生命保険を活用した相続対策

平成 22 年 4 月 1 日現在の法令等に準拠
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生命保険を活用した相続対策
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生命保険の満期金を受け取った場合
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法人契約の生命保険
生命保険を活用した相続対策
1.課税関係
生命保険金は、保険料負担者と保険金受取人が税務上のポイントとなっています。死亡保険金の一般的な契約
方法とその課税関係は、以下の通りです。
保険契約者
被保険者
保険金受取人
課税関係
納税義務者
関連法令
母又は子供
相続税(みなし相続財産)
母又は子供
相法 3①三
父
相続税(本来の相続財産)
相続人
相法 3①一
子供
贈与税
子供
相法 5①
父
父
(被相続人)
母
母
父(被相続人)
子供
父又は母
・年金で受取:所得税(雑所得)
・一時金で受取:所得税(一時所得)
相続税(本来の相続財産)
母
相続人
所令 183
所基通 34-1
財基通 214
2.対策(保険料贈与スキーム)
通常は、生命保険証券に記載されている「契約者」=保険料負担者と推定されます(国税庁事務連絡 「生命保険
料の負担者の判定について」 昭和 58 年 9 月)。税金負担は、贈与税>相続税>所得税(一時所得)の順です。よっ
て、贈与税となる契約形態は避けて所得税となる契約を狙うべきです。一時所得では下記のように 1/2 課税されるの
で、所得税+住民税の税率が 50%でも実質税率は 25%です。
一時所得=(受取保険金-支払保険料-特別控除 50 万円)÷2
課税庁の統計によれば 95%の人が相続財産 3 億円以下というデータとなっています。生命保険だけで、納税資金
の準備ができます。つまり、現預金を生命保険金に変えて納税資金とし、同時に生命保険金の非課税枠を活用する
対策が有効です。生命保険金は、法定相続人×500 万円が非課税です(相法 12①五)。
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3.小額で簡単な、個人の相続税の資金対策
小額で簡単な、個人の所得税・相続税対策があります。生命保険金を相続税ではなく、所得税(一時所得)となる
ように事前対策します。資産家の相続税率は、50%にもなります。そして、相続税の非課税限度枠(500 万円×法定
相続人)を超える部分の生命保険契約を締結している場合がほとんどです。通常オーナー自身にかける生命保険は
自分で支払うことが多いですが、配偶者(または子供)が支払ったことにするため、保険料の支払額を配偶者に贈与
します。贈与税は年間 110 万円以下が非課税なので、この金額以下の保険料であれば贈与税を払うことなく配偶者
を保険契約者(=保険料負担者)にできます。相続が発生した場合には、保険金受取人の配偶者(または子供)に生
命保険金が支払われます。この場合、保険料負担者も配偶者になっているので上記の④のように相続税と比べて 1
/2 課税される一時所得の所得税ですみます。つまり、所得税の実際税率は最高でも 25%となります。
一般的には、相続税の課税価格が 2 億円以下ならば、相続財産として受け取ったほうが有利です。逆に、相続
税の課税価格が 2 億円超の資産家の場合は、一時所得としての課税の方が有利です。
相続人に生命保険金を受け取ってもらい、これを法人借入金や相続税の資金対策に利用します。生命保険契約
は、通常は 80 歳まで加入できます。
4.注意点(国税不服審判所 昭和 59 年 2 月 27 日裁決事例、事務連絡昭和 58 年 9 月)
① 110 万円以上の贈与の場合は、贈与税の確定申告をする。
→贈与税申告書の控えを保存しておく
② 支払生命保険料は親の口座からは直接引き落とししない。妻や子供の口座から振込・出金する。
③ 贈与者が確定申告する場合は、生命保険料控除をしない。
→支払者である妻子の確定申告で控除しておく
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生命保険の満期金を受け取った場合の確定申告
1.概要
生命保険の満期返戻金や郵便局の簡易保険・学資保険や子供保険は、保険契約者(保険料負担者)と満期保険
金の受取人が同じならば、原則として一時所得に該当します。保険金を一時金でもらう場合は一時所得ですが、年
金形式でもらう場合は雑所得に該当します。
一回の支払金額が 100 万円超の生命保険一時金と損害保険の満期返戻金には、税務署への支払調書提出義務
が支払者(生命保険会社・損害保険会社・郵政公社)にあります。また、一時金でなくて年金形式でも 20 万円超の場
合は同様に支払調書の提出義務があります(相規 86)。1/1 から 12/31 までの支払分について、翌年 1/31 までに
税務署に提出することになっています。このため、確定申告しなければ所轄の税務署から「お尋ね」(呼び出しのハガ
キ)が来ます。農協や漁協・郵便局も、支払調書を提出しています。保険金の支払調書には、支払保険金額と払込保
険料の金額・支払人・受取人の住所・氏名が記載されます。また、保険金受取人にも支払調書(控え)が送付されてき
ているはずです。この支払調書を見て、払込保険料がいくらかを確認します。
一時所得は、以下のように計算します(所法 34)。
一時所得=(受取保険金-支払保険料-特別控除 50 万円)÷2
サラリーマンで、上記計算式の一時所得が 20 万円以下ならば確定申告する必要はありません。サラリーマンでも
一時所得が 20 万円超の場合は、確定申告の必要があります。一時所得は総合課税なので、給与所得や事業所得と
合計して総課税所得になり所得税額を計算します。
2.その他の保険金
生命保険等の満期保険金受取人と保険料負担者が異なる場合は、その満期保険金は保険料負担者から保険金
受取人へ贈与されたものなので贈与税の課税対象になります。失業保険金や所得補償保険の保険金は、非課税な
ので確定申告は不要です(所基通 9-22)。医師の診断書で余命6ヶ月以内とされ生命保険会社から受け取る生前
給付金やリビングニーズ特約で支払われるもの(上限 3,000 万円)も、所得税は非課税です。また、一時払養老保険
や一定の一時払損害保険で保険期間が 5 年以下のものや 5 年以下で解約したものは、いわゆる金融類似商品とさ
れ、所得税 15%+住民税 5%で合計 20%が源泉徴収済です。このため課税関係は終了しているので、確定申告は
不要です。
3.必要となる添付資料
・所得税の確定申告書(A または B 様式)
・給与所得の源泉徴収票(サラリーマンの場合)
・満期返戻金支払調書
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法人契約の生命保険(ハーフタックス・プラン)
会社は、福利厚生目的や役員退職金対策・従業員の退職金対策・借入金の返済資金対策等で生命保険契約を
利用する場合があります。法人契約の生命保険のポイントは、以下の通りです。
1.定期保険
いわゆる掛け捨て保険です。死亡保険金受取人が法人の場合、支払保険料は全額費用計上(損金算入)できま
す(法基通 9-3-5)。解約返戻金のある長期平準定期保険や逓増定期保険は、別途取扱が定められています。
2.養老保険
いわゆる生死混合保険です。養老保険とは、被保険者が保険期間中に亡くなったときには死亡保険金が支払われ、
満期時に生存している時には同額の生存保険金が支払われる保険のことです。定期付養老保険とは、死亡保険金
が生存保険金より高額なものをいいます。税務処理は、通常の養老保険とほぼ同じです(法基通 9-3-6)。掛け捨
てではなく満期金が出るので、保険料は定期保険より割高です。死亡保険金及び満期保険金の受取人が会社の場
合、貯蓄性が高いため主契約保険料は 100%資産計上します(法基通 9-3-4(1))。
養老保険は簿外資産として、将来の資金繰りの備えにすることも出来ます。生命保険を活用した役員退職金対策と
法人の株価引下げ対策は、ハーフタックス・プラン(福利厚生プラン)が有効です。これは、会社を保険契約者、役員
および従業員を被保険者とする養老保険契約で、満期保険金受取人を会社、死亡保険金受取人を被保険者の遺
族とするものです。この場合、支払保険料の2分の1は損金計上できます(法基通 9-3-4(3))。満期の際は、満期
保険金額と資産計上額の差額を雑収入として益金計上します。この満期保険金を退職金として支払うと、法人に課
税所得は発生しません。死亡保険金は、死亡退職金・弔慰金とします。
(金額単位:千円)
支払保険料(または福利厚生費)
5,000 現預金
保険積立金
5,000
10,000
注意点としては、非同族会社の役員と従業員の全員平等加入が条件という点です。この普遍的加入の条件を満た
さず、特定役員や従業員だけに付保する場合は、資産計上分以外を給与として源泉徴収する義務があります。
給与(または役員給与)
5,000 現預金
保険積立金
5,000
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10,000
①養老保険
②ハーフタックス
保険契約者
③逆ハーフ
法人
被保険者
役員・従業員
死亡保険金の受取人
法人
満期保険金の受取人
遺族
法人
法人
主契約保険料 ※1
遺族
役員・従業員本人
100%資産計上
1/2 資産計上
1/2 損金計上
100%給与課税
(保険積立金)
1/2 損金計上
1/2 給与課税
(源泉義務有り)
特約保険料
損金計上
契約者配当
益金算入
参考
④養老保険
法基通 9-3-4(1)
法基通 9-3-4(3)
所基通 36-31(1)
所基通 36-31(3)
H18.6.30 裁決 ※2
法基通 9-3-4(2)
所基通 36-31(2)
※1 損金計上する場合の勘定科目は、支払保険料又は福利厚生費が一般的です。
※2 一時所得の確定申告で所令 183・所基通 34-4 の規定を争うもの。平成 18 年 6 月 30 日の裁決は棄却されたが、福岡地裁の平
成 21 年 1 月 27 日判決では納税者が勝訴。課税庁が控訴したが、福岡高裁の平成 21 年 7 月 29 日判決でも納税者勝訴。課税庁
は最高裁に上告中。
従業員の退職金目的で「中小企業退職金共済制度」を利用すると、無断欠勤の継続等で退職しても直接支払わ
れてしまいます。会社の秩序を乱す退職事由でも、退職金が支給されるという問題点があります。このハーフタックス・
プランを利用して従業員の退職金目的に使用すれば、従業員が退職した場合に養老保険解約により会社に一度解
約返戻金が入金されるため、企業秩序を乱す等の退職理由の如何によっては会社の退職金規定に従い退職金を支
払わないことが可能になります。
③の逆パターン養老保険は、ハーフタックス・プランと比較して 100%全額を損金計上できるので、法人の課税所
得が大きく減尐します。いわゆる全額損金プランです。しかし、1/2 は役員報酬や給与として所得税が源泉課税され
ます。この場合の満期保険金は、所得税の計算上で有利な「一時所得」として取り扱われます。そして、満期保険金
から控除できる支払保険料は、1/2 給与課税されて源泉所得税を負担した部分です(国税不服審判所 平成 18 年
6 月 30 日裁決)。この事例では、法人が役員報酬として会計処理せずに役員貸付金や支払保険料とした場合は、個
人の確定申告の一時所得の計算では、必要経費として控除出来ないと課税庁は主張します。しかし現在、会社負担
分も一時所得の必要経費として控除できるという解釈を納税者が主張し裁判で係争中です(所令 183、所基通 34-
4)。裁判所の判断では、満期保険金で法人からの借入金を返済できます。つまり、法人から個人へ無税で資金移動
出来る事になります。
3.終身保険
終身保険とは、一生涯にわたって保障が継続するタイプの保険です。解約返戻金が毎年逓増する商品設計になっ
ています。しかし、支払保険料は払込期間を通じて一定額のものが一般的です。会計処理・税務処理は、養老保険
の①または④と同様です。
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UP!Consulting
4.注意点
以下のような場合は、個別の検討が必要です。
保険契約の転換・下取り(いわゆるコンバージョン)、払済保険への変更(養老保険の減額)
役員退職金として生命保険契約の権利を支給する場合
役員損害賠償責任保険(いわゆる D&O 保険)の導入、支払保険料の法人負担
終身タイプのがん保険の取り扱い
低解約返戻タイプの逓増定期保険の法人から個人へ譲渡する際の一時所得の取り扱い
介護費用保険の導入による役員・従業員の福利厚生対策と法人の株価対策
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また、解説の前提となる会計規則や税制が変更されている可能性もあります。実際に企画・実行される場合は、当事務所の担当者にご
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