど 年 齢 が 若 く ,社 歴 も
短い社員だと存在するはずである。
情 緒 功 利 型 ,功 利 規 範 型 ,規 範 型 ,功 利 型 が 抽 出 さ れ な か っ た の は ,今
回 調 査 し た 3 社 特 有 の も の な の か ,事 業 が 軌 道 に 乗 っ た 歴 史 の あ る 日 本 企
業 特 有 の も の な の か ,明 ら か で は な い 。今 後 の 研 究 が 必 要 で 明 ら か に さ れ
ることを望む。
今 回 の 調 査 結 果 と , 関 本 ・ 花 田 ( 1987) の 研 究 と を 比 較 す る こ と は ,
抽 出 し た 因 子 が 違 う の で ,単 純 に 比 較 す る こ と は 難 し い が ,同 じ 日 本 企 業
を 対 象 に し た 研 究 で あ る の で 確 認 し て お く 。結 果 と し て は 概 ね 近 い 結 果 が
出 た と 考 え ら れ る 。伝 統 型 は 情 緒 規 範 型 に 近 く ,企 業 従 属 型 は 情 緒 型 ,自
己 主 体 型 は 低 功 利 型 に 近 い 。 希 薄 型 は 非 関 与 型 と 同 じ で あ る 。 20 年 以 上
経 っ て も 近 い 結 果 が 出 た と い う こ と は 日 本 企 業 ,な か ん ず く 事 業 が 軌 道 に
乗った歴史のある企業において根本部分は大きく変わらないことを示唆
し て い る 。本 研 究 で は 抽 出 さ れ な か っ た 功 利 型 と ,関 本・花 田 の 研 究 で 抽
出 さ れ な か っ た 中 関 与 型 に つ い て ,な ぜ 抽 出 さ れ な か っ た の か 。中 関 与 型
に 関 し て ,単 に 中 関 与 型 の ク ラ ス タ ー が な か っ た と い う 解 釈 と ,中 関 与 型
は全てのコミットメントが中程度とプロファイルの特徴をつけることが
困難であったため意図的にクラスターを作らなかったという解釈が可能
で あ る が ,更 な る 研 究 が 必 要 で あ ろ う 。時 代 の 変 化 が 原 因 な の か ,組 織 構
造 の 違 い な の か ,或 い は そ の 他 の 要 因 な の か ,今 後 の 研 究 に よ っ て 明 ら か
にされることを望む。
ま た コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル の 割 合 を 企 業 別 に 分 析 を 行 っ た 。各 々
コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル の 割 合 は 違 っ た が ,高 い AC を 持 つ プ ロ フ ァ
イ ル の 割 合 が ど の 企 業 で も 多 か っ た 。こ れ は 事 業 が 軌 道 に 乗 っ た 歴 史 の あ
る 日 本 企 業 に お い て 高 い AC を 持 つ 個 人 が 多 い と い う こ と と ,同 じ よ う な
事業規模や構造を持っていても企業風土やマネジメント施策の違いによ
ってコミットメントプロファイルの割合が変わることを示唆している。
74
次に仮説 2 でコミットメントプロファイルと成果変数に関する仮説を
検 証 し た 。仮 説 2 を 検 証 し て い く う ち に ,あ る 現 象 が 確 認 さ れ た 。そ れ は
AC 単 独 の 成 果 と , AC と NC が 掛 け 合 わ せ た 成 果 が 違 う と い う 現 象 で あ
る 。具 体 的 に は ,情 緒 型 と 情 緒 規 範 型 を 比 較 す る と ,情 緒 規 範 型 の 組 織 を
背 負 う 意 識 は 高 ま る , と い う 現 象 が 確 認 さ れ た 。 こ れ は Gellatly et
al.(2006)の NC に は 陰 と 陽 の 二 面 性 が あ る の で は な い か と の 主 張 と 重 な
り 合 う 部 分 が あ る 。 す な わ ち AC と NC, AC と CC, CC と NC, 或 い は
AC, CC, NC が 掛 け 合 わ さ れ る と AC, CC, NC 各 々 単 独 で 生 み 出 さ れ
る成果とはまた違った成果を生み出すのでは無いかと言う新たな仮説が
生 じ た 。Gellatly ら の 研 究 で は ,純 粋 な コ ミ ッ ト メ ン ト の 方 が 高 い 成 果 を
生 み 出 す と 主 張 し た が ,本 研 究 で は コ ミ ッ ト メ ン ト 同 士 を 組 み 合 わ せ る 事
による交互作用が生まれるのではないかと言う逆の仮説を見出した。
実 際 に 交 互 作 用 を 検 証 し た と こ ろ , AC と CC を 掛 け 合 わ せ る と 組 織 を
背 負 う 意 識 が , AC と NC を 掛 け 合 わ せ る と 自 己 成 長 と 組 織 市 民 行 動 の 成
果 変 数 が 統 計 的 に 有 意 な 影 響 を 示 し た 。こ れ は 愛 着 の あ る 組 織 に 多 大 な 自
己 犠 牲 を 払 っ た 個 人 は ,そ の 組 織 の 未 来 に 対 し て も 深 く コ ミ ッ ト し ,組 織
に 対 し て 愛 着 も ,義 務 感 も あ る 個 人 が チ ー ム プ レ ー に 徹 し た り ,組 織 の た
め に も 自 分 の た め に も な る 成 長 を 求 め た り す る こ と を 表 わ し て お り ,合 理
的な因果関係だと言えよう。
これらの結果に合理性を感じると同時に新たな疑問も生じた。それは,
な ぜ AC と CC を 掛 け 合 わ せ た も の が 自 己 成 長 や OCB へ の 交 互 作 用 が 無
い の か ,ま た AC と NC を 掛 け 合 わ せ た も の が 組 織 を 背 負 う 意 識 へ の 交 互
作 用 が 無 い の か , と い う こ と で あ る 。 AC と CC に 関 し て 次 の よ う な 解 釈
も 可 能 で あ ろ う 。い く ら 組 織 へ の 愛 着 が あ り ,個 人 的 な 犠 牲 を 払 っ た と し
て も ,そ れ が 個 人 の 成 長 を 促 す も の に な ら な い だ ろ う し ,組 織 へ の 愛 着 が
強 け れ ば ,そ れ だ け で 組 織 へ の 貢 献 意 識 が 芽 生 え る で あ ろ う 。す な わ ち 自
己 成 長 に 関 し て は , AC と CC と の 直 接 的 な 関 係 が あ ま り な い 事 と , OCB
に 関 し て は ,単 独 の コ ミ ッ ト メ ン ト で 充 分 そ の 効 果 を 発 揮 し て お り ,交 互
作 用 は 働 か な い と 考 え ら れ る 。そ れ で は な ぜ AC と NC を 掛 け 合 わ せ て も ,
組 織 を 背 負 う 意 識 へ の 交 互 作 用 が 生 ま れ な い の だ ろ う か 。こ れ は ,情 緒 規
75
範 型 の プ ロ フ ァ イ ル を 持 つ 個 人 の 組 織 を 背 負 う 意 識 が ,情 緒 型 よ り も 高 い
こ と か ら ,規 範 型 の プ ロ フ ァ イ ル を 持 つ 個 人 も 高 い 組 織 を 背 負 う 意 識 を 持
つ と い う 仮 説 を 立 て る こ と が 出 来 よ う 。 す な わ ち AC, NC は 単 独 で 組 織
を 背 負 う 意 識 を 高 め る の で 交 互 作 用 が 生 ま れ な い と い う 解 釈 で あ る 。今 回
の 調 査 で は ,規 範 型 が 抽 出 さ れ な か っ た の で ,今 後 の 研 究 で 明 ら か に さ れ
ることを望む。
交 互 作 用 が あ る こ と が 確 認 さ れ た と い う こ と は ,単 独 の コ ミ ッ ト メ ン ト
を 高 め る よ り も ,複 数 の コ ミ ッ ト メ ン ト を 高 め る 施 策 を 講 じ る こ と に よ っ
て ,情 緒 型 を 情 緒 規 範 型 ,或 い は 高 関 与 型 へ 移 行 さ せ る こ と が 出 来 れ ば よ
り 良 い 成 果 を 生 み 出 し 得 る 個 人 を 増 や す 事 が 出 来 る は ず で あ る 。す な わ ち
コミットメントプロファイルを規定する要因を特定することが出来れば,
よ り 意 義 あ る 研 究 と な る 。コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル を 規 定 す る 要 因 と
し て 理 念 価 値 観 へ の 共 感 ,人 間 関 係 の 良 さ ,教 育 採 用 制 度 へ の 賛 同 ,責 任
と 権 限 の 明 確 さ の 4 変 数 組 み 入 れ た 。こ こ で は ,ま ず 最 も 高 い 成 果 を 生 み
出し得る高関与型と最も低い成果を生み出し得る非関与型を各々規定す
る要因を比較することとする。
表 31
高関与型と非関与型の 2 項ロジスティック回帰分析比較表
高関与型
理念
B
Exp(B)
非関与型
B
Exp(B)
1.29**
3.62
-1.14**
0.321
-0.1
0.91
-0.42
0.659
1.12**
3.26
-1.09**
0.335
責 任 と権 限
1.2*
3.3
-0.75*
0.475
-2 対 数 尤 度
121.3
127.26
χ²
59.65
53.697
Cox-Snell
0.182
0.165
人間関係
教育採用制
度
*p<.05 **p<.01
76
高関与型と非関与型を規定する要因を比較すると結果が正反対である
の が 明 確 と な っ た 。す な わ ち ,理 念 や 価 値 観 へ 共 感 す れ ば す る ほ ど ,教 育
採 用 制 度 に 賛 同 す れ ば す る ほ ど ,か な り 強 く 高 関 与 型 を 規 定 す る 。反 対 に
理 念 や 価 値 観 へ 反 発 す れ ば す る ほ ど ,ま た 教 育 採 用 制 度 に 賛 同 せ ず ,こ れ
ら の 制 度 が 効 果 無 し だ と 考 え て い れ ば い る ほ ど ,か な り 強 く 非 関 与 型 を 規
定 す る 。同 様 に ,責 任 と 権 限 が 明 確 で あ る と 感 じ て い れ ば い る ほ ど ,高 関
与 型 を 規 定 し ,責 任 と 権 限 が 曖 昧 で あ る と 感 じ て い れ ば い る ほ ど ,非 関 与
型を規定する。
この結果から,高関与型を規定しているのは,理念や価値観への共感,
教 育 採 用 制 度 へ の 賛 同 ,そ し て 責 任 と 権 限 の 明 確 さ で あ る こ と が 明 ら か に
な っ た 。で は な ぜ 理 念 や 価 値 観 へ の 共 感 ,教 育 採 用 制 度 へ の 賛 同 ,そ し て
責 任 と 権 限 の 明 確 さ の 数 値 が 高 く な る と ,好 ま し い コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ
ァ イ ル( 高 関 与 型 )を 規 定 す る の だ ろ う か 。ま ず 理 念 や 価 値 観 へ の 共 感 が
高 ま れ ば 高 ま る ほ ど ,そ の 企 業 へ 強 い 愛 着 が 芽 生 え ,情 緒 的 な コ ミ ッ ト メ
ン ト が 高 ま る こ と は 考 え ら れ る で あ ろ う 。ま た 能 力 の 低 い ぶ ら 下 が り 社 員
は 別 と し て ,責 任 や 権 限 が 明 確 に な れ ば 業 務 を 行 い や す く な る 。責 任 と 権
限の明確さを業務環境の改善の一策と捉えればコミットメント向上に繋
が る こ と も 合 理 的 で あ る と い え よ う 。そ れ で は な ぜ ,教 育 採 用 制 度 へ の 賛
同 が 高 関 与 型 を 規 定 す る の だ ろ う か 。非 関 与 型 と 情 緒 型 ,情 緒 型 と 高 関 与
型 を 比 較 す る と ,非 関 与 型 と 情 緒 型 で よ り 大 き く 違 う の は 理 念 や 価 値 観 へ
の 共 感 と 責 任 と 権 限 の 明 確 さ で ,情 緒 型 と 高 関 与 型 で よ り 大 き く 違 う の は
教 育 採 用 制 度 へ の 賛 同 で あ る 。こ の こ と か ら 組 織 に 愛 着 の あ る 情 緒 型 人 材
を高関与型人材へ移行させる鍵となるのが教育採用制度への賛同となる
の で ,重 要 な ポ イ ン ト で あ る 。こ れ に は 2 つ の 解 釈 が 可 能 で あ ろ う 。1 つ
目 は 企 業 を 自 ら の 成 長 に 繋 が る 場 だ と 認 知 し て い る と い う 解 釈 で あ る 。優
れ た 採 用 制 度 に よ っ て 優 秀 な 人 材 が 入 社 し て く れ ば ,優 秀 な 人 材 と 切 磋 琢
磨 す る こ と が 出 来 る 。ま た 教 育 制 度 が 効 果 的 で あ れ ば ,自 ら の 成 長 に も 繋
が る 。企 業 が 自 ら を 成 長 さ せ る 場 で あ る と 情 緒 型 の コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ
ァ イ ル を 持 つ 個 人 が 認 知 し た 時 ,高 関 与 型 の 人 材 に な る と い う 解 釈 が 出 来
る 。も う 1 つ は ,長 期 的 な 投 資 と い う 解 釈 で あ る 。採 用 に し て も 教 育 に し
77
て も 短 期 的 な リ タ ー ン は あ ま り 望 め な い 。し か し な が ら ,教 育 や 採 用 の 手
間 や コ ス ト を 減 ら す と ,企 業 体 力 が 低 下 し て し ま い 長 期 的 に は そ の 企 業 に
と っ て ダ メ ー ジ に な る 。採 用 や 教 育 は 長 期 的 な 視 点 で 見 れ ば 必 要 な 投 資 と
い う こ と に な る 。従 っ て ,所 属 し て い る 企 業 が 長 期 的 な 視 点 に 立 っ て 投 資
を行っていると情緒型のコミットメントプロファイルを持つ個人が認知
し た 時 ,高 関 与 型 の 人 材 に な る と い う 解 釈 が 出 来 る 。こ の 解 釈 が 正 し け れ
ば ,教 育 採 用 へ の 投 資 に 限 ら ず ,ビ ジ ョ ン や 長 期 戦 略 に 基 づ い た 長 期 的 な
投 資 を 所 属 し て い る 企 業 が 行 っ て い る と 認 知 す れ ば ,情 緒 型 の コ ミ ッ ト メ
ントプロファイルを持つ個人は高関与型人材と移行するはずである。
従 っ て ,企 業 が 高 関 与 型 人 材 を 育 成 し よ う と す る と ,ま ず 情 緒 型 人 材 を
創 り 出 さ な け れ ば な ら な い 。情 緒 型 人 材 を 創 り 出 す た め に は ,理 念 や 価 値
観 へ の 共 感 を 高 め ,責 任 と 権 限 を 明 確 に す る こ と が 必 要 で あ る 。そ し て 教
育 採 用 制 度 へ の 賛 同 を 高 め る 必 要 が あ る と い う こ と で あ る 。教 育 採 用 制 度
へ の 賛 同 を 高 め る に は ,自 己 成 長 で き る 場 と 認 知 し て も ら う ,或 い は 長 期
的な視野に基づいて投資を行っていると認知してもらう必要がある。
そ の 他 ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を 規 定 す る 要 因 に つ い て 特 筆 す べ き な の は ,
人間関係がいずれのコミットメントに対しても統計的に有意な影響をも
た ら さ な い と い う 結 果 で あ る 。 高 木 ( 2003) の 調 査 で は , 上 司 と の 人 間
関 係 が , AC の 下 位 尺 度 で あ る 内 在 化 要 素 と 愛 着 要 素 に 対 し 正 の 影 響 が ,
同 僚 と の 人 間 関 係 が 愛 着 要 素 に 正 の 影 響 ,存 続 的 要 素 の 負 の 影 響 が あ る と
い う 結 果 が 出 て い る 。な ぜ 今 回 こ の よ う な 結 果 が 出 た か と い う と ,あ ま り
に 人 間 関 係 が 悪 い と 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト に 対 し ,マ イ ナ ス の 影 響 が も た ら
す こ と が 推 察 さ れ る が ,あ る 一 定 レ ベ ル を 超 え る と 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト に
対し影響をもたらさないことが考えられる。
第 5節
小括
本 章 で は ,問 題 意 識 や 先 行 研 究 レ ビ ュ ー を 通 じ て 設 定 さ れ た 仮 説 を 検 証
す る た め に ,実 証 分 析 を 行 っ た 。仮 説 1 で は ,コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ
ル の 存 在 を 明 ら か に し ,仮 説 通 り ,高 関 与 型 ,情 緒 規 範 型 ,情 緒 型 ,中 関
78
与 型 ,非 関 与 型 が 抽 出 さ れ ,そ し て 仮 説 設 定 時 に 想 定 し て い な か っ た 中 ‐
高 関 与 型 と 低 功 利 型 が 抽 出 さ れ た 。仮 説 2 で は コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ
ル が も た ら す 成 果 に つ い て 明 ら か に し た 。ま た 仮 説 2 を 通 じ て ,組 織 コ ミ
ッ ト メ ン ト は 各 々 単 独 で 成 果 を も た ら す だ け で は な く ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン
ト同士を掛け合わせることにより新たな成果をもたらす交互作用が確認
さ れ , AC と CC を 掛 け 合 わ せ る と 組 織 を 背 負 う 意 識 が , AC と NC を 掛
け 合 わ せ る と 自 己 成 長 と 組 織 市 民 行 動 の 成 果 が 上 が る 事 が 分 か っ た 。そ し
て 仮 説 3 で は ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を 規 定 す る 要 因 に つ い て 明 ら か に し た 。
非 関 与 型 を 情 緒 型 へ 移 行 さ せ る に は ,理 念 や 価 値 観 へ の 共 感 ,そ し て 責 任
と 権 限 の 明 確 が 重 要 で あ り ,情 緒 型 を 高 関 与 型 へ 移 行 さ せ る た め に は ,教
育 採 用 制 度 へ の 賛 同 が 重 要 に な る 事 が 分 か っ た 。こ れ ら の 結 果 ,そ し て 結
果の解釈をもとに終章では本研究の意義をまとめる。
79
終章
要約と今後の課題
第 1節
要約と結論
本 研 究 の 目 的 は ,企 業 に と っ て 好 ま し い 成 果 を 生 み 出 し 得 る コ ミ ッ ト メ
ン ト プ ロ フ ァ イ ル の 存 在 を 明 ら か に し ,ま た そ の 好 ま し い コ ミ ッ ト メ ン ト
プ ロ フ ァ イ ル を 規 定 す る 要 因 を 探 る 事 で あ っ た 。ま た 個 人 に と っ て も 高 い
成 果 を 生 み 出 せ ば 企 業 に 評 価 さ れ ,良 い 待 遇 を 得 ら れ る の で ,本 研 究 の 目
的 を 達 成 す る よ う な ア ウ ト プ ッ ト を 生 み 出 す こ と が 出 来 れ ば ,企 業 と 個 人
に と っ て win-win 関 係 を 生 み 出 す も の だ と 考 え て い る 。 こ れ か ら 各 章 を
要約し,結論を述べる。
ま ず 序 章 で は ,筆 者 が 持 つ 問 題 意 識 か ら 導 か れ た 本 研 究 の 目 的 を 述 べ た 。
本 研 究 の 目 的 を 導 い た 問 題 意 識 は ,企 業 に お い て ,い き い き と 働 き ,高 い
成 果 を 出 す 社 員 と 低 い 成 果 し か 出 せ な い 社 員 の 違 い と は 一 体 何 な の か ,で
あ る 。こ の 問 題 意 識 か ら 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト ,或 い は コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ
フ ァ イ ル を 研 究 テ ー マ と し た 理 由 は ,個 人 が 持 つ 態 度 か ら 行 動 が 生 ま れ る
と す れ ば ,成 果 を 生 み 出 し 得 る コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル を 明 ら か に し ,
そ し て そ の コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル を 規 定 す る 要 因 を 見 出 せ れ ば ,高
い成果を生み出すコア人材育成について 1 つの示唆を与えられると考え
た か ら で あ る 。ま た 個 人 に と っ て も ,企 業 が 高 い 成 果 を 生 み 出 し 得 る 環 境
整 備 や 施 策 を 行 っ て く れ れ ば ,個 人 も 評 価 さ れ ,よ り 良 い 待 遇 が 得 ら れ る 。
よ っ て 本 研 究 の 目 的 が 達 成 で き れ ば 企 業 と 個 人 双 方 が win-win の 関 係 が
構 築 で き る と 考 え た 。こ の よ う な 問 題 意 識 か ら 研 究 目 的 を 導 き ,そ し て 3
つの研究課題を設定した。
第 1 に ,事 業 が 軌 道 に 乗 っ た 歴 史 の あ る 日 本 企 業 に お い て ,組 織 へ の 愛
着 か ら 生 じ る 情 緒 的 コ ミ ッ ト メ ン ト ,組 織 か ら 離 脱 す る と 自 ら が 損 を す る
のでその組織に留まり続けるという功利的な気持ちから生じる功利的コ
ミ ッ ト メ ン ト ,組 織 に 所 属 し て い る 限 り 組 織 に は コ ミ ッ ト す べ き だ と い う
規範から生じる規範的コミットメントの 3 つの組織コミットメントを複
眼 的 に 見 た 時 ,い く つ の コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル が 見 出 せ る だ ろ う か
( 研 究 課 題 1)
第 2 に ,そ れ ぞ れ の コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル に 想 定 さ れ る 成 果 に 違
80
い が あ る の で は な い だ ろ う か 。も し 違 い が あ れ ば ,ど の よ う な 違 い が あ る
の か ( 研 究 課 題 2)。
第 3 に ,そ れ ぞ れ の コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル を 規 定 す る 要 因 に 違 い
が あ る の で は な い だ ろ う か 。も し 違 い が あ れ ば ,ど の よ う な 違 い が あ る の
か ( 研 究 課 題 3)。
以上 3 つの研究課題を明らかにするために,第 1 章と第 2 章で先行研
究レビューを行った。
第 1 章 で は ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト の 概 念 に つ い て 先 行 研 究 レ ビ ュ ー を 実
施 し た 。組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト に 関 す る 研 究 は 半 世 紀 以 上 前 か ら 行 わ れ て お
り ,多 く の 研 究 者 が 様 々 な 研 究 を 通 じ て ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を 概 念 化 し
た 。そ の 中 に は 近 い 概 念 で あ る に も 関 わ ら ず 違 っ た 名 称 で 呼 ば れ た り ,近
い名称であるにも関わらず違った概念のものであったりいわばカオス状
態 で あ っ た 。 し か し な が ら 現 在 は , Bucker(1960)が 提 唱 し た side-bet 理
論 か ら 導 か れ た 「 功 利 的 コ ミ ッ ト メ ン ト 」 と Mowday et al.(1982)が 提 唱
し た 「 情 緒 的 コ ミ ッ ト メ ン ト 」, そ し て Allen & Meyer(1990)が 提 唱 し た
「 規 範 的 コ ミ ッ ト メ ン ト 」の 3 次 元 に 集 約 さ れ て い る 。情 緒 的 コ ミ ッ ト メ
ン ト の 下 位 尺 度 と し て ,価 値 に 共 鳴 し て い る コ ミ ッ ト メ ン ト と 組 織 へ の 愛
着 か ら 来 る コ ミ ッ ト メ ン ト の 2 つ が あ っ た り ,功 利 的 コ ミ ッ ト メ ン ト の 下
位 尺 度 と し て ,自 己 犠 牲 の 大 き さ か ら 来 る コ ミ ッ ト メ ン ト と 代 替 案 の 少 な
さ か ら 来 る コ ミ ッ ト メ ン ト の 2 つ が あ っ た り す る が ,大 き く 分 類 し て 情 緒
的コミットメント,功利的コミットメント,規範的コミットメントの 3
次元で組織コミットメントの概念は現在のところ体系化されつつあると
言えよう。
第 2 章 で は ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト の 理 論 モ デ ル と 本 研 究 の テ ー マ で あ る
コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル に 関 す る 先 行 研 究 レ ビ ュ ー を 実 施 し た 。組 織
コミットメントの理論モデルは組織コミットメントにおける代表的な研
究 者 で あ る Mowday et al.(1982)と Meyer & Allen(1997)の 研 究 を 取 り 上
げ た 。双 方 の 理 論 モ デ ル に お け る 基 本 構 造 は 同 じ で ,何 ら か の 先 行 要 因 が
組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を 規 定 し ,先 行 要 因 に 規 定 さ れ た 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト
が 何 ら か の 成 果 を も た ら す 構 造 と な っ て い る 。Meyer & Allen の モ デ ル は
81
Mowday ら の モ デ ル と 比 較 し て よ り 精 微 化 さ れ て お り ,先 行 要 因 を 組 織 の
構 造 や 規 模 , HRM や 外 部 環 境 な ど 個 人 が 変 え ら れ な い も の と , 個 人 が 感
じ る 心 理 的 な 要 因 に 分 け て い た り ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を 単 次 元 で は な く ,
3 次 元 で 測 っ て い た り す る 。こ の Meyer & Allen の 理 論 モ デ ル が 出 来 た か
ら こ そ ,コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル に 関 す る 研 究 が 行 え る 素 地 が 出 来 た
といえよう。
組織コミットメント理論モデルに関する先行研究レビューを行った後,
コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル に 関 す る 先 行 研 究 レ ビ ュ ー を 実 施 し た 。そ れ
ま で は 情 緒 的 コ ミ ッ ト メ ン ト が 高 け れ ば ど の よ う な 成 果 が あ る の か ,功 利
的コミットメントが高ければどのような成果があるのかといった単次元
で 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト と 成 果 に 関 す る 影 響 度 合 い を 研 究 し て き た 。コ ミ ッ
ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル で は ,情 緒 的 コ ミ ッ ト メ ン ト だ け が 高 い 場 合 と 情 緒
的 コ ミ ッ ト メ ン ト と 功 利 的 コ ミ ッ ト メ ン ト が 高 い 場 合 ,或 い は 情 緒 的 コ ミ
ットメントと規範的コミットメントが高い場合を比較して成果に対する
影 響 度 合 い を 測 る こ と が 出 来 る 。コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル に 関 す る 先
行 研 究 で は 大 き く 分 け て 2 つ の 研 究 を レ ビ ュ ー し た 。 1 つ は 関 本 ・花 田
( 1987)の 研 究 で あ る 。関 本 ・花 田 は OCQ を ベ ー ス に 独 自 の 尺 度 を 開 発
し た 。ア プ リ オ リ に 6 つ の 尺 度 を 開 発 し た が ,実 証 研 究 の 結 果 4 つ の 因 子
を 抽 出 し た 。更 に 4 つ の 因 子 を ク ラ ス タ ー 分 析 し ,5 つ の ク ラ ス タ ー を 見
出 し た 。そ の 5 つ の ク ラ ス タ ー と そ の ク ラ ス タ ー を 規 定 す る 要 因 の 関 係 に
つ い て 研 究 を 行 っ た 。日 本 に お け る コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル に 関 す る
研 究 が 少 な い 中 , 20 年 以 上 前 に こ の よ う な 研 究 が 行 わ れ て い た 事 実 は ,
日本のコミットメントプロファイル研究にとって大きな道標となるだろ
う 。 実 際 , 鈴 木 ( 2009) は 関 本 ・ 花 田 の 研 究 と の 比 較 を 行 っ て い る 。
も う 1 つ の 先 行 研 究 は , Meyer & Herscovich(2001)の 研 究 と , そ の 研
究 を 基 に 実 証 分 析 を 行 っ た 研 究 で あ る 。 本 研 究 で は , Wasti(2005)と
Gellatly et al.(2006)を 取 り 上 げ た 。 い ず れ の 研 究 も Meyer &
Herscovich(2001)の 研 究 を 基 に ,コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル と 成 果 変 数
と の 関 係 に つ い て 研 究 し て い る 。こ の 3 つ の 研 究 で ,特 筆 す べ き 点 は ,規
範 的 コ ミ ッ ト メ ン ト に は 陰 と 陽 の 二 面 性 が あ る と Gellatly ら が 主 張 し た
82
ことだろう。この主張は本研究にも影響を与えた。
第 3 章 で は ,先 行 研 究 レ ビ ュ ー を 基 に ,仮 説 の 設 定 を 行 っ た 。ま た 仮 説
設 定 の 前 に ,本 研 究 の 理 論 モ デ ル を 提 示 し た 。詳 細 は 第 3 章 に 触 れ て い る
の で ,こ こ で は 仮 説 の 概 要 を 説 明 し ,理 論 モ デ ル を 再 度 掲 載 す る こ と に 留
めておく。
仮 説 1 で は ,9 つ の 作 業 仮 説 に 分 か れ て お り ,コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ
イ ル の 存 在 に 関 し て 仮 説 を 立 て た 。全 て の 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト が 高 い 高 関
与 型 ,AC と NC が 高 い 情 緒 規 範 型 ,AC と CC が 高 い 情 緒 功 利 型 ,AC だ
け が 高 い 情 緒 型 , NC と CC が 高 い 功 利 規 範 型 , NC だ け が 高 い 規 範 型 ,
CC だ け が 高 い 功 利 型 , 全 て の 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト が 低 い 非 関 与 型 , そ し
て全ての組織コミットメントが中程度の中関与型の 9 つのコミットメン
トプロファイルがあるという仮説を仮説 1 では立てた。
仮 説 2 で は ,4 つ の 作 業 仮 説 に 分 か れ て お り ,コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ
イ ル と 成 果 変 数 に つ い て の 関 係 に つ い て ,仮 説 を 立 て た 。ま ず 高 関 与 型 の
コミットメントプロファイルが最も高い成果を生み出し得るとの仮説を
立 て た 。2 点 目 は 情 緒 功 利 型 が 高 関 与 型 の 次 に 変 革 に 対 し て 高 い 成 果 を 生
み 出 し 得 る と 考 え ,情 緒 功 利 型 が 高 関 与 型 を 除 き ,組 織 を 背 負 う 意 識 が 最
も 高 い と 仮 説 を 立 て た 。3 点 目 は ,Gellatly ら が 主 張 し た NC の 2 面 性 に
注 目 し ,功 利 規 範 型 は 非 関 与 型 を 除 き ,組 織 を 背 負 う 意 識 が 最 も 低 い と の
仮 説 を 立 て た 。4 点 目 は ,Gellatly ら の 実 証 結 果 を 確 認 す る た め に ,情 緒
型のリテンションが高関与型を除き,最も高いとの仮説を立てた。
仮 説 3 で は 探 索 的 に ,コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル と コ ミ ッ ト メ ン ト プ
ロファイルを規定している要因について調査した。
83
表 32
コミットメントプロファイル理論モデル
規定要因
先行変数
プロセス(認知)
84
コミットメント
成果変数
コミットメント(態度)
行動意欲
第 4 章 で は ,第 3 章 で 設 定 し た 仮 説 を 検 証 す る 調 査 対 象 と 調 査 方 法 に つ
いて述べている。調査対象は事業が軌道に乗った歴史のある日本企業 3
社 で 実 施 し た 。調 査 方 法 は ,定 量 的 方 法 が 取 ら れ ,質 問 紙 を 配 布 し た 。質
問 紙 は 大 き く 分 け て 3 つ に 分 か れ ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を 聞 く パ ー ト ,成
果 変 数 に つ い て 聞 く パ ー ト ,そ し て 規 定 要 因 に つ い て 聞 く パ ー ト で 構 成 さ
れている。質問票の詳細は巻末に添付しているので参照されたい。
第 5 章 で は ,仮 説 を 検 証 す る た め に 実 証 分 析 が 行 わ れ た 。ま ず 本 研 究 実
証 分 析 の 礎 と な る コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル を 抽 出 す る た め に ,仮 説 1
- 1 か ら 仮 説 1- 9 ま で を 検 証 し た 。 そ の 結 果 , 仮 説 1- 1( 高 関 与 型 ),
仮 説 1- 2( 情 緒 規 範 型 ), 仮 説 1- 4( 情 緒 型 ), 仮 説 1- 8( 非 関 与 型 ),
仮 説 1- 9( 中 関 与 型 ) が 支 持 さ れ , 仮 説 1- 3( 情 緒 功 利 型 ), 仮 説 1- 5
( 功 利 規 範 型 ),仮 説 1- 6( 規 範 型 ),仮 説 1- 7( 功 利 型 )が 棄 却 さ れ た 。
ま た 仮 説 設 定 時 に は 想 定 し て い な か っ た , 中 -高 関 与 型 と 低 功 利 型 が 抽 出
さ れ た 。こ れ に よ り 事 業 が 軌 道 に 乗 っ た 歴 史 の あ る 日 本 企 業 に お い て コ ミ
ットメントプロファイルの存在が明らかになった。
次 に ,コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル と 成 果 変 数 と の 関 係 を 検 証 し た 。仮
説 2- 1 に 関 し て , 全 て の 成 果 変 数 に お い て 統 計 的 な 有 意 差 は 見 出 せ な か
っ た が ,概 ね 支 持 さ れ た と 言 っ て も 良 い だ ろ う 。こ れ は 全 て の コ ミ ッ ト メ
ントが高い高関与型は他のプロファイルに比べて高い成果を生み出すこ
とを証明した。
高関与型の次に高い成果を生み出すと想定していた情緒規範型の成果
を 検 証 す る た め に 仮 説 2- 2 を 設 定 し た 。 仮 説 2- 2 で は , 情 緒 規 範 型 の
個 人 は 高 い 組 織 を 背 負 う 意 識 を 持 っ て い る と 想 定 し て い た 。こ れ は 統 計 上
の 有 意 差 は 認 め ら れ な か っ た も の の ,数 値 上 高 関 与 型 を 除 き 最 も 高 い 数 値
であったので,部分的に支持されたといえよう。
Gellatly ら が 主 張 し た 純 粋 な AC が も た ら す 成 果 を 検 証 す る た め に 仮 説
2- 4 を 設 定 し た 。 結 果 は , 低 功 利 型 , 非 関 与 型 , 中 関 与 型 し か 統 計 的 な
有 意 差 を 見 出 せ ず ,ま た 情 緒 規 範 型 の 方 が 高 い 数 値 を 示 し た の で ,仮 説 2
- 4 は 棄 却 さ れ た 。本 研 究 で は ,純 粋 な コ ミ ッ ト メ ン ト を 持 つ プ ロ フ ァ イ
ルよりもコミットメントを掛け合わせた方がより良い成果が出ることが
85
確 認 さ れ て い る 。コ ミ ッ ト メ ン ト を 掛 け 合 わ せ る こ と に よ る 交 互 作 用 が あ
りそうだという仮説がより強く成り立ってきている。
こ の 後 ,仮 説 2 を 検 証 し て い く 内 に 生 じ た ,コ ミ ッ ト メ ン ト 同 士 を 掛 け
合 わ せ る と ,コ ミ ッ ト メ ン ト 単 独 で 得 ら れ る 成 果 と 違 っ た 成 果 が 得 ら れ る
の で は な い か と い う 仮 説 を 探 索 的 に 検 証 し た 。結 果 は AC と CC を 掛 け 合
わ せ る と 組 織 を 背 負 う 意 識 の 成 果 変 数 が 高 ま り , AC と NC を 掛 け 合 わ せ
る と 自 己 成 長 と 組 織 市 民 行 動 の 成 果 変 数 が 高 ま る 事 が 確 認 さ れ た 。こ れ は
組 織 を 背 負 う 意 識 を 高 め る た め に は , AC と CC を 高 め る 施 策 が , 自 己 成
長 や 組 織 市 民 行 動 を 高 め る た め に は AC と NC を 高 め る 施 策 が 必 要 で あ る
ことを示唆している。
最 後 に ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を 規 定 す る 要 因 に つ い て の 仮 説 を 検 証 す る 。
仮 説 3- 1 を 検 証 し た 結 果 , 高 関 与 型 に 対 し て , 理 念 や 価 値 観 へ の 共 感 や
教 育 採 用 制 へ の 賛 同 が 1% 水 準 で 正 の 影 響 が , 責 任 と 権 限 の 明 確 さ が 5%
水 準 で 正 の 影 響 が あ り ,非 関 与 型 に 対 し て ,理 念 や 価 値 観 へ の 反 感 や 教 育
採 用 制 度 へ の 不 満 が 1% 水 準 で 正 の 影 響 が , 責 任 と 権 限 の 不 明 確 さ が 5%
水準で正の影響があることが分かった。
ま た 非 関 与 型 と 情 緒 型 ,情 緒 型 と 高 関 与 型 を 比 較 す る と ,非 関 与 型 と 情
緒 型 で 大 き く 違 う の は 理 念 や 価 値 観 へ の 共 感 と 責 任 と 権 限 の 明 確 さ で ,情
緒 型 と 高 関 与 型 で 大 き く 違 う の は 教 育 採 用 制 度 へ の 賛 同 で あ る 。こ の こ と
か ら 解 釈 で き る の は ,組 織 に と っ て コ ア 人 材 で あ る 高 関 与 型 を 育 成 す る た
め に は ,必 要 条 件 と し て ま ず 理 念 や 価 値 観 へ の 共 感 を 高 め ,責 任 と 権 限 を
明 確 に し ,情 緒 型 の 人 材 を 育 成 す る 。そ の 上 で 高 関 与 型 に 移 行 さ せ る た め ,
充分条件として教育採用制度の運用に対して効果的であると感じてもら
う よ う な 施 策 を 講 じ る 必 要 が あ る と い う こ と で あ る 。そ の た め に は ,教 育
採用制度が自らの成長に繋がると実感してもらうことと企業が長期的な
視野で投資を行っていることを認知してもらうことの施策を講じなけれ
ばならない。
86
以上を踏まえて,本研究の結論を 3 点にまとめたい。
(1)
コミットメントプロファイルの存在
事業が軌道に乗った歴史のある日本企業において 7 つのプロフ
ァ イ ル が 存 在 し た と い う 点 が ,本 研 究 に お け る 第 1 の 結 論 で あ る 。
7 つ の プ ロ フ ァ イ ル の う ち , 関 本 ・ 花 田 ( 1987) で は 見 出 さ れ な
かった中関与型と,今までの先行研究でほとんど明らかになって
い な か っ た 中 -高 関 与 型 と 低 功 利 型 の 存 在 が 確 認 さ れ た 。関 本・花
田 ( 1987) が 中 関 与 型 を 見 出 さ な か っ た 理 由 は , 単 に 中 関 与 型 の
クラスターがなかったという解釈と,中関与型は全てのコミット
メントが中程度とプロファイルの特徴をつけることが困難であっ
たため意図的にクラスターを作らなかったという解釈が可能であ
ろ う 。ま た 中 -高 関 与 型 に 関 し て ,高 関 与 型 や 中 関 与 型 が あ る な ら
ば ,中 -高 関 与 型 も あ り 得 る だ ろ う し ,低 功 利 型 に 関 し て は ,新 卒
社 員 な ど 年 齢 が 若 く ,社 歴 も 短 い 社 員 だ と 合 理 性 が あ る と 考 え る 。
(2)
成果変数に影響を与える組織コミットメント間の交互作用
プロファイルごとにもたらし得る成果に違いがあることが確認
された。またコミットメントごとを掛け合わせることによって,
コミットメント単独で得られる成果とは違った成果が得られる,
すなわち交互作用の効果が確認されたことが本研究における第 2
の 結 論 で あ る 。 こ れ は 純 粋 な AC 或 い は 純 粋 な CC を 持 つ 個 人 よ
り も よ り も AC と CC 双 方 高 い コ ミ ッ ト メ ン ト を 持 つ 個 人 の 方 が
高 い 組 織 を 背 負 う 意 識 を 持 ち , 純 粋 な AC 或 い は 純 粋 な NC を 持
つ 個 人 よ り も AC と NC 双 方 高 い コ ミ ッ ト メ ン ト を 持 つ 個 人 の 方
が高い自己成長意欲や組織市民行動への意欲を持つことを意味し
て い る 。AC と CC の 交 互 作 用 が 生 ま れ る の は ,組 織 に 愛 着 が あ り ,
また組織に多大な犠牲を払ってきたと考える個人は,その組織の
将来にも深く関わっていこうとするためだと考えられる。そして
AC と NC の 交 互 作 用 が 生 ま れ る の は ,組 織 に 愛 着 が あ り ,ま た 組
織に対して貢献しなければならないという義務感を持つ個人は,
87
間接的に組織の成長に繋がる自己成長を求め,周りのためになる
ような献身的な行動を起こすと考えられる。また最も高い成果を
もたらし得るコミットメントプロファイルは,全てのコミットメ
ントが高い高関与型であることが分かった。
(3)
コミットメントプロファイルを規定する要因
理念,価値観への共感や教育採用制度に賛同し,責任と権限が
明確になればなるほど,高関与型を強く規定し,理念,価値観へ
の反感や教育採用制度に不満を持ち,責任と権限が不明確であれ
ばあるほど,非関与型を強く規定する。人間関係はあらゆるコミ
ットメントプロファイルを規定しない。非関与型のコミットメン
トを持つ個人が情緒型に移行するためには,理念,価値観への共
感や責任と権限の明確さが必要で,情緒型から高関与型に移行す
るためには,それらに加えて教育採用制度が効果的に運用されて
いると認知させる必要がある。教育採用制度が効果的に運用され
ていると認知してもらうためには,教育制度や採用制度が本人に
とって役立つものだと感じてもらい,所属している企業が個人に
とって成長の場であると認知させることと,企業が長期的な投資
を行っていると認知させることが重要である。これが本研究の第
3 の結論である。
第 2節
本研究の含意
本 節 で は ,本 研 究 に お け る 含 意 を 理 論 的 含 意 と 実 践 的 含 意 の 2 つ に 分 け
て 述 べ て い く 。本 研 究 は ,組 織 行 動 論 に お け る 一 部 の 研 究 テ ー マ で あ る 組
織 コ ミ ッ ト メ ン ト に 関 す る も の で ,更 に 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト 研 究 の 一 部 で
あるコミットメントプロファイルに関する研究で組織行動論或いは組織
コ ミ ッ ト メ ン ト そ の も の に 与 え る 影 響 は 大 き く な い か も 知 れ な い 。し か し
な が ら ,こ れ ま で 日 本 企 業 に お い て あ ま り 研 究 さ れ て こ な か っ た コ ミ ッ ト
メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル に 焦 点 を 当 て た 本 研 究 は ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト 研 究 に
おいて小さいながらも新たな道標になると確信している。
88
1. 理 論 的 含 意
(1) コミットメントプロファイルの存在
こ れ ま で 日 本 企 業 を 対 象 に し た 研 究 で ,明 確 に コ ミ ッ ト メ ン
トプロファイルの存在を明らかにしようとした研究は少なか
っ た 。そ の 中 で 7 つ の プ ロ フ ァ イ ル を 抽 出 で き た 点 は ,日 本 に
おけるコミットメントプロファイル研究に 1 つの示唆を与え
る こ と に な る と 考 え る 。更 に ,関 本 ・ 花 田( 1987)で は ,抽 出
さ れ な か っ た 中 関 与 型 が 日 本 企 業 に お い て ,存 在 が 明 ら か に な
ったこと,そして今までの先行研究では見出されなかった中高関与型と低功利型の存在を明らかにしたことはこれからの
コミットメントプロファイル研究において意義あるものにな
ると考えている。
(2) 成果変数に影響を与える組織コミットメント間の交互作用
従 来 の 研 究 で は ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト の 概 念 と し て は 多 次 元
で 研 究 さ れ て い た も の の ,組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト が も た ら し 得 る
成 果 に 関 し て は 単 次 元 で 測 ら れ る 研 究 が 大 半 で あ っ た 。ま た 田
尾( 1997)の よ う な コ ミ ッ ト メ ン ト に 好 意 的 な 意 見 と ,コ ミ ッ
ト メ ン ト を 高 め す ぎ る と 革 新 性 が 阻 害 さ れ る の で ,コ ミ ッ ト メ
ン ト に 否 定 的 な 意 見( 例 え ば 松 山 ,2005)の 2 元 論 で 論 じ ら れ
る こ と が 多 か っ た 。し か し 本 研 究 で は ,そ の 2 元 論 か ら 脱 却 し ,
最 適 な コ ミ ッ ト メ ン ト の 割 合 ,す な わ ち 好 ま し い コ ミ ッ ト メ ン
ト プ ロ フ ァ イ ル を 明 ら か に し た 。そ し て そ の 中 で コ ミ ッ ト メ ン
ト プ ロ フ ァ イ ル ご と に 与 え る 成 果 の 違 い を 明 ら か に し ,ま た 組
織コミットメントを掛け合わせることによって得られる交互
作 用 も 確 認 出 来 た こ と は 大 き な 理 論 的 含 意 だ と 考 え る 。こ れ は
Gellatly ら が 投 げ か け た NC に は 二 面 性 が あ る の で は な い か ,
という問いの答えの 1 つになり得ると考えている。
89
(3) コミットメントプロファイルを規定する要因
こ れ ま で 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を 規 定 す る 要 因 と し て ,構 造 的
な 要 因 や 性 別 や 年 齢 ,勤 続 年 数 ,役 職 の 有 無 を 挙 げ ら れ て い た 。
し か し 本 研 究 は 企 業 が 日 々 マ ネ ジ メ ン ト を 行 い ,そ の マ ネ ジ メ
ン ト 施 策 を 個 人 が ど の よ う に 判 断 ,認 知 し て い る か そ の 心 理 状
態 を 規 定 要 因 に 組 み 入 れ た 。個 人 の 心 理 が ,態 度 を 表 わ す 組 織
コ ミ ッ ト メ ン ト に ど の よ う な 影 響 を 与 え ,そ の 組 織 コ ミ ッ ト メ
ン ト が ど の よ う な 成 果 を も た ら し 得 る か ,総 合 的 に 捉 え た 本 研
究 は 理 論 的 な 含 意 を も た ら し た と 考 え て い る 。ま た 実 際 ,個 人
の認知が組織コミットメントやコミットメントプロファイル
を規定していることが確認された。
2. 実 践 的 含 意
実践的な含意を述べるために,本研究の問題意識に立ち戻りたい。
本 研 究 の 問 題 意 識 は ,組 織 に お い て ,い き い き と 働 き ,高 い 成 果 を 出
す 社 員 と ,や り が い を 見 出 せ ず ,ひ た す ら 定 時 退 社 の 時 間 に な る の を
待 っ て い る 低 い 成 果 し か 出 せ な い 社 員 と の 違 い は 何 か ,で あ る 。高 い
成果を生み出し得る好ましいコミットメントプロファイルの存在を
明 ら か に し ,そ の コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル を 規 定 す る 要 因 を 明 ら
か に す る こ と が 出 来 れ ば ,企 業 経 営 者 や 管 理 者 に と っ て コ ア 人 材 を 育
成 す る 1 つ の ヒ ン ト と な る だ ろ う 。本 研 究 で は ,高 関 与 型 を 最 も 強 く
規 定 す る 要 因 は ,理 念・価 値 観 へ の 共 感 と 教 育 採 用 制 度 へ の 賛 同 で あ
り ,責 任 と 権 限 の 明 確 さ も 高 関 与 型 を 規 定 す る ,と い う 結 論 を 得 て い
る 。こ こ で は ,理 念 ・ 価 値 観 へ の 共 感 ,教 育 採 用 制 度 へ の 賛 同 ,責 任
と権限の 3 つの視点で実践的含意を述べる。
ま ず 理 念・価 値 観 へ の 共 感 に つ い て 実 践 的 含 意 を 述 べ る 。理 念 や 社
是 と い う も の を ,「 古 く さ い も の 」 と 捉 え , 横 文 字 の 並 ん だ よ く 意 味
の 分 か ら な い ビ ジ ョ ン を 掲 げ る 企 業 が 散 見 さ れ る 。筆 者 は ビ ジ ョ ン の
重要性そのものを否定しないが,ビジョンを策定するためには現在,
90
そ し て 過 去 を し っ か り と 振 り 返 る 必 要 が あ ろ う 。ま た 企 業 の 社 会 的 な
意 義 は 何 な の か ,創 業 者 は ど の よ う な 想 い で こ の 企 業 を 設 立 し た の か ,
という企業にとって根本的な価値観や存在理由を企業に属する個人
一 人 一 人 が 共 有 す れ ば ,大 き な 拠 り 所 と な ろ う 。大 き な 拠 り 所 が 個 人
に 安 心 感 を も た ら す 。理 念 や 価 値 観 を 共 有 ,浸 透 さ せ る 方 法 は 企 業 に
よ っ て 様 々 で あ ろ う 。例 え ば ,リ ッ ツ カ ー ル ト ン の ワ オ ス ト ー リ ー は
優 れ た 方 法 で あ る と い え よ う 。リ ッ ツ カ ー ル ト ン で は ク レ ド に リ ッ ツ
カ ー ル ト ン が 大 切 に し て い る 価 値 観 を 記 し て い る 。ワ オ ス ト ー リ ー は ,
そ の 価 値 観 を 実 際 に 体 現 し た 社 員 の 物 語 を 文 章 化 し た も の で あ る 。一
見 無 味 乾 燥 な 価 値 観 が ,リ ッ ツ カ ー ル ト ン に 所 属 し て い る 社 員 が 実 際
に 行 動 し た 物 語 を 共 有 す る こ と に よ っ て ,躍 動 感 あ ふ れ る 現 実 的 な も
の と し て 受 け 入 れ ら れ る の で あ る 。多 く の 企 業 で も ,伝 説 や 武 勇 伝 と
し て 語 り 継 が れ て い る 物 語 が あ る だ ろ う 。そ れ ら と 企 業 の 理 念 や 価 値
観と融合させる試みが必要となるだろう。
次 に 教 育 採 用 制 度 へ の 賛 同 に つ い て 実 践 的 含 意 を 述 べ る 。教 育 の 必
要 性 や 採 用 の 重 要 性 を 今 更 論 じ る 必 要 は な い だ ろ う 。し か し ,経 営 概
況が悪くなると,まず採用人数が抑制され,教育費用が削減される。
こ れ は 多 く の 企 業 で 実 際 に 行 わ れ て い る 。な ぜ ,教 育 の 必 要 性 や 採 用
の 重 要 性 を 皆 が 認 識 し て い る に も 関 わ ら ず ,削 減 さ れ る の か 。そ れ は
短 期 的 な リ タ ー ン に 繋 が ら な い か ら で あ る 。企 業 は 株 主 に リ タ ー ン す
る た め に 利 益 を 生 み 出 さ な け れ ば な ら な い 。従 っ て ,経 営 概 況 が 悪 く
な り ,利 益 が 減 少 し た 時 ,短 期 的 な リ タ ー ン に 繋 が ら な い 教 育・採 用
費 用 が 削 減 さ れ る の で あ る 。こ こ で 問 い た い の は ,利 益 の 概 念 と 企 業
の存在理由である。利益とは単年度で測れば良いものなのだろうか。
筆 者 は そ う で は 無 い と 考 え て い る 。企 業 は 利 益 を 生 み 出 さ な け れ ば な
ら な い が ,長 期 間 に 渡 っ て 生 み 出 さ な け れ ば な ら な い 。長 期 間 に 渡 っ
て 利 益 を 生 み 出 す と い う こ と は ,長 期 間 に 渡 っ て ,社 会 か ら 必 要 と さ
れ て い る こ と に な る 。社 会 か ら 必 要 と さ れ て い る と い う こ と は ,社 会
にとって有益な付加価値をその企業が提供し続けていることに繋が
る 。企 業 の ゴ ー イ ン グ コ ン サ ー ン を 考 え た と き ,継 続 的 に 付 加 価 値 を
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提 供 す る 必 要 が あ り ,継 続 的 に 付 加 価 値 を 提 供 す る た め に は ,単 年 度
の 利 益 を 追 い 求 め る の で は な く ,長 期 的 な 視 点 に 立 っ た 投 資 が 必 要 で
あ る 。前 述 し た と お り ,教 育 採 用 制 度 へ の 賛 同 は ,自 己 成 長 の 場 を 提
供 し て く れ て い る と 個 人 が 認 知 し て い る と い う 解 釈 と ,企 業 が 長 期 的
な視点に立って投資をしていると個人が認知しているという解釈が
出 来 る 。企 業 活 動 を 永 続 的 に 行 う た め ,長 期 的 な 視 野 に 立 ち ,人 材 育
成も含めた投資を行うことが重要である。
最 後 に ,責 任 と 権 限 の 明 確 化 に つ い て 実 践 的 含 意 を 述 べ る 。責 任 と
権 限 の 明 確 化 は ,上 記 2 点 と 比 較 し て 実 行 し や す い だ ろ う 。し か し な
が ら 日 本 企 業 は 伝 統 的 に 職 能 主 義 で あ り ,責 任 と 権 限 を 徹 底 的 に 明 確
化 し , 職 務 主 義 に 移 行 す る こ と は 混 乱 が 予 想 さ れ る 。 平 野 ( 2006)
も ,日 本 型 人 事 管 理 の 進 化 型 は ,伝 統 的 な 日 本 型 人 事 管 理 に ア メ リ カ
型 の 人 事 管 理 の 特 性 を 取 り 入 れ た も の に な る が ,ア メ リ カ 型 人 事 管 理
に は 完 全 に 移 行 し な い と 述 べ て い る 。役 割 等 級 制 度 の 導 入 や ,エ ン パ
ワ ー メ ン ト の 推 進 な ど ,企 業 の 方 向 性 と し て 責 任 と 権 限 を 明 確 に し て
いくことが重要である。
第 3節
残された課題
本 研 究 で は ,先 行 研 究 レ ビ ュ ー に 基 づ く 仮 説 の 設 定 を 行 い ,仮 説 を 検 証
す る た め に 質 問 紙 に よ る サ ー ベ イ 調 査 を 実 施 す る こ と に よ り ,組 織 に と っ
て好ましい成果を生み出し得るコミットメントプロファイルの存在を確
認し,またそのコミットメントプロファイルを規定する要因を探求した。
し か し な が ら ,本 研 究 で 掲 げ た 研 究 課 題 を 100% 明 ら か に し た と は 言 え な
い 。日 本 に お け る コ ミ ッ ト メ ン ト プ ロ フ ァ イ ル 研 究 に 関 す る 今 後 の 研 究 課
題を提示し,本研究を締めくくりたい。
ま ず 本 研 究 で 明 ら か に さ れ た 結 果 に 関 し ,更 に 調 査 を 進 め る こ と に よ っ
て 検 証 す る 必 要 が あ る 。例 え ば 本 研 究 の リ サ ー チ サ イ ト は ,組 織 構 造 が 近
い 企 業 で あ っ た 。も し 組 織 構 造 が 大 き く 違 う 企 業 を 対 象 に サ ー ベ イ を 行 っ
て も 同 様 の 結 果 が 得 ら れ る の か 検 証 を 行 う こ と に よ り ,本 研 究 の 結 論 は 事
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業が軌道に乗った歴史のある日本企業において一般的に言えることなの
かどうか分かるだろう。
2 つ 目 は 調 査 を 継 続 的 に 行 う こ と に よ り ,企 業 が マ ネ ジ メ ン ト 施 策 を 講
じ た 結 果 を 個 人 が ど の よ う に 認 知 し ,そ れ が 組 織 コ ミ ッ ト メ ン ト を ど の よ
う に 規 定 し ,そ し て 実 際 の 行 動 に 結 び つ く の か 明 ら か に す る 必 要 が あ る だ
ろ う 。現 実 的 に 継 続 調 査 は 困 難 で あ る か も 知 れ な い が ,ア ク シ ョ ン リ サ ー
チや定点観測などの方法を講じて明らかにする事が望まれる。
企業にとって好ましい成果を生み出し得るコミットメントプロファイ
ル の 存 在 を 明 ら か に し ,そ れ を 規 定 す る 要 因 を 探 る 事 は ,企 業 に と っ て も
個 人 に と っ て も 好 ま し い win-win の 状 況 を 作 り 出 す 。 こ の 研 究 課 題 が 引
き 続 き 研 究 さ れ ,日 本 企 業 に お け る コ ア 社 員 の 割 合 が 増 加 し ,ま た 日 々 や
り が い を 感 じ な が ら 働 け る 個 人 が 一 人 で も 増 え る こ と を 期 待 す る 。な ぜ な
らば人材育成が日本の国力を向上させると信じているからである。
93
謝辞
神 戸 大 学 の 上 林 先 生 に は 指 導 教 官 と し て 1 年 間 指 導 し て 頂 い た 。研 究 と
いうものをほとんど分かっていない筆者に 1 つ 1 つ根気強く指導して頂い
た 。ま た 繰 り 返 し 論 理 の 緻 密 さ の 重 要 性 を 説 い て 頂 い た 。兵 庫 県 立 大 学 の
開 本 先 生 に は ,定 量 的 な 分 析 方 法 を 指 導 し て 頂 い た だ け で は な く ,な か な
か研究テーマをフォーカス出来なかった筆者に適切なアドバイスを送り,
導 い て 頂 い た 。京 都 産 業 大 学 の 三 輪 先 生 に は ,実 務 家 出 身 の 視 点 か ら ,実
務 家 が 犯 し そ う な 過 ち を 戒 め て く れ た 。広 島 大 学 の 原 口 先 生 に は ,広 島 大
学 MBA 生 指 導 の 経 験 か ら 様 々 な 示 唆 を 頂 い た 。神 戸 大 学 の 鈴 木 竜 太 先 生
には,シアトルで学外研究中にも関わらず組織コミットメントについて
様 々 な 示 唆 を 頂 い た 。滋 賀 大 学 の 服 部 先 生 に は ,研 究 テ ー マ の 設 定 か ら 定
量 分 析 方 法 ま で 幅 広 く 指 導 を 頂 い た 。北 九 州 大 学 の 福 井 先 生 に は レ ビ ュ ー
す べ き 先 行 研 究 に つ い て 示 唆 を 頂 く と 共 に ,度 々 適 切 な 指 導 を 頂 い た 。神
戸 大 学 大 学 院 博 士 後 期 課 程 の 柴 田 氏 に は ,様 々 な 先 行 研 究 に つ い て 幅 広 い
知識を伝授して頂いただけではなく,定量分析に関しても指導を頂いた。
同 じ く 神 戸 大 学 大 学 院 博 士 後 期 課 程 の 櫻 井 氏 に は ,論 理 が 飛 躍 し が ち な 筆
者 を 戒 め , 緻 密 な 論 理 に つ い て 指 導 を 頂 い た 。 ま た 13 名 の 上 林 ゼ ミ の 同
期生からは多くの示唆に富むアドバイスを頂いた。彼ら彼女らの存在が,
孤 独 な 論 文 執 筆 作 業 に 潤 い を 与 え て く れ た 。多 く の 方 に 支 え ら れ て ,本 論
文 を 執 筆 で き た こ と に 改 め て 謝 意 を 表 す る 。頂 い た ア ド バ イ ス を 充 分 生 か
し 切 れ て い な い 論 文 に な っ た の は ,全 て 筆 者 の 経 験 ,能 力 ,知 識 不 足 が 原
因である。
最 後 に 本 論 文 を 2010 年 1 月 27 日 に こ の 世 を 去 っ た 父 幸 次 郎 へ 捧 げ た
い と 思 う 。未 熟 な 筆 者 を 適 切 に 導 き ,ま た 戒 め ,適 度 な タ イ ミ ン グ で 困 難
な 課 題 を 与 え て く れ た 。 58 歳 と あ ま り に も 早 す ぎ る 死 で あ っ た が , 今 ま
で 受 け た 恩 を ,筆 者 が 一 人 前 の 経 営 者 と な り ,ま た 研 究 者 と し て 小 さ い な
がらも日本にとって必要な提言を重ねていくことで,報いたいと思う。
親父,本当に有り難う。
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山 本 寛 ( 2003)『 昇 進 の 研 究 - キ ャ リ ア ・ プ ラ ト ー 現 象 の 観 点 か ら - 』 創 世
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質問票
性 別 :( 女 性 : 0
男性:1
)
年 齢 :(
歳)
勤 続 年 数 :(
年目)
役 職 :( な し : 1
主任~課長未満:2
課長以上:3
)
まったく
とても
そ う 思わ そ う 思わ ど ち らで そう思う
そう思う
質問項目
ない
ない
も
(その通
(全くそ
( 全 く違 (違う) ない
り)
の通り)
う)
仕 事 生 活( キ ャ リ ア )の 残 り を こ の 会 社 で 過 ご
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したい。
私はこの会社への所属意識が無い。
こ の 会 社 の 課 題 は ,自 分 自 身 の 課 題 の よ う に 感
じる。
この会社は私にとって,大きな価値がある。
今 こ の 会 社 に い る の は ,そ れ を 望 ん で い る と 同
時に必要だからである。
私はこの会社に一体感を感じない。
こ の 会 社 を 辞 め た い と 思 っ て も ,辞 め る 事 は 非
常に難しい。
この会社を辞めると言う事をほとんど考えた
事がない。
こ の 会 社 に 残 っ て い る 理 由 の 1 つ は ,他 に 良 い
仕事が無いからである。
も し こ の 会 社 を 辞 め た ら ,私 の 人 生 で 多 く の も
のが失われるだろう。
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他 に 良 い 条 件 の 仕 事 が あ っ た と し て も ,す ぐ に
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私はこの会社に愛着を感じている。
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私はこの会社に対して恩義を感じている。
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この会社には変革が必要だと強く思う。
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変革には重要な目的があると思う。
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会社はこのままで良いと思う。
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自らの成長のためであれば努力を惜しまない。
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転職するのは正しい事だとは思わない。
も し こ の 会 社 を 辞 め た ら ,罪 悪 感 が 生 じ る だ ろ
う
も し 個 人 的 な 損 失 が 無 け れ ば ,こ の 会 社 を 離 れ
る事も考える。
この会社の為に働く価値があると思っている。
この会社に所属している人達に恩義を感じて
いるので,すぐに辞めるようなことはしない。
自 分 の 進 む べ き 道 が 見 つ か っ た と し て も ,す ぐ
に今の仕事を辞めるようなことはしない。
当面,転職活動をする予定はない。
私達の世代がこの会社の中心になっていかな
ければならないと思う。
た と え 困 難 で も ,経 営 者 や 職 場 の リ ー ダ ー が 現
状をより良くするための変革を実行しようと
すれば賛同する。
今の仕事を辞める事をほとんど考えた事がな
い。
私にはこの会社を背負っていくという自覚が
ある。
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周 り の メ ン バ ー と 協 力 し な が ら ,業 務 を 行 っ て
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自分の成長が会社の成長に寄与すると思う。
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期待されている以上の努力を続けている。
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会社のルールや手続きを守っている。
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会社の掲げる目標を支持している。
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どんな理由であれ,変化は好まない。
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いる。
変 革 を 行 わ な く て も ,こ の 会 社 は 良 く な る と 思
う。
自 ら が 決 め た キ ャ リ ア が 実 現 で き る な ら ,躊 躇
なく転職する。
私達の世代が会社を担っていく必要があると
強く思う。
自 分 の 業 務 で 無 く て も ,困 っ て い る 人 が い た ら
助ける。
間 違 っ て い る と 思 っ て い て も ,上 司 の 命 令 に は
従う。
た と え 報 酬 が 下 が っ て も ,や り が い の あ る 仕 事
を見つけたら転職する。
私は今の業務よりも難易度の高い業務を遂行
できる自信がある。
た と え 上 司 か ら の 命 令 で も ,自 分 が 間 違 っ て い
ると思ったら絶対に実行しない。
私は現在の業務を遂行する能力を持ち合わせ
ていると思う。
同 僚 の 能 力 や ス キ ル と 比 べ て も ,負 け て い な い
自信がある。
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もし会社の変革と自らの成長が完全に一致す
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上司との関係はうまくいっている。
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上司とは仕事の目標を共有している。
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困っている時,上司はサポートしてくれる。
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同僚との関係は非常にうまくいっている。
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同僚とは仕事の目標を共有している。
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困っている時,同僚はサポートしてくれる。
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職場は友好的な雰囲気である。
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この会社が重視する価値観に賛同している。
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この会社が掲げるビジョンに賛同している。
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私に与えられた役割と権限は明確である。
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る 業 務 が あ る な ら ,寝 食 を 忘 れ て 仕 事 に 没 頭 す
る。
私は職場の上司に自らの意見をいう機会はほ
とんどない。
自 分 の 意 見 に よ っ て ,職 場 が 改 善 さ れ る と 嬉 し
く思う。
この会社の経営理念は会社に浸透していると
思う。
会社から自分は何を期待されているか分かっ
ている。
私 に 与 え ら れ た 目 標 は 明 確 で ,何 を や る べ き か
分かっている。
この会社の報酬体系は年功序列要素が高い。
定 年 ま で 勤 め て も ,退 職 金 に は 全 く 期 待 で き な
い。
この会社は教育に力を入れていると思う。
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こ の 会 社 の 教 育 制 度 は ,自 ら の 成 長 に 繋 が っ て
いると思う。
この会社の教育制度は会社の業務を遂行する
のに役立っている。
私 は 周 り と 比 べ て ,上 司 か ら 評 価 さ れ て い る と
思う。
この会社は私の実力を正しく評価していない
と思う。
私 は 同 僚 や 周 り の 社 員 と 比 べ て ,出 世 が 早 い と
思う。
この会社は採用するまでに様々な試験や面接
を繰り返している。
この会社は人材採用に費用をかけていると思
う。
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ワーキングペーパー出版目録
番号
著者
2009・1
福嶋 誠宣
論文名
出版年
日本企業のグループ経営におけるマネジメント・スタイルの研
4/2009
究
2009・2
井上 敬子
特許の質と企業価値
6/2009
2009・3
竹内 雄司
メンタリングが職場に及ぼす影響~個と組織の強さが両立する
7/2009
職場作りにかかわる研究~
2009・4
石津 朋和
IT 活用型在庫管理効果による ABL 普及の可能性
9/2009
2009・5
狗巻 勝博
NPO 法人における融資利用の決定要因
9/2009
2009・6
村元 正和
日本の未上場バイオベンチャーにおける知識資本と資金調達の
9/2009
関連性
2009・7
中川 清之
新規事業創造の要因に関する一考察-日本の製造業における実
10/2009
証研究-
2009・8
小池 宏
製造業におけるサプライヤー選定の最適化基準に関する考察
10/2009
―原材料及び部品サプライヤーと買い手企業間関係に基づく競
争優位の研究―
2009・9
迫田 和良
コーポレート・ベンチャーのマネージャーのモチベーション―
10/2009
食品製造業の事例研究―
2009・10 松本 恭卓
IPO企業のディスクロージャーの質と株主資本コスト―新興3市
10/2009
場のデータに基づく実証分析―
2009・11 井上 貴文
金融機関における貸出手法の決定要因
なぜ地域金融機関でリ
10/2009
レーションシップバンキングが機能しないのか
2009・12 栗山 淳
ブティック型ベンチャーキャピタルの投資行動‐バイオベンチ
10/2009
ャーの事例分析-
2009・13 丸谷 直之
敵対的買収に対するメインバンクの有効性―メガバンク金融グ
10/2009
ループの潜在的機能―
2009・14 田中 俊一朗
不動産企業における効果的な有利子負債の活用~新興不動産企
10/2009
業を対象にした実証分析~
2009・15 静 俊二郎
石灰鉱山におけるマテリアルフローコスト会計
12/2009
2009・16 江口 利光
事業再生におけるターンアラウンドマネジャーのフォローアッ
12/2009
大矢 茂人
柏原
プ行動
雄一郎
杉本 豊
2009・17 大塚 美樹
派遣労働者のキャリア形成に関する一考察~17 号業務に特化し
た派遣会社を事例として~
1/2010
2009・18 江口 利光
事業再生における企業リストラクチャリングの効果
2/2010
2009・19 相澤 卓也
国際経営における「現地化」と「内部化」の考察~商社の海外
3/2010
事業と国際人的資源管理を中心に~
2010・1
辻 俊一
中小企業における CSR の取り組みに関する研究
4/2010
2010・2
東野 祥策
ポイントプログラムによるポイント付与とプライシングの関係
4/2010
2010・3
脇屋 勝
制度信用銘柄の選定基準と市場流動性及びボラティリティ-新
4/2010
興市場のデータを用いた実証分析-
2010・4
芹川 至史
2010・5b 南 常之
組織における安全に関する逸脱行為の常態化
コミットメントプロファイルに関する研究
変数に注目して―
5/2010
―規定要因と成果
10/2010