大木曽水路再整備等に係る技術専門委員会 報告書【概要版】 大木曽水路再整備等に係る技術専門委員会 はじめに 大木曽水路は、加古川から取水した農業用水路の最下流部(排水 路)として高砂西港に流入している水路です。 昭和 48 年に大木曽水路の底質から高濃度の PCB が検出されたこと から、昭和 54 年に底質土を固化処理するとともに、水路表面にアス 加 古 川 ● ファルトパネルを設置する対策が行われ今日に至っていますが、改 荒井駅 修後約 30 年が経ち、水路に敷設されたアスファルトパネルの破損が 目立っています。 ● このことは、地元説明会や市議会特別委員会からも水路再整備に 高砂駅 対する意見や指摘をいただいています。 大木曽水路 なお改修後、継続実施している水路水,地下水,大気の調査で PCB は検出されていません。 高砂西港 大木曽水路位置図(流域) 一方、平成 17 年に策定された“高砂みなとまちづくり構想”にお いて、高砂西港再整備が構想を実現するための先導プロジェクトの一つに位置づけられました。(p8 参照) そして、高砂西港の活性化を図ることを目的として「高砂西港再整備推進協議会」が設置され、 平成 21 年 4 月に報告書「未来に向けた高砂西港みなとづくり」が取りまとめられました。 報告書では、平成 20 年代中期を目標とした、盛立地対策、港湾整備、親水空間及びアクセス計画 の方向性が明らかにされましたが、高砂西港からのアクセス道路のひとつに位置づけられた都市計 画道路 沖浜平津線は、高砂墓地や大木曽水路等の課題があることから、今後、中長期的に周辺のま ちづくり等に合わせた検討が必要となるとされました。(p8 参照) これらのことから、「大木曽水路再整備の方法」及び「高砂西港から沖浜平津線(南工区)までの 道路整備計画」を検討するため、各分野の専門家による技術専門委員会を設置し、必要な調査、概 略設計等を行い、水路再整備計画及び道路整備計画として取りまとめたものです。 大木曽水路再整備等に係る技術専門委員会 藤 田 正 憲 環境分野 大阪大学名誉教授 会 長 近 藤 勝 直 交通分野 流通科学大学情報学部教授 副会長 常 田 賢 一 地盤分野 大阪大学大学院工学研究科教授 委 員 道 奥 康 治 水理分野 神戸大学大学院工学研究科教授 委 員 開催経過 ○ 第1回 ○ 第2回 ○ 第3回 ○ 第4回 ○ 第5回 H21.8.21(金) ・現地視察 ・委員会スケジュール確認 ・現状と経緯の確認 ・現地調査計画検討 H22.1.27(水) ・調査結果確認 ・整備の方向性検討 H22.4.20(火) ・整備計画(案)検討 H22.5.25(火) ・整備計画(案)とりまとめ H22.6.24(木) ・整備計画とりまとめ 1 目 次 1 水路現況調査 ・・・・2 2 土質、土壌・分析調査 ・・・・2 3 水路再整備計画 ・・・・4 4 道路整備計画 メンテナンスと モニタリング 参考資料 ・・・・6 5 ・・・・8 ・・・・8 1 水路現況調査(平成 21 年 11 月実施) (1) 調査結果 右 損傷箇所(幅 1cm 以上) 岸 左 岸 合 計 161箇所 146箇所 307箇所 97箇所 67箇所 164箇所 18箇所 5箇所 うち、幅 0.1m 以上・長さ 1.0m 以上 うち、背面土砂流出 23箇所 (2) 結果の考察 水路に敷かれたアスファルトパネルの損傷が激しいため、再整備等の対策が必要である。 (3) 損傷の原因 ① 露出していることで、紫外線による劣化や温度による膨張収縮が影響したと考えられる。 ② アスファルトパネルの斜面施工の限界(1:1.5)を上回る 1:1 の勾配を適用したことで 無用な力が作用したと考えられる。 ③ 損傷によりヨシの根が土壌に活着した結果、ヨシの地下茎によってさらに損傷が進行し たと考えられる。 2 土質、土壌・分析調査(平成 21 年 11 月実施) (1) 固化処理土土質調査(4地点 12 箇所の試料で実施) 固化処理土の強度を確認するため、採取試料を用いて一軸 圧縮試験を実施した。なお、試料採取箇所は、昭和 54 年当 時の処理厚及び工法を考慮して選定した。 試験箇所における一軸圧縮強度は、256.8~4,842.1kN/㎡ (平均: 1,432.8kN/㎡)であり、昭和 54 年の施工直後の試験 値である 118.6~490kN/㎡(平均:184.2kN/㎡)を上回った。 一軸圧縮強度試験状況 (2) 底質(水路内の 4 箇所において底質試料(ヘドロ)を採取) ① PCB 含有試験結果【暫定除去基準未満】 分析値は、1.1~1.3mg/kg の範囲であった。 (底質の暫 定除去基準;10 mg/kg) ② PCB 溶出試験結果【定量下限値未満】 溶出試験結果はすべて ND(定量下限値未満)であった。 (定量下限値;0.0005mg/L) 底質採取状況 2 (3) 植物(水路内に生育しているヨシを 2 箇所で採取) ○ 試験を行った2試料の PCB 含有濃度は、0.02mg/kg、ND(定量下限値未満) ※ 植物に対する PCB の基準値は存在しないため、食品基準と の比較を行った。 「食品中に残留する PCB の規制について(S47.8.24 厚生省環 境衛生局長)」において、最も厳しい暫定的規制値は、液体 では「牛乳;0.1ppm(mg/kg)」、固体では「育児用粉乳・卵類; 0.2ppm(mg/kg)」、 「遠洋沖合魚介類・肉類;0.5ppm(mg/kg)」 であり、今回のヨシの分析値はこれらを下回っている。 (その他 内 海 内 湾 魚 介 類 ; 3ppm(mg/kg) 、 乳 製 品 ; 採取試料 1ppm(mg/kg)、容器包装;5ppm(mg/kg)) (4) 固化処理土(4地点 12 箇所の試料で実施) ① PCB 含有試験結果 分析値は、ND(定量下限値未満)~180mg/kg であった。 ② PCB 溶出試験結果 全ての試料が ND(定量下限値未満)であった。 (5) 水路水 (PCB 濃度,塩分濃度) 試料採取状況 ・南側水門前の水 水路底固化処理土採取中:PCB 濃度、塩分濃度<Cl-> 水門開放直前 :PCB 濃度 ・上流側湧出水 :PCB 濃度、塩分濃度<Cl-> ① PCB 全ての試料で ND(定量下限値未満)であった。 ② 塩化物イオン(Cl-)濃度 南側水門前の水 ; 2,100mg/L 上流側湧水 ; 150mg/L 海水が希釈されていることを確認 海水ではないことを確認 <参考>;水道水 Cl-;200mg/L 以下、海水 Cl-;19,000mg/L 前後 (6) 満潮時・干潮時及び降雨時におけるCOD、窒素、リン(水路内 3 箇所で採水) ○ 市内の他の河川等と比べて特別な値ではなかった。 (他の河川と同様の水質であった。 ) 水質分析結果一覧表(採水日;H22.1.5(干潮時・満潮時)、H22.4.12(降雨時)) 項 料 水路水 上流 干潮時 中流 下流 上流 満潮時 中流 下流 上流 降雨時 中流 下流 目 試 採取時刻 7:30 7:20 7:10 15:25 15:15 15:05 15:05 15:15 15:30 定量下限値 最 大 最 小 水温(℃) 6.7 6.6 6.1 6.4 8.1 7.4 16.5 16.0 16.5 COD 3.8 3.8 5.4 6.2 4.9 4.2 5.1 5.3 5.0 全窒素 全リン 測定値(mg/L) 1.2 0.055 1.1 0.072 1.3 0.14 1.2 0.073 1.1 0.11 1.1 0.093 0.72 0.16 0.72 0.18 0.72 0.18 0.5 6.2 3.8 0.05 1.3 0.72 3 0.003 0.180 0.055 南側(下流側)水門 開 放 閉 鎖 開 放 (7) 結果の考察 ① 固化処理効果の状況について 大木曽水路周辺で継続的に実施している地下水調査で PCB が検出されていないことに加 え、今回の PCB 溶出試験結果が全て ND(定量下限値未満)であったこと、また水に関して も PCB が検出されなかったことから、固化処理の効果は現在も維持されていると考えられ る。 ② 外力による固化処理土の変形・土砂化による固化処理効果への影響について 固化処理土の溶出試験に用いた試料は、採取した試料を細かく粉砕(粗砕き+2mm 目ふ るい通過)して周囲の水との接触面積が大きくなった状態にして分析を行っているが、PCB の溶出は認められなかった。 このことから、今後、地震や荷重などの外力によって固化処理土が粉砕され、水との接 触面積が増えても PCB が溶出することはないと考えられる。 3 水路再整備計画 (1) 地震による固化処理土への影響 ① 液状化について 大木曽水路下のボーリング調査(昭和 51 年実施)の結果から、地震時に液状化を起こす 可能性はあると考えられる。 ② 液状化時の現象 ・地盤流動の可能性 当該地盤は地盤流動化が生じる地盤と考えられるが、水路最下流部に支持地盤まで 設置された鋼矢板によって流動化は抑制される。 ・固化処理土下の液状化による水路法面の安定性と固化処理土への影響の可能性 液状化が発生した場合、噴砂、噴水の発生あるいは水路部の法面保護工の変形とい った小規模な損傷は予測されるが、水路及びその後背地は全幅に渡り固化処理土で被 覆されていること、盛土(覆土)厚さが薄い(1m程度)ことから、全体として安定 的な構造であるので、水路法面のすべり発生の恐れは尐なく、固化処理土の噴出とい った変状の恐れもないと考えられる。 (2) 固化処理土対策の方針(固化処理土の考え方) 水路の敷地に存在する固化処理土への対応方法によって水路配置が大きく左右されること から、固化処理土対策案について、 「全量撤去対策」、 「分解処理対策」及び「現地封じ込め対 策」の比較検討を行った結果、大木曽水路再整備における固化処理土対策案は、固化処理土 の上部を遮水シート等で覆う「現地封じ込め対策(上部被覆方式) 」が優位であると評価でき る。 したがって、大木曽水路の再整備にあたっては、水路表面を耐久性があり、かつ固化処理 土の水路内流入を防止できる材料で被覆するなどにより、現在も維持されている固化処理の 効果をさらに継続させる。なお、固化処理土の掘削・移動は原則行わない。 4 (3) 水路の考え方 ① 排水機能が必要であることから、損傷が激しい水路の再整備を行う。 ② 水路の断面は、流量計算の結果、流下能力 1.3 ㎥/s を有するものとする。 (最下流部暗渠の能力) ⇒ 現況水路断面の縮小が可能になり、掘削がほとんど不要になる。また、緩やかな斜 面勾配が確保できる。 ③ 水路の位置は原則として現在の位置とする。 ④ 水路断面の形状は、開水路を基本とする。 ⑤ 水路表面の被覆は、耐久性、親水性のある材料を使用する。 (4) 水路再整備計画 固化処理土の考え方及び水路の考え方を踏まえ、水路再整備計画を次のとおり定める。 Ⅰ 水路の配置は、現在の水路の範囲を基本とする。 Ⅱ 整備計画地内での固化処理土の掘削・移動は原則行わない。 Ⅲ 水路表面は、耐久性のある材料で被覆する。 Ⅳ 水路は開水路を基本とし、緩やかな斜面勾配を用いる。 Ⅴ 水路再整備にあたっては、高砂西港再整備等と連携した親水機能に配慮する。 【参 考】 水路再整備のイメージ例 施工状況(例) 施工例 5 4 道路整備計画 (1) 道路の考え方 ① 高砂市臨海部の工業地域と市街地部を連絡する役割・必要性に加えて、沿道には大規模 な住宅団地が立地しており、住宅地域の生活関連車両が利用する役割・必要性も持つ。 ② 道路は、高砂西港再整備等を視野に入れた整備とし、事業効果の早期発現を考える。 ③ 将来交通需要予測の結果より約 4,500 台/日の交通量が見込まれ、適切な道路規模が 2 車 線相当であることから、都市計画決定(4 車線)より規模を小さくすることができる。 標準幅員構成(基本案;2車線+歩道) (2) 道路配置の検討 道路配置検討にあたっての支障物件等 ① 固化処理土 都市計画道路予定地は大部分が大木曽水路の水路敷であり、固化処理土が分布している。 ② 高砂墓地 墓石数は約 2,300 基である。 ③ 三菱製紙排水路・排水管 大木曽水路左岸には、三菱製紙排水路・排水管が埋設されている。 ④ 工業用水道 三菱製紙排水路・排水管と並行して大木曽水路左岸には、工業用水道管(DCIPKφ1100mm) が埋設されている。 ※ 今後の実施設計に向けて技術的な課題等を抽出することを目的として、次ページに6案 を選定した。(線形は、現在の都市計画決定区域内および高砂市有地(水路敷、高砂墓地、 市道)とした。なお、選定した 6 案は、今後の線形検討を制限するものではない。) (3) 道路整備計画 道路の考え方を踏まえ、道路整備計画を次のとおり定める。 Ⅰ 道路の配置は、利便性、周辺住環境への騒音・振動などによる影響等を考慮して検討 する。 Ⅱ 道路は西港再整備等を視野に入れた「実現可能な道路」として、適切な規模の道路整 備を考える。 Ⅲ 道路整備は水路再整備を踏まえて検討することとし、新たな環境被害発生のリスクを 抑えるため、固化処理土の掘削・移動を伴う工法は原則として採用しない。 Ⅳ 道路整備効果の早期発現を考え、移転に時間を要する墓地の通過は極力避ける。 6 ルート案 第1案 墓地通過案(都市計画決定区域内) 第2案 墓地迂回案 第3案 墓地迂回案(歩車道の左右岸分離) 第4案 大木曽水路迂回案(歩車道の左右岸分離) 第5案 大木曽水路渡河案 第6案 左右岸分離案 ※ 線形は、現在の都市計画決定区域内および高砂市有地(水路敷、高砂墓地、市道)とした。 なお、選定した 6 案は、今後の線形検討を制限するものではない。 ※ 概算事業費;350百万円~450百万円 概算事業費は、現時点で考えられるものについて積算した目安であり、今後の実施設計や 詳細調査等の結果によって確定させる必要がある。(道路費、水路再整備費、渡河構造 費、補償費) 7 5 今後の課題等 (1) 水路再整備について 水路再整備の実施にあたっては詳細な構造を決定する必要があるが、決定に際しての構造 条件は次のとおりである。 ① 固化処理土と分離できること ② 部材厚を小さくできること ③ 地盤にフレキシブルに対応できること ④ 腐食性のある材料を使用しないこと ⑤ 親水空間の創出に資する材料とすること ⑥ 水路の浮力に耐えられる構造とすること (2) 道路整備について 道路整備の実施にあたっての課題は次のとおりである。 ① 支障物件を避ける場合の曲線半径など、道路構造令の特例値採用の可否 ② 固化処理土に影響を与えない縦断構造と横断構造 ③ 固化処理土の掘削・移動を伴わない渡河構造 ④ 工業用水管(DClPKφ1100)及び三菱製紙排水路・排水管の補強、代替方策 ⑤ 大木曽水路上流側ゲート及び上流側水路の補強方策等 ⑥ 高砂墓地内にある墓石の移転、代替方策 ⑦ 大木曽水路沿い花壇の確保、代替方策 ⑧ 私有地を通過する箇所における代替機能の確保方策 6 メンテナンスとモニタリング (1) メンテナンス 水路及び道路について、巡視、点検、補修など、適切なメンテナンスを継続して行う。 (2) モニタリング 工事中及び工事完成後も、これまでと同様にモニタリングなど適切な管理を実施する。 特に地下水に関しては、昭和 51 年 1 月から大木曽水路周辺及び盛立地周辺で実施してきて いる調査に加え、水路下流端部にモニタリング井戸の設置を考える。 【参考資料】 高砂西港のリニューアルによる臨海部企業 の物流拠点と親水空間の一体整備 高砂みなとまちづくり構想(H17.7) 未来に向けた高砂西港みなとづくり(H21.4) 8
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