スウェーデン・カルマル市 (環境政策推進による持続可能な地域づくりについて) 1.視察日程等 (1)期 日 平成 22 年 10 月 4 日(月) (2)場 所 カルマル市役所、インスペクトレン集合住宅地 (3)対応者 ボー・リンドホルム環境調整担当官 カルマルヘム社 (4)通 訳 住宅担当マリア氏 純子・ステイアーさん 2.カルマル市の概要 スウェーデン南東部に位置し、人口 6 万 2 千人の地方都市。森と湖に囲まれたスモ ーランド地方の中心都市であり、スウェー デンでは中規模の自治体である。スウェー デンの中でも日照時間が長く、世界自然遺 産に指定されたエーランド島と全長約7キ ロの橋で結ばれていることや、カルマル城 という中世に建造された美しい城のほか、 古い砦や町並みもよく保存されているため 観光地としても有名であり、年間 300 万人 の観光客が訪れている。 また、環境先進国として評価されるスウ ェーデンの中で最初に ISO14001 の認証を 取得した環境都市としても名高く、1992 年 にリオデジャネイロで開かれた「環境と開 発に関する国連会議」で採択された環境行 動計画「アジェンダ 21」に積極的に取り組 むことで、持続可能な環境共生都市として世界的な評価を受けている。その環境戦略 は、民間企業との共同による水質浄化や廃棄物を利用した地域暖房、幼児期から社会 に出るまでの各段階における徹底した環境教育の実施など先進的な取り組みが、市長 直属のポストとして置いている環境調整担当官のコーディネートのもと行われている。 また、行政、産業界、大学、そして市民の間で協力体制を築いており、環境に関す る共同研究の成果やノウハウを、東ヨーロッパをはじめとする多くの国々の行政機関 や民間企業に輸出している。 3.研修内容 ポイント① 【環境先進都市カルマルの成功の秘訣について】 明確な目標の設定 環境政策を進めるうえで、国が総合的な 目標を明確に掲げ、市民の意識に火をつけ ている。それは、国内の主要な環境問題を 現世代のうちに解決して、次世代に受け渡 すという総合的な目標を明確にすることで、 経済的に、または産業的に、地域で取り組 んでいるものに関して支援の面からも大き な力となっている。持続可能な発展の基本 原則は、生態学的、社会科学的、経済的な ボー・リンドホルム環境調整担当官 持続性を統合すること、何よりも美しい言葉で目標を掲げるのではなく、実際に実行 に移すこと、これが重要。 カルマル市では、今後法的な規制だけにとどまらず、エネルギー使用や二酸化炭素 排出にかかる税金、ペレット導入への助成金、電力取引の規制緩和など経済的な誘因 と併わせ、さらに木質ペレットの普及を進めていく予定で、将来は、石炭、石油など の化石燃料から 100%脱却することを目指している。 ポイント② 市民の意識づくり 持続可能な社会を築くには、教育が必要 である。地球環境問題の解決に取り組む意 識づくりには環境教育が重要な役割を果た している。就学前環境教育にも取り組んで おり、大人たちではなく、小さな子供たち に〝環境の大切さ〟が浸透している。人生 の若いころから持続可能な社会のライフス タイルを学ぶということはとても大切なこ レクチャーを受ける様子 とで、カルマルでは、幼稚園児、保育園児、 小学校、高等学校、大学に環境に配慮した教育の場を提供している。社会人も環境に 適した建物で仕事をするなど、そのような認識を持たせるにはすぐれた町である。 カルマルですぐれているというのは、市民は子供から大人まで、上に立っている者 たち、指導に当たる人たちの縦割りの社会ではなく、横断的に、区切りのない、境の ない形で認識が浸透しているという点である。 ポイント③ パイロット事業 12 のファミリーがパイロット(モニター)となって、環境や気候に応じた生活を実 践してもらうことにより改善を志向する生活者へと変化させ、それらが先鞭となって 他の者を誘導させていく。最初から難しい事柄に取り組むのではなく、必ず成功する 易しい事柄に取り組む方が良い結果へとつながっていく。小さな成功例を増やしてい くことが、大きな事柄に取り組んで失敗するよりも重要である。取り組むことが楽し くなることも重要な要素である。 ポイント④ 市民との協働 畑の肥料や、空港で使う不凍剤などが川 に流れ込み、漁獲量の減尐やアオコ(植物) が浮遊するエリアが拡大するなどバルト海 の水質汚染が問題化してきたことから、ス ウェーデン航空局、カルマル航空局、カル マル市の三者で、水質浄化の為に資金を出 し合い、広大な人工池や湿地帯を作り、川 の水の浄化を始めた。水は、ここを1週間 かけゆっくり流れ、チッソ等は生物分解さ 浄化された美しい川 れ、年間、約 50 万tのチッソを 1/3 に減らすことに成功した。 さらに、ソフト面では 15 の市民団体と専門家、環境省とが連携し、海岸線に繁茂し た葦の除去や貝の養殖など水質浄化への取り組みも展開している。step by step。ひ とつ問題をクリアしたら、次の問題に取りかかることが最初のステップをやさしくす ることが重要である。 【施設見学】 カルマルヘム社(インスペクトレン住宅地再開発プロジェクト) インスペクトレン住宅地再開発プロジェクトは、住宅地を現地の環境保護法や環境 政策に合わせて改築し、環境共生住宅として蘇らせようという試みである。スウェー デンでは、戦後の人口増加に伴う目先の住宅不足を解決するために、当時多くの住宅 が建築されており、現在その住宅が改修の時期に来ている。 プロジェクトでは、環境に優しい材料による改造に重点をおき、改築のために使わ れた建材や設備がどれくらい環境に配慮しているかを計測し、リフォームの方法にど れだけ環境配慮を盛り込むかで 3 つの選択肢を設定し、居住者が自由に選べるように した。環境に配慮した最先端の技術を導入して改築する部屋(家賃約 61,500 円)、中 規模の改築をする部屋(家賃約 52,000 円)、最低限の改築しかしない部屋(家賃約 44,000 円)の 3 種類である。最先端の技術を導入して改築する部屋ではソーラーシス テムを設置した熱電併給や雨水利用などが導入されるのに対し、最低限の改築しかし ない部屋では内装リフォームを行うだけである。 ここでは、実際に最先端の改築を希望した居住者の家の中や、居住者がゴミを分別 するリサイクルハウスを見学した。 ●室温管理装置 電気と水の使用量を把握するための管理 装置が全戸に設置されている。この装置に より、居住者のエネルギー消費量と水の使 用量を把握することができ、ダイヤル一つ で室温を自由に設定できる。 カルマル市では、全世帯の 80%が地域暖 房パイプラインにつながっており、このモ ニターで室温を測定し、標準温度 21℃より も低い温度で過ごした場合は節約分の光熱 費が家賃から差し引かれ、逆に 21℃より高 い温度で過ごした場合は超過分を家賃に上乗せするという方式がとられている。また、 家賃の中には一定の水の使用量が含まれている。使いすぎると家賃が高くなるし、使 わないと払い戻しになる。水の使用量に関しては、改築前に比べて 15%削減されてい る。環境に配慮することにより居住者にメリットを生み出すことができる。 ●雨水収集システム 雨水は、雨水収集システムによりタンクに溜めた後、ポンプで敷地内の家庭菜園や 花壇に送り、散水に利用している。タンクに入りきらない雨水は、アパートの敷地内 で土壌中に浸透させている。 雨水を貯蓄するタンク 敷地内に水が流れ込むよう段差になっている ●リサイクルハウス 敷地内には分別したゴミを収集するリサイクルハ ウスが備え付けられている。通常は鍵がかかっており、 居住者以外は入ることができない。カルマル市では、 ゴミは 13 種類に分類しなければならないが、リサイ クルハウスでは下記の①~⑨を捨てることができる。 ⑩~⑬は回収業者に依頼する。 ① 家庭廃棄物 ② 新聞 ③ 包装紙 ④ 缶 ⑤ 固いプラスチック ⑥ 柔らかいプラスチック ⑦ 無色のガラス瓶 ⑧ 着色したガラス瓶 ⑨ 電池 ⑩ 電子機器廃棄物 ⑪ 粗大ゴミ ⑫ 有害廃棄物 ⑬ 金属類 【質疑応答】 Q1:車の排気ガスを減らすために、中心市街地にあった商店を郊外の大型店舗に移し、 徒歩・自転車・バスなどで移動させるという取り組みをされていますが、日本では郊外に 大型店舗ができることで中心市街地が空洞化するという問題が多くの自治体で起きていま す。既存の商店から反対があったと思いますが、どのように対応されたのですか? A:環境問題は市民と協同することが大切です。住民からの意見ということで、反対 意見を抑えることができます。また、確かにお客は 25%ほど減ったのですが、計画的 に買い物をする人(まとめ買いをする人)が増え、売り上げ的には中心地にあった頃 よりも 20%ほど伸びているという結果が出ており、経済的にも成功しています。 Q2:水質浄化の協働作業について、どのように市は関わりましたか? A:市の関わりは、セミナーを開くなどのコーディネート役です。市から補助金など は出しておらず、EUからの補助金を活用しました。 Q3:日本では、モニターを探すのに苦労する場合があります。パイロット事業のモニ ターに対する経済的な支援などはあるのですか? A:特に支援はありません。強いて言えば、モニターになることで自分を色々な方か ら見てもらえることがメリットだと思います。 Q4:パイロット事業で、食べ物が一番CO2 を排出しているという説明がありました が、どうしてですか? A:生産過程・包装・輸送などで多くのCO2 が排出されます。 Q5:カルマル市は、環境都市であるとともに観光都市でもあります。市民へは就学前 の教育など、環境に対する周知が浸透していると思いますが、外部から来る観光客へ の周知はどうなされていますか? A:環境政策で整備されたインフラ(輸送、暖房など)は、自然と観光客も使います。 また、環境に興味がある方が観光に訪れられることが多いため、自然に浸透していま す。 Q6:インスペクトレン集合住宅を所有・管理しているカルマルヘム社は公営ですか、 それとも民営ですか? A:カルマルヘム住宅会社は、市が株式を 100%所有している公営の株式会社で、カル マル市にある賃貸住宅の 50%(約 5,000 戸)を所有しています。市から助成金を受け たり、特権を持っていることはありません。 Q7:住宅の居住者数はどれくらいですか? A:現在は 160 世帯が入居しています。居住者の年齢層は、25 歳から 30 歳までの比 較的若い世代と、60 歳以上の高齢者に二極化しており、インスペクトレン集合住宅は、 安心して生活できる地域にあるため、一人暮らしの女性が居住者の半数を占めていま す。 Q8:居住者はどの程度の改築レベルを求められましたか? A:全 160 戸のうち、小規模改築 155 戸、中規模改築 0 戸、大規模改築 5 戸を選択さ れました。小規模改築に集中したのは、改築レベルを上げると家賃が高くなるためだ と考えられます。また、改築レベルを上げた部屋は、室内に植物を置いて光合成作用 で室内の空気を浄化するため、植物の手入れが好きな人や、新しい環境技術に関心の ある人でないと部屋を維持することが難しいことが原因だと分析しています。 Q9:住宅の改築の内容はどのようなものですか? A:全ての部屋で、上・下水道管と電気配線を取り替えています。また、スウェーデ ンでは賃貸住宅には全て家具・電化製品が備え付けてあり、改築レベルが上がると環 境に配慮した電化製品が取り付けられています。 感想 次々と紹介されるカルマル市の先進的な事例と日本の現状との間にあまりの格差を 感じ、気恥ずかしくなった。ローカルアジェンダ 21 についてレクチャーを受けたが、経 済的な効果を高める環境施策こそ成功の秘訣なのだと感じた。 カルマル市では木材チップを使ったバイオマス発電をはじめ、風力発電設備、環境 共生住宅、水質浄化設備、無漂白パルプ工場などを手がけており、その多くが経済的 にも成功している。このような施策を実施する上では、長期的かつ段階的な計画を立 て、コストと環境負荷を勘案しながら対策を立てているそうだ。長い年月をかけて、 市の環境担当がたった一人だった時から、市民の環境意識を高め、産業界と協力しな がら歩んできたリンドホルム氏のレクチャーは重みがあり、その使命感、責任感に敬 服する。環境活動を成功させる秘訣は、持続可能な発展について取り組む人々の間で、 十分な時間と議論を重ねることにより厚い信頼感があること、そして、やさしいこと から取り組み成功体験を積み上げることだと言われ、これらがベースとなって、環境 対策のプロジェクトが飛躍的に推進されてきたのだと実感した。 最後に、「カルマル市は 20 年以上かけて、環境先進都市となった。日本の自治体でも 小さな成功を尐しずつ積み上げて頑張って」とエールを送っていただき、尐しでもカ ルマル市に近づけるよう、市民との協働を基軸に、着実に歩を進めていこうと意を強く した。
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