運 動 と 感 覚 科目責任者 堀 雄 一 学年・学期 2学年・2学期 Ⅰ.前 文 我々の体は,絶えず変化する外界の条件に適応するために,外界の情報を的確に把握する必要がある。外界からの刺 激はまず,分化した感覚細胞で受容され,そこで電気信号に変換され,神経のインパルスとして中枢へ伝達される。中 枢内で入力情報の処理が行われ感覚,知覚,認知などの働きが起こる。本科目では,まず,中枢におけるこの働きにつ いて,その生理学的な仕組みを学習する。我々はまた,処理された情報に基づいて運動・動作・狭義の行動などの出力 を制御し,外界の変化に対して反応,適応してゆく。運動は脊髄,脳幹,大脳基底核,大脳皮質,小脳などのはたらき によって,反射性,神経性の制御を受けている。この運動制御の仕組みについても学習を進めたい。 Ⅱ.担当教員 教 授 堀 雄 一 生理学(生体情報) 准 教 授 前 川 正 夫 生理学(生体情報) 非常勤講師 平 井 直 樹 杏林大学医学部 統合生理学教室 教授 Ⅲ.一般学習目標 急速に伸展しつつある神経生理学を理解するための基礎的知識を習得する。既に2年次1学期に履修した「情報伝達」 で得た知識の上に立って,2年次3学期に本科目の終了後に履修する「高次脳機能」での学習内容とを有機的に結びつ けることによって,神経系の機能の理解を深める。また,神経筋疾患との関連を念頭に置きつつ学習を進め,病態生理 学的な思考能力を養う。 Ⅳ.行動目標 講義は,医学教育モデル・コア・カリキュラム──教育内容ガイドライン──に示されている到達目標に則して行わ れるが,より詳細な行動目標を以下に具体的に列挙する。 (Ⅰ)運動機能の生理学 1)運動の反射性制御 a 脊髄反射と運動制御 脊髄反射の神経機構を学び,神経回路網の基本的働きを理解する。 ①基本的なニューロン結合様式を図示できる。 ②空間的促進と閉塞を発射帯,閾下縁の存在から説明できる。 ③腱反射の反射弓がどのようにして確立されたかを述べることができる。 ④筋紡錘の構造と機能を説明できる。 ⑤伸張反射が運動調節の上でどのような働きをしているかを説明できる。 ⑥屈曲反射の特徴について説明できる。 ⑦相反性神経支配について具体的に説明できる。 ⑧脊髄損傷による症状を説明できる。 ⑨GⅠa,GⅠb,GⅡ,GⅢ神経線維の働きについて説明できる。 ⑩アルファ−ガンマ(α−γ)連関と,その機能について説明できる。 b 姿勢の調整と脳幹の役割 脊髄動物,除脳動物,中脳動物が示す特徴ある姿勢や反射から脳幹の働きを理解する。 ①除脳固縮の特徴を述べ,その発生機序について説明できる。 −226− ②持続性頚反射,持続性迷路反射を説明し,動物が自然にとる姿勢との関連を述べることができる。 ③脳幹が関与する立直り反射を説明できる。 ④前庭動眼反射について説明できる。 ⑤除脳固縮[ビデオによる供覧] 脳 幹 と 脊 髄 が 上 位 脳 か ら 離 断 さ れ た 動 物(decerebrate animal),小 脳 を 切 除 し た 動 物(decerebrodecerebellate animal),そして脊髄の機能が上位脳から離断された動物(spinal animal)における特有の姿勢と 種々の反射活動の相違を観察し,それらの反射が脊髄,脳幹,小脳でどのように統合されているかを考察する。 2)運動の神経性制御 a 小脳の働き 小脳の機能をその構造と関連して理解する。 ①小脳疾患の臨床症状を述べることができる。 ②小脳除去による強制姿勢と小脳性運動失調を説明できる。 ③血液阻止除脳による固縮(アルファ固縮)を説明できる。 ④前庭動眼反射,姿勢反射を説明できる。 ⑤予定プログラム,追跡制御を説明できる。 b 大脳基底核の働き 異常運動から大脳基底核の機能を理解する。 ①大脳基底核を図示することができる。 ②錐体外路系とその症候群を説明できる。 ③ L ー DOPA の意味を説明できる。 ④淡蒼・視床・皮質経路による運動を説明できる。 c 運動の発現と大脳皮質 大脳皮質の運動領と小脳,大脳基底核との関係から随意運動の発現機構を理解する。 ①一次運動野の細胞構築を説明できる。 ②錐体路細胞の機能を説明できる。 ③一次運動野の機能局在を説明できる。 ④一次運動野,運動前野,補足運動野,前頭眼野の働きと随意運動の発現について説明できる。 ⑤これらの大脳皮質運動中枢と,小脳,大脳基底核,視床間の線維連絡とその機能を説明できる。 ⑥運動の制御機構を総合して説明できる。 (Ⅱ)感覚機能の生理学 各種感覚の感覚情報処理機構を理解し,感覚異常,欠損症状などの理解に役立てる。 a 体性感覚 皮膚感覚および深部感覚の受容機序と情報処理機構を理解する。 ①感覚の種類と第一次感覚神経の分類とを関係づけて説明できる。 ②感覚の種類を内側毛帯路系と内側毛帯外路系とに分け,それぞれの機能について記述できる。 ③大脳皮質の体性感覚野の体部位局在を図示できる。 ④大脳皮質の体性感覚野ニューロンの感覚情報処理機構が説明できる。 ⑤大脳皮質連合野の機能について説明できる。 ⑥能動的知覚について説明できる。 b 味覚・嗅覚 化学物質に対する感覚情報処理機構を理解する。 ①刺激物質に対する受容器の受容器電位,第一次感覚神経の感覚情報の符号化を説明し,味覚・嗅覚の特異な点 が指摘できる。 ②味覚においては,味覚路に含まれる触覚とともに,中継核,大脳皮質への投射が説明できる。 −227− 二 学 年 ③嗅覚においては,中継核,大脳皮質等を結ぶ神経回路網の感覚情報の制御が説明できる。 ④これらの感覚と摂食,本能との関係について簡単に説明できる。 c 聴覚 聴覚情報処理を機械的機構,神経機構に分けて理解する。 ①聴覚および平衡覚の受容機序を説明できる。 ②外耳・中耳の伝音機構が物理学的に説明できる。 ③中耳における伝音制御のための反射機構が説明できる。 ④蝸牛基底膜の振動様式とそれに伴う蝸牛のマイクロフォン電位を,音情報の周波数と関連させて図示説明でき る。 ④感覚器の情報受容機構を,感覚器の構造,有毛細胞の組織学的特徴,基底膜の振動様式と関係づけて記述でき る。 ⑤第一次感覚神経の応答特性が説明,図示できる。 ⑥中継核をおたがいの神経結合とともに図示でき,中継核のニューロンの音情報に対する応答性,応答野につい ても説明できる。 ⑦両耳による音源の位置感覚について,その神経機構が記述できる。 d 視覚 ①眼球と付属器の機能を説明できる。 ②視覚情報の受容機序を説明できる。 ③眼球運動のしくみを説明できる。 ④対光反射,輻輳反射,角膜反射の機能を説明できる。 ⑤屈折異常(近視,遠視,乱視)と調節障害の病態生理を説明できる。 ⑥視覚(明度,色覚,空間知覚)情報の処理機構を理解する。 ⑦視覚情報処理系を杆体系,錐体系に分けて,両者の機能を解剖学的・組織学的・生化学的・電気生理学的事実 と実際の感覚とを相互に関連させて記述できる。 ⑧網膜,外側膝状体,大脳皮質におけるニューロンの受容野,感覚情報の処理機構が説明できる。 ⑨物体の認知,注視のための眼球運動に係わる中継核,大脳皮質が説明できる。 ⑩両眼による立体視の機構が説明できる。 ⑪視覚の属性(形,色,運動)が平行処理されていることを理解する。 ⑫視覚認知のしくみと認知障害について理解する。 Ⅴ.講義の学習内容 回数 月 日 曜日 時限 講 義 テ ー マ 担 当 者 1 9 28 水 3 感覚総論−1 堀 雄 一 2 28 水 4 感覚総論−2/皮膚感覚 堀 雄 一 3 29 木 3 深部感覚/内臓感覚 堀 雄 一 4 29 木 4 脊髄の機能−1 堀 雄 一 5 30 金 3 脊髄の機能−2 堀 雄 一 6 30 金 4 神経筋単位 堀 雄 一 7 10 3 月 3 聴覚の受容機構 前 正 夫 −228− 川 回数 月 日 曜日 時限 講 義 テ ー マ 担 当 者 8 10 3 月 4 聴覚の情報処理 前 川 正 夫 9 6 木 3 平衡感覚の受容機構 前 川 正 夫 10 6 木 4 脳幹の機能−1 前 川 正 夫 11 14 金 3 脳幹の機能−2 前 川 正 夫 12 14 金 4 網膜の受容機構−1 堀 雄 一 13 17 月 1 大脳基底核の機能 前 正 夫 14 21 金 3 網膜の受容機構−2 堀 雄 一 15 24 月 1 視覚の情報処理 前 川 正 夫 16 26 水 3 小脳の機能 平 井 直 樹 17 31 月 2 味覚と嗅覚の受容機構 堀 雄 一 川 Ⅵ.評価基準 定期試験,随時課すレポート,小テスト,および出席状況等を参考にして総合的に評価する。 Ⅶ.教科書・参考図書・AV資料 ① 小澤瀞司ら著 標準生理学 第7版 医学書院 2009 ② 杉晴夫ら著 人体機能生理学 第5版 南江堂 2009 ③ 藤井聡ら著 コアカリ生理学 医学評論社 2008 ④ 小幡邦彦ら著 新生理学 第4版 文光堂 2003 ⑤ 伊藤寛志ら著 チャート基礎医学シリーズ 生理学 第3版 医学評論社 1999 ⑥ 堀 清記 編 TEXT 生理学 第1版 南山堂 1999 ⑦ 本間研一ら著 小生理学 第4版 南山堂 1999 ⑧ 山本長三郎ら著 標準生理学(I)第3版 金原出版 1991 ⑨ 森 寿ら編 脳神経科学イラストレイテッド 第2版 羊土社 2006 ⑩ R. F. Schmidt 著(佐藤昭夫監訳) コンパクト生理学 医学書院 1997 ⑪ 植村慶一監訳 オックスフォード・生理学 原著3版 丸善 2009 ⑫ 鯉淵典之監訳 症例問題から学ぶ生理学 原著3版 丸善 2009 ⑬ E. R. Kandel ら Principles of Neural Science 5th ed. McGraw-Hill 2010 ⑭ G. M. Shepherd Neurobiology 3rd ed. Oxford Press 1994 Ⅷ. 質問への対応方法 ① 基本的には随時受け付けます。 ② 臨床の先生や学外からの先生方など連絡の取りづらい先生への質問に関しては,科目責任者に,e-mail で申し出て ください。e-mail には,詳しい質問内容と質問する相手の先生の名前を明記してください。解答は e-mail の返信で 行います。あるいは,相手の先生との面会の日時を連絡します。 メールアドレス:[email protected] −229− 二 学 年
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