ランダムベクトル信号による音響信号展開方法の検討* ∑ ∑ ∑ 3 − Q − 31

3 − Q − 31
ランダムベクトル信号による音響信号展開方法の検討 *
◎杉耕作
及川靖広 山崎芳男(早大理工)
1. まえがき
あらゆる音響信号は正弦波だけでなく雑音など
のベクトル線形結合で表すことができ、戸倉 , 遠
山によって音声信号のランダムベクトル表現1)に
関する研究がなされている。また、根木 , 山崎に
よってランダムベクトル表現によって得た信号を
空間で合成する研究 2)がなされている。今回、雑
音に分割した音響信号を空間合成する際に重要と
なるノイズの抑制と了解性を考慮した音響信号展
開方法について検討した。
2. 雑音による信号の線形結合
音響信号を雑音 vk (n) の線形結合で表すと ,
ここでいう SDR とは ,
N
SDR = 10 log 10
∑x
2
(n)
n =1
N
∑ ( x ( n ) − x ( n )) 2
[ dB ]
(5)
n =1
と定義する。ここで x(n) は原信号 , x (n) は復元
信号 , N は信号長である。
しかし分割音はランダムベクトルに依存するの
で,用意したベクトルによっては分割音のパワー
が原信号に比べて大幅に大きくなり,空間合成を
する際に都合が悪くなることがある。
40
k =1
a k vk (n )
30
(1)
正弦波
20
となる。f (n ) は原信号 , a k は係数 , vk (n) は一
次独立な雑音 , K は1フレームにおけるデータ
点数である。式(1)を行列で表現すると
[ dB ]
∑
SDR
f (n ) =
K
10
0
-10
-20
雑音
-30
f = a1 v 1 + a 2 v 2 + L + a k v k + ≡ Va
(2)
-40
0.2
−1
(3)
となり、係数ベクトル a は
−1
a = V f
(4)
と求められる。
3. 信号の雑音分割
一次独立な雑音ベクトルをフレーム長のデータ
数と同じ本数だけ用意し,音響信号をこれらの線
形結合として表現する。こうして得られたベクト
ルの内,任意の本数のベクトルと残りのベクトル
をそれぞれ合成することにより2組の音響信号に
分割する。1kHz の正弦波を約 6ms の解析区間長で
フーリエ級数解析を行った場合とランダムベクト
ルを用いた解析の信号復元精度 SDR を図− 1 に示
す。正弦波に比べ雑音で復元する波形は SDR が低
く,抽出本数比が 0.8 以下では信号から内容を聞
き分けることは困難で,二つの信号に了解性は見
られない。
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0.9
1
抽出本数比
図− 1 抽出本数比と SDR の関係
となる。ここで行列 V の逆行列を V と表せば
−1
−1
V f = V Va
0.3
4. 最小二乗法の適用
解析区間長のデータ数よりも少ない本数のラ
ンダムベクトルによって解析するために最小二
乗法を用いる。
式(2)において f の次元より未知ベクトル a
の次元の方が少ない場合,Va − f のノルムを最
小にすればよく,
a = ( V T V ) −1 ⋅ V T f
(6)
によって最小二乗近似解が得られる。
解析区間長(512 点)を固定し,最小二乗法を
用いることにより用意するランダムベクトルの
本数を変化させて解析し,抽出本数比 0.5 で再
合成した信号と原信号との平均振幅の比を図−
2 に示す。図− 3 に原信号を,図− 4 に 512 本
のランダムベクトルにて分析し256本再合成し
た信号を,図− 5 に 500 本のランダムベクトル
にて分析し 250 本再合成した信号を示す。
*Study on method of acoustic signal analysis using random vectors.
By Kosaku Sugi, Yasuhiro Oikawa, and Yoshio Yamasaki(Waseda University).
日本音響学会講演論文集
2001 年 10 月
―717―
図−4のように解析区間データ数とランダムベ
クトル数が等しい場合,すなわち式(4)のように
係数ベクトルを近似無しで計算する場合,
選んだ
ベクトルによっては分割雑音の振幅が原音に比べ
て非常に大きくなってしまう。
ところが最小二乗
法を用いて係数ベクトルを近似式で求めると,
ラ
ンダムベクトル数を解析区間データ数よりも僅か
に少なくすることにより分割雑音の振幅を軽減す
ることができる。
5. 雑音の均一化
解析の性質上,分割後の雑音の振幅は概して原
信号の振幅に比例する。
故に振幅の抑揚は分割後
の雑音信号にも現れ , 了解性をあげることにな
る。この現象は音声信号分割時に顕著に現れる。
ここで原信号に雑音を加えてから解析,再合成
することにより抑揚を抑え,了解性を下げること
が可能である。図− 6 は音声信号 , 図− 7 は 512
点のランダムベクトルを 480 本使って解析し 240
本再合成した波形 , 図− 8 は原信号に雑音を加え
てから図− 7 と同様の分割処理した波形である。
6. むすび
本稿では空間合成することを考慮した雑音分割
において,通常の線形変換方法と最小二乗法を用
いた場合を比較した。
用意したランダムベクトル
によらず分割音の振幅を抑制することにおいて最
小二乗法を用いることは有効であった。また, 雑
音を付加してから分割処理を行う方法は,抑揚を
抑えることにおいて有効であった。
今後は秘話性
を重視した解析方法,空間合成方法について検討
する。
[参考文献]
1)戸倉 綾,三浦 治,東山三樹夫,
”音声信号のラン
ダムベクトル表現”日本音響学会講演論文集,
pp497
− 498(1999.9).
2)根木教男 , 及川靖広 , 服部永雄 , 山崎芳男 ,”ラン
ダムベクトル信号の空間合成による音響信号の再現”
日本音響学会講演論文集 ,pp497-498(2000.3).
3)山崎芳男,金田 豊,大賀寿朗,”音響システムと
ディジタル処理”,電子情報通信学会,(1996.03).