プラザ合意を反面教師とする中国

2010 年 4 月 第 4 週号
(原則、毎月第 2 週、4 週発行) 2010 年度 vol.2
<フォーカス >プラザ合意を反面教師とする中国
このところの中国では、日本経済の長期低迷を招いた要因には、プラザ合意とその後の急速な円高が
あるとし、米国からの人民元への切り上げ圧力には断固抵抗すべしとの論調がみられる。
1985 年のプラザ合意の背景には、米国におけるレーガノミックスが、実体経済面では財政と経常収支
という双子の赤字の拡大、金融市場では高金利の定着とドル高の進行を招いたことがあった。当時のド
ル・円レートが、購買力平価から示唆される水準よりかなり円安方向にあったのは確かだが、240 円/㌦台
から 1 年余りで 150 円台まで進んだ円高は、当然ながら円高不況をもたらした。もっとも、製造業は、高付
加価値戦略の推進、財務体質の改善により、総じて大方の予想以上の適応力を見せ、円高のプラス面も
追い風になって、不況は予想されていたほど深刻なものにはならなかった。
しかし、急速な円高進行の精神的ショックが政府にも産業界にも尾を引いたほか、米国との貿易摩擦
問題もあって、政府は内需拡大、低金利政策の旗を降ろすことができず、後から振り返れば 1986 年 11 月
には既に景気の底を付けていたにもかかわらず、財政面では 1987 年まで 3 年連続で経済対策を実施し
たのに加え、日銀は公定歩合を当時としては超低金利の 2.5%のまま 1989 年 9 月まで据え置いた。
IMF は 13 日、日本におけるバブルの醸成、崩壊とその後の長期低迷の要因はプラザ合意ではなく、そ
の後に緩和的な政策を続け過ぎたことが主要因だとするレポートを発表した。現象面のみ見ればそのと
おりだろう。ただ、プラザ合意後、1990 年代前半にかけて経常黒字の縮小と財政収支改善が進んだのも
事実であり、バブル崩壊時の政策対応を誤らなければ、もう少し前向きの評価を与えることができた可能
性もある。景気が急変動している局面で、転換点を見極めるのは政府ならずとも容易ではない。
足元の中国と 1980 年代半ばの日本とでは異なる点も多い。中国は別に大幅な為替調整を要求されて
いるわけではない。また、プラザ合意はもっぱら米国サイドの問題だったが、足元の中国では不動産バブ
ルが深刻化しており、国内事情で引き締め的な政策を強化する必要性に迫られている。事実上の固定相
場制維持のための元売り介入の規模拡大が過剰流動性発生の一因である。既に各種の金融引き締め
策を強化しつつあるが、有効に機能させるためには人民元の緩やかなフロートを容認する必要がある。
また、いまや世界第二位に躍り出ようとしている巨大経済が、事実上の固定相場制を取り続けることが
世界経済に新たな不均衡をもたらすリスクに対し、中国政府がまったく無責任であってよいわけではない
ことも確かである。もっとも、中国政府も足元の諸状況はよく認識しているはずで、早晩、元高方向への誘
導が再開されるとみている。(Kodama wrote)
目
<フォーカス>:プラザ合意を反面教師とする中国・・・・・・・・・ 1
・経済情勢概況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
・日銀は追加緩和は必要なしとのスタンス・・・・・・・・・ 3
・元高誘導再開が秒読みに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8
・雇用・所得環境は最悪期を脱する・・・・・・・・・・・・・・ 11
次
・追加支援策を発表も不透明感が残る米国住宅市場
・排出量取引及びイスラム金融と生保の取り組み(下)・・
・議決権行使結果の開示に向けた動き・・・・・・・・・・・・
・主要経済指標レビュー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・日米欧マーケットの動向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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22
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経済ウォッチ
2010 年 4 月第 4 週号
経済情勢概況 (※取り消し線は、前回から削除した箇所、下線は追加した箇所)
日
本
日本経済は、緩やかな回復基調が続いている。
個人消費は、経済対策の効果などによって持ち直している。今後はエコカー減税・補助金やエコポイ
ントの効果逓減などによって、個人消費は年度始にかけて回復ペースが一旦やや鈍化する可能性はある
ものの、とみている。雇用・所得環境が最悪期を脱しつつあることに加え、6 月からは子ども手当の支
給も始まることから、基本的には堅調に推移するとみている。住宅投資は下げ止まりつつある。ただ、
住宅ストックの過剰感が強いことに加え、雇用・所得環境の大幅な改善は当面見込みにくく、住宅投資
の急回復は期待しづらい。
設備投資は下げ止まりつつある。ただ、企業の設備過剰感が依然として残ることなどを背景に、当面
は更新投資を中心とした緩やかな回復にとどまると予想する。今暫くは抑制基調が続くと予想する。公
共投資は、2010 年度予算案で大幅な削減となり、今後は大幅な減少が確実である。
輸出は、中国・アジア向けを中心に回復しつつある。欧州欧米景気の回復力は鈍いものの、今後も中
国・アジア向けを中心に比較的堅調に推移しよう。
足元の生産は回復しつつある。引き続き輸出を牽引役に、今後も緩やかな回復基調をたどるとみてい
る。
消費者物価は下落基調が続いている。大幅なマイナスの需給ギャップなどを背景に、物価全般に下落
圧力が残っており、強く下落圧力がかかっており、デフレ基調は長期化する可能性が高い。
米 国
米国経済は、回復基調が続いている。ただし、今後は各種対策の押し上げ効果が徐々に縮小していく
とみられるほか、借入に依存した過剰消費体質が修正を迫られていること、金融システムも脆弱な状況
が続くことなどから、回復ペースは緩慢なものにとどまろう。
個人消費は、雇用・所得環境が緩やかながらも改善に向かうとみられるっていることから、持ち直し
傾向が続くとみているが、家計のバランスシート調整が続くことで、緩やかな回復にとどまるとみてい
る。
住宅市場は、政府・FRB による住宅市場支援策等の効果で、販売の増加や着工件数の下げ止まり等、
底打ちに向けた動きが見られる。足元で弱含んでいる。今後もは、雇用環境の改善などから持ち直しが
続くとに向かうとみているが、ペースはやはり緩やかなものにとどまろう。
設備投資は、生産の増加が続いており、企業業績も上向いていることなどから、回復基調が続くと予
想する。ただし、企業の設備過剰感が残るとみられることなどから、力強い回復には至らないとみる。
FRB は異例の低金利を長期にわたり継続する方針を示している。利上げに踏み切るのは、2011 年 1-
3 月期とみている。
欧 州
ユーロ圏経済は、各種対策効果や海外景気の持ち直しに伴う輸出の増加を背景に回復基調が続いてい
る。ただ、対策の効果は今後逓減していくと予想されること、成長市場だった中東欧諸国の景気は今暫
く低迷が続く可能性が高く、貸出債権が不良化する恐れがあること、スペイン等中心に住宅バブル崩壊
の影響が根強く残ると考えられることなどから、今後の回復ペースは極めて緩やかなものにとどまる可
能性が高い。また、各国が財政健全化を進めると考えられることも景気を抑制しよう。
個人消費は、雇用環境の悪化を背景に低迷している。雇用調整は今暫く続く可能性が高いほか、自動
車買い替え策の効果が弱まると予想されることから、今後も個人消費は低調な推移が続く可能性が高
い。
設備投資は、企業収益悪化の影響などから減少が続いている。足元では、世界景気の回復に伴い輸出
が持ち直してきていることから、今後設備投資の減少幅は徐々に縮小しよう。
ECB は、無制限の流動性供給策など非伝統的政策のクロージングに向けて動き出した。但し、インフ
レ率は、ECB が物価安定の目安とする 2%弱を当面下回って推移する可能性が高いことから、政策金利
の引き上げは 2011 年半ば頃と予想する。
2
経済ウォッチ
2010 年 4 月第 4 週号
日銀は追加緩和は必要なしとのスタンス
景気判断を前進させる
4 月 6,7 日に開催された金融政策決定会合(以下、会合)では、景気の現状判断が「持ち直している」
から「持ち直しを続けている」へと修正された。微修正でわかりにくいが、白川総裁は定例会見で「景
気判断を一歩進めた」との見解を示している。半年ぶりの判断の前進ということになる(図表 1)。会合
直後の声明文では、企業景況感や設備投資の判断を前進させている(変更箇所の詳細は文末の別表参照)。
が、今回もっとも印象的だったのは、金融環境の表現が、3 月の「厳しさを残しつつも、改善の動きが
続いている」から「厳しさを残しつつも、緩和方向の動きが強まっている」へと明確に強められた点で
ある。新型オペの拡充などの効果に加え、景気回復基調が続いていることで、超低金利の実質的な緩和
効果が強まりつつあることを確認した形だ。現時点で日銀が追加緩和策が必要と考えていないことを強
くにじませる変更と言える。
(図表 1)金融政策決定会合後の声明文における景気の現状判断の変化
声明文(除く展望レ
ポート)の発表日
09 年 4 月 7 日
5 月 22 日
6 月 16 日
7 月 15 日
8 月 11 日
9 月 17 日
10 月 14 日
11 月 20 日
12 月 18 日
10 年 1 月 26 日
2 月 18 日
3 月 17 日
4月7日
現状判断
判断の方向
大幅に悪化している
悪化を続けている
下げ止まりつつある
下げ止まっている
下げ止まっている
持ち直しに転じつつある
持ち直しつつある
持ち直している
持ち直している
持ち直している
持ち直している
持ち直している
持ち直しを続けている
→
↑
↑
↑
→
↑
↑
↑
→
→
→
→
↑
備
考
2 年 10 ヶ月ぶりの上方修正
2 ヶ月連続の上方修正
3 ヶ月連続の上方修正
2 ヶ月ぶりの上方修正
2 ヶ月連続の上方修正
3 ヶ月連続の上方修正
5 ヶ月連続の表現据え置き
5 か月ぶりにの上方修正
声明文で言及のない、あるいは言及不十分な判断項目について、翌日(8 日)発表の金融経済月報(以下
月報)で確認すると、まず、設備投資についての先行きは、「当面はなお横ばい圏内」との判断が維持
されている。足元は改善でも、このまま右肩上がりで回復すると予想しているわけではない。また、消
費者物価の先行きについては、「当面は現状程度の下落幅で推移したあと」という一節が削除され、「マ
クロ的な需給バランスが徐々に改善することなどから、基調的にみれば下落幅が縮小していくと予想さ
れる」という部分のみが残った。今後はデフレ圧力が徐々に弱まっていくとの見通しである(なお、声
明では、消費者物価については、公立高校無償化等の影響は除外して考えるとしている)。
金融環境の改善は月報からも確認できる。まず、CP・社債市場については、3 月の「低格付社債を除
き、良好な発行環境が続いている」から、「良好な発行環境が続いており、低格付社債の発行環境にも
改善の動きがみられている」へと、改善の動きが低格付社債まで広がっているとの認識が示された。企
業の資金繰りについては、3 月の「中小企業を中心になお厳しいとする先が多いものの、改善の動きが
続いている」から、「中小企業ではなお厳しいとする先が多いものの、これらも含め全体として緩和方
3
経済ウォッチ
2010 年 4 月第 4 週号
向の動きが続いている」へと変更されている。大企業のみならず、中小企業にも資金繰り改善の動きが
波及しているとの見方を示した形だ。
定例会見で景気回復を再確認
白川総裁は、会合後の定例会見で、唯一判断を前進させた最終需要項目である設備投資について、声
明文を補強している。冒頭の導入説明の部分では、「下げ止まりが明確になってきました」と述べたほ
か、質疑応答では、短観の過去の平均的なパターンから見る限り、企業の 2010 年度の設備投資は最終
的には「数パーセントのプラス」に転じる見通しであり、
「景気の回復がもう少し着実なものになれば、
さらに上乗せされてくる」と、具体的な見通しを示している。月報には「当面はなお横ばい圏内」と書
かれているので、年度後半にかけて、かなり明確に改善してくる見通しと受け止められる。
短観で示された企業景況感の改善傾向については「裾野が広がっている」との認識を示している。質
疑応答では、短観の販売価格判断 DI の改善の鈍さを懸念する質問が出されたが、総裁は、需給バラン
スの改善とともに販売価格判断 DI も改善に向かうとの楽観的な見通しを示した。
先行きの成長率については、「大きく改善した後でいったん伸び率が少し緩やかになる」との見通し
である。ただ、「どの国でも最初の反発は数字的には大きな伸び率になります。それがだんだんと巡航
的な数字になってくるという局面をいったん迎えます」との説明であり、いわゆる踊り場には当たらな
いとの考えだ。
先般公表された金融システムレポートで示された、銀行の金利リスクの蓄積に関しては、企業の借り
入れ需要の弱まりに伴う債券投資の増加や、資金繰りの安定のため企業が長期借入に乗り換えているこ
とが要因としたが、金利上昇が景気回復に根ざしたものであれば、一方で貸出の増加や利ザヤの拡大を
伴うことから、全体として銀行の抱える金利リ
スクが過大とは考えていないとの見方を示した。 (図表2)4月展望レポートの予想(政策委員の大勢見通しの中央値)
以上のとおり、会見も声明文同様、全体的に
前年比(%)
楽観的なトーンが目立つ内容であった。月末の
2010年度 実質GDP
コアCPI
的に上方修正されるのが確実とみられ(図表 2)、
2011年度 実質GDP
とりあえず、月末の会合でなんらかの追加緩和
コアCPI
展望レポートでは、景気・物価見通しとも全体
策が打ち出される可能性は大きく遠のいたとい
える。ただ、これで一連の緩和策が打ち止めに
2009年10 2010年1 4月展望レ
月展望レ 月中間評 ポート(当
ポート
価
社予想)
1.2
1.3
2.0
▲0.8
▲0.5
▲0.4
2.1
2.1
2.1
▲0.4
▲0.2
0.0
(出所)日本銀行より明治安田生命作成
※2010年度のCPIは高校無償化の影響を除いたベース
なるかというとそれも疑わしい。デフレ基調が
続いているのは確かであり、政府サイドからは引き続き、相応の役割分担を求めるという形で圧力がか
かり続ける可能性が高い。日銀自身は、追加緩和は不要とのスタンスとみられるが、昨年末以降、政府
からの要求に屈したとみられる場面が目立って増えていることもあり、参院選前後に同様の光景が繰り
返される可能性は残る。
また、本筋ではないが、現在の政策については、「私どもはいわゆる量的緩和政策を採用しているわ
けではありません」と説明している。12 月の新型オペの導入時は「広い意味での量的緩和」と言ってい
たことを考えると若干違和感を覚えるが、アナウンスメント効果を狙った市場へのリップサービスがや
や行き過ぎたとの反省があるのかもしれない。
就任 2 周年を迎えた白川総裁
白川総裁は 3 月 9 日で就任後丸 2 年を経過したことになる。この 2 年間を振り返ると、まず、金融政
4
経済ウォッチ
2010 年 4 月第 4 週号
策のかじ取りについては、概ね高い評価が可能とみる。リーマン・ショック後の世界的な金融市場の混
乱を、諸外国の中央銀行とも協力する形で、ドル資金の直接供給、リスク資産の買い取り、企業金融支
援特別オペの実施など、非伝統的な政策を次々に打ち出すことでなんとか乗り切った(図表 3)。金融緩
和が不足と批判されることも多かったが、短期金利がほぼゼロにまで低下し、かつ、日銀が過去に実施
したような量的緩和策の金融緩和効果は乏しかったというのが世界的なコンセンサスであることを考
えれば、できることはだいたい実施してきたといえるのではないか。
(図表3)金融危機後に日銀が実施してきた主な政策
銀行のバランスシート(イメージ)
資産
負債・資本
国債
長期国債買い入れ増額。国債
現先オペの拡充
社債
政策金利の引き下げ
固定金利の共通担保オペ(新
型オペ)
借入・預金等
社債買い入れ
銀行保有株買い入れ
株式
企業金融支援特別オペ(モン
スターオペ)
CP
適格担保範囲の拡大(J-REI
T債、BBB格社債、政策金融
公庫債、外債等)
CP、ABCP買い入れ。CP現
先オペ拡充
日銀当座預金
超過準備への付利(補完当座
預金制度)
貸付・その他
米ドル資金供給オペ
自己資本
劣後ローン供給
(出所)日本銀行より明治安田生命作成
白川総裁の説明は懇切丁寧、実直というイメージで、市場との対話能力という面でも大きな問題はな
かった。記者会見では、煙に巻くようなワーディング、定義のあいまいな言葉の使用を極力避け、正面
から理論的かつ丁寧にたんたんと説明する姿勢が大学の授業を彷彿とさせたことから、「白川ゼミ」と
の評価を受けるに至った。一方で、最近は、新型オペの拡充の際に見られたように、政府や市場からの
圧力と、自らの信念との板挟みの中で窮する場面も目立ち、次第に自らの政策に対する合理的な説明が
できなくなってきた印象は否めない。
政府との関係という点については、大きな課題を残した。政治の中央銀行への圧力はどの国でも大な
り小なりあるものだが、日本の場合、とりわけ強く、かつ露骨というのが日銀にとっては不幸であった
のは確かである。ただ、政府や市場に押し切られたという印象を与えることは、結局は日銀自身の信認
の低下につながる。任命時の国会におけるゴタゴタもあって、審議委員の中に政府との太いパイプを持
つ人材が乏しいという点が、事前の根回しを含めた政府とのコミュニケーション不足に繋がった可能性
がある。政府との間合いの取り方という点は、今後の大きな課題と言える。 (担当:小玉)
(別表)会合後の声明文の前回との比較(下線部は主たる変更箇所)
前回
2010/3/17
今回
2010/4/7
1.日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合に
おいて、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針
を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。
1.日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合に
おいて、次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針
を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。
無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.1%
前後で推移するよう促す。
無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0.1%
前後で推移するよう促す。
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経済ウォッチ
2010 年 4 月第 4 週号
<筆者コメント>
・政策金利は据え置き。
2.わが国の景気は、国内民間需要の自律的回復力はな
お弱いものの、内外における各種対策の効果などから持
ち直している。すなわち、内外の在庫調整の進捗や海外
経済の改善、とりわけ新興国経済の強まりなどを背景に、
輸出や生産は増加を続けている。設備投資は概ね下げ止
まっている。個人消費は、厳しい雇用・所得環境が続い
ているものの、各種対策の効果などから耐久消費財を中
心に持ち直している。公共投資は減少している。この間、
金融環境をみると、厳しさを残しつつも、改善の動きが
続いている。物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)
の前年比は、経済全体の需給が緩和状態にあるもとで下
落しているが、その幅は縮小傾向を続けている。
2.わが国の景気は、国内民間需要の自律的回復力はな
お弱いものの、海外経済の改善や各種対策の効果などか
ら、持ち直しを続けている。すなわち、新興国経済の高
成長などを背景に、輸出や生産は増加を続けている。企
業の業況感は、引き続き改善している。設備投資は下げ
止まっている。個人消費は、厳しい雇用・所得環境が続
いているものの、各種対策の効果などから耐久消費財を
中心に持ち直している。公共投資は減少している。この
間、金融環境をみると、厳しさを残しつつも、緩和方向
の動きが強まっている。物価面では、消費者物価(除く
生鮮食品)の前年比は、経済全体の需給が緩和状態にあ
るもとで下落しているが、その幅は縮小傾向を続けてい
る。
<筆者コメント>
・景気判断を「持ち直している」から「持ち直しを続けている」に微修正。
・持ち直しの理由から、「内外の在庫調整の進捗」を削除。在庫調整は既に一巡しつつあるとの認識か。
・「新興国経済の強まり」を「新興国経済の高成長」に小幅上方修正
・「各種対策の効果」の直前の「内外における」を削除。海外の対策効果の影響は一巡したとの見方か。
・企業景況感の評価(短観発表直後のみ言及)は、12 月会合の「企業の業況感は、製造業大企業を中心に、緩やかに
改善している」から「企業の業況感は、引き続き改善している」へと修正。「製造業大企業を中心に」がとれた形で、
改善傾向のすそ野が広がったとの評価。
・設備投資の判断を、「概ね下げ止まっている」から「下げ止まっている」へと前進。
・金融環境の判断について、「厳しさを残しつつも、改善の動きが続いている」を、「厳しさを残しつつも、緩和方
向の動きが強まっている」へと前進。
3.先行きの中心的な見通しとしては、2010 年度半ば 3.先行きの中心的な見通しとしては、当面、わが国経
頃までは、わが国経済の持ち直しのペースは緩やかな
済の持ち直しのペースは緩やかなものとなる可能性が
ものに止まる可能性が高い。その後は、輸出を起点と
高い。その後は、輸出を起点とする企業部門の好転が
する企業部門の好転が家計部門に波及してくるとみら
家計部門に波及してくるとみられるため、わが国の成
れるため、わが国の成長率も徐々に高まってくるとみ
長率も徐々に高まってくるとみられる。物価面では、
られる。物価面では、中長期的な予想物価上昇率が安
中長期的な予想物価上昇率が安定的に推移するとの想
定的に推移するとの想定のもと、マクロ的な需給バラ
定のもと、マクロ的な需給バランスが徐々に改善する
ンスが徐々に改善することなどから、消費者物価(除
ことなどから、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比
く生鮮食品)の前年比下落幅は縮小していくと考えら
下落幅は縮小していくと考えられる。
れる。
<筆者コメント>
・「2010 年度半ば頃までは」を「当面」へと変更。「当面」のタイムホライズンが不明だが、景気回復ペースが速ま
る時期をより前倒しした印象。
4.リスク要因をみると、景気については、新興国・資 4.リスク要因をみると、景気については、新興国・資
源国の経済の強まりなど上振れ要因がある一方で、米
源国の経済の強まりなど上振れ要因がある一方で、米
欧のバランスシート調整の帰趨や企業の中長期的な成
欧のバランスシート調整の帰趨や企業の中長期的な成
長期待の動向など、一頃に比べれば低下したとはいえ、 長期待の動向など、一頃に比べれば低下したとはいえ、
依然として下振れリスクがある。また、最近における
依然として下振れリスクがある。また、最近における
国際金融面での様々な動きとその影響についても、引
国際金融面での様々な動きとその影響についても、引
き続き注意する必要がある。物価面では、新興国・資
き続き注意する必要がある。物価面では、新興国・資
源国の高成長を背景とした資源価格の上昇によって、
源国の高成長を背景とした資源価格の上昇によって、
わが国の物価が上振れる可能性がある一方、中長期的
わが国の物価が上振れる可能性がある一方、中長期的
な予想物価上昇率の低下などにより、物価上昇率が下
な予想物価上昇率の低下などにより、物価上昇率が下
振れるリスクもある。
振れるリスクもある。
<筆者コメント>
・変更なし。
5.日本銀行は、日本経済がデフレから脱却し、物価安
定のもとでの持続的成長経路に復帰することが極めて
重要な課題であると認識している。そのために、中央
銀行としての貢献を粘り強く続けていく方針である。
5.日本銀行は、日本経済がデフレから脱却し、物価安
定のもとでの持続的成長経路に復帰することが極めて
重要な課題であると認識している。そのために、中央
銀行としての貢献を粘り強く続けていく方針である。
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経済ウォッチ
2010 年 4 月第 4 週号
金融政策運営に当たっては、きわめて緩和的な金融環
今回のやや長めの金利の低下を促す措置の拡充もこう
境を維持していく考えである。
した方針に基づくものであり、金融政策運営に当たっ
ては、今後とも、きわめて緩和的な金融環境を維持し
ていく考えである。
<筆者コメント>
・前回の新型オペ拡張に対応した部分である「今回のやや長めの金利の低下を促す措置の拡充もこうした方針に基づ
くものであり」を削除。きわめて緩和的な金融環境を維持していく姿勢を確認。
7
経済ウォッチ
2010 年 4 月第 4 週号
元高誘導再開が秒読みに
実感は乏しいながら外需主導で緩やかに回復
(図表1)中国実質GDP成長率の推移
(前年比)
%
中国経済が V 字型の回復を続けている。15 日に発表さ
れた 2010 年 1-3 月期の中国の実質 GDP 成長率は前年同
期比 11.9%増と、10-12 月期の同 10.7%増から一段と
加速、2 四半期連続の二桁成長となった (図表 1)。当局
によると、前年の数字が低いことも高成長の要因とのこ
とだが、中国経済が、大方の予想以上に速いペースで回
14
13
12
11
10
9
8
7
6
復を続けているのは間違いない。政府による一連の財政
5
政策や、緩和的な金融政策、輸出の好転、先進国からの
(出所)ブルームバーグ
01年
02年
資金流入などがその背景にある
景気の好調を受け、インフレ圧力も徐々に強まりつつ
20
ある。3 月の CPI は前年同月比 2.4%の上昇となった(図
15
表 2)。2 月の 2.7%から伸び幅は鈍化したほか、食品価
10
格が伸びの半分以上を占めるなど、今のところ上昇して
5
いる品目は偏っているが、当局は、輸入価格の上昇や国
0
内労働コストの上昇により、物価押し上げの圧力が強ま
-5
05年
06年
07年
08年
09年
10年
CPI総合
食品
05年
っているとの見解を示している。2010 年の消費者物価上
06年
07年
08年
09年
10年
(出所)ブルームバーグ
昇率の目標である 3%以内を達成するのは難しいかもし
れないとの見解だ。
04年
(図表2)中国消費者物価の推移(前年比)
%
25
不動産価格の抑制策を一段と強化
03年
(図表3)不動産開発投資の推移
%
40
※年初からの累計値の前年比(1月は発表なし)
もっとも、当局が警戒しているのは、一般物価よりも、
35
30
バブル色を強めつつある不動産市場の動向である。地価
25
上昇を背景に、2009 年の不動産販売額は前年比 75%超の
20
上昇となったほか、2009 年の政府の不動産譲渡収入は前
15
10
10/3
10/2
10/1
09/12
09/11
09/10
09/9
に入ってからも、沈静化の兆しはほとんどみられない。
0
09/8
とりわけ、2009 年後半以降の市況回復が著しく、2010 年
5
09/7
年比 43.2%の増加(1 兆 4,239 億 7,000 万元)となった。
(出所)ブルームバーグ
1-3 月の不動産開発投資は、前年比 35.1%増と、1-2
月の同 31.1%から一段と加速した(図表 3)。3 月単月では
(図表4)中国70都市住宅価格の推移
%
12
前月比(右軸)
都市の不動産価格は 11.7%と、2 月の同 10.7%、1 月の同
10
前年比(左軸)
9.5%から伸び率がさらに加速した(図表 4)。政府がリゾ
8
ート構想を打ち出している海南省の海口が前年比 53.9%、
6
0.0
2
10/3
09/11
09/7
09/3
08/11
08/7
08/3
07/7
07/3
-1.0
06/11
-2
06/7
といったところ。他にも不動産市況の好調を示す指標は枚
-0.5
(出所)ブルムバーグ
06/2
0
8
0.5
4
センが同 20.1%、浙江省温州が同 17.4%、北京が同 12.3%
挙にいとまがない。1-3 月の新規着工床面積は、前年比
2.0
1.0
05/10
同じく三亜が 52.1%の高い伸びとなったほか、広東省深
%
1.5
07/11
同 39.0%の高い伸びとなっている。また、3 月の主要 70
14
経済ウォッチ
2010 年 4 月第 4 週号
60.8%と過去最大の増加を記録している。
中国国務院は 14 日、温家宝首相が主宰する第 1 四半期の経済情勢分析会議を開いた。そこでは、緩和
的な財政金融政策がインフレに与える潜在的リスクは軽視できないとの認識が示されたほか、「一部都
市での住宅価格高騰問題は突出している」とし、「過度の上昇は断固として抑える」との方針が示され
た。国務院は翌 15 日に早速、2008 年 10 月以降を緩和していた住宅ローンの貸出条件の規制再強化を発
表している。具体的には、初めて住宅を購入する場合(90 平方メートル以上)の頭金の割合を 20%か
ら従来の 30%に戻すほか、2 軒目の住宅を購入する場合は頭金の割合を 40%から 50%に引き上げると
ともに、住宅ローン金利を人民銀行の基準金利の 1.1 倍以上とすることを銀行に義務付けるという内容
である。投機色が強いと考えられる 2 件目以降の住宅購入への規制を一段と厳しくした形だ。
今四半期中の利上げ実施を予想
金融面でも引き締め方向の動きを強めている。不動産市場再過熱の背景には、急拡大した銀行融資の
一部が投機マネーに化けていることがある。中国当局は、2008 年 9 月に 6 年半ぶりに利下げを実施して
以来、5 回の追加利下げをはじめ、大胆な金融緩和策を次々に打ち出してきた。とりわけ、2008 年 11
月に発動された 4 兆元の景気対策のサポートのため、人民銀行が窓口指導を通じて金融機関に貸出拡大
を指示したことが、2009 年以降の融資残高の急増に繋がった。政府は当初、2009 年の融資増加目標を 5
兆元と置いていたが、これは 4 月までのわずか 4 ヶ月で達成、最終的には目標の約 2 倍にまで膨らんだ。
中国銀行業監督管理委員会(銀監会、金融機関を統一的に管理監督する組織として 2003 年に設立)は、
昨年の融資額のうち、20%前後が不動産投資に向かったとの調査結果を発表している。2010 年の融資目
標額は 7 兆 5,000 億元とおいているが、うち 1-3 月期は
40%、4-6 月期は 30%、7-9 月期は 20%、10-12 月期
%
(図表5)中国の主要金利の推移
12
は 10%以内と、順次絞り込んでいくとの方針だ。
%
18
また、人民銀行は 1 月に、5 ヶ月ぶりに、3 ヶ月物手形
10
16
オペ金利を 1.3280%から 1.3680%まで 0.04%引き上げた
8
14
6
12
4
10
ほか、1,2 月と 2 ヶ月連続で法定預金準備率を 0.5%ずつ
引き上げている(図表 5)。今後は、引き締め路線をさらに
強化してくる可能性が高い。法定準備率は年内にあと 3~
4 回引き上げられる可能性があるとみる。利上げについて
2
は、高金利通貨を志向する投機資金の流入によって景気過
0
07/5
熱をさらに助長する恐れがあるほか、中国経済の金利チャ
ネル自体が弱いということもあって、今のところ行われて
いないが、おそらく 4-6 月中には最初の利上げに踏み切
る可能性が高い。もし、3 月の CPI 上昇率の 2.4%が人々
1年物貸出金利
1年物預金金利
法定預金準備率(右軸)
07/11
08/5
8
(出所)ブルームバーグ
6
08/11
09/5
09/11
(図表6)人民元直物と先物(NDF)の推移
元/㌦
7.6
7.4
7.2
のインフレ期待に一致すると仮定すると、1 年物定期預金
7.0
基準金利(2.25%)を上回る「実質マイナス金利」が実現
6.8
していることになる。今後は CPI 上昇率が 3%に迫ってく
6.6
る可能性が高いことを考えれば、金利水準の段階的調整も
6.4
避けては通れない。年内に 2~3 回程度は実施されると見
6.2
人民元
人民元NDF(12ヶ月)
(出所)ブルームバーグ
9
10/3
09/12
09/9
09/6
09/3
08/12
08/9
08/6
08/3
07/9
元高誘導再開も秒読み
07/12
6.0
ている。
経済ウォッチ
2010 年 4 月第 4 週号
人民元の元高誘導再開も秒読み段階になってきたようだ。政府当局は、人民元相場を一昨年の 7 月以
降、事実上の対ドル固定相場に戻している(図表 6)。これが足元の輸出回復に貢献しているほか、金融
市場の信頼性を高め、先進国からの安定的な資金流入に繋がった。とりわけ、米国では、FRB が、ほぼ
ゼロ金利という超金融緩和策をある程度の長きにわたって続けることにコミットするという金融政策
運営を行っていることから、低利のドルで資金を調達して、高金利通貨やリスク資産に投資するという、
「ドルキャリー取引」が膨張し、これが中国をはじめとした新興国や資源国への大量の資金流入をもた
らした。
景気回復とドル安、およびドルキャリー取引の拡大に
10億㌦
伴い、昨春以降、通貨当局は元売りドル買い介入の規模
2500
拡大を余儀なくされており、結果として外貨準備高が増
2000
加の一途をたどっている(図表 7)。また、元売り介入を
(図表7)中国の外貨準備高の推移
1500
通じて市場に供給されたマネーを不胎化しきれないこと
が、足元のマネーサプライ拡大の一因ともなっている。
各種の金融引き締め策を有効に機能させるためには、マ
ネーサプライの拡大を抑制しなければならず、それは人
民元の緩やかなフロートを容認しなければ難しい。中国
1000
500
0
05年
06年
07年
08年
09年
10年
(出所)ブルームバーグ
国内の事情で、人民元の切り上げは待ったなしの状況と
なりつつある。
人民元の固定については、米国だけではなく、最近では新興国からも「アンフェア」との声が上がっ
ている。もっとも、中国当局は、「外圧によって行動することはない」と強く抵抗している。中国政府
への圧力は、世論の反発を招き、中国政府を逆に動きにくくしてしまうと言う点で逆効果と考えられる
が、放っておいても、V 字型の景気回復を続ける国内事情が、固定相場制の持続を許さない状況になり
つつあることから、おそらく 4-6 月中、遅くても 7-9 月には元高誘導を再開させる可能性が高い。手
法としては、経済への影響を考えれば、2005 年のように一度に数%の切り上げを実施する可能性は低く、
それよりも、まず日々の変動容認幅を拡大させ、その範囲内で緩やかに元高方向への誘導を進めるとい
う形をとることになろう。2011 年末までに 1 割程度の引き上げが実施されると予想する。(担当:小玉)
10
経済ウォッチ
2010 年 4 月第 4 週号
雇用・所得環境は最悪期を脱する
雇用情勢は最悪期を脱したものの依然として厳しい
完全失業率(季調値)は昨年 7 月に過去最悪の
倍
5.6%にまで上昇したが、その後は低下基調に転じて
1.8
6.0
いる(図表 1)。有効求人倍率(季調値)と新規求
1.6
5.5
1.4
5.0
しつつある。
1.2
4.5
1.0
昨年 7 月から直近 2 月までの間に、雇用者数(季
0.8
調値)は 31 万人の増加となる一方、雇用調整助成金
0.6
0.4
3.0
新規求人倍率(左軸)
0.2
2.5
完全失業率(右軸)
2.0
300
を意味するため、実態としては雇用が増加したと考
250
えることもできる。
200
一方、雇用形態別新規求人数(前年比)を見ると、
150
「臨時・季節」(臨時は 1 ヶ月以上 4 ヶ月未満の雇
100
用契約、季節は季節的な労働需要に対して一定の期
50
09/03
08/03
07/03
06/03
(図表2)雇用調整助成金の支給対象者数
08/4~09/1は累計約2万人
09/12
09/10
09/08
09/06
09/04
09/02
08/12
08/10
気の回復基調は続いているものの、企業は正社員の
08/08
「正社員」は前年割れが続いている(図表 3)。景
08/06
0
08/04
間を定める雇用契約)の求人は増加しているものの、
05/03
(出所)厚生労働省「一般職業紹介状況」、総務省「労働力調査」
の減少は、休業中の労働者が通常勤務に戻ったこと
04/03
休業手当や賃金の一部を助成することによって、失
万人
03/03
用調整を実施せざるをえない企業に対し、従業員の
業を防止することを目的としている。支給対象者数
02/03
0.0
00/03
万人も減少した(図表 2)。雇用調整助成金は、雇
3.5
有効求人倍率(左軸)
01/03
の支給対象者数は 255 万人から 142 万人へと、113
4.0
10/02
人倍率(季調値)も昨年 8 月を底に、緩やかに反転
%
(図表1)求人倍率と失業率の推移
(出所)厚生労働省
採用には依然として及び腰であり、有期契約社員の
採用を優先している様子が窺われる。また、製造業
%
(図表3)雇用形態別新規求人数(前年比)の推移
40
を中心に所定外労働時間が顕著に回復する一方、常
用雇用指数の回復力は鈍く、企業は従業員の増員よ
20
0
3 月調査の日銀短観における雇用人員判断 DI は+
-20
13(全規模・全産業ベース)と、3 期連続で改善し
-40
09/12
09/09
09/06
09/03
08/12
08/09
08/06
08/03
かう局面では、これまで職探しを諦めていた人が労
07/12
加基調が続くと予想されるが、雇用情勢が改善に向
臨時・季節
-80
07/09
今後も景気の回復とともに、雇用者数は緩やかな増
正社員
パートタイム
-60
07/06
たものの、依然として雇用過剰感が残る水準である。
07/03
りも残業の増加で対応している面が強い。
(出所)厚生労働省「一般職業紹介状況」
働市場に参入する傾向があり、職探しを始めてもす
ぐに就職できない場合には失業者にカウントされる。また、今後は公共投資の大幅減が確実であり、建
設業従業者(約 500 万人)の失職が増加する懸念が強い。実際、3 月調査の日銀短観では、建設業(全
規模ベース)
の先行き 6 月の雇用人員判断 DI が+10 から+23 へと大幅に悪化する見通しとなっている。
11
経済ウォッチ
2010 年 4 月第 4 週号
雇用情勢は最悪期を脱したものの、2010 年度一杯
は失業率の高止まりが続くと予想される。
(図表4)現金給与総額(前年比)の推移
(事業所規模5人以上:調査産業計)
%
10
所得環境は緩やかに改善
5
製造業を中心に所定外労働時間が増加しており、
0
それに伴って、所定外給与も回復している(図表 4)。
-5
2008 年 9 月のリーマン・ショック後に落ち込んだ現
-10
現金給与総額
金給与総額も前年並みの水準にまで戻った。㈱イン
-15
所定内給与
-20
所定外給与
賃上げ率(定期昇給込み)は前年比+1.89%(6,165
09/12
09/09
09/06
09/03
08/12
08/09
08/06
08/03
(出所)厚生労働省「毎月勤労統計」
日本経団連の集計(3 月 29 日現在)によれば、企
業収益の改善を受けて、2010 年度の大手企業の春季
07/12
以降 4 ヶ月連続で前年比プラスとなった(図表 5)。
07/09
-25
07/06
する傾向があるアルバイトの平均時給は昨年 12 月
07/03
テリジェンスの調査によれば、正社員の賃金に先行
円
%
(図表5)アルバイト平均時給の推移
1000
4
平均時給(左軸)
990
3
前年比増減率(右軸)
940
-2
930
-3
2010 年度は所定内給与も賞与も前年水準を小幅な
がら上回る見通しであり、4 月以降は現金給与総額
(出所)インテリジェンス
も前年比プラス基調に転じる可能性が高まった。所
円
得環境は緩やかな改善基調が続くと予想される。
%
(図表6)春季賃上げ妥結状況の推移
2.0
7,000
個人消費は堅調に推移
今後はエコカー減税・補助金やエコポイントの効
10/03
いる(図表 7)。
09/12
-1
09/09
950
09/06
の年間一時金は前年比+2.51%の 159 万円となって
09/03
0
08/12
960
08/09
次集計、3 月 30 日現在)では、2010 年度の主要企業
08/06
1
08/03
970
07/12
回った(図表 6)。日本経済新聞の賃金動向調査(1
07/09
2
07/06
980
07/03
円)と、前年の伸び率(+1.81%)を小幅ながら上
※2010年度は3月29日
現在の妥結状況
1.8
6,000
果逓減が懸念され、乗用車や薄型テレビの販売は次
5,000
前年比伸び率(右軸)
待されること、第一生命の株式会社化に伴い契約者
10年
09年
08年
07年
05年
04年
03年
られること、所得環境は今後緩やかに改善すると期
に株式・現金が割り当てられたこと(約 1.4 兆円相
1.4
4,000
02年
が、雇用環境は厳しいながらも最悪期は脱したとみ
1.6
妥結金額(左軸)
消費の回復ペースが一旦やや鈍化する可能性もある
06年
第にピークアウトすると予想される。年度始は個人
(出所)日本経済団体連合会
万円
(図表7)年間一時金妥結状況(1次集計)の推移
%
180
5
の授業料軽減が始まること、6 月からは子ども手当の
170
0
支給も開始されることなどを考慮すると、個人消費
160
-5
150
(出所)日本経済新聞
12
10年
09年
-20
08年
(担当:内匠)
-15
130
05年
はじめ、幅広い分野で回復に向かうと予想している。
前年比伸び率(右軸)
140
04年
あったが、今後は、教育、レジャー、衣料品などを
-10
支給金額(左軸)
これまでの個人消費回復の牽引役は耐久消費財で
07年
は今後も基本的には堅調に推移する可能性が高い。
06年
当)、4 月からは公立高校の授業料無償化・私立高校
経済ウォッチ
2010 年 4 月第 4 週号
追加支援策を発表も不透明感が残る米国住宅市場
住宅市場は足元で弱含み
千件
米国の住宅市場は、昨年初あたりから中古を中心
千件
(図表1)新築・中古住宅販売件数と住宅着工件数の推移
効果が挙げられる。とりわけ、政府による住宅の初
00/2
00/8
01/2
01/8
02/2
回購入者に対する最大 8,000 ドルの税額控除が大
きかった。当初は、その期限が 11 月末とされてい
住宅着工件数
たため、駆け込み需要で中古を中心に販売が急増し
新築住宅販売件数
10/2
府や FRB(米連邦準備制度理事会)による支援策の
07/2
07/8
08/2
08/8
09/2
09/8
住宅市場が持ち直しつつあった要因としては、政
04/8
05/2
05/8
06/2
06/8
たが、足元では再度弱含みつつある(図表 1)。
03/8
04/2
に販売が増加するなど、持ち直しの動きが続いてい
8500
8000
7500
7000
6500
6000
5500
5000
4500
4000
3500
3000
02/8
03/2
2400
2200
2000
1800
1600
1400
1200
1000
800
600
400
200
中古住宅販売件数(右)
(出所)米商務省、米不動産業者協会(NAR)
たが、その後は反動で大きく減少している。
11 月には、税額控除の期限が 4 月末まで延長され、それまで対象外だった 5 年以上住宅を保有した者
が買い替える際も新たに税額控除(最大 6,500 ドル)の対象に加えられた。これで、販売は持ち直しに
向かうとみられていたが、今のところ目立った効果は現れていない。新築、中古販売とも予想外の減少
が続いており、新築販売は 1963 年の統計開始以来の最低水準を更新している。今後、税額控除の期限
である 4 月末に向け、再び駆け込み需要で販売が盛り上がったとしても、税額控除が打ち切られた後は
再度弱含む可能性が高い。住宅市場の腰折れ懸念から、税額控除の継続を望む声が政府内外から出てい
るが、今のところ延長はないとされている。
%
(図表2)30年固定住宅ローン金利と30年物米国債金利の推移
%
3.0
7
また、FRB による MBS(住宅ローン担保証券)な
2.5
6
どの買い取りも、住宅ローン金利を低水準で維持さ
2.0
せることを通じて、住宅市場の改善に寄与していた
5
が、こちらは 3 月末で既に打ち切られている。今の
4
ところ、住宅ローン金利に大きな上昇はみられてい
3
ないものの(図表 2)、このところの MBS 市場にお
2
1.5
1.0
0.5
した影響が徐々に出てくるのは避けられず、国債と
住宅ローン金利(30年固定)
のスプレッドは今後緩やかに拡大するとみられる。
住宅ローン金利の上昇は、購入者の負担増につなが
30年債金利
10/4
10/2
09/12
09/10
09/8
09/6
09/4
09/2
08/12
ける最大の買い手であった FRB が買い取りを終了
08/10
08/8
0.0
スプレッド(右)
(出所)米抵当銀行協会(MBA)、Bloomberg
(図表3)差し押さえ件数と延滞率の推移
万件
%
40
るため、住宅市場の下押し要因となる懸念がある。
差し押さえ抑制策を拡充
10.0
35
9.0
30
8.0
25
失業率の高止まりが続く中、差し押さえ件数は高
20
水準で推移している(図表 3)。雇用環境は持ち直
15
しつつあるものの、住宅ローンの延滞率も高止まり
10
7.0
6.0
5.0
5
しており、今後も差し押さえ件数は高水準での推移
0
差し押さえ件数
(出所)FRB、リアルティトラック
13
全米ローン延滞率(右)
10/2
09/8
09/2
08/8
08/2
07/8
07/2
06/8
06/2
4.0
05/8
が続く可能性が高い。
経済ウォッチ
このような状況下、3 月 26 日に政府は追加
の差し押さえ抑制策を発表した。詳細は図表
4 の通りだが、主な内容は、①住宅ローン変
更プログラム(HAMP)の拡充と、②連邦住宅
局(FHA)を通じた住宅ローンの借り換え促
進である。①HAMP とは、住宅ローンの金利減
免や返済期間の延長などを通じて差し押さ
えを抑制することを目的に、昨年 4 月から実
施されているプログラムである。今回の追加
策では、失業者に対する支援の拡充や、住宅
ローン残高が住宅価格の 115%を上回る場合
にローン元本の削減を検討する義務などが
新たに追加されている。②FHA を通じたロー
ンの借り換え促進とは、債権者によるローン
元本の削減を条件に、FHA の保証が付いたい
わゆる FHA ローンへの借り換えを促す。債権
者はローン元本の削減によって損失を被る
ものの、政府保証が付くことで、以降はデフ
ォルトなどによる損失を回避することがで
2010 年 4 月第 4 週号
(図表4)追加の差し押さえ抑制策
住宅ローン変更プログラム(HAMP)の拡充
○失業者への支援
・3~6ヶ月間は返済額を所得の31%に抑える。
・自宅のためのローンで、残高が72万9750ドル以下、
2009年1月1以前のローンの場合、サービサーに支援義務。
○元本の削減義務
・ローン残高が住宅価値を115%上回る場合、
サービサーは元本の削減を検討する必要。
○HAMPの利便性向上
・HAMPの利用要件の明確化。
・恒久的なローン条件の変更を実施したサービサーに、
新たにインセンティブ。
・FHA-HAMPの実施(FHAローン利用者にもHAMPを拡大)
FHA(連邦住宅局)ローンへの借り換え促進
○ 残高が住宅価値を上回るローンをFHAローンへの借り換え
・第一抵当ローンは少なくとも10%削減し、
全てのローンを住宅価値の115%以下に抑える。
・FHAローンは住宅価値の97.75%以下に抑える。
・第二抵当分を含めて、返済額を31%に抑える。
○第二抵当の削減にインセンティブ
・FHAローン促進のため、第二抵当権者にインセンティブ
○借り換え促進策の進捗の透明化
・FHAはローン数などデータを発表
(出所)財務省資料より明治安田生命作成
きる。
今回の追加策は、政府保証の拡大やローン条件の変更などでの業者へのインセンティブ等で、総額 500
億ドル規模となる見込みで、財源としては金融安定化資金いわゆる TARP 資金が活用される。TARP 資金
は、当初 3,000 億ドル以上の損失が見込まれていたが、予想以上に金融機関が早期に立ち直ったことで、
損失がかなり少なくなる見込みのため、それを財源にするとのことだ。
追加策の効果は限定的とみる
追加策によって、差し押さえが減少することが期待されているが、その効果は限定的になるとみてい
る。従来から実施されている HAMP でも、住宅ローンの条件変更後は一旦差し押さえ率が低下するもの
の、時間が経つにつれて、再度差し押さえ率が上昇することが確認されている。今回も、失業者への支
援策強化などによって、短期的に差し押さえを抑制することができても、3 月の平均失業期間は過去最
長の 31.2 週間となるなど、職を見つけることが困難な状況が続いており、一時しのぎに過ぎない可能
性が高い。そのため、差し押さえを抜本的に減少させる効果は小さいとみられる。
今後の住宅市場は、政府の税額控除打ち切りの駆け込み需要で、販売については再度増加するとみら
れるが、税額控除の終了後は反動減を余儀なくされよう。その後は、雇用・所得環境の改善が緩やかな
がらも続くとみられることから、緩慢ながらも再び持ち直しに向かうと予想している。ただ、高水準の
差し押さえから、一部で住宅価格が再度低下に向かうなど、住宅市場の下振れリスクも依然として燻り
続けているとみている。(担当:吉川)
14
経済ウォッチ
2010 年 4 月第 4 週号
排出量取引及びイスラム金融と生保の取り組み(下)
イスラム金融の発展
イスラム金融とは、コーラン(Quran、聖典)および預言者ムハンマド(Muhammad)の生活慣行やス
ンナ(Sunnah、規範)を 2 大法源とし、社会全般について定めるイスラムの教義・思想であるシャリア
(Sharia)に則った金融取引を総称する。持てる者は持たざる者にザカート(Zakat、喜捨)を行うべ
きと考えられ、また、借手と貸手は平等であり、損益の公正な分配を重視している。一方、リスクを負
担しないで資産を増やすリバー(Riba、金利)、曖昧さまたは偽装の要素が認められるガラール(Gharar、
投機性)、宝くじ、カジノなどのマイシール(Maisir、不確実性)はシャリアに反する。また、豚肉、
アルコール、武器、麻薬、ポルノ関連といったイスラムの教義上非倫理的とされる行為は禁止される。
このため、イスラム金融取引を行うには、シャリア適格であることが前提条件となる。シャリア適格の
判断は、国、地域、宗派で異なるとされ、シャリア学者やシャリアボード(シャリア審査会)の審査が
必要である。
イスラム金融が今日のように本格的に発展したのは 1970 年代以降である。1970 年代に湾岸諸国を中
心にイスラム専業銀行が設立され、イスラム金融の発展の基礎ができ、1980 年代は湾岸諸国以外の国に
おいてもイスラム金融が展開され、新しい金融手法が開発された。1990 年代に入ると、欧米の大手金融
機関がイスラム金融子会社を設立する動きが見られるなど、イスラム金融の国際化が始まった。2000 年
代はイスラム金融の拡大期で、世界的にイスラム金融の普及が進んだ。
現在、非イスラム教国を含む世界 75 ヶ国以上の国で 300 以上の金融機関がイスラム金融を提供して
いる。イスラム金融市場の規模は、4500 億ドルから 7000 億ドルといわれる。これは世界の金融資産の
1%程度にすぎないが、豊富なオイルマネーの影響もあり、年平均 10~15%で成長している。イスラム
金融は、サブプライムローン問題に端を発する金融危機によるダメージが比較的少ないといわれる。そ
の理由の1つは、レバレッジの低さに加え、価格変動があっても無価値になることのない実物資産の裏
付け等、イスラム金融では経済の実態に見合った取引しか認めないことにある。また、貸し手と借り手
が損益を分配するので、リスクが軽減され、破綻が生じにくいことも理由に挙げられる。
イスラム金融の基本スキーム
イスラム金融はその歴史的発展のなかで、シャリアに反しない取引形態を生みだしてきた。事業に投
資し損益を分配する方式と取引に実物を介在させる方式に大別される。ムダラバ(Mudarabah)とは、
出資者が事業者に対して資金を提供し、事業者はその資金をシャリアに適合した事業に投資するスキー
ムだ。事業が完成するか、当初定めた期間が過ぎると、利潤を配当として受け取る。事業そのものの経
営権は有しない。事業が不成功の場合には、預けた資金の範囲内で損失を被る(有限責任)。配当は事
業の結果次第となり、投資信託に類似している。ムシャラカ(Musharakah)とは、ムダラバと同様、事
業へ投資し配当を受けるスキームだ。相違点は、出資者はその出資割合に応じて事業の経営権を有し、
事業で損失が生じた場合には、出資比率に応じ出資額に限らず無限責任を負うことである。銀行などが
顧客である事業者とともに出資し、予定分配率で配当を受ける形式が典型的である。分配率は取引開始
時に決めるが、出資比率と同一とは限らない。合弁事業、ベンチャーファンドなどに用いられる。 近
年、応用形であるディミニッシング・ムシャラカ(Diminishing Musharakah)が活用されている。これ
は、銀行が、事業の一定区分に銀行の顧客と共同で出資し、銀行出資分は定期的に単位ごとに顧客に買
い取られ、最終的には全て顧客のものとなるスキームである。単位ごとの複数回の支払いが可能となる
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経済ウォッチ
2010 年 4 月第 4 週号
ことから、銀行の顧客の住宅ローンに活用されることが多い。
ムラバハ(Murabahah)とは、買い手が商品等を購入する場合、金融機関が介在し、買い手に代わっ
て商品を購入して買い手に転売するとともに、支払いを立て替えるスキームだ。金融機関は商品代金の
延べ払いを認める一方で、商品代金に一定の利益を上乗せする。上乗せ部分は利子に相当するが、商品
取引の結果生じたものであるから、リバーには該当しないとの考え方となる。短期的商業金融に広く用
いられており、イスラム金融のスキームの 7 割を占める。イジャーラ(Ijarah)とは、金融機関(資金
の出し手)が実物資産を購入、金融機関は所有者として顧客に賃貸し、顧客はリース料を支払うスキー
ムだ。資産の所有権は金融機関にあり、メンテナンスも行う。オペレーティングリースがこれにあたる。
リース期間が終了後、所有権を顧客に移す場合をイジャーラ・ワ・イクティナ(Ijarah w a Iqtina)
といい、住宅ローンに用いられることが多い。ディミニッシング・ムシャラカと類似しているが、ディ
ミニッシング・ムシャラカでは所有権が徐々に顧客に移転するのに対し、イジャーラ・ワ・イクティナ
ではリース期間満了まで所有権が全て銀行にある点が異なる。
イスラム金融商品
イスラム金融ではシャリ
アに反しない各種金融商品
が開発され、取引されてい
億ドル
1 (図表1)スクーク発行高推移
2
3
4
5
500
400
る。一般の債券は、クーポ
ンというリバーをともなう
300
ためシャリア不適格となる。
200
割引債についても購入価格
から上昇した額面で償還さ
れるという意味でリバーと
みなされる。イスラム債券
スクークは、債券に実体的
な事業取引を絡め、そこか
100
0
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
(出典)国際イスラム金融市場ホームページ(http://www.iifm.net/LinkClick.aspx?fileticket
=euFDilEnV5I%3d&tabid=100&mid=393)より作成。
ら発生する利潤をクーポンの原資とすることで事業収益と見立て、シャリア適格な取引としたものであ
る。イジャーラを用いたスクークでは、まず、資金を調達したい事業者は SPC(Special Purpose Company、
特定目的会社)を設立、事業者は資産を SPC に売却する。同時にリース契約を締結し、資産を利用し続
け、リース料を支払いクーポンの原資とする。満期には資産が SPC から事業者へ売り戻される。ムシャ
ラカ、ムダラバなど、他のスキームによるスクークもある。なお、スクークで調達した資金の使途もシ
ャリア適格でなければならない。中東ではインフラ事業向けの資金需要が増大しており、オイルマネー
がスクークに投資されている。スクークの年間発行高は 2000 年から 2007 年にかけて急増していたが、
2008 年は金融危機の影響で資金需要が低下、スクークの発行高は大幅に減少した。イスラム諸国の中で
は、マレーシアがイスラム証券市場の活性化に努めており、2007 年にはスクーク発行高全体の 63%を
占めている。
株式は債券と異なり、構造上シャリア不適格ではない。シャリア適格性が問題となるのは、投資対象
の事業内容、財務構造である。シャリア不適格とされる事業を営む企業への投資は排除されるとともに、
負債比率の高い企業や銀行など利子収入比率の高い企業もシャリア不適格である。S&P 社、ダウ・ジョ
ーンズ社などの大手インデックスサービス社やアジア域内の証券取引所はイスラム株価指数を開発・
16
経済ウォッチ
2010 年 4 月第 4 週号
提供している。イスラム株価指数に組み入れる銘柄の選定は、シャリア学者からなるシャリアボードの
認定を受けている。また、中東投資家は不動産投資を選好する傾向にあり、不動産ファンドや REIT(Real
Estate Investment Trust、不動産投資信託)の組成が増えている。商業用不動産の場合、テナントの
事業がシャリア適格であることが要請される。
タカフル
従来、イスラム社会では、保険は少額の保険料をもとに多額の保険金を得る場合があることから、リ
バー、マイシール、ガラールといった点でシャリアに反するとされてきた。しかし、事故による損害や
病気などへの対策の必要性から保険の必要性が次第に強く認識されるようになり、1979 年にスーダンで、
相互扶助の考えに基づいて拠出金を出し合うタカフルと呼ばれる保険が開発された。
タカフルには、生保に相当するファ
(図表2)マレーシアのタカフル拠出金推移
ミリータカフル(Family Takaful)と、
損保に相当するゼネラルタカフル
3500
(General Takaful)がある。ファミ
3000
リータカフルについてみると、まず、
百万リンギ
2500
契約者は保険会社に対し一定金額を
一定期間支払うことを約する。その際、
2000
保険会社は保険金額や配当といった
1500
形での支払は約束せず、資金の運用益
1000
の一定割合を契約者に支払うことを
500
定めるのみとする。次に、契約者から
集めた資金は、保険契約者名義の一般
0
2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008
ゼネラルタカフル
ファミリータカフル
口座と特別口座の 2 つの口座に、年齢
と加入期間に応じて配分される。契約
(出典)マレーシア中央銀行ホームページ(http://www.bnm.gov.my/files/publication/tkf/en/2008/
2.7.pdf)より作成。
期間中に保険金支払事由が発生しなかった場合、保険契約者名義の一般口座に積み立てられた原資と運
用益が配分される。万一、死亡等の保険金支払事由が発生した場合、特別口座にプールされた資金から
請求者へ保険金が支払われるが、これはザカートとの位置づけである。イスラム圏におけるタカフルの
市場規模は 2007 年 16 億 5900 万米ドルで、2004 年から 2007 年までの平均年間成長率は 25%と、順調
に拡大している。イスラム諸国の中では、マレーシアにおいてタカフルに関するインフラが整備され、
最も発展している。
解禁の経緯
従来、保険業法にはイスラム金融に関する規定がなく、ムラバハはその実態に着目すれば与信と同視
しうるものの、商品売買を形式上伴う点で保険業法に抵触した。一方、イジャーラはリース、ムダラバ
やムシャラカは有価証券投資との評価も可能だが、明文の規定がなく判然としなかった。今回の改正に
より、保険業法施行規則 56 条の 2 第 2 項 13 号の 2 に「金銭の貸付け以外の取引にかかる業務であって、
金銭の貸付けと同視すべきもの」という規定が加わり、保険会社の子会社・兄弟会社にイスラム金融が
解禁された。実施主体が子会社・兄弟会社とされたのは、子会社・兄弟会社にイスラム金融と親和性の
あるリース業務が認められているからである。改正の背景には、イスラム金融の市場規模が拡大し、国
際金融センターであるロンドン市場が積極的に取り組むなど、海外においてイスラム金融取引が活発化
するなかで、国際競争力の確保が要請されたことが挙げられる。
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経済ウォッチ
2010 年 4 月第 4 週号
それでは、改正法のもと、イスラム金融取引の基本スキームを保険会社グループが活用することがで
きるだろうか。商品購入の代金を融資する形式のムラバハと、リース形式のイジャーラは、ともに「金
銭の貸付け以外の取引にかかる業務であって、金銭の貸付けと同視すべきもの」といえる。平成 20 年
金融商品取引法改正のパブコメ結果においても、ムラバハやイジャーラはイスラム金融取引の規定に係
る業務に該当するものと考えられている。一方、ムダラバとムシャラカは出資形式の取引であり、とも
に「金銭の貸付以外の取引に係る業務であって、金銭の貸付けと同視すべきもの」とはいえない。平成
20 年金融商品取引法改正のパブコメ結果においても同様の考えが示されている。以上より、ムラバハや
イジャーラは改正法のイスラム金融の規定に該当し活用可能だが、ムダラバやムシャラカは該当せず活
用できないといえる。ムダラバやムシャラカが、生保に許容されている有価証券投資等、他の業務範囲
に該当するとの解釈ができれば活用できることとなり、今後の議論を待ちたい。
生保の取り組み
イスラム金融について生保に可能と思われる取り組みをあげてみる。生保本体の資産運用として、ス
クークやイスラム株価指数や不動産から構成されるイスラムファンドを投資対象に組み入れることが
考えられる。これらのイスラム金融商品は、中長期的な成長が期待できる新興国への投資が多く、オイ
ルマネーの流入と相まって中長期的な価格上昇が期待できる。このため、イスラム教徒の投資家だけで
なく、非イスラム教徒の投資家も値上がり益を見込んだ投資を活発化させている。留意点としては、ス
クークは流通市場が不十分なためバイ・アンド・ホールドによる満期までの保有が基本であることで
ある。
スクークやイスラムファンドへの投資は、運用対象の多様化につながり、リスク分散効果が期待でき
る。また、シャリア不適格なタバコ、アルコール、ギャンブルなどの業種を投資対象から除外すること
は、公共性・社会性を考慮した SRI(Social Responsible Investment、社会的責任投資)といえ、CSR
の取り組みの一環と位置づけることができる。加えて、公共性・社会性へ配慮した企業は、中長期的に
は成長する可能性が高く、収益向上も期待できる。
ムラバハやイジャーラなどイスラム金融のスキームを用いた事業が考えられる。例えば、銀行海外子
会社を設立し、プロジェクトファイナンス等の融資事業を起こすことが可能である。イスラム諸国にお
いてプロジェクトを実施する場合、実施主体や現地スポンサーがイスラム金融の活用を希望するケース
が多い。中東を中心に原油高を背景とするインフラ整備が進むなか、大型の開発プロジェクトが増加し
ており、イスラム金融形式による融資のニーズは強い。また、イスラム諸国では人口増大による住宅需
要の増加が見込まれ、住宅ローンへの一定の需要が期待できる。したがって、イジャーラ・ワ・イクテ
ィナの形式による住宅ローン事業も有望である。この他、証券子会社によるスクーク発行時の引受販売
業務も考えられる。
当然のことながら、これらの事業のスキームはシャリア適格でなければならない。わが国のような非
イスラム国家が主体だと厳しくなる傾向があるともいわれ、周到な用意が必要である。
イスラム圏にタカフル事業を行う海外子会社の設立が考えられる。少子高齢化が進展するなか、国内
の生保市場では主力商品だった死亡保障市場の縮小が進んでいる。年金、医療などの生存保障型商品に
活路を見出しているものの、今後国内では高度成長期のような生保市場の飛躍的な拡大は期待し難い。
これに対して、イスラム教徒は 12~15 億人で増加率は世界平均よりも高く、また、イスラム諸国の人
口ピラミッドは富士山型(ピラミッド型)で若年層が多いという特徴がある。その上、イスラム諸国で
は、保険の普及率、特に生保の普及率が低いことから、今後の普及の余地は大きい。海外の保険会社は
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経済ウォッチ
2010 年 4 月第 4 週号
タカフルに積極的に進出し、養老、定期、医療、投資型商品など多様なファミリータカフルを販売して
いる。事業展開にあたっては、他の事業と同様、シャリア適格に留意する必要がある。
おわりに
従来、護送船団方式の行政のもと、生保に関する規制は保守的に設定されていた。その結果、自由は
制限されたものの、業界には一定の秩序がもたらされていた。また、生保はドメスティックな産業とい
われ、業務展開は国内中心だったが、増加する人口とそれを背景とする高い経済成長をもとに目覚まし
い発展を遂げることができた。しかし、日本版ビッグバンを契機として、ルールに基づく事後チェック
行政に移行後は自由競争が強調されるなか、人口減少・高齢化が進展したこともあり、生保にとってど
のような成長の道筋を描くかが重要な課題となっている。
新たなマーケットの開拓が必要だが、環境分野は成長産業の1つである。温暖化は今そこにある危機
であり、排出削減目標を達成するために、排出量取引はますます活発化するものと考えられる。また、
オイルマネーを背景に存在感を高めるイスラム諸国には、未開拓の広大なマーケットが存在している。
今回の業務範囲の拡大は、こうした分野への新たな事業展開を可能とするものである。様々な成長の可
能性を探る生保の選択肢として注目されよう。(担当:心光)
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経済ウォッチ
2010 年 4 月第 4 週号
議決権行使結果の開示に向けた動き
投票数の開示
先般、金融庁は 2010 年 3 月期から、上場企業の株主総会における議決権行使結果の開示を義務付け
る内閣府令案を公表した。金融庁案では、臨時報告書において、株主総会の議決権行使の議案ごとの結
果(賛成と反対の票数)を開示しなければならない。役員選任議案では役員ごとの票数を明らかにする
必要がある。
現在、会社法には、「議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、
出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う」(309 条 1 項)と定められてはいるが、投票内容の
内訳に関する開示の規定はない。委任状及び書面投票について、議決権行使の適正性を確保するため、
株主総会から 3 ヶ月間本店に備え置き、株主の閲覧に供することを求める規定(310 条 6 項、7 項、311
条 3 項、4 項)が目につく程度である。これに対して、米国では、上場企業は証券取引委員会(SEC)に
対して、株主総会において決議された各議案の説明と賛成・反対の投票数の報告をする必要がある。ま
た、英国では、上場企業のコーポレートガバナンスのモデルとして統合規範が定められているが、その
なかで、議案の賛成・反対の投票数の開示が奨励されている。
(図表1)各国の議決権行使結果の開示方法
日本
米国
英国
EU
総会後に臨時報告書で開示 総会後4日以内に臨時報告書 賛成反対個数を総会後速や 総会反対個数を総会後14日
役員は全員個別
などで開示。取締役は個別 かにネットで開示
以内にネットで開示
2010年3月期より
1992年~
2006年~
2009年8月までに義務化
(出所)日経
議論が活発化
わが国で上場会社の議決権行使の結果の開示に関して議論のきっかけとなったのが、機関投資家の団
体である ACGA(Asian Corporate Governance Association)が作成した「日本のコーポレートガバナン
ス白書」(2007 年 5 月)だ。そのなかでは、「日本の企業の多くが必ず株主総会の前に届いたすべての
議決権行使数を数えるが、総会の総投票結果を公表する会社は少ない。投票の集計と記録とその結果の
即時発表は日本における株主総会の質と透明性を著しく高め、そして良いガバナンスを実施している企
業として世評も同様に高まる」とされている。
従来、企業は必要以上の情報提供に慎重で、議決権行使結果の開示にも消極的だった。一方で、投資
家の要請が次第に強まるなか、議決権行使の結果の開示に関する議論が盛んに行われるようになった。
2009 年 4 月、日本経済団体連合会は、「より良いコーポレートガバナンスをめざして(主要論点の中間
報告)」を発表し、株主とのコミュニケーションを一層充実させる観点から、議決権行使結果の開示を
自主的に取り組むことは評価するとした。しかし、その一方で、法律や上場規則等で開示を義務付ける
ことには消極的で、個別企業の自主判断に委ねるべきであるとしている。その理由として、株主総会当
日の出席株主の賛否の詳細な集計を省略しているケースが多く、実務上の対応が困難なことが挙げられ
る。また、株主総会は権利を有する株主のみによって構成される会議体であることが法律上の大原則で
あり、議決権行使結果を広く開示することによって外からの影響力が増大することへの懸念もある。
投資家の強い要望
2009 年 4 月、東京証券取引所の上場制度整備懇談会は、「安心して投資できる市場環境等の整備に向
けて」を公表した。そのなかで、議決権行使結果の開示について、投資家から強い要望が出ており、株
主が議決権行使結果に容易にアクセスできるような制度の整備が望ましいとした。投資家が開示を求め
20
経済ウォッチ
2010 年 4 月第 4 週号
る理由として、投資家に議決権行使の重要性とその成果を認識させることに資すること、取締役会提出
議案の指示の度合いを明らかにすることは株主と上場会社の対話の端緒となること等を挙げている。
2009 年 6 月には、金融庁の金融審議会金融分科会におけるわが国金融資本市場の国際化に関するスタ
ディグループが「上場会社等のコーポレートガバナンスの強化に向けて」を発表した。賛否の票数が開
示されることは、株主の意思が明確化され、市場を通じた経営陣への牽制効果も期待できるとし、ルー
ル化を進めるべきとした。なお、株主総会当日の行使分の集計に伴う実務負担等を理由に開示に消極的
な意見があるが、議決権の大半は株主総会前日までに行使済みであり、総会前日までに把握した賛否の
票数についての開示でも十分に意義があるとした。
(図表2)議決権行使結果の開示に関する議論
日本経済団体連合会
東証 上場制度整備懇談会
金融審議会
・法律等で開示を義務づけるべき ・投資家の強い要望
・賛否の票数の公表が望ましい
ではない
・議決権行使結果に容易にアク ・開示のルール化
・企業の自主的取り組みは評価 セスできる制度の整備
・株主の意思の明確化
・実務的な困難さ
・投資家に議決権行使の重要性 ・市場を通じた経営陣への牽制
・株主総会外からの影響力が増 を認識させる
効果
大することへ懸念
・株主との対話のきっかけ
(出所)各種資料より作成
コーポレートガバナンスの強化に有効
こうした動きを踏まえ、議決権行使結果を開示する企業は、2008 年には 4 社程度だったが、2009 年
には 50 社程度まで増加している。開示方法は様々で、開示対象は株主総会前日までの事前行使分を開
示するケースが多いが、一部には株主総会当日分の行使結果を含めて開示しているケースもある。ただ
し、役員選任議案について見ると、個別開示はまれで、全候補者をまとめて賛成の割合に幅をもたせて
55%~90%というような形で公表するケースが多い。個別開示をすると、賛成の割合が低い役員の発言
力が低下する懸念があり、こうした事態を避けるためと考えられる。
企業の側からすると、役員選任議案において、役員ごとの票数を明らかにする必要がある金融庁案に
は反発が生じる可能性がある。しかし、役員選任にあたっての株主の賛否の状況を明確化することは、
役員の職務遂行の上で一定の緊張感をもたらし、コーポレートガバナンスを強化する有効な手段となり
うる。投資家の関心も高まっており、導入の行方と企業経営に与える影響が注目される。(担当:心光)
21
経済ウォッチ
2010 年 4 月第 4 週号
主要経済指標レビュー(4/5~4/16)
本≫
一致CIの推移
110
105
100
95
90
7ヶ月後方移動平均
3ヶ月後方移動平均
85
一致CI
10年
09年
08年
07年
06年
05年
04年
03年
02年
01年
80
(出所)内閣府「景気動向指数」
兆円
機械受注(船舶・電力を除く民需)の推移
1.3
1.2
1.1
1.0
0.9
0.8
0.7
単月
3ヶ月移動平均
09年
10年
09/12
10/03
08年
07年
06年
05年
04年
03年
02年
0.6
01年
○ 2 月機械受注(4 月 8 日)
2 月の機械受注(船舶・電力を除く民需)は前月比▲
5.4%(前年同月比では▲7.1%)と、2 ヶ月連続で減少
した。12 月(同:+20.1%)に大きく伸びた反動減の流
れが続いている模様。業種別では、石油・石炭、その他
輸送機械、自動車などが増加する一方、金属製品、鉄鋼、
紙・パルプ、化学などのマイナス幅が大きい。自動車に
関しては、トヨタ車のリコール問題の影響はこれまでの
ところ出ていない。トレンドを見ると、非製造業の低迷
が続いているものの、輸出が好調な製造業の底打ち感が
次第に鮮明になりつつある。年央以降、設備投資の回復
基調が次第に強まってくる可能性が高まりつつあるが、
企業の設備過剰感は依然として残っており、当面は更新
需要が中心となろう。
2005年=100
00年
○ 2 月景気動向指数(4 月 6 日)
2月の景気動向指数では、一致CIが100.7と、前月比0.4
ポイント上昇した。一致CIの上昇は11ヶ月連続。景気動
向指数(一致CI)による基調判断は「改善を示している」
が据え置かれた。一致DIは100.0と、10ヶ月連続で景気判
断の分かれ目となる50を超えた。先行CIは97.9と12ヶ月
連続で上昇、先行DIは90.0と10ヶ月連続で50を超えた。
他方で、企業の雇用と設備の過剰感は依然として強く、
さらには過去の経済対策の効果逓減も予想されることか
ら、目先の景気回復ペースは一旦やや鈍化する懸念が残
る。ただ、輸出の堅調持続や夏季賞与のプラス転換、子
ども手当ての支給開始などを考慮すると、国内景気がや
や弱含む局面があったとしても、軽微かつ短期的なもの
にとどまるとみられ、年央以降は再び上向くと予想して
いる。
00年
≪日
(出所)内閣府「機械受注統計」
22
ポイント
景気ウォッチャー調査 現況判断DI
60
50
40
30
20
現状判断DI
現状判断DI 家計
現状判断DI 企業
現状判断DI 雇用
10
(出所)内閣府「景気ウォッチャー調査」
09/09
09/06
09/03
08/12
08/09
08/06
08/03
07/12
07/09
07/06
0
07/03
○ 3 月景気ウォッチャー調査(4 月 8 日)
3月の景気ウォッチャー調査では、現状判断DIが47.4
と、前月から5.3ポイント上昇した。上昇は4ヶ月連続。
薄型テレビの駆け込み需要、全般的な受注・出荷の持ち
直しなどが主因。先行き判断DIは47.0と、前月から2.2
ポイント上昇した。上昇は4ヶ月連続。子ども手当や住宅
版エコポイントへの期待などが主因。内閣府は基調判断
を「悪化のテンポが緩やかになっている」から「持ち直
しの動きがみられる」へと上方修正。今回の景気ウォッ
チャー調査は、当面、景気が堅調に回復する可能性が高
いことを示した。今後の景気は、各種対策効果の減衰や、
公共投資の大幅減などから回復ペースが一旦やや鈍化す
るとみるが、減速局面は軽微かつ短期的なものにとどま
る可能性が高く、基調としては緩やかな回復傾向が続く
と予想する。
経済ウォッチ
2010 年 4 月第 4 週号
23
%
企業物価指数(前年比)の推移
15
10
5
0
素原材料(左軸)
-5
中間財(右軸)
最終財(右軸)
国内企業物価指数(右軸)
-10
(出所)日銀「企業物価指数」
10年
09年
08年
07年
06年
05年
-15
04年
○ 3 月企業物価指数(4 月 13 日)
3月の国内企業物価指数は前年同月比▲1.3%(前月比 %
は+0.2%)となった。前年割れは1年3ヶ月連続。ただ、 60
前年比マイナス幅は、石油・石炭製品や非鉄金属、化学
製品、スクラップ類などが上昇したことから、昨年8月の 40
▲8.5%を底に縮小しつつある。輸出物価指数は円高の影 20
響などから前年同月比▲2.2%となる一方、輸入物価指数
0
は原油価格の上昇などから同+4.4%となり、交易条件の
悪化傾向が続いていることを示した。需要段階別では、
-20
素原材料(同:+10.4%)は4ヶ月連続で前年比プラスと
なったものの、中間財(同:▲1.2%)や最終財(同:▲ -40
1.0%)は前年割れが続いており、川上の価格上昇が川中
や川下にはあまり波及していない。このところ原油や鉄 -60
鉱石などの国際商品価格が上昇しているが、最終財への
価格転嫁は容易ではなく、素材メーカーの収益圧迫要因
となることが懸念される。
経済ウォッチ
国≫
24
2.0
1.0
0.0
-1.0
-2.0
除く自動車・ガソリンスタンド
自動車・部品
ガソリンスタンド
小売売上高
10/3
10/2
10/1
09/12
09/11
09/9
09/10
09/8
09/7
09/6
09/5
09/4
09/3
09/2
09/1
-3.0
(出所)米商務省
CPIの伸び(前年比)
%
6.0
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
-1.0
-2.0
CPI
09/9
10/3
08/9
09/3
08/3
07/9
07/3
06/9
05/9
06/3
05/3
04/3
04/9
03/9
02/9
03/3
02/3
-3.0
コアCPI
(出所)米労働省
2002年=100
鉱工業生産(インデックスの実数値)
115
110
105
100
95
鉱工業生産
(出所)FRB
除くエネルギー
10/3
09/3
08/3
07/3
06/3
05/3
04/3
03/3
02/3
01/3
90
00/3
○ 3 月鉱工業生産(4 月 15 日)
3 月の鉱工業生産は前月比+0.1%と、市場予想(同+
0.7%)は下回ったものの、9 ヶ月連続の増加となった。在
庫調整の進展から、生産は増加基調が続いている。前年比
では 2 月の+2.2%から+4.0%と、プラス幅が大きく拡大
した。
これで 3 ヶ月連続のプラス。産業別の内訳をみると、
製造業が前月比+0.9%と、3 ヶ月連続の増加。耐久財、非
耐久財ともに増加しており、多くの業種で増加した。鉱業
も同+2.3%と 3 ヶ月連続で増加している。一方、電力や
ガスなどの公益事業は、同▲6.4%と大きく減少している。
温暖だった気候の影響が大きい。設備稼働率は 73.2%と上
昇傾向が続いているものの、依然として歴史的な低水準に
ある。
小売売上高の伸びと自動車・ガソリンスタンドの寄与度(前月比)
01/3
01/9
○ 3 月 CPI(消費者物価指数)(4 月 14 日)
3 月の CPI は前月比+0.1%と、小幅の上昇にとどまった。
前年比では 2 月の+2.1%から+2.3%と 5 ヶ月連続のプラ
スになるとともに、プラス幅も拡大した。これまで前年比
でマイナスが続いていた食品・飲料がプラスに転じてい
る。食料品とエネルギーを除いたコア CPI は、前月比横ば
いとなった。前年比では 2 月の+1.3%から+1.1%と、伸
び率は鈍化傾向にある。サービス関連の鈍化傾向が鮮明だ
が、とりわけ住居関連や娯楽の低下が大きく、衣料品も前
年比でマイナスに転じている。大幅なマイナスの需給ギャ
ップが、今後もコア指数への低下圧力として残るとみてい
る。
%
3.0
00/3
00/9
○ 3 月小売売上高(4 月 14 日)
3 月の小売売上高は前月比+1.6%と、3 ヶ月連続で増加
し、市場予想(同+1.2%)も上回った。自動車・同部品
が同+6.7%と、4 ヶ月ぶりに大きく増加したことが主因だ
が、除く自動車・同部品ベースも同+0.6%と 3 ヶ月連続
で増加している。昨年は 4 月半ばだったイースター休暇が、
今年は 4 月の第 1 週だったことが月末の売上を押し上げた
とみられる。また、寒波だった 2 月から一転して、3 月は
温暖な気候となったことも、衣料品の売上増などに寄与し
たとみられる。前年比では+7.6%と、5 ヶ月連続でプラス
となった。個人消費は、雇用環境が緩やかながらも改善に
向かっていることから、持ち直し傾向が続くとみているが、
家計のバランスシート調整が続くことが下押し要因とな
り、回復ペースは緩慢なものにとどまると予想している。
99/3
≪米
2010 年 4 月第 4 週号
除くコンピューター
経済ウォッチ
州≫
25
ユーロ圏鉱工業生産の推移(前月比)
%
2.0
1.0
0.0
-1.0
-2.0
-3.0
-4.0
(出所)ユーロスタット
10/02
09/11
09/08
09/05
09/02
08/11
-5.0
08/08
○ 2 月ユーロ圏鉱工業生産(4 月 14 日)
2 月のユーロ圏鉱工業生産指数は前月比 0.9%増と市
場予想の同 0.1%増(ブルームバーグ調査)を大きく上
回り、9 ヶ月連続の増加となった。世界景気の持ち直し
を背景に輸出が回復基調をたどっていることから、今後
も回復基調が続く可能性が高い。ただ、雇用・所得環境
の悪化や各種対策効果の逓減で、個人消費の低迷が予想
されることから、増勢自体は鈍化に向かうとみている。2
月の生産指数を財別に見ると、中間財が前月比 1.5%増、
資本財は同 0.9%増と堅調だったが、消費財が同 0.3%減
と 4 ヶ月ぶりに減少した。品目別に見ると、自動車が同
3.7%増、一次金属が同 2.4%増など幅広い品目で増加基
調が続いている。
08/05
≪欧
2010 年 4 月第 4 週号
165
230
155
210
145
190
135
125
170
(出所)ファ クトセット
105
130
26
(出所)ファ クトセット
09/10
09/08
09/05
10/04
110
10/04
150
10/01
円/ポンド相場
10/01
09/10
250
09/08
(円)
09/05
175
円/ユーロ相場
09/02
1.1
09/02
(出所)ファ クトセット
08/11
(ドル)
08/11
円/ドル相場
10/04
10/01
09/10
09/08
09/05
09/02
08/11
08/09
3500
08/09
(出所)ファ クトセット
08/09
5500
08/06
6500
08/06
7500
7000
6500
6000
5500
5000
4500
4000
3500
3000
08/06
(ポイント)
08/03
ドイツの株価指数(DAX)
08/03
8500
08/03
10/04
10/01
09/10
09/08
09/05
09/02
08/11
08/09
08/06
08/03
07/12
(出所)ファ クトセット
07/10
(ドル)
07/12
6000
07/12
10000
07/07
12000
07/10
14000
07/12
16000
14000
13000
12000
11000
10000
9000
8000
7000
6000
07/10
07/04
18000
07/07
07/04
10/04
10/01
09/10
09/08
09/05
09/02
08/11
08/09
08/06
20000
07/10
10/04
10/01
09/10
09/08
09/05
09/02
08/11
08/09
08/03
07/12
日経平均株価
07/07
07/04
10/04
10/01
09/10
09/08
09/05
09/02
08/11
08/09
08/06
08/03
07/10
07/07
日米欧マーケットの動向
07/07
07/04
10/04
10/01
09/10
09/08
09/05
09/02
08/11
08/09
(円)
08/06
08/03
07/12
07/10
07/04
(円)
08/06
(円)
08/03
07/12
07/10
(ポイント)
07/12
115
07/07
07/04
8000
07/10
125
120
115
110
105
100
95
90
85
07/07
07/04
4500
07/07
07/04
経済ウォッチ
2010 年 4 月第 4 週号
(2010年 4月16日現在)
▽各国の株価動向
ダウ工業株30種平均
(出所)ファ クトセット
英国の株価指数(FT100)
(出所)ファ クトセット
▽外為市場の動向
1.7
ドル/ユーロ相場
1.6
1.5
1.4
1.3
1.2
1.0
(出所)ファ クトセット
原油先物(WTI、中心月)
(ポイント)
140
120
100
80
60
20
(出所)ファ クトセット
460
420
380
340
300
260
220
180
27
10/04
10/01
10/04
10/01
0.0
09/10
3.0
09/10
(出所)ファ クトセット
▽商品市況の動向
CRB先物指数
(出所)ファ クトセット
09/08
3.5
09/05
2.0
09/08
4.0
09/05
3.0
09/02
4.5
09/02
4.0
08/11
(%)
5.0
08/11
政策金利(ユーロ圏、定例オペ最低入札金利)
10/04
10/01
09/10
09/08
09/05
09/02
08/11
08/09
08/06
0.0
08/09
(出所)ファ クトセット
08/09
2.0
08/03
3.0
08/06
4.0
08/03
5.0
(%)
5.5
5.0
4.5
4.0
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
08/06
政策金利(米国、FFレート)
08/03
10/04
10/01
09/10
09/08
09/05
09/02
08/11
08/09
08/06
08/03
0.00
07/12
1.2
07/12
(出所)ファ クトセット
07/12
1.4
07/10
1.6
0.20
07/10
(%)
2.2
07/12
0.30
07/10
1.8
07/07
0.40
07/07
07/04
10/04
10/01
09/10
09/08
09/05
09/02
08/11
08/09
08/06
08/03
07/12
07/10
2.0
07/10
07/04
10/04
10/01
09/10
09/08
09/05
09/02
08/11
08/09
08/06
08/03
07/12
0.50
07/07
07/04
10/04
10/01
09/10
09/08
09/05
09/02
08/11
08/09
08/06
08/03
07/12
07/07
政策金利(日本、無担保コール翌日物)
07/07
07/04
10/04
10/01
09/10
09/08
09/05
09/02
08/11
08/09
08/06
(ドル)
08/03
40
07/10
(%)
6.0
07/12
1.0
07/10
07/04
(%)
0.60
07/10
(%)
5.0
07/07
07/04
1.0
07/07
07/04
0.10
07/07
07/04
経済ウォッチ
2010 年 4 月第 4 週号
▽各国の金利動向
長期金利(日本、10年国債)
1.0
(出所)ファ クトセット
長期金利(米国、10年国債)
(出所)ファ クトセット
長期金利(ドイツ、10年国債)
2.5
(出所)ファ クトセット
経済ウォッチ
2010 年 4 月第 4 週号
本レポートは、明治安田生命保険 運用企画部 運用調査 G が情報提供資料として作成したものです。本
レポートは、情報提供のみを目的として作成したものであり、保険の販売その他の取引の勧誘を目的と
したものではありません。また、記載されている意見や予測は執筆担当者の個人的見解に基づくもので
あり、当社の資産運用方針と直接の関係はありません。当社では、本レポート中の掲載内容について細
心の注意を払っていますが、これによりその情報に関する信頼性、正確性、完全性などについて保証す
るものではありません。掲載された情報を用いた結果生じた直接的、間接的トラブルや損失、損害につ
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ことがあります。
●照会先●
明治安田生命保険相互会社
運用企画部 運用調査グループ
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執筆者:小玉祐一、心光勝典、内匠功、松下定泰、吉川隼人、久保和貴
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