大腸憩室炎が増加しています 大腸憩室とは大腸壁に”いこいの部屋”を

大腸憩室炎が増加しています
大腸憩室とは大腸壁に”いこいの部屋”を意味する憩室が大腸から管外へ向かって突出
して嚢(のう)状となり、それが消化管内と連絡するものを言います。十二指腸や食道に
も見られますが、最も多いのは大腸です。大腸憩室はほとんどが後天性で、複数存在すれ
ば大腸憩室症、炎症が起これば憩室炎といいますが、一括して大腸憩室疾患と呼ぶ場合も
あります。わが国の大腸憩室疾患は食生活の欧米化と高齢者の増加などにより、少しづつ
増加する傾向にあり、治療を必要とする合併症が多くなってきています1)。欧米での憩室の
頻度は 40 歳代では 10%以下ですが、80 歳代では 50~66%に増加するといわれています。.
欧米での大腸憩室は 90%以上が S 状結腸に存在するとされ右側結腸には 15%程度とされて
います。一方アジアでは以前から右側結腸に多く、アフリカでは下行結腸に多いとされて
います。人種差なのか、食事の内容なのか、おそらく両方の因子によるものと思われます1)。
日本における憩室の頻度は新しい報告ほど増えており、1960 年代までは 0.004%から
4.9%とされていましたが、次第に増加し、1980 年代では 4~10%となり 90 年には 17.5%
と増加しています。年齢により頻度は増加することが知られていますが、87 年から 90 年ま
での 4 年間の検討ではでは 30 歳以下で 2.8%、70 歳以上では 21.1%と報告されています1)。
日本の特徴として右側結腸憩室が多いことが知られていますが、この報告でも右側は 69.3%、
左側型が 13.9%、両側型は 16.8%でした。また右側型は 30 歳代で 20.3%、40 歳代で 21.3%
とピークを示し以後減少し、70 歳代では 14.3%に低下していました。これは左側型が加齢
とともに増加した結果と考えられます。沖縄では左側型が多く本土の頻度よりも憩室は多
く欧米との中間という報告もあり、地域差は確実に存在します1)。
それでは、何故、大腸憩室が増加しているのでしょうか?それには大腸憩室の発生原因
を知る必要がありますが、憩室が消化管の外に突出することより、消化管の壁が脆弱にな
るか、消化管の内圧が高まっていることが推測されます。一般に大腸憩室の発生は食物中
の繊維の低下に起因するとされ、疫学的にも証明されています。また動物実験でもラット
に低線維食を与え続けると有意に憩室が増加すると報告されています。憩室疾患で切除さ
れた腸管では筋層の過形成が認められます。電子顕微鏡でみると結腸紐のエラスチンが
2 倍に増加しているそうです。このエラスチンの増加が筋層を肥厚させ、腸管内腔を狭小化
させていると考えられますが、エラスチンがなぜ増加しているのか、原因であるのか結果
であるのかは不明です。この、腸管内腔の狭小化が腸管内圧の上昇をきたし、憩室形成の
一因と推測されています。一方腸管運動機能の異常が原因とする説もあります。腸管の
分節収縮が亢進して内腔が閉塞すると腸管圧が急上昇することが示され、低残渣食がこの
傾向を促進するとされています1)。食生活の欧米化と高齢化の進行が日本での大腸憩室の増
加と考えられます。
大腸憩室の合併症として、憩室炎、憩室出血、瘻孔形成、腸管内腔狭窄があります。こ
こでは憩室炎のみ考えてみます。憩室炎は憩室のなかに便が滞留し、異常に細菌が繁殖す
ることで発症すると考えられています。具体的な細菌の種類などは不明です。症状は腹痛、
発熱で検査所見上、炎症反応が高値で診断は容易です。虫垂炎と診断が難しいこともあり
ますが CT で鑑別は可能です2)。炎症があるときには大腸カメラはしませんが、炎症改善後、
確定診断目的と合併症の有無の確認目的で大腸カメラが勧められます。治療は、通常、軟
食と抗生剤の内服で外来加療が可能で、腹痛がひどいときや嘔吐があるとき、腹膜刺激症
状があるときに入院治療を考慮します。左側の憩室炎が重症になりやすいようです。憩室
炎の手術適応は炎症を繰り返すもの、狭窄、隣接臓器や皮膚との瘻孔形成などですが、本
邦では欧米に比べて少なく、左側が手術適応になることが多いです3)。
日本人でも 5 人に 1 人が大腸憩室を持っていると仮定すると、合併症を予防する方法が
重要です。
大腸憩室の合併症や症状の増悪で入院を要した患者に対し、急性症状の緩解後から食物
繊維を多く含む食事を摂取させたところ、5~7 年の長期観察で、腹部症状を抑えるだけで
なく、合併症の再発や手術率を下げることが報告されています。ラクトバチルスなどの乳
酸菌も憩室炎の再発予防に有効とされています。つまり、昔ながらの和食が憩室の発生を
予防するのみでなく、いったん発生してしまった憩室の炎症予防にも有効であることがわ
かってきたのです。
近年、潰瘍性大腸炎やクローン病に対して処方されるメサラジンは憩室炎の治療期間を
短縮するばかりでなく、再発予防効果があることが明らかとなりました。重症の憩室炎で
抗生剤と併用したり、再発をくりかえすかたに試してみる価値はあると思われます1)。
一方、最近、多用される、アスピリン(抗血小板剤としての使用)が憩室出血のみなら
ず、憩室炎も増加させるという報告があり、今後、注意が必要と思われます4)。
平成24年12月25日
参考文献
1 ) 櫻井幸弘 : 大腸憩室症の病態 . 消化器内視鏡 2005 ; 47 ; 1204 – 1209 .
2 ) 境
雄大 : 急性虫垂炎の診断および重症度評価におけるマルチスライス CT の有用性
の検討 - シングルスライス CT との後方視的な比較検討̶ - 日本腹部救急医学会雑誌 2008 ;
28 ; 637 – 642 .
3 ) 飯室正樹ら : 大腸憩室炎の診断と内科的治療 . 日本大腸肛門病会誌 2008 ; 61:1021
―1025 .
4 ) Strate LL, et al : アスピリンや NSAIDS の投与による大腸憩室炎と憩室出血発症の危険
性増加について . 日本消化器内視鏡学会誌 2011 ; 53;1831 .