茨城県工業技術センター 中期運営計画 はじめに 県は「中小企業基本法(昭和 38年 7月 20日法律第154号)」により,県の区域の自然的経済的社 会的諸条件に応じた施策を策定し,これを実施する責務を有すると規定されている。また, 「ものづ くり基盤技術振興基本法(平成 11年 3月 19日法律第 2号) 」では,県はものづくり基盤技術の振興に 関し,国の施策に準じた施策及びその地方公共団体の区域の特性を生かした自主的な施策を策定し,こ れを実施する責務を有すると規定されている。 茨城県工業技術センターは,昭和 60 年 4 月に,工業試験所,繊維工業指導所,窯業指導所,食品 試験所を統合して発足し,現在,本所(茨城町),繊維工業指導所(結城市) ,窯業指導所(笠間市) の 3 所からなり,10 の研究部門を有し,前述の法律や,県が定める「茨城県総合計画」及び「茨城 県産業の活性化に関する指針」に基づき,県内中小企業を支援する中核機関としての役割を果たし ている。 現在,工業技術センターでは工業,食品,繊維,窯業の各分野について研究開発を実施し,中小 企業に対して技術移転を行うことにより,中小企業の生産技術改善,技術開発・製品開発などを支 援し,県の新総合計画における「活力あるいばらき」の実現の一翼を担っている。 今後,工業技術センターの研究体制や,産業振興における工業技術センターの役割について,さ らに検討を進めることとする。 Ⅰ 茨城県工業技術センターの役割 ⅰ)県内中小企業の現状と課題 県内の中小企業は,アジア諸国におけるものづくり企業の技術力の向上や,グローバル化による 従来の発注企業と受注企業との取引の希薄化などによって世界的なコスト競争にさらされており, また,2008 年秋のいわゆるリーマンショックを契機に発生した世界同時不況などによる国内需要の 落ち込みに伴い生産が急速に減少し,厳しい経営環境の下におかれている。 結城紬や笠間焼などの県内地場産業においても,景気の低迷,消費者ニーズの多様化,安価な製 品の普及を受け,近年の生産額は大幅に減少している。 このような状況下で,県内の中小企業が地域間・企業間の競争に勝ち残り成長していくには,コ スト削減や品質向上のための生産技術の高度化,新製品開発などに必要な設計力の向上が必要であ り,さらには今後成長が見込まれる分野への進出などが求められている。また,地場産業では企画 から販路までを見据えた商品開発や将来の地場産業を担う後継者の確保・育成が課題となっている。 さらに,経済的環境の変化に即応した経営革新,新たな顧客獲得のための販路開拓などへの対応 が重要になっている。 1 ⅱ)工業技術センターの役割 工業技術センターは,県内産業の発展に貢献できるよう,工業,食品,繊維,窯業などの分野で 県内中小企業の技術力を高めるため,研究開発や技術相談などを行う。 特に,今後成長が見込まれている「次世代自動車」,「健康・医療機器」,「環境・新エネルギ ー」,「食品」の 4 分野(成長分野)を支える基盤技術の研究開発を中心に行い,中小企業の新分 野進出を支援するとともに,工業技術センターが保有するシミュレーション技術や分析・評価技術 を活用した依頼試験や受託研究などを行う。 また,地場産業においては,国内外の新たな方向への販路拡大に向けて,地域資源の活用やデザ インの提案などの付加価値を高めた商品開発の支援を行うとともに,産業の担い手となる後継者の 人材育成を支援する。 中小企業が必要とする技術ニーズのうち,工業技術センターでは対応していない基礎研究などに ついては,大学や研究機関(つくば地区の研究所など)が保有する技術シーズから実用可能な技術 を選び出し,中小企業に対して情報提供などを行う。さらに,産業支援機関 ※ のコーディネータ などの専門家と連携し,中小企業の技術支援に努める。 ※(財)茨城県中小企業振興公社,(財)日立地区産業支援センター,(株)ひたちなかテクノセンター, (株)つくば研究支援センターなど 本中期運営計画では,以下のスローガン,運営方針を職員全員で共有し, 「活力あるいばらき」 の実現を目指す。 ① スローガン 「ものづくり企業の支援を通して県民に貢献します」 ②運営方針 ・企業の課題解決を支援します。 ・成長分野の研究開発を進めます。 ・企業の人材育成を支援します。 ・技術の向上にむけて切磋琢磨します。 Ⅱ 中期運営計画の期間 平成 23 年度~27 年度の 5 年間とする。 2 Ⅲ 計画期間に行う業務 ⅰ)県内中小企業に対して提供する業務 工業技術センターは,中小企業を支援する中核的な機関として,成長分野の基盤技術に関する研 究開発を実施するとともに,企業の技術課題の解決のために共同で取り組む研究,依頼試験,技術 相談及び人材育成などを行う。この他,大学・研究機関の研究情報などに関する様々な相談に対応 するため,大学・研究機関と連携して情報提供や技術支援などを行う。このような取り組みにより, 中小企業の製品開発や技術の実用化を支援する。 指標名 単位 開発製品・実用化件数 実績(H17~H21) 目標(H23~H27) 件 77 90 1 研究開発業務 1)研究開発(別紙 研究計画参照) 工業技術センターは,中小企業の技術開発,製品開発を支援するため,中小企業の共通的な 課題の解決や,成長分野を支える基盤技術の研究開発を中心に行う。また,結城紬,笠間焼な どの地場産業に対しては,消費者ニーズを反映した商品開発,技術開発を支援するための研究 を行う。 成長分野に関する研究開発として,「次世代自動車」,「健康・医療機器」,「環境・新エ ネルギー」については「材料と加工技術」 , 「省エネ・小型軽量化技術」 , 「再資源化・再利用, 評価技術」を,「食品」については「食品の製造・評価技術」 , 「県特産物の商品化技術」を重点 的に進める。 地場産業の研究開発については, 「工芸品の基礎技術」を行う。 具体的には以下の研究開発を重点的に進める。 「次世代自動車」「健康・医療機器」「環境・新エネルギー」 ◯「材料と加工技術」 ・金属・プラスチック・繊維材料などの各種材料の活用 ・工業製品の用途に適した材料,機能性 ・材料特性を把握した加工技術 ◯「省エネ・小型軽量化技術」 ・電気自動車,太陽光発電,風力発電などのエネルギー関連 ・省エネのための小型軽量化 ◯「再資源化・再利用,評価技術」 ・レアメタルなど有用資源の活用を図るための新たな要素技術 ・プラスチックなどリサイクル性の高い物質の再資源化,再利用 3 「食品」 ◯「食品の製造・評価技術」 ・高付加価値製品の開発 ・食品製造技術の研究 ○「県特産物の商品化技術」 「地場産業」 ○「工芸品の基礎技術」 ・品質や付加価値の高い製品化研究開発 2)受託研究 中小企業では新技術や新製品の開発において,自社内で企画,設計,試験,分析及び評価な ど,全てのプロセスを完結させることが困難な場合がある。そのため,工業技術センターは, 企業からの依頼に応じて,保有する技術などを活用して研究開発を行うことにより,企業の課 題解決を支援する。 指標名 単位 受託研究数 件 実績(H17~H21) 目標(H23~H27) 81 125 2 技術支援業務 1)依頼試験・設備使用 中小企業からの依頼により,材料や製品などの試験・分析を実施するとともに,試験結果に 対する技術的アドバイスを行う(依頼試験) 。また,中小企業の技術開発,製品開発及び品質向 上などを目的として, 工業技術センターが保有する機器設備を企業の利用に供する (設備使用) 。 (依頼試験分野) ・材料の強度試験 ・精密測定試験 ・電気ノイズ試験 ・食品分析試験 ・繊維の染色堅牢度試験 ・窯業の焼成試験 など 指標名 単位 依頼試験・設備使用件数 件 実績(H17~H21) 目標(H23~H27) 17,464 18,000 2)技術相談 工業技術センターは,中小企業から寄せられる製品や材料などの分析・評価や生産技術に関 する相談などに対応する。 (相談内容) 4 ・有害物質規制や電気ノイズ試験などの国際規格への対応方法 ・製品や部品の品質評価及び安全性評価 ・安全安心な食品づくりのための技術 ・天然染料の代替染料や染めむら対策技術 ・笠間焼に用いる釉薬の情報 など 3)人材育成支援 中小企業は,日々の生産活動に追われ,新たな技術に対応する人材や後継者の育成が困難な ことが多い。そのため,工業技術センターでは,技術者の受け入れや研究会活動などを通して 企業の人材を育成する。特に,結城紬や笠間焼の後継者,食品や清酒の生産技術者の育成につ いては,業界と連携して研修を行う。 (具体的な活動) ・企業技術者の受け入れ ・研究会(電気ノイズ抑制技術など) ・技術習得研修(試験機器を利用するための知識の習得) ・開放機器利用研修(試験機器・設備を利用するための操作方法) ・技術講習会(新技術などの情報提供) ・結城紬後継者育成研修(結城紬の製織,染色など) ・笠間焼後継者育成研修(ろくろ成形,釉薬調合技術など) ・生産技術者研修(食品の微生物測定,清酒製造) など 3 ハブ機能業務 1)連携による課題の解決 中小企業の技術課題の解決について,大学・研究機関が保有する技術やノウハウが必要にな る場合には,中小企業と大学・研究機関とのコーディネートを行う。また,新技術や新製品の 開発につなげるため,企業間の技術協力を促進する。 さらに,中小企業の課題に対して,産業支援機関の適切な支援メニューを提案することによ り,課題の解決につなげる。 2)情報の収集・発信 大学や研究機関などは,基礎研究や先端研究を行っており,多くの研究成果を有している。 中小企業が単独でこれらの研究成果を把握し,活用することは困難であることから,工業技術 センターは,大学や研究機関の技術シーズなどを収集し,中小企業が必要とする情報を提供す る。 (情報収集・発信) ・大学や研究機関が保有する技術シーズ 5 ・法令などの情報 ・国等の競争的資金の情報 など 3)広報 工業技術センターは,自らの研究成果や開放している機器などの情報をホームページやメー ルなどにより企業に提供する。また,施設の公開やイベントの開催などを通して,工業技術セ ンターの取り組みを県民等に広報する。 (広報活動) ・工業技術センターニュースの発行 ・ホームページへの掲載 など (イベント) ・窯業指導所の匠工房・笠間フェア ・繊維工業指導所フェア など 4 知的財産の取得活用 工業技術センターの研究成果について, 「県立試験研究機関などにおける県有知的財産の活用 などに関する基本方針」に基づき積極的に知的財産を取得するとともに,中小企業の発展に寄 与できるよう,研究成果発表会などの企業が集まる機会を捉えてPRに努め,その活用を促進 する。 ⅱ) 業務の質的向上,効率化のために実施する方策 中小企業に対する業務を効率的に推進するため,マネジメント機能の強化や企業ニーズの把握, 内部人材の育成などを進める。また,他機関との連携の強化や,外部資金の活用を図る。 1 全体マネジメント 1)内部マネジメントの強化 研究開発の進捗管理の徹底や,職員間における情報の共有化を推進することにより,効率的 に業務を執行する。また,新たに対応が必要となる技術分野については,特定の専門知識を持 つ外部の人材を活用するとともに,その技術を工業技術センターに蓄積することで,支援体制 の強化を図る。 (強化内容) ・業務の複数担当制度の導入による企業サービスの向上 ・任期付研究員など外部人材の有効活用 など 2)機器整備 中小企業の成長分野への進出を支援するため,成長分野を支える基盤技術などの研究開発に 6 必要となる機器を整備する。 製品の開発にあたり,使用する部品の品質や試作品の信頼性を確認するために分析評価を行 う必要があるが,多くの中小企業は生産に直接結びつかない高価な機器を導入することは困難 な状況にある。そのため,中小企業にとって必要性の高い分析機器や評価機器などについて計 画的に整備を進める。 (整備する機器) ・分析機器(化学分析,食品分析など) ・評価機器(寸法計測,強度試験,信頼性試験など) ・設計支援機器(コンピュータ解析,電気ノイズ試験など) ・新たな規格(JIS の改訂など)に対応する機器 など 2 他機関との連携 1)大学・研究機関との連携 中小企業の技術課題の解決及び新製品開発を支援するため,大学や研究機関の産学官連携部 門と情報の交換,収集を密に行うことなどにより,大学・研究機関とのネットワークを構築す る。 (具体的な連携方策) ・つくば研究支援センター内にいばらきサロン ※ を設置 ・茨城大学のものづくりサロン(研究会)への参加,支援 など ※つくば地区の大学・研究機関と,中小企業との連携促進のために県が設置した組織 2)産業支援機関等との連携 工業技術センターと産業支援機関とが互いの業務内容を詳細に把握することで,中小企業の 課題に対して迅速かつ的確に対応し,より効果的な企業支援を行う。 また,茨城県デザインセンターとの連携をとおして,中小企業の付加価値の高い商品開発な どを支援する。 さらに,地域資源を有効に活用し,地場産業の振興を図るために,市町村,商工会などとの 連携を行う。 (具体的な連携方策) ・ (財)茨城県中小企業振興公社によるものづくり産業活性化プロジェクトへの参加,支援 ・茨城県中小企業団体中央会などによる農商工連携事業への参加,支援 ・商工会議所・商工会などによる地域資源を活用した取り組みへの支援 など 3 外部資金の獲得方針 研究開発を積極的に推進するため,国の補助金・交付金などの外部資金の獲得に努める。 また,国や民間の競争的資金について,中小企業が資金を獲得できるよう,研究開発推進体 7 制の構築や研究の分担など,各種の支援を行う。 (受託研究の促進) (外部資金) ・ 経済産業省の戦略的基盤技術高度化事業(サポイン) ・ (独)科学技術振興機構の研究開発事業 など 4 中小企業のニーズ把握 工業技術センターの各種活動を通じて技術者と接する機会を有効に活用するとともに,産業 支援機関と連携することにより,企業動向の把握に努める。 また受託研究などで工業技術センターを活用した企業に対し、翌年度にフォローアップ調査 を行い企業の新たな課題やニーズの把握に努める。 (活動内容) ・ 業界懇談会 ・ 企業が参加する研究会活動 ・ 産業支援機関との情報交換 ・ 受託研究等のフォローアップ調査 など 5 内部人材育成 技術支援のための専門的な知識の習得から,研究企画・管理などのマネジメント力の向上ま で,キャリアに応じて,計画的に人材の育成を進める。 (派遣研修) ・ (独)産業技術総合研究所や(独)食品総合研究所への派遣研修 ・中小企業大学校への派遣研修 など 8 Ⅳ 人員および予算(平成 22 年度参考) 1)人員 工業技術センター定数:60名 (現員:60[事務6 技術54]) 内訳 研究職 54 名(任期付 1,再任用 2 名含),事務 6 名(任期付職員 1 名含) 分野別(化学 21 名, 機械 14, 工芸 11, 電気 7, 農化 1) 研究従事職員:32 名(事務・企画担当,部門長以上除く) 工業 20,地場 12 名 ※人数は各組織の長を含む(除兼務) 産業技術課 任期付職員 1名 センター長 企画管理部 3 名(部長兼務) 企画,庶務,会計,連絡調整等 産業連携室 4名 大学・研究機関との連携, デザイン開発・木材工芸支援等 副センター長 いばらきサロン 1名 企画管理担当 茨城県デザイン 工業技術担当 センター 地場産業振興担当 3名 技術融合部門 技術基盤部門 4 名+ 任期付 1名 技術の融合,結合による製品化 5名 技術基盤の高度化,応用による 支援等 製品化支援等 先端材料部門 5名 ナノテクノロジー等を応用した新 素材の開発支援等 先端技術部門 7名 新技術研究開発,応用による 製品化支援等 食品バイオ部門 4名 酵母,乳酸菌等の微生物応用 研究開発支援等 地場食品部門 4名 素材開発部門 4名 +再任用 1名 紬技術部門 4名 1名 繊維工業指導所長 1名 窯業指導所長 材料技術部門 工芸技術部門 9 地場食品の新製品開発支援等 高分子材料の研究開発支援等 繊維関連の技術開発と製品開発 支援等 3名 窯業等材料の開発支援等 3名 +再任用 1名 笠間焼等陶磁器の製品開発支援 等 2)予算 ○ 工業技術センター費 ・・・・・・・・・・・・・・・ 246,784 千円 63,498 千円 (内訳)維持運営費 (庁舎や試験機器の維持管理などを実施) 4,749 千円 技術情報ネットワーク化事業費 (所内ネットワーク環境の維持運営と各種情報発信を実施) 11,731 千円 試験研究指導費(標準 特財) (依頼試験,設備使用,企業調査などを実施) 129,958 千円 試験研究指導費(B経費 国補) (特別電源補助金による研究開発を実施) 2,109 千円 工業所有権管理費 (特許権などの出願・維持管理などを実施) オンリーワン技術開発支援事業費(特財) 32,548 千円 (共同研究,受託研究,研究会活動を実施) 2,281 千円 人材育成事業費 (後継者育成研修と生産技術者育成研修を実施) ○ 繊維工業指導所費 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 17,739 千円 15,910 千円 (内訳)維持運営費 (庁舎や試験機器の維持管理などを実施) 1,829 千円 繊維技術研究指導費(特財) (依頼試験,設備使用,企業調査などを実施) ○ 窯業指導所費 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32,933 千円 30,332 千円 (内訳)維持運営費 (庁舎や試験機器の維持管理などを実施) 2,601 千円 窯業技術研究指導費(特財) (依頼試験,設備使用,企業調査などを実施) ○ 産業技術費 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6,480 千円 いばらきサロン活動強化事業費 ものづくり産業活性化プロジェクト事業費 研究開発評価事業費 いばらきデザイン力レベルアップ事業費(デザイン開発支援事業) 総額 10 304,026 千円 ⃝別紙 研究開発計画 A 成長分野に関する基盤技術の研究開発 工業技術センターは,中小企業の製品開発・技術開発を支援するため,中小企業の共通的な課題の解決や,成長分野を支える基盤技術の研究開発を中心に行う。 成長分野に関する研究開発として,「次世代自動車」,「健康・医療機器」,「環境・新エネルギー」については「材料と加工技術」,「省エネ・小型軽量化技術」,「再資源化・再利用,評価技術」を,「食品」につい ては「食品の製造・評価技術」,「県特産物の商品化技術」を重点的に進める。 A A 1.材料と加工技術 材料はその加工処理により本来持つ機能を高めることができる。しかしながら,世の中のグローバル化の進展と共に求められる機能も変化し,製品の長寿命化と高機能化が進む現在では,加工性,材料の 軽量化,表面改質や耐食性など高機能化,容易なリサイクル性などが多く求められてきている。 そこで,金属・プラスチック・繊維などの材料が発注企業の要望に沿った製品・部品に適したものとして提案できるように,強度,硬度や腐食性などの表面機能,材料の性質や性能など各種材料特性を把握 し,それらの機能を活かした加工技術を開発する。 1−(1)マグネシウムの腐食特性に関する研究【H22∼24】 軽量化に適した金属材料であるマグネシウムは腐食性に課題があるため,対策が求められている。このため,中性子(J-PARC)・電気化学的手法・X線回折を用いてマグネシウムの水素脆化および摩 擦攪拌接合機(FSW)による接合部の腐食について,そのメカニズムの解明を行う。代表的なマグネシウム合金であるAZ31,AZ61,AZ80,AM60等について,腐食原因物質,腐食反応過程,腐食生成物の 解析を行い,耐食性の向上に必要な知見を得ることが目的である。 【目標】 中性子(J-PARC)・電気化学的手法・X線回折を用いてマグネシウムの水素脆化および摩擦攪拌接合による接合部の腐食メカニズムの解明する。 1−(2)オゾン・紫外光併用による洗浄技術に関する研究【H23∼25】 現在の半導体工程の内,膜形成や回路形成などでのレジスト除去では熱濃硫酸やフッ化水素酸など特殊な薬剤の使用と危険な作業が伴っている。そこで,当センターでは,環境負荷が小さいオゾ ン・紫外光併用による洗浄技術を開発した。しかしながら,その洗浄速度が特殊な薬剤を使用した場合に比べ,3倍の時間を要していた。本研究では,顕微鏡ステレオ画像観察,流動解析および残存膜 厚や表面分析による検証を行い,洗浄工程の環境負荷低減技術を確立する。 【目標】 流動解析,残存膜厚や表面分析による検証を行うことにより,半導体製造工程におけるレジスト除去速度を従来(除去速度0.04μm/min)速度の3倍以上(特殊な薬剤を使用した洗浄速度と同等)の高 速化を目指す。 ※H25以降の方向性 ○1−(1)のテーマの成果を受けて,マグネシウムの耐食性向上,並びに耐食性に優れる表面処理技術に関する研究を実施する予定。 ○1−(2)のテーマの成果を受けて,表面処理の低環境負荷技術に関する研究を今後実施予定。 ○国内生産の要請が高く,中でも衣料・医療用繊維素材や高機能フィルター等の布帛に対して,表面改質技術などの技術開発を目ざす研究開発等を実施予定。 2.省エネ・小型軽量化技術 エネルギー資源の枯渇化が叫ばれている中,近年では代替エネルギーの開発に加え,エネルギーを効率的に活用する技術開発が進められている。具体的には再生可能な太陽光発電・風力発電技術, 省エネに向けた電気自動車,次世代照明分野等,低炭素化に繋がる新エネルギー関連や電力消費の低減化技術開発の省エネ・小型軽量化に関連の技術開発が必要となっている。 そこで,いち早く当該分野での技術開発を行うことにより新製品開発・新事業の展開へ繋げる。 2−(1)高効率・高出力コアレスモータに関する研究【H22∼23】 製品への省エネニーズが高まり,自動車や医療機器などで利用されるモータについても小型・高効率化の要求が強くなってきている。このため,「小型で軽量」「回転が滑らか」「電気ノイズが小さい」 などの特徴を持っているコアレスモータ(各種医療機器等に使用)について,シミュレーションを活用して巻線がモータ特性に及ぼす影響のメカニズムを解明するとともに試作モータによる特性確認試験 を行い,シミュレーション解析技術の精度向上およびそれを活用したモータ設計開発につなげる。 【目標】 巻線がモータ特性に及ぼす影響のメカニズムを解明し,従来品の効率60∼80%に対して,最大効率80%以上を目指す。 2−(2)スマートグリッド向け要素技術の調査研究【H23】 太陽光発電や風力発電のシステムを接続した電力系統における需給バランスの最適化を目指すスマートグリッドは次世代エネルギーシステムとして幅広い産業への波及効果が期待でき,注目されて いる。また,家庭や事業所など小規模な範囲においても太陽光発電や風力発電が拡大しており,それが接続された電力系統を最適に運用する技術が求められているが,その要素として発電状況や電 力使用状況などの情報をリアルタイムに把握するための廉価なシステムが必要となる。そのための技術として,本年度は特にセンサネットワーク技術を中心に調査研究を実施する。 調査研究の結果についてはエネルギー管理システムの構築に携わる企業,センサネットワークシステムの他分野への応用を考えている企業,今後スマートグリッド分野への参入を考えている企業への 情報提供及び技術支援に繋げる。 【目標】 スマートグリッドにおけるセンサネットワーク技術の市場調査及び要素技術の調査を行う。さらにセンサモジュールの試作及び簡易センサネットワークシステムの構築を行うことで,センサネットワーク技術 における課題の抽出を図る。 ※H25以降の方向性 ○時代に求められている「省エネ・小型軽量化」を目ざす小水力発電,次世代自動車,医療機器,LED,スマートグリット関連技術の研究開発を検討。 A 3.再資源化・再利用,評価技術 新興国の発展に伴って石油をはじめとする鉱物資源などの需要拡大が進んでおり,それに付随して地球環境の悪化が懸念されている。今後,廃棄物を出さない社会の実現は喫緊の問題であり,レアメタ ルなど希少価値な物質,プラスチックなどリサイクル性の高い物質の再資源化,再利用を促進することが求められている。 このように,石油やレアメタルをはじめとする有限である資源を有効活用することは時代の趨勢であるため,有用資源の活用を図るための新たな要素技術の開発を行い,リサイクル性の高い物質の再資源 化,再利用を促進するとともに,県内企業が新たな産業へ進出するための技術的支援を図る。 3−(1)レアメタル分離・濃縮に関する研究【H23∼25】 めっき処理には貴金属やレアメタル等が使用されているが,めっき後の水洗水等には,貴金属やコバルト等のレアメタルを含む金属成分を沈降分離しスラッジとして埋立処分されており,有効利用され ていない。このため,従来の溶媒抽出法と比べて高速・高倍率かつ微小体積に金属を濃縮することが可能な均一液液抽出法を活用してめっき廃液のような実サンプルへの適用を図る。研究開発にあた り,均一液液抽出特性に及ぼす錯形成試薬や相分離剤,pHなどの分離条件の影響を明らかにし,500倍濃縮を目標とする。本研究によりめっき業界の廃液処理に対する負荷軽減につなげるとともに, 廃液や廃棄物などの環境負荷低減に併せてレアメタルなどの有用資源を分離・回収するための技術開発・新事業への展開に繋げる。 【目標】 均一液液抽出法を用いて従来の溶媒抽出法と比べて高速・高倍率に微小体積レアメタルを抽出。 実際のめっき廃液に適用するための技術開発。 3−(2)プラスチック再利用における添加物と物性の研究【H23∼24】 プラスチック業界では材料の効率的活用のため,日常的に発生するスプルー,ランナー及び規格外製品の再利用が行われているが,成形時の機械的せん断と加熱による主成分樹脂材料の強度や耐 候性の低下,添加物の劣化に伴う成形不良,外観不良(ブリード:製品表面への浮き出し)が発生する問題がある。 この原因解明と対策方法開発のため,汎用材料のポリプロピレン,比較的高価で家電や自動車に広く使われているポリカーボネートとポリブチレンテレフタレートについて以下を実施する。 ①プラスチックの再生材比率と引張強度,衝撃強度,疲労強度,耐候性能の材料特性を示す。 ②安定剤配合や成形条件の改善による強度向上技術の開発。 【目標】 家電等に使われる添加剤配合ポリプロピレンは,現状ではバージン材(約30MPa)の強度を90%以上保つため再生材は最大20%程度にとどまっている。 安定剤の配合や成形条件の改善により,30%の再生材を添加しても90%の強度を維持できる再利用技術を目指す。 ※H25以降の方向性 ○上記の研究成果により外部資金等を活用した実用化研究への展開を検討。 A 4.食品の製造・評価技術,県特産物の商品化技術 食品に対する安全・安心,健康の維持・増進などの消費者ニーズが近年非常に高まっている。食品の自給率の向上が叫ばれている中,県産農産物の活用は必要不可欠になっているが,景気低迷に伴う 消費の落ち込みと相まって他産地・他社との競争が激しくなっている。このような状況の中でさらに食品産業が成長していくために,県農産物を活用しつつ,食品素材の持つ機能性成分を充分に活かす製造 加工技術開発や特徴ある商品開発を行うとともに,安全・安心を含む多様なニーズに応えられる食品開発を行う。 4−(1)食品の香気成分制御技術の研究開発【H24∼26】 食品はそれぞれ特有の香気を持ち,それが風味の形成に重要な因子となっている。わが国の食品の香気成分については酒,味噌,醤油等の醸造食品では明治以降多数の研究事例がある。しかし, 同様に微生物の発酵力が風味形成に重要な役割をはたしている漬物についてはあまり研究されていない。漬物はその独特の風味が食欲をそそり古来から重要な副食物となっている。そこで,風味の重 要な因子である香気成分についてその生成条件を解明するとともに,香気の生成量の制御技術を検討し品質改善をめざす。 【目標】 漬物香気の官能検査にかわる客観的な評価方法(基準)を構築。 漬物香気の生成条件を明らかにし,その制御技術を開発する。 4−(2)納豆製造課題解決のための新規納豆菌開発【H24∼26】 納豆製造法は確立されているが,ファージ汚染,チロシンの結晶化に伴う品質劣化,及び日持ち等の問題等,数多くの課題が存在する。このため,納豆菌ファージ感染耐性納豆菌,通常10日程度で 発生するチロシン結晶化を15日保存してもチロシン結晶化の起こりにくい納豆菌,冷凍・解凍などの状態変化に対し品質変化(テンシプレッサーによる硬さと,電気泳動による糸の重合度を評価データで 差異の発生を出さない)の起こりにくい納豆菌を開発し,薄れつつある納豆の茨城ブランドを確立するとともに食品業界の競争力向上につなげる。 【目標】 上記3種類の新たな納豆菌の菌株を最低各1種ずつ開発する。 4−(3)県農産品の機能性成分の調査研究【H19∼23】 全国でも有数の県産農産物を使った付加価値の高い商品開発によりアグリビジネス振興が課題となってきている。このため,希少性の高い魅力ある地域素材を使い,その機能性成分を活かした新規 な加工食品開発に必要な加工技術を開発する。福来ミカン,干し芋・サツマイモを対象農産物とし,地域食品加工の強みを活かした安心安全で魅力的な県産農産物の高付加価値利用を実現する。 【目標】 希少性の高い魅力ある地域素材(福来みかん,干し芋・サツマイモ)の機能性成分を活かした新規な加工食品開発に必要な加工技術の開発 4−(4)有色素大豆加工に適した納豆菌の開発【H19∼23】 納豆は本県の特産物であり,他地域との差別化・高付加価値化を狙い黒大豆を用いる業者も複数存在しているが,有色素大豆を加工する際,その厚い表皮により従来の納豆菌では発酵不十分となる 問題点がある。こうした問題点を解決する為に,従来より表皮分解酵素活性が高く,十分な発酵力を有する納豆菌が求められる。そうした特長を有する新規納豆菌を開発することで,特に黒大豆で多く 見られる皮がごそごそする或いは必要以上に硬く感じるといった食感を改善すると共に,食味にも優れた最適加工条件を解明し,有色素大豆の納豆製法の確立および納豆業界の競争力向上につなげ る。 【目標】 大豆を柔らかくする効果のある酵素活性が現在使用されている宮城野菌の2倍以上の,色素大豆の納豆製造に適した納豆菌の開発目標とする。 4−(5)新形質米の機能性成分保持および高度利用技術の研究【H21∼23】 本県は全国有数の米生産県であるが,米価の低迷と米を原料とする食品業界の縮小傾向が現状である。このため,有色素米の特徴ある色素の加工工程での流出や変色を防ぐ技術開発,発芽処理に よる機能性成分の増量技術およびその利用,低アミロース米等の混合を含む米加工品の食感向上技術の開発を行い,健康志向の消費者向けの米を使った食品開発(有色素米清酒,米粉うどん,米粉 パン等)および食品業界の競争力向上につなげる。 【目標】 有色素米の特徴ある色素の加工工程での流出防止や変色防止技術の開発 発芽処理による機能性成分の増量技術の開発 低アミロース米・小麦粉の混合による加工品の食感向上技術の開発 4−(6)マイクロナノバブル水発生装置の開発(工業技術センター)【H22∼24】 マイクロバブル水は幅広い機能性を持っており,動植物の発育に有効であるという研究事例も報告されている。そこで,マイクロナノバブル発生装置の活用研究として県特産物であるアワビ,ハマグリの 生態的特徴に対応するとともに,発育段階(浮遊期・着底期,体の大きさ等)に合わせて発生装置を開発し,貝類等の育苗手法の確立および漁業関連業界への一助とする。 【目標】 アワビ・ハマグリの生態的特徴に対応し,発育段階に合わせた発生装置の開発 ※ 水産試験場担当分 本県で漁獲される重要貝類のアワビ,ハマグリは資源減少が続き,漁業者から県に資源増殖の要望が高まっているが,要望に応えられていない。このため,二枚貝の養殖に成長促進・生物の生理活 性化等を高めると報告があるマイクロナノバブルを用いて発育段階に対応したバブル水飼育技術開発を実施し,従来手法による飼育と比較を行うとともに,バブル水の生物に及ぼす生理活性効果(摂 餌 量,成長,生残等に与える効果)を明らかにしてハマグリ生産の安定化・効率化につなげる。 ※H25以降の方向性 ○業界からの要望による機能性や新加工技術の研究開発を検討 ○県特産物を使用した食品開発を検討 B 地場産業における工芸品の基礎技術 結城紬,笠間焼などの地場産業に対しては,消費者ニーズを反映した商品開発・技術開発を支援するための研究を行う。 地場産業の研究開発については,「工芸品の基礎技術」を進めることにより,域資源を活用した技術開発・製品開発を目指す。 1 環境調和型陶磁器の研究開発【H24∼26】 陶磁器製造においても環境負荷低減等やエコな陶磁器製品が求められており,少量生産が主体の笠間焼においてもリサイクルや省エネ技術への関心が高くなっている。そこで廃陶磁器・廃ガラス等 を活用して従来と同等の強度・吸水率などの機能を持つ低温焼成技術の開発を行う,目標として従来の1,250℃焼成から1,200℃以下の焼成温度にすることで焼成コストを30%以上削減する素地の 開発及び製造技術を確立し環境配慮型陶磁器として業界への普及を図る。 【目標】 廃陶磁器・ガラスを混合して,従来の製造法によるものと同等の強度・吸水率などの機能を持たせる要素技術の開発 ※H25以降の方向性 ○特徴のある地域資源を活用した研究開発を検討。 C 受託研究 中小企業では新技術や新製品の開発において,自社内で企画,設計,試験,分析及び評価など,全てのプロセスを完結させることが困難な場合がある。 工業技術センターは,企業からの依頼に応じて,保有する技術などを活用して研究開発を行うことにより,解決の支援を行う。 【目標】 H23∼H27の受託研究数 : 125件
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