郊外における大型店舗撤退とその跡地利用に関する研究

郊外における大型店舗撤退とその跡地利用に関する研究
A study on the Closure of Suburban Large-Scale Stores and Land Use afterward
03M43116
早乙女
祐基
Yuki Saotome
指導教員
Adviser
中井
検裕
Norihiro Nakai
SYNOPSIS
This paper aims to analyze the characteristics of the closure of suburban large-scale stores,
and to investigate the land use afterward. Urban decay has been occurring in local cities’
center while shopping malls and retail stores shift further and further out to the suburbs. The
upsurge of superstores has forced many other stores to be closed, leaving the abandoned
building that could lead to blighted areas, and therefore could cause the suburban decay.
As a result, it is clarified that about 10% of closed stores are derelict. The ruins of those
abandoned building also involve the risk of illegal waste dumping and crime radiating.
However local government have not taken prompt measures toward this issue.
2 章 大型店の新規出店傾向
2 章では 2000 年大店立地法施行後の大型店の出店傾向を
まとめる。
2-1 近年の全国大型店出店数の変化
全国におけ
1400
郊外幹線道路沿型
る大型小売店の
郊外住宅街型
1200
店 舗 数 を 2000
商店街型
年に施行された
駅前・駅周辺型
1000
ターミナル型
大店立地法以前
その他
800
のものも含め図
1 に示す。2000
600
年には大店法の
400
枠組みでの駆け
込み出店も見ら
200
れ、その反動で
0
2001 年 か ら の
新設届けが極端
に減っている。
図 1:立地特性に着目した大型店の出店
しかしながら大
型店の出店数は徐々に増加しており、大店法廃止以前と同
程度まで戻った。これらの動きは法改正による過渡期とし
ての影響が大きかったが、今後は現状の数値が維持され安
定すると予想される。
2-2 都道府県別の大型店出店数
大店立地法第 5 条第1項(新規出店) (5)に関する届出は
施行以降、2005 年 8 月現在までに 3063 件提出されている
(表 1 新規店欄)。届出数を都道府県別に見ると上位には関
東圏内の地域が多く含まれる。中でも郊外化の著しい埼玉、
神奈川、千葉、茨城は顕著であり、これらに東京を加えた
エリアに全国で新設される大型店のうち約 4 分の 1 が集中
している。関東圏以外では大阪、愛知、兵庫、福岡、北海
道など大都市を抱える地域が上位を占めている。それぞれ
名古屋市、神戸市、福岡市と北九州市、そして札幌市の市
内の中心部と郊外双方に大型店の展開が進んでいると考え
られる。
19
95
19
96
19
97
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19
99
20
00
20
01
20
02
20
03
20
04
1 章 はじめに
1-1 研究の背景と目的
全国の地方都市では中心市街地からの店舗の撤退、人口
流出、人口の高齢化、地価の下落、土地の権利関係の複雑
化といった悪循環が繰り返され依然として衰退の一途をた
どっている。その一方で人口の郊外への移動、大型商業施
設や病院、福祉施設、学校等の公的機関の郊外展開も進み
都市機能の郊外分散が進展してきた。特に大型商業施設の
数は増え続け、さらなる郊外化、大型化が著しい。それに
ともないオーバーストア状態が続いており、多くの大型店
が撤退している現実もある。大型店撤退後の跡地利用につ
いてはあまり考慮されていない。2000 年に中心市街地活性
化を目的とするまちづくり三法の一つ、
「 大規模小売店舗立
地法」
(以下、大店立地法)が施行された。大型店の立地に
際して「周辺地域の生活環境を保持」するためのものであ
り、これは大型店撤退後の跡地環境には特に配慮されてい
ない。
大型店撤退後の跡地の利用状況によっては周辺地域の環
境を悪化させ、撤退する大型店が増加することが郊外全体
の衰退に繋がる可能性もあり、大きなリスクになると考え
られる。そこで本研究では全国の撤退した大型店舗の立地
特性に着目し、郊外における撤退店舗の状況を把握する。
さらにその後の店舗の入れ替わり状況を把握し、跡地利用
の現状を把握する。各自治体への実態調査と意識調査を踏
まえ、大型店撤退後の跡地利用の方法について検討してい
くことを目的とする。
1-2 既存研究
店舗の集積、分布、業種等の研究 (1) は多くみられる。撤
退に焦点を当てた研究は国谷(2002) (2) の研究があるが、業
種特性に着目した研究であり、また大型店の撤退に焦点を
当てた井上ら(2002)の研究 (3) は対象地は全国だが中心市街
地にのみ焦点を当てている。郊外における大型店の撤退に
注目し、さらにその後の跡地利用についても言及した研究
は見られない。
2-3 郊外に立地する大型店の傾向
大店立 地法 施 行以降 に新 規 開店す る店 舗 の立地 特性 を
みると郊外幹線道路型の割合が減ったものの依然として郊
外沿線道路立地型の優位は変わらない(図 1)。郊外立地は
「郊外幹線道路沿型」と「郊外住宅地型」が該当し、2004
年でも約 6 割が郊外に立地しており大型店立地の主流とな
っている。
しかし、2005 年に福島県、兵庫県では中心市街地の再活
性化を目指して大規模商業施設の郊外出店を規制する動き
が見られた。福島県では店舗面積 6000 ㎡以上の大型店の郊
外出店を規制する全国で初の「まちづくり条例」を 2006
年 10 月より施行する。兵庫県では尼崎市、姫路市など県内
14 市町と組み店舗面積 1 万㎡以上の大規模商業施設を対象
に都市計画による郊外出店規制を行う。さらに 2007 年の都
市計画法改正によって大規模集客施設(床面積 1 万㎡超)
の郊外立地が規制されることで出店数に変化が出てくると
考えられる。
表 1:都道府県別にみた大型店出店数と立地特性に着目した撤退
数と大型小売店新設数
新規店
北海道
青森県
岩手県
宮城県
秋田県
山形県
福島県
茨城県
栃木県
群馬県
埼玉県
千葉県
東京都
神奈川県
新潟県
富山県
石川県
福井県
山梨県
長野県
3 章 大型店の撤退状況
岐阜県
店舗面積を基準値以下に変更する際に大店立地法第 6 条 静岡県
愛知県
第 5 項(撤退と縮小) (4) の届出を義務付けられており、3 三重県
章ではこの提出状況を基に調査を行う。そして郊外におけ 滋賀県
京都府
る大型店の撤退状況を把握し、また法 5 条第 1 項(新規出 大阪府
店)と照らし合わせることで撤退後の大型小売店新設の有 兵庫県
奈良県
無を調査する。
和歌山県
3-1 全国における大型店の撤退
鳥取県
大型店の撤退を都道府県別にみると圧倒的に関東圏内に 島根県
岡山県
多く集中しているが(表 1 撤退店欄)、これらは新規出店数 徳島県
も多い地域である。関東圏外においても北海道、大阪、愛 山口県
広島県
知、福岡と大都市を抱える地域が同様の動きを見せている。 香川県
また、撤退率(撤退数/新規出店数)を比較すると、北海 愛媛県
道、中部地方での割合が高い。他地域と比較して近年に撤 高知県
福岡県
退が頻繁に繰り返されている地域だと言える。
佐賀県
長崎県
3-2 郊外における大型店の撤退
熊本県
撤退した郊外の大型店の立地特性を調査する。
大分県
調査方法は大店立地法の施行以降、2005 年 8 月迄に提出 宮崎県
鹿児島県
された法第 6 条第 5 項に関する届出の中から店舗の撤退に
沖縄県
該当する 451 件を対象とする。届出の各住所より地図上に
て立地を判別し郊外か市街かに分類する。市街は「駅前・
駅周辺・商業集積地・中心市街地活性化区域内」とし郊外
は「それ以外の地域」とする。住所の確認が出来ない場合、
判別が不可能な場合は不明とした。
既存大型店の約 5 割強が郊外住宅地や郊外幹線道路沿等
の郊外に立地し、約 2 割強がターミナル周辺、駅前・駅周
辺の市街地に立地する。これを踏まえると立地特性に着目
した全国における撤退は市街地からの撤退の割合が高いこ
とがいえる(表 1 撤退店欄)。一般的に中心市街地の大型店
の撤退は、同地域の衰退と密接に関係があり、今回の調査
でも市街地からの撤退数が多いことがわかる。東京を除け
ば福島、長野、愛知、山口では明らかに市街地の撤退数が
郊外の撤退数を上回っており、中心市街地の衰退が著しい
地域と考えられる。
一方で群馬、埼玉、千葉、静岡、兵庫、岡山、では郊外
における撤退数が市街地からの撤退数よりも明らかに多い。
これらは郊外の開発が進んでいる地区であり郊外に立地す
る大型店が多く、不採算店の整理が進んだ結果だと考えら
れる。
郊外において撤退は 2000 年の大店立地法施行以降、年々
約 50 店の撤退が起きている。2003 年には 313 店舗、2004
年には 426 店舗が郊外に新規出店しているが(図 1)、一方で
156
55
47
79
39
41
55
110
65
75
184
161
171
123
82
25
39
33
40
60
60
93
146
50
25
32
133
134
34
31
20
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48
71
57
20
24
46
22
117
28
29
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36
40
30
31
3063
撤退店
市街 郊外 不明
14
19
1
4
2
7
1
4
3
1
1
3
1
6
3
1
1
2
2
7
25
1
3
10
1
5
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13
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8
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2
4
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1
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1
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8
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3
2
12
14
3
2
1
3
1
1
5
2
165
2
256
後継店
計 撤退率 市街 郊外 不明 計 後継率
33 21%
1
1
3%
5
9%
9 19%
1
1 11%
5
6%
1
1 20%
4 10%
5 12%
9 16%
1
1
2 22%
4
4%
2
3%
33 44%
3
3
9%
14
8%
1
3
4 29%
19 12%
1
1
5%
12
7%
2
1
3 25%
23 19%
5
5 22%
15 18%
2
2 13%
3 12%
4 10%
1
1 25%
2
6%
2
5%
1
1 50%
17 28%
12 20%
1
2
3 25%
25 27%
1
4
5 20%
39 27%
2
3
5 13%
7 14%
1
3
4 57%
2
8%
11 34%
19 14%
1
1
1
3 16%
14 10%
1
3%
2
6%
1
1 50%
0%
3 14%
1
1 33%
14 29%
2
2 14%
1
1%
13 23%
1
5%
8 33%
1
1 13%
4
9%
2
2 50%
5 23%
1
1 20%
29 25%
1
1
2
7%
0%
3 10%
2
4%
3 11 31%
0%
0%
1
5 16%
30 451
10
42
3 55
同じ郊外にて年間約 50 店の撤退が確認されることは決し
て少なくない数字だと言える。
店舗面積に注目してみると(表 2)、郊外における撤退店
は 1000 ㎡~2000 ㎡の店舗が 5 割を占め、市街地からの撤
退店や既存店よりも割合が高い。郊外大型店の巨大化が進
んでおり、 表 2:立地特性別の店舗面積
撤退店
比較的小
既存店
市街地
郊外
規模の大
1000㎡~2000㎡
59 36% 127 50% 7923 42%
型店が不
2000㎡~3000㎡
23 14% 58 23% 3727 20%
採算店と
3000㎡~5000㎡
29 18% 34 13% 2791 15%
5000㎡~10000㎡
37 23% 25 10% 2341 13%
なり撤退
10000㎡~20000㎡
14 9% 11 4% 1349
7%
が進んだ
20000㎡~
2 1%
0 0% 637
3%
結果と言
計
164
255
18731
える。
3-3 撤退後の大型小売店の新設
法第 6 条第 5 項(撤退・縮小)の届出住所と法第 5 条第
1 項(新規出店)の届出住所を照らし合わせ、撤退後に同
住所に新設される大型小売店を後継店として有無を明らか
にした(表 1 後継店欄)。この際、建物の建て替え、区画変
更、敷地変形は問わない。全体的な傾向として、郊外にお
ける大型店の撤退跡地では大型店を新設しやすく、市街地
0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
50
55
60
65
70
75
80
85
90
9
105
0
部分では大型店が再度新設しにくいことがわかる。これは
新設する大型店の約 6 割が郊外立地を選択していることか
らも明らかである(図 1)。また市街地においては土地の取得
が困難なために新設することが容易ではないと考えられ、
特に中心市街地では大型店撤退後の跡地は未利用の状態が
続き大きな課題として残っている。
また埼玉や千葉といった東京近郊の郊外発展が進んだ地
域や、岐阜、三重では大型小売店の後継率(後継店数/撤
退数 )が高い値を示し大型店の入れ替わりが頻繁に行われ
9
ている
ことが
8
わかる。 7
撤退
6
後に大
5
型小売
4
店が新
3
設され
2
るまで
1
の期間
0
0
6
12
18
24
30
36
42
48
を図 2
(ヶ月)
に示す。
図 2:撤退から大型小売新規店入店までの期間
平均期
間は 10 ヶ月で、建物の建て 替え、改装期間を考慮しても比
較的スムーズな移行がなされている地区は多いが、18 ヶ所
は 1 年以上の空白期間があり、未利用地として空店舗が放
置される可能性もあったと考えられる。
3-4 撤退大型店の滞在年数について
大店立地法が施行された 2000 年以降の撤退が見ら れる
大型店について、それぞれの開店時期 を基に滞在年数をみ
る (図 3)。滞在が 20 年以上の店舗については郊外、市街地
ともに 25
同じよ
市街
うな傾 20
郊外
向にあ
るが、 15
20 年
未満の 10
店舗で
は市街
5
地での
数が減
0
少し安
定して
図 3:立地特性別撤退店舗の滞在年数
いる。
滞在年数 が 20 年未満の郊外大型店が店舗の入れ替 わりを
早めてい ると 考えられる。
郊外立地の中でも滞在期間が 20 年以上の店舗と 20 年未
満の店舗を比較すると(表 3)、20 年未満の店舗でホームセ
ン ターの割合が非常に高くなっているが、他の業態では大
きな違いは見られない。ホームセンターはドラッグストア
等との競争激化で不採算
表 3:郊外大型店の滞在年数別
店も増加し、2005 年度に
店舗業態
初めて全国の店舗数が減
店舗業態 20年以上 20年未満 計
少している。専門店も 1
スーパー
90
37 127
その他
0
1
1
万㎡を超える大型化、さ
ホームセンター
23
20 43
寄合百貨店
4
4
8
らには複合化の傾向にあ
小売市場
2
0
2
り、郊外型消費を先行し
生協
5
3
8
専門店
38
21 59
てきたホームセンターの
百貨店
1
0
1
事業モデルに転機が訪れ
不明
7
0
7
総計
170
86 256
ていると予想される。
4 章 撤退後の跡地利用について
4 章では大店立地法より撤退が確認された店舗跡地の
それぞれの利用について調べる。またアンケート調査より
跡地利用について自治体の対応や方針を明らかにし、今後
の郊外土地利用について考察する。
4-1 群馬県における大型店撤退後の跡地利用
群馬県において、大型小売店の新設 が見られず郊外にお
ける大型店撤退後の跡地利用状況を調査した。 群馬県の選
定 理由としては以下の二つが挙げられる。
・ 撤退率が最も高い(新規出店数に対して撤退数が極め
て多い(表 1)
・ 大型小売店後継率が低い(撤退後に同規模同業種の店
舗が再度新設 される割合が低い(表 1)
これらより郊外における大型店の撤退が危惧される地域で
ある と考えられる
調査の結果は、住宅地 3 ヶ所、運送所 2 ヶ所、娯楽施設
5 ヶ所、店舗 5 ヶ所 、オフィス 1 ヶ所、その他 2 ヶ所、未
利用地は 1 ヶ所のみであった。店舗以外の利用について詳
細は以下のようになる。
①未利用地
藤岡市の自動車部品店舗 が閉鎖されたまま空店舗として
放置されてい る。建物壁面、看板には落書等が一面に施さ
れ 、故意に荒らされた形跡がある。周辺には割れた窓ガラ
スや、使用されていた事務機器等が散乱している。また腐
食により崩壊が始まっている箇所もあり危険な状態である。
廃棄物も未だ放置されたままの状態で外部から更に廃棄物
が持ち込まれる可能性も考えられる。敷地内だけでなく周
辺にも破損した廃車等も放置されており周辺一体の景観が
大きく損なわれている。
誰もが立ち入ることが可能な状態で空店舗が放置されて
おり、廃棄物の不法投棄、犯 罪の発生につながる可能性が
あり一刻も早い対処が必要であろう。
②住宅地
大型店の敷地が大きいのでゆとりのあ る区画で戸建住居
が並ぶ。店 舗が存在した面影もなく周辺も整理され周囲と
馴 染んでいる。1 ヶ所は数棟のアパートも併設されており
住居の需要が高い立地だと思われる。
③運送所・オフィス
利用者が限られた施設なので市街地か らは離れた場所に
立地する。外側を塗り 替えて撤退店の建物をそのまま利用
し ている地区もあった。
4-2 跡地利用状況
大店立地法の届出より郊 外に撤退のみられる大型店を抱
える自治体に対して 、撤退後の土地利用状況、撤退情報の
把 握時期、自治体としての跡地利用方針、跡地利用未決定
の場合の対応、空店舗放置地区への処置、郊外出店規制等
の項目が改正される都市計画法についての意識調査を行っ
た。
調査内容
時期:2006 年 1~2 月
対象:大店 立地法第 6 条第 5 項に関する届出の中から撤退に該当
する店舗を 2 件以 上抱える 33 市町村(該当店舗 108 店)
方法:アンケート票
回収率 : 76%(25/33)
4-2-1 跡地利用状況
大型店撤退後の跡地利 用としては(表 4)店舗としての利
用が最も多く 6 割以 上を占める。しかしながら撤退前と同
様の小売店が新設されているのは僅か 3 割で、最も多いの
がパチンコ、ゲームセンター、インターネットカフェとい
った娯楽施設で 5 割以上を占めている。現在新設される大
型小売店はさらに郊外に立地し 1 万㎡を超える規模の大型
表 4:跡地利用状況
複合商業施設等へと移行する傾向にあ
現状
計
るため、調査対象となった大型店では
店舗
37.5
それらにシェアを奪われ業態の転換が
住宅地
5
事業所
4.5
起きたと予想される。特に対象となっ
学習塾
1
ている店舗面積は主に 1000~3000 ㎡
倉庫
1
規模であり、大型店の中では小規模で
道路
2
更地
2
ある。これらの規模と立地から現在の
福祉施設
3
ところ若年層の生活に密着した娯楽施
閉鎖店舗放置
1
※1地区に複数の利用があっ
設としての利用が有効な手段である場
た場合は、利用種数で割った
合が多いと考えられる。
数値で表します。
店舗以外の利用として最も多かったのは住宅地であり、
郊外への人口流出が見られる。郊外店の大型化によ り大型
店がさらに郊外へ進出する中で、住宅地も未だ郊外に拡大
していると言える。
対象店舗撤退後の地区で閉鎖店舗放置は少ないが、本調
査の回答から撤退の届 出が無い大型店の跡地でも空店舗の
放置された地区 10 ヶ所存在することが明らかになった。こ
れより、大型店撤退後に空店舗として放置される割合は 1
割以上であることが言える。大規模小売店で撤退の際に大
店立地法への届出がなされていない店舗も存在することが
わかり、その中に空店舗が放置されている店舗の割合が高
いと考えられる。
4-2-2 自治体の方針と対応
①自治体として跡地 に期待する利用の方向性
各店舗撤退後の跡地利用に 向けて「特に方針は無い」が
約 5 割、
「商業以外への用途転換(住宅、駐車場 等)をしても
跡 地が有効に利用されればよい」が約 3 割であった。跡地
利用については業種や用途を問わず、特別な方針も概ね無
いことがわかった。撤退後の跡地が利用されず空店舗が放
置される可能性がある場合でも特に利用に関する方針は無
いのでそのままになる可能性が高いことが分かった。
表 5:自治体の各店
②大型店の撤退を把握した時期
舗の撤退把握時 期
自治体が撤退の事実を把握する時
撤退把握時期 地区数
期は約 5 割が「撤退後」であり、 事
6ヶ月以上
11
前 に把握している場合でも「撤退前
1~6ヶ月前
9
1ヶ月未満前
11
1 ヶ月以内」と直前の場合が多い(表
撤退後
29
5)。事前に跡地利用について考慮で
きるだけの時間的余裕があるケースは 極めて少なく、跡地
利用が定まらず空店舗の放置に繋がる 場合でも情報の把握
が間に合わないため未然に防ぐことも困難な状況であるこ
とがわかった。
③未利用地への対応
撤退前と撤退後 共に跡地利用が未決定な場合、自治体が
テナント探しに関与す ることは全く無いことがわかった。
ま た既に空店舗が放置されていることが把握できている地
区でも自治体としての対応は全くなされていない。
総じて大型店撤退後の跡地に空店舗が放置される可能性
があるとしても、自治体はその情報を把握する時期が 遅く、
特 別な対処をすることもないのが現状であり空店舗の放置
を避けることは難しい。空店舗の放置は跡地が荒れていく
危険性を伴うので未然に防ぐ仕組みが必要だろう。また既
に自治体として把握している地区は土地所有者へ更地に戻
す等の提案や、外部から敷地内へ侵入を妨げ、不法投棄等
がなされないような対策を施し跡地の荒廃を防ぐことが必
要である。
4-2-3 都市計画法改正に向けて
2007 年より 中心市街地活性化に向け、都市計画法と中心
市街地活性化法が改正され郊外へ の大型店の出店が規制さ
れる。調査では各自治体は改正に関して賛否両論であった。
賛成派としては「自治体側からの規制に限界を感じ法律に
よる制限に期待している」という意見が多い。しかし立場
的には賛成ではあるが「市街地への機能集積をスムーズに
進めるためには土地流動性を促進する税制への移行や制度
整備等の具体的な手段が必要である」と市街地での具体的
な整備体制を求める意見もある。福島県や兵庫県等で独自
に規制を始める自治体もあるが、郊外へ拡大される無秩序
な開発を抑制したいと考えている自治体は、この法律改正
が有効な手段であると捉えている。
一方反対派としては「全国一律ではなく、それぞれの地
域の実状に合わせた制度が必要」とい う意見が多い。大型
店 出店規制を行っても中心市街地の高齢化や土地の権利関
係の複雑さを懸念して賑わいが戻るとは考えにくい状況に
あるようだ。また改正は市場の競争原理を無くす結果とな
り、失う利益が大きいとも考えられている。
5 章 結論と今後の課題
本研究の結論は以下のようにまとめられる。
・ 郊外大型店の撤退は店舗面積が 1000 ㎡~2000 ㎡規模
の割合が高い。
・ 撤退後に同様の大型小売店が新設されるのは約 1 割の
みである。
・ 大型小売店撤退後の跡地は約 6 割が店舗として利用さ
れるが、業種 としては娯楽施設が最も多い。
・ 未利用地に空店舗が放置されている地区は約 1 割だが、
一度放置されると荒廃が進みやすい。
・ 空店舗が放置された場合敷地内が荒らされ周辺にも悪
影響を及ぼすが、これらを未然に防ぐ手 立ては無い。
・ 都市計画法改正に向けて大型店の撤退を多く抱える自
治体では賛否両論である。
今後の課題は、本研究では大型小売店を対象としたが商業
施設 が多様化しているので網羅的 に見ていく必要があると
考えられる。また、跡地の権利を持つ土地所有者には触れ
ていないので、所有者の意識調査も必要である。また本年
の都市計画法改正により大型集客施設の郊外立地が規制さ
れ、大型化の傾向にある郊外の商業施設に大きな影響を与
えると予想される。規制に伴い郊外既存店の見直しがされ
れば本研究で対象となった店舗の跡地も需要が高まること
が予想される。
【補注】(1)竹林 和彦(2003)
「大型小売店を中心とした郊外商業集積の立
地特性 : 群馬県を事例として」日本地理学会発表要旨集
(2 )国谷航介(2002)「商業集積地の衰退に関する研究―店舗の分布変化およ
び業種特性から見た分析―」
(3)井上芳恵、中山徹(2002) 「大型店撤退に関する研究- 撤退大型店の特
徴及び行政の対応策-」日本都市計画学会論文集
(4)<大店立地法第 6 条第 5 項>
大規模小売店舗内の店舗面積の合計を第三条第一項の基準面積(同条第二
項の規定により他の基準面積が定められた区域にあ っては、当該他の基準
面積)以下とする者は、その旨を 都道府県に届け出なければならない。
これにより大型店(床面積が 1000 ㎡以上)は店舗の縮小及び撤退の際にこれ
を届け出なければならない。
(5) <大店立地法第 5 条第 1 項>
大規模小売店舗の新設(建物の床面積を変更し、又は既存の建物の全部若
しくは一部 の用 途を変更す る こ とにより大 規模 小売店舗と なる 場合を含
む。以下同じ)をする者(小売業 を行うための店舗以外の用に供し又は供
させるため その 建物の一部 の新 設をする者 があ るときはそ の者 を除くも
のとし、小売業を行うための店舗の用に供し又は供させるためその建物の
一部を新設する者又は設置している者があるときはその者を含む。(以下省
略)
【参考文献】
1)「全国大型小売店総覧 2000~2006」(東洋経済新報社)
2)大 規模小売店立地法第 5 条 1 項届出状況(経済産業省)
3)大規模小売店 立地法第 6 条 5 項届出状況(経済産業省)
4)「経済産業省」 http://www.meti.go.jp/ (2005 年 12 月現 在)
5)「中心市街地活性化推進室」http://chushinshigaichi-go.jp/ (2006/2 現在)
6)「財団法人国土地理協会」http://www.kokudo.or.jp/top.htm (2006/2 現在)
7)「 Yahoo! Japan MAPS」(アルプス社)http://map.yahoo.co.jp/ (2006/2 現在)