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東京・小さな博物館めぐり⑤
軟式野球資料室
東京には,規模は小さいけれどもユニークな展示を行っている
博物館,記念館などがあちこちにあります。散歩の途中に立ち
寄ってみると思わぬ発見があるかも知れません
だれでも一度はボールを握って野球をしたことがあると思いますが,最初に握ったボールは軟らかい
ゴムボール,少し大きくなってからは軟球だったのではないでしょうか。プロ野球や,高校野球で使う
硬球は,コルクの芯を糸で巻いて,その上に牛皮を縫い合わせたものですが,かつては非常に高価でし
た。それに対し,軟球は厚いゴムのボールで,比較的安価で,しかもぶつけられても比較的安全でした。
この軟球,軟式野球ボールは日本の発明品です。国民スポーツといわれるぐらいに野球が普及した背
景には,この軟球の存在が大きかったのではないかと思います。小学校,中学校では現在も軟球を使っ
ていますし,もちろん草野球は軟球を使っています。ただし,少年野球でもリトルリーグでは,軟球で
はなく準硬式といわれるボールを使っています。
この夏,ちょっとした話題となったのが,東京タワーから支柱から野球ボール
が発見されたというニュースでした。地上 300 メートルのアンテナ部分のつけか
えの際,発見されたもので,タワーの建設工事に携わった職人さんが記念に入れ
ておいたのではないかなど,さまざまな想像を掻き立ててくれました。もちろん
この野球ボールは,軟球でした。昭和 33 年の東京タワー設置以来,一度も開け
られたことのないところに眠っていたボールは,かなり劣化はしていたものの,
ボールの形状は保っていました。
http://jin115.com/archives
東京タワーと野球ボール,どちらもまさに昭和を象徴するように思えます。
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今回は東京,鐘ヶ淵にある軟式野球資料室を訪ねました。資料室は軟式野球ボールをはじめ,各種の
スポーツ用ボールの代表的メーカー,ナガセケンコー本社内にあります。軟球に関しては,同社のブラ
ンド名「ケンコーボール」の名称でよく知られています。
軟式野球資料室は,元全日本軟式野球連盟理事長・船津國夫氏が、戦前・戦後を通じて収集された資
料を広く軟式野球を愛する方々に公開するという目的で、ナガセケンコー㈱が氏から寄贈を受け、保存
展示しています。
船津氏から寄贈された資料には,軟式野球にかかわる様々の大会の記念品,メダル,バックル,ペナ
ントなどがあります。関係者にとっては懐かしい資料です。また,こうした資料を見ることによって,
軟式野球の歴史をうかがい知ることができます。また,船津氏は,東京オリンピック選手村副村長,札
幌冬季オリンピック選手村村長を勤めた方であり,その関係の資料も展示されており,ここには昭和の
スポーツ史の資料が詰まっています。
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私たちが,特に興味を覚えたのは野球ボールの歴史です。日本に野球が入ってきたのは明治 6 年(1873
年)といわれています。1877 年には早くも日本人による社会人野球クラブができています。文明開化
とともに,スポーツという新しい世界をもたらしてくれた,といってもいいでしょう。
その後,大学生を中心として野球はひろがっていきましたが,こういうゲームの常,子どもたちがそ
の真似ごとをするようになりました。もちろん本格的な硬式野球ボールなど手に入るはずもありません
から,おもちゃのボールを素手で打ったり,木を自分で削って使った自家製バットを使っていました。
三角ベースなどの簡単に遊べるルールもこのころすでにできていたようです。このころから,スポンジ
ボールも使われるようになったのですが,なにしろボールの耐久性がなく,しかもイレギュラーするな
どかから,簡単に使えるゴム製少年野球ボールの研究が始まりました。大正 8 年(1919 年)には,京
都の小学校の先生たちと文具商の鈴鹿 栄氏によって少年野球用ゴムボールが完成しました。このヒン
トとなったのは,自転車のゴム製べダルだったそうです。
その後,ゴム製野球ボールは急速に普及,昭和 3 年には軟式野球の名称が正式に決定しました。その
ころ,軟式野球のボールメーカーは全国で 200 を越えたといいますから,その人気のほどがうかがえま
す。それぞれのメーカーが大会を主催し,人気に一層拍車をかけたようです。
軟式野球資料室には,そこまでの古いボールはありませんが,ナガセケンコーの前身,長瀬ゴム製作
所の歴史とともに,各種の軟式ボールが展示されています。
菊型ボール
ナガセの軟式野球ボール
レプリカ
多くのメーカーが作っていた軟式ボールは,その後,菊型ボールに統一されます。戦後もしばらく
は使われていましたので,覚えている人もいるかもしれません,
その後,ボールは,硬式野球ボールの縫い目を模した模様とゴルフボールのようなディンプルが施さ
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れた現在のような形となりました。これは,長瀬ゴム製作所の研究開発した意匠でしたディンプルのサ
イズ,縫い目の模様は,その後も,何度か改良され,現在のボールは,ディンプルではなく小円三角形
を組み合わせたデザインに変わっています。なお,これらのボールは,いずれも全日本軟式野球連盟の
公認球となっています。
また,ここではボールの製造法も詳しく紹介されています。簡単に紹介しておきましょう。
原料 天然ゴム,それに添加材としてシリカ,炭酸マグネシウム,加硫剤としての硫黄などが用いら
れ,これらを練り込んだものをドーム型に押し出します。この部分は内貼りと呼ばれます。これを型に
載せてかたちを整えます。
その上に,ドーム型のゴム 2 つで内貼りをつつみはみ出した部分を切り落とし,ボールのかたちにし
ます。できたボールを金型にいれ加熱。ゴムの中には発泡剤が入れてあり,加熱によって膨らみ表面に
凹凸が付いた軟式ボールになります。そのあと,仕上げ,検査を経て出荷されるわけです。
内貼りをゴムでつつむ
加硫前のゴムボールと内貼り
突然の訪問にもかかわらず,ナガセケンコー㈱ 総務部の野田
礼子さんが丁寧に説明してくださいました。
ナガセケンコーは,長瀬ゴム製作所時代から,ここ鐘ヶ淵で軟
式野球ボールを製造してきました。現在,工場は別の場所に移っ
ていますが,この地,墨東地区は,中小のゴム工場,プラスチッ
ク工場の多いところでした。まだあたりには何軒か,ゴム工場な
ど中小の町工場が残っています。見学後,町をブラつきますと,
昭和の匂いが漂っているような気がします。軟式野球,町工場,
昭和を味わう散歩が楽しめました。
『軟式野球資料室』
東 京 都 墨 田 区 墨 田 2 −3 6 −1 0
ナガセケンコー株式会社内
TEL : 03-3614-3501
東武伊勢崎線鐘ヶ淵駅から徒歩6分
開館時間:午前10時〜午後4時
休館日:日曜、第二・四土曜、
祝日、年末年始
入館料金:無料
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加硫後のゴムボール