廃棄物関連試料の 放射能濃度分析における課題について (3) 溶出試験 肴倉宏史1、保高徹生2 石森洋行3、遠藤和人1 1 国環研、2 産総研、3 立命館大 1 溶出試験の役割 • 廃棄物等に集積した放射性物質の、二次・三 次影響を生じさせないための適切な管理が 極めて重要。 • 溶出の可能性やその要因を把握する。 土壌、土壌と植物の混合物 廃棄物焼却灰、下水汚泥焼却灰、 建設資材 など 2 溶出試験方法の種類 屋外暴露試験 カラム通水 試験 逐次抽出試験 保高ら(2014)地盤工学研究発表会 発表資料 単一バッチ試験 シリアルバッチ試験 酸/アルカリ試験 pH依存性試験 アベイラビリティ試験 3 単一バッチ試験(例:平成3年環境庁告示46号) 試料を 2 mm 以下に粗砕 50 g 以上採取 溶媒(水) 7 6 5 4 3 2 1 溶媒添加(液固比10) 検液中の 濃度を測定 6 時間振とう 遠心分離 4 JIS K 0058-1 の 5. 利用有姿による撹拌試験 利用有姿の状態: ◎ 粉塊状の試料 粉砕することなく,その粒径分布 に応じて縮分 して調製 ◎ 大型試料 コンクリート製品 100mmφ×200mm供試体 アスファルト成型体 100mmφ×63.5mm供試体 ◎ 5 kg以下試料は,そのまま かくはん装置 タンク 溶 媒 試料 図 1 溶出量試験装置の概略図 ◆ 10 倍量の水に浸漬 ◆ 6 時間 ◆ 回転数 200 回/分 5 JIS K0058-1の5.(利用有姿試験)による試験結果 産業廃棄物(安定品目)等、再生品 施設 試料 含有量 (Bq/kg-wet) 含水率 % 1212 18.6 1606 15.5 4360 2.6 494 1.0 2054 1.6 37.0 1.0 555 4.0 816 8.2 714 7.0 444 1.7 402 8.5 961 13.7 271 5.7 Cs134 Cs137 Cs合計 525 687 混廃フルイ下 A 混廃可燃物 627 979 1880 2480 廃プラ(安定型) 214 280 通常アスコン B 透水性アスコン 894 1160 17.6 19.4 出荷アスコン 238 317 コンガラ C 354 462 再生路盤材 314 400 再生路盤材 D 191 253 アスコン骨材(RC-13) 161 241 再生砕石 E 木材チップ(建材) 378 583 123 148 瓦 青文字は搬入廃棄物 黒文字は処理済みのもの(廃棄物又は再生品) JIS K0058-1の5. 溶出濃度 (Bq/L) EC Cs134 Cs137 Cs合計 pH (mS/m) *0 *0.5 *0.5 7.3 220 *0 *1 *1 6.6 260 *0 *4 *4 7.8 69.3 *0 *0 *0 7.1 1.6 *0 *0 *0 7.4 1.9 *0 *0 *0 9.0 3.0 *0 *0 *0 8.9 8.4 *0.9 *0 *0.9 10.4 10.1 *2 *0.5 *2.5 11.1 25.3 *0 *0 *0 8.9 4.5 *0 *0 *0 10.8 17.8 *7 *7 *14 6.6 26.3 *0 *0 *0 6.5 0.3 *の数値は検出下限濃度未満の生データ 6 試験結果(都市ごみ焼却灰) 7 逐次抽出試験による評価 抽出能力の異なる溶媒で試料を逐次抽出 することによりCs等の化学形態を推定 試料 F1 水溶性画分 F6 残渣残留画分 F2 酢酸アンモニウ ム抽出画分 (イオン交換態) F5 過酸化水素水 抽出画分(有機 物・硫化物態) F3 酢酸ナトリウム 抽出画分 (炭酸塩態) F4 ヒドロキシルア ミン抽出画分 (酸化物態) 8 100% 80% F1 水溶性画分 F2 イオン交換態 60% F3 炭酸塩態 F4 酸化物態 40% F5 有機物・硫化物態 F6 残留物態 20% 0% Cs134 Cs137 Cs134 Cs137 Cs134 Cs137 Cs134 Cs137 Cs134 Cs137 Cs134 Cs137 一廃焼却 主灰M 一廃焼却 飛灰C 下水汚泥 焼却灰G 浄水発生土I 森林土壌N 公園土壌O 一廃焼却 主灰M Cs134 Cs137 F1 水溶性画分 3.0 3.3 F2 イオン交換態 8.9 8.4 F3 炭酸塩態 0.0 0.0 F4 酸化物態 7.0 5.6 F5 有機物・硫化物態 F6 残留物態 81.1 82.6 Total 100.0 100.0 一廃焼却 飛灰C Cs134 Cs137 82.3 74.5 17.7 13.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 12.5 100.0 100.0 下水汚泥 焼却灰G Cs134 Cs137 1.4 2.1 5.0 4.9 2.2 2.3 22.5 22.8 68.9 68.0 100.0 100.0 赤文字は定量下限以下(定量下限データをゼロとして計算) 浄水発生土I Cs134 0.0 1.8 0.0 3.4 2.8 92.0 100.0 Cs137 0.0 2.2 0.0 3.5 3.0 91.4 100.0 森林土壌N Cs134 0.0 4.8 0.0 0.0 1.5 93.7 100.0 Cs137 0.0 4.9 0.0 0.0 1.5 93.5 100.0 公園土壌O Cs134 0.0 5.1 0.0 4.5 3.0 87.4 100.0 Cs137 0.0 4.0 0.0 4.9 4.0 87.2 100.0 9 立命館大学 石森洋行、国立環境研究所 遠藤和人 長期撹拌試験 溶出試験時間を変えたJIS K 0058-1 試料 = 主灰、飛灰、下水汚泥焼却灰 溶媒 = 純水、海水 6時間~8か月、液固比10、200rpm撹拌 海面埋立処分の安全性評価が可能となった 主灰 溶出率 (%) 100 飛灰キレート固化物 海水 安定Cs 10 海水 Cs137 海水 Cs137 飛灰は100% 近い溶出率 1 純水 0.1 0.1 下水汚泥焼却灰 海水 安定Cs 海水 安定Cs 海水は溶出 促進の可能 性あり 純水 1 10 100 1000 0.1 溶出試験時間 (day) 1 10 100 1000 0.1 溶出試験時間 (day) 約1ヵ月で定常 1 10 100 1000 溶出試験時間 (day) 10 2015.06.15 環境回復検討会(第15回) https://josen.env.go.jp/material/session/pdf/015/mat02_2.pdf 土壌中の放射性セシウムの挙動に関するレビュー 土壌中の放射性セシウム(以下、放射性Cs)の挙動については、様々な調査研究 がなされている。本報告は、土壌中の放射性Csの挙動に関する現状の知見を、地盤 工学会が中心となって関連する学会等と連携してとりまとめたものである。 公益社団法人 地盤工学会 土壌中の放射性セシウムの挙動に関するレビュー 作成検討委員会 11 土壌中の放射性Csの挙動に関するレビュー (目次) 重要トピックスA 過去の土壌中の放射性Csのデータ 項目1:放射性Csの土壌中の深度分布に関する従来の知見は? 4 重要トピックスB 土壌中の放射性Csの存在形態 項目2:放射性Csは土壌中でどのように存在しているのか? 5 項目3:放射性Csの存在形態はどのように変わっていくのか? 6 項目4:放射性Csの存在形態ごとの割合は? 7 重要トピックスC 土壌と放射性Csの関係 項目5:放射性Csの吸着能力は土壌によって異なるのか? 8 項目6:環境条件によって溶出・吸着性能は変わるのか? 9 重要トピックスD 土壌中の放射性Csの移動性 項目7: 表層から地中における放射性Csの移動性は? 10 項目8:放射性Csは、時間が経つとどの程度移動するか? 11 12 3:放射性Csの存在形態はどのように変わっていくのか? ○水溶態の放射性Csが土壌に付加されると、そのほとんどは数時間でイオン交換態や固 定態に変化し、その後も緩やかに水溶態の割合は減少する(図3−1)。 ○イオン交換態も時間の経過とともに固定態に変化し、その割合は減少する(図3−2)。 図3−2 土壌中(黒ボク土)の 放射性Cs(イオン交換態)の割合の経時変化3) イオン交換態 の存在割合 (%) 図3−1 土壌中(黒ボク土)の 放射性Cs(水溶態)の割合の経時変化1),2) ※非汚染土壌に低濃度放射性Csを添加して行った 試験結果 試験条件:液固比1:10、 水溶態抽出溶液:純水 ※非汚染土壌に低濃度放射性Csを添加して行った 試験結果 試験条件:液固比1:10、 イオン交換態抽出溶液:1M酢酸アンモニウム 13 (出典) 1)Takeda et al(2013):J. Environ. Radioact.122, 29-36. 2)塚田ら:未発表データ(図3−1の一部). 3)塚田ら(2014):土肥誌 85 (2014)77-79. 4:放射性Csの存在形態ごとの割合は? ○多くの土壌を対象に、放射性Csの存在形態を調べるための抽出試験がなされている1)-5)。 ○土壌中の放射性Csの存在形態は、大部分の土壌で90%以上が固定態として保持されて いる。イオン交換態は概ね10%以下であり、水溶態は極めて僅かである(図4−1)。 ○世界中のほぼ全ての土壌は、固定態として放射性Csを保持するのに十分な量のフレイ ド・エッジを有している(図4−2)。 図4−1 複数土壌の放射性Csの存在割合3) (事故後、1年が経過した土壌) 水溶態 イオン交換態 図4−2 放射性Csとフレイド・エッジの量的関係6),7) 固定態 100% 60% 土壌中のフレイド・エッ ジの容量 1.3×10-5 ~ 4.8×10-3 mol kg-1 40% 20% 褐色森林土 黒ボク土 褐色低地土 泥炭 灰色低地土 グライ土 0% 砂質土 存在割合 (%) 80% ※試験条件:液固比1:10、水溶態抽出溶媒:純水 イオン交換態抽出溶媒:1M酢酸アンモニウム 137Cs が 100,000 Bq kg-1 とは 2.3×10-10 mol kg-1 であり、これは土壌中のフレイド・エッジ全容量に 対しほんの僅かである。 (出典) 1)Kikawada et al(2015):J RADIOANAL NUCL CHEM. ,304 (1), 27-31. 2)Hirose et al(2015):J RADIOANAL NUCL CHEM., 303 (2), 1357-1359. 3)保高ら(2013): 廃棄物資源循環学会誌 24(4), 267-273, 2013-07. 4)Takeda et al(2013):J. Environ. Radioact., 122, 29-36. 5)Facchinelli et al.,(2001):J. Environ. Radioact., 14 56(3), 299-307. 6)Okumura et al(2013):J. Phys. Soc. Jpn. 82, 3802-3807. 7)Delvaux (2000):Environ. Sci. Technol., 34, 1489-1493 . 6: 環境条件によって溶出・吸着性能は変わるのか? ○カリウムイオン(K+)やアンモニウムイオン(NH4+)の存在は、放射性Csの分配係数を低下 させ溶出率を増加させうるが1),3)、一般環境で想定される濃度4)(1×10-3mol/L以下)では溶 出を促進するほどではないと考えられる(図6−1)。 ○土壌に草木類などが混入した場合の放射性Csの溶出は、土壌のみの場合とほぼ変わら ないという研究結果がある(図6−2)2)。これは、草木類そのものからの放射性Csの溶出、 あるいはNH4+の影響による土壌等からの放射性Csの溶出があっても、土壌に再び吸着さ れるためと考えられる。 図6−1 NH4+とK+の濃度が溶出率に及ぼす影響1) 酢酸アンモニウム 塩化カリウム 1.5% 1.0% 一般環境 データ無し 溶出率 (%) 2.0% 0.5% 0.0% 水 0.001 0.01 0.1 1 mol/L mol/L mol/L mol/L 図6−2 土壌・雑草混合物中の放射性Csの 存在形態2) 土壌+ 雑草 20% 固定態 イオン 交換態 土壌+ 雑草 10% 水溶態 土壌 0% 20% 40% 60% 80% 100% (K+の濃度は作付け期間の水田土壌で2×10-4 mol/L程度、 NH4+の濃度は一般の土壌中で6×10-4 mol/L以下などと報 告されている。4)) 15 (出典) 1)保高ら;未発表資料. 2)保高ら(2014):環境放射能除染学会 第3回研究発表会 講演要旨集および発表スライド. 3)田中ら(1991):日本原子力学会誌, 33(4), 373-380. 4)岡島ら(1983):土壌肥沃度論,農山漁村文化協会. 15 植物体の混入が放射性セシウムの溶出特性に与える影響の カラム通水試験による評価 1. 植物体からの放射性セシウム溶出による影響 137Cs+ 137Cs+ 137Cs+ 137Cs+ 可溶態放射性セシウム 137Cs+ 腐植 2. 植物の腐食に伴うアンモニウムイオンの増加による影響 植物体の腐植に伴い、土壌間隙水中のアンモニア態窒素濃度が上昇すること で、土壌にイオン交換態や有機物・硫化物態の放射性セシウムが脱離して溶出 特性が上昇する可能性 NH4+ NH4+ NH4+ 腐植 保高・肴倉(2014)環境放射能除染学会 発表資料 NH4+ NH4+ 137Cs+NH4+ 137Cs+ NH4+137Cs+NH4+ 腐植 16 土壌のみ 保高・肴倉(2014)環境放射能除染学会 発表資料 土壌+植物10% 土壌+植物20% 17 植物混入の影響 土壌B 土壌C 1:10 溶出試験 結果 20 4.0 浸出水中の放射性Cs濃度(Bq/L) 浸出水中の放射性Cs濃度(Bq/L) 5.0 土B 3.0 土B+草A10% 土B+草A20% 2.0 1.0 0.0 0.0 5.0 10.0 1:10 溶出試験 結果 15.0 C土壌 土壌C+草A10% 15 10 5 0 0.0 5.0 累積液固比 10.0 15.0 累積液固比 植物が混入すると、初期の137Cs溶出量が増加する。 保高・肴倉(2014)環境放射能除染学会 発表資料 18 アンモニウムイオン濃度との関係 土壌B 137Cs濃度 土壌B NH4+濃度 5.0 土B 土B 120 土B+草A10% 土B+草A20% 4.0 土B+草A20% アンモニウムイオン濃度(mg/L) 浸出水中の放射性Cs濃度(Bq/L) 土B+草A10% 3.0 2.0 1.0 0.0 100 80 60 40 20 0 0.0 5.0 10.0 累積液固比 15.0 0.0 5.0 10.0 15.0 累積液固比 アンモニウムイオン濃度と137Csの溶出量は、初期には相関がある。 保高・肴倉(2014)環境放射能除染学会 発表資料 19 ご清聴ありがとうございました。 20
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