第4部 為替換算会計 第1章 要点整理 外貨建取引等の換算会計 <1級 財務諸表の範囲> 》》》 第1節 国際化と会計問題 ① 国際会計基準が必要とされるほど,企業活動と金融市場が国際化してきている。これ に伴って,外貨建取引も増加の傾向を示している。 外国との間で行われた取引が,日本円以外の通貨で行われた場合には,最終的には日 本円による金額に変換することが必要になる。外国通貨を用いて測定・表示された金額 を 日 本 円 に よ っ て 表 示 し 直 す 手 続 き を , 換 算 ( translation )と い う 。 ② 換算に関する会計処理基準として,企業会計審議会から公表されているのは「外貨建 等 会 計 処 理 基 準 ( 以 下 , 外 貨 建 基 準 と 略 称 す る 。)」 で あ る 。 本 基 準 は , 昭 和 54 ( 1979 ) 年 6 月 25 日 に 設 定 さ れ た 後 ,平 成 7 ( 1996 )年 5 月 25 日 に 改 訂 さ れ ,さ ら に ,平 成 11 ( 2000 ) 年 10 月 22 日 に 改 訂 さ れ て い る 。 11 年 基 準 は , 平 成 12 年 4 月 1 日 以 降 開 始 す る 事 業 年 度から適用されている。 ③ ここ数年の間に,多くの新たな会計基準の設定や従来の会計基準の改定が行われ,従 来の考え方が大きく転換されたものもある。これらは,投資家に対して的確な財務情報 を提供することの必要性や会計基準の国際的調和化などの観点からなされたものであ る。 第2節 換算対象 ① 外 貨 建 基 準 に よ る と 換 算 対 象 を ,次 の 三 つ の 領 域 に 区 別 し て い る 。( 1 )( 2 )は 個 別 会 計 , ( 3 )は 連 結 会 計 の 分 野 で あ る 。 建 設 業 経 理 事 務 士 1 級 財 務 諸 表 で は , こ の う ち 特 に , ( 1 ) を中心に学習しておくことが肝要である。 (1) 外 貨 建 取 引 の 換 算 (2) 在 外 支 店 の 財 務 諸 表 項 目 の 換 算 (3) 在 外 子 会 社 ま た は 在 外 関 連 会 社 の 財 務 諸 表 項 目 の 換 算 ② 外貨建基準によれば,外貨建取引とは「売買価額その他取引価額が外国通貨で示され て い る 取 引 を い い (注 解 1 ) 」, 次 の よ う な も の が あ る 。 (1) 取 引 価 額 が 外 貨 で 表 示 さ れ て い る 物 品 の 売 買 又 は 役 務 の 授 受 (2) 決 済 金 額 が 外 貨 で 表 示 さ れ て い る 資 金 の 借 入 又 は 貸 付 (3) 券 面 額 が 外 貨 で 表 示 さ れ て い る 社 債 の 発 行 (4) 外 貨 に よ る 前 渡 金 , 仮 払 金 の 支 払 又 は 前 受 金 , 借 受 金 の 受 入 (5) 決 済 金 額 が 外 貨 で 示 さ れ て い る デ リ バ テ ィ ブ 取 引 等 第3節 換算方法 ① 換算方法としては,次の四つの方法がある。このうち,外貨建基準は外貨建取引の決 算 時 の 原 則 的 換 算 方 法 と し て は ( 2 )の 貨 幣 ・ 非 貨 幣 法 を 採 用 し て い る 。 ( 1 ) 流 動 ・ 非 流 動 法 ( current-noncurrent method ) 流 動 項 目 − 決 算 時 の 為 替 相 場 ( curent rate : C R )を 適 用 し て 換 算 非 流 動 項 目 − 発 生 時 の 為 替 相 場 ( historical rate : H R )を 適 用 し て 換 算 ( 2 ) 貨 幣 ・ 非 貨 幣 法 ( monetary-nonmonetary method ) 貨 幣 項 目−CRを適用して換算 非貨幣項目−HRを適用して換算 ( 3 ) テ ン ポ ラ ル 法 ( temporal method ) 貨幣性項目−CRを適用して換算 外貨による時価が付された非貨幣性項目−CRを適用して換算 上記以外の非貨幣性項目−HRを適用して換算 ( 4 ) 決 算 日 レ ー ト 法 ( closing rate method ) 財務諸表の全項目を決算日レートという単一レートで換算 ② 四 つ の 換 算 方 法 の う ち ,( 1 )( 2 )( 3 )は 複 数 レ ー ト 法 ,( 4 )は 単 一 レ ー ト 法 と 分 類 で き る 。 - 18 - 第4節 取引時の換算に用いる外国為替相場 ① 外貨建取引の換算を行う場合に適用される外国為替相場には,直物為替相場と先物為 替相場がある。 ② 直 物 (ジキモノ ) 為 替 相 場 と は , 外 貨 と の 交 換 が 当 日 又 は 翌 日 中 に 行 わ れ る 場 合 に 適 用 さ れる為替相場であり,直物レートともいわれる。 ③ 先 物 (サキモノ)為 替 相 場 と は , 将 来 の 時 点 で 外 貨 と 交 換 す る こ と を 契 約 す る 取 引 に 適 用 さ れる為替相場をいう。 第5節 決算時の換算基準 ① 決算時における外貨建項目の換算方法を,外貨建基準に基づいて示せば次のようにな る。 ② 換算方法は,金融商品に係わる会計基準との整合性を考慮し,為替相場の変動を財務 諸表に反映させることを重視する観点から採用されたものである。 〔本店の〕外貨建項目 外国通貨 換 算 方 法 CR 金 銭 債 権 債 務 (外 貨 預 金 を 含 む ) (自社発行の転換社債) 売買目的有価証券 その他有価証券 CR (HR) ※株式への転換時に損益が出ない ようにするための措置 外貨による時価×CR 有 価 満期保有目的の債券 ※金銭債権との類似性を考慮 取 得 原 価 or 償 却 原 価 × C R (償却原価法の消却額は金利の性 格を持つのでAR換算) Avarage Rate : 期 中 平 均 相 場 子会社・関連会社株式 取得原価×HR 強制評価減された有価証券 外 貨 に よ る 時 価 or 実 質 価 額 × C R 証 券 デリバティブ取引からの金融商品 外貨による時価×CR 第6節 為替差損益の処理 ① 為 替 差 損 益 と は , 外 貨 建 金 銭 債 権 債 務 の 決 済 ( 外 国 通 貨 の 円 転 換 を 含 む 。) に 伴 っ て 生じた損益である。 ② 外貨建基準は,為替差損益の処理方法とした二取引基準を採用している。二取引基準 とは,輸出入等外貨建取引(財貨取引)とそれに伴って生じる売掛金や買掛金などの代 金決済取引とを別個の取引と見なして会計処理を行う方法である。 ただし,有価証券の強制評価減から生じた差額は,為替差損益ではなく,当期の有価 証券評価損として処理する。 ③ 次に「設例」によって見ておこう。 - 19 - 【設例−1】 金銭債務の処理 11/1 銀 行 よ り 次 の 借 入 を し た 。 借 入 額 $ 10,000 利 率 年 4% 利 払 日 期 間 1 年 間 ( 翌 年 10/31 返 済 ) 直 物 為 替 相 場 $ 1 = ¥120 3/31 決 算 日 直 物 為 替 相 場 $ 1 = ¥123 10/31 返 済 日 直 物 為 替 相 場 $ 1 = ¥124 仕 訳 : 11/ 1 3/31 10/31 期日に元利合計 当 座 預 金 1,200,000 短期借入金 1,200,000 この日のCRで換算し記帳する。 $ 10,000*¥120=¥1,200,000 為 替 差 損 12,500 短期借入金 30,000 前 払 費 用 17,500 債務額を,決算日のCRで換算し,債務額を修正する。 $ 10,000* ( ¥124-120 ) *=¥30,000 差 額 の 計 上 に 当 た っ て は , 経 過 期 間 (5 カ月 )に 対 応 す る 分 を 当 期 の 為 替 差 損 と し , 未 経 過 ( 7 カ月 )分 を 繰 り 延 べ る 。 ¥30,000*5/12=¥12,500 ¥30,000*7/12=¥12,500 支 払 利 息 20,500 未 払 利 息 20,500 利払いは返済日に元利合計で行われるが,経過期間の5カ 月分は当期の費用として計上しなければならない。 ¥1,230,000*0.04*5/12=¥20,500 短期借入金 1,230,000 当 座 預 金 1,240,000 為 替 差 損 27,500 前 払 費 用 17,500 元金の返済は,返済日のCRで行う。この場合,前期の決 算で計上され期間配分した前払費用の処理と当期分としての 為替差損の計上をしなければならない。 $ 10,000*¥124=¥1,240,000 為 替 差 損 ¥27,500= $ 10,000 * ¥124 - ¥1,230,000 + ¥17,500 未 払 利 息 20,500 当 座 預 金 49,600 支 払 利 息 28,933 利息の支払は,支払日のCRで行われる。前期の負担分 を控除して差額が当期の費用となる。 $ 10,000 * ¥124 * 0.04 = ¥49,600 【設例−2】 満期保有目的債券の処理 満期保有目的債券のデータ: 取 得 日 H12.4. 1 取 得 原 価 $ 97,000 直 物 為 替 相 場 $ 1= ¥122 額 面 総 額 $ 100,000 約 定 金 利 年 0.05% 利払年2回 9月3月の各末日 満 期 日 H15.3.31 <償却原価法は簡単化のため定額法による> 決 算 日 H13.3.31 直物為替相場 $ 1= ¥124 期中平均相場 $ 1= ¥123.8 期 末 時 価 $ 97,500 H14.3.31 直物為替相場 $ 1= ¥123 期中平均相場 $ 1= ¥122.9 期 末 時 価 $ 98,600 - 20 - 仕 訳 : H12.4. 1 H13.3.31 H14.3.31 投資有価証券 11,834,000 当 座 預 金 11,834,000 C R で 換 算 し 記 帳 す る 。 $ 97,000 * 122=11,834,000 投資有価証券 123,800 有 価 証 券 利 息 123,800 償却原価法による処理は,定額法による。換算には,A Rが適用される。 $ ( 100,000-97,000 ) /3*123.8=123,800 投資有価証券 133,200 投 資 有 価 証 券 評 価 益 133,200 帳簿価額と換算額との差が評価益となる。 $ 124*97,500 − ( 11,834,000+123,800 ) = ¥132,200 決算整理仕訳ではないが,利息受取の仕訳は次のように な る 。 $ 100,000*0.05*124*6/12=¥310,000 当 座 預 金 310,000 有価証券利息 310,000 投資有価証券 122,900 有 価 証 券 利 息 122,900 $ ( 100,000-97,000 ) /3*122.9=122,900 投資有価証券 47,900 投 資 有 価 証 券 評 価 益 47,900 $ 123*98,600 − ( 11,834,000+123,800+122,900 ) = ¥ 47,900 なお,利息受取の仕訳を示せば次のようになる。 当 座 預 金 307,500 有価証券利息 307,500 $ 100,000*0.05*123*6/12=¥307,500 第6節 為替予約の処理 ① 為替予約とは,為替業務を行う銀行との間で,企業が将来に外貨と日本円を交換する ときに適用される為替相場を現時点で前もって契約しておくことをいう。外貨を取引対 象としたデリバティブの一種である。 ② 為替予約をしておけば,将来,為替相場がどのように変化しても,前もって契約して おいた先物為替相場を適用して取引の決済をすることができる。 為 替 予 約 が 付 さ れ た 外 貨 建 取 引 の 会 計 処 理 に は 振 当 (フリアテ)処 理 と 独 立 処 理 が あ る 。 ど ちらを採用してもよい。 ③ 振当処理は,為替予約で確定した日本円の額で外貨建取引を記録する方法であり,独 立処理は,外貨建取引と為替予約を別個の取引とみなして会計記録を行う方法である。 ④ 為替予約は外貨建取引の最初から付されることもあれば,当初は為替予約を付さない で,為替レートの同行を見ながら,途中で為替予約を付すケースもある。 途中で為替予約を付した場合には次の二つの差額が生ずる。 ( 1 ) 取 引 発 生 時 と 予 約 時 の 直 物 レ ー ト か ら 生 ず る 「 直 直 (ジキジキ)差 額 」 (2) 予 約 時 の 直 物 レ ー ト に よ る 換 算 額 と 予 約 し た 先 物 レ ー ト に よ る 換 算 額 と の 差 額 「 直 先 (ジキサキ)差 額 」 ⑤ 「直直差額」は,予約時の為替差損益として処理する。 「直先差額」は,一旦,資産又は負債として処理し,決済日までの期間に配分する。 ⑥ 次に,設例によって見ておこう。 【設例−3】 為替予約を伴う処理 11/1 銀 行 よ り 次 の 借 入 を し た 。 借 入 額 $ 10,000 利 率 年 4% 利 払 日 期 日 に 元 利 合 計 期 間 1 年 間 ( 翌 年 10/31 返 済 ) 直 物 為 替 相 場 $ 1 = ¥120 12/1 上 記 の 借 入 に 対 し て 為 替 予 約 を し た 。 振 当 処 理 に よ る 。 直 物 為 替 相 場 $ 1 = ¥122 先 物 為 替 相 場 $ 1 = ¥123.5 3/31 決 算 日 直 物 為 替 相 場 $ 1 = ¥123 直先差額の処理は月割り計算で行う。 10/31 返 済 日 直 物 為 替 相 場 $ 1 = ¥124 - 21 - 仕 訳 : 11/ 1 12/ 1 3/31 10/31 ※ 当 座 預 金 1,200,000 短期借入金 1,200,000 この日のCRで換算し記帳する。 $ 10,000*¥120=¥1,200,000 為 替 差 損 20,000 短期借入金 35,000 前 払 費 用 15,000 直 直 差 額 $ 10,000* ( ¥120.0*122.0 ) = - ¥20,000 直 先 差 額 $ 10,000* ( ¥122.0*123.5 ) = - ¥15,000 為 替 差 損 6,250 前 払 費 用 6,250 月 割 計 算 ¥15,000*5/12 = ¥6,250 為替予約は割当処理をすることになっているので,借入金 の換算処理は行われない。 支 払 利 息 20,500 未 払 利 息 20,500 利払いは返済日に元利合計で行われるが,経過期間の5カ 月分は当期の費用として計上しなければならない。 ¥1,230,000*0.04*5/12=¥20,500 短期借入金 1,235,000 当 座 預 金 1,235,000 本設例は振当処理によっているので,元金の返済は,為替 予 約 ( 12/1 )の F R で 行 わ れ る 。 為 替 差 損 8,750 前 払 費 用 8,750 期間配分された直先差額を為替差損勘定へ振返る。 為 替 差 損 ¥8,750= ¥15,000 - 6,250 未 払 利 息 20,500 当 座 預 金 49,600 支 払 利 息 28,933 利息の支払は,支払日のCRで行われる。前期の負担分 を控除して差額が当期の費用となる。 $ 10,000 * ¥124 * 0.04 = ¥49,600 円 安 ・ ド ル 高 傾 向 に あ る 場 合 に は , 本 例 12/1 の よ う な 為 替 予 約 を し て お け ば , 返 済 日 の C R ¥124 の と こ ろ F R ¥123.5 で 決 済 で き る た め , $ 10,000* ( ¥124.0-123.5 ) =5,000 の 支 出 を 抑 え る こ と が 出 来 た こ と に な る 。 つ ま り , リ ス ク ・ ヘ ッ ジ 額 ¥5,000 と い う わ け で あ る 。 - 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