研究実施終了報告書(PDF:1797KB)

(様式・終了-1)
公開資料
社会技術研究開発事業・公募型プログラム
研究領域「脳科学と教育」
研究課題「非言語的母子間コミュニケーションの
非侵襲的解析」
研究実施終了報告書
研究期間
平成16年12月~平成19年11月
研究代表者氏名 篠原一之
(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
・神経機能学、教授)
研究テーマ …………………………………………………………………………… 4
研究実施の概要 ……………………………………………………………………… 4
研究開発目標
研究開発項目(サブテーマ)毎の実施内容と主な成果
母・胎児の行動学的・生理学的変数測定による、客観的情動評価法の確立
母・乳児の行動学的・生理学的変数測定による、客観的情動評価法の確立
乳幼児の表情を指標にした情動表出の評価法の開発
乳幼児の泣き声を指標にした情動表出の評価法の開発
母親が乳児の情動を認知する際の脳内機構の研究
視覚因子と脳機能
嗅覚因子と脳機能
母子間コミュニケーションに関与する感覚情報の同定とそれを用いたバーチャル母子
間コミュニケーション法の作成
嗅覚
生後5日齢の新生児の痛みストレスに及ぼす母乳の匂いの影響
産褥期の母親の情動に及ぼす新生児の匂いの影響
視覚
聴覚:マザリーズの子に及ぼす影響と音響学的特徴解析
母子多元的情動・関係評価システムの作成、それを用いた母・乳児精神疾患罹患者評
価の開始
母子情動評価システムの作成
表情
泣き声
母子関係評価システムの作成
母子情動評価システムを用いた母・乳児精神疾患罹患者の評価の開始
研究構想 ………………………………………………………………………………… 8
【サブグループ制について】
【目標と3年間の研究計画】
母・胎児の行動学的・生理学的変数測定による、客観的情動評価法の確立
母・乳児の行動学的・生理学的変数測定による、客観的情動評価法の確立と乳幼児の
表情を指標にした情動表出の評価法の開発
母子間コミュニケーションに関与する感覚情報の同定、感覚情報を用いたバーチャル
母子間コミュニケーション法の開発、およびその臨床応用
母子多元的情動・関係評価システムの作成、それを用いた母・乳児精神疾患罹患者評
価の開始
アウトリーチ活動:親子の気持ちを伝え合う会設立、母性教育プログラムの作成
その後の展開から生まれた新たな研究:母親が乳児の情動を認知する際の脳内機構の
研究
研究成果 ……………………………………………………………………………… 11
母・胎児の行動学的・生理学的変数測定による、客観的情動評価法の確立
母・乳児の行動学的・生理学的変数測定による、客観的情動評価法の確立
乳幼児の表情を指標にした情動表出の評価法の開発
乳幼児の泣き声を指標にした情動表出の評価法の開発
高周波成分の検討
母親が乳児の情動を認知する際の脳内機構の研究
視覚因子と脳機能
嗅覚因子と脳機能
母子間コミュニケーションに関与する感覚情報の同定とそれを用いたバーチャル母子
間コミュニケーション法の作成
嗅覚
2
【190401】
生後5日齢の新生児の痛みストレスに及ぼす母乳の匂いの影響
産褥期の母親の情動に及ぼす新生児の匂いの影響
視覚
聴覚:マザリーズの子に及ぼす影響と音響学的特徴解析
母子多元的情動・関係評価システムの作成、それを用いた母・乳児精神疾患罹患者評
価の開始
母子情動評価システムの作成
表情-乳幼児の表情自動識別技術
泣き声-乳児の泣き声に含まれる情動の機械認識
母子関係評価システムの作成
母子情動評価システムを用いた母・乳児精神疾患罹患者の評価の開始
研究実施体制 ………………………………………………………………………… 52
(1)体制
(2)メンバー表
(3)召喚した研究者等
成果の発信やアウトリーチ活動など ……………………………………………… 56
(1)ワークショップ等
(2)論文発表
(3)口頭発表
(4)新聞報道・投稿、受賞等
(5)特許出願
(6)その他特記事項
結び
…………………………………………………………………………………… 66
3
【190401】
1.研究テーマ
(1)研究領域
(2)研究総括
(3)研究代表者
(4)研究課題名
(5)研究期間
:脳科学と教育
:小泉 英明
:篠原 一之
:非言語的母子間コミュニケーションの非侵襲的解析
:平成16年12月~平成19年11月
2.研究実施の概要
①研究開発目標
現代の社会的問題になっている、子どものいじめ、自殺、暴力等の原因の一つとして、
「最近の子どもが、情動表出や情動認知が不得手になっている」可能性が考えられる。
その背景には、子どもが言葉を介さぬ(非言語的)コミュニケーション法をうまく獲得で
きていない可能性が考えられる。非言語的コミュニケーション法は言葉をうまく使えな
い乳幼児期に発達するので、乳幼児虐待に反映される現代の母子間コミュニケーション
の問題がその要因になっていることが予想される。一方、育児は女性に生まれつき備わ
った本能ではなく、学習することによって得られるので、現代社会における、核家族化、
地域社会の崩壊、少子化による育児学習機会の減少によって、非言語的母子間コミュニ
ケーションの問題がもたらされていると考えられる。そこで、まず、胎児期から乳幼児
期にわたる母・子の情動および母・子の関係性の客観的評価法を開発し、母子間コミュ
ニケーションに関与する感覚情報を同定し、母子多元的情動・関係評価システム開発を
目指して研究を行うこととした。研究は、医学、心理学、保育学、教育学、情報工学を
網羅した環学的体制で行う。本プロジェクトで得られた研究成果はJSTより譲渡を受け、
長崎大学知的財産本部が権利化し、企業への技術移転を試み、広く社会還元することを
目指した。
② 研究開発項目(サブテーマ)毎の実施内容と主な成果
1.母・胎児の行動学的・生理学的変数測定による、客観的情動評価法の確立
妊婦(妊娠 28 週~36 週が日常生活の中で経験する情動の変化が、胎児の行動にどのよう
な影響を与えるのかを調べた。妊婦の情動(喜び、悲しみ)の誘発はビデオ視聴法によった。
超音波検査装置を用いて、①ビデオ視聴前、②ビデオ視聴中、③ビデオ視聴後の各 5 分間
における胎児の動き(腕、足、体幹が 5 分間に動いた回数および 5 分間のうち動いていた持
続時間)を計測した。
「喜び」の情動については「腕」の動きの回数のみが部位特異的に増加
し、
「悲しみ」の情動については「腕」、
「足」
、
「体幹」各部位にわたり、動きの回数や持続時
間が減少していた。以上の結果より、妊婦の情動は胎児の行動に影響を及ぼすことが示唆さ
れた。また、従来、胎児の動きは胎動として個々の部位の動きを計測していなかった。今回、
部位毎に胎児の動きを調べたために、
「腕」の動きが妊婦の情動の影響を受けやすいことが明
らかになり、妊婦の情動に対する胎児の反応性を知る際に鋭敏な指標となることが示唆され
た(特願 2006-273440)
。この技術は、例えば、胎教音楽、妊娠期の母親準備教育、妊婦の衣
食住等の評価法に応用可能である。
2.母・乳児の行動学的・生理学的変数測定による、客観的情動評価法の確立
1) 乳幼児の表情を指標にした情動表出の評価法の開発
表情による情動表出を客観的に評価する方法を開発するために、4 ヶ月~12 ヶ月齢の乳児
を対象として、情動(喜び、悲しみ、怒り、恐れ、驚き)が喚起された際の表情画像のデー
タベースを作成し、乳児の表情表出の特徴を各顔部位間の距離を測定することで解析した。
具体的には、乳児の顔に、13 箇所の特徴点を設定し、それらの特徴点の座標データを基に、
表情表出パターンの違いを敏感に反映するとされる諸変数を計算した。
その結果、13 箇所の特徴点の座標をもとに設定された変数によって、表情の識別が可能で
あることが分かった。しかし、情動の検出に用いることが出来る変数は、4 ヶ月児と 10 ヶ月
児では異なることが確認された(PCT/JP2006/320894)
。
4
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本研究で得られたこれらの知見は、将来の乳児の表情自動識別技術開発の基礎データとな
るものである。将来的に、この技術を応用して、表情表出の巧拙を客観的に判定できるよう
になれば、自閉症児の表情表出パターンを同定できる可能性がある。
2)乳幼児の泣き声を指標にした情動表出の評価法の開発
泣き声の音響的特徴から、乳児の情動・状態を客観的に評価する方法を開発するために、10
~13 ヶ月の乳児(n=10)を対象に、母親に泣き声の録音と推定される原因(「悲しみ」、「怒
り」、
「眠い」
、
「甘え」、
「恐れ」、
「驚き」、
「不快」
、
「空腹」、
「眠い」、
「甘え」、
「排泄」
」の記録
を依頼した。泣き声は、40-15kHz までの周波数においてパワースペクトル解析を行った。そ
の結果、0-1 kHz では、
「怒り」が、
「悲しみ」
、
「眠い」、
「甘え」より有意に弱かった。3-4kHz
では、「眠い」が、「悲しみ」、
「怒り」
、「甘え」より有意に弱かった。
以上のことから、乳児は泣き声においても情動ごとに特異的な特徴を有していることが示
唆され、泣き声翻訳プログラムの作成に着手した。
3.母親が乳児の情動を認知する際の脳内機構の研究
1) 視覚因子と脳機能
母親が乳児の顔画像から情動を認知している時の、前頭前野の活動を調べた。
乳児表情識別課題では、母親でのみ特異的に前頭前野の活動が増加し、未経産婦や男
性では変化しなかった。また、この前頭前野活動の増加には左右差が見られ、右半球で
顕著であった。さらに、この右前頭前野の活性増加は、成人の表情識別課題では認めら
れなかった。一方、乳児表情識別の正答率、反応時間、回数は3群間で有意差は見られな
かった。以上の結果から、乳児の表情識別を正確に行うことには、右前頭前野の活性増
加は不必要であることがわかる。従って、母親は乳児の表情から情動を識別する際に、
正確さ以外の何らかの脳機能が賦活されていることが示唆される。前頭前野は扁桃体と
の線維連絡が豊富なので、母親は乳児の表情識別時に強い情動を感じている可能性が考
えられた。
以上のことから、視覚的母子コミュニケーションにおいて、右前頭前野が母親の母親
らしさをもたらすともいえる。このことは、乳児虐待等を行う母親の客観的診断法とし
て応用が考えられる。また、右前頭前野の活性を高めるプログラムを作成できれば、視
覚的母子コミュニケーションに問題のある母親の母親力のトレーニング法として活用で
きる可能性もある。
2) 嗅覚因子と脳機能
新生児の匂いが母親の前頭前野の活動にどのような影響を及ぼすかを、NIRSを用いて
調べた。成人男性および女性の匂い、新生児の匂いを識別する課題を行い、前頭前野の
活動を測定した結果、新生児の匂い課題では、母親のみに前頭前野活性の増加が見られ、
男性や未経産女性では見られなかった。また、この前頭前野活性増加は右のみに見られ
た。一方、それぞれの匂い識別課題の正答率は、3群間で有意な違いは見られなかった。
以上の結果から、乳児の匂い識別を正確に行うことそれ自体には、乳児の表情識別と同
様、右前頭前野の活性化は必要でないことがわかる。従って、母親は乳児の匂い識別を
する際にも、強い情動を感じている可能性が考えられる。
以上のことから、嗅覚的母子コミュニケーションにおいても母親の母親らしさをもた
らすのは、右前頭前野であるようである。今後、聴覚的因子についても検討が必要だが、
もし、同様な実験結果が得られれば、母親が育児する上で右前頭前野の活性化が重要で
あることとなり、右前頭前野の活性化に注目した、母子コミュニケーション障害の診断
法、治療法に応用できる可能性を広げる。
4. 母子間コミュニケーションに関与する感覚情報の同定とそれを用いたバーチャル母子間
コミュニケーション法の作成
1)嗅覚
①生後 5 日齢の新生児の痛みストレスに及ぼす母乳の匂いの影響
新生児の踵採血(ガスリー検査)の前後の行動(泣き声、しかめ面、体動)と唾液中コル
チゾール濃度を指標に、生理食塩水、自分の母親の母乳、他児の母親の母乳、人工乳の匂い
の痛みストレスに及ぼす影響を調べた。その結果、自分の母親の母乳の匂いは、新生児のス
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トレス反応を軽減したが、他児の母親の母乳、人工乳にはストレス反応減少効果は認められ
なかった。また、この母乳の痛みストレス軽減作用は、凍結・融解によって減少しないこと
がわかった(特願 2005-301011)
。以上の結果から、母乳の匂いは新生児の痛みストレスを軽
減するが、それは自分の母親の母乳に限定されていることがわかった。
自分の母親の母乳の匂いによって新生児の痛みストレスが軽減されること、凍結・融解を
行っても効果が減弱しないことから、医療処置を受ける際の痛みストレスを軽減、保育園で
の保育の支援に応用可能であると考えられる。
②産褥期の母親の情動に及ぼす新生児の匂いの影響
産後 4-5 日目の母親を対象に、新生児の匂い(自分の子、他の子)が母親の気分にどのよ
うな影響を及ぼすのかを調べた。その結果、匂いに対する嗜好性の増加、快情動の増加、意
欲の増加、親しみの増加、怒り情動の低下、が、自分の子の匂いに限って見られることがわ
かった。一方、不安、疲労感、混乱の軽減、幸福感の増加、母性の増加は、自分の子に限ら
ず、他の子の匂いでも同様にも認められることが分かった(特願 2005-301012)
。
自分の子に限らず新生児全般の匂いに効果が認められるということは、その効果をもたら
す新生児共通の特定の匂い成分があるということを示唆する。一方、産後の母親の 80%見ら
れるマタニティーブルースの症状が、不安、抑うつ気分を主体としている。不安感の軽減、
幸福感の増加させる効果をもたらす匂い成分を同定できれば、マタニティーブルースの症状
の緩和させる代替療法の開発に発展しうる。
2) 視覚
乳児が表情から相手の情動を識別する際に、アイコンタクトがどのような影響を及ぼして
いるかを調べた。2 種類の視線方向(直視-逸らせた視線)と 2 種類の表情(喜び顔-怒り
顔)を組み合わせて作成した計 4 種類の顔画像に対する注視時間を指標に実験を行った。そ
の結果、視線が乳児の方向を向いている場合は、怒りの表情と喜びの表情を区別できたが、
視線が逸れている場合は二つの表情を区別できなかった。本研究の結果、乳児が他者の表情
を区別するためには、相手が乳児の方に視線を向けていることが必要なことがわかった。
言葉がわからない乳児をしつける際に、表情は“してもいいこと”(喜びの表情)と“しては
いけないこと”悪(怒りの表情)との違いを教えるための重要な手段ある。今回の研究の結果
は、これまで経験的に語られてきた “子どもをしつける時には、まっすぐに眼をみて話すこ
と”が、発達初期の健全な母子間コミュニケーション、ひいては母子間の愛着関係を育む上で
有効である可能性を、科学的に示したものと考えられる。
3) 聴覚:マザリーズの子に及ぼす影響と音響学的特徴解析
マザリーズと呼ばれる子に向けられた音声(Infant-Directed speech; ID)と成人に向け
られた音声(Adult-Directed speech; AD)の音響的差異として報告されている、声のピッ
チ、声の強弱、ゆっくりと話す、という特徴は個人間での変動が大きく、環境などにも
影響されやすい。そこで、IDとADの、これらとは異なる音響的特徴の差異を解明するこ
とを目的とした。まず、多数話者のIDおよびAD音声を収録してそれぞれのデータベース
を作成し、データベース中の音声からピッチの特徴を含まない特徴量抽出法(MFCC)
で特徴を抽出し、話速の情報を含まない統計的モデル化手法(HMM)により、IDおよび
ADのモデルを作成した。ID / AD未知の音声を入力し、IDおよびADのどちらのモデルに
適合しているかを示すスコアを計算し、それらを比較することで、ID/ADを識別する実
験を行い、81%のID / AD識別正解率を得た。これにより、従来報告されていた以外の音
響的特徴の差異が存在することが示唆された。
本研究成果をもとに、音声によって母親のコミュニケーション能力を評価する技術を
開発することによって、母親の精神疾患や、虐待の兆候を見出すことができる。実際、
欝状態の母親の子に対する語り掛けには、マザリーズの特徴が現れないことが報告され
ており、従来は問診によってのみしか診断のできなかった母親の精神疾患に、科学的根
拠に基づく診断技術を導入することができるようになる。
5.母子多元的情動・関係評価システムの作成、それを用いた母・乳児精神疾患罹患者
評価の開始
1)母子情動評価システムの作成:
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①表情:我々の作成した 4~12 ヶ月乳児の表情データベースを用い、乳児の表情自動識別法
を開発した。具体的には、顔画像をグレースケール化した後、固有顔法により顔画像情報を
より少ない次元数におとし、3 種の画像パターン認識アルゴリズム(最小距離法、k 近傍決定
則、SVM)によって、識別できるか否かを検証した。その結果、いずれの月齢においても識
別率は、最小距離法が最も高いという結果になった。
今後、 (i) 月齢ごとに異なる認識アルゴリズムを適用するなど、よりきめ細かな技術的対
応を行うことによって、さらなる認識率向上を図ることが出来る可能性があること、(ii) kNN
や SVM のような識別手法よりも、単純な情報の識別に特化した最小距離法のほうが有効であ
ること、等を念頭において技術開発を行うことによって、より高い精度での乳児の表情自動
識別を実現することが出来ると考えられる。この乳幼児の表情自動識別を応用して、自閉症
をはじめとした各種の発達障害の早期診断を行う可能性が拓けてくる。今後、表情自動識別
技術を応用し、客観的に自閉症スクリーニングを行えるようになれば、自閉症児の早期発見
をより効率的かつ大規模に行い、自閉症児の予後の改善に貢献することが出来ると考える。
②泣き声:乳児の情動・状態の自動的識別装置の開発を行った。
(a)泣き声データベース
の構築:収録した泣き声に対し、母親と保育士による情動・状態(「怒り」、
「甘え」、
「眠い」
、
「空腹」
、
「悲しみ」
、
「恐れ」
「不快」など)の 5 段階評価値を付与した。また、音響的特徴の
違いにより、泣き声を複数の音響セグメントに分割し、ラベルを付与した。(b)情動のクラ
スタリング:母親や保育士による主観評価値を用いたクラスタリング手法を開発した。その
結果、
「怒り」
「甘え」
「眠い」
「空腹」
「悲しみ」が母親や保育士により最もよく感知される情
動・状態で、「甘え」と「眠い」が最も近い情動・状態であり、「空腹」は「甘え・眠い」よ
りも「怒り・悲しみ」に近い情動・状態であった。従って、情動・状態を「甘え・眠い」
、
「怒
り・悲しみ・空腹」の 2 クラスに識別するか、
「甘え・眠い」、
「怒り・悲しみ」
、
「空腹」の 3
クラスに識別すべきであることがわかった。(c)泣き声から情動・状態検出:泣き声の各セ
グメントの統計的音響モデルを作成し、その音響モデルを時間的に接続して、未知の泣き声
とのマッチングを行うことで情動・状態を識別する方法を考案した。セグメント種類ごとに
情動・状態別の音響モデルを構築し、情動・状態毎にセグメントモデルを接続させる。また、
音響モデルは隠れマルコフモデルを用い、識別手法にはヴィタビアルゴリズムを用いた
(PCT/JP2007/054329)
。
本研究では、乳児の泣き声から母親などがどの程度の情動・状態を感受することがで
きるかという点を情動クラスタリングの観点から検討し、またパターン認識的手法によ
り情動・状態の識別が可能であるというブレークスルーを得ることができた。今後、母
子間コミュニケーション支援するツールとして、保育者、教育者の教材として応用され
ることが期待される。
2)母子関係評価システムの作成:母・子の関係性の主観的評価法である、ストレンジ・
シチュエーション法(SSP)を用いて、母・子の関係性を客観的な診断手法を開発する
ことを目標とした。具体的には、母・子それぞれに超音波タグを装着することによって、
SSPにおける母・子それぞれの行動パターンと行動軌跡を解析し、母・子の行動・体勢・
視線方向の詳細なラベルを付与し、行動のデータベースを作成する。現在、子の「床座
り」、「立ち」等の体勢、母親の「床座り」、「椅子座り」等の体勢が識別可能である
ことが示唆された。
3)母子情動評価システムを用いた母・乳児精神疾患罹患者の評価の開始
前述の客観的表情評価法を用いて、「不安」「喜び」の場面における表情を分析し、
自閉症児の「喜び」もしくは「不安」の表情と健常児の表情の類似度を評価した。その
結果、自閉症児は「不安」を感じている場合にも、「喜び」を感じている場合にも、健
常児の「喜び」の表情に近い表情を示すことが多いことが分かった。
このことは、自閉症児と健常児とでは、同じ場面でも異なる表情を見せることを示し
ており、表情から自閉症児の情動を判断することに警鐘をならす。今後、自閉症児の表
情データベースを作成することによって、自閉症の客観的早期診断法を開発できる可能
性が考えられた。
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3.研究構想
【サブグループ制について】
本研究プロジェクトはスピーディにかつ密接に連絡をとり、実験を進めていくのが最重要
課題であるため、本研究プロジェクトはサブグループ制をとらない。限られた資金の中で、
研究チームをサブグループに細分化し、人、物、金を分散化すると我々のプロジェクトの遂
行は不可能であるからである。そこで、篠原研に研究員、研究補助員、大学院生を集中させ、
サブテーマを横断的に行き来し実験を遂行した。
【目標と3年間の研究計画】
1. 母・胎児の行動学的・生理学的変数測定による、客観的情動評価法の確立
本研究の目標は胎児の情動を評価する方法の開発である。胎児に直接働きかけ、行動を観
察することは不可能なので、母親の情動が胎児に伝わることを仮定し、母親に情動を喚起し
た後の胎児の行動を観察しすることによって、胎児の情動を評価する方法を開発することを
目標とした。
一年次:フィルム法、ビデオ視聴法によって情動喚起を試み、POMS (Profile of Mood States)
を用いて情動の評価を行うことによって、適正な母親の情動喚起法を確立する。28 週~35 週
の胎児を対象に、4D エコーを用いて表情、行動観察を行い、適切なパラメータを探索する。
二年次:妊娠 28~32 週の母親(n=10)を対象とし、一年次で有効であることが明らかにされ
たビデオ視聴法によって母親の情動(喜び、悲しみ)を喚起する。一年次でパラメータ候補
として考えられた胎児の行動パターン(手、足、体幹)および「表情」について、母親の情
動喚起に伴う変化を 2D エコーあるいは 4D エコーにより測定する。それによって、母親の情
動に特異的な胎児の行動パターンを見出す。
三年次:妊娠 28~36 週の妊婦(n=28)を対象とし、妊婦の情動(喜び、悲しみ)変化に反応
する胎児の動き(手、足、体幹)の変化を2次元型超音波診断装置により測定する。胎児の
動きでは、手の動きが最も感度が良く、手の動きは、妊婦の喜び喚起時に増加し、悲しみ喚
起時に減少することがわかった。そこで、本研究成果を胎児に影響を与える刺激の評価方法
および装置として特許出願した。
2.母・乳児の行動学的・生理学的変数測定による、客観的情動評価法の確立と乳幼児の表
情を指標にした情動表出の評価法の開発
本研究では、乳児の情動を、表情、泣き声から評価する方法を開発することを目標にした。
一年次:
(1)9~12 ヶ月齢乳児とその母親を対象に種々の情動喚起法を試し、個体間でばら
つかず、一定の情動を喚起する方法を探る。(2)①表情:9~12 ヶ月齢の乳児期における、
情動(喜び、悲しみ、怒り、恐れ、驚き)に対応する「表情」をデジタルビデオカメラで記
録する(n=8)。その顔画像をコンピュータ上で顔方向の補正を行い、鼻根を xy 軸の交点とし
て、目、口、鼻、眉のそれぞれ複数部位の座標を測定し、情動特異的な変数を探るのに必要
な顔部位を決定する。②泣き声:IC レコーダを母親に渡し、母親が主観的に感じる子の「空
腹」「恐れ」「甘え」に対応した子の様々な泣き声を家庭にて記録してもらう。記録した泣き
声データから、周波数スペクトルの時系列データ(サウンドスペクトログラム)を作成し、
持続時間分析やスペクトル成分変動、基本周波数抽出を行う。
二年次:(1)表情による情動評価法:10 ヶ月齢の乳児を対象(n=30)として、一年次に決
定した顔部位を指標に各情動に対応した表情の変化を調べる。顔正面画像上の種々の部位の
座標を、鼻根部(x, y)=(0, 0)を基準として決め、①鼻根~眉内側、②鼻根~眉中央、③鼻根
~眉尻、④目頭~目尻、⑤目上端~下端、⑥鼻下~頬、⑦口左端~右端、⑧口上端~下端、
⑨鼻下~口角の距離を算出した。各被験児におけるカメラ-被験児間距離の変動は、各被験
児の鼻根-鼻下間距離と全被験児の鼻根-鼻下間距離平均値を参照して、補正する。表情解
析による情動識別が可能な場合、表情を指標にした母子多元的情動評価システムの作成に着
手する。(2)乳児の泣き声による情動評価法:10~13 ヶ月の乳児(n=10)を対象に、母親
に泣き声の録音と推定される原因(①悲しみ、②怒り、③眠い、④甘え、⑤恐れ、⑥驚き、
⑦不快、⑧空腹、⑨眠い、⑩甘え、⑪排便/排尿)の記録を依頼した。泣き声は、40-15kHz ま
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【190401】
での周波数においてパワースペクトル解析(1kHz ごと)を行う。泣き声解析による情動識別
が可能な場合、泣き声を指標にした母子多元的情動評価システムの作成に着手する。
3.母子間コミュニケーションに関与する感覚情報の同定、感覚情報を用いたバーチャ
ル母子間コミュニケーション法の開発、およびその臨床応用
二年次:1)嗅覚(1)母乳の匂い:5日齢の新生児を対象とし、生理食塩水、自分の母
親の母乳、他の母親の母乳、粉ミルクの匂いが、踵採血によって起こる泣き、しかめ面、
活動量に及ぼす効果を調べる。泣き、表情はビデオカメラで記録し、活動量はマイクロ
アクチグラフによって記録する。(2)新生児の匂い:産後4-5日目の母親(褥婦)
を対象とし、新生児の体臭が母親の情動にいかなる影響を及ぼすかについて、POMS改
訂版を使って調べる。
三年次:1)嗅覚:(1)母乳の匂いについて成分分析を行い、ウサギフェロモンとし
て同定された2MB2が含まれているか否かを調べる。産後3-4日の母親の母乳サンプルを、
加熱脱着GC / MS分析を行い、ライブラリとの一致率を調べる。
2)視覚:視線方向が乳児の表情識別に与える影響表情および視線が、母子間コミュニ
ケーションに及ぼす影響を、乳児の注視点分析により明らかにする。異なる視線方向(直
視-逸らせた視線)と表情(喜び-怒り)を組み合わせた顔刺激を観察中の乳児(10ヵ
月児、12名)の注視点を計測することによって、それぞれの顔に対するpreferenceを調べ
る。3)聴覚:母親の子に向けた絵本読み聞かせ音声(Infant-Directed; ID)と大人に向けた
絵本読み聞かせ音声(Adult-Directed; AD)のピッチ・テンポ以外の音響的な特徴を調べる
ために、母親8名のIDとADを収録し、ピッチ・テンポの特徴を含まないモデル化手法に
よりIDモデル・ADモデルを作成し、未知入力音声の両モデルに対する尤度比を基準にID
かADかを識別する実験を行う。
4.母子多元的情動・関係評価システムの作成、それを用いた母・乳児精神疾患罹患者
評価の開始
二年次:
(1)情動評価システム‐表情翻訳:表情画像の①正規化、②線形変換、③各情動の
表情データベース作成および平均顔の作成を行い、以下のプログラムを用いて情動の識別を
行うプログラムを開発した(特許出願済)。未知画像と各表情の平均画像との距離を計算し、
最も距離が小さい平均画像の表情の情動を出力する(識別率 71%)。
(2)情動評価システム
‐泣き声翻訳:以下の二つの解析を組み合わせた情動や行動の識別(識別率 60%)を行うプ
ログラムを作成した(特許出願済)
。a)音響解析:泣き声データベースから、音響特徴パラメ
ータの時系列の類似度を解析する。b)音響特徴イベント解析:特徴イベントデータベースか
ら、音響的特徴を持つ区間部分(イベント)の配列順序を解析する。
三年次:
(1)自閉症児の情動特異的な表情変化部位の解析:前年度までの研究で開発した表
情自動識別技術を、発達障害の早期診断に応用する可能性を検討する。4~7 歳の計 7 名の自
閉症児を対象として、
「喜び」と「怒り」を誘発し、表情をデジタルビデオカメラで記録する。
顔の各部位間の距離を計測し、健常児と比較検討する。
(2)母子関係評価のための母子行動
軌跡解析: SSP(ストレンジ・シチュエーション法) における母子行動軌跡データからの特徴
量抽出法とモデル化手法を確立する。SSP での「母子同室」、「ストレンジャー入室」、「母子
分離」、「母子再開」の各場面における母・乳児の行動軌跡を超音波三次元測位システムによ
り収録する。対象である1歳児の左肩と右腰、母親の左上腕に発信機である超音波タグを取
り付け、5 fps の速度で三次元の位置データを記録し、母・乳児の行動軌跡のモデル化に用い
る、母子間の距離や母・乳児の移動方向・速度、乳児の体勢といった特徴量を抽出する手法
を確立する。
5.アウトリーチ活動:親子の気持ちを伝え合う会設立、母性教育プログラムの作成
基礎研究者と現場の実践者(Practitioner)を結び付け、基礎研究の成果を現場で実践し、
研究者にフィードバックするシステムとして、「親・子の気持ちを伝えあう会」の設立。
毎月セミナー形式で基礎研究者と現場の実践者との交流をはかる。また、アウトリーチ
9
【190401】
活動として、研究成果や「親・子の気持ちを伝えあう会」で論議されたことを講演会形
式で一般養育者や保育者にフィードバックする。
一年次:親・子の気持ちを伝えあう会の設立。1 回/月のセミナーを行う。
二年次:1 回/月のセミナーと 1 回/年の市民講演会を行う。
三年次:1 回/月のセミナーと 1 回/年の市民講演会を行う。
四年次:1 回/月のセミナーと 1 回/年の市民講演会を行う。
6. その後の展開から生まれた新たな研究:
母親が乳児の情動を認知する際の脳内機構の研究
三年次:乳児の表情識別課題時における母親の脳活動の解析:母親、未経産女性、男性を対
象に、乳児の表情から情動識別する課題(乳児表情識別課題)遂行時における脳活動を近赤
外分光法(NIRS)により測定する。コントロール課題としては、モノ識別課題、成人情動識
別課題、乳児性識別課題、を行い、その課題遂行時の脳活動と比較する。
四年次:新生児の匂いの母親の前頭前野の活動に及ぼす影響:母親、未経産女性、男性
を対象に、乳児の匂いを識別する課題(乳児匂い識別課題)遂行時における脳活動をNIRS
を用いて調べた。成人男性および女性の匂い、新生児の匂いを識別する課題を行い、前
頭前野の活動を測定し、乳児匂い識別課題の脳活動と比較する。
10
【190401】
4.研究成果
1.母・胎児の行動学的・生理学的変数測定による、客観的情動評価法の確立
(1)研究開発目標
妊娠 20 週頃になると、妊婦が胎児に働きかけた際、胎動として胎児の反応を感じることが
できるようになる。これによって、妊婦は胎児の存在をより身近に感じられるようになり、
実質的に母子間コミュニケーションが始まるといえる。
妊娠期の母親の情動が出産後の子の行動に影響を及ぼすことを示す研究は多いが、妊婦の
情動が直接胎児に及ぼす影響を調べた研究はほとんどない。Sjostrom らや Field らによって、
不安状態にある妊婦と不安状態にない妊婦を対象にそれぞれの胎児の胎動を比較した、とい
う報告がなされている程度である(Sjostrom, 2002, Field, 1985)
。そこで、我々は超音波検査装
置により、妊婦の「喜び」、「悲しみ」の情動が胎児の行動にどのような影響を及ぼすかを調
べた。
(2)研究実施内容及び成果
実験は長崎大学医学部・歯学部附属病院で行い、対象者は妊娠 28 週~36 週の胎位異常、
妊娠合併症を除いた正常経過妊婦 40 人とした。妊婦の情動を誘発する方法にはビデオ視聴法
(Gross and Levenson, 1993)を用いた。
喜び情動を喚起するための画像刺激としては、映画‘サウンドオブミュージック’のワンシー
ン(5 分間)を、悲しみ情動を喚起するための画像刺激としては、映画‘チャンプ’のワンシー
ン(5 分間)を用いた。これまでに日本人成人女性を対象とした研究は報告されていなかっ
たので、日本人成人女性(11 名)を対象に Visual Analogue Scale (VAS) を用いて、ビデオ視
聴後の情動(興味、喜び、悲しみ、苦悩、怒り、恐れ、驚き、罪、恥、嫌悪)の変化を調べ
た。その結果、映画‘サウンドオブミュージック’は特異的に「喜び」を、映画‘チャンプ’は特
異的に「悲しみ」を誘発することが確認できたので、この映画を刺激として用いることとし
た(表 1)
。
ビデオ視聴前
サウンド・オブ・ミュージック
喜び
表1 喜びの高得点映画と悲しみの高得点映画
チャンプ
動画
腕
の種類
悲しみ
( 0 -10 点)
1.91
(±0.51)
8.00
( ± 0.52 )
(±0.52)
0.55
(±0.37)
0.36
(±0.28)
1.91
(±0.67)
7.73
7.73
( ± 0.57 )
(±0.57)
あるいは
悲しみ
( 0 -10 点)
8.00
体幹
喜び
情動喚起前
足
情動喚起中
5 経過時間(分) 10
情動喚起後
15
図2 プロトコル
胎動には日内変動があるため、実験は 14:00~17:00 の間に統一し、動画に集中してもらう
ため、部屋の明るさは 30 lux とした。また、妊婦にはセミファーラー位をとってもらい、映
画の音が胎児に直接聞こえてしまう影響をなくすため、実験中はヘッドホンを使用すること
とした。映画の再生には、21 インチのモニタを用いた。
超音波検査装置(2 台)および分娩監視装置を用いて、①ビデオ視聴前、②ビデオ視聴中、
③ビデオ視聴後の各 5 分間における胎児の動きと胎児心拍の記録を行った(図 1)。胎児の動
きに関しては、腕、足、体幹が 5 分間に動いた回数および 5 分間のうち、動いていた時間(持
続時間)を計測した。また、各部位の動きの定義は、呼吸様運動と同期しないこと、動きが 2
秒以上連続していること、とし、動きが静止した時点で 1 回とカウントした。また、胎児の
覚醒状態と胎児心拍パターン(FHRP)の対応表(Nijhuis et al., 1982)に基づき、FHRP が 15
分間、典型的な B パターンを示した胎児の妊婦 28 人(初産婦 16 人、経産婦 12 人、平均年齢
31 歳、平均妊娠週数 32 週)のデータのみを分析対象とした。
超音波検査装置により記録した胎児の動きを t 検定により解析した結果、以下のようにな
った。
「腕」の動きの回数については、
「喜び」のビデオを視聴した場合、視聴前(7.1 回/5 分)
に比べ、視聴中(9.5 回/5 分)は有意に「腕」の動いた回数が増加し(p<0.05)
、視聴後(6.5
回/5 分)は元に戻った。一方、
「悲しみ」のビデオを視聴した場合、視聴前(5.1 回/5 分)に
11
【190401】
比べ視聴中(2.4 回 5/分)は有意に「腕」の動いた回数が減少し(p<0.05)
、視聴後(1.8 回 5/
分)も減少した状態を維持した (p<0.05)。
(図 3)。
また、「腕」の動きの持続時間については「喜び」のビデオを視聴した場合、視聴前(90.
3 秒/5 分)、視聴中(97.6 秒/5 分)、視聴後(75.9 秒/5 分)と「腕」の動いた持続時間にほと
んど変化はなかった。一方、
「悲しみ」のビデオを視聴した場合、視聴前(38.6 秒/5 分)に比
べ、視聴中(21.6 秒/5 分)は動いた持続時間が減少傾向にあり、視聴後(15.8 秒/5 分)は有
意に減少した(p<0.05)
。(図 4)。
「足」の動いた回数については「喜び」のビデオを視聴した場合、視聴前(4.3 回/5 分)
、
視聴中(5.1 回/5 分)
、視聴後(4.4 回/5 分)と変化はなく、
「悲しみ」のビデオを視聴した場
合についても、視聴前(4.6 回/5 分)、視聴中(3.1 回 5/分)
、視聴後(3.3 回 5/分)と変化はな
かった。
(図 5)。
また、
「足」動きの持続時間については「喜び」のビデオを視聴した場合、視聴前(51.9 秒
/5 分)
、視聴中(54.4 秒/5 分)
、視聴後(60.5 秒/5 分)と「足」の動いた持続時間にほとんど
変化はなかった。一方、
「悲しみ」のビデオを視聴した場合では、視聴前(52.5 秒/5 分)に比
べ、視聴中(34.4 秒/5 分)は動いた持続時間は減少傾向にあり、視聴後(32.0 秒/5 分)では
有意に減少した(p<0.05)。(図 6)。
「体幹」の動いた回数については「喜び」のビデオを視聴した場合、視聴前(2.7 回/5 分)、
視聴中(2.7 回/5 分)
、視聴後(2.7 回/5 分)と変化はなかった。一方、
「悲しみ」のビデオを
視聴した場合では、視聴前(3.9 回/5 分)に比べ、視聴中(2.5 回 5/分)は「体幹」の動きの
回数が減少する傾向にあり、視聴後(2.3 回 5/分)は有意に減少した。
また、
「体幹」の動きの持続時間については「喜び」のビデオを視聴した場合、視聴前(31.0
秒/5 分)
、視聴中(17.2 秒/5 分)
、視聴後(31.0 秒/5 分)と変化はなく、
「悲しみ」のビデオを
視聴した場合についても、視聴前(34.2 秒/5 分)、視聴中(21.8 秒 5/分)、視聴後(25.2 秒/分)
と変化はなかった。つまり「喜び」「悲しみ」いずれのビデオを視聴した場合でも、「体幹」
の動きの持続時間に変化はなかった(図 7)
。
以上を総括すると「喜び」のビデオ視聴中は、ビデオ視聴前に比べ、
「腕」の動いた回数が
増加していた。一方、
「悲しみ」のビデオ視聴中および視聴後は、ビデオ視聴前に比べ「腕」
の動いた回数は減少し、特にビデオ視聴後では「腕」、
「足」の動いた時間、
「体幹」の動いた
回数についても減少が見られた(図 8)。
喜び(n=8)
▲
悲しみ(n=9)
*; p<0.05
*
10
120
8
100
回
6
/
5
4
分
秒 80
/
60
5
分 40
*
2
0
20
*
*
0
0
喚起前
視聴前
5
10
情動喚起
時間経過(分)
喚起後
視聴中
視聴後
図3 腕の動いた回数
15
0 喚起前
視聴前
5 情動喚起
10 喚起後
時間経過(分)
視聴中
15
視聴後
図4 腕の動いた持続時間
12
【190401】
喜び(n=10)
▲ 悲しみ(n=14)
*; p<0.05
120
10
100
8
秒 80
/
60
5
分 40
回
6
/
5 4
分
2
0
20
0
喚起前
視聴前
5
10
情動喚起
時間経過(分)
喚起後
視聴中
視聴後
15
0
*
0 喚起前
5 情動喚起 10 喚起後 15
時間経過(分)
視聴前
視聴中
視聴後
図6 足の動いた持続時間
図5 足の動いた回数
喜び(n=6)
▲ 悲しみ(n=13)
*; p<0.05
120
10
100
8
*
回
6
/
5
4
分
秒 80
/
60
5
分 40
2
0
20
0 喚起前
視聴前
5 情動喚起 10 喚起後 15
時間経過(分)
視聴中
0
視聴後
図7 体幹の動いた回数
0 喚起前
視聴前
5 情動喚起 10 喚起後 15
時間経過(分)
視聴中
視聴後
図8 体幹の動いた持続時間
(3)研究開発成果の社会的含意、特記事項など
妊婦の情動は胎児の行動に影響を及ぼすことが示唆されたが、特に「喜び」の情動につい
ては「腕」の動きの回数のみが部位特異的に増加し、
「悲しみ」の情動については「腕」、
「足」
、
「体幹」各部位にわたり、動きの回数や持続時間が減少していた。このことから、胎児の「腕」
の動きは「足」、「体幹」の動きに比べ、妊婦の情動の影響を受けやすいので、妊婦の情動に
対する胎児の反応性を知る際に鋭敏な指標となることが示唆された(特願 2006-273440)
。こ
れを利用することで、胎児に対する最適な働きかけや環境について探索することに応用が可
能かと思われる。
(4)研究成果の今後期待される効果
これまでに妊婦に対して精神的負荷をかけた場合、胎児の動きを減少させることが報告さ
れている(DiPietro et al., 2003)。したがって、妊婦に「悲しみ」の情動が喚起された場合、胎
児に対してはストレスと同様の作用がある可能性が考えられる。しかし、我々のこれまでの
研究データから、「悲しみ」の情動に対する胎児の反応性は一過性である可能性が高く、「喜
13
【190401】
び」の情動によって容易に拮抗されることが示唆された。したがって、ストレスや「悲しみ」
以外のネガティブな情動、例えば、
「怒り」、
「不安」などは胎児の成長や発達に影響を及ぼす
ことが懸念されているため、
「喜び」の情動を積極的にもたらすことで、これらの影響を軽減
させる可能性が考えられる。これらを踏まえると、妊婦に対して、身体的なケアを行うこと
に加え、精神的にもネガティブな情動やストレスを和らげ、また、積極的に喜びを感じるよ
う援助することが、胎児の良好な成長・発達を促す効果が期待される。
そこで、以上のような結果をもとに、妊娠期の母親準備教育の中で胎児の「腕の動き」を
敏感に感じとるトレーニング(タッチングによる)を提案していくことも考えられる。つま
り、胎児の「腕の動き」は、妊婦の情動の胎児への影響を反映する為、これらが変化するこ
とを実感してもらうトレーニングなどを通して、より一層、胎児への関心が寄せられること
が期待される。
14
【190401】
2.母・乳児の行動学的・生理学的変数測定による、客観的情動評価法の確立
1)乳幼児の表情を指標にした情動表出の評価法の開発
(1) 研究開発目標
文化的手段を用いることが出来ない乳児と、その養育者との間のコミュニケーションチャ
ネルは、非言語的情報に限定されている。とりわけ、表情は、その視認性の高さや普遍性ゆ
え、数ある非言語情報の中でも大きな情報価を有している。それゆえ、乳児は自身の情動的
状態や、生理的欲求を伝達するための、いくつかの表情パターンを生得的に備えているとい
われている。また、養育者の側も、乳児の表情に現れる特定の表情表出パターンを手がかり
として、その情動価や覚醒度を認識することができる。このように、乳児および養育者の双
方における表情表出・認知は、健全な母子間コミュニケーションを確立する上で欠かすこと
が出来ないと考えられる。しかし、乳児の表情パターンは、成人とは異なる特徴を有してい
ることが知られている。このため、母親が乳児の表情を手がかりとして、乳児の情動を類推
することは必ずしも容易ではない。したがって、乳児が特定の情動を感じている際の表情を
客観的に評価することが可能になれば、母子間コミュニケーションの改善に役立つものと考
えられる。そこで、本研究では、表情による情動の客観的評価技術を開発するために、4 ヶ
月~12 ヶ月齢の乳児を対象として、情動(喜び、悲しみ、怒り、恐れ、驚き)が喚起された
際の表情画像のデータベースを作成し、乳児の表情表出の特徴を各顔部位間の距離を測定す
ることで解析した。
(2) 研究実施内容及び成果
4 ヶ月~12 ヶ月齢の乳児を対象として、実験的に特定の情動(喜び、悲しみ、怒り、恐れ、
驚き)を喚起させた。その際、乳児が表出した表情の画像データベースを作成し、乳児の表
情表出の特徴を分析した。
実験では、乳児を対象として、情動の誘発を行い、その際の表情をビデオカメラで撮影し
た。各情動の喚起は、喜び:マザリーズの提示、またはくすぐるなどの身体への働きかけ、
悲しみ:母親との分離、怒り:おもちゃ消失、または、強い抱擁などによる動きの制限、恐
れ:ストレンジャーの提示、驚き:ブザー音(80-90dB)の提示等によって行った。また、乳
児の表情はデジタルビデオカメラ(SONY DCR-TRV18 NTSC)によって撮影した。
分析では、まず記録した DV-AVI 形式の動画から情動喚起による変化が生じている時点の
静止画像を切り出した。静止画像の切り出しにおいては、情動誘発シチュエーションが与え
られている間で、乳児の顔の造作が、何の情動も表出していない中性顔から最も大きく変化
している瞬間のフレームの画像を切り出した。その上で、切り出した顔画像を、乳幼児表情
画像データベースとして整理した。乳幼児表情画像データベースは、合計 489 枚の表情画像
を含んでいる。
以降の分析は、作成した表情画像データベースに含まれる顔画像を対象として行った。ま
ず、乳児期の表情表出パターンの発達的変化を明らかにするための、定量的測定・分析を行
った。具体的には、乳児の顔に、13 箇所の特徴点を設定し、それらの特徴点の座標データを
基に、表情表出パターンの違いを敏感に反映するとされる諸変数を計算した。計算した諸変
数の定義は、下表 1 の通りであり、諸変数と特徴点との関係は図1に示してある。このよう
にして計算された変数が、異なる月齢間(4 ヶ月と 10 ヶ月)および表情間で異なるか否かを、
統計的に分析した。
分析の結果を、図 2 に示す。グラフの縦軸は、情動誘発時の各変数を、中性顔すなわち特定の
情動の誘発を行っていないときの値で除算した相対変化量を示している。図 2 から分かるように、
情動の検出に用いることが出来る変数は、4 ヶ月児と 10 ヶ月児では異なることが確認された。例
えば、恐怖の情動を誘発した際、10 ヶ月児では、変数①が統計的に有意な変化を示している。し
たがって、10 ヶ月児において、恐怖の情動を検出する際には、変数①の変化を追跡することが有
効な指標になりうると考えられる。一方、4 ヶ月児においては、恐怖の情動を誘発した際も、変
数①に統計的に意味のある変化は見出されていない。したがって、4 ヶ月児の恐怖の情動を検出
する際には、変数①は有効な手がかりにはなり得ないと考えられる。
15
【190401】
表 1 分析に用いた各変数の定義
変数
定義
変数1
変数2
変数3
変数4
変数5
変数6
変数7
変数8
変数9
鼻根と右眉端との間の距離
鼻根と右眉の中心点との間の距離
鼻根と右眉尻との間の距離
右眼裂の横幅
右眼裂の縦幅
鼻尖から頬にかけての距離
口の横幅
口の縦幅
鼻尖から口角までの距離
図2
図 1 各特徴点の顔画像上での位置と各
変数との関係
4 ヶ月児と 10 ヶ月児における各変数の変化
(3) 研究開発成果の社会的含意、特記事項など
本研究を通して、乳児の表情の客観的評価技術を開発するための基礎となる知見を提供す
ることが出来た。本研究で得られた主要な知見は、以下の通りである。まず、本研究により、
乳児の情動を反映して変化する顔の部位とその変化の方向性を定量的に示すことが出来た。
これにより、表情を基にした乳児の客観的情動評価技術を開発するにあたって、乳児の表情
のどの部分に着目して評価すればよいかを知ることが出来る。次に、同一の情動を喚起した
際にも、情動を反映して変化する表情部位は月齢によって異なることが明らかになった。こ
れは、表情に基づく乳児の情動の客観的評価技術開発に当たっては、乳児の月齢を考慮した
きめ細かな対応が求められることを示している。
このように、本研究は、乳児の情動の客観的評価技術開発に役立つ重要な知見および基礎
データを提供することが出来た。先述したように、乳児の情動の客観的評価技術開発が実現
すれば、将来的に子育てに伴う負担の軽減につながる可能性があるため、本研究は、社会的
にも大いに意義のある研究であるということが出来る。
(4) 研究成果の今後期待される効果
本研究の成果を生かして、乳児の情動の客観的評価技術の開発が実現し、それを普及させ
ることが出来れば、母親が乳児の情動を誤認するリスクを減らすことが出来る。これは、母
親の育児ストレスの軽減にも繋がるため、乳児の情動の客観的評価技術開発を通じて、育児
環境が改善することが期待される。また、将来的には、開発された客観的評価技術を応用し
て、表情表出の巧拙を客観的に判定できるようになる可能性がある。自閉症児の表情表出パ
ターンは、健常児のそれとは異なる特徴を示すことが知られている。したがって、乳幼児の
16
【190401】
表情自動識別が可能になれば、それを応用して、自閉症をはじめとした各種の発達障害の早
期診断を行う可能性が拓けてくる。
17
【190401】
2)乳幼児の泣き声を指標にした情動表出の評価法の開発
(1)研究開発目標
乳児から母親への非言語的な働きかけである「泣き声」は、乳児の情動や身体的状態
を伝達する手段である。しかし、昨今では地域社会の崩壊や各家族化の進行に伴い、乳
児と触れ合う機会の無いまま親になる大人が増加し、泣き声を通じて乳児が何を欲して
いるのかを理解するための経験が不足している状況となりつつある、という認識がある。
そこで、このような現代社会が抱える状況への対応・支援に結びつく技術として、乳児
の泣き声翻訳システムの開発構想を考案した。本研究では、まず、乳児の情動やその状態
ごとの泣き声に含まれる音響的特徴の差異があるか否かを調べ、乳児の泣き声翻訳シス
テムの開発が可能かどうかを検証することを第一の目的として研究を行った。
(2)研究実施内容及び成果
10~13ヶ月の乳児(n=10)を対象に、日常生活での泣き声の録音をそれぞれの乳児の母親
に依頼した。録音には携帯性に優れ、長時間の録音も可能なICレコーダを用いた。また、収
録した泣き声に、その泣き方や身体的状態を参考にして、母親の主観評定によるラベル付け
を依頼した。乳児の情動・状態ラベルとしては、「悲しみ」、「怒り」、「眠い」、「恐れ」、
「驚き」、「不快」、「空腹」、「眠い」、「甘え」、「排泄」の10種類を用いた。
収録した泣き声から40-15kHzまでの帯域で周波数スペクトルの1kHzごとの時系列デー
タ(サウンドスペクトログラム)を作成し、持続時間分析やスペクトル成分変動、基本
周波数抽出を行った。その結果、0-1 kHzでは、「怒り」が、「悲しみ」、「眠い」、「甘
え」より有意に弱かった。3-4kHzでは、「眠い」が、「悲しみ」、「怒り」、「甘え」より
有意に弱かった(図1)。以上のことから、乳児は泣き声においても情動やその状態ごとに特
異的な特徴を有していることが示唆された。
Power
弱
悲しみ
怒り
強
眠い
甘え
0-1kHz
1-2kHz
2-3kHz
3-4kHz
4-5kHz
5-6kHz
6-7kHz
7-8kHz
8-9kHz
9-10kHz
10-11kHz
11-12kHz
12-13kHz
13-14kHz
14-15kHz
図1 乳児の泣き声の周波数パターン
(3)研究開発成果の社会的含意、特記事項など
本研究は特に言語獲得前の乳児を対象とした分析であることから、言語・文化・人種に
寄らない、通文化的な音響的特徴の解析である。すなわち、本研究の知見に基づき開発
される、泣き声を指標にした情動評価技術は、世界市場で利用されうる基礎技術であると
いえる。また、乳児の情動・状態を非侵襲的に識別することが可能になるため、画期的な
18
【190401】
育児支援機器の開発が展開できると期待される。
(4)研究成果の今後期待される効果
本知見をもとに、本研究プロジェクトでは、乳児の泣き声に含まれる情動の機械認識
の研究を行うことができた。さらに、より多くの乳児の情動・状態(例えば排便や恐れ)
における泣き声を解析することや、月齢による違いを解析することで、頑健な情動・状
態の機械認識技術が開発できると期待している。
19
【190401】
3)高周波成分の検討
(1) 研究開発目標
乳児の情動自動識別技術が開発されれば、母親の子育ての負担を軽減することが出来ると
考えられる。このため、客観的情報にと基づく乳児の情動自動識別は、本研究プロジェクト
の主要な到達目標の一つである。これまでの研究期間を通して、我々は表情・泣き声に基づ
いた乳児の情動自動識別において一定の成果を挙げている。乳児の泣き声の分析で、分析対
象としたのは IC レコーダで分析した乳児の泣き声である。しかし、IC レコーダで収録可能
な音声の周波数の上限は、およそ 22kHz であるため、分析においては 22kHz 以下、すなわち
可聴帯域に含まれる泣き声の情報のみを分析対象としたことになる。
一方、ラットの母子間コミュニケーションにおいては、仔ラットの泣き声音声の、40kHz
付近の非可聴帯域に含まれる高周波数成分が重要な役割を果たしていることが明らかになっ
ている。また、ヒトを対象とした脳機能計測研究の結果から、非可聴帯域に含まれる高周波
数音声情報が、ヒトの生体反応に一定の影響を及ぼしていることが報告されている。したが
って、ヒトの母子間コミュニケーションにおいても、20kHz 以上の高周波数成分が、何らか
の機能を果たしている可能性がある。したがって、乳児の泣き声に含まれる 20kHz 以上の高
周波数成分が、乳児の情動に関する情報を含んでおり、これを分析に用いれば、より精度の
高い情動識別技術を実現できる可能性があるということができる。
そこで、本研究では、泣き声に含まれる高周波数成分を、情動識別に利用するための基礎
的データを収集する目的で、高周波数成分を記録できる特殊な録音装置を用いて、乳児の泣
き声を録音するための実験手法を確立した。さらに、記録された泣き声を分析し、乳児の泣
き声に高周波数成分がどれほど含まれているのかを分析した。
(2) 研究実施内容及び成果
方法:長崎大学に設置した防音室内にて、乳児の泣き声を録音した。録音に際しては実験に
参加する母・子に防音室内で過ごしてもらい、自然に乳児が泣き始めたときに泣き声を音声
収録専用の機器で録音した。
今回、記録の対象としたのは、空腹時の泣き声である。空腹時の泣き声を録音するために、
録音の参加者には、授乳後 2 時間以上経過した時点で録音に参加してもらった。これは、先
行研究により、授乳後 2 時間以上経過すると、自然に泣き始めることが多いことが確認され
ているためである。実験室に来た後は、乳児が泣き出すまでの間、何も口にせずに 2 時間の
間、実験室で過ごしてもらった。子が泣き始めるまでの間は、おもちゃで遊べるほか、雑誌
を読むことができる環境を整えることで、出来るだけ普段の生活に近い状態で過ごしてもら
えるよう配慮し、泣き声を録音できた時点で実験は終了した。また、母・子が防音室内で過
ごす時間の上限は 2 時間であり、それを過ぎても泣き出さない場合は、その時点で実験は中
止とした。
分析と結果:全録音時間中、乳児の泣き声が録音されている区間のみを切り出してきた後、
音声波形分析用ソフトウェア Spectra 及 Praat を用いて、当該区間の音声データに周波数分析
を行った。
図 1 に元波形と、それを基に作成したサウンドスペクトログラムを、図 2 に周波数分析の
結果を示した。図 1 および図 2 には、本研究で録音に成功した泣き声 5 人分のデータのうち、
一名分を代表データとして示してある。図 1、図 2 から分かるように、乳児の泣き声には、
20kHz 以上の高周波数成分が高い音圧で含まれていることが明らかになった。他の 4 名の泣
き声データについても同様の知見が得られたため、20kHz 以上の非可聴音域成分の変化を、
泣き声に基づいた乳児の情動自動識別に用いられる可能性は高いと考えられる。
(3) 研究開発成果の社会的含意、特記事項など
本研究は、泣き声に基づく乳児の情動自動識別に、20kHz 以上の高周波数成分を利用でき
るか否かを検討するために実施した。結果、先行研究においては分析の対象とされてこなか
った、20kHz 以上の高周波数帯域の成分の音圧は大きく、この周波数帯域にも豊富な情報を
20
【190401】
含んでいる可能性が示唆された。これらの結果は、乳児の情動自動識別技術の精度向上に結
びつく可能性がある基礎データである。したがって、より高精度な情動自動識別を実現する
ことで、母親の育児環境の改善に寄与するものであると考えられる。
図 1 空腹時の泣き声の周波数成分
(赤線は 20kHz を示す)
図 2 泣き声のサウンドスペクトログラム
(点線は 20kHz を示す)
(4) 研究成果の今後期待される効果
先述したように、本研究の成果は、高周波数成分を乳児の情動自動識別に生かす知見を提
供した。今後は、異なるシチュエーションにおける乳児の泣き声の違いを録音し、乳児が感
じている情動の違いが、高周波数成分に反映されているか否か、また反映されているとすれ
ば、どのような違いが見出されるのかを具体的に明らかにしていく必要がある。これらの知
見を蓄積していくことで、泣き声に基づいた乳児の情動識別技術のさらなる精度向上が実現
されることが期待される。
21
【190401】
3.母親が乳児の情動を認知する際の脳内機構の研究
母子間コミュニケーションに重要な感覚因子について、これまで探索を行ってきたが、
特に1)視覚因子、2)嗅覚因子、についての研究が進捗した為、これらの因子と脳機
能についての関係を調べた。
1)視覚因子と脳機能
(1)研究開発目標
本プロジェクトにより、母親は男性や未経産の女性と比較し、情動を表出した乳児の
表情画像に対して、口領域に注視点が留まる時間が長いことを報告した。そこで、この
違いをもたらす原因は、学習・経験に基づくものであるのか、あるいは妊娠・出産を通
して分泌されたホルモンなどの影響を受けているのか、のいずれかが関与しているので
はないかと推測している。しかし、原因はいずれの場合であっても、乳児の表情に対す
る母親の脳機能は男性や未経産の女性に比べ、変化している可能性が考えられる。母親
の脳機能について調べたLorberbaumら、Noriuchiらの報告によると、母親は乳児の表情や
動画の提示刺激に対し、前頭前野の活動が高まることが報告されている(Lorberbaum,
1999, Noriuchi, 2007)。そこで、母親の脳機能が変化している候補部位として前頭前野
に注目し、男性や未経産の女性との比較を行った。
(2)研究実施内容及び成果
被験者は、男性(n=10; 平均33.1±2.5歳)、女性(n=9: 平均25.0±2.1歳)、母親(n=9;
平均30.1±1.2歳 / 末子; 平均23±2.9月)を対象とし、前頭前野の脳血流中ヘモグロビン
の相対的変化量について近赤外分光法(NIRS)を用いて調べた。被験者は、NIRSプロー
ブを装着後、17インチのモニタ上に提示された識別課題をランダムに60秒間ずつ行った
(図1)。
A.モノ
A.モノ
識別課題
課題
60秒
60秒
B.成人情動
B.成人情動
識別課題
C.乳児情動
C.乳児情動
識別課題
休憩
60秒
60秒
図2.課題画面と回答用コントローラ
図1.課題の提示プロトコル
識別課題の回答方法は、右手によるゲーム用コントローラの操作とした(図2)。実験
は、乳児の情動を識別する課題(乳児情動識別課題)を行い、課題遂行中の脳活動を測
定し、男性、未経産女性、母親での比較を行った。情動を表出した乳児の写真は、本研
究室の乳児表情データベースを用いた。また、乳児情動識別課題に加え、比較対象とし
て、モノを識別する課題(モノ識別課題)、成人の情動を識別する課題(成人情動識別
課題)を行った。情動を表出した成人の写真は、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)
のデータベースDB-99を用いた(図3)。
A.モノ識別課題
カテゴリ
車、椅子、野菜、
石、靴、時計
計6カテゴリ
×
B.成人情動識別課題 C.乳児情動識別課題
種類
カテゴリ
各4種
喜び、悲しみ、怒り、
恐れ、驚き、無表情
計6カテゴリ
種類
×
合計24
パターン
合計24パターン
SOUCENEXT感動素
SOUCENEXT感動素
材10,000 Vol.10より
Vol.10より
男性(男児)2
男性(男児)2名
女性(女児)2
女性(女児)2名
各4種
それぞれ合計24
パターン
それぞれ合計24パターン
ATRデータベース
ATRデータベース
DB99より
DB99より
本研究室乳児表情
データベースより
図3.識別課題の種類
22
【190401】
その結果、モノ識別課題、成人情動識別課題については、前頭前野の活動に有意な3
群間での違いは見られなかった(図4)。一方、乳児情動識別課題では、男性および未経
産女性に比べ、母親で右前頭前野における活動の増加が見られた(図4)。また、この活
動は左半球よりも右半球で有意であった。ところが、それぞれの行動パラメータとして、
乳児情動識別課題時の正答率、反応時間、回数を調べてみると、いずれの場合について
も3群間で有意な違いは見られなかった(図5)。したがって、乳児の情動を表情から識
別することに対し、母親は乳児の表情から情動を識別する際に、正確さ以外の何らかの
脳機能が賦活されていることが示唆される。
A.モノ識別課題
A.モノ識別課題
B.成人情動識別課題
B.成人情動識別課題
0.01
0.005
0
-0.005
-0.005
左
右
-0.01
-0.015
-0.02
男性
女性 母親
(n=11) (n=9) (n=9)
40
20
0
男性
(n=11)
n=11)
女性
(n=9)
n=9)
母親
(n=9)
n=9)
3500
3000
2500
2000
1500
1000
500
0
0.01
0.005
0
-0.02
男性
女性 母親
(n=11) (n=9) (n=9)
反応時間
男性
(n=11)
n=11)
女性
(n=9)
n=9)
母親
(n=9)
n=9)
*
左
右
-0.01
-0.015
男性
女性 母親
(n=11) (n=9) (n=9)
One way ANOVA followed by
Fisher’s PLSD post hoc test
*:P<0.05, Paired t test *:P<0.05
回答数(回)
60
反応時間(ミリ秒)
正答率(%
%)
正答率(
正答率
80
*
-0.005
左
右
図4.各課題毎の脳活動の比較
100
*
0.02
0.015
ΔoxyHb濃度
0.01
0.005
0
-0.01
-0.015
-0.02
C.乳児情動識別課題
C.乳児情動識別課題
0.02
0.015
ΔoxyHb濃度
ΔoxyHb濃度
0.02
0.015
回答数
40
30
20
10
0
男性
(n=11)
n=11)
女性
(n=9)
n=9)
母親
(n=9)
n=9)
図5.乳児情動識別課題時の行動データの比較
2)嗅覚因子と脳機能
(1)研究開発目標
本プロジェクトにより、新生児の匂いが出産後の母親の気分を改善する一方、未経産
の女性では、そのような効果がみられないことを報告した。そこで、この違いをもたら
す原因は、学習・経験に基づくものであるのか、あるいは妊娠・出産を通して分泌され
たホルモンなどの影響を受けているのか、のいずれかが関与しているのではないかと推
測している。一方、乳児の表情に対する母親の脳機能を調べたところ、男性や未経産の
女性に比べ、右の前頭前野の活動が高まっていることを見出した。そこで、母親の脳機
能は、異なるモダリティである嗅覚因子の場合についても、男性や未経産の女性に比べ、
変化している可能性が考えられる。そこで、視覚因子の場合と同様に前頭前野に注目し、
男性や未経産の女性との比較を行った。
(2)研究実施内容及び成果
被験者は、男性(n=9; 平均21.3±0.5歳)、女性(n=8: 平均22.1±0.2歳)、母親(n=9; 平
均37.4±1.3歳 / 末子; 平均4.0歳)を対象とし、前頭前野の脳血流中ヘモグロビンの相対
的変化量について近赤外分光法(NIRS)を用いて調べた。実験は、匂いの識別課題を行
い、成人男性の匂い(n=3; 平均25.0±2.5歳)、成人女性の匂い(n=3; 平均23.0±0.6歳)、
新生児の匂い(n=3; 生後4日齢)、についてランダムに行った。匂いのサンプルは、成
人の場合、無香料の石鹸を使用してもらい、2晩着用したTシャツから各3名ずつから集
めたものを使用した。また、新生児の匂いは、新生児3名が朝の沐浴後から翌日の沐浴前
23
【190401】
まで着用した肌着(コンビ肌着の内側に着用し、直接肌に接する短着)を集めたものを
使用した。それぞれの課題は、6回のサンプル提示を各10秒間ずつ行い(60秒間)、その
内の5秒間、匂いを嗅ぐ方法とした(図1)。
A
B
C
課題
60秒
1
休
2
D
休憩
60秒
休
3
休
4
休
5
休
6
休
5秒 5秒
10秒
図1.課題の提示プロトコル
本研究では、これら匂い識別課題遂行中の脳活動の測定を行った。なお、提示する匂
いは実験者が被験者に手渡しし、被験者は渡されたサンプルに対して口頭で匂いが「す
る」、「しない」を回答させた。そこで、10秒に一回のアナウンスに続き、指定された
単語を発話する課題(60秒間)をコントロール課題とした。その結果、男性および母親
において成人男性の匂い課題時における右前頭前野の活動の有意な増加が見られた。こ
の活動は、未経産女性であっても有意ではなかったものの増加が見られた。また、この
課題への反応は、左前頭前野についても有意ではなかったものの3群において同様な増加
が見られた(図2)。
眼窩前頭皮質は、嗅覚情報が集まる部位であり、匂い刺激を行うことで前頭前野の活
動が近赤外分光法によっても記録されることが報告されている(Ishimaru, 2004)。した
がって、成人男性の匂いは、おそらく、嗅覚知覚によって非特異的に増加が見られた可
能性が考えられる。
一方、成人女性の匂い課題では、コントロール課題と比較し、どの群においても有意
な前頭前野の活動の増加が見られなかった(図2)。ところが、新生児の匂い課題につい
ては、男性や未経産女性では見られなかったが、母親の右前頭前野のみで有意な活動の
増加が見られた(図2)。
女性(n=8)
男性(n=9)
*
0.01
0
NS
0.02
0.01
0
-0.01
-0.01
-0.03
0.03
0.02
ΔoxyHb濃度
ΔoxyHb濃度
0.02
-0.02
母親(n=9)
0.03
左
右
コント 男性 女性 新生児
ロール
匂い課題
*
*
0.01
0
-0.01
左
右
-0.02
-0.03
ΔoxyHb濃度
0.03
コント 男性 女性 新生児
ロール
匂い課題
図2.各課題毎の脳活動の比較
左
右
-0.02
-0.03
コント 男性 女性 新生児
ロール
匂い課題
One way ANOVA followed by
Scheffe’s post hoc test *:P<0.05
一方、それぞれの匂い識別課題の行動パラメータである正答率を調べてみると、いず
れの場合についても3群間で有意な違いは見られなかった(表1)。母親はわが子の匂い
の識別率は非常に高いことが報告されているが(Kaitz, 1987、Porter, 1983)、本研究で
は男性や未経産女性との違いはなく、新生児の匂いの識別率が高いとは言えなかった。
これは本研究で用いた匂いは自分の子ではなく、他児の匂いである為、匂い識別の正答
24
【190401】
率という点では男性や未経産女性と変わらない可能性が示唆された。したがって、乳児
の表情を識別させる視覚課題を用いた先の研究と同様に、識別の正答率に違いはなくて
も、その課題における右前頭前野の活動が母親のみで高まるという結果が共通している。
以上の結果から、新生児の匂い識別を正確に行うことそれ自体には、乳児の表情識別と
同様、右前頭前野の活性化は必要でないことがわかる。したがって、母親は新生児の匂
い識別をする際にはも、強い情動を感じている可能性が考えられる。
表1.匂い識別課題の正答率の比較
正答率(%)
男性
女性
母親
男性匂い
74.1±6.2
74.1±6.9
63.0±8.2
女性匂い
66.7±6.3
64.6±7.3
58.3±4.5
新生児匂い
65.0±3.9
61.7±5.0
66.7±7.5
(3)研究開発成果の社会的含意、特記事項など
最近、マミーブレインと言って、母親の脳の特異性が取り上げられているが、ヒトに
おける詳しいメカニズムはまだよくわかっていない。したがって、まずは、この脳内メ
カニズムを明らかにしていくことは、社会的に意義が大きいと考えられる。一方、ラッ
トなどの動物実験では、前頭前野の破壊により母性行動が消失することや、母親になっ
た雌個体のシナプスの形態に変化が見られることが報告されている。このような動物実
験の報告に限らず、ヒトの女性もまた、妊娠・出産を通して大量のホルモンの曝露を受
ける為、これらが脳機能を変化させている可能性が考えられる。
以上のことから、右前頭前野が母親の母親らしさをもたらすともいえる。このことは、
乳児虐待等を行う母親の客観的診断法として応用が考えられる。また、右前頭前野の活
性を高めるプログラムを作成できれば、母子間コミュニケーションに問題のある母親の
母親力のトレーニング法として活用できる可能性もある。また、今後、聴覚的因子につ
いても検討が必要だが、もし同様な実験結果が得られれば、母親が育児する上で右前頭
前野の活性化が重要であることとなり、右前頭前野の活性化に注目した、母子コミュニ
ケーション障害の診断法、治療法に応用できる可能性を広げる。
(4)研究成果の今後期待される効果
本研究の類似研究としては、母親を対象に乳児の表情や泣き声を提示刺激として、どこの
脳部位が活動を示すかについて、fMRI を用いて調べた報告がある(Lorberbaum, 1999, Noriuchi,
2007)。しかし、それらは母親のみが研究の対象であり、男性や未経産女性との比較を行って
いない。したがって、これまでの報告によると、乳児の文脈を含んだ視覚課題あるいは聴覚
課題に対して前頭前野の活動が増加したとされているが、母親に特異的な反応であるのか否
かは定かではなかった。本研究では、乳児情動識別課題遂行時の母親の右前頭前野において、
男性や未経産女性よりも高い脳活動を測定した。また、視覚・聴覚情報以外に嗅覚からの入
力でも同様に母親の右前頭前野の活動が見られることがわかった。したがって、母親の視線
や新生児の匂いに対する気分の変化は、未経産女性が学習・経験を積めば得られる反応とい
うよりもむしろ、妊娠・出産を通して大量のホルモンが分泌され、脳機能に変化をもたらし
ている可能性が高いと考えられる。したがって、今後、以上のような研究成果を元に、母親
の脳機能が変化するに至る脳内メカニズムを明らかにして行きたい。
25
【190401】
4.母子間コミュニケーションに関与する感覚情報の同定とそれを用いたバーチャル母
子間コミュニケーション法の作成
1)嗅覚
現在、多くの産科および小児科で母子同室や母乳育児が推奨されている。母乳が新生児に
必要な栄養や抗体を豊富に含むことから、授乳が身体的健康に重要であることはいうまでも
ない。しかし、現在はそのような肌と肌が触れあう距離での母子のコミュニケーションそれ
自身が母親や子の精神的、身体的状態に大きく影響を及ぼすことに注目が集まっている。カ
ンガルーケアは未熟児を母親の乳房の間に抱いて裸の皮膚と皮膚とを接触させながら保育す
る方法で、1979 年、南米コロンビアのボゴタで、保育器不足を補う未熟児の代替医療として
始まった。その後、体温調節(保温)、呼吸刺激(未熟児の無呼吸を刺激し、予防する) や
母子の愛着形成などその効果が見直され、先進国でも未熟児医療に積極的に取り入れられる
ようになった。事実、乳児の生存率の増加や精神発達に好影響を与えることが報告されてい
る(Whitelaw and Sleath, 1985)。しかし、このような極めて近い距離での母子間コミュニケーシ
ョンには、どのような感覚様態が関与しているかは明らかにされていない。近距離でのみ情
報が伝えられる触覚と嗅覚のうち、我々は嗅覚に注目して研究を行った。というのは、嗅覚
情報は大脳新皮質を経由せずに、直接、大脳辺縁系や視床下部に伝達されるため、情動や本
能とより深く関わっていると考えたからである。そこで、出生後早期の母子間コミュニケー
ションにおける嗅覚因子の探索を行う為に、①生後 5 日齢の新生児の痛みストレスに及ぼす
母乳の匂いの影響、②産褥期の母親の気分に及ぼす新生児の匂いの影響、を調べた。
①生後 5 日齢の新生児の痛みストレスに及ぼす母乳の匂いの影響
(1)研究開発目標
これまで、母親側からの匂いに関しては、母乳の匂いに対する新生児の嗜好性が注目され、
母乳と羊水の匂いへの嗜好性の比較や、自分の母親の母乳と他児の母親の母乳の匂いに対す
る嗜好性の比較、などの研究が行われている。また、生後1時間以内の新生児は、母親の腹
部に置かれると、母乳の匂い(フェロモン)によって誘導され、母親の乳首に向かって移動
し、吸いつくことも示されている(Varendi et al., 1994)。さらに、最近では母乳の匂いがヒト新
生児の痛みストレスに及ぼす効果が報告されたが、その匂い成分を示唆するようなデータは
記載されていない(Rattaz et al., 2005)。そこで、本研究では、母乳の匂いが新生児の痛みスト
レスを軽減するかを調べ、さらに、それは他児の母親の母乳や人工乳の匂いでも可能である
か、凍結・融解を繰り返した母乳についても可能であるか、どのような匂い成分や条件が新
生児の痛みストレスを軽減する効果に関与しているのか、を明らかにすること目的とした。
また、母乳中の匂い成分について単一物質レベルでの探索を試みることを目的とし、母乳中
の揮発性成分を GC-MS 分析により調べた。
(2)研究実施内容及び成果
実験1)行動データに基づく検証
新生児のガスリー検査(全ての新生児を対象として行われる先天性代謝疾患のスクリーニ
ング)の為に行われる踵採血の前後の行動(泣き声、しかめ面、体動)を指標に、生理食塩
水、自分の母親の母乳、他児の母親の母乳、人工乳の匂いの痛みストレスに及ぼす影響を調
べた。実験は、生後 5 日目の新生児 48 人を対象とした(表 1)。実験は採血を行う 3 分前か
ら開始し、10 分間行った。その間、エアーポンプ(2 L / min)による匂い曝露、ビデオカメ
ラによる泣き声と表情の記録、マイクロアクチグラフによる体動の記録を行った(図 1)。1)
泣き声、2)しかめ面の解析は、単位時間あたりの持続時間の割合を測定し、3)体動につ
いては、AW2(A.M.I 社製解析ソフト)により単位時間あたりの活動量を測定した。
採血後、いずれの指標に関しても、母親の母乳の匂いは、生理食塩水に比べ、新生児のス
トレス反応を軽減した(図 2)
。一方、他児の母親の母乳、人工乳には、生理食塩水と変わら
ず、母親の母乳の匂いのようにストレス反応を減少させる効果はみられなかった(図 2)
。そ
こで、母親の母乳の匂いは新生児の痛みストレスを軽減する可能性が考えられるため、この
成果の社会への応用を考え、凍結保存・融解の作業を行った母乳についても凍結させていな
26
【190401】
い母乳と同様の効果が得られるか否かを検証した。その結果、凍結・融解後の母親の母乳で
あっても凍結させていない母乳と同様の効果があることが確かめられた(図 3)
。
表1.各実験群毎の被験児の状態
新生児
性別
コントロール
(n=12)
母母乳
(n=12)
他母乳
(n=15)
人工乳
(n=9)
合計
(n=48)
6
6
7
5
10
5
5
4
28
20
男児
女児
在胎週数 (w)
体重 (g)
39.2±0.5
39.9±0.3
39.4±0.2
39.8±0.3
39.6±0.2
3092±126
3184±85
2985±88
3106±91
3084±50
2.0±0.6
219±43
1.5±0.2
192±38
1.8±0.3
243±39
1.6±0.1
202±20
5
4
3
9
3
3
2
4
3
22
14
12
踵採血
1.3±0.3
回数(回)
144±16
要した時間 (s)
行動状態
6
寝ている (状態 1, 2)
起きている (状態 3, 4) 3
機嫌が悪い (状態 5) 3
母親
初産 / 経産
4/8
6/6
5 / 10
5/4
20 / 28
経膣分娩/ 帝王切開 11 / 1
12 / 0
13 / 2
9/0
45 / 3
ビデオカメラ
DAT
(マイク)
泣き声の持続時間の測定
アクチ
グラフ
しかめ面の持続時間の測定
活動量の測定
匂いの曝露 (2L / 分)
-3
0
3
6
踵採血 経過時間(分)
匂い曝露(2L /分)
9
図1.実験中の行動データの記録
泣き声持続時間( %)
60
b, c
40
a, b, c
20
0
しかめ面持続時間( %)
踵採血
80
-3
100
0
3
6
9
80
60
a, b, c
40
a, b, c
20
0
-3
1000
0
3
6
9
60
40
20
-3
100
0
3
6
9
3
6
9
3
6
9
踵採血
80
60
40
20
-3
1000
0
踵採血
800
600
b, d
活動量
活動量
踵採血
80
0
踵採血
800
a, b, c
a, b, c
400
200
0 -3
100
0
踵採血
しかめ面持続時間( %)
泣き声持続時間( %)
100
600
400
200
0
3
経過時間 ( 分 )
生理食塩水 (n=12)
母母乳 (n=12)
図2.母母乳の匂いの効果
6
0
9
他母乳 (n=15)
人工乳(n=9)
-3
0
母母乳(凍結) (n=4)
One way ANOVAに続き、Fisher’s PLSD検定を行った。
a: 母母乳vs.生理食塩水 b: 母母乳vs.他母乳
c: 母母乳vs.粉ミルク d:生理食塩水vs.他母乳
図3.凍結母母乳の匂いの効果
27
母母乳 (n=8)
母母乳の凍結群との差は見られなかった
【190401】
唾液中コルチゾール濃度変化量
(μg / dL)
実験2)唾液中コルチゾール濃度変化に基づく検証
母親の母乳の匂いが新生児の痛みストレスを軽減する可能性を行動データに基づき検証し
てきた。本研究では、さらに同様の実験条件下において、実験前とその 20 分後に新生児の唾
液採取を試み、生理食塩水を曝露した場合(n=13)と母親の母乳の匂いを曝露した場合(n=11)
の唾液中コルチゾール濃度の変化を調べ、内分泌学的反応の比較検討を行った。また、踵採
血の平均回数(生理食塩水群:2.53±0.31〔平均±標準誤差〕秒 vs. 母乳群:2.45±0.39〔平
均±標準誤差〕秒)と採血に要した平均時間(生理食塩水群:310±33.7〔平均±標準誤差〕
秒 vs. 母乳群:323±39.2〔平均±標準誤差〕秒)に実験群による違いはみられなかった。唾
液の採取は、新生児用に開発された唾液採取用具(ソルベット)を用い、94.7±7.6〔平均±
標準誤差〕μl/回程度を採取した。その結果、生理食塩水では実験前に比べ、20 分後の唾液
中コルチゾール濃度が有意に増加したことに対し、母親の母乳の匂いでは実験前に比べ、有
意な変化が見られなかった(図 4)
。このことから母親の母乳の匂いは新生児の痛みストレス
を軽減する可能性が示唆された。
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
-0.1
-0.2
-0.3
生理食塩水(n=13)
母母乳(n=11)
*
実験前と20分後を対応のあるt検定
により比較した。
*: p<0.05
実験前
20分後
図4.唾液中コルチゾール濃度変化
実験3)母乳中匂い成分の GC-MS 分析による同定
これまで母乳の匂いが新生児の痛みストレスを軽減する可能性を検証してきた為、母乳中
のどのような匂い成分が効果を及ぼしているのかを調べる為に GC-MS(ガスクロマトグラム
質量分析)による定性分析を行った。一方、これまでウサギにおいて、母親ウサギの母乳中
成分である 2MB2 が新生仔を惹きつけることが同定されている(Schaal, 2003)
。そこで、同様
にヒト母乳中にも 2MB2 が含まれていないかについても検討した。
産後 3-4 日の母親の母乳サンプルをサーマルディソープションオートサンプラ付ガスクロ
マトグラフ質量分析計 TD-20 / GCMS-QP2010 (島津製作所)を用いて加熱脱着 GCMS 分析
を行った。サンプルの前処理として、30℃の水浴中でインピンジャー(Supelco / 20270-U)に
ホールピペットを用いて試料 4 mL を移し、高純度ヘリウムガスを 50 mL/min の流量で 30 分
間供給した。このとき追い出された気体を Tenax TA 捕集管(島津製作所 / 223-57102-91)で
捕集し、加熱脱着-GCMS 法により測定した。なお、Tenax TA 捕集管は予め STC-353 を用い、
高純度ヘリウムガスを 50mL/min 程度通気しながら、280 ℃で 3 時間保持しコンディショニン
グを行った(図 5)
。また、NIST/EPA/NIH Mass Spectral Library(Data Version : NIST 05)を用い
てマススペクトルのライブラリ検索を行い、一致率が高かった物質を母乳の匂い成分の候補
として定性を行った(表 2)
。しかし、どの物質が単体あるいは複数で実際に効果を及ぼして
いるかを調べることが今後の課題である。また、ウサギフェロモンである 2MB2 は、ヒト母
乳中には存在しないことだけはわかった。
以上の結果から、母乳の匂いは新生児の痛みストレスを軽減するが、それは自分の母親の
母乳に限定されていることがわかった。生殖年齢の女性が男性の HLA 型を匂いで区別するよ
うに、新生児が母乳の匂いから母親の HLA 型を認識して、他の母親と区別しているのか、学
習効果によって他の母親と区別しているのかを明らかにすることが今後の課題であろう。
28
【190401】
図5. 捕集装置の概観(左:全体図,中:拡大図,右:インピンジャー)
表.2 ライブラリと高い一致率を持った物質
Pentene
Hexane
2-Propanol
Isopropyl Alchol
1-Pentene
2-entanone
Propane
Acetone
Furan
Methyl Isobutyl Ketone
Amylene Hydrate
Toluene
2, 4-Dimethyl-1-heptane
Hexanal
2-Butanone
Benzene, 1, 3-bis (1, 2-dimethylethyl)
②産褥期の母親の情動に及ぼす新生児の匂いの影響
(1)研究開発目標
産後 1-2 日間子と過ごすだけで母親は匂いで自分の子を識別することができることや
(Porter et al., 1983, Kaitz et al., 1987)、出産直後の母親は未経産の女性に比べて新生児の匂いを
快いと評価することが報告されている(Fleming et al., 1993)。しかし、母親は自分の子の匂いに
のみに快いと感じるのか、あるいは他の子の匂いに対しても快く感じるのかは明らかにされ
ていない。さらに、新生児の匂いが母親のその他の気分にどのような影響を及ぼすかは調べ
られていない。そこで、我々は産後 4-5 日の母親を対象に、新生児の匂い(自分の子、他の
子)が母親の気分にどのような影響を及ぼすのかを調べた。また、未経産女性、産後 1 ヵ月
の母親に対しても同様な実験を行い、新生児の匂いの効果は出産を通して生じる反応である
のか、また、出産後であればどの時期ならば影響を及ぼすのかについて調べることを目的と
した。
(2)研究実施内容及び成果
実験は、産後 4-5 日目の母親 19 人を対象とした。生後 3-4 日の新生児が朝の沐浴後から翌
日の沐浴前まで着用した肌着を 50 cm2 に切り取り、-80℃で保存した。また、新生児が着用し
ていない肌着を同様に切り取ったものも保存した(対照群)
。母親には、実験当日、対照群を
含む 4 種類の肌着の匂い(解凍し 37℃で暖めたもの)を 1 分間ずつ嗅ぎ、気分の変化を評価
するよう依頼した。気分の評価は、POMS(Profile of Mood State)に含まれる①不安、②意欲、
③怒り、④興奮・鎮静、⑤疲労感、⑥混乱について評価した。その他に、⑦快・不快、⑧気
29
【190401】
分、⑨幸福感、⑩親しみ、⑪母性、⑫眠気、⑬性的覚醒、⑭匂いの強さ、⑮匂いの嗜好性、
についても評価した。評価法は VAS (Visual Analogue Scale)を用いた。
その結果、⑮匂いに対する嗜好性の増加、⑦快情動の増加、②意欲の増加、⑧気分の改善、
⑩親しみの増加、③怒り情動の低下、が、自分の子に限って見られることがわかった(図 1)
。
従って、母親は自分の子どもの匂いを特に好み、快く感じ、意欲、気分、親しみが増し、怒
り情動を低下させることが示唆された。ところが、①不安、⑤疲労感、⑥混乱の軽減、⑨幸
福感の増加、⑪母性の増加は、自分の子に限らず、他の子の匂いでも同様にも認められるこ
とが分かった(特願 2005-301012)
(図 1)
。したがって、新生児の匂いは、その由来が誰の子
であれ、産褥期の母親の不安、疲労感、混乱を軽減し、抑うつ気分を軽減し、母性を増す効
果が期待される。
一方、母親との比較として、未経産の成人女性 12 人を対象に同様の実験を行ったところ、
いずれの項目においても新生児の匂いによる有意な気分の変化はみられなかった(図 2)
。し
たがって、新生児の匂いは、母親になった女性に特異的に効果を及ぼす可能性が示唆される。
そこで、産後 4-5 日の母親に限らず、母親であればこのような効果が続くのかを調べる為に、
1 ヵ月検診時の母親 9 人(出産後 31±1.0〔平均±標準誤差〕日)を対象に同様の実験を行っ
た。
嗜好性
5
**
4
3
2
不安
4
4
3
1
0
0
-1
-1
-2
-2
-3
-3
-4
-4
-5
*
-5
疲労感
3
*
2
1
意欲
*
2
-5
-5
母性
4
3
2
**
0
0
-1
-1
-2
-2
-2
-3
-3
-3
-3
-4
-4
-4
-4
-4
*
-5
-5
気分
*
幸福感
5
*
4
3
-5
-5
親しみ
5
4
3
2
2
1
**
1
-2
-2
-3
-3
-4
-4
-5
-5
-5
気分
5
4
4
-5
親しみ
5
5
4
4
4
3
3
3
3
3
2
2
2
2
2
1
1
1
1
0
-1
-1
-1
-1
-1
-1
-2
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-4
-5
-5
-5
-5
-5
0
0
0
-5
-5
0
0
-5
母性
コントロール
他の新生児の匂い
自分の新生児の匂い
(n=19)
*
One way ANOVA
followed by Fisher’s
PLSD post hoc test
*:P<0.05
図1.出産後4-5日の母親の結果(正常児)
5
5
4
4
3
2
1
0
3
2
1
0
0
-1
-1
-2
-2
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-3
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-4
-5
-5
幸福感
1
0
-1
-2
-3
2
0
-5
混乱
5
-1
1
-1
-5
疲労感
5
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3
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0
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1
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0
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1
0
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興奮
5
1
0
1
*
2
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0
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3
2
-4
1
*
4
3
2
-2
2
-4
5
4
3
2
-1
4
*
快・不快
5
4
3
2
0
3
-3
怒り
5
4
3
-3
5
-1
意欲
5
4
1
1
不安
5
-4
2
-2
嗜好性
**
-2
4
*
2
-1
3
0
3
2
1
1
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1
4
3
0
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-3
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4
-3
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-1
快・不快
5
-2
3
-2
**
-1
混乱
5
怒り
5
5
興奮
コントロール
新生児の匂い
(n=9)
図2.未経産女性の結果(正常児)
1 ヵ月検診時の母親では、生後 3-4 日時の新生児の匂いについては、いずれの項目において
も新生児の匂いによる有意な気分の変化はみられなかった。しかしながら、1 ヵ月検診の前
日より集めた新生児の匂いに対しては、産後 4-5 日の場合と同様に、⑮匂いに対する嗜好性
の増加、⑦快情動の増加、②意欲の増加、さらに⑪母性の増加、が自分の子に限って見られ
ることがわかった(図 3)。したがって、出産後約 1 ヵ月の時点では、出産後 4-5 日の時ほど、
調査した項目について有意な増加は見られず、他の子の匂いに対する効果は見られなかった。
これは出産後 4-5 日時の方がむしろ、出産直後に高まっていたホルモンの影響で一過性に反
応性が高まっていたことが推測される。Fleming らによると、出産後 2 日目の母親では唾液中
コルチゾール濃度が高い程、新生児の匂いを快く感じるとされている(Fleming, 2002)。この為、
出産直後に分泌されるコルチゾール、プロラクチン、オキシトシンといったホルモンが新生
児の匂いに対する反応性に関与している可能性が考えられるが、これらとの関係を調べるこ
とは今後の課題である。
嗜好性
5
4
#
3
不安
意欲
5
5
4
4
3
3
**
怒り
快・不快
5
5
4
4
3
3
2
2
2
2
2
1
1
1
1
1
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0
0
0
0
-1
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-4
-5
-5
-5
-5
疲労感
混乱
気分
-4
-5
幸福感
親しみ
5
5
5
5
5
4
4
4
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3
3
3
3
3
2
2
2
2
2
1
1
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0
0
0
0
0
-1
-1
-1
-1
-1
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-3
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-3
-3
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-4
-4
-5
-5
-5
-4
-4
-5
-5
母性
5
4
3
2
1
**
**
興奮
5
4
3
2
1
0
0
-1
-1
-2
-2
-3
-3
-4
-4
-5
-5
コントロール
他の新生児の匂い
自分の新生児の匂い
(n=9)
One way ANOVA
followed by Fisher’s
PLSD post hoc test
*:P<0.05
図3.1ヵ月後の母親の結果(正常児)
30
【190401】
(3)研究開発成果の社会的含意、特記事項など
最近、出生早期に頻回に受ける痛みストレスは、子のその後の精神・身体的発達に大きな影
響を与えることが問題になっている。特に未熟児は入院による治療が必要で、頻回の採血に
よる痛みストレスを経験することも多いため、痛みストレスを緩和する代替療法が求められ
ている。母乳の匂いを病院で実際に応用することを考えると、母乳の凍結保存が不可欠であ
る。そこで、凍結・融解により活性が減弱しないか否かについても検討した。その結果、母
乳は凍結・融解を行っても、新生児の痛みストレス反応を減少させることが分かった。 (特
願 2005-301012)。以上のことから、保育器の中にバーチャルな匂い環境を作り、未熟児の発
達に及ぼす効果を調べていきたい。
一方、匂いが伝わる距離での母子間コミュニケーション、所謂スキンシップはマタニティ
ーブルースの症状を軽減する可能性がある。また、新生児の匂いは、自分の子の匂いに限ら
ず、母親の気分を変えうるので、新生児には共通した匂い成分(必ずしも単一成分かどうか
は分からない)の存在を示唆する。フェロモンは、
「動物個体から放出され、同種他個体に“特
異的な反応”を引き起こす化学物質」と定義されている。
“特異的な反応”としては、行動と
ホルモンの変化が挙げられているが、ヒト同士の関わりにおいては気分も重要な反応である
ことを考えると、新生児由来の母親の気分を変えるフェロモンが存在する可能性も考えられ
る。今後は未熟児の母親の場合、母親側に対してもわが子の匂いを積極的に活用し、マタニ
ティーブルースの症状の緩和に繋げる臨床応用について取り組んで行きたい。
(4)研究成果の今後期待される効果
これまで、母親側からの匂いに関しては、母乳の匂いに対する新生児の嗜好性が注目され、
母乳と羊水の匂いへの嗜好性の比較や、自分の母親の母乳と他児の母親の母乳の匂いに対す
る嗜好性の比較、などの研究が行われている。また、生後1時間以内の新生児は、母親の腹
部に置かれると、母乳の匂い(フェロモン)によって誘導され、母親の乳首に向かって移動
し、吸いつくことも示されている(Varendi et al., 1994)。さらに、最近では母乳の匂いがヒト新
生児の痛みストレスに及ぼす効果が報告されたが、その匂い成分を示唆するようなデータは
記載されていない(Rattaz et al., 2005)。一方、本研究では、自分の母親の母乳の匂いによって
新生児の痛みストレスが軽減されること、それは一旦、凍結・融解を行っても効果が減弱し
ないこと、さらに、人工乳、他の母親の母乳の匂いでは効果がないこと、がわかった。これ
により、今後の展開としては、自分の母親の母乳の匂いを活用した未熟児の痛みストレスを
軽減させる取り組みを行い、出生後早期からの母子間コミュニケーションの支援に繋げて行
きたい。
一方、新生児の匂いに関しては、これまでに母親の識別能力について研究が行われていた
が(Kaitz, 1987)
、その効果についての研究はほとんどなかった。唯一、Fleming らにより、
新生児の匂いに対する評価と母親の心理状態や他の女性などとの比較が行われていたが、こ
れらは予め新生児の匂いであることがわかっている前提の下、行われている為、実験的に効
果を調べたものではない(Fleming, 1993)。一方、本研究では、特に出産後数日の母親に対し
ては、新生児の匂いが母親の気分を改善すること、出産後 1 ヵ月を経過すると、その効果は
出産後数日の時程、多くを改善しないが、自分の子の匂いへの嗜好性は強く、快情動が特に
高まること、未経産の女性に対しては新生児の匂いは効果を及ぼさないこと、がわかった。
これにより、今後の展開としては未熟児の母親に対してわが子の匂いを積極的に活用し、出
産後の気分の改善やその後の母子間コミュニケーションの円滑化が図れるか否かの実証を行
い、母親側に対しても出生後早期からの母子間コミュニケーションが必要であることを提案
して行きたい。
31
【190401】
2)視覚
(1) 研究開発目標
人間は環境から情報を得る際、視覚系の働きに大きく依存している。対人コミュニケーシ
ョンもその例外ではなく、他者とコミュニケーションをとる場合には、相手の表情や視線、
あるいは身振りからその心理状態や意図に関して様々な情報を汲み取らなくてはならない。
では、視覚系が未発達な乳児の場合はどうであろうか?多くの発達科学者らがとりくんでき
たこの問題に、未だ明確な答えは出ていないが、およそ 7 ヶ月前後ではすでに基本 5 表情(驚
き、恐れ、喜び、怒り、悲しみ)の識別が可能であり(Nelson, Morse & Leavitt, 1979)、生ま
れて間もない新生児でさえ視線がそれた顔画像よりも、自分を直視している顔画像を好んで
みるとの報告がある(Batki et al, 2000)。一方、近年、成人を対象とした研究の結果、視線の認
知と表情の認知は独立に行われているのではなく、相互に影響を及ぼしあっていることが明
らかにされつつある。例えば、Sato ら(2004)は、fMRI(機能的核磁気共鳴装置)を用いた脳
イメージング研究の結果、怒り顔観察中の扁桃核の活動は、顔画像の視線が被験者から逸れ
ている場合に比べ、顔画像が被験者を直視している場合に増大することを見出している。扁
桃核は情動を発生させる脳機能部位とみなされていることから、母子間の情動的なコミュニ
ケーションにおいても、視線と表情は密接に関係していると考えられる。これらを踏まえて
我々は、相手の視線が乳児に向けられているか否かが、乳児の表情認識に影響を与えている
のではないかとの仮説を立てた。
本研究では、この仮説を検討し、視覚を介した母子間コミュニケーションについて理解を
深める目的で、乳児の注視点移動を指標とした行動学的研究を実施した。
(2) 研究実施内容及び成果
研究では、2 種類の視線方向(直視-逸らせた視線)と 2 種類の表情(喜び顔-怒り顔)
を組み合わせて作成した図 1 のような計 4 種類の顔画像(ATR DB99 データベースより)を
観察中の乳児が顔のどこに注目しているのかを、Tobii Eye Tracker を用いて検証した。
母親に伴われて研究室に到着した乳児は、母親の膝の上に座って、Eye Tracker の画面に向
かい合う。実験室の明かりは薄暗くなっており、Eye Tracker の周囲はカーテンに覆われてい
る。このため、実験の最中は、Eye Tracker の画面以外に、乳児の注意を逸らすようなものが、
乳児の目には入らないようになっている。図 2 に実験室の様子を図示してある。実験中の乳
児の様子は、Eye Tracker の画面の下に設置された小型の CCD カメラで記録されており、実験
者はカーテンの裏から乳児の様子を観察しながら実験をコントロールできるようになってい
る。
図 1 実験に用いた 4 種類の顔画像
様子
図 2 実験に参加している乳児とその保護者の
部屋の明かりが薄暗くなり、実験が開始されると、画面にはカラフルな幾何学図形が、効
32
【190401】
果音とともに提示され、乳児の注意を画面にひきつける。乳児が Eye Tracker の画面を見てい
ることを実験者が確認すると、実験者は手元の PC を操作し、上述したような 4 種類の顔画像
のうち、いずれか一種類を画面に提示する。顔画像が提示されてから 1 秒後に、画面には乳
児の周辺視野に、乳児の注意を顔画像から逸らせるような刺激(ターゲット)が提示される。
乳児が観察する実験画面の移り変わりを、図 3 に図示した。このような手続きを 4 種類の顔
画像すべてについて複数回繰り返し、その際の乳児の注視点の動きを記録した。
図3
Eye Tracker の画面に表示される刺激
図 4 各表情画像に対する SRT
分析では、アイカメラで記録したデータを基に、乳児が顔画像から注意を逸らせてターゲ
ットに注視点を移動させ始めるまでの時間(SRT: Saccadic Eye Movement)を計測し、条件間
で比較した。
先行研究により、ある対象を観察中に、ターゲットを提示された場合、乳児が対象に強く
注意を向けている程、SRT が長くなることが知られている。これをふまえて、視線と表情を
組み合わせた 4 種類の顔刺激を観察している際の SRT を分析することで、乳児の注意をひき
つける上で、表情と視線がどのような役割を果たしているのか、またどのような影響を及ぼ
しあっているのかを明らかにするのが、この実験の狙いである。
各表情刺激に対する乳児の SRT を図 4 に図示してある。分析の結果、視線が乳児の方向を
向いている場合、怒り顔を見ているときの SRT が喜び顔を見ているときよりも長くなった。
一方、視線が乳児から逸れている場合には、このような差は見られなかった。この結果は、
乳児は相手の視線が自分の方を向いているときには、表情によって異なる反応を示すが、相
手の視線が自分から逸れているときには、表情の違いに反応していないことを示している。
したがって、乳児の表情に対する敏感性を向上させる能力が、直視にはあることを示唆して
いると考えられる。
このように、本研究の結果、他者の表情に対する乳児の敏感性は、相手が乳児のほうに視
線を向けているか否かに大きく影響を受けることが示された。言葉を関しない乳児を持つ母
親にとって、表情は乳児に対する愛情を伝えるためのコミュニケーションチャンネルである
のみならず、乳児に“してもいいこと”と“してはいけないこと”との違いを教えるための重要
な教育手段の一つでもある。今回の研究の意義は、このように乳児と母親との母子間コミュ
ニケーションにおいては、乳児は他者の表情に常に反応しているわけではなく、相手の視線
が自分に向けられているときのみ=相手が自分に注意を向けているときのみ、相手の表情を
読んでいることを、客観的指標を用いて示した点にある。
(3) 研究開発成果の社会的含意、特記事項など
古くから、“語りかけるときはまっすぐに眼をみて話さなければならない”と伝えられてき
た。今回の研究の結果は、これまで俗説としてのみ語られてきたこの教訓を子育てに活かす
ことが、発達初期の健全な母子間コミュニケーションを行い、ひいては母子間に愛着関係を
33
【190401】
育む上で有効である可能性を、科学的に示したものと考えられる。
近年、子育てに不安を持つ母親が増えてくるに伴って、様々な子育て論が巷間を賑わせる
ようになった。しかし、その一方で、核家族化の進展により、世代から世代へと受け継がれ
てきた子育ての知恵が、うまく継承されず忘れられつつあることも、また事実である。今回
の研究は、科学的検証を通じて、語り継がれてきた子育ての知恵に改めて光をあて、その重
要性を見直すきっかけを作ったという意味で、社会的にもインパクトのある研究であると考
えられる。
(4) 研究成果の今後期待される効果
本研究は、発達初期の母子間コミュニケーションにおける視線の効果を証明することで、
“語りかけるときはまっすぐに眼をみて話さなければならない”との俗説が、現実の子育て場
面でも重要であることを示した。今後は、学会発表、論文公表などを通じ、本研究で得られ
た知見を広く発信していくことで、世代間で伝承されてきた子育ての知恵の再評価を促すこ
とが出来るものと期待される。
34
【190401】
3)聴覚:マザリーズの子に及ぼす影響と音響学的特徴解析
(1)研究開発目標
マザリーズと呼ばれる子に向けられた音声(Infant-Directed speech; ID)と、成人に向
けられた音声(Adult-Directed speech; AD)の音響的差異として、1) 声の調子(ピッチ)
が高くなる、2) 声の強弱が誇張される、3) ゆっくりと話す(話速が減少する)、こと
が報告されている。また、子に向けられた単語音声と成人に向けられた単語音声を左右
から乳児に提示すると、子に向けられた単語音声の方をより長く注視するといった報告
もされている。つまり、マザリーズは子の注意を引く話し方であると言えよう。しかし、
現代社会において少子化・核家族化・地域社会の崩壊などにより、女性が出産や育児に
触れ合う機会が減少し、マザリーズを使えない母親も少なく、抑うつ状態の母親では、
マザリーズの音響的特徴が減少しているとの報告もある。また、これまで明らかにされ
てきたマザリーズの音響的特徴は単語レベルでの解析がほとんどであり、実際の話し言
葉といった文章での解析は行われていない。そこで、本研究では、ID(マザリーズ)と
ADの文章単位での音響的特徴の差異を明らかにし、マザリーズの音響的特徴を明らかに
することを目的とする。
本研究では、この目的を達成するために、個人差の影響が大きいことを考慮し、多数
のIDおよびAD音声を収録してそれぞれのデータベースを作成し、データベース中の音声
からピッチの特徴を含まない特徴量抽出法により特徴を抽出し、話速の情報を含まない
統計的モデル化手法による解析を行う、という戦略をとることで対応した。また、出来
上がったデータベースに、未知の音声を入力し、IDおよびADのどちらのモデルに適合し
ているかを示すスコアを比較し、ID / ADを識別する実験を行い、高い識別正解率が得ら
れるかどうかを確認する。これにより、ピッチ・話速以外の音響的特徴の差異が抽出さ
れ、モデル化されていることを示す。
次に本識別手法を評価するため、実際に乳児に対して選考聴取反応にもとづく実験を
行い、その妥当性を検証した。そのため、特に識別正解率の高かった話者のIDおよびAD
を乳児に提示し、IDをより長く注視するかどうかを調べた。
(2)研究実施内容及び成果
<ID / AD識別実験フロー>文章単位での音響的特徴を解析するために、文章の題材とし
て絵本を用いた。本研究では、絵本中の文章をもとにIDおよびADを多数収録し、IDデー
タベースとADデータベースの作成を行った。次に、データベース中の音声から、特徴量
を抽出した。今回抽出した特徴量は、MFCC (Mel-Frequency Cepstral Coefficients)と呼ば
れ、音声認識、話者識別、感情識別などに広く用いられている。一般的にMFCCは、10
次元程度の低次の解析では声道の形状の特徴の解析に用いられ、50次程度の高次の解析
では声帯の振動の解析に用いられており、MFCCはそのどちらか一方の特徴を分離して
抽出できるという性質をもつ。したがって、本研究で扱う音声は12次元までの低次の情
報、つまり、声道の形状情報のみを対象としており、声帯の振動、つまり、ピッチの情
報を含まない特徴量の抽出方法とした。ここで得られた特徴を音素(音声を弁別するた
めの最小単位で、日本語では43種が定義されている)ごと、ID・ADごとにモデル化する。
モデル化には、HMM(Hidden Markov Model; 隠れマルコフモデル)を用いた。HMMは、音
声の時間的伸縮性を吸収するモデル化手法として音声認識に導入され、その後、話者識別や
感情認識などでも広く用いられている統計的モデル化手法である。以上の識別フローを図1
に示す。
<音声収録> 被験者である母親12名(平均31.5±3.5歳)が、その子(平均8.80±0.25ヶ月)に
対して絵本を詠み聞かせた音声(ID)と、成人女性に向けて読み聞かせた音声(AD)を収録
した。読み聞かせ音声は、母親にヘッドセットマイク(Shure社製 SM10A)を装着し(図2 左)、
DAT (SONY社製TCD-D100)でデジタル保存した(図2 右)。その後、EDIROL(Roland社製
UA101) を介してPCに取り込んだ。読み聞かせに用いた絵本は6種類(図3)で、被験者ごと
に2冊をランダムで選んだ。また、被験者はIDとADの両音声の収録を行ったが、IDとADの収
録順序はランダムとした。
35
【190401】
<特徴量抽出> 収録した音声から、特徴量としてピッチの情報を含まない12次元のMFCCを
抽出した。同時にその微分成分であるΔMFCC12次元とΔ対数パワーも算出して、計25次元の
特徴量ベクトルとした。特徴量ベクトルは10ミリ秒ごとに算出した。
<モデル化> 上記の特徴量を用いて音素ごと、ID / ADごとに、話速の情報を含まないHMM
を作成した。
<音声分析> 収録した音声のピッチと話速について、先行研究と一致するかどうかを以下の
ように確認した。まず、発話ごとに平均ピッチ(Hz)を求め、話者ごとにIDとADの平均ピッ
チを比較したところ、12名中10名でIDのピッチがADのピッチより有意に大きくなった
(Wilcoxon matched-pair signed-rank test)。全体では、IDのピッチが257.9Hz、ADのピッチが
233.8Hzとなり、その差は有意であった(paired student t-test; p<0.01; 図4.左)。次に、話速につ
いて、音素継続時間長による比較を行った。入力音声の強制切り出し(force alignment;発話内
容を既知として、入力音声の正解音素列を与え、その音素列に従って音素モデルを並べてス
コア最大になるよう、音素境界を決定する手法)を行い、得られた音素ごとの継続時間の平均
を求めた。話者ごとにIDとADの音素継続時間長を比較したところ、12名中9名でIDの音素継
続時間長がADより有意に大きくなった(Wilcoxon matched-pair signed-rank test)。全体話者の
平均音素継続時間長では、IDが110.1ミリ秒、ADが96.6ミリ秒となり、その差は有意であった
(paired student t-test; p<0.01; 図4.右)。これらの結果から、今回収録した絵本読み聞かせ音声
は先行のマザリーズ研究と同様に、子に向けられた音声(ID)は成人に向けられた音声(AD)
よりも、ピッチが増加し、話速が減少(音素継続時間長が増加)することが確認された。
<ID /AD識別実験> 収録した音声のうち1.5秒以上の発話を評価用データとした。評価用デ
ー タ が モ デ ル 学 習 用 デ ー タ に 含 ま れ な い よ う に す る た め 、 話 者 に 関 す る Leave-one-out
cross-validation 法による識別実験を行った。
<結果> 話者12名の526文の発話スタイルを識別したところ平均で80.6%のID / AD識別正解
率を得た。これは、チャンスレベル(50%)から、61.2%の改善率を示したことになる。ピッ
チの特徴を含まない特徴量抽出法であるMFCCと、話速の情報を含まないモデル化手法であ
るHMMを組み合わせて用いることによりIDとADを識別できることから、IDとADには、ピッ
チ・話速以外の音響的特徴の差異が存在することが示唆された。
<考察> まず、今回の識別手法では、入力音声のIDモデルとADモデルに対するスコアから、
IDかADかを識別した。これら2つのスコアの差を指標として、ID音声(マザリーズ)らしさ
を定量化できると考えられる。次に、ID / AD識別率の被験者ごとの識別正解率を図5にまと
める。この図では、識別率の高い順に並べて示している。被験者10, 16, 04は、チャンスレベ
ルからの改善率が75%を超えており、ID / ADの識別が高性能に行えているが、被験者12, 11, 07
は改善率が50%未満と、識別性能が高いとはいえなかった。原因としては、モデル学習に用
いた話者の数や発話数が十分ではないためモデルが頑健ではなかった可能性が考えられるが、
改善率の高かった3名の被験者が、低かった3名の被験者と比べて、IDとADの声質に差が大き
かったとも考えられる。つまり、子に対しての読み聞かせにマザリーズの声質的特徴がよく
現れていた可能性がある。そこで、これら3名の音声を乳児が好むかどうかを、選好聴取反応
にもとづく次の実験で検証した。
特徴量を
抽出し、
モデル化
ID音声
データベース
HMM
IDモデル
未知の入力
音声波形
IDスコア
ID or AD
ADスコア
MFCC
識別結果出力
スコア
比較
特徴量
抽出
スコア
計算
特徴量の
時系列データ
ADモデル
AD音声
データベース
図1
ID /AD音声識別のフロー
36
【190401】
図2
読み聞かせに用いた絵本
図3
収録風景(左)と録音機材(右)
140.0
300.0
音素継続時間長 (ミリ秒)
平均ピッチ (Hz)
280.0
260.0
257.9
240.0
233.8
220.0
110.1
100.0
96.6
80.0
60.0
200.0
ID
図4
120.0
AD
ID
AD
収録したIDおよびADのピッチ(左)と話速(右)の分析結果
ID/AD識別正解率 (%)
95.0
90.0
85.0
80.0
75.0
70.0
65.0
60.0
10
図5
16
04
09
03
19 06
話者
08
18
12
11
07
話者ごとのID / AD識別正解率(識別正解率順)
37
【190401】
<選好注視法> 乳児の音刺激に対する選考聴取反応を実験的に確認する方法として、選好注
視法(Head-turn Preference Procedure; HPP)が広く用いられている。そこで、先の実験で収録し
たID / AD音声を乳児に聴取させ、どちらを好むかを確認した。
<実験環境> 図6に示したブース(W1.2m×D1.2m×H1.8m)に被験者である乳児とその母親に
入室してもらい、回転椅子(⑤)に着座してもらった。ブースは白いペグボード(①穴の開
いたボード)で三方を囲われており、乳児の注意が逸れないよう、照明(⑥)は薄暗くして
いる。正面および左右には、この注意を引くためのライト(②正面:青、左右:赤)が取り
付けてあり、正面ライトの下には動画カメラ(④)、左右ライトの下にはスピーカー(③)
が設置してある。なお、刺激音声を母親が聞き、その影響が乳児に伝わるのを防ぐため、母
親にはヘッドホンを装着してもらい、実験中は音楽を流した(図7)。
1
6
1
1
2
2
2
4
3
3
5
図6
HPP収録ブース
<刺激音声> 刺激として用いた音声は、先の実験でID / AD識別改善率が高かった3名の母親
が自分の乳児に向けて絵本を読み聞かせた声(ID)と、成人女性に向けて読み聞かせた音声
(AD)で、その中からランダムで選ばれた音声の文頭から4.2秒を切り出した。
<プロトコル> まず正面の青ライトを点滅させて乳児の注意を正面に引き、次に左右どちら
かの赤ライトを点滅させる。その方向を乳児が向いた瞬間にIDかADの音声のいずれかをラン
ダムで流す。その様子を正面のビデオカメラで撮影し(図7)、収録動画像を解析することで、
音声に対する注視時間を計測した。これを12回繰り返してIDおよびADへの注視時間の平均を
求めた。
<結果> 乳児15名(平均8.2±ヶ月; 男児:女児=7:8)とその母親に対して、実験を行なった
ところ、IDへの平均注視時間は4.06秒で、ADは3.94秒であった(図8)。また、15人中11人の
乳児はADよりもIDを注視し、乳児がIDをより好む傾向を確認した。本研究で収録した絵本読
み聞かせ音声についても先行研究のマザリーズ同様の傾向が見られ、ピッチ・話速の情報を
含まないID / AD識別手法でも、ID / ADの識別が可能であることが示唆された。
図7
HPPでの母・子の様子(左:正面注視、右:音声刺激方向注視)
38
【190401】
図8
HPPによる乳児(n=15)のID / ADへの注視時間
(3)研究開発成果の社会的含意、特記事項など
母子間コミュニケーションにおいて、他の感覚と同様に聴覚の役割は大きいものと思
われる。したがって、本研究よりマザリーズの音響的特徴を明らかにしたことにより、
母・子の音声によるコミュニケーション研究や技術開発に貢献できるものと思われる。
例えば、母親のマザリーズの程度を評価することができれば、虐待やネグレクトのスク
リーニングへと応用する可能性が広がる。実際、うつ状態の母親では、マザリーズの特
徴が減少していることが報告されているため、科学的根拠に基づく精神疾患のスクリー
ニング技術として実際に導入も検討されるべき成果である。
(4)研究成果の今後期待される効果
本研究では、絵本読み聞かせ音声のIDおよびADの音声データベースを構築した。これ
までのマザリーズの研究は発達心理学の分野で行われてきており、このような大規模デ
ータベースは構築されてこなかった。また、音声学分野でもその音響的特徴の解明が行
われてきたが、単語などの短い発声や、自由対話などの収録条件や発話内容にばらつき
のあるものが対象とされてきた。本研究で収録した音声は、被験者間で同一の内容を収
録しており、工学的解析に適したものとなっている。今後、音響的特徴の違いを更に詳
細に調べることや、本音声を刺激とした音声による乳幼児の生理的・心理的影響の解明
が可能であり、発達心理、乳幼児精神医学、脳科学等の分野で利用可能な可搬性のある
データベースであるといえる。
また、本研究で用いたID / AD識別手法を用いて、母親の子に向けた音声の「マザリー
ズらしさ」を定量化することで、母子コミュニケーションを円滑にする話し方の解明や
母性ボイストレーニングを行うことができると期待される。
39
【190401】
5.母子多元的情動・関係評価システムの作成、それを用いた母・乳児精神疾患罹患者
評価の開始
1)母子情動評価システムの作成
①表情-乳幼児の表情自動識別技術
(1)研究開発目標
乳児と、その養育者との間のコミュニケーションにおいて、表情によるコミュニケーショ
ンは極めて大きな位置を占めている。しかし、表情を介した母子間コミュニケーションは、
完全なものではありえない。他者の表情に対して成人が示す敏感性や反応は、その精神的状
態や過去の成育暦によって影響を受けることが知られている。このような“成人の表情認識
能力の不安定性”は、乳児の表情からその欲求や心理状態を読み取る眼を曇らせ、養育者を
不適切な対応に導く恐れがある。このような“成人の表情認識能力の不安定性”を補完する
には、気分や成育暦などの人間的な要素に左右されず、客観的に乳児の表情を識別すること
が可能な乳幼児表情の自動識別システムが有効であろうと考えられる。
このように、乳幼児の表情自動識別技術の開発には、社会的・医学的観点から大きな意義
が認められる。そこで、実験では、我々の作成した 4~12 ヶ月乳児の表情データベースを用
い、画像パターン認識アルゴリズムを応用した乳幼児の表情自動識別技術を開発した。
(2)研究実施内容及び成果
実験では、画像パターン認識アルゴリズムを用いて、乳児の表情自動識別を行うことが出
来るか否かを検討した。具体的には、次のような過程を経て分析を行った。
まず、4~12 ヶ月乳児の顔画像データベース(画像データベース作成の手続きについては、
2-1)を参照のこと)に含まれる顔画像をグレースケール化した。その上で、固有顔法と
呼ばれる手法を用いて、顔画像に含まれる情報が、より少ない次元数で表現できるよう情報
を縮約した。これは、その後の分析で扱う情報量を最小限に留め、分析をより効率的に行う
ことが出来るようにするためである。
このようにして、情報量を縮約した顔画像の表情を、最小距離法、k 近傍決定則および SVM
と呼ばれる各種の画像パターン認識アルゴリズムによって、識別できるか否かを検証した。
以下、各パターン認識アルゴリズムの概略を説明する。まず、最小距離法では、図 1 のよう
に、各表情カテゴリーに含まれる画像すべてに共通する平均的な特徴を抽出した平均顔を計
算する。次に、一枚一枚の顔画像と、各表情カテゴリーの平均顔との差の指標となるユーク
リッド距離を計算し、各顔画像との距離が最も小さい表情カテゴリーを、その顔画像の表情
と判定する。k 近傍決定則および SVM は、最小距離法を改良し、より複雑な情報を識別でき
るようにしたパターン識別手法である。
各パターン識別アルゴリズムを用いて、表情識別を行った際の識別結果を、表 1 に示す。
この表からわかるように、いずれの月齢においても識別率は、最小距離法が最も高いという
結果になった。先述したように、最小距離法は、今回試したパターン認識アルゴリズムの中
では、複雑な情報を識別する能力が最も低い識別手法である。それにも関わらず、最小距離
法が最も高い識別率を示したことは、乳児の表情識別において、あまりに多くの情報を識別
に用いると、表情表出の個人差の影響などが結果を左右しやすくなり、かえって頑健な表情
識別が困難になることを示唆している。
このように、今回の研究では、いずれの認識アルゴリズムを用いた場合にも、チャンスレ
ベル以上の確率で正確な認識を行うことが出来た。しかしその一方で実用上、十分な認識率
が得られるには至らなかった。これは、同一の刺激に対して乳児が示す反応には個人差があ
るため、乳児の情動的反応を統制できなかったことなどが原因であろう。
しかし、今回の研究および2-1)を通して、乳児の表情自動識別技術の開発に有効な、
いくつかの重要な知見が得られた。第一に、分析の結果、各情動シチュエーションにおける
表情表出パターンは、月齢によって異なることが見出された。したがって、月齢ごとに異な
る認識アルゴリズムを適用するなど、よりきめ細かな技術的対応を行うことによって、さら
なる認識率向上を図ることが出来るものと考えられる。第二に、既存のパターン識別アルゴ
リズムを用いた乳児の表情識別においては、細かな情報までをとりこんで、複雑な情報の識
40
【190401】
別を行うことに長けた、kNN や SVM のような識別手法よりも、単純な情報の識別に特化し
た最小距離法のほうが有効であることが明らかになった。これは、細かな情報を分析に用い
ることで、識別結果が、表情表出の個人差などの瑣末な情報に左右されやすくなることを示
唆している。
表 1 各パターン識別手法による乳児表
情画像の識別率
月齢
全月齢
識別手法
識別率(%)
最小距離法
45.6
kNN
38.4
SVM
45.2
4~6ヶ月 最小距離法
kNN
SVM
47.2
36.6
39.8
7~9ヶ月 最小距離法
kNN
SVM
48.8
28.5
33.1
10~12ヶ月 最小距離法
kNN
SVM
50.3
36.5
38.9
12ヶ月~
59.3
22.2
11.1
最小距離法
kNN
SVM
図 1 各シチュエーションで誘発された
表情画像とそこから計算された平均顔
(3)研究開発成果の社会的含意、特記事項など
本研究および2-1)で得られた知見は、将来の乳児の表情自動識別技術開発の基礎デー
タとなるものである。技術者らは(i) 月齢ごとに異なる認識アルゴリズムを適用するなど、よ
りきめ細かな技術的対応を行うことによって、さらなる認識率向上を図ることが出来る可能
性があること、(ii) kNN や SVM のような識別手法よりも、単純な情報の識別に特化した最小
距離法のほうが有効であること、など本研究で得られた知見を念頭において、技術開発を行
うことで、より高い精度での乳児の表情自動識別を実現することが出来るものと考えられる。
このように、本研究は、乳児の表情自動識別技術開発において、有効な知見を提供できた。
これは、将来的に子育てに伴う負担の軽減につながる可能性があるため、社会的にも大いに
意義のある研究であるということが出来る。
(4)研究成果の今後期待される効果
本研究の成果を生かして、乳児の情動自動識別技術の精度をさらに向上させることが出来
れば、将来的には、それを応用して、表情表出の巧拙を客観的に判定できるようになる可能
性がある。自閉症児の表情表出パターンは、健常児のそれとは異なる特徴を示すことが知ら
れている。したがって、乳幼児の表情自動識別が可能になれば、それを応用して、自閉症を
はじめとした各種の発達障害の早期診断を行う可能性が拓けてくる。
自閉症は、社会的コミュニケーション能力の重篤な障害を主徴とする発達障害である。そ
の原因は、未だ確定されるに至っていないが、早期診断および早期介入によって、患児の社
会適応能力が著しく改善されることが知られている。これを受けて、アメリカ小児科学会は、
すべての子どもが満二歳までに少なくとも二回の自閉症スクリーニング検査を受けるよう勧
告している。
このように、自閉症の早期診断への社会的関心は徐々に高まりを見せつつある。しかし、
自閉症の診断は、経験をつんだ医師や臨床家の行動観察に依拠しており、大規模なマススク
リーニングを行うのは困難なのが現状である。
41
【190401】
したがって、今後、表情自動識別技術を応用し、客観的に自閉症スクリーニングを行える
ようになれば、自閉症児の早期発見をより効率的かつ大規模に行い、自閉症児の予後の改善
に貢献することが出来るだろう。
42
【190401】
②泣き声-乳児の泣き声に含まれる情動の機械認識
(1)研究開発目標
言語音を発話できない成長段階の乳児の意志の伝達手段としては、特に乳児が “本能
的に他者の支援を求める場合の伝達手段”としては、泣き声がその代表的なものとして挙
げられる。乳児の泣き声においては、乳児の成長に伴い泣き声に情動による音響的差異
が含まれてくるとされる。しかし、育児経験の不足している場合や複数の情動が絡みあ
っている場合、乳児の情動がまだ分化していない発達段階である場合には、乳児の情動
を両親やその周囲の人々が正しく汲み取ることができなくなる。このような場合は、親
子間の円滑なコミュニケーションを阻害する一因となり、親はその責任感から精神的負
担を強いられることとなる。また、育児には多くのストレス要因が存在しており育児に
対するこの精神的負担はこのストレスを助長させる。さらには現代社会で問題となって
いる核家族化や近隣家庭とのコミュニケーション不足なども若い親が情動を泣き声から
感受するするノウハウを習得する場を失わせており、さらに育児のストレスを大きくす
る要因となっている。
このような状況において、乳児の泣き声から乳児の情動を自動的に判断できる支援装
置が開発できれば、母子間の意思疎通を助け、育児の負担を軽減させることが出来、上
記のような問題を軽減する一つの手段となる。これまで、乳児の情動検出の一つとして、
医療的な見地から泣き声に含まれる「痛み」に関する情動を検出する研究が行われてい
る。現在では、いくつかの情動に関して泣き声音声データを分類する研究も行われてお
り、実際に製品化されている例(WhyCry)もある。
しかしながら、我々が言語音を認識する場合と比較して、乳児の泣き声からその情動
を識別するのは極めて困難と言える。音声の場合は発声内容や音声の韻律、発声者への
質問によりその正解となる情動を知ることができるが、乳児の泣き声では育児経験の豊
かな母親や保育の経験則によってその乳児の情動を推察するしかない。また、母親や保
育士が同じ泣き声を聞いても、二人の感受結果が同じでない場合も少なくない。このよ
うな状況において乳児の情動をどのように検出すべきか、あるいはどの程度感受できる
ものであるかという点が本研究の解決すべき目標課題となる。
本課題の解決するためにはパターン認識の手法を取ることが有望な手法であると考え
られる。パターン認識における機械学習の観点から考えると、育児経験の豊かな母親や
保母の情動の判断過程を実現(模倣)することとなる。すなわち、乳児の泣き声とそれに
対する彼らの判断例を用いて機械で教師付き学習を行うこととなる。この場合、彼らが
判断できないような情動までも判断できるような手法を開発するのではなく、可能な限
り彼らの能力に近い情動の判断能力を機械により実現ずることになる。しかし前述した
ように母親等の乳児の情動に対する判断は冗長度が高い。この場合機械認識においてど
のような情動までをどの程度の信頼性で検出可能であるかの研究を行う必要がある(こ
こでは課題1とする)。次に検出可能な情動を泣き声からどのような特徴を取り出して
どのような手法で識別するかという情動識別手法の研究を行う必要がある(課題2)。こ
の研究では、上記二つの課題の解決のための検討を行う。
(2)研究実施内容及び成果
本研究においてはまず情動の泣き声データベースの構築を行うこととした。泣き声を
乳児の家庭において母親が市販のディジタルレコーダを用いて44.1kHzのサンプリング
周波数で収録を行った。収録データの中から母親の声等の雑音を削除するために、主要
な部分を切り出した後に、8kHzまでの帯域にダウンサンプリングを行い波形データとし
て保存した。一つのデータの平均の長さは約30秒となった。この泣き声の音声データに
関しては、以下のタグを付与した。まず、課題1の情動の識別可能性を探るためのタグと
して、母親と育児経験者三人による5段階の値を用いた情動の主観評価値を付与した。予
め10種類程度の細かい情動の種類(ここでは「怒り」「驚き」「不快」等)を用意し、泣
き声データに含まれると感じた情動をその中から任意個選びその強さに関して5段階の
値を決定した。なお、三人の育児経験者は泣き声のみで、母親は泣き声のみでなく乳児
43
【190401】
の表情や状態を観察して評価を行っている。図1に情動評価の表の例を示す。数値が大き
い程、その情動を強く感じていることを示している。
次に、課題2の情動の機械学習を行うために、泣き声の中の音響的特徴の違いにより、
泣き声を複数の音響セグメントに分割した。セグメントの種類としては図2に示すような
種類を用いた。これらのセグメントは音響的特徴の類似性を考慮して階層構造とし、こ
れらを用いて泣き声データ全体を被覆することとした。この例を図3に示す。すなわちデ
ータベース中の各泣き声は構成する各種セグメントのその始終端時間をタグとして記述
することとなり、このタグと波形データを用いて機械学習を行うことになる。
データ番号
情動評価者
情動評価値
悲 怒 甘 眠 腹 快 …
babyA_01
母親
babyA_02
母親
babyA_02
育児経験者
5
4
5
3
2
図 1 泣き声データの主観評価による情動評価値の例
泣き声
:セグメント
図 2 泣き声を構成するセグメント
無音
泣き声音
息継ぎ音
喉音
図 3 泣き声の音響セグメントによるタグ付与
44
【190401】
次の研究段階では、課題1の研究課題、すなわち各泣き声データに含まれる情動の正解
を定めるための研究を主観評価値を用いて行った。本研究では前述の母親と育児経験者3
名の感受した5段階の評価データを用いてクラスタリングする手法を開発した。このクラ
スタリング方式は、ある泣き声を聞いた時に母親等が情動の感受に関して同様の判断を
くだすような傾向(情動Aと情動Bを多くのデータで同時に感受する傾向がありその明確
な区別ができない)がある場合には、これらの情動を同じ情動クラスに含まれる要素と
考えるものであり、クラスの構成にはエントロピー基準で自動作成できる方式とした。
すなわち、最もエントロピーの高い(区別が曖昧な)2つの情動を一つの情動クラスとす
る操作を繰り返す方式とした。なお、詳しいクラスタリングアルゴリズムは “Emotion
clustering using the results of subjective opinion tests for emotion recognition in infants’ cries、”
佐藤紀子、山内勝也、 松永昭一、 山下優、中川竜太、篠原一之、 Proc. Eighth annual
conference of the International Speech Communication Association(INTERSPEECH)、 (2007)
pp. 2229-2232に記載している。本クラスタリングをデータベースに適用した結果を図4
に示す。データベースは残念ながら十分に大きな規模には達していないが、実験の結果、
「怒り」「甘え」「眠い」「空腹」「悲しみ」が母親や保育士により最もよく感知され
る感情であり、「甘え」と「眠い」が最も近い情動であり、次いで「怒り」と「悲しみ」
が近い情動であることがわかる。さらに、「空腹」は「甘え・眠い」よりも「怒り・悲
しみ」に近い情動であることを示すことが出来た。本研究では母親と育児経験者の評価
値を分けてクラスタリングを行った場合においても同じ結果を得ており、本結果は普遍
的なクラス化に近いものであると帰納的に推論される。この結果、機械的に2クラスの情
動を識別する場合には「甘え・眠い」と「怒り・悲しみ・空腹」の情動クラスを識別す
べきであり、3クラスの情動を識別する場合には「甘え・眠い」と「怒り・悲しみ」「空
腹」の情動クラスを識別すべきであることがわかった。またこの実験では情動の主観評
価値を用いたが、各情動の検出の有無のみを用いる場合よりも適切にクラス化を行うこ
とが出来た。
1
2
3
SL PA AN SA HU
図 4 情動のクラスタリング結果(SL: sleepiness、 PA: pampered、 AN: anger、
SA: sadness、 HU: hunger、 UC: uncomfortableness、 数字は作成順番を示す)
次に、課題2として泣き声に含まれる情動(クラス)の検出方法の研究を行った。本研
究では、泣き声の各セグメントの統計的音響モデルを作成し、その音響モデル時間的に
接続して、未知の入力する泣き声とのマッチングを行い、情動を識別する方法を考案し
た。本方法では、泣き声は一連の音響セグメントの系列より構成されると考え(図5)、
含まれる情動の特徴は泣き声のすべての部分に含まれると仮定した。従来の研究が泣き
声のある特定部分のみを人手により切り出し、その部分の情動の識別を研究していた点
と比較すると泣き声における情動の自動識別の観点からは大きな進歩と言うことができ
る。また、各セグメントの音響的特徴は含まれる情動により異なるため母親は乳児の情
動を判断できると仮定した。すなわち、この識別系を構築するために、セグメント種類
ごとに情動別の音響モデルを構築し、情動毎にセグメントモデルを接続させる。このと
き入力された泣き声と最も距離が近い(尤度が最も高い)セグメント系列を持つ情動が
入力された泣き声に含まれる情動となる。このイメージを図5に示す。ここでは、「甘え」
「怒り」「空腹」の情動に関してそれぞれセグメントを接続し、最も尤度が高くなるセ
グメント系列を構成する情動が識別結果となる(この例では「怒り」)。泣き声の音響
特徴パラメータとしては、パワーとケプストラム係数(スペクトルの包絡)を用いてい
45
【190401】
る。また、音響モデルは隠れマルコフモデル(HMM)を用いて実現し、識別手法にはヴィ
タビアルゴリズムを用いた。なお、情動の詳しい学習および識別アルゴリズムは
“Emotion detection in infants’ cries based on a maximum likelihood approach” 松永昭一、坂口
清起、山下優、宮原末治、西谷正太、篠原一之、 Proc. 9th International Conference on Spoken
Language Processing (INTERSPEECH)、 (2006) pp. 1834-1837 に述べている。1名の乳児
に対する「怒り」と「甘え」の情動識別実験を行った結果、約7割を正しく識別すること
ができた。また、母親が泣き声に単一の情動を感受したデータの方が、複数の情動を感
受したデータよりも識別性能が高いという結果になり、本研究により母親の情動判別傾
向に近いものを実現できたと考えられる。また、データベース中のセグメントの種類数
を増加させることで識別性能を向上できるという知見を得ることが出来た。不特定乳児
の泣き声に対する識別実験、課題1、2を融合した実験は本期間中には行うことができな
かったが、より良い成果が期待できるため今後研究を継続し完成させる予定である。
比
較
音
響
特
徴
量
の
時
系
列
推定結果
2位
甘え
の
音響 …モデル
系
列
怒り
の
音響 …モデル
系
列
空腹
の
音響 …モデル
系
列
1位
3位
尤
度
が
1
位
の
情
動
図 5 情動識別のイメージ図
(3)研究開発成果の社会的含意、特記事項など
本研究では、乳児の泣き声から人間(ここでは育児経験が豊富な母親や保育士などの
育児のエキスパート)がどの程度の情動を感受することができるかという点を情動クラ
スタリングの観点から検討し、またパターン認識的手法により情動の識別が可能である
というブレークスルーを得ることが出来た。
(4)研究成果の今後期待される効果
本研究で検討した部分はまだ研究の入り口段階であり、本研究開発成果を発展させて
泣き声から情動(クラス)を高精度に識別できるようになることで、家庭用の低価格で
簡便な機器として実現できれば、現代社会で問題となっている核家族化や近隣家庭との
コミュニケーション不足などの、若い親において不適切な育児環境において母子間コミ
ュニケーションを支援するツールとなることが期待される。
46
【190401】
2)母子関係評価システムの作成
(1)研究開発目標
近年、働く母親の増加に伴い、ますます母子間のコミュニケーションの機会が減少し
ている。出生後早期のコミュニケーション不足は、母性の育成を妨げ、乳幼児虐待やネ
グレクトに陥る場合も示されている。また、乳幼児期の虐待は、それ以降の虐待に比べ、
より多くの問題を生じさせ、この時期の母・子の関係が子の将来の社会・心理学的発達
に大きな影響を与える(成長後に、不安や抑うつ気分、衝動的攻撃性が生ずる)という
実証的研究も報告されている(Keiley, 2001; Manly, 2001)。したがって、これらを予防
するため、乳幼児定期健康診断などで母・子をスクリーニングし、精神疾患の疑いのあ
る母・乳幼児に対して早期に介入することは重要である。現在、虐待やネグレクトが疑
われるケースでは、ボウルヴィの愛着型分類をもとに、専門のトレーニングを受けた児
童精神科医による診断が行われている。この一つとして、いくつかの実験場面を設定し、
母・子の行動観察を行うストレンジ・シチュエーション法(SSP)という主観的研究手
法があり、母・子の関係性(愛着型)の定性的評価から、母・子の精神疾患診断を行う
方法がある。しかし、日本国内ではこの方法を行える施設、診断を行える専門医の数が
非常に少なく、観察者の主観というバイアスも全く無視できないため、母・乳幼児精神
疾患の大規模なスクリーニング技術としては現実的に問題を含んでいる。
そこで、本研究ではIT技術を駆使し、母・子の関係性を客観的に診断する技術を開発
すること目標とし、以下の研究を行った。具体的には、母・子それぞれに超音波タグを
装着することによって、実際のSSPにおける母・子の診断スコアと、それぞれの行動パ
ターンと行動軌跡の関係を解析し、愛着型ごとの行動モデル作成のための特徴量抽出を
行う。
(2)研究実施内容及び成果
< 収 録 設 備 > SSP に よ る 行 動 軌 跡 の 収 録 は 、 専 用 の 収 録 室 「 乳 児 専 用 行 動 観 察 室 」
(W4.69m×D2.37m×H2.2m; 図1)で行った。この収録室の天井には格子状にレシーバが22個
設置されており、被験者に取り付けた超音波タグ(図2)からの超音波(40kHz)を受けて、
その到達時間の違いから三次元位置を求め、毎秒5~10回の頻度で記録する。収録中の様子は
2台の固定カメラ(カメラA、カメラB)とマジックミラー越しの1台のハンディカメラ(カメ
ラC)で録画した(図3)。収録室内には、母およびストレンジャー用の椅子と遊具が置いて
ある。
<プロトコル> 本研究では、倫理的な配慮から、収録時間が短い、4場面からなる簡易型SSP
を用いることとした。以下に、専門医で研究参加者の青木豊医師と決定した、収録プロトコ
ル(設定場面)について説明する。
場面1(母・子触れ合い):母親は子を抱きかかえて出入口1から実験室に入室し、遊具のと
ころへ行き子をそこで遊ばせる。子が一人で遊ぶようになったら母親は着席し、そこにある
本を読む(3分間)。
場面2(ストレンジャー入室):出入口2より、ストレンジャーが入室する。ストレンジャー
は着席し、直ぐに本を読む(1分間)。その後、母親と簡単な雑談を行う(1分間)。その後
は子が一人で遊具と遊んでいる場合には、ストレンジャーは本を読み、ストレンジャーを見
たり働きかけてくるようであれば、軽く会釈をしたり、おもちゃを受け取るなどする(1分間)。
場面3(母子分離):母親は子に気づかれないように、あるいは、子に声をかけてから出入口
2から退室する。その後、最長で3分間、室内は子とストレンジャーのみになる。このとき、
母親は室外からマジックミラー越しに子の様子を観察できる。子が、母親を追いかけて出入
口2に向かったり、泣くようなしぐさを見せた場合には、3分を待たずに、次の場面に移る。
場面4(母子再会):母親は出入口2から入室し、遊具近くで子が一人で遊んでいるようであ
れば、着席する。それ以外の場合は子の様子を見て、あやすなどして子を遊具のところへ連
れて行く。子が一人にで遊ぶようになったら、着席する。ストレンジャーは、母親と子の邪
魔にならないよう、出入口1または2から退室する。(3分間)
<特徴量抽出> 超音波タグにより、子・母・ストレンジャーの三次元位置情報を収録する。
47
【190401】
超音波タグによる位置情報系列から、子の移動方向(水平情報、垂直情報)・速度・母親お
よびストレンジャーとの距離・子の正面方向等の行動を測定する。室内の3次元空間(xyz空間:z
が高さ)の超音波測位システムより、左肩(LS)と右腰(RW)の3次元位置情報が秒間約5フレーム
で得られる。LSの位置とRWの位置の平均値を子の3次元位置とする。子の正面方向は、"xy
平面での線分LS-RWとx軸とのなす角+90°"とする。子および母親の3次元位置情報から、子・
母・母子間距離およびその移動速度を特徴量として求める。なお、超音波タグからの三次元
位置データは、3cm程度の誤差があり、また、全フレームを確実に収録できるとは限らないた
め、部屋の大きさや子・母の身長などからタグの位置に制約を設け、外れ値に対しては前後
のデータから補完するなどのスムージング処理を行った。
<動画解析> 収録した動画像から、子の体勢および動作をラベル付けした。体勢ラベルは床
座り、しゃがみ、立ち、抱っこ、ひざまずき、四つんばいなどで、動作ラベルは、母親・ス
トレンジャーを見つめる、おもちゃで遊ぶ、歩く、立つ、ハイハイ、しゃがむ、声を出す、
停止などとした。
<結果> SSP中の超音波タグの軌跡の1例を図4に示す。左より、子の左肩(LS)、右腰(RW)、
母親の左上腕の軌跡の図である。左肩(LS)は、z軸(高さ)方向に、30cm付近および、50cm
付近に集中している。これは、子の「床座り」、および、「立ち」のときの軌跡であり
本装置により子の体勢が識別可能であることが示唆された。また、母親の上腕部(RW)の
軌跡は40cm付近および80cm付近に集中している。母親の「床座り」の状態と「椅子座り」
の状態に対応しており、母親の体勢も識別可能であることが示唆された。また、作業者1
名により子の体勢のラベル付けを収録したビデオ動画をもとにフレーム単位で行った。
体勢の時間占有割合の、被験者5名の各場面の平均(表1)では、場面ごとに、出現する体
勢に大きな変化があることが確認できる。特に場面4(母子再会)では、「床座り」「立ち」
「ハイハイ」と、様々な体勢が出現していることがわかる。被験者間での体勢についても分
析したところ、同一場面でも割合に大きな違いが現れていることから、この愛着行動のモデ
ル化や愛着型の分類が行える可能性が確認された。
カメラC
出入口1
母用椅子
カメラA
マジックミラー
出入口2
ストレンジャー用椅子
遊具
カメラB
図1
収録室見取り図
図2
図3
カメラA(左)、カメラB(中)、カメラC(右)から見た収録室内の様子
48
超音波タグ
【190401】
図4
表1
SSP時の子の左肩(LS):左、右腰(RW):中、母親の左上腕:右の軌跡(yz平面)
場面ごとの子の体勢の出現割合(%)
場面 しゃがみ
ひざまづき
ハイハイ
0.0
0.6
3.3
1
1.7
2.0
8.1
2
0.9
0.6
11.5
3
4.9
3.2
10.7
4
床座り
85.7
82.8
46.1
40.6
抱っこ
1.1
0.0
0.7
2.9
立ち
9.3
5.4
40.0
37.7
その他
0.0
0.0
0.2
0.0
(3)研究開発成果の社会的含意、特記事項など
本技術は言語を介した情報は用いないため、患者、患児の診断には言語・宗教・文化・
人種の違いという壁が存在せず、そのまま世界的に通用する技術である。また、これま
での精神医学領域では必須であった問診やアンケートといった言葉による診断ではない
こと、非侵襲的に診断すること、から革新的な診断機器の開発が期待される。
(4)研究成果の今後期待される効果
本研究で構築するデータベースは、単に子の行動の動画像を集積したものではなく、
母親・子・ストレンジャーの行動・体勢・視線方向の詳細なラベル付けがされたデータ
ベースとなっている。母・小児精神医学だけでなく、乳幼児の事故が生じにくい環境設
計(建築学)、乳幼児の行動発現メカニズムの解明(認知科学、発達行動学)などの研
究分野の基礎データベースとして利用することができる。また、これらの研究領域を統
合した新しい研究領域が生み出される可能性が高い。
49
【190401】
3)母子情動評価システムを用いた母・乳児精神疾患罹患者の評価の開始
(1)研究開発目標
自閉症は、社会的コミュニケーション能力の重篤な障害を主徴とする発達障害である。その原
因は、未だ確定されるに至っていないが、早期診断および早期介入によって、患児の社会適応能
力が著しく改善されることが知られているため、近年、自閉症の診断技術向上への社会的要請が
高まりつつある。しかし、乳幼児を対象に自閉症であるか否かの正確な診断を下すのは、依然と
して困難である。自閉症の診断が困難な原因の一つとして、現状では、自閉症か否かを判断する
には、行動観察などの主観的な評価法に頼らざるを得ない点が挙げられる。したがって、客観的
評価法を用いた自閉症診断技術を確立することが出来れば、自閉症診断の精度が大きく向上する
ものと期待される。
このような視点から、本研究では、パターン認識技術を用いて、乳幼児の表情を定量的に評価
することで、表情の客観的評価に基づいた自閉症診断技術を開発する可能性を検討した。
(2)研究実施内容及び成果
方法:研究では、5~7歳の自閉症児7名および同年齢の健常児を対象として、「不安」および
「喜び」を誘発するようなシチュエーションにおける表情を撮影した。「不安」を誘発する
シチュエーションとして、被験児の目の前に見知らぬ成人男性が現れ、数秒の間無表情で被
験児を凝視する場面を、「喜び」を誘発するシチュエーションとして、被験児の保護者が、
被験児と一緒にシャボン玉で遊ぶ場面を設定し、各シチュエーションにおける被験児の表情
を撮影した。
分析と結果:分析では、まず記録したDV-AVI形式の動画から情動喚起による変化が生じてい
る時点の静止画像を切り出した。静止画像の切り出しにおいては、情動誘発シチュエーショ
ンが与えられている間で、被験児の顔の造作が、何の情動も表出していない中性顔から最も
大きく変化している瞬間のフレームの画像を切り出した。このようにして切り出した自閉症
児・健常児の表情の静止画像を次の手順で分析した。
まず、健常児の顔画像データを基に、健常児の表情を識別するための識別器を、k近傍決定
則を用いて構成した。次に、この識別器に対して、自閉症児の顔画像をテストデータとして
与える識別実験を実施し、識別器が自閉症児の表情を識別する精度を検討した。ここで仮に、
自閉症児と健常児の表情に差がなければ、健常児の表情画像を基に構成された識別器を用い
て、高精度で自閉症児の表情を識別できるものと考えられる。逆に、自閉症児と健常児の表
情パターンの違いが大きければ、識別器が自閉症児の表情を識別する能力は、極めて低くな
ると考えられる。識別実験の結果を表1に示す。
表1 識別器による自閉症児の表情識別の結果
(数値は、各シチュエーションにおける自閉症児の表情画像が、識別器により、各表情カテ
ゴリーに分類された頻度を示す)
識別器による分類
自閉症
の表情
喜び
不安
喜び 悲しみ 怒り 不安 驚き
6
0
0
2
0
4
0
1
2
0
上表から、識別器は、自閉症児が「不安」のシチュエーションで表出した表情を、ほとん
どのケースで、誤って「喜び」の表情に分類していることが読み取れる。したがって、識別
器は、自閉症児の「不安」と「喜び」の表情を識別する能力を有していないことが分かる。
この結果は、これまで臨床家らによって度々報告されてきた、自閉症児の表情パターンの
特異性が、パターン認識技術を用いて客観的に検出可能であることを示していると考えられ
る。
(3)研究開発成果の社会的含意、特記事項など
本研究の結果、パターン認識技術を用いた客観的評価法により、自閉症児の表情パタ
50
【190401】
ーンの特異性を検出できることが示された。これは、逆に言えば、情報工学的技術によ
り、自閉症児の表情表出パターンを客観的に評価することで、自閉症の診断を行える可
能性があるということである。
先述したように、近年、自閉症の客観的診断技術開発への社会的要請が高まっている。
本研究の最大の意義は、この課題の解決につながる一つの技術的アプローチを、実証的
なデータに基づいて示した点にあると考えられる。
(4)研究成果の今後期待される効果
今回の研究は、既に診断がついて数年が経過した幼児~学童期の自閉症児を対象として実施し
た。今後は、本研究で開発した技術を乳児に対して応用することで、表情パターンを基に、まだ
言葉を話せない乳児を対象とした、自閉症の客観的診断を行えるようになる可能性がある。現状
では、乳児期に自閉症の兆候を見つけることは比較的困難であるとされている。一方で、早期に
介入することにより、自閉症児の社会的適応能力が著しく向上することが知られている。したが
って、本研究で用いた技術により自閉症早期スクリーニング技術開発への道が拓かれれば、自閉
症に罹患して生まれてくる乳児の QOL を飛躍的に向上させることにつながると考えられる。
51
【190401】
5.研究実施体制
(1)体制
我々の研究プロジェクトは密接に連絡をとりつつ、スピーディに実験を進めていくの
が最重要課題である。限られた資金の中で、研究チームをサブグループに細分化し、人、
物、金を分散化すると我々のプロジェクトの遂行は不可能である。そこで、本研究プロ
ジェクトではサブグループ制を取らず、篠原研究グループに研究員、研究補助員、大学
院生を集中させ、研究テーマを横断的に行き来し実験を遂行する。
以下に本研究プロジェクトにおける研究項目を列挙する:
・母・胎児の行動学的・生理学的変数測定による、客観的情動評価法の確立
(a) 母・胎児の行動学的・生理学的変数測定による、客観的情動評価法の確立
・母・乳児の行動学的・生理学的変数測定による、客観的情動評価法の確立
(b) 乳幼児の表情を指標にした情動表出の評価法の開発
(c) 乳幼児の泣き声を指標にした情動表出の評価法の開発
・母親が乳児の情動を認知する際の脳内機構の研究
(d) 視覚因子と脳機能
(e) 嗅覚因子と脳機能
・母子間コミュニケーションに関与する感覚情報の同定とそれを用いたバーチャル母子
間コミュニケーション法の作成
(f) 嗅覚―生後5日齢の新生児の痛みストレスに及ぼす母乳の匂いの影響
(g) 嗅覚―産褥期の母親の情動に及ぼす新生児の匂いの影響
(h) 視覚
(i) 聴覚―マザリーズの子に及ぼす影響と音響学的特徴解析
・母子多元的情動・関係評価システムの作成、それを用いた母・乳児精神疾患罹患者評
価
(j) 母子情動評価システムの作成―表情
(k) 母子情動評価システムの作成―泣き声
(l) 母子関係評価システムの作成
(m) 母子情動評価システムを用いた母・乳児精神疾患罹患者の評価の開始
・親・子の気持ちを伝えあう会を通じたアウトリーチ活動
(n) 親・子の気持ちを伝えあう会を通じたアウトリーチ活動
52
【190401】
(2)メンバー表
①篠原研究グループ
氏
名
所
属
役
職
研究項目
参加時期
篠原 一之
長崎大学・大学院
医歯薬学総合研
究科・神経機能学
教授
(a)(b)(c)(d)(e)(f)(g)
(h)(i)(j)(k)(l)(m)(n)
平成16年12月~
平成19年11月
西谷 正太
長崎大学・大学院
医歯薬学総合研
究科・神経機能学
長崎大学・大学院
医歯薬学総合研
究科・神経機能学
長崎大学・大学院
医歯薬学総合研
究科・神経機能学
長崎大学・大学院
医歯薬学総合研
究科・国際看護学
長崎大学・大学院
医歯薬学総合研
究科・神経機能学
長崎大学・大学院
医歯薬学総合研
究科・産婦人科学
長崎大学・工学
部・情報応用シス
テム学
長崎大学・工学
部・情報応用シス
テム学
長崎大学・工学
部・情報応用シス
テム学
長崎大学・工学
部・情報応用シス
テム学
長崎大学・工学
部・情報応用シス
テム学
長崎大学・教育学
部・教育心理
助教
(a)(b)(c)(e)(f)(g)(i)(n)
平成16年12月~
平成19年11月
助教
(b)(d)(h)(j)(m)(n)
平成18年3月~
平成19年11月
助教
(i)(k)(n)
平成18年3月~
平成19年11月
助教
(a)(n)
平成17年4月~
平成19年11月
研究生 (e)(f)(g)(j)(k)
平成16年12月~
平成19年7月
教授
(a)(n)
平成16年12月~
平成19年11月
教授
(c)(k)
平成17年4月~
平成19年11月
助教
(k)
平成18年4月~
平成19年11月
土居 裕和
中川 竜太
荒木 美幸
諸伏 雅代
増崎 英明
松永 昭一
山内 勝也
山下 優
佐藤 紀子
坂口 清起
宮崎 正明
石松 隆和
長崎大学・工学
部・機械制御学
技術職 (c)(k)
員
平成17年4月~
平成19年11月
大学院 (k)
生
平成18年4月~
平成19年11月
学部生 (c)(k)
平成17年4月~
平成18年3月
教授
(l)(n)
平成17年4月~
平成19年11月
教授
(h)(j)
平成18年4月~
平成19年3月
53
【190401】
青木 豊
大石 和代
土居 隆子
石丸 忠之
宮原 末治
山口 創
守屋 孝洋
年綱 志保
坂本 史子
出口 かおる
高倉 すみれ
長場 湖穂
近藤 美沙
中原 由紀子
仲家 志保
國領 真由美
相州メンタルク
リニック中町診
療所
長崎大学・大学院
医歯薬学総合研
究科・国際看護学
活水女子大学・健
康生活学部・子ど
も学科
長崎大学・大学院
医歯薬学総合研
究科・産婦人科学
長崎大学・工学
部・数理・応用ソ
フトウェア工学
聖徳大学・人文学
部・児童臨床心理
学教室
長崎大学・大学院
医歯薬学総合研
究科・神経機能学
長崎大学・大学院
医歯薬学総合研
究科・神経機能学
長崎大学・大学院
医歯薬学総合研
究科・神経機能学
長崎大学・大学院
医歯薬学総合研
究科・神経機能学
長崎大学・大学院
医歯薬学総合研
究科・神経機能学
長崎大学・大学院
医歯薬学総合研
究科・神経機能学
長崎大学・大学院
医歯薬学総合研
究科・神経機能学
長崎大学・大学院
医歯薬学総合研
究科・神経機能学
活水女子大学・健
康生活学部・子ど
も学科
長崎大学・医学部
院長
(l)(n)
平成17年4月~
平成19年11月
教授
(a)(n)
平成18年4月~
平成19年11月
教授
(h)(n)
平成18年4月~
平成19年11月
教授
(a)(n)
平成16年12月~
平成18年3月
教授
(c)
平成17年4月~
平成18年3月
講師
(a)(b)(c)
平成16年12月~
平成17年3月
講師
(a)(b)(c)(n)
平成16年12月~
平成18年3月
JST研 (b)(c)(h)(j)(k)(n)
究員
平成17年4月~
平成18年1月
研究補 (a)(b)(c)(f)(g)(h)
助員 (i)(j)(k)(n)
平成17年3月~
平成18年6月
研究補 (a)(b)(c)(f)(g)(h)
助員 (i)(j)(k)(n)
平成17年2月~
平成19年3月
研究補 (a)(b)(c)(f)(g)(h)
助員 (i)(j)(k)(m)(n)
平成17年6月~
平成19年7月
研究補 (a)(b)(c)(d)(e)(f)(g)
助員 (h)(i)(j)(k)(l)(m)(n)
平成17年6月~
平成19年11月
JST研 (d)(e)(h)(i)(k)(n)
究員
平成19年3月~
平成19年11月
研究補 (a)(d)(e)(g)(h)(i)(l)
助員 (m)(n)
平成19年4月~
平成19年11月
学部生 (h)(n)
平成19年4月~
平成19年11月
学部生 (g)
平成16年12月~
平成17年3月
54
【190401】
長崎大学・医学部 学部生 (b)(h)(j)
平成16年12月~
平成17年3月
南 香名
長崎大学・医学部 学部生 (c)(k)
平成16年12月~
平成17年3月
幸山 敦子
長崎大学・医学部 学部生 (d)(h)
平成17年12月~
平成18年3月
沖重 有香
長崎大学・医学部 学部生 (d)
平成18年12月~
平成19年3月
天本 宇昭
長崎大学・医学部 学部生 (d)
平成18年12月~
平成19年3月
桑本 沙織
長崎大学・医学部 学部生 (e)
平成18年12月~
平成19年3月
高比良 飛香 長崎大学・医学部 学部生 (e)
平成18年12月~
平成19年3月
中島 大輔
長崎大学・医学部 学部生 (i)
平成18年12月~
平成19年3月
徳淵 幸
長崎大学・医学部 学部生 (i)
平成18年12月~
平成19年3月
平野 知子
55
【190401】
(3)招聘した研究者等
氏
名(所属、役職)
井上貴雄(九州工業大学大
学院生命体工学研究科脳
情報専攻、大学院生)
池田英二(横浜市立大学大
学院医学研究科精神医学教
室、客員研究員)
菊水健史(麻布大学獣医学
部伴侶動物学研究室、准教
授)
招聘の目的
視覚的カテゴリー弁別機能
の行動学的・生理学的研究
に関するセミナー開催のため
核医学での認知・記憶に関す
る画像診断の基礎に関するセ
ミナー開催のため
幼少期の母子関係が神経系発
達に及ぼす影響に関するセミ
ナー開催のため
滞在先
滞在期間
長崎大学
2日間
長崎大学
2日間
長崎大学
2日間
6.成果の発信やアウトリーチ活動など
(1)ワークショップ等
年月日
名称
平成 16 年
3月8日
平成 16 年
3 月 17 日
平成 17 年
4 月 18 日
平成 17 年
5 月 24 日
平成 17 年
6 月 28 日
平成 17 年
8月2日
平成 17 年
8 月 23 日
平成 17 年
9 月 27 日
平成 17 年
10 月 15
日
平成 17 年
10 月 25
日
平成 17 年
11 月 29
日
平成 18 年
1 月 24 日
平成 18 年
2 月 28 日
親・子の気持ちを伝えあ
う会
親・子の気持ちを伝えあ
う会
親・子の気持ちを伝えあ
う会
親・子の気持ちを伝えあ
う会
親・子の気持ちを伝えあ
う会
親・子の気持ちを伝えあ
う会
親・子の気持ちを伝えあ
う会
親・子の気持ちを伝えあ
う会
親・子の気持ちを伝えあ
う会
参加人
数
長崎大学事 務 局 16 名
第 3 会議室
長崎大学事 務 局 10 名
第 3 会議室
長崎大学事 務 局 12 名
第 3 会議室
長崎大学事 務 局 13 名
第 3 会議室
長崎大学事 務 局 10 名
第 3 会議室
長崎大学事 務 局 10 名
第 3 会議室
長崎大学事 務 局 9 名
第 3 会議室
長崎大学事 務 局 12 名
第 3 会議室
長崎大学事 務 局 250 名
第 3 会議室
場所
概要
第 1 回拡大運営委員会
第 2 回拡大運営委員会
第 3 回拡大運営委員会
定例セミナー
第 4 回運営委員会
第 5 回運営委員会
定例セミナー
第 6 回運営委員会
定例セミナー
第 7 回運営委員会
第 8 回運営委員会
第 1 回講演会
親・子の気持ちを伝えあ 長崎大学事 務 局 12 名
う会
第 3 会議室
第 9 回運営委員会
定例セミナー
親・子の気持ちを伝えあ 長崎大学事 務 局 10 名
う会
第 3 会議室
第 10 回運営委員会
定例セミナー
長崎大学事 務 局 10 名
第 3 会議室
長崎大学事 務 局 10 名
第 3 会議室
臨時運営委員会
定例セミナー
第 11 回運営委員会
定例セミナー
親・子の気持ちを伝えあ
う会
親・子の気持ちを伝えあ
う会
56
【190401】
平成 18 年
4月4日
平成 18 年
5 月 23 日
平成 18 年
6 月 27 日
親・子の気持ちを伝えあ
う会
親・子の気持ちを伝えあ
う会
親・子の気持ちを伝えあ
う会
平成 18 年
7 月 25 日
平成 18 年
8 月 29 日
平成 18 年
10 月 3 日
平成 18 年
10 月 28
日
平成 18 年
10 月 28
日
平成 18 年
11 月 28
日
平成 19 年
2 月 26 日
親・子の気持ちを伝えあ
う会
親・子の気持ちを伝えあ
う会
親・子の気持ちを伝えあ
う会
親・子の気持ちを伝えあ
う会
平成 19 年
4月9日
平成 19 年
5 月 22 日
平成 19 年
6 月 25 日
平成 19 年
7 月 24 日
平成 19 年
8 月 20 日
平成 19 年
10 月 1 日
長崎大学事 務 局
第 3 会議室
長崎大学事務局第
3 会議室
長崎大学医学部
ポンペ会館第 1 会
議室
長崎大学医学部小
会議室
長崎大学医学部小
会議室
長崎大学医学部小
会議室
NBC ビデオホー
ル(長崎市)
11 名
12 名
第 12 回運営委員会
定例セミナー
第 13 回運営委員会
定例セミナー
第 14 回運営委員会
11 名
第 15 回運営委員会
14 名
第 16 回運営委員会
定例セミナー
第 17 回運営委員会
10 名
13 名
16 名
臨時運営委員会
第 2 回講演会打合せ
親・子の気持ちを伝えあ NBC ビデオホー 200 名
う会
ル(長崎市)
第 2 回講演会
親・子の気持ちを伝えあ 長崎大学医学部小 10 名
う会
会議室
第 18 回運営委員会
11 名
第 19 回運営委員会
定例セミナー
11 名
第 20 回運営委員会
定例セミナー
10 名
第 21 回運営委員会
定例セミナー
9名
第 22 回運営委員会
7名
第 23 回運営委員会
7名
第 24 回運営委員会
11 名
第 25 回運営委員会
親・子の気持ちを伝えあ 長崎大学医学部原
う会
爆後障害医療研究
施設コミュニティセンター
親・子の気持ちを伝えあ 長 崎 大 学 医 学 部
う会
基礎棟 2 階会議
室
親・子の気持ちを伝えあ 長 崎 大 学 医 学 部
う会
基礎棟 2 階会議
室
親・子の気持ちを伝えあ 長 崎 大 学 医 学 部
う会
ポンペ会館第 1 会
議室
親・子の気持ちを伝えあ 長 崎 大 学 医 学 部
う会
基礎棟 2 階会議
室
親・子の気持ちを伝えあ 長 崎 大 学 医 学 部
う会
基礎棟 2 階会議
室
親・子の気持ちを伝えあ 長 崎 大 学 医 学 部
う会
基礎棟 2 階会議
室
親・子の気持ちを伝えあ 長 崎 大 学 事 務 局
う会
第 1 会議室
平成 19 年
13 名
10 月 13
日
平成 19 年 親・子の気持ちを伝えあ 長 崎 大 学 文 教 キ 250 名
ャンパス中部講
10 月 13 う会
堂
日
57
臨時運営委員会
第 3 回講演会打合せ
第 3 回講演会
【190401】
平成 19 年 親・子の気持ちを伝えあ 長 崎 大 学 医 学 部 9 名
11 月 27 う会
基礎棟 2 階会議
日
室
第 26 回運営委員会
1 件)
(2)論文発表(国内誌
1 件、国際誌
1.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、
「匂いによって, 乳
幼児のストレス緩和法の研究」
、日本生理学雑誌(68 巻 6 号:209-211)、2006
2.Hirokazu Doi; Kazuhiro Ueda; Kazuyuki Shinohara, The precedence of the emergent property in
gaze direction perception. Brain and Cognition (in press)
(3)口頭発表(国際学会発表及び主要な国内学会発表)
①招待講演
(国内会議
5件、国際会議
1件)
・国内会議(5 件)
1.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「母子間コミュニ
ケーション」
、第 49 回日本未熟児新生児学会・第 14 回日本新生児看護学会、神奈
川、2004 年 12 月 7 日
2.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「匂いを介した母
子間コミュニケーション」
、第 53 回聖マリア医学会研究会、福岡、2005 年 1 月 20
日
3.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「匂いを介した母
子間コミュニケーション」
、第二回小児保健学会、長崎、2005 年 8 月 28 日
4.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、
「親子の絆の科学」
、
第 50 回九州新新生児研究会、長崎、2007 年 5 月 12 日
5.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「匂いで築く、よ
り良い家族関係」、第 392 回長崎医学会例会、長崎、2007 年 9 月 22 日
・国際会議(1 件)
1.Shota Nishitani (Department of Neurobiology and Behavior, Nagasaki University Graduate
School of Biomedical Sciences), “Chemical communication in humans, ” 4th Asia-Pacific
Conference on Chemical Ecology,Japan,2007/9/12
②口頭講演
(国内会議
6件、国際会議
0件)
・国内会議(6 件)
1.荒木美幸(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「妊婦の情動が胎
動に及ぼす影響~超音波検査装置を用いて~」
、第 47 回日本母性衛生学会、愛知、
2006 年 11 月 9 日
2.荒木美幸(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「妊婦の情動が胎
動に及ぼす影響」、第 1 回保健学研究会、長崎、2007 年 3 月 15 日
3.土居裕和(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「異性と同性の表
情認識における脳機能活動-事象関連電位による検討-」
、第 29 回日本生物学的
精神医学会、北海道、2007 年 7 月 11 日
4.西谷正太(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「近赤外分光法
(NIRS)による乳児の表情識別課題時の前頭前野の活動性は母性に関与する」
、第
58 回西日本生理学会、福岡、2007 年 10 月 19 日
5.中川竜太(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「乳児向け・成人
向け音声の統計モデルによる自動識別」、第 58 回西日本生理学会、福岡、2007 年
10 月 19 日
6.近藤美沙(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「マザリーズと成
人に向けた音声に対する乳児の選好聴取反応」
、第 58 回西日本生理学会、福岡、
2007 年 10 月 19 日
③ポスター発表 (国内会議 14件、国際会議
3件)
・国内会議(14 件)
58
【190401】
1.坂口清起(長崎大学・工学部・情報応用システム学)、「泣き声による乳児の情動識
別のためのラベル付与」
、日本音響学会 2006 年春季研究発表会、東京、2006 年 3
月 14 日
2.西谷正太(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「母乳の匂いによ
る新生児のストレス軽減作用」
、日本発達心理学会第 17 回大会、福岡、2006 年 3
月 22 日
3.年綱志保(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「乳児の情動特異
的な表情変化部位解析」
、日本発達心理学会第 17 回大会、福岡、2006 年 3 月 22
日
4.西谷正太(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「踵採血時の新生
児の痛みストレスは母親の母乳の匂いによって軽減される」
、第 83 回日本生理学
会大会、群馬、2006 年 3 月 29 日
5.西谷正太(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「母乳の匂いによ
る新生児のストレス軽減作用」
、日本味と匂学会第 40 回大会、福岡、2006 年 7 月
12 日
6.西谷正太(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「新生児の匂いは
産褥期の母親の気分を軽減する」
、第 29 回日本神経科学大会、京都、2006 年 7 月
21 日
7.西谷正太(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「成人が乳児の表
情から情動を識別する際の前頭前野の活動」
、第 28 回生物学的精神医学会、愛知、
2006 年 9 月 14 日
8.土居裕和(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「表情パターン分
析による乳幼児のコミュニケーションスキル評価技術の開発に向けて」
、第 28 回
生物学的精神医学会、愛知、2006 年 9 月 16 日
9.荒木美幸(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「妊婦の情動(喜
びと悲しみ)が胎動に及ぼす影響」
、第 21 回日本助産学会、大分、2007 年 3 月 11
日
10.土居裕和(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「ヒト乳児におけ
る表情刺激からの注意の開放におよぼす視線の影響」
、第 84 回日本生理学会大会、
大阪、2007 年 3 月 20 日
11.西谷正太(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「乳児の表情認識
課題中における母親の前頭前野の活動:近赤外線(NIRS)による研究」
、第 84
回日本生理学会大会、大阪、2007 年 3 月 21 日
12.中川竜太(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「統計モデルを用
いた成人向け幼児向け音声識別」
、第 84 回日本生理学会大会、大阪、2007 年 3 月
22 日
13.西谷正太(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「新生児の匂い識
別課題時における母親の右前頭前野の活動は高まる」
、第 29 回日本生物学的精神
医学会、北海道、2007 年 7 月 13 日
14.佐藤紀子(長崎大学・工学部・情報応用システム学)
、
「泣き声による乳児の情動識
別のための情動クラスタリング」
、日本音響学会 2007 年秋季研究発表会、山梨、
2007 年 9 月 19 日
・国際会議(3 件)
1.Shota Nishitani (Department of Neurobiology and Behavior, Nagasaki University Graduate
School of Biomedical Sciences), “Mother's milk odors attenuated stress responses to the
heelsticks in human infants,” International Society of Infant Study (ICIS), Kyoto,
2006/06/22
2.Shoichi Matsunaga (Department of Computer and Information Sciences, Faculty of
Engineering, Nagasaki University), “Emotion Detection in Infants' Cries Based on a
Maximum Likelihood Approach," Interspeech2006 (ICSLP2006), Pennsylvania,
59
【190401】
2006/9/20
3.Noriko Satoh(Department of Computer and Information Sciences, Faculty of Engineering,
Nagasaki University),“Emotion Clustering Using the Results of Subjective Opinion Tests
for Emotion Recognition in Infants' Cries,” Interspeech 2007 (Eurospeech), Belgium,
2007/8/30
(4)新聞報道・投稿、受賞等
①新聞報道・投稿
・新聞報道(26 件)
1.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、
「温度変化」
、産
業経済新聞、2004 年 12 月 6 日
2.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「赤ちゃん翻訳
機
長崎大教授ら開発へ」、西日本新聞、2005 年 1 月 6 日
3.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「赤ちゃんの気
持ち分かる 子育てママの悩み解消!表情、温度などで感情読み取る機械自閉
症など早期発見も」
、NEWS ジャーナル、読売新聞、2005 年 1 月 19 日
4.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「胎児、乳児の
感情機械で読み取る・科学振興機構プログラムに採択・長崎大研究 育児支援
に役立て」
、長崎新聞、2005 年 3 月 24 日
5.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「母と胎児らの
意思疎通・言葉以外の手段さぐる・長崎大、3 年かけ保育現場に生かす。」
、日本
経済新聞、2005 年 3 月 24 日
6.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「長大、育児支
援へ新組織」
、西日本新聞、2005 年 3 月 25 日
7.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「赤ちゃん感情
読み取れ 長崎大 技術開発に着手」
、北國新聞、2005 年 4 月 7 日
8.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、
「『育児の味方に』
赤ちゃんの心"翻訳機" 長崎大で開発着手」
、北陸中日新聞、2005 年 4 月 7 日
9.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、
「赤ちゃんの"表
情翻訳機"長崎大が開発着手-交流能力育てる」
、高知新聞、2005 年 4 月 7 日
10.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「赤ちゃんの感
情表情や声で解読 長崎大研究グループ"翻訳機" 開発に着手」、山梨日日新聞、
2005 年 4 月 8 日
11.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「赤ちゃんの感
情"翻訳"長崎大技術開発へ」、山陰中央新聞社、2005 年 4 月 8 日
12.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「脳科学の視点
から母子間コミュニケーションも研究」、遊育(U-IKU)、'05 No.7、2005 年 4 月 11
日
13.Kazuyuki Shinohara (Department of Neurobiology and Behavior, Nagasaki University
Graduate School of Biomedical Sciences), "LOOK WHO'S TALKING; Goo-goo gadget
claims to be baby-loingual," The Japan Times, 2005/4/11
14.Kazuyuki Shinohara (Department of Neurobiology and Behavior, Nagasaki University
Graduate School of Biomedical Sciences), "Researchers toy with translator for baby
babble," HK Standard, 2005/4/11
15.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「赤ちゃんの泣
き声『翻訳機』悲しみ・怒り・甘え・眠気 感情を80%判別 長崎大発 VB、
開発へ」
、日本経済新聞、2005 年 7 月 2 日
16.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「赤ちゃん翻訳
機が登場・
『なぜ泣くの…』虐待事件に歯止め・
『機械で子育て』に疑問も」
、産
業経済新聞、2005 年 7 月 11 日
60
【190401】
17.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、
「筆洗」(コラム
一面)、東京新聞、2005 年 7 月 22 日
18.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「乳幼児期のふ
れあい大切 抱っこ、母乳の効果も 医師、教授等研究成果発表」、西日本新聞、
2005 年 10 月 16 日
19.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「大阪で『こど
も大変時代』フォーラム~ほめられると脳活性化」、産業経済新聞、2006 年 3 月
20 日
20.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「変化する環境
の中で何が『発達』を促すか~互いの匂いで安らぐ母と子」
、産業経済新聞、2006
年 4 月 13 日
21.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「夫婦で子育て
がキーワード 孤立しないで楽しく おなかの赤ちゃんに優しく語り掛けること
が大切」
、長崎新聞、2006 年 8 月 9 日
22.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「ひきだせ『脳
力』-『音読』フォーラムを前に 篠原一之・長崎大学教授に聞く 脳への刺激に
有効 交流ツールにも活用を」、長崎新聞、2006 年 8 月 27 日
23.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、
「『赤ちゃんは何
を伝えようとしているの?』-大切な 22 のアドバイス」
、産業経済新聞、2006 年 8
月 30 日
24.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「要求のサイン
見逃さないで」
、コラム:赤ちゃん ABC、読売新聞、2007 年 2 月 6 日
25.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「止まらない時
は気長に」
、コラム:赤ちゃん ABC、読売新聞、2007 年 2 月 20 日
26.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学) 西谷正太(長崎
大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、
「においがつなぐ親子・男女」
、
NIKKEI SUNDAY α:サイエンス、日本経済新聞、2007 年 11 月 4 日
・テレビ・ラジオ報道(14 件)
1.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「特報:赤ちゃ
んの気持ちが分かる!?」
、PLUS1、NIB、2004 年 11 月 24 日
2.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「泣き声で分か
る赤ちゃんの気持ち、NBC 報道センター、NBC、2005 年 2 月 15 日
3.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「長崎大 母子
関係を科学的に研究」
、スーパーJ チャンネルながさき、NCC、2005 年 3 月 23
日
4.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「国の外郭団体
プログラム"赤ちゃん翻訳機"を採択」、NIBnewsDASH、NIB、2005 年 3 月 24 日
5.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、
「長崎マガジン:
赤ちゃんの気持ちを読み取れ」
、できたて Gopan、KTN、2005 年 5 月 4 日
6.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「育児めぐる新
研究
」、ニュース、NHK、2005 年 5 月 31 日
7.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「泣き声や表情
から赤ちゃんの感情を読み取る装置開発へ」
、文化放送、2005 年 6 月 29 日
8.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「特報:クラシ
ックで発育効果」、PLUS1、NIB、2005 年 7 月 13 日
9.Kazuyuki Shinohara (Department of Neurobiology and Behavior, Nagasaki University
Graduate School of Biomedical Sciences), "German TV Studio Tokyo," ARD(北ドイツ
放送 Kulturmagazin Plietsch), 2005/7/14
10.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「親子間のコミ
61
【190401】
ュニケーションのあり方研究へ」
、もってこい長崎6、
NHK、2006 年 3 月
23 日
11.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「赤ちゃんの匂
いの効果とは?」、NBC 報道センター、NBC、2006 年 7 月 13 日
12.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「フェロモンっ
て本当にあるの?~遺伝子の恋」
、解体新 Show、NHK、2006 年 10 月 30 日
13.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「解き明かされ
たフェロモンと匂いの謎 モテる匂い?モテない匂い?」
、世界一受けたい授業、
NTV、2007 年 2 月 3 日
14.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「フェロモンと
匂い~母と子の不思議なコミュニケーション(フェロモン研究国内第一人者・
母と子だけ感じあう神秘)」
、あっ!ぷる、NBC、2007 年 4 月 25 日
②受賞(1 件)
・第 28 回生物学的精神医学会他 三学会合同年会 優秀演題賞、
「成人が乳児の表
情から情動を識別する際の前頭前野の活動」
、西谷正太、2006 年 9 月
③その他
・書籍(3 件)
1.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「赤ちゃんは何
を伝えようとしているの?-泣声・表情で 0 歳児の気持ちがここまでわかる!」
、
ソフトバンククリエイティブ、2006 年 7 月 1 日
2.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、西谷正太(長崎
大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「フェロモン」、環境生理学-
人類生存への環境創造に向けて、第 6 章(3)
、北海道大学図書刊行会、2007 年
2 月 28 日
3.篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「言葉によらな
い母子コミュニケーションの意味」
、こども大変時代~先端科学が教える賢い子
供の育て方、p.321~p.324、扶桑社、第 24 回ファイザー医学記事賞優秀賞、2007
年 6 月 10 日
(5)特許出願
①国内出願(
3件)
1.発明の名称:「新生児由来成分を用いたストレス改善用組成物」、発明人:篠原
一之、西谷正太、宮村庸剛、出願人:国立大学法人 長崎大学、出願日 2005 年
10 月 14 日、出願番号:特願 2005-301011
2.発明の名称:「ストレス軽減剤」、発明人:篠原一之、西谷正太、宮村庸剛、田
川正人、角至一郎、出願人:国立大学法人 長崎大学、出願日 2005 年 10 月 14
日、出願番号:特願 2005-301012
3.発明の名称:
「妊婦を介して胎児に影響する映像及び音響の評価方法とその装置」
、
発明者:篠原一之 荒木美幸 石丸忠之 増崎英明 牛丸敬祥、出願人:株式
会社マザー&チャイルド、
出願日:2006 年 10 月 4 日、
出願番号:特願 2006-273440
②海外出願(
2件)
1.発明の名称:
「感情評価方法および感情表示方法、並びに、それらのための、プ
ログラム、記録媒体およびシステム」、発明者:篠原一之 堀田政二、出願人:
国 立 大 学 法 人 長 崎 大 学 、 出 願 日 : 2006 年 10 月 13 日 、 出 願 番 号 :
PCT/JP2006/320894
2.発明の名称:「乳児の情動を判定する方法、そのための装置とプログラム」、発
明者:篠原一之 松永昭一、出願人:国立大学法人 長崎大学、出願日:2007
年 3 月 6 日、出願番号:PCT/JP2007/054329
62
【190401】
(6)その他特記事項
1.技術移転等
「新生児由来成分を用いたストレス改善用組成物」
「ストレス軽減剤」は、長崎大学知
財本部および㈱長崎TLOを通じて出願し、企業と契約済みである。
「感情評価方法および感情表示方法、並びに、それらのための、プログラム、記録媒
体およびシステム」は、長崎大学知財本部および㈱長崎TLOを通じて国内出願およ
び国際(PCT)出願し、企業と契約済みである。
「乳児の情動を判定する方法、そのための装置とプログラム」は、長崎大学知財本部
および㈱長崎TLOを通じて国内出願および国際(PCT)出願し、企業と契約済みである。
なお、PCT 出願の費用は、社会技術振興機構(JST)の国際出願支援制度の助成を受けた
(審査あり)。
「妊婦を介して胎児に影響する映像及び音響の評価方法とその装置」は、企業の支援
を受けて国内出願を行った。
2.学会以外での招待講演・特別講演
①篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、株式会社日立製作所
基礎研究所講演会 特別講演、
「赤ちゃんの表情を読取る」
、埼玉県、2005 年 4 月 6
日
②篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「非言語的母子間コ
ミュニケーション」
、第 220 回日本産婦人科医会長崎県支部会 特別講演、長崎、2005
年 5 月 15 日
③篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「匂いを介した母子
間コミュニケーション」、長崎市一般市民公開講演会 特別講演、長崎、2005 年 5
月 27 日
④篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「匂いを介した母子
間コミュニケーション」
、第 49 回広島県小児科医会総会、広島、2005 年 7 月 10 日
⑤篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「言葉によらない母
子コミュニケーションの意味」
、生命ビックバン・こども大変時代フォーラム~考え
る脳 感じるこころ(産経新聞主催)
、大阪、2006 年 3 月 19 日
⑥土居裕和(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、
「ことばと心の発達」
「1・2・3 歳児をもつ親の勉強部屋」
、愛知、2006 年 5 月 19 日
⑦篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「非言語的母子間コ
ミュニケーションの非侵襲的解析」
、
「脳科学と教育」
(タイプⅠ)領域シンポジウム、
東京、2006 年 6 月 12 日
⑧篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「お母さんと赤ちゃ
んの脳科学」
、「脳!-内なる不思議の世界へ」展、長崎、2006 年 8 月 6 日
⑨西谷正太(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「赤ちゃんと子ども
のコミュニケーションを科学する」
、坂本技術区研修会、長崎、2006 年 8 月 29 日
⑩篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「親子の絆の科学」、
大村市保育協議会 研修会、長崎、2007 年 5 月 26 日
⑪篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「親と子の五感を介
したコミュニケーション」、
「長崎っ子の心を見つめる」教育週間、長崎、2007 年 7
月4日
⑫篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「匂いを介した母子
間コミュニケーション」
、第 49 回広島県小児科医会総会~小児診療のこころとこつ
~ 特別講演、広島、2005 年 7 月 10 日
⑬篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「赤ちゃんの秘密」
(ポスター)
、読売新聞大阪発刊 55 周年記念 日本の未来-子供を考える、大阪、2007
年 8 月 24 日~26 日
63
【190401】
⑭篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「保育力と保育にお
けるコミュニケーションについて」
、認定こども園保育者資質向上研修、長崎、2007
年9月8日
⑮篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「親子の絆の科学」、
認定子ども園における保育士資質向上講習会、長崎、2007 年 9 月 15 日
⑯篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「赤ちゃんは何を伝
えようとしているの?」
、アマランスフェスタ、長崎、2007 年 9 月 18 日
⑰篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、「お腹の中でおぼえ
るお袋の味、おっぱいでおぼえるお袋の味 WEB 講座」、ながさき子育て広場
(http://www.sasebo.net/kosodate2007/)、2007 年 10 月 15 日
⑱篠原一之(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・神経機能学)、
「子どもの健康」
、認
定こども園保育者資質向上研修、長崎、2007 年 12 月 1 日
3.親・子の気持ちを伝えあう会
本研究プロジェクトのアウトリーチ活動の一つとして、平成 17 年 3 月 8 日に「親・
子の気持ちを伝えあう会」を設立した。本会は会長を齋藤 寛・長崎大学学長、事務
局長を本研究代表者の篠原一之・長崎大学医歯薬学総合研究科神経機能学・教授がそ
れぞれ務めている。本会の目的は、 親と子をめぐる問題を提起する、② 親・子の
気持ちを伝えあうことについて議論する、③ 親・子の気持ちを伝えあうための支援法
について検討する、④ 上記支援方法を医療、保健福祉、保育、教育、地域社会、家庭
へ還元する、の 4 点であり、これに賛同する医師、看護師、助産師、保健師、保育士、
臨床心理士、栄養士、理学療法士、作業療法士、教師、学者、一般市民をもって構成
している。本会の目的を達成するために、以下のように年 1 回の講演会と定例セミナ
ーを開催した。
①第一回講演会
平成 17 年 10 月 15 日(土) 13 時~16 時 長崎大学中部講堂 無料 300 名参加
テーマ:不思議な関係 ・ 親と子のハーモニー 輝け!未来の子どもたち!
演題)
1.「伝わる気持ち・・・・手紙に見える親の願い」蒲池興照(清華保育園・園長)
2.「匂いと母子の関係」 篠原一之(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科・教授)
3.「乳幼児の愛着を育てる」青木豊(相州メンタルクリニック中町診療所・院長)
4.「HUG(抱っこ)は育児の原点~LovingHUG」橋本武夫(聖マリア病院・副院長)
後援)長崎市、長崎大学、NHK 長崎放送局、活水女子大学、長崎新聞社、長崎医師
会、長崎県小児保健協会、長崎市保育会、長崎県助産師会、長崎県小児科医会、長
崎市小児科医会、日本産科婦人科学会長崎地方部会、日本産婦人科医会長崎県支部
②第二回講演会
平成 18 年 10 月 28 日(土) 12 時 45 分~15 時 45 分 NBC ビデオホール無料 200 名参加
テーマ:みんなちがってみんないい~親と子・それぞれの愛し方~
演題)
1. 特別後援:「サルにみる愛情伝達」正高信男(京都大学霊長類研究所・教授)
2.「おなかの中にいた頃」増崎英明(長崎大学医学部産婦人科・教授)
3.「みんなちがった出発点」福田雅文(みさかえの園むつみの家・施設長)
4.「それぞれの愛し方~ペアレントトレーニングからみえてくるもの」柿田多佳子
(中央児童相談所・相談判定課判定班)
5.「親から子へ そして・・・」土居隆子(活水女子大学健康生活学部・教授)
後援)長崎県、長崎市、長崎大学、活水女子大学、県立長崎シーボルト大学、NHK
長崎放送局、長崎新聞社、長崎県教育委員会、長崎市教育委員会、長崎県医師会、
長崎県助産師会、長崎県小児科医会、長崎県小児保健協会、長崎市小児科医会、長
崎市保育会、日本産科婦人科学会長崎地方部会、日本産婦人科医会長崎県支部、長
崎県母性衛生学会
③第三回講演会
64
【190401】
テーマ:親と子のとまどい~向きあって共に育つ~
平成 19 年 10 月 13 日(土) 12 時 45 分~16 時 長崎大学中部講堂 無料 250 名参加
演題)
1.「子育て-こんなはずじゃなかった」大石和代(長崎大学大学院医歯薬学総合研究
科・教授)
2.「子どもの危機を救うのは ~県民総ぐるみによる『長崎っ子を育む行動指針』の
実践から~」浦川末子(長崎県こども政策局・局長)
3.特別後援:「子どもが育つ道すじ~思春期から育てる産み出す力~」服部祥子(大
阪人間科学大学大学院人間科学研究科・教授)
後援)長崎県、長崎市、長崎大学、活水女子大学、県立長崎シーボルト大学、NHK 長
崎放送局、長崎新聞社、長崎県教育委員会、長崎市教育委員会、長崎県医師会、長
崎県助産師会、長崎県小児科医会、長崎県小児保健協会、長崎市小児科医会、長崎
市保育会、日本産科婦人科学会長崎地方部会、日本産婦人科医会長崎県支部、長崎
県母性衛生学会
④定例セミナー
1)2005 年 4 月 18 17:00-17:40
福田雅文先生(みさかえの園むつみの家・施設長)
「親と子の心が通い合うとき」-NICU での触れ合い-
2)2005 年 6 月 28 18:00-18:40
大石和代(長崎大学・医学部保健学科・教授)
「健常新生児における出生時体位の 1962 年から 1988 年における推移」
3)2005 年 8 月 2 18:00-18:40
岩永竜一郎(長崎大学・医学部保健学科・助教授)
「発達障害と親子関係」
4)2005 年 10 月 25 18:30-19:10
本山和徳(長崎県立こども医療福祉センター・小児科・診療部長)
「発達障害児の療育について」
5)2005 年 11 月 29 18:30-19:10
川原ゆかり(長崎県中央児童相談所・所長)
「児童福祉の現状-児童相談所の立場から-」
6)2006 年 1 月 24 18:45-19:25
土居隆子先生(活水女子大学・健康生活学部・教授)
「子育て支援の現場から」
7)2006 年 2 月 28 18:30-19:10
宮崎正明(長崎大学・教育学部教育心理・教授)
「ストレス社会における親と子の心理」
8)2006 年 4 月 4 18:40-19:20
土居裕和(長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・助手)
「まなざしの知覚~そのメカニズムと社会的認知における役割について」
9)2006 年 5 月 23 20:50-21:30
増崎英明(長崎大学・医学部産婦人科・助教授)
「DNA を介した親子の会話」
10)2006 年 8 月 29 19:00-19:40
柿田多佳子(中央児童相談所・相談判定課判定班・判定員)
「ペアレントトレーニングについて」
11)2007 年 2 月 26 19:00-19:40
田川正人(長崎大学・医学部小児科・講師)
「未熟児診療の最近の話題」
12)2007 年 4 月 9 日 19:00-19:40
梶本順子(長崎北保育園・園長/長崎北児童館・理事長)
65
【190401】
「子どもたちの園での過ごし方」
13)2007 年 5 月 22 19:00-19:40
調幸先生(長崎市・地域保健課・主幹)
「最近の母子保健事業」
7.結び
今回のプロジェクトの目的を一言で言えば、
「自ら語ることができない乳児の情動を客観的
指標によって識別することと、乳児と母の非言語的コミュニケーション手段を明らかにする
こと、それら研究成果を社会応用に近づけること」である。これについては、おおむね達成
されたと思う。表情や泣き声で乳児の情動を評価する試みは、そのままの状態で技術移転す
るには至っていないが、国内外に特許出願を果たせている。胎児の情動評価という試みも、
母の情動がそのまま胎児に伝わるという仮定のもとではあるが、概ね成功し、特許出願を果
たせている。乳児と母の非言語的コミュニケーション手段についても、視覚に関しては視線
の重要性、嗅覚に関しては母乳の匂いと新生児の匂いの効果、聴覚についてはマザリーズの
音響学的解析等、これまでに経験的に語られていたものを科学的に明らかにできたと思う。
母乳の匂いと新生児の匂いに関しては両者とも国内特許出願を果たせている。
しかし、当初の研究目的を果たせなかったこともある。そのうち、大きなテーマは、母親
の情動の客観的な評価法の開発である。これまで行われてきた大人の顔画像の研究は、俳優
が情動を演じた顔画像を用いている。我々は、ビデオ視聴法で母親の情動を喚起することに
は成功したが、各情動変化に伴う表情の変化は乳児と同じパラメータを用いても、検出する
ことができなかった。研究者の視察からも、画像によって表情を識別することは全く不可能
であった。通常の情動喚起法では、一般的被験者は俳優が演じるような表情を表出しない。
ただ、サーモグラフィによる顔温度変化を観察すると、各情動変化に伴う変化が、若干見ら
れた。しかし、サーモグラフィの値が相対的なものであり、さまざまな内的・外的環境要因
に左右されるので、情動の客観的な評価法としては有効でないと判断し、途中で研究を中断
した。今後、顔温度変化に影響を及ぼす内的・外的環境要因を明らかにし、研究を再開した
いと考えている。
また、胎児の表情から情動を客観的に判断する試みも、中断した。その大きな原因は、エ
コー観察中に姿勢が変わるので、胎児の正面顔画像がとれず、顔画像を定量的に表現できな
いためであった。しかし、研究者の視察からは表情の変化は明確に識別できた。4D エコーに
より表情の変化は明確で、
「怒り」
「喜び」
「悲しみ」の 3 カテゴリーへの分類は可能である。
数値化できないので明言はできないが、少なくとも母親の情動と乳児の表情の関連性はない、
というのが我々の印象である。今後、胎児の表情の意味については、詳細に検討していきた
い。
一方、申請当初は計画しておらず途中から始めた研究で大きな成果を得たテーマもある。
母親の脳の特殊性である。母親は、乳児の視覚情報や嗅覚情報に暴露されると、右前頭前野
が活性化するのである。この現象は、未出産女性や男性には起こらなかった。また、母親の
右前頭前野活性化は大人の視覚情報や嗅覚情報に暴露されても起こらない。今後、乳児の他
の感覚情報に関する研究をすすめることで、虐待の客観的診断法、育児能力を向上させるト
レーニングプログラムの開発に応用できそうである。
また、円滑な母子コミュニケーションを支援していくには、母あるいは乳児の情動を個別
に評価するだけでは不十分で、関係性の評価が必要である。SSP によって母子場面を設定し、
各場面での母子の行動を観察することによって、関係性の評価する方法がある。しかし、こ
れは、専門医が行うものであるため専門医の数に限定され、さらに主観的という弱点を持つ。
われわれは、母子それぞれに複数の超音波タグを装着することによって、母と子を同時に行
動の客観的評価を行えるようになった。本研究成果を発展させ、母子関係の大規模スクリー
ニング法を開発していきたい。
全般的に、研究成果については特許出願を優先させたため、期間内に論文を多く出せなか
ったことも反省点である。研究成果の特許出願は全て終了したので、論文投稿に鋭意努力す
66
【190401】
る。
以上、研究に関する簡単な総括を行ったので、本研究プロジェクトを進めてくれた若手研
究者について述べる。申請当初、主要なメンバーであった講師は他大学の准教授に、准教授
は本学の教授に、大学院生は本校の助教になった。また、研究途中から二人の助教が教室に
新規に参加した。一人は心理学的なパラダイムの導入、一人は情報工学的技術を導入しくれ
たお陰で大幅な研究の進展が見られた。
最後に、本プロジェクトの研究成果が認められて、本プロジェクトを発展させ、学童間の
コミュニケーションをテーマとした「子どもの心を育むコミュニケーション学創出」という
研究計画が長崎大学 10 重点研究課題の一つに選ばれ、人を含めた研究資源が与えられた。こ
れも、研究統括の小泉先生をはじめ JST のスタッフのおかげである、この場を借りて改めて
深謝したい。
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