カルフールが席巻するアジアの流通再編

戦略ケース
カルフールが席巻するアジアの流通再編
アジア各国で欧米小売業主導 図表1アジア主要国の人口・経済規模
の流通近代化、企業の再編が進ん
人口 GNP GNP
実質GDP成長率
でいる。アジア経済危機以降、現
地小売業の地盤沈下、景気回復の
ための外資直接投資の自由化が
進み、外資小売業の事業展開が各
国で本格化した。99 年以降の急
速な景気回復に対応し、現地資本
単位
,000
日本
126,413
韓国
46,430
台湾
21,871
タイ
61,201
マレーシア 22,180
/人口 96年 97年 98年 99年 00年
$bil
$
% % % % %
4,089 32,350 3.5 1.8 -1.1 0.8 1.7
399 8,600 6.8 5.0 -6.7 10.9 8.8
268 12,265 6.1 6.7 4.6 5.4 6.0
132 2,160 5.9 -1.4 -10.8 4.2 4.3
81 3,670 10.0 7.3 -7.4 5.8 8.5
出典 : 国連「Population and Vital StatisticsYearbook1997」
世界銀行「The World Bank Atlas 2000」
IMF「International Financial Statistics」
の小売業が積極的な出店戦略を
取れない状況にある中で、外資小売業が積極的な出店を進めた結果である。中でも注目で
きる企業はカルフールで、既に台湾小売業の No.1、韓国のディスカウントストア業態の
No.2の地位を占めるに至っている。
この論文では韓国、台湾、タイ、マレーシアについて、各国の外資参入状況を整理し、
外資小売業の成功条件を明らかにする。
1.カルフール、テスコ、ウォルマートが流通再編を主導する韓国
韓国では経済危機以降、デパートからディスカウントストアへと小売業の主役が移行し
つつある。このような状況下で、カルフール、テスコ、ウォルマートといった外資小売業
が重要な地位を占めるようになった。まずその過程を、次にその要因を整理する。
(1)財閥主導の都市開発と百貨店の成長
韓国の流通業は、財閥主導で発展してきた。90 年代半ばまで、経済成長に伴いソウル周
辺のいくつものニュータウンが建設された。そのニュータウン計画を受注した財閥が、ニ
ュータウンごとに百貨店を建設し、百貨店中心の流通構造が形成されてきた。したがって、
90 年代に入るまでチェーンストアオペレーションの基に、効率的に経営される近代的な小
売業は育ってこなかった。
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1
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図表2韓国の流小売業上位5社(1997 年)
US$ million
Facia
Format
Operater
Lotte
Shinsegae
Keum Kang
New Core
LG Mart
Department stores
Department stores
Department stores
Department stores
Convenience stores
Lotte Group
Shinsegae Group
Keum Kang
New Core Group
LG Group
Turnover Number
of
1,887
12
1,394
10
1,052
13
818
14
815
1658
出典:「Retail Trade International -South Korea」(1998)Euromonitor
図表3韓国ディスカウントストア上位5社(1999 年)
US$ million
Facia
Format
Operater
Eマート
カルフール
キムズクラブ
ハナロクラブ
マグネット
Discount Stores
Discount Stores
Discount Stores
Discount Stores
Discount Stores
Lotte Groupe
Carrefour
New Core Group
Lotte Groupe
Turnover Number
of
1,400
19
832
11
557
14
544
3
529
8
出典:「The List of Powerful Retailers at Home」(2000.1) Discount Merchandiser
(2)アジア経済危機と百貨店再編
97 年のアジア経済危機は、このような脆弱な流通業に大きな打撃を与えることになった。
IMFプログラムが導入され、銀行融資が縮小。その結果、財務状況の悪化から 43 社あっ
た百貨店のうち、実に 23 社が倒産した。いくつかはロッテ、現代、新世界の3グループに
買収され、現在、同3グループへの集中化が進んでいる。
(3)ディスカウント業界の成長に乗った外資小売業
このように韓国小売業の主役であった百貨店の再編が進む中、大きく成長したのがディ
スカウントストア業態である。新世界百貨店が 96 年にEマートを出店して以来、消費者の
低価格志向に対応し急速に成長。その 2000 年の販売額は 101 億米ドルと百貨店の2/3に
まで成長した。この急成長の原動力となっているのが新世界グループ、ロッテグループと
いった現地資本とカルフール、テスコ、ウォルマートといった欧米の流通業である。
(4)現地化によるカルフールの躍進
ディスカウントストア業態における主な外資小売業の 99 年の順位は、カルフール2位
(11
店)、テスコ6位(2店)
、ウォルマート7位となっている。特にカルフールが業態2位と
いうポジションを占めていることが注目できる。その要因は、韓国の有力小売業の倒産し
強力な競合企業が消滅しただけでなく、カルフールが現地市場に適応した業態フォーマッ
トを確立したからである。
進出当初、カルフールのオペレーションは韓国の市場に合わず、95 年は 10 億ウォン、
96 年は 21 億ウォンの赤字を計上した。これは、4号店までの店舗は2万SKU以上の品揃
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2
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えと、1,000 台以上の駐車スペースを持つフランス流の店舗フォーマットであった。このよ
うなフランス流品揃えが韓国消費者に受け入れてもらえなかったことに加え、地代が高か
かったことが収益を圧迫した結果である。しかし、5号店以降カルフールは業態フォーマ
ットを大きく転換。現地流の品揃えに転換すると共に、テナントとして商業施設に入るス
タイルで現地化を果たした。そして、97 年以降黒字化を達成、現在はハイパーマートを 20
店舗展開している。
一方、三星グループのディスカウントストアに資本参加し市場参入したテスコも、事業
を順調に展開しつつある。
当初は 51%の出資比率だったものを現在は 81%にまで引き上げ、
経営権を完全に握っているが、三星流通事業部出身の社長の基に現地化を進め、現在7店
のハイパーマートを運営している。
2.カルフールが小売業 No.1の地位を占める台湾
台湾では他国に先駆けて、86 年に外資の自由化が行われた。この自由化政策を受け、現
地の製造業や不動産業が積極的に外資を誘致し、流通の近代化を進めてきた。現在は、日
系百貨店主導の初期の流通近代化を経て、カルフールやマクロなどハイパーマーケット業
態を中心にした流通近代化の第二段階に移行しつつある。これまでの経緯と、外資が席巻
することになった要因を整理する。
(1)自由化に伴う外資の参入
台湾の流通の近代化は、86 年5月に「サービス業外国資本自由化」法案が成立したこと
で、大きく加速することとなった。それまでにも、80 年に米サウスランド社とフランチャ
イズ契約した統一(英語表記:President)グループよるセブン・イレブンの展開や、台北
農産運銷公司が経営する初期スーパーの成功に刺激された現地財閥の小売業への進出など
があり、CVSやSM主導の小売の近代化が進んでいた。そこに、外資自由化が加わり流
通の近代化がスピードが加速したのである。
図表4台湾の小売業売上上位5社(1996/7 年)
US$ million (1US$=33.06NT$)
Facia
Format
Operater
Turnover Number
of
Seven Eleven Convenience stores President Chain Store
878
1478
Carrefour
Hypermarkets
Carrefour/President
726
14
Makro
Cash & carry
Makro Taiwan
569
7
Far Eastan
Department stores Far Eastan
555
14
Mitsukoshi
Department stores Shin Kong Mitsukoshi
429
5
出典:「Retail Trade International - Taiwan」(1998)Euromonitor
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(2)日系百貨店・食品SMが主導した 80 年代後半
初めは、日系百貨店や食品SMが流通の近代化を主導した。百貨店では、そごう、三越、
高島屋、伊勢丹、阪神、東急の6社が進出、SMではフレッセイ、いなげや、カスミ、丸
久、サミット、ジャスコ、ヤックス、オリンピック、スーパートップの9社が進出した。
流通近代化の波に乗ろうとした現地企業が日本企業を積極的に誘致したためである。しか
し、これらの企業のうち東急、サミット、ジャスコ、ヤックス、オリンピック、スーパー
トップは既に撤退、現在でも百貨店のうち 1 社、SMの4社が赤字であるという。多くの
日本企業が、現地企業の誘致があった際に十分な調査をせずに出店したり、採算性を確か
めもせず家賃の高い都心の一等地に出店したためである。
(3)小売業No.1になったカルフール
一方、近年になって躍進してきたのが統一グループと組んで 89 年に進出したカルフール
である。96 年度には全 21 店で売上 240 億元、台湾小売業 No.2に躍進、99 年度には全 24
店で売上 387 億元(1,355 億円)にまで売上を伸ばし、台湾小売業 No.1の地位を占めるに
到っている。
カルフールの台湾での成功は、業態フォーマットを多様化し現地化を進めた結果である。
大きく分けて三つのフォーマットがある。第一に 3,000 坪型のハイパーマーケット、第二
に 1,500 坪型のスーパーマーケット、第三に工場地域に出店する会員制のホールセールク
ラブである。あくまで欧州型ホールセールクラブのスタイルを貫くマクロが売上を減少さ
せているのと対照的である。
3.欧州系企業が市場をリードするタイ
90 年年代中頃までの、タイの主要小売業は地元資本の百貨店で占められていた。しかし、
97 年の経済危機以降その勢力図は大きく変わり、欧州系のディスカウントストアが主要な
地位を占めるようになった。96 年は小売業上位5社の内3社を地元資本の百貨店が占めて
いたが、98 年は上位5社の内3社を欧州系ハイパーマートが占めるに至っている。その過
程を整理する。
(1)低価格ニーズと現地資本の小売撤退
90 年代後半に、地元系百貨店から欧州系ハイパーマートへ主導権が移行した背景には、
第一に低価格ニーズの拡大、第二に現地資本の小売撤退がある。97 年の経済危機により、
消費者の低価格ニーズが高まり百貨店の売上は激減、過去3年に渡り平均 16%のペースで
減少している。一方で、売上を伸ばしているのがマクロ、ビッグC(カジノ)、ロータステ
スコ、カルフール、オーシャン、トップス(アホールド)、フード・ライオン(デレーズ)
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等の欧州系のディスカウントストアや食品スーパーである。現在これらの企業で現地資本
と合弁企業はマクロのみで、他全てが欧州企業の 100%子会社となっている。99 年に外資
自由化が実施され、経済危機により業績が悪化した提携先の現地企業が株式を欧州のパー
トナーに売却したためである。
図表5タイの小売業売上上位5社(1998 年)
US$ million
Facia
Format
マクロ
Discount stores
ビッグC
Discount stores
ロータステスコ Discount stores
セブンイレブン Convinience Stores
セントラル
Department stores
Operater
サイアムマクロ
カジノ
テスコ
CPセブンイレブン
セントラルグループ
Turnover Number
of
666
17
470
20
391
17
288
1200
276
14
出典:Ministry of Commerce, press, Reuters Business Briefing,and informed traders Press,
Reuters Reuters Business Briefing, trade and executive interviews
(2)景気回復の追い風
その後の、景気回復という追い風もあるり、欧州系小売業のその地位を確かなものとし
つつある。現在、タイは耐久消費財の普及期にあり、経済危機以降の金利水準の低下、売
上税の減税と相まって消費が急速に回復、GDP成長率も 99 年 4.2%、00 年 4.3%と 98 年
の−10.8%から大きく回復している。この堅調な個人消費を背景に、00 年はロータステス
コが6店、カルフールが2店と、現地資本ライバルのいなくなった所で店舗拡大を進めて
いるのである。
(3)収益性を分ける現地化の程度
このように、拡大を続ける欧州系小売業だが、98 年度に利益を挙げたのはマクロだけで
ある。韓国では撤退、台湾ではカルフールに差を付けられたマクロだが、タイでは他社に
先駆けて 89 年にに進出、合弁運営の強みを生かし現地市場への適応果たした結果、参入初
年の 89 年から利益をあげているのである。一方、
カルフールは店舗数が少ないこともあり、
未だ現地型フォーマットを開発できずにいる。
4.外資の本格展開が始まったマレーシア
マレーシアでも、経済発展と消費者の所得水準の向上に伴い、小売の近代化が進みつつ
ある。政府の国内資本優遇策もあり、その担い手はこれまでブミテラ(マレー人)と中国
系マレー人であった。しかし、アジア経済危機以降、現地資本の投資余力が低下、政府の
外資に対する規制が弱まり、外資の本格的な展開が始まろうとしている。その過程を整理
する。
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(1)都市部における近代小売業の誕生
60 年代初頭までは、マレーシアの近代小売業は、外国人や地域の裕福層をターゲットに
する少数の百貨店とSMにより構成されていた。しかし、60 年代後半に入ると急速な都市
化と人口の増加を受け、現地中流層を新たなターゲットに地元資本の百貨店、SMが出店。
さらに、SPAジョルダーノ(香港)、CVSのセブンイレブン等が出店し、多様な近代的
小売チェーンが誕生した。その結果、95 年には 289 店の百貨店、1,430 店のSM、326 店
のCVSが展開するに至っている。この近代化を牽引してきたのがマレー系、中国系の地
元資本であり、それぞれが所有する店舗が小売業全体に占める割合は 37.1%、55.0%である。
特に、政府の優遇策もありマレー系資本の比重は 90 年の 31.0%から急速に拡大した。
図表6マレーシアの小売業売上上位5社(1996/7 年)
US$ million
Facia
Format
Parkson
The Store
Seven Eleven
Ayamas
George Town
SM,DP,CVS
SM,DP
CVS
SM,DP
Chemists,DP
Operater
Turnover Number
of
Parkson
168
52
The Stoer Co.
166
33
Antah Holdings
113
101
Ayamas
84
43
George Town Holdings
81
34
出典:「Retail Trade International - Malaysia」(1998)Euromonitor
(2)規制緩和で本格化する外資大型店の出店
90 年代に入るとマレー系資本の地位が若干低下し始める。消費者のワンストップニーズ
の高まりと、政府の外資に対する規制緩和から、ディスカウントストアやハイパーマーケ
ットなど外資系大型店の出店が本格化。ハイパーマーケットは 97 年から 98 年に 15 店から
25 店に拡大した。60 年代末以降、外資に対する規制を強めていたマレーシア政府であった
が、97 年のアジア経済危機以降は地元資本の投資意欲の低下から、政府方針を転換。法律
上、外資の出資費率は 30%以下に抑えなければいけないことになっているが、マクロ 60%、
カルフール 70%、ジャイアントTMC(香港)90%のように例外的なケースでも許可が下
りるなど、規制が緩和される方向にある。この結果、99 年には大型店(1万m2 超)25 店
のうち 16 店を外資が占めることになった。
(3)課題の残る今後の展開
現在マレーシアで展開しているハイパーマーケットは、マクロが7店(93 年進出)、カル
フールが6店(94 年進出)
、香港のジャーデン・マセソングループのジャイアントが3店(95
年進出)である。これらの店舗は、現地の低所得者層もターゲットに展開しようとしてい
るが、未だフォーマットが定まらず苦戦しているようである。未だ経済規模が小さく中流
層層の少ないマレーシアで、どのようなフォーマットが適合するのか、その開発が今後の
課題である。
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5.外資小売業の市場参入の条件
韓国、台湾、タイ、マレーシアにおける外資小売業の参入状況を見てきた。韓国、台湾
では外資が市場を席巻していることが確認できたが、タイ、マレーシアでの地位はまだ確
立したとはいえない。さらに、韓国や台湾でも個別企業の格差は大きく、全ての外資系小
売業が成功しているとはいえない。なぜこのような違いが起きたのか、市場毎のポジショ
ンの差、企業毎の業績の差、それぞれの要因について整理し、その上で外資小売業の海外
市場参入の成功条件を明らかにする。
(1)流通発展段階で分かれる外資の市場ポジション
まず、国ごとのポジションの差の要因を明らかにするため、市場環境の共通点と相違点
を整理する。共通点としては、現地小売業の地盤沈下や現地資本の積極誘致、外資直接投
資の自由化がある程度あり、外資が参入しやすい条件が揃っていた点、急速な景気回復に
伴い大量出店しやすい環境が整っていた点が挙げられる。相違点としては、ハイパーマー
ケットのような業態がターゲットとする中流人口と、流通業近代化の程度の2点が挙げら
れる。このふたつの差異が、外資のポジションの違いを生じさせていると考えられる。
第一に、韓国や台湾はタイ、マレーシアと比べ経済レベルが高く中流人口が多い。した
がって、ハイパーマーケットのような大型店の出店余地が大きく、進出企業が多店舗展開
する過程で現地化を進めつつ、規模の生産性追求するだけの余裕が小売市場に存在する。
一方、タイ、マレーシアでは大型店の出店余地はまだ小さい。
第二に、韓国や台湾では中流層の拡大に伴い、小売の中心が百貨店からディスカウント
ストアへの転換しつつあることである。ハイパーマーケットは、増加する中流層を獲得し
つつ店舗拡大ができた。一方、流通発展の初期段階にあるタイ、マレーシアでは中流層を
獲得を、百貨店と奪い合う結果になった。低価格ニーズが高まっているとはいえ、限られ
たパイを奪い合わなければならない以上、急速な拡大は見込めない。
したがって、外資の参入が成功するには、参入しやすい環境と出店後の経済成長がある
だけでなく、ハイパーマーケットがターゲットとする中流人口の絶対数と業態構造の転換
が必要だと考えられる。
図表7各国の業態別出店限界
韓国
高い
台湾
高い
タイ
中程度
マレーシア 低い
外資ポジション
外資の 中流層 経済 地元資本の 外資
概要
業績
人口 成長性 地盤沈下 自由化
カルフールが小売業No.1
○
○
◎
あり
○96年
カルフールがDSのNo.2
◎
○
○
なし
◎86年
小売業の上位3社
△
△
○
あり
○99年
×
○
あり
△
大型店でのみ上位を占める ×
チャネル
構造
百貨店→DSへの転換
百貨店→DSへの転換
流通近代化初期段階
流通近代化初期段階
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(2)現地化の程度で異なる企業の収益性
次に、業績の差の要因を整理する。韓国や台湾のカルフール、タイのマクロのように市
場参入に成功する企業がある一方、韓国のマクロ、台湾における日系SMのように撤退し
た企業も多い。その成否を分けたのが、現地化の程度であると考えられる。日本国内にお
いても食品SMでナショナルチェーンは存在しない。日本国内において生鮮流通の地域性
が高いことが大きな要因だが、国が異なればなおさらのことである。このような現実を考
慮せず、本国フォーマットで押し通そうとした企業が、収益を出せずに撤退しているので
ある。
典型的なケースとして、中国事業から撤退したオランダのアホールドがある。アホール
ドは中国企業との合弁で上海にスーパーマーケットのトップスを最大時で 45 店舗展開して
いたが、99 年8月、アホールドの持つトップスの株式全てを中国側パートナーへたった1
米$で売却、中国事業から撤退した。アホールドは、値ごろな価格で生鮮を提供し、現地
企業に対しても競争力を持っていたのだが、まず、
1)欧米の設備を使ったため初期投資とオペレーションコストが現地水準とかけ離れた
水準にあった
2)ヤオハンから買収した店舗の家賃水準が高く収益性を圧迫していた
という問題があった。そのうえ、店舗フォーマットの多様化ができなかったため、多店
舗展開による中国事業建て直しの目処も立たなかった。中国ではチェーンオペレーション
を支援する各種の補助システムが存在しない。したがって、チェーンオペレーションの基
に本部主導で素早く現地の動向に対応するという戦略は取れない。したがって、ある程度
は個店に裁量を持たせた展開が必要なのでが、アホールドでは単一フォーマットで展開す
る前提のもと、柔軟に現地の動向に対応できなかったのである。
(3)外資参入の成功条件と日本企業アジア進出失敗の要因
以上のことから、外資参入の成功条件として以下の4点に集約できる。
1)不況などで、現地小売市場に参入余地ができること
2)その後、経済成長などにより出店余地が拡大すること
3)業態構造の転換に合った業態で進出すること
4)店舗フォーマットを現地化すること
この四つである。カルフールはこの4条件を満たし、韓国、台湾市場で主要な地位を占
めるに至った。翻って、日本企業のこれまでのアジア市場の進出結果をみると散々な結果
に終っている。まず、単純に現地資本の誘致案件に乗り、中流人口の絶対数が少ないうち
にGMSや食品SM等、あまり粗利の大きくない業態で出店した。当然、売上は低調なこ
とが予想されるが、それにも拘わらず家賃の高い商業集積地に出店した。結局、90 年代半
ばまでに進出したGMSやSMの多くは撤退することになったのである。
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6.日本市場への外資参入成功の可能性
ところで、上記の外資参入の成功条件を日本にあてはめると、2)の「経済成長による出
店余地の拡大」以外の全てがあてはまることが分かる。百貨店、GMS業態の衰退から日
本市場では、商圏人口 10 万人∼50 万人程度の大規模商圏で、小売の空白遅滞が誕生しつつ
ある。現在、その空白地にユニクロなどSPA、コジマ電器など家電量販、マツモトキヨ
シなどドラッグストアといったカテゴリーキラーが出店を進めている。日本の景気は低迷
傾向にあるとはいえ、消費市場は巨大で、その空白地への出店余地は大きいからである。
したがって、経済成長がなくても、カルフール等の外資企業が多店舗展開する中で日本市
場を学び、日本型店舗フォーマットを開発するだけの余裕が存在すると考えることができ
る。現在、幕張店や南町田店の状況が芳しくないことから、カルフールの日本参入が失敗
するだろうと評価をする人もみられる。しかし、韓国や台湾のケースをみると、外資(特
に、カルフール)の市場参入の成否を、1店舗、2店舗の段階で判断するのは早計である
ことが分かる。日本市場で欧米巨大小売業が足場を確保する可能性は十分に考えられるの
である。
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