軍縮・不拡散をめぐる最近の動向(4) 文献紹介:Paul Meyer, “Breakthrough and Breakdown at the Conference on Disarmament: Assessing the Prospect for an FM(C)T,” Arms Control Today, vol. 39, no. 7 (September 2009). (「ジュネーブ軍縮会議における打開と頓挫――カットオフ条約に向けた見通しの評価」 ) 軍縮・不拡散促進センター客員研究員 齋藤智之 i 本論文においてマイヤー(Paul Meyer) は、今年 5 月、ジュネーブ軍縮会議(CD)において、 兵器用核分裂性物 質生産禁止条約(カット オフ条約)の交渉を行う 決定を含む作業計画 (CD/1864)がようやく採択された要因を分析し、①作業計画の中に、各地域グループが優先す る他の主要問題(核軍縮、宇宙空間における軍備競争の防止(PAROS)、消極的安全保証(NSA)) 3 点が含まれていること、および②ブッシュ米政権が拒否してきたシャノンマンデート(国際的 かつ効果的な検証を要する)をオバマ新政権が再び支持する方向へと政策転換したことを指摘し ている。さらに、③オバマ大統領誕生に伴い、多国間軍備管理に向けた外交的雰囲気全体が改善 したこと、④2010 年核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議の開催が足早に迫りくる中、多国 間不拡散・軍縮の努力の面で目新しい弾みが必要という思惑が NPT 締約国間に広がったことも、 この採択に与したと述懐している。 だが、採択当初の期待とは裏腹に、カットオフ条約の交渉はその後行き詰まりをみせる。この 点について、マイヤーは作業計画の採択は必要条件ではあったが、十分条件ではなかったとした 上で、膠着状態の原因を手続、実質の両面から解き明かしている。手続面では、まず、CD がコ ンセンサスルールを厳格に適用する限界を指摘しつつ、パキスタン、イラン、中国を中心に、主 要問題 4 点の平等な取り扱い、各作業部会議長の選出・任期、作業日程の時間配分などの諸点を めぐって、コンセンサスが成立しない状況を描写している。また、CD では作業計画を毎年見直 さなければならないという手続規則上の問題点にも触れ、時間稼ぎのために「さらなる検討、協 議」 「本国からの請訓待ち」といった文言を用いる外交戦術を『ゴドーを待ちながら』の外交版 として酷評している。 実質面の争点としては、マイヤーはカットオフ条約の適用範囲(スコープ)の問題をまず取り 上げている。すなわち、核物質の既存のストックを条約の対象として含めるべきか、あるいは今 後生産される核物質だけに限定すべきかという議論であり、この問題に対するインド(既存のス トックを含めることには反対) 、パキスタン(民生用原子力協力に関する米印合意を暗に批判) 、 イラン(既存のストックを含めることに賛成)の立場をそれぞれ解説している。また、検証のあ り方について、 「国際的かつ効果的に検証可能な条約」の実質的な意味が定義されておらず、条 約の適用範囲も確定していない現段階で、検証枠組みの作成に過多の時間を費やすのは効率的で ないと警鐘を鳴らしている。 最後に、マイヤーは CD における交渉の引き延ばしを目論み、コンセンサスを阻止しているパ キスタン、中国、イランの背景的な動機を評価するとともに、こうした事態を打開すべく各国が 講じ得る方策として、①カットオフ条約支持派の国々が世間の関心を集め、CD 加盟国に政治的 圧力をかけ続ける、②CD の停滞に対する加盟国の半ば限りない許容力を見直す、③NPT の下で 交渉を開始する、④核兵器国のいずれかがカットオフ条約に特化した外交会議を開催することを 提言している。 ※本論文にご関心のある方は、以下の URL にある原文をご参照ください。 http://www.armscontrol.org/act/2009_09/Meyer i カナダ外務・国際貿易省安全保障・インテリジェンス局長。2003 年~07 年、軍縮会議政府代表部大使を歴任。
© Copyright 2024 Paperzz