2.子ども虐待への対応に関する法律 子 ども虐 待 に関 連 する法 律 としては、主 として児 童 福 祉 法 と児 童 虐 待 防 止 等 に関 する法 律 があり ます。児 童 福 祉 法 は 2009 年 、児 童 虐 待 防 止 等 に関する法 律 は 2008 年 に改 正 されています。その 他 、民 法 や刑 法 、DV 法 、なども関 係 する法 律 です。ここでは、医 療 関 係 者 の対 応 に関 連 する部 分を 中 心 に記 載 しました。 1.通 告 義 務 1)早 期 発 見 の義 務 と疑 った時 点 での通 告 の義 務 児 童 福 祉 法 (以 下 、児 福 法 )25 条 ではもともと国 民 全 ての義 務 として、「保 護 者 に監 護 させることが 不 適 当 であると認 める児 童 を発 見 したもの」の通 告 義 務 がありましたが、それに加 えて、児 童 虐 待 防 止 等 に関 する法 律 (以 下 、防 止 法 )では5条 で、「学 校 、児 童 福 祉 施 設 、病 院 その他 児 童 の福 祉 に業 務 上 関 係 のある団 体 及 び学 校 の教 職 員 、児 童 福 祉 施 設 の職 員 、医 師 、保 健 師 、弁 護 士 その他 児 童 の福 祉 に職 務 上 関 係 のある者 は、児 童 虐 待 を発 見 しやすい立 場 にあることを自 覚 し、児 童 虐 待 の早 期 発 見 に努 めなければならない。」と規 定 され、病 院 や医 師 には早 期 発 見 の努 力 義 務 が課 されまし た。通 告 に関 しては改 めて6条 で「児 童 虐 待 を受 けたと思 われる児 童 を発 見 した者 は、速 やかに、こ れを福 祉 事 務 所 若 しくは児 童 相 談 所 又 は児 童 委 員 を介 して福 祉 事 務 所 若 しくは児 童 相 談 所 に通 告 しなければならない」と規 定 されています。ここで、「思 われる」とされているのは、 確 証 が無 くても通 告 が義 務 であることを明 確 化 しているのです。つまり、虐 待 は疑 った段 階 で通 告 する義 務 があるのです。 2)守 秘 義 務 との関 係 さらに、同 じ 6 条 で「刑 法 の秘 密 漏 示 罪 の規 定 その他 の守 秘 義 務 に関する法 律 の規 定 は、第 一 項 の規 定 による通 告 をする義 務 の遵 守 を妨 げるものと解 釈 してはならない」とされており、医 師 の秘 密 保 守 義 務 違 反 には当 たらないことが明 記 されています。 通 告 は単 に子 どもの住 所 氏 名 を伝 えるだけで はなく、当 然 、その事 件 に関 しての個 人 的 な情 報 を提 供 することが含 まれます。更 に、第 三 者 が通 告 した事 件 であっても、通 告 できる立 場 にある以 上 、虐 待 に関 して知 っている情 報 を児 童 相 談 所 に提 供 しても守 秘 義 務 違 反 にはなりません。 3)通 告 者 の保 護 虐 待 者 から危 害 を受 ける可 能 性 から、通 告 者 を保 護 するために防 止 法 では 7 条 で「通 告 をした者 を特 定 させるものを漏 らしてはならない」と定 めています。 しかし、医 療 機 関 の場 合 には、通 告 者 を秘 匿 することで虐 待 対 応 が困 難 になることのほうが多 いものです。通 告 した後 でも、その旨 を医 師 から親 に告 知 する方 がよいと考 えられるときには、積 極 的 に告 知 します。その際 、通 告 は親 を罰 するもので はなく、子 どもの安 全 を守 ることであり、虐 待 者 も支 援 を受 けることであることを意 識 しておくことが必 要 でしょう。なお、告 知 に当 たっては出 来 るだけ複 数 で行 うとよいでしょう。 2.子 ども虐 待 に関 しての国 および地 方 公 共 団 体 の施 策 への協 力 義 務 前 述 の防 止 法 5 条 では、早 期 発 見 の義 務 が課 されているもの(病 院 および医 師 が含 まれる)に対 し て「児 童 虐 待 の予 防 その他 の児 童 虐 待 の防 止 並 びに児 童 虐 待 を受 けた児 童 の保 護 及 び自 立 の支 援 に関する国 及 び地 方 公 共 団 体 の施 策 に協 力 するよう努 めなければならない」と定 められています。 3 3. 児 童 相 談 所 の権 限 に よ る 親 子 分 離 1) 一 時 保 護 と一 時 保 護 委 託 児 童 相 談 所 は子 どもが虐 待 を受 けていると考 えられるときには、親 が同 意 するときには もちろん、 親 が反 対 しても一 時 的 に保 護 する権 限 を有 しています(児 福 法 33 条 )。子 どもに医 療 行 為 が必 要 なと きには病 院 に一 時 保 護 委 託 をすることが出 来 ます。一 時 保 護 委 託 入 院 の場 合 には、親 は勝 手 に子 どもを退 院 させて引 き取 ることは出 来 ません。また、親 子 の接 触 は児 童 相 談 所 が介 入 することが出 来 ますので、児 童 相 談 所 とともに、面 会 の時 間 を制 限 するなどの対 策 が取 れます。一 時 保 護 は原 則 2 ヶ 月 以 内 ですが、必 要 に応 じて延 長 が可 能 です。 2)長 期 分 離 親 が同 意 しているときにはもちろん施 設 入 所 や里 親 委 託 による親 子 分 離 が可 能 (児 福 法 27 条 )で すが、親 が同 意 しない場 合 でも、家 庭 裁 判 所 に申 し立 てをして承 認 されれば 2 年 間 、子 どもを施 設 入 所 させての親 子 分 離 が可 能 です(児 福 法 28 条 )。2 年 後 に親 子 の状 況 を判 断 して、裁 判 所 に延 長 を 申 し立 てることも出 来 ます。家 庭 裁 判 所 の審 判 では、医 師 の診 断 書 や意 見 書 が重 要 な役 割 を持 つこ とがあります。虐 待 から子 どもを守 るために、診 断 書 や意 見 書 あるいは鑑 定 書 などの協 力 を惜 しまな いようにしたいものです。 3)一 時 保 護 中 や施 設 入 所 中 の子 どもへの医 療 行 為 一 時 保 護 委 託 や施 設 に入 所 中 の子 どもに、どの程 度 の医 療 行 為 が出 来 るのかは明 確 な規 定 はあ りません。一 般 には風 邪 や怪 我 の治 療 や侵 襲 の低 い検 査 やカウンセリングなどは施 設 の同 意 のみで 行 っています。しかし、できるだけ親 権 者 にも医 療 的 説 明 を行 い、治 療 の合 意 を得 ておくことが 求 めら れています。ただし、親 権 者 が反 対 していても緊 急 避 難 的 な医 療 行 為 は可 能 です し、親 権 者 が行 方 不 明 であったり服 役 中 の時 には、施 設 長 が親 権 の代 行 をするので、施 設 長 の許 可 で十 分 ということ になります。その他 の医 療 行 為 に関 しては、ケースごとに児 童 相 談 所 と相 談 しながら、対 応 を進 めて いく必 要 があります。なお、重 大 な医 療 的 問 題 に対 して、親 権 者 が治 療 を拒 否 するときには、医 療 ネ グレクトと考 えられます。親 権 者 職 務 執 行 停 止 決 定 (親 権 停 止 )もしくは親 権 喪 失 の申 し立 てを行 うこ とが必 要 な場 合 もあります。申 し立 ては、親 族 か検 事 (民 法 834 条 )、児 童 相 談 所 長 (児 福 法 33 条 の 6)などが行 えますが、手 続 きに時 間 がかかることや、その後 の継 続 的 対 応 をどうするのかといった問 題 があります。これまで、短 時 間 の保 全 処 分 で必 要 な医 療 を行 ったケースもあります。 4. 在 宅 支 援 への参 加 2004 年 の児 福 法 の改 正 で、在 宅 支 援 は主 として市 町 村 が中 心 となって、要 保 護 児 童 対 策 地 域 協 議 会 (以 下 「要 対 協 」)を作 って行 うことが定 められました(児 福 法 25 条 の2)。虐 待 を受 けた子 ども は、ここでいう「要 保 護 児 童 」であり、「要 対 協 」での対 応 が求 められています。医 療 機 関 や医 師 は、こ の「要 対 協 」の構 成 員 になることが期 待 されています。「要 対 協 」の構 成 員 は、「要 対 協 」で知 りえたこ とを外 部 に漏 らしてはいけないという守 秘 義 務 があります。そのことは逆 に、「 要 対 協 」の中 では要 保 護 児 童 やその保 護 者 と、それに関 する情 報 を交 換 することが出 来 ることになります。従 って、医 療 情 報 も提 供 することが出 来 ます。在 宅 支 援 は決 してやさしいものではなく、死 に結 びつく危 険 もあるので す。子 どもを守 るための積 極 的 参 加 が求 められます。 なお、在 宅 支 援 に当 たって、市 町 村 に医 療 情 報 を提 供 する場 合 、親 の許 可 があれば、診 療 情 報 提 供 書 として診 療 報 酬 を請 求 することが出 来 ます(「養 育 支 援 を必 要 とする家 庭 に関 する医 療 機 関 から 市 町 村 に対する情 報 提 供 について」平 成 16 年 3 月 10 日 雇 児 総 発 第 0310001 号 )。 5. 加 害 者 の処 罰 虐 待 対 応 では、子 どもの保 護 および親 のケアが重 視 され、加 害 者 の処 罰 は第 一 義 的 ではありませ ん。しかし、明 らかな刑 法 違 反 の場 合 、加 害 者 を処 罰 することで被 害 者 から遠 ざけたり、他 児 の被 害 を防 ぐためにも、刑 法 での処 罰 が求 められることがあります。身 体 的 虐 待 では傷 害 罪 、ネグレクトは保 護 責 任 者 遺 棄 、性 的 虐 待 は強 姦 罪 ・強 制 わいせつ罪 などの刑 法 罪 として 告 発 ができます。また、性 的 虐 待 では児 童 福 祉 法 違 反 での告 発 も可 能 です。しかし、性 的 虐 待 の場 合 には子 どもの負 担 も大 き いので、児 童 相 談 所 や弁 護 士 が関 与 している民 間 団 体 に相 談 することも、役 に立 つことがあります。 日本小児科学会子ども虐待問題プロジェクト、2006.4 4
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