第2回 法律と刃物 銃刀法の現状とその影響 講師/服部夏生(ナイフマガジン編集長) 司会/鹿熊勤(日本エコツーリズムセンター) 【はっとり・なつお】1973 年愛知県名古屋市生まれ。株式会社ワールド フォトプレスにて、刃物、ナイフの専門誌『ナイフマガジン』の編集を 手がける。同誌は趣味のコレクションナイフから狩猟ナイフ、鍛冶屋の 鍛える大工道具・農具などの生活刃物、鉄の文化史までをカバーする無 二唯一の雑誌として熱烈な読者が多い。 『千代鶴是秀』 『刃物大全』 『はた らく刃物』 『日本鍛冶紀行』 『包丁大全』などの別冊の編集も多数手がけ、 いずれも貴重な記録集として高い評価を得ている。近年は教育―家庭― 刃物という結びつきの視点でも企画に力を入れる。著書に『打刃物職人』 (ワールドフォトプレス)など。 ――今回も、とても重要なテーマです。現代人が刃物を使わなくなった原因はさまざまで、 その検証も当連続セミナーの役割のひとつでありますが、中でも大きな要素になっている のが法律です。「銃刀法」 。皆さんも名称は耳にされたことがあるはずです。銃刀法とはど んな性格の法律であり、私たちが刃物を使う、あるいは子どもたちに使わせる際にどのよ うな影響力を持っているのか。刃物の専門雑誌の服部さんにお話を伺います。 服部 まず銃刀法の話の前に、ナイフとはなにか、という基本から説明をさせてもらった ほうがよいかもしれません。日本では西洋式のナイフ、いわゆるアウトドア用のナイフを 思い浮かべる人も多いと思いますが、ナイフという言葉そのものの定義はもっと広く、刃 物全般を指します。刺身包丁や牛刀のような料理包丁もナイフの一種ですし、海外では宝 石や貴金属をキラキラとちりばめ宝飾品化したようなナイフも人気で、コレクションのジ ャンルを築いています。余談ですが、僕はさっき日本のナイフ産地として知られる岐阜県 関市から帰ってきました。関でもそういう宝飾のようなナイフもつくっていまして、最近 はロシアから大富豪たちがこぞって買いに来るそうです。そうしたツアーでは僕たちが想 像できないような数のゼロが飛び交っているらしいですね(笑) 。 ナイフマガジンでも以前紹介したことがあるんですけれど、フランスの有名ファッショ ンブランドの創業家の当主もナイフ・コレクターとして知られています。そのバックグラ ウンドにあるのは上流階級の暮らしです。森でハンティングをすることは貴族の昔からの 嗜みのひとつで、ナイフも携行品のひとつになっています。日本の伝統的な狩猟用品とい うと、マタギの剣鉈(けんなた)に象徴されるように、野鍛冶が鍛えた実用最優先の素朴 な鍛造品ですが、ヨーロッパ貴族は刃物に美しさや格調も求めてきました。 錆びにくく曇りも出ないステンレス鋼が登場してからは、もっぱらそれがナイフ材料の 標準素材になり、シルエット(形)なども美しさを意識しています。これは狩猟という行 為の社会的位置づけが違うためと考えてよいでしょう。かっこいいだけでは満足できず、 先ほど言ったように宝石や貴金属、珍しい貝をはめ込んでみたりする。必然的にどんどん ゴージャスなコレクター向けの細工になってきます。 日本にも「日本刀」というよく似た刃 物文化がありますが、日本刀の細工の美 意識は引き算です。要するにわびさびの 極限みたいな世界で、ごちゃごちゃとは 飾らない。実用品である大工道具もそう いうわびさびの感覚の影響を受けていて、 たとえば千代鶴是秀(ちよづるこれひで) という大工道具鍛冶の作品は、すぐれた 実用品でありながらたいへん有名なコレ クションアイテムになっています。そん なナイフ=刃物=が醸し出す魅力をさまざまな角度から紹 介しているのがナイフマガジンで、このセミナーのコーディ ネーターである鹿熊勤さんや第一部でクラフト指導をされ ている関根秀樹さんにも執筆陣として参加してもらってい ます。刃物は奥の深い世界で、ともすれば雑誌もオタク化し やすいんですが、だからこそ民俗学的な面白さだとか、この セミナーが掲げる教育との関わりなどについても触れ、現代 社会とのつながりを切らないようにしています。 今日私に与えられたお題は、まさに現代社会と刃物の関係 性を象徴する「銃刀法」についてです。ナイフマガジンは刃 物の専門誌ですので、この法律の存在をつねに意識せざるを得ません。おそらく私に期待 されているのは、銃刀法の功罪、あるいは問題点について論じることだと思いますが、私 見については立場上遠慮させていただきます。しかし、銃刀法の歴史的背景や法律として の性格、運用や解釈をめぐってこれまでどのような問題事例があったのかということは客 観的にお話しできると思います。 その前にナイフについて、もう一度おさらいをしておきましょう。スライドで示したの は一般的に「ナイフ」と呼ばれるものの各部の名称ですが、ご覧のようにカタカナだらけ です。 はっきりいって、全部覚える必要はありません。ブレイド(刃)とハンドル(握り) 。こ のふたつぐらいでかまいません(笑)。でも、せっかくですから、もうひとつふたつ覚えて 帰ってください。それはナイフには折りたたみ式とそうじゃじゃないタイプの2種類があ るということです。折りたたみ式のナイフはフォール ディングナイフと呼ばれ、刃が握りの中に安全に収納 できるようになっていて、コンパクトに持ち運びでき ることからポケットナイフという愛称もあります。折 りたたみ式でないものは刃に鞘(さや)をかぶせる必 要があることから、シースナイフとも呼ばれます。 ナイフの形状や構造は用途に規定され、たとえば上 から 4 番目のナイフの刃は一部が波状になっています。 太いロープだとか濡れた毛布なんかもがりがりと切れ るタイプで、東日本大震災以降注目を集めています。 いまお話ししているのはもっぱら西洋式のナイフの ことなんですが、先ほどロシアの富豪が日本にナイフ を買いに来るというお話をしましたように、日本にも 西洋式のナイフを作る方が 100 人ぐらいいらっしゃい ます。そうしたナイフ作家さんたちがつくっている団 体がJKG(Japan Knife Guild)です。これとは別に 日本刀をつくる刀匠と呼ばれる人たちがいます。日本刀を作ることは許可制になっていて、 伝統的な技法による一定の技術水準を持った人しか刀匠にはなれませんし、制作本数には 上限があります。日ごろの管理などについても銃刀法の関係で約束事があります。 ナイフ作家も刀匠もそうですが、日本では専業で暮らしている作家さんは非常に少ない のが現状です。アメリカにいくと桁違いです。非常に大きな市場が形成されていて、たと えば毎年アトランタで開かれる『ブレイドショー』というナイフの見本市には1万人を超 える愛好家がつめかけ、人気作家のブース前には長い行列ができるほどです。基礎人口が 多いということもありますが、自然豊かでハンティングやフィッシングが盛んであり、開 拓時代の「自分の暮らしは自分で守る」という精神が今も脈々と生きているからではない かと思います。つまりナイフを歴史や暮らしのシンボルと見ているのです。 そうした文化性を背景に、ファミリーキャンプ向けのナイフや、ハンティング用のナイ フ、多機能ナイフ、あるいはミリタリー(軍隊)タイプのナイフ、宝飾品のようなナイフ といった分野のナイフ作家が存在し、それぞれファンを獲得しています。 日本の作家さんも、ナイフをアメリカのような文化にまで高めたいと皆さんおっしゃい ます。僕もそう思っているんですけれど、かなり険しい道だなというのが正直な感想です。 なぜなら、日本では刃物が「生きるための道具である」という考えが薄れてしまっていて、 逆に「危ないもの」という位置づけにされつつあるからです。文化性が喪失した原因はひ とつではありませんが、銃刀法という法律も、刃物を使う文化の足かせになってきたこと は間違いないんじゃないかなと思っています。 日本には刃物専門店がどれぐらいあるかご存知ですか? これは懇意にさせていただい ている『銀座菊秀』の井上さんという方の受け売りですが、ナイフや包丁、鋏(はさみ)、 大工道具といった利器を一式そろえている昔ながらの店というのは、全国で 40 軒か 50 軒 だそうです。そのうちのかなりの数が東京、大阪の都市部に集中していて、平均すると1 県に1軒あるかないかです。そういう専門店は店主が刃物に精通し、商品知識が豊富で、 きめ細やかなアドバイスが得られます。しかし、ほとんどの日本人は、いま刃物を買うと きはホームセンターやスーパーを利用しているのが実情です。いや、スーパーで包丁を買 おうというだけでもましといえるかもしれません。台所が汚れるのが嫌だから料理をしな いという人もいるぐらいですから。 刃物を使った事件が起きるとすぐにナーバスな反応が起きますが、そうした動きに真正 面から対応してきたのが、数少ない刃物専門店や団体の方々なんですよ。僕は今日のため にあらためて銃刀法を読み直してみたんですけれど、この法律は全部で 55,200 文字もある んですね。じゃあナイフに関連する部分はどれぐらいかといったら、1,000 文字程度なんで す。ほとんどは銃に関する記述なんです。 刃物に関する部分を読み込んで浮かび上がってくるのは、結構ゆるいというか、解釈を もやっとさせている、つまり玉虫色の部分が多いということです。銃刀法第二十二条では 「何人も業務その他正当な理由による場合を除いては刃体の長さが六センチを超える刃物 を携帯してはならない。ただし内閣府令で定めるところにより計った刃体の長さが八セン チメートル以下のはさみ若しくは折りたたみ式のナイフ又はこれらの刃物以外の刃物で、 政令で定める種類又は形状のものについてはこの限りではない」と書いてあります。 この6㎝以下、折りたたみ式なら8㎝以下というモノサシは呪文化していて、これを根 拠にアウトだとかセーフだと言われやすいんですけれど、じつはこの数字にはあまり意味 がないんですよ。もちろん、これを超える長さの刃物を「業務その他正当な理由」がない 状況で携行していた場合は問答無用でアウトですが、じつは6㎝、ないし8㎝以下でもア ウトになりうる場合があります。それは銃刀法じゃなく、じつは軽犯罪法なんですね。 軽犯罪法第一条二号では「正当な理由なくて刃物、鉄棒その他の人の生命を害し、また は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者は、拘 留又は科料に処する」と書いてあります。そう、刃物の寸法は示されていません。ですか ら、たとえ小さなナイフでも、持って歩いていると軽犯罪法上では処罰の対象となりうる のです。 有名な話なのでご存知の方もいらっしゃると思うんですが、オウム真理教事件のとき、 とにかく信者から事情聴取をしたいと適用されたのが軽犯罪法です。あるものに注目して、 彼らの持ち物検査を徹底的にしましました。あるものとはカッターナイフです。ときと場 合によっては工作や事務用のカッターナイフも凶器とみなされるわけです。軽犯罪法には もっとすごいのもあります。四号なんですが「生計の途がないのに、働く能力がありなが ら職業に就く意思を有せず、且つ、一定の住居を持たない者で諸方をうろついたもの」。住 所不定無職、つまりホームレスの境遇になったら、それ自体が罪なんですね。 もちろん行き過ぎた適用を戒める条文もあって、第四条には「この法律の適用にあたつ ては、国民の権利を不当に侵害しないように留意し、その本来の目的を逸脱して他の目的 のためにこれを濫用するようなことがあつてはならない」という文言もしっかり盛り込ま れていますけれど、おまわりさんの主観や予断でが恣意的に運用しうる性格の法律である ことはかわりません。 そうした現実にどう対処すればよいのか。大事なことはナイフを携行するときに誤解を 受けないようにすることです。そうした啓発にきちんと取り組んでいるのが先ほど紹介し た JKG で、ホームページにも明示しています。おまわりさんが軽犯罪法を適用するかどう かを判断するときのポイントは、やはり「正当な理由」か、つまり刃物を携行している状 況の必然性だと思います。銃刀法が認める刃渡り6㎝以下のナイフだから持ち歩くのは自 由だという論は通用しないわけです。なんのためリュックサックに入れてあり、これから どこへ行こうとしているのかというところは当然大事なポイントです。 正当な理由であると言われる場合とはどんなケースか。それも一応は決まっているんで す。「通常の人の常識で理解できる正しい理由」。これも超ざっくりですけど(笑)。「じゃ あ通常の人の定義ってなに?」というふうにどんどん突っ込んでいきたくなるアバウトさ なんですが、つまり世間的常識でジャッジしますよということなんですね。事務や工作作 業で使っているカッターナイフを職場や学校から自宅に持ち帰る。料理教室に通うために 包丁を持っている。こんなふうに世間の方がなるほど、それはあるよねというふうにみな されればセーフ。これから森へ出かけて自然観察をするため、というのもありでしょうが、 おまわりさんがそういう楽しみを理解していなかったら揉めるかもしれませんし、当然職 務質問を受けたときの態度によっても印象は変わるでしょう。 もうひとつ大切なのは、その刃物がどういう状態で携行されているかだと思います。こ れは裏話なんですけど、僕らは仕事柄、お店でナイフをお借りしてスタジオで撮影するこ とがよくあります。そのときは、まあ、ちょっとおまじないみたいなものなんですが、必 ずお店の人にそのナイフを包んでもらうんですね。箱やケースがあればそれに入れてもら い、できればそのお店の袋に入れて借りて帰ります。 要するに、途中で取り出す意志はありませんという意味なんです。万が一途中で職務質 問を受けても、正当な理由として認められるだろうということですね。これは警視庁の見 解ではなく、あくまで個人的あるいは業界的な見解にもとづく対処の方法です。 使いたいときにすぐ取り出せるのがナイフのよさで、決まった用途ではないところでも 便利さを発揮してくれるからありがたいわけですが、不用意には使いませんという誓約も 示す必要があり、これはナイフをタブー視させないためのひとつの方法かなと思っていま す。 ナイフの愛好家には、自分のコレクションを見せたいという思いがあります。かつては ナイフショーなどの際、持ち寄って愛好家同士が見せ合うこともあったのですが、今は持 ってこないでくださいとアナウンスする主催者が多いです。自慢のナイフを見せ合い、語 り合うことはまったく悪いことではないんですが、世間一般からは理解されにくく、誤解 をうけやすいということですね。 正当な理由にならない典型的なケースは「護身用」です。いざ悪い奴に襲われたとき、 あるいはそういう光景を見かけたとき人を助けるための対抗措置であるという理由ですが、 そのような理由なら刃物を使ってよい、ということを認めてしまったら社会秩序が保てま せん。そのあたりはアメリカと大きく異なります。 ファッション感覚で身に付けて歩くこともアウトです。小さくてきれいだから、あるい はかわいいからとストラップやキーホルダーがわりにすることは、刃物を携行する必然性 として認められていません。 2009 年には銃刀法が改正されまして、ダガーと呼ばれる 5.5 ㎝以上の剣型の刃物、つま り先が尖って両側に刃がついたタイプのナイフは、所持そのものが禁止されました。携行 することはもちろん、所有もできません。その前に秋葉原で起こった無差別殺人事件でダ ガーナイフが使われたことからの措置です。その前には、開閉がきわめて自由なバタフラ イナイフも、少年が起こした事件をきっかけに有害玩具に指定されました。 このような好戦的イメージのナイフについては厳 しく規制されているわけですが、問題は銃刀法の解釈 と運用で、鞄に折りたたみ式の多機能ナイフが入って いたぐらいで犯罪者扱いするのはいかがなものか、と いう声も届きます。 この6月だったと思いますが、ちょっと珍しい判例 が出ました。僕たちナイフマガジン編集部には、よく 職務質問に関する問い合わせがききます。だいたいこ んな電話です。「もしもし、僕、道を歩いていただけ なのに捕まっちゃいました」 「なんですか?」 「リュッ クサックの底にナイフが入っていたんですよ。それだ けなのに悔しいです。なんとかなりませんか?」「残 念ですけど、ナイフマガジンとしてはどうしようもな いです。おそらく軽犯罪法の適用です。どうしても闘いたかったら弁護士さんに相談して みてください」っていうしかないんですね。そしたら、やっぱり納得できないと思った方 がいたらしくて、警視庁の職務質問で精神的苦痛を受けたと訴えを起こしました。 秋葉原を歩いていたら、カバンの中に入れてあった小さなナイフがついた万能工具を見 とがめられたらしいんですね。それってナイフというよりペンチじゃないのかなと思うん ですが(笑) 、軽犯罪法違反容疑で書類送検までされてしまいまして。この人は、まあそれ で国家権力と闘ったわけですが、裁判所が警視庁の職務質問は違法だと認めた。これは初 めての判例だと思います。 刃物を使った凶悪犯罪が起こると、いっとき職務質問が強化されます。デモンストレー ションというか、警察は何をしているのかという批判に対する一種のガス抜きだと思いま すが、刀狩りのようなこうした圧力が、刃物を気軽に使う習慣を衰退させてきた背景のひ とつなんじゃないかと思っています。 オウム事件のときもそうでしたが、軽犯罪法はさまざまな捜査の際にも別件逮捕の道具 として使われているというのは公然の事実です。以前、人気歌手の車のダッシュボードか らツールナイフが出てきて捕まったという事件がありました。そのときはただの軽犯罪法 違反という処分だったと思いますが、それから2年半ぐらいして、その歌手は大麻か薬物 かで逮捕されました。 車のダッシュボードにナイフを入れっぱなしにしている人も多いと思いますが、妙な軋 轢を起こさないためにはきちんと管理しておく必要があります。もちろん、いま釣りやキ ャンプに向かっている途中だという場合は、あっても携行の必然性を認めてもらえると思 いますが、一年中車に入れっぱなしというのは問題があります。いらぬ誤解を受けないよ うにふるまう大人の対処法も必要です。 おまわりさんにとって、職務質問は事件を未然に防ぐための大事な仕事です。ですから、 周りからどう見えるかという振る舞いも大事なのかな(笑) 。じつは僕も職務質問を受けや すいキャラクターらしいです。若かりし頃は音楽をやっていて、ベースを弾いていたんで すね。あるとき終電がなくなっちゃって、門前仲町から日本橋までベースのケースを背負 ってテクテク歩いていた。そしたら、交差点を越えところで5人くらいのおまわりさんに 囲まれたんですよ。ちょっと荷物を見せてくれと。いいですよって全部見せたあと、聞い たんです。僕が何者に見えました? って。そしたら、マシンガンを背負っているように 見えましたって。想像力たくましすぎでしょう(笑)。でも、職務質問が強化されるときっ て、得てしてこういう感覚なんだと思います。 ――服部さん、ありがとうございました。今日は銃刀法について知っておこうというテー マですが、じつは刃物に対する規制強化というのはたいてい事件に連動していて、法律の 制定や改正以前に通達とか要請を受けた自主規制という形でじわじわ進んでいるように思 います。シンボリックな事件が、今から半世紀前におきた浅沼稲次郎社会党委員長の刺殺 事件です。日比谷公会堂で演説中に右翼の少年に刺殺されたショッキングな事件で、その 瞬間の写真を撮った毎日新聞のカメラマンはピューリッツァー賞を受賞しました。犯人が 未成年で凶器が刃物だったこともあり、判断の未熟な子どもたちから刃物を遠ざけようと いう世論が沸き起こりました。そのことが毎日新聞社の『昭和史』という本に詳しく出て います。 手回しの鉛筆削りを学校に寄付するので、子どもたちに危ないナイフを使わせないでく ださいという人が出てきて篤志家の美談になる。刃物店の店頭には青少年には刃物を売り ませんという張り紙が張られだします。私も当時の張り紙が何十年も張られたままになっ ている鍛冶屋さんを見たことがあります。そのころの映画ではよく決闘や襲撃シーンがあ り、ナイフが演出の小道具に使われていました。そうした影響力や非行の芽を摘むという 点ではやむを得ない措置だったのかもしれませんが、全体主義になってしまったり、問題 の原因を刃物に押しつけ、本質に迫ることを怠ったことが大きな問題だと思っています。 服部 浅沼事件のとき、僕はまだ生まれてもいなかったわけですが、先ほどの菊秀刃物の 井上さんによると、当時の雰囲気をよく覚えているそうです。昔は都心の子でも肥後守(ひ ごのかみ)のようなポケットナイフを持ち歩き、鉛筆も削っていたそうです。けれど、あ るとき…これはさすが慶応ボーイだなだと思うんですが、先生がアメリカから鉛筆削りの 機械を買って来てくれたらしいんです。それを全部の教室に配った。同時に、学校へは刃 物を持ってこないでねっていうことになったらしい。珍しいものだからみんな大喜びで、 ナイフで鉛筆を削らなくなったそうです。 それと、さきほどのバタフライナイフについても少し補足しておきます。このナイフの ルーツはフィリピンあたりで使われてきた民俗ナイフで、ストッパーをはずすとハンドル とブレードが自由に動き、すばやく開閉できます。キムタクがテレビドラマの中でかっこ よく操ったことから人気に火が付きましたが、1998 年に有害玩具に指定されました。その ナイフで中学生が先生を刺してしまったんですよ。ほかにもバタフライナイフを使った事 件が起きたことで、これは問題だということになりました。 バタフライナイフの有害玩具指定は銃刀法ではなく自治体条例ですが、業界への影響に ついて井上さんに聞くと、じつは打撃はまったくなかったというんですね。バタフライナ イフは護身用ナイフと位置づけられているので、まっとうな刃物屋さんはもう扱っていな かったんです。売っていたのはアウトサイダー的な業者。僕らも、かつてはナイフであれ ばどんなものでも誌面で扱いましたが、刃物の健全性を主張していかないとこの世界の将 来はないので、今は殺傷を目的としたような性格のナイフは扱わないようにしています。 ――銃刀法や軽犯罪法とは別な部分でも、近年刃物の携行が難しくなってきましたね。象 徴的な事件が 1999 年に起きた全日空機ハイジャック事件だと思います。シミュレーション ゲームマニアの男が警備の盲点をついて包丁を隠し持って搭乗。飛行中に機長を殺害した 特異な事件です。それまで小さなツールナイフくらいは飛行機に持って入れたのが、危険 物として持ち込めなくなりました。 服部 2001 年の9月 11 には、アメリカで旅客機による同時多発テロ が起きました。この影響も大きいです。ハサミや爪やすり、コルク抜き などのついた多機能ナイフは海外旅行にも非常に重宝されてきたわけ ですが、世界的にナーバスになりました。車や家のカギなどにつけたま まうっかり空港に入ると放棄させられるので、めんどくさいからもう使 わない、買わないという人も増え、市場自体が縮小してしましました。 アメリカなんかは、 それこそナイフを持ち歩くことが普通に文化とな っている国なので、 いくらなんでもやりすぎじゃないかという批判もあ り、解禁の動きもあったんですけれど、検査担当者の負担が増すということで結局実現し ませんでした。こういう話を聞くと、面倒だから刃物そのものを規制してしまえという考 えは、どの時代もどの国も変わらないのかなと思います。 ――客室乗務員の立場とすれば不安だと思いますが、乗客には不便ですね。いわゆる街中 の職務質問でも、かつては小さなツールナイフぐらいならカギなどにつけて持ち歩いてい ても大目に見られていたような気がします。飛行機に気軽に持ち込めなくなってから、ほ んとイライラすることが増えました。夜、出張先のビジネスホテルで一杯やろうと思って も、ローカルなおつまみの中には袋に切り口がなくて手では開けられないものもあります。 歯でも切れない。小さなナイフかハサミのついたマルチツールがあれば何の問題もないん ですが、イライラするというか、情けなくなってくる。あのもやもや感は、逆に人間の歯 や爪以上のことが出来る、刃物という道具のありがたさを教えてくれます。社会秩序の安 定や安全には代えられないというのはわかるけれど、多くの人が、釈然としない気持ちを 持っているんじゃないかと思います。 服部 ただ、ちょっと面白い動きもありまして。僕はナイフマガジンの別冊で包丁の本を つくっているんですけど、包丁業界は最近元気なんですよ。なぜかというと、海外で売れ るようになってきているんです。和食ブームもあって、日本の和包丁はかっこよくてすご くよく切れると評価されているんです。クールジャパンのひとつなんですね。ある刃物屋 さんには、フランスをはじめとする欧米からどんどん注文が来ているんですが、製造が間 に合わなくて困っているほどだそうです。 もうひとつ面白い動きとしては、若者の刃物離れを憂いている方がけっこう多いという ことがわかってきたことです。今日ここへお越しの皆さんがその象徴だと思いますが。ナ イフマガジンでも、若者と指先というようなテーマで鹿熊さんたちと一緒にいろいろな事 例取材をしています。その協力者のおひとりが、今日もここへ来ていただいている東京農 業大学の星野欣也先生です。星野先生は中学技術科の教員免許の取得を目指す学生のため に教えていらっしゃるんですが、その授業にお邪魔させていただきました。 その実習内容は、鉛筆を削る、箸を削るという非常 にシンプルなものです。最初に星野先生が示してくれ たこれまでのサンプルを見て、僕らは仰天してしまい ました。こんなにひどいのかと。もちろん、そのサン プルは落第点の例であって、全員がこういう指先だと いうことではないんですが、最近の子どもは刃物を使 えないと言われ始めた僕らの世代でも、もうちょっと ちゃんと削れたんじゃないかと思います。 実習授業も見せていただいたんですが、やはり多くの学生はぎこちない。なかにはけだ るそうに見ているだけの子もいる。なんでやらないのって聞いたら「刃物使ったことがな いから」っていう。星野先生に聞くと、20 年前ぐらいの学生の中には「実習が箸削りだな んて、ばかにしているのか」という子もいたそうですが、今は刃物を使う自信がないので 箸さえ削ろうとしないわけです。そうかと思うとけっこう上手に削っている子も何人かい て。体が大きいので「君たち何かやってるの?」と聞いたら、「自分は柔道っす。彼は相撲 で」という。大きな体でそこそこ上手に小刀を扱うんですよね。聞くと、料理当番があっ たり、相撲の土俵を作るときにわらを切ったりするので、刃物にはけっこう触れているん だそうです。こうした問題は世代論で切られがちなんですが、そうではなく、個人の生活 の中で使う機会があるかないかなんですね。 ――前回も同じような話をしたんですが、コンビニエンスストアの出店率がいま過去最高 水準なんですよね。ということは、それにスライドする形で手料理をつくる習慣も薄れて いるんじゃないかと思うんです。外食産業も昔よりたくさんありますしね。我が家も例外 ではありませんが、台所にはかなり出来合いの加工食品が進出していて、おそらく子ども の手を借りなきゃ夕食が間に合わないという状況もないわけですね。そうなると道具を使 う習慣、手の感覚というのは薄れていって、暮らしをクリエイトする習慣自体がなくなっ ていくわけで。ここを何とかしないといけないなと感じます。 服部 子どもたちが普通に刃物に接し、指先の延長として使いこなせるようにするには、 家庭や学校の理解というか自覚次第だと思っています。事件が起きて刃物がクローズアッ プされるたびに僕が言いたいのは、刃物が人を刺すんではなくて、人が刺すんだというこ とです。 そこを冷静に考えてほしいんです。 僕は刃物業界に入って 20 年近くになりますが、 社会から自分たちの取り扱っている商品がどう見られているのかと考えると、悲しくなる ことも多いです。でも、ときどき刃物の情報を扱ってきてよかったと感動するケースがあ ります。 東日本大震災のあとにすぐ出た号で、被災地支援に入った自衛隊の方にお話を聞かせて いただきました。かなりの数の方々を救助されたんですが、捜索や救助活動でいちばん役 に立った機材は刃物だったというんですね。今、自衛隊では刃物は標準装備ではありませ ん。個人が任意で持つ私物です。つまり自腹です。その隊員は今までの経験から、救援型 の活動では生半可なナイフではだめだと感じていて、大型の剣鉈タイプの刃物を誂えてい ました。ドアが開かないようなとき、これで切り破って入って人を探したそうです。やは り、いざというとき安心を与えてくれるのが火と刃物だと思います。災害コーディネータ ーのような方々も、ナイフの重要性については口をそろえておっしゃいます。 刃物をめぐる問題は、暮らしの価値観がファストとスローに二極化し、圧倒的多数の人 がファストを選んでしまったことから顕在化してきたと思っています。いま僕の妻子は岡 山に住んでいます。岡山には原発事故後、放射能の子どもへの影響が心配で移り住んだ人 がけっこういて、うちもそうなんですけれど、僕がナイフの雑誌を作っているというとす ごく興味を持っていろいろ聞いてくるんですね。斧(おの)は何が一番いいの? 鉈はど ういうのがいい? スウェーデン製の刃物はいいっていいいうけど、本当なの? 東日本大震災を機に首都圏を出た人というのは、ただ放射能怖いということじゃなくて、 もともと土を耕したりスローな生活を志向していた人たちなんです。でも、育った環境の 中には刃物を使う習慣が希薄で、いまその大切さに気が付いてきているわけですね。もち ろん子どもにも使わせたいと思っている。こうした気づきに至る人が、多くはないけれど 少しずつ増えている事実があります。ひとつの光明だと思っています。 法は法として守らなきゃいけなんですけど、刃物を使うことの楽しさや便利さも世の中 に思い出していただかないと、日本はへんな国になってしまいます。ぜひ皆さんの力を借 りて健全な推進をしていきたいと思います。 会場 銃刀法では 6 ㎝を越える刃物を携帯してはならないとなっているということですけ れど、先ほど刃渡り 5.5 ㎝以上という数字も出ました。もう一度説明をお願いします。 服部 要するに 6 ㎝以上の刃物は理由なく携帯しているとその時点で捕まってしまうこと もある。5.5 ㎝以下というのは、両方に刃がついて先が尖ったいわゆるダガーナイフという 剣型のナイフに関する規制ですね。それ以上は所持も問答無用で禁止。剣に似ていても 5.5 ㎝より小さいものなら所持できると解釈できるわけなんですが、再三いいましたように、 そうは問屋が卸さない。軽犯罪法が適用されれば拘引される可能性もあります。 会場 (実物を示し)これ、面白いのでたまたま買った剣型のおもちゃです。突き刺すと 刃がばねで引っ込むなんちゃって商品で、もちろんプラスチックでできています。たとえ ばこういうものにも法律は適用されるのですか。 服部 素材については法律の中には特に書かれていませんが、金属であることが前提です。 殺傷力で判断されるので、そういう「竹みつ」のようなものは範疇外だと思います(笑)。 ただ、携行になんらかの悪意があるものと判断された場合は、軽犯罪法に問われることも あるかもしれません。塗装が銀色で見かけは人を不安にさせますからね。 会場 法律は法律として理解したいと思いますが、自然体験活動をしている者としてはナ イフを自由に携行できないのはとても不便です。逃げ道じゃないですけど、賢い対処法は ないですか。 服部 先ほどもいいましたように、梱包することだと思います。運搬中であって、みだり に取り出すつもりはないという姿勢ですね。そういう状態であれば、リュックの中に入っ ていても銃刀法を尊重しているという意志表明ができると思います。刃物を健全に使う活 動を日ごろからしているという説明も同時に必要ではあるでしょうが。ただ、おまわりさ んが現場でどう判断するかはわかりません。 ――お墨付き効果があるかどうかはわかりませんが、自然体験や教育活動組織が、そうい うナイフ入れ(ケース)を作るのもひとつの方法かもしれませんね。面倒だけれど取り出 すのに少し手順が必要で、取扱心得のようなことも書いておく。要するに「怪しいもので はありません」という認証の性格を持つケース。警察がそういうものを実際にどう判断す るかはわかりませんが、自分たち自身がガイドラインを示していくことは大切かもしれま せん。 服部 ふた付きの鞘にいれておくと印象はだいぶ違うはずです。折りたたみ式ナイフの場 合は輪ゴムでも紐でもよいから巻いておく。不用意には開きませんという意志表示ですね。 ――会場に、さきほどお話が出た東京農大の星野先生がいらっしゃっています。せっかく の機会ですので、若者たちの指先事情に関して補足やご意見などいただければと。 星野 ご紹介いただきましたように、大学で技術科教員免許をとる学生の指導をしており ます。つい最近なんですけど、木工実習で鉋(かんな)の刃を研いで木を削るってことを やったんですね。取り扱い方は、まあ口で説明すればわかるだろうと、刃の出し方はこん な感じでと。それで削らせたんですが、削れませんていう学生がいた。鉋を見たら刃がぼ ろぼろになっている。出し過ぎた刃をひっこめようと刃先を直接木鎚でひっぱたいたんで す。大変ショックを受けました。ごく普通の学生なんですが、基本を知らないというより、 道具に対する想像力そのものが欠落しているんですね。鋭利な刃は同時に脆いものだとい う今までの社会の常識がすっ飛んでしまっている。先ほども出ましたけれど、そういう子 ばかりというわけでもないんです。ただ、毎年ちょくちょくとんでもない子がいます。 ――原因にさかのぼると、それはなんだと思いますか。 星野 マナーの問題なんかもそうかと思いますが、大人社会の反映でしょうね。大人がき ちんと教えない。あるいは大人もすでに刃物を扱う技術を受け継いでいないからです。や はり子どものうちから刃物を使わせることは大切だと思います。保育園、幼稚園、小学校 というふうにきちんと段階的に教育していかないと無理だろうなと。木工具に関しては中 学ではじめて触わるという子が今はほとんど。社会にもそういう体験の場が欲しいですね。 たとえば地域コミュニティーとしての木工教室。子どもたちの親の世代はあまり頼りにな らないけれど、まだいろんな地域に、かつて職人だった人や指先の器用な老人がいます。 そういう人に活躍してもらい、興味のある子からじんわりと輪を広げていくのも面白いか もしれません。 ――ほかにご意見ご感想はないでしょうか。 会場 あらゆるものが既製品化されているのも問題ですね。この間、関わっているイベン トでのぼりをたてたんですけれど、全部地元の竹で作ったんですよ。もちろん布も手縫い で、文字も手書き。めんどうだったけれども面白かったですね。今、イベントののぼりっ て全部プラスチックとスクリーン印刷でしょう。あれは便利だけどつまらないし、結果的 に手を使う習慣をなくしていくんだなあと感じました。 ――モノをつくるには時間が必要ですよね。タイムイズマネーという考えが長らく浸透し ていて、時間を節約することが豊かさにつながるのだと思われていますけど、実際は時間 のかかることのほうがリッチなんですよね。新幹線は便利だけど、楽しさなら鈍行列車。 あらゆるものが外注化されている世の中ですが、めんどうくさいことをあえてするという のは決して損なことじゃないと思います。例えば今日の第一部のクラフトはアイスクリー ムスプーン削りでしたが、アイスクリームまではつくらないにしても、スプーンくらいは 使い捨てのプラスチックじゃなく、自分で木でつくりましょう、マイスプーンを持ちまし ょうというのは、とても楽しいことだし、子どもに刃物づかいの基本を教えるにはすごく いい教材だろと思いました。教育のためにも、子どもたちが刃物に接するプログラムをさ まざまな場で作る。そのために刃物は怪しいものでも怖いものでもないということを、み んなで理解する共有の場があったらなと、今日はあえて厳めしい法律問題をテーマにしま した。 服部 外注社会にどっぷり浸かっていることを正しく意識し、それに呑みこまれないため にも、自分で何かを手づくりすることは大事ですね。 ――その風は吹き始めていると思います。私は 20 年ほど鍛冶屋さんの世界を取材していま す。高齢化でどんどん辞めていて、一部産地を除けば業界そのものが消滅寸前なんですが、 最近、数としてはわずかながらも若い人が飛び込んでいます。そういう人たちに聞くと、 手を動かしてモノをつくる喜びを一回知ると、ほかの生き方はできないと言います。 服部 僕ら刃物の専門誌ができることは、そうした文化を守り次につなげることです。フ ァストとスローの比率は、現実には 9 対1ぐらいだと思います。時間がかかっても手づく りは面白い、楽しいと思える人たちを五分五分くらいの比率に持っていけたら、世の中は かなりよくなるんじゃないかなと思います。最近は刃物産地もがいろんなことをやってい ます。たとえば福井県の武生(たけふ)というところでは、包丁づくりツアーをやってい ます。結婚を控えた若い男子が参加して、婚約者に包丁を打ってプレゼントするんですね。 これでおいしい料理をお願いしますというわけですが、なかにはまだ婚約者がいないのに つくりにくる男性もいるそうです。エアー奥さんのためですね(笑) 。武生の包丁屋さんた ちも、まさかそんなに人気が出るとは思っていなかったようですが、こういう心のゆとり ってきっと子どもの教育にもつながると思うので、広がってほしい動きです。 会場 第一部講師の関根です。体験は大事ですね。もっと大切なのは連続して体験するこ とだと思います。刃物技術の習得は1回や2回じゃムリです。僕の和光大学の授業ではナ イフで火起し道具つくるんですが、90 分の授業を5、6 回やって完成させます。最初は握 り方もおぼつかなかったような学生も、回を重ねるごとにだんだん刃物づかいがさまにな ってきます。刃物が使えるようになると面白くなるので、もっとやりたくなり、結果とし て腕も上がる。そこに喜びや向上心があるような気がします。急いで仕上げるより、ゆっ くり削ったほうが、納得のゆくきれいなものができるということもわかってきます。そう いう意欲を引き出すには、教材のアイデアとともに環境づくりが重要だと考えています。 ――ありがとうございます。関根さんには今後もクラフト講師をお願いしますので、楽し い企画をお願いします。ここで時間が来てしまいました。セミナーのもうひとりのコーデ ィネーターである山中俊幸さん、挨拶をお願いします。 ――日本エコツーリズムセンター副代表理事の山中と申します。今日はお忙しいなかご参 加いただきありがとうございます。銃刀法については僕も非常に関心をもっていて、じつ はふだんリュックの中にナイフを入れて歩いているんですよ。確信犯ですね(笑)。きっか けは 2011 年の 3 月 11 日に起きた東日本大震災です。その後、被災地を歩いたり被災者の 方からお話を伺う中で、いざというとき刃物は必須の道具なんだということを実感しまし た。ですから僕のリュックに入っているナイフはもしものときの防災用品であり、理由な く携行しているわけではありません。それでも法律違反だというのなら、どうぞ捕まえて くださいと思っています。首都圏直下型地震が高確率で起こるといわれています。大地震 はいつ襲うかわかりません。そのXデーに遭遇したとき、自分の身を守る、あるいは誰か 困っている人を助けるために刃物が必要になる場合もきっとあります。そのためにはナイ フをいつもリュックに入れておくのが正解だろうと。 今日のお話を聞いてますます確信が持てました。必要な非常時にナイフが手元にないリ スクを考えたら、軽犯罪法違反で捕まることなんてどうってことない。なおかつ今自民党 は憲法改正を目指していて、もしかしたらこういうテーマの集会をやっているだけで捕ま ってしまう世の中になってしまいかねない雰囲気もあります。こうしたものごとの本質だ とか、先ほどもお話しにあったように、生きるということの原点を見直すためにも、よい テーマだったなと思います。ありがとうございました。
© Copyright 2024 Paperzz