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平成 22 年 4 月 1 日現在の法令等に準拠
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収用等の特例
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収用の対価補償金の区分
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対価補償金と消費税
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収用等の特例
1.収用特例の利用方法
個人が収用や土地区画整理事業で公共事業に不動産を収用された場合は、以下の 2 つの課税の特例があります。
法人の場合も、ほぼ同様の特例が措置法 64 条と 65 条の 2 に用意されています。
類型
個人
法人
①収用等の代替資産取得の特例
措置法 33
措置法 64
②収用等の 5,000 万円控除特例
措置法 33 条の 4
措置法 65 条の 2
①と②の併用は出来ないので、いずれか1つだけ有利な方を選択適用します。①代替資産取得の特例(33 条)は、
売った金額より買換資産の方が高い時は譲渡所得の課税が将来に繰り延べられ、収用年度は譲渡所得がなかった
ものとされます。
2.主要な適用要件
①売った土地建物は固定資産であること。
したがって不動産業者などが販売目的で所有している土地建物は棚卸資産であり、固定資産にはなりません。
②原則として、売った資産と同じ種類の資産を買い換えること。
同じ種類とは、例えば土地と土地、建物と建物のことです(個別法)。このほか、 一組の資産として買い換える方法や事業用の資産を
買い換える方法があります(措置令 22)。
③原則として、土地建物の収用等のあった日から 2 年以内に代わりの資産を取得すること。
代替資産取得の特例は、課税の免除ではなく将来への先送りにすぎません。つまり、譲渡資産の取得価額を引き
継ぐことで課税を繰り延べるので、将来売却する時に課税が発生します。また、土地を収用されて代わりに土地・建物
を購入した場合には、建物部分には適用できず使い勝手が良くありません(東京高裁 平成 18 年 12 月 20 日判決)。
よって、売却益が 1 億円以下の場合や代替資産を取得しない場合は、通常は 5,000 万円特別控除の特例を適用し
た方が有利です。5,000 万円特別控除は課税の繰延ではなく非課税ですから、6 ヶ月以内要件等 33 条よりもさらに厳
しい条件があります(下記3.の留意点 参照)。
3.実務上の留意点
①紹介した上記 2 つの特例は譲渡所得税だけを繰延、免除する特例です。
したがって、代替資産を購入すれば当然、不動産取得税や契約書の印紙税・建物消費税・不動産登記の際の登録
免許税は別途課税されます。
②5,000 万円特別控除について
国民健康保険税は、譲渡所得から 5,000 万円控除前の前年所得で決定されます。翌年の保険料が高くなります。
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③5,000 万円特別控除は 6 ヶ月以内の譲渡が条件です(措置法 33 条の 4③一、65 条の 2③一)。
公共事業施行者の事業遂行を円滑かつ容易にするため、公共事業者の買取申出に応じて早期譲渡に協力した者
についてのみ特別の優遇措置があります。したがって、収用価格に納得できずに収用裁決で 1 年以上もめた場合は
この特別控除特例が利用できません。国税不服審判所の平成 10 年 1 月 30 日裁決事例とは別の事件ですが、東京
地裁平成 18 年 12 月 22 日判決でも、内容は同様のケースです。そして、同じ結論つまり課税庁勝訴でした。なお、
最初に買取等申出のあった日から 6 ヶ月以内の譲渡が条件とされています。しかし、実務上は、引渡しが 6 ヶ月経過
後でも 6 ヶ月以内に譲渡契約が締結されていれば特別控除を適用できます。
④最初の土地だけ適用可能
5,000 万円特別控除特例の要件では、一の収用交換等に係る事業につき、資産の譲渡が 2 以上の年に分けて行
われた場合には最初の年に譲渡した資産に限られます(措置法 33 条の4③二)。ところが実際は、事業が大規模なも
ので複数年にわたる結果、事業者都合で資産の譲渡が複数年になる場合が多くあります。この場合、最初の年の譲
渡のみが特例適用出来るので、なるべく売却益の大きな土地から収用されるように交渉すると税負担の軽減につな
がります。
4.確定申告の必要書類
①所得税の確定申告書 B 様式(税務署より)
②譲渡所得計算書、収用された資産等の計算明細書(税務署より)
③収用等の証明書(市、組合より)
④公共事業用資産の買取等の申出証明書(市、組合より)
⑤公共事業用資産の買取等の証明書(市、組合より)
⑥対価の支払調書(市、組合より)
⑦代替資産の契約書、領収書(業者より、取得費の分かるもの)
⑧代替資産の不動産登記事項証明書(法務局より)
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収用等の補償金と特例適用
1.所得税法上の所得区分
個人の土地建物が、土地区画整理事業等で収用される場合があります。例えば、市区町村や事業主からは、
以下のように預金口座に入金されます。
・土地補償金
91,208,185 円
・残地補償金
4,000,000 円
・建物移転補償金
110,000,000 円
・工作物移転補償金
821,000 円
・立竹木移転補償金
61,000 円
・動産移転補償金
355,000 円
・仮住居補償金
800,000 円
・移転雑費補償金
3,606,000 円
・営業補償金
2,512,000 円
自宅兼仕事場の建物を取り壊して、近所に同様の事業用の物件を建てる場合、売却益に課税されて確定申告する
必要があるでしょうか。通常は、土地建物の売却益を譲渡所得として確定申告する必要があります。受け取った各種
の補償金は、所得税では以下のように取り扱われます。
・土地補償金
・残地補償金
・建物移転補償金
・工作物移転補償金
→土地対価補償金(措置通 33-16)
計 95,208,185 円
→建物等対価補償金(措置通 33-11、14)
計 113,333,000 円
・営業補償金
・立竹木移転補償金
・動産移転補償金
・仮住居補償金
・移転雑費補償金
→立竹木対価補償金(譲渡所得)、計 61,000 円
→一時所得
計 4,761,000 円
収用特例の対象となるのは、原則的には対価補償金だけです(措置通 33-9)。建物移転補償金は引家補償(曳
家)のことですが、実際には取り壊す場合が大半です。家屋を取り壊す場合の建物移転補償金は、対価補償金とし
て扱われ譲渡所得となります(措置通 33-14)。営業補償金は、原則として収益補償金です。よって、事業所得や不
動産所得に計上します。
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しかし、建物対価補償金で買換え物件金額に足りない場合は、建物等対価補償金に振替できます(措置通 33-
11)。また動産移転補償金等は引越し代ですから、運送業者費用やマンション家賃等を引いた残額があれば課税さ
れます。計算の結果税額が 0 になる場合でも、特例ですから確定申告する必要があります。
2.代替資産を取得する予定の場合
代替資産を年内に取得できない場合、補償を受けた年の翌年以降に代替資産購入の場合は確定申告時に「取得
価額の見積額」で申告します。見積もりですから、とりあえず受け取った対価補償金と同額記入します。そして、実際
に契約・購入した時点から 4 ヶ月以内に、更正の請求か修正申告をします(措置法 33 条の 5①)。
①代替資産の実際の購入価額>見積額のケース →更正の請求で所得税の還付
②上記①の逆のケース →修正申告で所得税を納付
なお、2 年以内に代替資産を購入出来なかった場合は、修正申告で多額の所得税を納付するリスクがありそうです。
しかし、33 条に替えて 33 条の 4(5,000 万円控除特例)を修正申告で適用することが出来ます(措置法 33 条の 4①括
弧書き)。
3.優良住宅地等の譲渡税率軽減特例(措置法 31 条の 2)との関係
優良住宅地等の譲渡税率軽減の特例を利用すれば、所有期間 5 年超の長期譲渡所得の 2000 万円以下の部分
は、所得税と住民税の合計税率が 20%から 14%に軽減されます。従来は収用による土地等の譲渡の場合、5000 万
円特別控除又は課税の繰り延べの特例(措置法 33 条、33 条の 4)と、この税率軽減(措置法 31 条の 2)はダブル適
用が認められていました。しかし、平成 16 年度税制改正で、譲渡損失の損益通算規制が導入されました。その際に、
税制改正で上記の併用適用が不可となりました(措置法 31 条の 2④)。
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収用等の対価補償金と消費税
法人所有の工場等の不動産が、隣接する府県道の拡張計画で収用対象となる場合があります。例えば簿価 1 億円
の工場土地が、対価補償金 2 億円で収用されるような場合です。また、工場建物(簿価 3 億円)の移転補償金として 4
億円を受け取る場合があります。この場合は、以下のように会計処理すれば問題ないでしょうか。
普通預金
600,000,000 土地(非)
100,000,000
土地売却益(非)
100,000,000
建物(不)
300,000,000
補償金収入(課)
80,952,381
仮受消費税
19,047,619
土地建物について、対価補償金・収益補償金・経費補償金・移転補償金のどれが交付されたかは収用証明書等
に記載されています。建物移転補償金(特別利益)は、会計システムに課税取引として入力したら 400,000,000/1.05
=380,952,381 円と自動的に計算されます。
通常は、土地建物の売却益は法人税の計算で益金に算入されて課税されます。しかし、収用や土地区画整理等
の公共事業で不動産を収用された場合は、以下の 2 つの課税の特例があります。
・収用等の代替資産取得の特例(措置法 64)→圧縮記帳します
・収用換地等の 5,000 万円所得控除特例(措置法 65 条の 2)
併用適用は出来ないので、いずれか1つだけ有利な方を選択適用することが出来ます。上記 2 つの措置法特例の
対象となるのは、対価補償金部分だけです(措置通 64(2)-2)。移転補償金は、原則として収用等の課税特例が適
用できません。例外的には、対価補償金以外のものでも経済実態に応じて取り扱われるケースがあります(措置通
64(2)-3、5 他)。
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消費税法上は、対価補償金は、資産の譲渡対価つまり課税売上とされます(消令 2②)。したがって、土地なら非課
税売上で、建物や構築物・機械装置ならば課税売上となります。逆に言えば、収益補償金や経費補償金・移転補償
金は対価補償金ではなく損失補填として支払われるものなので、資産の譲渡対価には該当しません。つまり、消費税
法上は、課税売上ではなく不課税売上(課税対象外)です。これは、法人税課税の特例として措置法特例を適用して
収益補償金や経費補償金・移転補償金を対価補償金に振替処理した場合でも同様です(消基通 5-2-10)。よって
正しい会計処理は、以下の通りです。
普通預金
600,000,000 土地(非)
100,000,000
土地売却益(非)
100,000,000
建物(不)
300,000,000
補償金収入(不)
100,000,000
上記設例では、消費税を約 20 百万円も過大納付してしまいます。
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本レターに掲載している情報は、一般的なガイダンスに限定されています。この文書は、個別具体的ケースに対する会計・税務のア
ドバイスをするものではありません。会計上の判断や税法の適用結果は、事実認定や個別事情によって大幅に異なることがありえます。
また、解説の前提となる会計規則や税制が変更されている可能性もあります。実際に企画・実行される場合は、当事務所の担当者にご
確認ください。
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