「女性の再婚禁止期間の合憲性」

2010 年 5 月 6 日
(同年 6 月 10 日(木)発表・改訂版)
「女性の再婚禁止期間の合憲性」
Ⅰ.はじめに
私は、この判例以外にも再婚禁止期間の制度について、他国間でどのような違いがあ
るのか興味を持ったため今回のテーマを選んだ。
Ⅱ.事実
1.再婚の制限…再婚の制限として、民法は、男女を問わず再婚の自由を認めている
が、ただ女子が再婚する場合には、前婚の解消又は取消しの日から六箇月を経過した
後でなければならないものと定めている(733 条)。
この制限が、一般に、
「再婚期限」とか、「待婚期間」と呼ばれるものである。
2.歴史…元来、この再婚禁止期間の制度は、ローマ法に由来するものである。我が
国において、徳川時代には、女大学式の東洋倫理(結婚したら夫、両親、子に仕える三
重の教えを表す)から、女子の再婚は強く戒められていた。近代的再婚禁止期間の趣旨
が取り入れられたのは、明治初年に至ってからのことであって、再婚の自由を認める
と共に、それによって生ずる血統の混乱を避けることを唯一の目的として、法医学者
の意見を聴き入れ、六箇月の再婚禁止期間が定められた(旧 766 条)。改正民法にお
いても、この規定がそのまま踏襲されている(733 条)。
①
ローマ法…極く初期では、寡婦は夫の死亡後十箇月を経過しなければ、再婚をな
し得ず、これに違反した場合、婚姻は当然に無効とはならないが、公権剝奪又は財産
上の不利益等の制裁を被るべきとされていた。
②
教会法…一般に再婚を嫌忌したためかような制度を廃止。
③
封建法…寡婦に再婚することを強制し、ローマ法における如き再婚禁止期間の制
限を要求しないとする。
④
フランス民法…フランス民法制定に際してもローマ法と同様に夫の死亡後十箇
月は再婚禁止期間として採用。また、プロシャ法(九箇月)、ザクセン民法(一年)。
Ⅲ.比較法的概観
現在、多数の国では、女子に対し再婚禁止期間の制限を設けている。その中での主要
立法例を概観することとする。
-1-
① フランス…民法典は、寡婦、離婚婦ともに十箇月の寡居期間を定めたが、その後
改正が行われ、現在では極めて詳細な規定となっている。
先ず、女子は前婚の解消後 300 日を経過しなければ再婚し得ない(228 条)。寡婦の
再婚の場合において、300 日の期間は夫の死亡の日より開始する。但し、夫の死亡後
分娩のあった場合には、法律上当然にこの期間は終了し、寡婦は直ちに再婚が許され
る(228 条 2 項)
。
② ドイツ…女子は、前婚の解消又は無効宣告後十箇月を経過しなければ再婚をなし
得ない。但しその間に出産のあった場合には、その後は何時でも再婚が許される
(BGB1313 条 1 項、ナチス婚姻法 11 条 1 項)。この十箇月の待婚期間に対して
は、免除が認められている(同条 2 項)。
③ スイス…女子には、前婚の解消または無効宣告後 300 日間は再婚が禁ぜられてい
る(103 条 1 項)
。この 300 日の期間の計算は、夫の死亡の日または離婚判決の
確定の時より起算するが、ただ、この期間内に分娩のあった場合には、その時に
待婚期間は終了する(103 条 2 項)。
④ 北欧諸国…スェーデン、ノルウェー、デンマーク、フィンランドの四国共、一様
に女子に対し、前婚の解消後十箇月の待婚期間の制限を課している。この十箇月
の期間は、他の諸立法例と異なり、同棲廃止の時より起算するものとし、更に、
懐胎のないことが明確な場合または出産のあった場合には、待婚の必要なきもの
とする。
⑤ その他…ギリシャでは、十箇月(1365 条 1 項)、イタリアでは、300 日(89 条 1
項)
、オランダでは、寡婦は 300 日(91 条)、離婚配偶者は双方共に離婚判決登
録後一年(90 条)再婚し得ないものとし、ポルトガルでは、寡婦は 300 日(1233
条)
、離婚配偶者の中、夫は六箇月、妻は一年再婚し得ない。また、スペインに
おいては、寡婦は夫の死後 301 日の待婚期間に服すべきものとされている(45
条 1 項)
。
追記:ドイツ(ナチス)婚姻法には婚姻禁止要件として二つに分類されている。
(1) 延期的婚姻禁止…女子は、前婚の解消ないし無効宣告ののち 10 カ月を経過しない
うちは、つぎの婚姻をしてはならない。ただし、彼女がこの期間内に分娩したときは、こ
の限りではない。この適用除外づきの規定は、婚姻解消後にこの女子から生まれた子がな
お先夫の子であるか否か、の確定を容易ならしめるためのものである。
(2)
分離的婚姻禁止…婚姻法(および改正版)の効力発生以降は、つぎの二つが残ってい
る。すなわち、血族ないし姻族間の婚姻の禁止と、重婚の禁止である。これらの禁止に反
してなされた婚姻は無効である。また親族および婚族間の婚姻障害は、つぎの場合に成立
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する。すなわち、すべての直系血族相互間、全血か半血かを問わず、兄弟姉妹の間、たと
えば、妻の死亡後に妻の先婚の娘と婚姻しようと欲する場合のように、相互に直系姻族の
関係に立つ者の間がそれである。この最後の場合については、姻族関係の基礎となってい
る婚姻が解消されたのちにも、姻族関係は存続することに注意すべきである。
Ⅳ.民法 733 条の沿革と学説
まず旧民法は、再婚禁止期間を定めたが、そこでは、夫の失踪を理由とする離婚の
場合を除き、女子は前婚解消から四カ月内は再婚が禁じられ、この禁止は分娩の日か
ら止むとされた。そして、同条は「血統ノ混合ヲ防止スル」ことを目的とすると説明
されたが、同草案は、194 条で、婚姻中懐胎した子は夫の子と推定するものとし、150
条で、婚姻成立から 180 日後、婚姻解消から 300 日以内に生まれた子は婚姻中に
懐胎したものと推定すると定めたことから、父性推定(嫡出推定)が重複するのは計
算上 120 日間とみて、四カ月の禁止期間を規定した。しかしながら、この四カ月案に
対しては、短かすぎるとして、裁判所関係者からの批判が強かったのであり、具体的
には次のような点が問題とされた。すなわち、医学上は四カ月で妊娠の有無を診断で
きるとしても、世間一般に妊娠四カ月でこれを確知するのは難しい場合がある。女性
が妊娠に気付かずあるいはまたこれを秘して再婚して前夫の子を出産した場合には
不和を生じることも考えられるし、また草案 151 条では推定が重複した場合には裁判
所が決するとするが事実調査の困難も予想され、これら将来の紛争や照明上の困難を
できるだけ少なくするためには、「適当ニシテ且疑ナキ時間」を禁止期間として定め
ることが必要である。そしてまた、寄せられた意見の中には、わが国では一女両夫に
まみえるは一般人情の嫌忌するところであること、フランスなどのより長期の期間を
定める外国法制にならうのが妥当であること、などを主張するものがあった。
Ⅴ.おわりに
本判例とは違った視点、又は他国間での再婚禁止期間の制限について述べてきたが、や
はり前述にも書いた通り、民法 733 条で適用されているのを踏まえた上で懐胎や分娩のあ
った場合には、再婚禁止期間として六箇月の期間を置くことは妥当だと改めて実感した。
また、再婚禁止の必要のない場合を出来るだけ広く認めるべきだと思うし、少なくとも、
懐胎のない旨のある医師の証明のある場合などは、人の判断によるものであり、正確さに
欠けるおそれがあるので、婚姻届を受理し得るような実務上の取り扱いがなされるべきか
を容易に決定するのは芳しくないように思った。
<参考文献>
中川淳「再婚禁止期間の規定と憲法適否」戸籍時報 606 号 84 頁
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久貴忠彦「再婚禁止期間をめぐって」ジュリ 981 号 36 頁
『家族法大系Ⅱ』[1959]31 頁
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