マイコプラズマ肺炎 - 株式会社メディコン

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2012年8月発行
株式会社メディコン
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マイコプラズマ肺炎
日本ではマイコプラズマ肺炎はオリンピックのある年に流行を繰
り返してきたが、1984年と1988年に大きな流行があって以降は
大きな全国流行はみられなかった。しかし、今年のロンドンでのオリ
ンピックを控えてか、昨年の後半から流行しはじめ、現在も流行が続
いている。米 国ではマイコプラズマ肺 炎を「 歩く肺 炎( w a l k i n g
矢野 邦夫先生
浜松医療センター
副院長 兼 感染症科長 兼
臨床研修管理室長 兼 衛生管理室長
'81年 名古屋大学医学部卒業。名古屋第二
赤十字病院、名古屋大学病院を経て、'89年
フレッドハッチンソン癌研究所、'93年 県西部
浜松医療センター。'96年 ワシントン州立大
学感染症科エイズ臨床、エイズトレーニング
センター臨床研修修了。'97年 感染症科長/
衛生管理室長に就任。2011年4月より現職。
p n e u m o n i a )」などと呼ぶことがあるが、それは肺炎としては症
状が軽いため入院を必要せず、歩いて通院治療を受ける患者が多
いからである。ここでマイコプラズマ肺炎について復習したい。
症状
病原体はマイコプラズマ・ニューモニア(Mycoplasma pneumoniae)である。
マイコプラズマ肺炎は一年を通じて散発的にみられ、4∼7年の周期で秋に流行し
ている※1。呼吸器分泌物によってヒトからヒトに伝播し、潜伏期は1∼4週間である
※2
。
この病原体は急性気道感染症(咽頭炎、気管支炎、肺炎など)の一般的な原因
であり、特に学童で多くみられる。症状は軽度であることが普通であり、乾性咳、
発熱、倦怠感、咽頭炎が特徴である。そのほかの症状には筋肉痛、耳痛があり、感
染した患者の3∼13%が肺炎となる。合併症としては心外膜炎、心筋炎、溶血性
貧血、脳炎などがあるものの、頻度は少ない ※1。回復期でも持続する咳がみられる
ことが多いが、後遺症は稀である。致命的になることもあるが、それは主に高齢者
や鎌状赤血球症の患者である※2。
マイコプラズマ肺炎が最も多くみられる年齢層は5∼9歳であり、それに引き続
いて10∼14歳に多い。2∼4歳の小児の肺炎はウイルスや他の細菌によって引き
起こされることが多いので、全肺炎に占めるマイコプラズマ肺炎の割合は低いが、
それでも成人よりは頻度が高い ※3。
ア ウトブレ イク
多数の人々が濃厚接触する状況(集会やサマーキャンプなど)でアウトブレイク
が発生し、地域で流行することがある。ただ、地域で流行していても認識されない
ことが多い。アウトブレイクのときは、マイコプラズマ・ニューモニアに感染した学
童での肺炎の頻度は10∼19%とやや高くなる。伝播の頻度は家族内で最も高く、
二次感染する割合が高い。市中での流行についての研究によると、学校内の伝播
は家族内の伝播に比べると比較的少ない。小規模の集団感染が近所の遊び友達
の間で発生することがある※3。
[文献]
ここで、CDCの週報からマイコプラズマ肺炎のアウトブレイクの報告を2件
※1)
CDC. Outbreaks of Mycoplasma pneumoniae
Respiratory Infection -- Ohio, Texas, and New York,
1993.
http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/
00022322.htm
※2)
CDC. Mycoplasma pneumoniae.
http://www.cdc.gov/ncidod/dbmd/diseaseinfo/
mycoplasmapneum_t.htm
※3)
CDC. Outbreak of community-acquired
pneumonia caused by Mycoplasma pneumoniae --Colorado, 2000.
http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/
mm5012a4.htm
紹介する。このような大規模なアウトブレイクが発生しうることを理解しておか
なければならない。
※3
アウトブレイクの報告(2000年)
2000年5月18日、コロラド州のモファット地区(人口12,700人)の家庭医か
ら保健所に市中肺炎が数ヶ月で50例以上も発生したとの連絡が入った。そのた
め、州の保健所とCDCが調査したところ、マイコプラズマ・ニューモニアが原因
であると推測された。
結局、1∼7月に109人が胸部レントゲンで肺炎と診断されていた(1999年
1∼6月は21人であった)。アウトブレイクの症例定義を「2000年1∼7月に発
症した2∼49歳で胸部レントゲンにて肺炎に一致する急性浸潤影がみられる
人」としたところ、91人が症例定義に一致した。64人(70%)が4∼7月に発症
している(図)。年齢中央値は11歳であり、59人(65%)は5∼14歳、52人
(57%)は男性であった。77人(85%)の診療記録がレビューされ、症状は咳
(77人(10%))、発熱(72人(94%))、喀痰(44人(57%))であった。異常な
呼吸音が54人(70%)に確認され、3人(3%)が入院となった。
図. 市中肺炎の症例数、2000年1月∼7月
14
12
10
症例数
8
6
4
2
0
2
9
16 23 30
1月
6
13 20 27
5
2月
12 19 26 2
9
3月
16 23 30
4月
7
14 21 28
5月
4
11 18 25
6月
2
9
16 23
7月
発症した週
アウトブレイクの報告(1993年)※1
1993年6∼11月にオハイオ州、テキサス州、ニューヨーク州の施設で3件
のアウトブレイクが発生した。
[1]6月15日∼9月5日、オハイオ州の成人発達障害の保護作業所のスタッフ
および障害者403人のなかの47人(12%)に咳と発熱がみられた。年齢
中央値は35歳(20∼60歳)であり、7人(15%)が入院を必要とした。31
www.medicon.co.jp
人(66%)にレントゲンにて肺炎が確認された。
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[2]8月1日∼11月14日、南テキサス州の4500人の職員のいる三次医療セ
ンターにおいて215人の職員に急性呼吸器疾患がみられた。頭痛、悪寒、
厳しい筋肉痛にて急に発症し、その後発熱と咳がみられた。年齢中央値
は32歳(19∼70歳)であった。43人(20%)にレントゲンで肺炎像がみ
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バックナンバーを、公開しています。
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られ、5人が入院した。
[3]8月1日∼10月26日、ニューヨーク北部の滞在型発達センターの自閉症
プログラムの職員および患者189人のなかの48人(25%)に急性呼吸
こちらも公開しています。
AJIC
器疾患や急性中耳炎がみられた。年齢中央値は33歳(12∼61歳)であっ
APICのオフィシャル
ジャーナル
た。3人(6%)が入院し、11人(23%)がレントゲンで肺炎像がみられた。
CDCガイドライン
・カテーテル関連尿路感染予防2009
・血管内留置カテーテル由来感染予防2011
2人(4%)に水疱性鼓膜炎がみられた。
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