赤血球系(貧血) 血液検査

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血液検査
KKCでは、
血液検査については機能別に下記の考え方(表1)をもとに判定をして
います。
境界域とは集団での基準域から外れているものの、個人の生理的変動を
考えると、正常とも異常ともいえない領域です。
−表1−
スクリーニング域(低値)
生理的変動許容域
境界域(低値)
異常域(低値)
基準域
スクリーニング域(高値)
境界域(高値)
異常域(高値)
赤血球系(貧血)
−基準値表−
項
目
基準域
境界域(高) 異常域(高)
男
∼349
350∼429 430∼570 571∼599
600∼
女
∼319
320∼369 370∼500 501∼529
530∼
男
∼10.0
10.1
∼13.9
14.0
∼18.0
18.1
∼19.9
20.0∼
女
∼10.0
10.1
∼11.9
12.0
∼16.0
16.1
∼17.9
18.0∼
男
∼30.9
31.0
∼40.9
41.0
∼52.0
52.1
∼54.9
55.0∼
女
∼30.9
31.0
∼35.9
36.0
∼47.0
47.1
∼47.4
47.5∼
MCV
∼80
81∼82
83∼99
MCH
∼25.0
25.1
∼26.9
27.0
∼34.0
34.1
∼35.9
36.0∼
MCHC
∼30.0
30.1
∼30.4
30.5
∼36.0
36.1
∼37.9
38.0∼
赤血球数
(RBC)
血色素量
(Hb)
ヘマトクリット値
(Ht)
赤血球恒数
異常域(低) 境界域(低)
100∼105
106∼
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赤血球数
(RBC)
赤血球を含む血液は動脈を通じて全身に運ばれ、動脈から枝分
かれした毛細血管から、酸素が体のすべての細胞に入ります。
赤血球中の血色素(ヘモグロビン)が酸素と結びついて、酸素
を肺から臓器や組織にある細胞まで運ぶ役目をしているのです。
細胞の活動で生じた二酸化炭素(炭酸ガス)が入れ替わりに赤血
球に取り込まれ、静脈→心臓→肺動脈を通って肺から外に排泄さ
れます。
酸素を運ぶ赤血球の数が減ると酸素を運ぶ能力も落ち、細胞が
酸素不足に陥ります。逆に赤血球が増えすぎると、血液が濃く
粘っこくなり、血管が詰まりやすくなります。
血色素量
(Hb)
血色素は鉄原子とタンパク質の一種とでできた赤い物質で、血
液の赤さのもとになっています。酸素との結合力が強いので、血
液が肺の中を循環する僅か1秒足らずの間に、肺に入った空気中
の酸素と瞬間的に結びつきます。赤血球の数が減ると、その中に
ある血色素も当然少なくなりますが、一般に赤血球数の減り方よ
り血色素量の減る割合が大きいのが普通です。
ヘマトクリット値
(Ht)
ヘマトクリット値は、血液に占める赤血球集団の体積の割合をい
います。赤血球数が減ると、ヘマトクリット値も当然減りますが、
一つ一つの赤血球の形が小さいと赤血球数の減り方よりヘマトク
リット値の減る割合が大きく、赤血球が大きいと、その割合は小
さくなります。
ヘマトクリット値が高くなるのは、タバコや肥満、時にはスト
レスや高地順化(空気の希薄な高地での生活)のせいで赤血球数
が増える場合で、上述したように血液が粘っこくなって血管が詰
まりやすくなり、心筋梗塞や脳梗塞の危険が高まります。
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貧血の種類によって
赤血球数、血色素量、ヘマトクリット値の3者の相互関係が
変化します。
この相互関係を表わす値を「赤血球恒数」と呼び、この大小に
よって貧血の種類を推定することができます。
赤血球恒数
(MCV)
(MCH)
(MCHC)
※赤血球恒数は
原因により増加
したり低下したり
することが
あります。
①MCV(平均赤血球容積)
赤血球の大きさを判断します。
Ht(%)
MCV(fl)=
×103
RBC(×104/mm3)
②MCH(平均赤血球血色素量)
個々の赤血球に含まれる平均的な血色素の量を示します。
Hb(g/dl)
MCH(pg)=
×103
RBC(×104/mm3)
③MCHC(平均赤血球血色素濃度)
個々の赤血球に対する血色素濃度を示します。
Hb(g/dl)
MCHC(%)=
×100
Ht(%)
MCVとMCHの値が
低下します。
鉄分の不足による貧血。
女性に多い。
血
失血性貧血
(病気やケガによる
出血が原因の貧血)
急な出血ではヘマトクリット値が低
下しますが,赤血球恒数は正常です。
これに対し少量の出血が長く続けば
MCV、MCHの値が低下します。
痔、胃潰瘍、子宮筋腫など
気付かない程度の少量の出血でも
長く続くと貧血になることがある。
悪性貧血
MCVとMCHCの値が高く
なります。
ビタミンB12や葉酸の不足による貧血。
胃の手術を受けた人に起こることがあります。
再生不良性貧血
MCVの値は一定しません。
赤血球の他、白血球や血小板
も減少します。
骨髄の造血機能が落ちることに
よっておこる貧血。
溶血性貧血
間接ビリルビンが増加します。
赤血球の寿命が短くなって、骨髄での
製造が間に合わなくなっておこる貧血。
の
貧
鉄欠乏性貧血
種
類
健診で発見される貧血で最も多いのは鉄欠乏性貧血です。
女性に多く見られますが、男性でもたまにあります。
慢性の出血(消化管、痔、月経過多、がんなど)・肝・腎の病気などの他、
食事の偏りが原因にもなります。
また、多血症といって赤血球などが異常に増加することもあります。
夏期の脱水症、喫煙、ストレス、高地生活者などで起こるものと、原因不明の
ものとがあります。
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白血球系
−基準値表−
項
目
白血球数(WBC)
異常域(低) 境界域(低)
∼29
基準域
境界域(高) 異常域(高)
白血球百分率6分画
30∼39
40∼85
86∼94
95∼
∼3
4∼12
13∼14
15∼
∼17
18∼34
35∼69
∼6
7∼15
16∼50
51∼59
60∼
∼1
2∼8
9
10∼
好酸球
0∼8
9∼14
15∼
好塩基球
0∼2
3∼6
7∼
桿状核球
好中球
分葉核球
リンパ球
単球
70∼
白血球には好中球(桿状核球と分葉核球)、好酸球、好塩基球、単球とリン
パ球があります。それぞれ役割を分担して、体内に入ってきた細菌やウイル
ス、タバコに含まれる毒物、吸い込んだ粉塵などの外敵と戦って食い殺した
り無毒化するという大切な働きをしています。その数は外敵との戦闘状況や
体の状況(食事、運動、入浴、ストレスなど)に応じて大きく変動します。
疑われる病気や異常
白血球数が
増えすぎている場合(↑)
白血球数が
減りすぎている場合(↓)
•白血病
•細菌感染症
•(急性期の)心筋梗塞
•外傷、出血
•喫煙
•ステロイド投与
など
•無顆粒球症
•SLE(全身性エリテマトーデス)
•再生不良性貧血
•薬剤アレルギー
•抗がん剤の長期投与
•放射線の照射
など
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止血系
−基準値表−
項
目
血小板数
異常域(低) 境界域(低)
∼5.0
5.1
∼12.9
基準域
境界域(高) 異常域(高)
13.0
∼37.0
37.1
∼79.9
80.0∼
血小板は
出血時に血液を凝固させて止血する働きを持っています。
血小板数を測ることにより、
各種の血液疾患の診断や出血しやすい人の原因解明に役立ちます。
疑われる病気や異常
血小板数が
増えすぎている場合(↑)
•原発性血小板血症
•真性多血症
•慢性骨髄性白血病
•慢性感染症
•悪性腫瘍
など
血小板数が
減りすぎている場合(↓)
•再生不良性貧血
•急性白血病
•ウィルス感染
•特発性血小板減少性紫斑病
•血栓性血小板減少性紫斑病
•抗がん剤の副作用
など
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ウイルス性肝炎
肝炎は肝臓の炎症です。
ウイルスやアルコール、医薬品の他、製造現場で使われる有機溶剤や特定化
学物質などが原因となりますが、最も多いのはウイルスです。このため、肝
炎といえば一般にウイルス性肝炎を意味します。
肝炎を起こすウイルスにはA、B、C、D、E型の5種類がありますが、
このうち慢性化することが多くて肝硬変や肝がんといった重い肝臓病になる
危険性が高いのはC型、次いでB型です。
(日本ではA、D、E型肝炎は稀なので、一般に検診やドックでは検査しま
せん。)肝がんによる死者の数は年間3万人を超えていて、その95%はC型
とB型慢性肝炎から生じ、それぞれ肝がん全体の75∼80%と10∼15%を
占めています。
KKCドックでは、BとC型肝炎ウイルスに関する検査を行っています。
「要精密検査」と判定された方は、必ず医師にご相談ください。
A型ウイルス性肝炎
A型肝炎ウイルスに汚染された食べ物や飲み水から感染します。日本で感
染することはほとんどありませんが、海外、特に熱帯圏では多発しています。
そのような土地への渡航者は、HA抗体検査を受け、HA抗体が陰性ならばA
型肝炎ワクチンの接種を受けておく方が安心です。(HA抗体は、以前にA
型肝炎ウイルスに感染したことを示し、これが陽性なら発病する心配はあり
ません。)
感染して発病すれば、発熱、全身倦怠感や重病感、食欲不振、時には黄疸
などが起こります。稀に劇症肝炎になって死亡する人がありますが、慢性化
することはありません。
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B型ウイルス性肝炎
成人では、多くの場合、B型肝炎ウイルスのキャリア(保有者)との性行
為を介して感染します。感染しても無症状のことが多く、時にはA型肝炎と
同様の急性肝炎の症状を起こすこともありますが、大抵は無事に治ります。
ただ稀には劇症肝炎を起こしたり、慢性肝炎に移行することもあります。
キャリアの血液や体液から感染し、渡航者はHB抗原・抗体が陰性なら、B
型肝炎ワクチンの接種を受けておく方が安心です。
(注)病原体に感染しているかどうかは、病原体を構成する蛋白成分(抗
原)を調べて確かめます。一般に、B型肝炎ウイルスについては、その表面
を構成するsという蛋白成分(HBs抗原)を調べます。これが陽性なら、そ
の人はB型肝炎ウイルスのキャリアです。精密検査では、ウイルスの内部に
あるeという蛋白成分(HBe抗原)を調べることもあります。
感染後にはリンパ球の働きで、月日の経過とともに病原体に対抗して病気
を抑える抗体ができることがあります。検査ではHBs抗原に対するHBs抗体
を、精密検査ではHBe抗体を調べることがあります。HBs抗体が陽性なら、
以前にB型肝炎ウイルスに感染したことを示しています。
HBs抗原:陰性
:
HBs抗体:陰性
今までB型肝炎ウイルスに感染したことは
ありません。
HBs抗原:陽性
B型肝炎ウイルスのキャリアです。
HBs抗体:陽性
過去にB型肝炎にかかったことがあります。
C型ウイルス性肝炎
B型肝炎と同様、血液や体液を介して感染しますが、C型肝炎ウイルス
の感染力は弱く、濃厚で頻繁な接触がなければ、夫婦間でもあまり感染し
ません。しかし一旦感染すると、無症状のまま体内でウイルスが生き続け
ます。つまり無症候性キャリアになるわけです。そのうちに、いつとはな
しに慢性肝炎になる場合が多く、その後に高率に肝硬変や肝がんに移行し
ます。集団健診でC抗原を調べるのは難しいので、C抗体を調べます。こ
れが陽性なら医師に受診して、無症候性キャリアであるか慢性肝炎である
かを確かめることが必要です。
(注)以前はB、C型肝炎ウイルスとエイズウイルスは、それらのウイ
ルスに汚染された血液や血液製剤の輸血や注射で感染することがよくあり
ましたが、最近では予防法が進んで、そのようなことはほとんどなくなり
ました。キャリアの母親から赤ん坊にうつるケースも少なくなりましたが、
ただC型肝炎ウイルスの母子感染はまだ数%の割合で起こっています。
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肝機能
肝臓は栄養を蓄えて体に必要なたんぱく質を合成し、筋肉や臓器に栄養
を供給したり、有害な物質を解毒して胆汁中に排泄するなど、色んな働き
をしています。これらの働きを調べる検査を肝機能検査といい、多くの種
類があります。
肝臓は沈黙の臓器といわれ、病気が軽いうちは自覚症状がほとんどなく
検査を受けないと病気が見付かりにくいので、集団検診やドックで異常が
あれば、自覚症状がなくても精密検査を受けることが大切です。健診や
ドックでよく見付かるのは脂肪肝で、次いで慢性肝炎や肝硬変ですが、稀
には無症状の肝がんが見付かることもあります。
−基準値表−
項
目
異常域(低) 境界域(低)
γGTP−J
(JSCC基準*)
基準域
境界域(高) 異常域(高)
∼50
51∼155
156∼
GOT(AST)
∼7
8∼30
31∼99
100∼
GPT(ALT)
∼4
5∼30
31∼99
100∼
総ビリルビン(T−BiL)
∼0.19
0.20
∼1.00
1.01
∼1.99
2.00∼
直接ビリルビン(D−BiL)
∼0.30
0.31
∼0.49
0.50∼
TTT
∼4.0
4.1∼9.9
10.0∼
ZTT
∼2.9
3.0
∼12.0
12.1
∼39.9
40.0∼
ALP(アルカリフォスファターゼ)
∼124
125
∼335
336
∼429
430∼
LDH−J(JSCC基準*)
∼114
115
∼230
231
∼299
300∼
175∼202
203
∼460
461∼
Ch−E(コリンエステラーゼ)
(JSCC基準*)
∼174
*JSCC基準:日本臨床生化学学会が定めた基準
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γ−GTP
GOT(AST)
肝臓の他、腎臓や膵臓の細胞にもある酵素の一つです。肝臓の
細胞(以下、肝細胞)が壊れたり胆道の胆汁通過障害があると、
血液中に増えてきます。アルコール類の飲みすぎには特に敏感
に反応し、値が上昇します。脂肪肝でも肝細胞に脂肪が溜まり
すぎて細胞が壊れると、この値がしばしば高くなります。
肝臓や筋肉の細胞に含まれている酵素の一つです。たんぱく質
のもとになるアミノ酸を作る働きをしています。健康であって
も古い肝細胞は少しずつ壊れて新しい肝細胞に入れ替わってい
ますから、血液中には少量のGOTが含まれていますが、ウイル
スやアルコールや溜まりすぎた脂肪で肝臓が障害されると、壊
れた肝細胞から漏れ出たGOTが血液中に増量します。心筋梗塞
や過激な運動で心臓の筋肉や骨格筋の細胞が壊れた時も、この
値が上昇することもあります。
GOTと同様、アミノ酸を作る酵素の一つですが、筋肉よりも肝
臓に多量に含まれています。このため肝細胞が障害を受けると、
敏感に値が高くなります。GOTとGPTの値は同時に上昇する
ことが多いですが、病気によって上昇する程度が幾分違います。
GPT(ALT)
例えばGOT値よりもGPTの上昇が目立つ場合は、脂肪肝や過
度の飲酒のせいであることが多く、慢性肝炎や心筋梗塞ではこ
の逆になることが多いので、これによってある程度病気の種類
を推定することができます。
ZTT
TTT
肝臓病が慢性化すると、たんぱく質を合成する機能にも変化が
生じ、たんぱく質の仲間で血液中に多いアルブミンが減り、グ
ロブリンが増えてきます。グロブリンが血液中に増えるとZTT
の値が高くなり、アルブミンとグロブリンの比(A/G比)が小
さくなります。
ZTT値が高くなるのは慢性肝炎や肝硬変の場合が多いのですが、
時にはグロブリンが血液中に増量する橋本病(慢性甲状腺炎)
やショーグレン症候群などの自己免疫疾患や膠原病、多発性骨
髄腫などのせいであることもあります。
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アルカリフォス
ファターゼ
(ALP)
総ビリルビン
(T−BiL)
直接ビリルビン
(D−BiL)
乳酸脱水素
酵素(LDH)
コリンエステラーゼ
(Ch−E)
酵素の一つで、ほとんどの臓器の細胞に含まれていますが、特
に肝臓、胆道の病気で胆汁の流れが滞った場合や、骨の病気で
この値が高くなります。老人では骨の病気でなくても、骨の老
化によって血液中にこの酵素が流れ出して値が高くなることが
あります。
ビリルビンはヘモグロビンの分解産物です。赤血球は寿命(平
均120日)が尽きると脾臓で解体され、分別処理された鉄原
子は骨髄に運ばれて、新しく作られる赤血球の素材になります。
酵素の働きで鉄原子が外れた分解産物、間接ビリルビンは、肝
臓でその一部が直接ビリルビンになって胆汁中に排泄されます。
直接ビリルビンと間接ビリルビンを合わせたものが総ビリルビ
ンです。肝臓や胆道の病気で胆汁の流れが滞ると、直接ビリル
ビンが腸に排泄されにくくなって、血液中のこの値が高くなり
ます。また、溶血性貧血などで赤血球が大量に壊れるような状
態では、間接ビリルビンの値が上昇します。
ブドウ糖がエネルギーに変わる時に働く酵素です。あらゆる細
胞の中にありますので、細胞が壊れると血液中に流れ出します。
肝細胞が壊れる肝臓病、細胞を破壊する悪性腫瘍や血液疾患、
心臓病、筋肉疾患など、多くの病気でこの値が高くなります。
病気の時だけでなく、激しく運動すると筋肉の細胞からこの酵
素が血液中に流れ出ますし、タバコを吸うと気管支や肺の細胞
が壊れて、やはりこの値が高くなることがあります。また妊娠
時にもこの酵素の血中濃度が高まります。
コリンエステルという物質をコリンと酢酸に分解する酵素です。
ほとんどが肝臓で作られるので、肝細胞が壊れてその数が減る
慢性肝炎、肝硬変、肝臓がんや栄養失調などでこの値が低くな
ります。
一方、脂肪肝や飲酒などで肝細胞が刺激された状態では、この
値が高くなります。