「教え方」「伝え方」POINT.27心の慣性の法則

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心の慣性の法則
POINT.
●呼びかけても無反応…講師はこれがツライ
一生懸命に講義をするけれど,受講者は無反応……。これは講師にとって手応えが
感じられないばかりか,できればその場から逃げたいくらいにつらい状況です。私も,
受講者に無表情・無反応でいられたら,針のむしろの上に座らされているようにとて
も居心地が悪くなります。
そこで私は,受講者が反応できるように,積極的に手を打っています。反応の乏し
さを解消するために私が導入しているのは,「小さな反応を得る」というテクニック
です。例えば,講義の最初に「私の声は後ろまで届いていますか?」と尋ねて反応を
得る,誰もが賛同しそうな簡単なことを尋ねて反応を得る,というようなことをして
います。
●心の慣性の法則
皆さんも,学生時代に「慣性の法則」を学んだと思います。「物体は,ほかの力が
加わらない限り,同じ運動状態を保とうとする」というその法則は,人間の心にも当
てはまります。人は同じ反応を繰り返し起こしやすいというもので,私はそれを「心
の慣性の法則」と呼んでいます。
1.小さな反応を得る
2.
「はい/いいえ」で
答えられる質問を
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重要なポイントを記憶させる「教え方」
「伝え方」
心の慣性の法則
講師:「こんにちは」
→ 受講者:
「こんにちは」
(あるいは,頭を下げる)
講師:「聞こえますか?」
→ 受講者:うなずく
講師:「(朝あるいは昼)ご飯を食べましたか?」
→ 受講者:うなずく
講師:「今日のテーマは,○○について
話しますが,いいですか?」 → 受講者:うなずく
講師:「ここまで,理解はOKですか?」 → 受講者:うなずく
●うなずきのきずなを深める
受講者の小さな反応を得るコツとは,つまり「はい/いいえ」で答えやすく,答え
ても害のない質問を投げ掛けていくことです。
まず,私はあいさつをします。
「こんにちは(おはようございます)」と言って,大
きくお辞儀をします。お辞儀が終わったら,そのまますぐに話しはじめないで,ほん
の少しの時間,受講者の方に顔を向けたままでいます。すると受講者から「こんにち
は」と声が返ってくるかもしれません。もしかしたら会釈だけかもしれませんが,こ
こでの目的は反応してもらうことにありますから,会釈程度で十分です。
次に「私の声が聞こえていますか?」と尋ねます。これは「聞こえている」と答え
ても,
「聞こえない」と答えても,受講者が恥をかいたり,失敗したりする事柄では
ありません。恐らく多くの人が,うなずいてくれるでしょう。そうやって,少しずつ
「うなずきのきずな」を深めていくのです。
もし,どうしても受講者からの反応がない場合は,(冗談で)「生きていますか?」
と尋ねることもあります。そして「首を動かさないと血行不良になっちゃいますよー。
血色よいお肌を手に入れたい人は,時々,首を動かしてくださいねー」と私が首を回
しながら話すと,大抵の受講者は,首を回す仕草をしてくれるものです。
さあ,そこですかさず観察&コメントです。「おっ。多くの方が首を回しはじめま
した。私の声が届いてうれしいですねー」とコメントを出します。気の利いたコメン
トが出ない時には,見たままを話して,それに自分の気持ちや意見を乗せます。そう
やって,少しずつ,講師の意見に耳を傾けてもらうようにリードしていくのです。
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