今、商品先物市場は?

今、商品先物市場は?
豊商事株式会社
2008 年 10 月 22 日
今、商品先物市場は?
石油、金、穀物、コーヒーなど、世界的な商品価格の急変動を受け、商品先物市場は注
目されています。世界の市場規模は毎年前年比二桁増を記録し、その価格の騰落は世界の
経済にも大きな影響を与えています。また、資産運用の手段として、年金基金など機関投
資家も参入し、投資家層の厚みも増してきました。日本でも「利便性の向上」「信頼性の向
上」を旗印にその振興が官民を挙げて行われています。
まさに、今世界経済は先物取引なくして論じることが出来ない時代といえるでしょう。
世界経済に与える影響
この夏、世界経済は原油価格に振り回されました。年初、1バレル 90 ドル強だったニュ
ーヨークの WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は7月に 147 ドル台まで
急騰しました。また、原油ばかりではなく、シカゴコーン(とうもろこし)も 5 ドル弱か
ら 7 ドル台に急騰しました。その他小麦、米、大豆も軒並み値を上げ、国内での食品の値
上げラッシュを引き起こしました。
しかし、その後は米国の金融危機や世界的景気先行懸念から急落し、10 月に WTI は 70 ド
ルを割り込みました。
さて、この食品などの価格上昇は、先物価格が一つの要因とされています。先物価格と
は「将来の一時点までに決済するという約束に基づく取引」です。将来、価格が上がると
思えば買われ、下がると思われれば売られます。市場で決まる価格は商品の需給を最も的
確に映したものであり、価格の動きは経済のバロメーターともいえます。
企業はこの価格を取引の指標としてリスクヘッジに利用し、ヘッジファンドや個人投資
家は価格の騰落による差益を見込んで、参入しているのです。この結果、世界の商品先物
取引の出来高は 2007 年に 151 億枚と、前年比で 28%も増加しました。世界経済は、先物
取引がなくては上手く回らない状況になっています。
昨年、金融商品取引法の施行に合わせて商品取引所法も改正され、さらなる発展を目指
しています。その柱となるのが①「利便性の向上」と②「信頼性の向上」です。
①利便性の向上
取引所は近い将来に、取引の 24 時間化を目指しています。また、取引単位を小さくす
る「ミニ取引」を導入するなど、投資家がより参加しやすい仕組みづくりを目指してい
ます。
もう一点が取引所の株式会社化です。世界の取引所は株式会社化によって意思決定の
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スピードを速めると共に、資本調達を容易にして巨大化することでその利便性を高めて
います。この流れの中で、日本の各取引所も株式会社化に力を入れています。
②信頼性の向上
取引時に決済の相手方となる日本商品清算機構が資金の増強を行っています。万が一、
取引の仲介に当たる商品取引員に債務不履行(違約)等が発生した場合でも、売買に参
加する委託者の資産の保全がなされるよう対策に努めています。
取引の仲介に当たる商品取引員の従業員である外務員の教育にも力を入れています。
各商品取引所は研修制度を拡充していますし、商品取引員の自主規制団体である日本商
品先物協会も商品取引員の管理職、従業員などを対象に講座を各地で開催しています。
業界をあげてコンプライアンスの徹底や外務員の専門性の向上に力を入れています。
巨大化への道
今、世界の商品先物業界は急速に巨大化への道をたどっています。欧州では二大取引所
に集約されました。米国でも世界最大の商品取引所であるシカゴ・マーカンタイル取引所
(CME)が米国最古の取引所・シカゴ商品取引所(CBOT)を吸収合併したのに続き、貴
金属、石油では世界最大のニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)の合併を決め
るなど、欧米では急速に寡占化が進んでいます。
これに対してアジアや南米、中東、中国、ロシアなどでも次々に新しい取引所が誕生し
ています。特に自由貿易を掲げるシンガポール、ドバイなどでは規制を緩和し、世界から
資金を集めようとしのぎを削っています。
日本でも商品取引所はかつて 19 箇所ありましたが、吸収合併や統合が進み、現在は 4 箇
所に集約化されています。
一方で、上場商品は原油、ガソリン、灯油、軽油などの石油関連商品、金、白金、銀な
どの貴金属、アルミニウム、鉄スクラップ、トウモロコシ、大豆、コーヒー、粗糖、鶏卵
など多数の銘柄が上場されており、その数は米国に次ぐものとなっています。
今現在の商品先物取引の指標は米国が中心ですが、今後日本がどう加われるのか、また
急ピッチで変化を遂げる世界に対抗できるか、まさに今、日本の商品先物取引は正念場を
迎えています。このような環境の中で、経済産業省と農林水産省は産業構造審議会商品取
引所分科会を開催し、来年までに新しい商品先物取引体制を築こうとしています。
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日米英の上場商品
日本
貴金属
金、銀、白金、
英国
米国
現物のみ
金、銀、白金、
パラジウム
非鉄
アルミニウム
レアメタル
パラジウム
銅、亜鉛、すず、鉛、
銅
アルミニウム、アルミ二
次合金、ニッケルなど
エネルギー
原油、灯油、ガソリン、 原油、ナフサ、
原油、ヒーティングオ
化学製品
軽油
ガスオイル、重油、
イル、燃料油、ガソリ
プラスチック
ン、天然ガス
なし
生牛、生豚、牛枝肉、
畜産物
鶏卵
豚枝肉、バター
穀物・油脂
飲料
トウモロコシ、
コプラ
トウモロコシ、
一般大豆、Non-GMO、
一般大豆、大豆ミール、
小豆など
大豆油、大麦、コメ
アラビカコーヒー、
ロブスタコーヒー
アラビカコーヒー
ロブスタコーヒー
ココア
ココア、オレンジ果汁
砂糖
粗糖
現物のみ
粗糖
ゴム
天然ゴム
天然ゴム
天然ゴム
繊維
生糸
綿花
その他
冷凍エビ、
牛皮
鉄スクラップ
指数商品
天然ゴム指数、
CRB 指数、
コーン 75 指数、
ダウジョーンズ‐AIG
コーヒー指数
商品指数など
(出典:日本経済新聞)
当業者の参入進む
商品先物取引の基本は、価格変動のリスクを防ぐヘッジ(保険つなぎ)であり、また公
正な指標価格の形成にあります。企業は商品先物をどのように活用すれば良いのか、その
方法を探ります。
今年、東京工業品取引所に新しく大手石油元売各社が加入しました。これまでは、原油
価格をもとに石油製品の卸値(ガソリンスタンド等への売値)を独自に決めていましたが、
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出光興産は 9 月 16 日、国内 7 箇所のスポット市場(業者間転売市場)と東京工業品取引所
の先物価格を基に卸値を算出することにしました。
穀物においても以前から先物取引が指標でした。米国では、シカゴの先物価格を見て、
その年に何の種を蒔くかを決めています。1973 年、米国が大豆輸出を禁止した際にシカゴ
の先物取引所も取引中止になりました。この時はどの価格を指標にすべきかが分からず、
現物取引の価格も決められなかったといわれています。先物取引は、モノの取引において
重要な役割を果たしています。
当業者による活用方法
①価格指標
先物取引には誰もが参加でき、生産者にも消費者にも偏しない公正な価格が形成されて
います。そのため、公正な価格指標として利用することが出来ます。
②リスクヘッジ
価格の騰落は経営を不安定にします。それを取り除くのが先物取引を利用したリスクヘ
ッジです。もし 10 月に翌年 3 月に使う商品を買いたい場合、先物価格が安いと判断すれば
買っておきます。半年後、需要期に入った時点で仕入れ価格が高くなったとしても、先物
価格も同じように上がっているのでそれを売れば、10 月に買ったのと同じ価格で手に入り
ます。先物価格が下がれば損が出ますが、現物価格も同じように下がっていますので、損
得は相殺できます。
売る場合も同様です。価格が将来安くなると思えば、売る予定の在庫品に見合う量を先
物取引で売っておけます。もし将来に価格が下がっても、先物を買い戻せば、その利益で
損を回避できます。もちろん価格が上がれば先物取引で損が出ますが、在庫品の価格も上
がるので全体として損は出ません。つまり、先物を利用すれば、売り買いどちらでも価格
を固定化できるので、価格変動に煩わされずに経営に専念できます。
③EFP、ESP
海外でよく行われ、最近は国内でも行われるようになった手法に「EFP」と「ESP」が
あります。「EFP」とは先物価格と現物価格とのことで、「ESP」とは先物価格とスワップ
価格の交換のことをいいます。
「EFP」とは、現物取引の契約を結んだ売り方と買い方が、場外当事者間の合意に基づ
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く申し出を商品取引所に申し出ることで、同一価格の先物の買いと売りを個別競争売買を
介さずに成立させる取引を、EFP 取引(Exchange of Futures for Physicals)といいます。
EFP 取引の主なメリットとして
① 買い方、売り方ともに取引所を通すことで公正な価格で売買ができます。
② 売り方、買い方が大口注文を出すと先物市場における価格に大きく影響する可能性があ
ります。しかし、EFP 取引では、同一価格の先物の買いと売りを個別競争売買を介さ
ずに成立させるため、注文をスムーズに成立させることができます。
また、
「ESP」は商品取引所を利用したスワップ価格を決定する手法です。
この 2 つの手法によって、
商品先物価格を通じて互いに公正な価格での売買が出来ます。
④現物の購入と販売
現物の購入という点もあります。先物取引は、もともと差金決済(先物取引によって生
じた利益と損失だけを決済する)が中心でしたが、最近は現物の授受に利用している企業
も多くなっています。その筆頭となる商品がガソリンと灯油です。
東京工業品取引所はバージ(タンカー)で、中部大阪取引所はローリー(タンクローリー車)
での受渡が出来ます。そこで石油元売から買う場合よりも石油市場を利用した方が安い場
合は、ここで購入したほうが有利です。例えば中部大阪商品取引所で現物を購入した場合、
2007 年度は資源エネルギー庁発表の卸売価格より 1 リットル当たり平均 8.9 円安くなりま
した。
また、受け渡し場所を全国に広げており、すでに 31 都道府県に達しています。東京工業
品取引所も受渡しに力を入れており、ともにガソリン・灯油の受渡し量は年々増加傾向に
あります。
ただし、ヘッジのために使う場合、注意したいのが税金です。
例えば、在庫品を売る予定に合わせて先物を売った場合、12 月に先物を決済して出た損失
と、翌年 1 月に先物取引で生じた利益は、期をまたいで通算勘定することが可能ですが、
確定申告を怠ると 12 月に先物を決済して出た損失については通算勘定することができず、
同様に 1 月に先物取引で生じた利益分についても税金を納めることになるので注意が必要
です。
⑤ジャパンエナジー、東工取の会員加入申請
石油元売り大手のジャパンエナジー(JOMO)は。10 月 21 日東京工業品取引所に市場会員
としての加入を申請したと発表しました。11 月中旬の理事会で承認される見通しです。石
油製品などの価格変動リスクを回避する為、先物取引を活用します。新日本石油や出光興
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産は、既に加入しています。
ジャパンエナジーはガソリンや灯油価格のヘッジ(保険つなぎ)取引の活用を見込んでい
ます。同社は 11 月から、スポット(業者間転売)価格に沿って石油製品の卸値を変える制度
に移行する予定です。値決め指標として先物価格を活用したい、という狙いもあるようで
す。
商品先物と企業経営
商品取引が経営に役立つといっても、使いやすくなくては意味がありません。この為、
最近では利便性向上を目的とした様々な手が打たれました。
①東京工業品取引所では昨年から、当業者による石油の建玉制限を大幅に緩和。
②値幅制限を大幅に拡大。
従来はいくら日本商品先物市場でヘッジをしたくても、必要なタンカーの容量分をヘッジ
出来ない場合がありましたが、建玉制限の緩和によりその懸念は薄らぎました。
また、値幅制限の緩和により、海外市場で大きく値段が動いた際にも日本市場で対応しや
すくなりました。
今、東京穀物商品取引所では小麦の上場に向け研究が進められていて、東京工業品取引
所では 24 時間取引を計画するなど、更なる利便性向上の実現に力を注いでいます。
「先物市場でヘッジしないことが、企業の経営にはリスク」とはよく言われています。
価格変動は企業経営に大きな影響を与えます。それだけに、商品先物取引を企業の経営に
上手に使いたいものです。
※
当資料は、豊商事株式会社により作成されたものであり、投資判断の参考となる
情報提供を目的としたものです。したがって銘柄・商品の選択、売買価格などの投資
に関わる最終決定はお客様ご自身の判断でなさるようお願い申し上げます。
※
また、当資料にて提供される情報は豊商事株式会社が信頼できると判断した情報
源をもとに作成しておりますが、その内容及び情報の正確性・完全性または適時性に
ついて、豊商事は保障せず、また、いかなる責任を持つものではありません。
以上の点をご了承の上、本資料をご覧下さい。
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