第11回

経済学史
第 11 回
経済学史
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第 11 回 2010/6/28
I、古典派経済学の展開
1、通貨論争
(1)通貨主義
(a)地金派の発展
(i)貴金属の国際配分論と貨幣数量説
ヒューム、リカードの貴金属の国際配分論:
金の流入→物価の上昇→輸出減少、輸入増大→為替の下落→金の流出
金は各国の物価水準を調整し、貿易の均衡を保たせる割合で各国に配分される
(ii)地金派:兌換の保証により銀行券の過剰発行を防止
(iii)通貨学派:ロイド(オーヴァーストーン卿)、ノーマン:銀行券発行のルールを主張:金準備の
増減に自動的に対応する発行高
発券業務と銀行業務の分離を主張
(2)銀行主義:
(a)反地金派の後継者
トゥック、フラートン、ウィルソン
銀行券の過剰発行はあり得ない
物価の変動は銀行券の発行ではなく、商品の需給条件によって決定される→貨幣数量説の否定
還流法則:銀行券は貸付と返済の関係を通じて銀行に還流する
→銀行券の過剰発行はありえない
II、古典派経済学の特徴(p.49)
1、理論的、政策的特徴
(1)分析の対象:
資本家に雇用された労働者が生産を行う資本主義経済が分析対象
重商主義では、生産よりも流通を重視し、生産においても独立小生産者が分析対象
生産、分配を階級的利害関係と結びつけて考察
賃金、利潤、地代はそれぞれ、労働者、資本家、地主の三階級の所得
(2)価値論、価格論
供給と客観的要因を重視:生産費説、労働価値論
新古典派の価格論:需要と主観的要因を重視:効用価値説
資本蓄積に基づく長期動態論を考察
(3)貨幣
交換手段、価値尺度としての貨幣:価値貯蔵手段としての貨幣はほとんど考慮せず
→セイ法則、販路説:全般的過剰生産の否定
(4)貨幣数量説
貨幣数量説:貨幣量の増減がそれに比例した商品価格の増減をもたらす
古典派の二分法、貨幣の中立性:貨幣量の変化は物価の名目的変動をもたらすだけで、生産量や雇用
量などの実体経済には影響を与えない
(5)人口法則
マルサス的人口法則の受容→賃金基金説
賃金基金説:ある時点での労働者の雇用に向けられる賃金基金の総額は一定
(6)政策
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第 11 回
市場システムの機能を信頼し、人間の利己的経済活動が意図せざる結果として社会的利益を生む→国
家の市場に対する介入を原則として否定する自由放任主義と小さな政府、自由貿易
2,思想的特徴
(1)自由主義、個人主義、利己主義
自由な個人の利己的経済活動が、市場の均衡と調和を通じて、社会の最大の利益を実現させる
(2)功利主義
狭義の功利主義:ベンサム、J.ミル、J.S.ミル:最大多数の最大幸福を目指す急進的な哲学的、
政治的運動→リカードも影響下
広義の功利主義:道徳、法の規範的根拠を社会構成員の利益や幸福の最大化に求める
→アダム・スミスも国民の富の最大化を目指す点で含まれる
(3)世界主義、グローバリズム
国民的利害の対立を超え、自由貿易を通じて世界全体の富裕化を主張:自由貿易帝国主義
重商主義:貿易差額説:ゼロサムゲームの世界:一国単位の利益のみ
(4)労働観
消極的労働観:労働が人間にとって常に苦痛である
III、ドイツの経済学
1,ドイツの経済学
(1)ラウ(1792-1870)
スミスを導入:自由主義的
(2)アダム・ミュラー(1779-1829)
ロマン主義の影響:フィヒテの影響も受ける
生産要素:土地、労働、物的資本、精神資本
スミスの自由主義を批判:物質主義、普遍主義、分権主義として批判
国家や宗教を重視
2,リスト(1789-1846)
(a)歴史的背景:
19世紀前半のドイツ:地域によって異なる経済構造:工業化し始めていた中南部(ライン・プロイ
セン)、零細土地所有経営の西南ドイツ、半封建的なユンカー経営のエルベ川以東のプロイセン
ドイツ関税同盟(1834):プロイセン主導による経済的統一
リスト:中南部の商工業者の保護主義的利害を反映
(b)リストの経済学
後進国における保護貿易論者:工業資本家の利害
古典派経済学のコスモポリタンな(世界主義的)側面を批判
経済成長を考慮した場合、後進国の工業を発展させるためには、保護貿易が必要
発展段階の理論に基づく保護主義政策:
未開、牧畜、農業、農工業、農工商業の五段階区分→歴史学派の先駆者
イギリス:第五段階:古典派の交換価値の理論と自由貿易政策が妥当
ドイツ:第四段階:個人と世界の中間に位置する「国民」の生産力の発展を促す国民生産力の理論と
保護主義的政策が必要:ナショナリズム
国民的生産諸力の理論:社会的分業に見られるような様々な活動の有機的な結合によって発揮される
物質的、精神的力を重視
農業を重視:農業は経済の発展を助ける→農工間の均衡を達成するために農業の近代化を主張
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