循 環 の 科 学 科目責任者 瀬 尾 芳 輝 学年・学期 2学年・2学期 Ⅰ.前 文 循環の概念は比較的新しい。W. Harvey が「血液は心臓から出て動脈経由で身体各部位を巡り静脈経由で心臓に戻 る」と「血液循環説」を唱えたのは1 628年である。1 661年 M. Malpighi によって毛細血管が発見され,閉鎖循環系が確 立された。循環器系は,(1)酸素・二酸化炭素の運搬,(2)栄養物質・老廃物の運搬,(3)液性制御因子(ホルモンな ど)の運搬,(4)体温の調節(熱エネルギーの運搬,放散,保持) , (5)生体防御物質の運搬の機能を持ち,絶えず変 化する外部環境に対して,生体の内部環境を動的に安定した状態(定常状態)に保っている。循環の科学では,まず, 血液という「形の無い臓器」について,性状,血液型,凝固および線溶機能を学ぶ。次に,循環器系のポンプである心 臓について,心筋細胞の電気的性質から心電図,心周期と心臓の自動能について理解する。脈管系を構成する各部位の 血管の機能を理解した上で,血圧の制御機構について掘り下げ,圧受容器反射を初め循環調節反射について理解を深め る。最後に,脳や骨格筋などの局所循環について学習する。 Ⅱ.担当教員 教 授 瀬 尾 芳 輝 生理学(生体制御) 教 授 堀 雄 一 生理学(生体情報) 准 教 授 渡 辺 和 人 生理学(生体制御) 非常勤講師 伊 藤 俊 之 京都府赤十字血液センター副所長 Ⅲ.一般学習目標 まず,血液の機能を理解する。心臓の心拍出と自動能の機序を理解するとともに,弾性血管・抵抗血管・交換血管・ 容量血管の各機能を認識する。心臓と血管の機能に影響する因子,心拍出量,血圧と血管抵抗の関係,さらに循環系全 体を調節する仕組みを把握する。また,各臓器における循環の特徴を理解する。 Ⅳ.行動目標 講義は,医学教育モデル・コア・カリキュラム──教育内容ガイドライン──に示されている到達目標に則して行わ れるが,より具体的な行動目標を以下に列挙する。 1)造血幹細胞から各血球への分化と成熟の過程を説明できる。 2)白血球の種類と機能を説明できる。 3)血小板の機能と止血や凝固・線容の機序を説明できる。 4)血液型判定と交叉適合試験の基本を説明できる。 5)循環系全体の構成,血液量と血流の分布,循環系内血液の圧・流量・抵抗などの一般的特性を説明できる。 6)循環の原動力となる心臓の特徴的構造を説明できる。 7)心臓に分布する血管・神経を説明できる。 8)心臓拍動を引き起こす心筋細胞の電気的・機械的特性を説明できる。 9)心電図の各波形の発生理由を説明できる。また,主要な不整脈の心電図上の特徴を説明できる。 10)体循環,肺循環と胎児循環を説明できる。 11)毛細血管における物質・水分交換を説明できる。 12)心臓の収縮・拡張周期における心臓各部位の活動,心音発生の機序を説明できる。 13)心周期に伴う血行動態を説明できる。 14)血圧調節の機序を説明できる。 −252− 15)単位時間に心臓から拍出される血液量(心拍出量)に影響する因子を説明できる。また,全身の活動状態の変化に 伴う心拍出量の変化について説明できる。 16)血管の部位による形態と機能の違いを説明し,各血管の機能に影響する因子を述べることができる。 17)循環系全体の調節機構の概要を説明できる。循環の局所的調節のメカニズムについて述べることができる。 18)循環中枢への入出力,圧受容器反射,上位中枢の影響,血液量・体液量との関連について説明できる。 19)主要臓器(心,脳,肺,消化器,腎,骨格筋など)への血流配分と,各臓器の循環調節の特徴を述べることができ る。 二 学 年 20)運動時の循環反応とその機序を説明できる。 Ⅴ.講義の学習内容 回数 月 日 曜日 時限 講 義 テ ー マ 担 当 者 1 8 25 月 1 循環器概論 瀬 尾 芳 輝 2 27 水 1 血液の性状と微小循環 渡 辺 和 人 3 28 木 3 血液型 伊 藤 俊 之 4 28 木 4 血液型 伊 藤 俊 之 1 月 1 血小板・凝固・線溶(1) 渡 辺 和 人 6 1 月 2 血小板・凝固・線溶(2) 渡 辺 和 人 7 3 水 3 心筋細胞の電気現象(1) 堀 雄 一 8 3 水 4 心筋細胞の電気現象(2) 堀 雄 一 9 8 月 1 心電図(1) 瀬 尾 芳 輝 10 8 月 2 心電図(2) 瀬 尾 芳 輝 11 10 水 3 循環力学(心拍出) 瀬 尾 芳 輝 12 10 水 4 循環力学(心周期) 瀬 尾 芳 輝 13 12 金 3 循環力学(自動能) 瀬 尾 芳 輝 14 12 金 4 循環の調節(血圧) 瀬 尾 芳 輝 15 22 月 3 循環の調節(神経性制御) 瀬 尾 芳 輝 16 25 木 3 循環の調節(液性制御および代謝性制御) 瀬 尾 芳 輝 17 25 木 4 循環の調節(臓器循環) 瀬 尾 芳 輝 5 9 Ⅵ.評価基準 授業参加度やレポート(5%),記述式定期試験(95%)(10月6日(月)実施予定)によって総合的に判定する。 Ⅶ.教科書・参考図書・AV資料 教科としての教科書は特に定めない。講義担当者は,講義に即したプリントを配布する。復習の要として利用するこ −253− と。 2学年以降の学習も踏まえて,以下の参考書を薦める。 生理学の大系を理解するには,一人あるいは少人数で書かれた教科書が好ましい。 1)ギャノング生理学,岡田泰伸訳,丸善 臨床に直結した病態生理学的観点からまとめてあるので,重点がわかりやすい。 2)ガイトン臨床生理学,早川弘一・飯野靖彦訳,医学書院 循環生理学については,もっとも判りやすい。 3)インテグレーテッドシリーズ5 生理学,RG Carroll 著,鯉淵典之,瀬尾芳輝,岡田隆夫,本間生夫訳,東京化学 同人 4)現代の生理学,古河 太郎・本田 良行著,金原出版 5)Medical Physiology, Boron & Windhorst, Boulpaep, Saunders 分子レベルの機構について新しい知見がよくまとめてある。訳書はないが英文は平易である。 詳細な生理学の知見について調べたい場合,専門書と共に以下の教科書が助けになる。ただし,これらは多数の専門 家によって,読者に基本的な生理学の知識があるという前提で記述されている。よって,初学者である諸君達には薦め ることはできない。(3年生以降での購入は薦める。) 1)標準生理学,本郷ら編著,医学書院 2)Comprehensive Human Physiology, Greger & Windhorst, Springer その他として, 1)シリーズカラー図解人体の正常構造と機能,坂井 建雄,河原 克雅編著,日本医事新報社 Ⅷ.質問への対応方法 基本的には随時受け付ける。各講義担当者のオフィスアワーを講義中に伝えるので,できるだけ利用するように。ま た,電子メールでの質問日時の予約は可能。メールアドレスは各講義担当者が講義中に伝える。 −254−
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