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フランスにおける商標権侵害への対抗措置
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商標権侵害発見及び防止にあたって、フランスでは民事法、刑事法で対処することが可能である。商標権所有者が侵害に
対し複数の法的対抗措置の中から自らに適切なものを選択できる点でフランスの法制は優れているといえる。
以下に商標権侵害に対処する為の法的手続きの説明を行う。
1. 侵害の発見と侵害事実の証明
商標権侵害事実の証拠はどんな形で採集されたものであっても裁判所によって証拠であると認められる。よって、証拠収
集にあたって、必ずしも裁判所の認める侵害手続きを全部踏む必要はない。
場合によっては、侵害商品を購入したり、侵害側の発行している販売関係の書類を入手するだけで十分なこともある。
もちろん、法的諸手続きを経て侵害事実を証明することも可能である。
1.1 民事法に基づく措置
侵害事実証明のため最も一般に使われる方法はフランス知的所有権法716-7条に定められている侵害差押さえ手続きをと
ることである。侵害差押さえ手続きは、商標権者の弁護士が裁判所に請求する。侵害差押さえ申請は非常に迅速に許可に
なる。また侵害側に予め通知する必要もない。
差押さえ手続きは、裁判所任命の執行官(Huissier)が執行する。その際、警察官と商標権者側の商標弁理士が随行す
る。
差押さえでは、裁判所に予め申請し、それを裁判所が認めた場合には、侵害商品のサンプル自体を差し押さえたり、侵害
行為がどこで行われていて、どの程度の規模で行われているのかを証明できる販売書類、会計書類などを検査し、コピー
を差し押さえたりできる。
上記の侵害差押さえが法的に有効であるためには、商標権者が、差押さえ日から数えて15日以内に侵害訴訟を起こすこと
が必要である。
1.2 刑事法に基づく措置
商標権者が警察に告訴するか、警察自らが、商標権侵害を刑事事件として立件しようとする時は、警察官が侵害事実解明
捜査を行うことができる。
刑事捜査にあたって、警察官に与えられている法的権限は非常に大きく侵害事実に関するありとあらゆる尋問と調査を行
うことができる。
侵害関係の取調べについては専門の捜査官が配置されている。さらには、不正競争行為、詐欺行為を取り締まる監督庁の
DGCCRFの係官にも侵害事実取り調べの権限が与えられている。
商標権侵害者が"現行犯"として取調べられる場合は、他の訴訟手続きはまったく必要無く、直ちに刑事起訴の対象とな
る。
その他の刑事事件にあたっては侵害行為の発生地と販売網を押さえる為に、警察が詳しい捜査を行う。
2. 侵害商品差押さえあるいは差止め
税関差止めを始めとして、不正商品販売のどの段階でも商品差押さえが可能である。
商品差押さえは、民事手続き、刑事手続きのどちらによっても執行が可能である。
2.1 税関の輸入差止め措置
同措置は、フランス知的所有権716-8条及び1994年12月22日付け共同体規則3295/94によって保障されている。これ
は商標所有権者の差止め請求によって行われる。請求は、フランス国内において通関中の物品で商標権者が侵害品である
と訴えている品物に対して、あるいはただ単にフランス国土を通過中の、欧州連合内の他の国あるいは欧州連合外への輸
出/輸入物品を対象に行われる。
上記の措置が欧州連合規模で実施され欧州裁判所で適法と認められた例に、2000年4月6日付けの同裁判所判決がある。
アメリカ国籍の会社、The Polo/Lauren Company LP.が所有している商標の偽物がインドネシアからポーランドに
向けて輸出中であったところ、オーストリアで差止めが請求され、これが認められた。
欧州裁判所判決の要旨、次の通り:
"1994年12月22日付け共同体規則3295/94の第1条は、商品の海賊版や、偽商標をつけた商品、侵害商品の流通、輸
出、再輸出と言った行為を罰する為の規則を提供しているが、同1条は、共同体規則3265/94に詳細されている商品に関
して、それら商品が欧州連合加盟国外の国から欧州連合加盟国外の国へ輸出される途中であって、欧州連合加盟国のある
国において、上記第1条を理由に一時的に停留中である場合、さらには、商標権を侵害されている商標権所有者から侵害
商品の差止めが請求された場合は、税関差止めを実施することができると解釈してよい。その商標権者の国籍が欧州連合
以外であっても請求は認められる。"(欧州裁判所、事件C-383/98、The Polo/Lauren Company LP対PT Dwidua Langgeng Pratama International Freight Fowarders)
税関当局による輸入差止めが実施されると、差止め執行事実が税関から商標権者に通知される。商標権者は通知より10日
以内に、法律で保障されている措置のいずれかをとった旨の証明を税関に通知しなければならない。 さもなければ差し
止めは解除される。
商標権者の選択する法的措置の中には当然、前述の裁判所への侵害差押さえ請求とそれに続く提訴が考えられる。
税関差止め請求に続いて侵害差押さえ、提訴という手続きを取る事を商標権者が決めた場合には、侵害の事実が証明され
なかった時に備えて、商標権者側が裁判所に保証金を積み立てなければならない。
フランス国土内に侵害商品が入ったと予想される度に税簡に差止め請求をするかわりに、税関に1年毎に差止め請求を登
録する方法もある。この場合、税関はあらかじめ登録された侵害の可能性のある商標をもとに一回ずつの商標権者からの
差止め請求を待たずに直接税関差止めを実施できる。
2.2 刑事上の差押さえ
警察官は侵害事実を認めたときには差押さえを執行する権利を有している。執行の権利は、フランス知的所有権法716条
8-1によって保障されている。
必要ならば、侵害行為を実行する為の設備(製造機械など)を押収することも可能である。
2.3 民事上の差押さえ
フランス知的所有権法716-7条に基づいて民事裁判所の判事は侵害差押さえを執行させることができるが、差押さえ内容
として、記述差押さえとサンプルの差押さえにとどまらず、侵害疑義商品自体の差し押さえを命令することもできる。こ
の場合、提訴側に保証金支払が要求されることもある。
既に述べたように、民事上の侵害差押さえが法的に有効となる為には、差押さえから15日以内に商標権者が大審院に提訴
することが必要である。
3. 侵害訴訟手続き
3.1 刑事訴訟手続きについて
フランス知的所有権法716条-9 a)及びb)に定められている商標侵害に関する刑事的犯罪行為とは次の行為を指す:
"登録商標、あるいは団体登録商標の権利を犯し、これら商標を複製したり、真似たり、許可無く使用したり、商品にそ
れら侵害商標をつけたり、真正商標を取り去ったり、真正商標の改造を行ったりする行為、
また、いかなる体制のもとにある税関であってもそれを通じて、上記侵害商品の輸入を図ったり、侵害商品の輸出を行
う行為"
またフランス知的所有権法716条-10 a)及びb)は次のように続けている:
"正当な理由なく、侵害商標をつけた商品を保管したり、または、侵害商標をつけた商品やサービスを故意に販売した
り、流通させたり、供給したり、供給の提案を行った者、
登録商標について要請される以外の商品やサービスを故意に供給した者"
上記の犯罪行為に対しては2年の懲役刑及び100万フランの罰則金が課される。侵害が法人によって犯された場合も裁判
所は法人の刑事責任を追及できる。この場合、特に罰金刑が課される。
再犯者に対する罰則は上記の2倍となる。
また罰則金に加えて、侵害行為に関わった企業全部または一部部門の一時閉鎖あるいは永久閉鎖を裁判所が命ずることも
ある。
侵害が刑事捜査の結果明らかになったり、現行犯犯罪であるとき、事件は直ちに裁判所に送られる。被害者は、付帯私訴
当事者として裁判に参加し損害賠償を請求できる。
一方、商標権者が侵害事実を自ら証明できる時は警察が関与することなく、直接刑事裁判所に訴えを起こすこともでき
る。
この場合は、裁判所への召喚状が執行官(Huissier)によって被告に送達される。被告は、裁判所に出頭せねばならな
い。被告がそれを望めば弁護士を同行することが可能である。
刑事裁判は開廷数(大体2回)が民事裁判より少ないので判決が早く出る利点があるが、民事裁判より損害賠償判決額が低
い点に注意するべきである。
3.2 民事訴訟手続き
被害者は民事裁判所に損害賠償を求めて訴訟を起こすこともできる。
この場合、被告には、民事訴訟が起こされたので、弁護士をたてなければならない旨の令状が送達される。民事裁判では
弁護士の選任は義務である。
両当事者の言い分を聞くのに何度か裁判が開かれる。判決までに約6ヶ月かかる。
原告は損害賠償金と訴訟費用の払い戻しをあわせて請求できる。もちろん、被害額の大きさによるが、請求損害額は数百
万フランを越えることがある。
また原告がそれを要請すれば、裁判所は鑑定人を指名して被害額鑑定を行わせることもできる。
裁判官に判決するよう要請できる他の措置として、判決内容の新聞紙上への公表、侵害商品あるいは製造設備の没収、あ
るいは侵害物品の廃棄などがある。
上記措置はもちろん刑事裁判においても命令されることが可能である。
最後に暫定禁止措置を民事/刑事裁判所に請求することもできる。
3.3 商標権侵害に関する暫定禁止
商標権侵害に関し、既に本裁判が起こされている時、原告は、被告の侵害行為の続行を停止させる目的で、裁判長に暫定
禁止命令の仮判決を求めることができる。また原告の要請に従って、暫定禁止が守られない場合は日額の罰則金が課され
るか、被告に侵害行為の禁止が命令されないときは、原告への将来の損害賠償支払を保障する為、被告に保証金を積ませ
る命令が裁判所から出されることもある。
しかし、暫定禁止命令は、原告が侵害の事実を知ってから比較的短期間で本訴を起こしていること、及び侵害事実が明ら
かである時のみ裁判所が認めるものである。(知的所有権法716条-6)
***
フランスには以上の如く商標権侵害行為を阻止する数々の法的措置が保障されている。これら措置のおかげで、競争者の
侵害行為や組織ぐるみの侵害行為などに適切に対抗することが可能である。
© Cabinet Beau de Lomenie - Aurelia Marie - 2000年10月
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