時間外労働に関する 基礎知識 - 税理士法人 森田会計事務所

Available Information Report for Corporate Management
経 営 情 報 レ ポ ー ト
第 34 号
知らなかったでは済まされない!
時間外労働に関する
基礎知識
1 時間外労働対策は企業経営の最重要課題
2 労働日数に柔軟性を持たせる変形労働時間制の活用法
3 「みなし」・「裁量」労働時間制適用は要注意
4 「名ばかり管理者」問題への対応法
森田 務 公認会計士事務所
知らなかったでは済まされない!
時間外労働に関する基礎知識
時間外労働対策は企業経営の最重要課題
労働時間の弾力化が進行するなか、いつからいつまでが労働時間なのかがわかりにくく
なり、それがサービス残業の原因になっています。
この情報レポートでは、労基法の定める労働時間の原則と例外についての基礎知識を踏
まえて、どのような場合がサービス残業になるかを明らかにし、それをなくすためにはど
うしたらよいかについて述べます。
1|まずは労働基準法を正しく理解することから
(1)労働基準法は最低基準
労働基準法(労基法)は、経営者や働く人の意思に関係なくすべての職場に適用される
法律です。
労基法は、労働条件について定めていますが、それはあくまでも「人たるに値する生活
を営むための」
(1条1項)
「最低の」基準(1条2項)を定めたものにすぎません。労基法
が定める労働条件を下回る内容の契約をしても無効です(13 条)。
(2)1日8時間、1週間 40 時間の原則
労基法 32 条は、「①使用者は、労働者に休憩時間を除き1週間について 40 時間を超え
て、労働させてはならない。②使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間
を除き1日について8時間を超えて労働をさせてはならない。」と定めています。
1週間 40 時間・1日8時間労働制の原則を明確に、この場合の1週間とは、就業規則な
どに別に定めていないかぎり、日曜日から土曜日までの暦週をいい、1日とは、午前 0 時
から午後 12 時までの暦日をいいます。労基法は、同居の親族のみを使用する事業所を除き、
事業の種類を問わずすべての事業所に強制的に適用されます。
したがって、法律に定められた例外に当てはまらないかぎり、使用者は、1日8時間以
上、1週間 40 時間以上働かせてはいけないということです(ただし、特例措置対象事業場
を除く)。
(3)労働時間とは
労働時間とは、労働者が使用者の指揮監督の下にある時間で、拘束時間から休憩時間を
除いたものをいいます。最も単純な形では、出勤時間から退勤時間までの時間(拘束時間)
から昼休みなどの休憩時間を引いた時間を労働時間ということになります。
1
企業経営情報レポート
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時間外労働に関する基礎知識
休憩時間は、使用者の指揮監督の下から離れることです。現実に仕事をしているわけで
はないがいつでも就労できるように待機しているいわゆる「手待時間」も当然、労働時間
に含まれます。
また、作業の準備や後始末、作業着・制服などの更衣時間なども労働時間に含まれます。
【
労働時間
=
束縛時間
−
休憩時間
】
使用者の指揮監督下にある時間
実際に頭脳、肉体を働かせている時間
労働時間と
認められる
手待ち時間
所定時間外の義務的な教育、研修への参加時間
労働に不可欠な準備、整理時間
使用者の監督下から離れ、自由に使える時間(休憩時間など)
労働時間と
認められない
所定時間外に自由意思で教育、研修に参加した時間
その他の準備、整理のための時間
通勤時間
2|「36協定」の締結がなければ時間外労働は一切認められない
(1)「36 協定」とは
労基法 36 条は、労使協定による1日8時間・1週間 40 時間労働制原則の例外を認めて
います。この労使協定のことを、労基法 36 条に規定されていることから「36 協定」と呼
んでいます。「36 協定」は、使用者と労働者との間で締結される協定ですが、労働者個々
人との間で締結される契約とは異なります。
事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその労働組合、そのような
労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者(労働者代表)が締結当事者となり
ます。
「36 協定」によって時間外労働が認められていれば、1日8時間・1週間 40 時間労働
制を超えて働かせる事ができるようになります。
(2)使用者の周知義務
使用者は、労基法および同法による命令の要旨、就業規則、「36 協定」などの労使協定
を従業員に周知しなければなりません(労基法 106 条)。
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時間外労働に関する基礎知識
就業規則や労使協定は、次の3つのいずれかの方法で周知しなければなりません。
①常時各作業所の見やすい場所に掲示し、または備え付ける方法
②労働者に書面を交付する方法
③磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずるものに記録し、かつ各作業所に労働者
がその記録の内容を常時確認できる機器を設置する方法
(3)「36 協定」締結のしかた
「36 協定」の締結には厳しい条件が課されています。
①事業所ごとに締結すること
(会社がいくつもの支店を有する場合には、その支店ごとに締結する必要があります。
)
②時間外労働をさせる必要性の明記
(
「36 協定」では、時間外労働をさせる必要のある具体的事由を協定しなければなりません。
)
③業務の種類・労働者の数を協定
(いかなる業務について、何人の労働者について時間外労働を何時間認めるかを具体的に協定
しなくてはなりません。
)
④時間外労働として延長することができる時間を明記する
(1日および1日を越える一定期間について延長することができる時間を明記して協定する必
要があります。
)
⑤無制限に労働時間を延長できるわけではない
(有害業務については、1日2時間が限度です。また年少者(18 歳未満の者)については、
「36
協定」の適用はなく、時間外労働が許されていません。)
⑥届出
(事業所を監督する労働基準監督署長に届け出る必要があります。)
■時間外労働の限度に関する基準
b 対象期間が3ヵ月を超える1年単位の
変形労働時間制の対象者の場合
期 間
限度時間
1週間
14 時間
2週間
25 時間
4週間
40 時間
1ヵ月
42 時間
2ヵ月
75 時間
3ヵ月
110 時間
1年間
320 時間
a 一般の労働者の場合
期 間
1週間
2週間
4週間
1ヵ月
2ヵ月
3ヵ月
1年間
限度時間
15 時間
27 時間
43 時間
45 時間
81 時間
120 時間
360 時間
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時間外労働に関する基礎知識
3|時間外労働の割増率違反も大きな問題となる
(1)時間外、休日、深夜労働についての割増賃金
時間外や深夜(午後 10 時∼午前5時)に労働させた場合には、2割5分以上、法定休日
(1週間に1日もしくは4週間で4日の休日)に労働させた場合には、3割5部以上の割
増賃金を支払わなければなりません。これは、たとえ時間外労働・休日労働に関する協定
届の提出がなされていなくても支払いの義務があります。
■時間外・休日・深夜労働の割増賃金率
ア 法定労働時間(1日8時間、1週 40 時間[特例措置事業場は1週 44 時間])を超えた場合
2割5分以上
イ 深夜(午後 10 時から午前5時まで)に労働させた場合
2割5分以上
ウ 法定休日(労基法第 35 条の休日)に労働させた場合
3割5分以上
エ 法定時間外が深夜に及んだ場合
5割以上
オ 法定休日労働が深夜に及んだ場合
6割以上
(2)割増賃金の計算方法
1時間当たりの割増賃金の計算方法を 示すと、以下のとおりです。なお、1.35 又
は 0.35 としているのは、法定休日労働の場合です。
また、次の6つは割増賃金の算定基礎より除きます。
①家族手当
扶養家族数に関係なく一律支給されるもの、あるいは一家を扶養する者に対し、基本給
に応じて支給されるものは除外しません。
(出来高払いを除く)
②通勤手当
一律支給分は除外しません。また一定額までは、距離にかかわらず、一律に支給する場
合は、実際の距離・通勤代金(定期代等)によらない−定額の部分は通勤手当とはみなさ
れず除外されません。
③別居・子女教育手当
④住宅手当
一律支給分は除外しません。
⑤臨時に支払われた賃金
⑥1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金
賞与および1ヵ月を超える期間の出勤成績等により支給される精勤・勤続・能率手当な
ど。
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時間外労働に関する基礎知識
■ア 時間給の場合
1時間当たりの割増賃金額 = 時間給額 × 1.25(又は 1.35)
■イ 日給の場合
日給額
1時間当たりの割増賃金額 =
× 1.25(又は 1.35)
1日の所定労働時間数(※)
(※日によって所定労働時間が異なるときは、1週間における1日の平均所定労働時間数)
所定労働時間というのは、 法定の労 働時間ではな く、当該事業場又 は当該労 働者
について定められた所定の労 働時間で す。したがっ て、所定労働時間 が7時間 であ
る場合には、日給額を7時間で割らなけ ればなりません。
■ウ 月給の場合
月給額(基本給+手当)
1時間当たりの割増賃金額 =
× 1.25(又は 1.35)
1ヵ月の所定労働時間数(※)
(※月によって所定労働時間が異なるときは、1年間における1ヵ月平均所定労働時間数)
この算出方法は、
( 365 − 所定休日 ) × 1日の所定労働時間数 ÷ 12 ヵ月
月間所定労働時間数は月に よって変 動するのが普 通ですから、分母 について は括
弧書きによって計算するのが普通です。
■エ 出来高払いの賃金の場合
当該賃金算定期間中に支払われた
出来高給(請負給)の総額
1時間当たりの割増賃金額 =
× 0.25(又は 0.35)
当該賃金算定期間における
総実労働時間数
■オ 賃金が上の計算式で示した賃金の 2以上の組み合わせ で支払われる 場合
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時間外労働に関する基礎知識
労働日数に柔軟性を持たせる変形労働時間制の活用法
変形労働時間制とは、所定の要件を満たせば、一定期間の総所定労働時間を平均した時
間が、法定の週 40 時間を超えないかぎり、特定の週に 40 時間または特定の日に8時間を
超える労働を認める制度です。
変形労働時間制は、業務量が多い時期と少ない時期の繁閑が大きい業種で効率的に労働
時間の弾力的配分を可能とする制度です。使用者には時間外労働を減少させ、残業手当を
削減できるメリットがあります。
1|1ヵ月単位の変形労働時間制とは
1ヵ月単位の変形労働時間制とは、1ヵ月以内の一定の期間を平均し1週間の所定労働
時間が 40 時間以下の範囲内において、1日8時間及び1週 40 時間の法定労働時間を超え
て労働させることができる制度です。
1ヵ月単位の変形労働時間制は、就業規則その他これに準ずるものまたは労使協定によ
り導入することができます。労使協定は労働基準監督署長に届け出る必要があります。な
お、労使協定の締結と届出だけでは足らず、就業規則の変更手続が必要になる場合があり
ます。
また、変形労働時間制であっても、いったん各日、各週の労働時間が特定されたときに
は、業務上の必要があっても、その変更は認められません。
1ヵ月単位の変形制で、時間外労働となるのは、以下の通りです。
①変形時間の労働時間の枠を超え、かつ、1日8時間または1週 40 時間を超えて労働した
時間
②変形期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間
2|1年単位の変形労働時間制とは
使用者は、事業場の過半数組合または過半数代表者との書面協定により、対象期間とし
て定められた期間を平均し1週間当たりの労働時間が 40 時間を超えない範囲内で、協定で
定めるところにより、特定の週に 40 時間または特定の日に8時間を超えて、労働させるこ
とができ、これを「1年単位の変形労働時間制」と言います。
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時間外労働に関する基礎知識
ただし、協定には以下について定め、労働基準監督署に届け出ることが必要です。
①対象労働者の範囲
②対象期間(1ヵ月を超え1年以内の期間)
③特定期間(対象期間中、特に業務が繁忙な期間)
④対象期間の労働日・労働時間
⑤協定の有効期間
労働日数は、対象期間が3ヵ月を超える場合、1年に 280 日が限度です。
また、1日の労働時間については、対象期間が3ヵ月以内の場合、1日 10 時間・週 52
時間、3ヵ月を超える場合、1日9時間・週 48 時間が変形の上限とされます。特定期間に
認められる連続労働日数は、1週間に1日の休日を確保できる日数(最長 12 日)が限度と
されています。
3|1週間単位の変形労働時間制とは
1週間単位の非定型的変形労働時間制とは、規模 30 人未満の小売業、旅館、料理・飲食
店の事業において、労使協定により、1週間単位で毎日の所定労働時間を弾力的に定める
ことができる制度です。なお、1日について 10 時間まで労働させることができます。
4|フレックスタイム制とは
フレックスタイム制とは、1ヵ月以内の一定期間の総労働時間を定めておき、労働者が
その範囲内で各日の始業及び終業の時刻を選択して働く制度です。
■フレックスタイム制を採用するには
①就業規則その他これに準ずるものにより、始業及び終業の時刻を労働者の決定にゆだね
ることを規定すること
②労使協定により、対象となる労働者の範囲、清算期間(※1)、清算期間中の総労働時
間(※2)、標準となる1日の労働時間などを定めることが必要です。
モ
デ
ル
例
労働時間帯
標準労働時間帯
(通常の労働者の所定労働時間帯)
AM
7:00
▼
9:00
▼
10:00
▼
フレキシブルタイム
いつ出勤してもよい時間帯(※4)
12:00
▼
コアタイム
PM
1:00
▼
休憩
3:00
▼
コアタイム
必ず労働しなければならない時間帯(※3)
7
5:00
▼
7:00
▼
フレキシブルタイム
いつ退社してもよい時間帯(※4)
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時間外労働に関する基礎知識
(※1)清算期間
フレックスタイム制において、労働契約上労働者が労働すべき時間を定める期間で、1
ヵ月以内とされています。1ヵ月単位のほかに、1週間単位等も可能です。
(※2)清算期間における総労働時間
フレックスタイム制において、労働契約上労働者が労働すべき時間です。要するに所定
労働時間のことであり、所定労働時間は清算期間を単位として定めることになります。
この時間は、清算期間を平均し1週間の労働時間が法定労働時間の範囲内となるように
定める必要があります。
(※3)コアタイム
労働者が必ず労働しなければならない時間帯です。
(※4)フレキシブルタイム
労働者がその選択により労働することができる時間帯です。
1ヵ月単位
1年単位
1週間単位
フレックス
タイム制
労使協定の締結
○
○
○
○
労使協定の届出
○
○
○
特定の事業・規模のみ
○
週1日
週1日または
4週4日の休日
1日の労働時間の上限
10 時間
10 時間
1週の労働時間の上限
52 時間
休日の付与日数
1週平均の労働時間
時間・時刻
週1日または
4週4日の休日
30 人未満
40 時間
特例 44 時間
40 時間
40 時間
○
○
○
出退勤時刻の選択
就業規則で時間・日を明記
就業規則変更届の提出
週1日または
4週4日の休日
40 時間
特例 44 時間
○
○
○
○ 10 人未満
就業規則に
準ずる規定
○
8
○
○
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時間外労働に関する基礎知識
「みなし」・「裁量」労働時間制適用は要注意
1|みなし労働時間制とは何か
Web2.0 を活用した情報収集
就業形態の多様化に伴い、画一的な労働時間制度になじまないタイプの労働者が増えて
います。こうした労働者の業務に係わる労働時間については、通常の労働時間の算定は困
難であると考えられることから、別に労働時間の算定方法を定めた制度を「みなし労働時
間制」といいます。
2|みなし労働時間制と裁量労働制を適用できる条件
労基法は、セールスマンや新聞記者の業務等、事業場外で行われる労働の一部について
は労働時間の算定等が困難であることから、労働時間算定義務の例外として「みなし労働
時間制」を認めてきました。
この「みなし労働時間制」は、使用者による正確な労働時間の算定が困難な種類の労働
について、実際の労働時間とは違う「みなし時間」働いたこととする「フィクション(擬制・
ぎせい)」を容認するものです。
労基法の定める労働時間制のなかでは、
「実労働時間の使用者による正確な算定」が基本
ですから、みなし労働時間制は、きわめて例外的なものにすぎません。
みなし労働時間制はつぎの3つに大別できます。
①事業場外労働に関するみなし労働時間制
②専門業務型裁量労働に関するみなし労働時間制 ――
③企画業務型裁量労働に関するみなし労働時間制 ――
裁量労働制
裁量労働制
以下、この3種類の「みなし労働時間制」について、その概要を説明します。
(1)事業場外みなし労働時間制
事業場外労働についての「みなし労働時間制」は、外務員、新聞記者など外勤業務や出
張などで、労働者が労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事した場合に、
所定労働時間労働したものとみなす制度です。
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時間外労働に関する基礎知識
この制度を導入するためには、次のことが必要になります。
①就業規則に、対象業務、対象労働者の範囲とみなし労働時間(所定労働時間)
「事業場外
労働のみなし労働時間制に関する定め」(90 条Ⅱ項)を明記
②就業規則を労働基準監督署に届け出る
③労働者に周知する
対象となるのは、事業場外での業務で、かつ、使用者の具体的な指揮監督が及ばず労働
時間を算定することが困難な業務に従事する場合に限られます。
また、労働時間の一部を事業場内で労働した日については、みなし労働時間制によって
算定される事業場外で業務に従事した時間と、事業場内での労働時間とを加えた時間が労
働時間となります。使用者は、この労使協定を労働基準監督署に届け出る必要があります。
(2)専門業務型裁量労働制
(1)の事業場外労働についての「みなし労働時間」の内勤を含めた業務にまで拡大し
たのが、1998 年の法改正で新たに導入された「裁量労働制」(専門業務型)です(38 条の3)。
この制度を導入するためには、まず、対象となる業務が、
(a)業務の性質上その遂行の
方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、
(b)業務遂行の手段・時間配分決
定等に関し具体的指示が困難なものに限られます。
①新商品・新技術の研究開発または人文科学や自然科学に関する研究の業務
②情報処理システムの分析・設計の業務
③新聞・出版または放送番組制作の取材・編集
④デザイン
⑤プロデューサーまたはディレクターの業務
⑥厚生労働大臣の指定業務
(コピーライター、システムコンサルタント、インテリアコーディネーター、ゲームソ
フト創作、証券アナリスト、金融商品開発、公認会計士、弁護士、1級建築士・2級建
築士・木造建築士、不動産鑑定士、弁理士、税理士、中小企業診断士)
これ以外の業務について、事業所毎に独自の判断や解釈で対象業務を拡大することは許
されません。特に、留意する必要があるのは、業務遂行の手段や時間配分が個別事情に関
係なく指示されて決定される場合には、裁量労働の対象とすることはできないことです。
次に、使用者は、事業場の過半数組合または過半数代表者との書面協定で以下について
定め、これを労働基準監督署へ届け出るとともに、労働者に周知する義務を負うことにな
っています。
①対象業務
②対象業務に従事する労働者に対し、業務遂行や時間配分の具体的指示をしない
③労働時間算定について協定で定めるとした場合、労働者をその業務に就かせたときは、
協定所定の時間労働したものとみなすこと
④協定の有効期間
10
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時間外労働に関する基礎知識
みなし労働時間は1日当たりの時間を定め、対象業務が複数の場合にはそれぞれの業務
ごとに労使協定で定める必要があります。
さらに、始業・終業時刻に関する事項は、労基法では就業規則の絶対的記載事項になっ
ていますので(89 条1号)、専門業務型裁量労働制を導入するときには、その旨を就業規則
に定めることが必要となります。
(3)企画業務型裁量労働制
この企画業務型裁量労働制は、専門業務型とは異なり、特に業務に専門性がない労働者
であっても、企業の本社等の事業運営上の重要な決定が行われる事業場で、企画等の業務
を行う労働者について、裁量労働制を導入することを可能とするものです。
この制度を導入するためには、次のことが必要です。
①労使委員会を設置する
この労使委員会は、労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事
項について意見を述べることを目的とする、使用者と事業場労働者の代表者を
構成員とする委員会とされ、所定の手続による委員の指名・信任、議事録の作
成・保存、周知、運営規程の作成が必要
②労使委員会の設置を労働基準監督署に届け出る
③労使委員会で、全員の合意により決議
イ)対象業務(企画、立案、調査および分析の業務であって遂行手段等に関し
使用者が具体的指示をしないこととする業務)
ロ)対象労働者の範囲
ハ)労働時間として算定される時間(みなし労働時間)
ニ)健康および福祉を確保するための措置
ホ)苦情の処理に関する措置
ヘ)労働者の個別の同意
ト)有効期間
チ)記録の保存等
④使用者は、対象労働者の個別の同意を得る
⑤③の決議を労働基準監督署に届け出る
なお、労使委員会は、委員の半数は、過半数組合か過半数代表者に任期を定めて指名さ
れ、労働者の過半数の信任を得ていることが必要です。
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時間外労働に関する基礎知識
「名ばかり管理職問題」への対応法
1| 日本マクドナルド事件の波紋
最近、「名ばかり管理職」あるいは「偽装管理職」などと称される報道が見られるよう
になりました。それらの報道では、管理職としての実質的な権限がないにもかかわらず、
「管理職」として扱われ、割増賃金などの支給もないままに長時間の労働が強いられてい
るという問題提起がされています。
そして、平成 20 年1月 28 日に東京地裁において、ハンバーガーチェーン大手のマクド
ナルドの店長が労働基準法(以下、「労基法」という)41 条2号の「管理若しくは管理の
地位にある者」(以下、「管理監督者」という)には該当しないとして、未払いの割増賃
金請求等を認める判決が言い渡されました。
現在、この判決は多くの波紋を呼んでいます。
全国展開するサービス業では、各地の拠点に営業店を設置し、多くの場合、その店長を
管理監督者と位置づけてきたからです。コンビニエンスストア大手のセブンイレブンにお
いては、直営店の店長に時間外手当を支払う方針を固めるなど、各企業において店長、あ
るいは管理職の労働条件を見直そうとする動きも見られるところです。
また、平成 20 年4月1日には、厚生労働省労働基準局監督課長名で都道府県労働局長宛
てに「管理監督者の範囲の適正化について」というタイトルの付された行政通達(基監発
第 0401001 号、平成 20 年4月1日)が出されました。今後、労働基準監督署においては、
管理監督者の範囲等について、サービス業だけではなく、すべての業種に対する積極的な
監督・是正指導が行われていくことが予想されます。
2| 管理職と管理監督者の違い
(1)「管理職」イコール「管理監督者」ではない
企業での管理職と、労働基準法でいう管理監督者とは異なります。課長職以上を管理職
として扱っている企業が多いと思いますが、労働基準法の管理監督者は役職名や肩書きで
判断できません。労働基準法上では「監督もしくは管理の地位にあるもの」「部長、工場
長など労働条件の決定、その他労務管理について経営者と一体的な立場にあるもの」とさ
れています。
つまり、管理監督者について各企業で勝手に「課長職以上は管理監督者だから、残業代
は支払わない」というように決めてよいわけではありません。あくまでも客観的に決まる
12
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時間外労働に関する基礎知識
ものです。客観的に「労働時間、休憩、休日を適用除外にしても、労働者保護の観点から
問題がない」と言える範囲に限定されます。
管理監督者の意義・範囲については、法令は特段に定めていないため、行政解釈が示さ
れています。管理監督者とは、労働条件の決定その他の労務管理について経営者と一体的
立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべし、とされています
(昭 22.9.13 発基 17 号、昭 63.3.14 基発 150 号)。
その要件は以下の通りとなります。
①事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮管理監督権限
を認められていること
②自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること
③一般の従業員に比べその地位と権限にふさわしい賃金上の処遇を与えられ
ていること
労働の質、量、およびそれに対する待遇等を、総合的かつ実態的に判断されるというこ
とです。
(2)管理監督者の判断基準
管理監督者の判断基準についてのチェックリストは次のようになります。チェックリス
ト形式にしましたが、管理監督者の判断は実態に即した総合判断になりますので、最終的
には総合判断が必要です。
■管理監督者 チェックリスト
職務内容・権限・責任等
1
募集・採用条件・採用について決定権限があるか
2
人事考課、賞与額について決定権があるか
3
昇進・昇給について決定権限があるか
4
人事計画の作成について権限があるか
5
重要事項を決定する会議への参加権限があるか
勤務態様
6
自己の勤務時間について、実質的に見て裁量権が行使できるか
7
早退・遅刻のとき賃金が控除されないか
13
○・×
○・×
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知らなかったでは済まされない!
時間外労働に関する基礎知識
待遇
○・×
8 すぐ下の非管理監督者の賃金水準と比較して十分といえるか
9
管理監督者になり、時間外手当が支払われなくなったことにより、以前より
賃金が低くなってはいないか
10 役職手当を含めた待遇が管理監督者に見合うものか
(3)企業における管理監督者の意味合い
労基法 41 条2号において、管理監督者については、同法の労働時間、休憩および休日に
関する規定を適用しないと定めています。
①労働時間
1日8時間以内、1週40時間以内とする
②休憩
労働時間が6時間を超える場合45分以上の休憩、8時間を超える場合は1時間
以上の休憩を与える
③休日
1週に1日以上の休日を与える
つまり、管理監督者には時間外労働、休日労働という一般の従業員への考えは当てはま
らず、残業代は支払わなくてもよいことになります。ただし、年次有給休暇や深夜業務の
割増賃金の支払義務は適用されます。
管理監督者は、経営者と一体的な立場にあり、自らの労働時間の管理について裁量権を
もっているので、上記のような規制になじまないためとされています。
3| 行政指導の現状
(1)裁判例の基準
管理監督者性の判断をする多くの裁判例は、日本マクドナルド事件の判決に限らず厳格
です。特に、職務権限がある程度認められても、相当程度の広い権限と裁量性がないと、
待遇がある程度のレベルでも管理監督者性を容易に認めません。
裁判で否決されると、役職手当を支給していたときは、その解釈が争点となります。つ
まり、当該役職手当は、割増賃金の算定基礎に入るのか、そして計算された割増賃金から
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既払いの定額残業代として控除できるのかということです。
また、付加金の支払いを命じる裁判例もあります。金額については、いろいろあります
が割増金額と同額まで命じた裁判例もあります。
(2)裁判による対応例
管理監督者性としての実態がないのに管理監督者と位置付けていたときは、以下のよう
な対応を命じられます。
①労働時間、休憩、休日の労基法の規制が及ぶことになり、法定労働時間(1日8時
間、1週 40 時間)を超えれば、割増賃金を支払わなければなりません。
②役職手当を支払っていても、その手当の取扱いが問題となり、役職手当を割増賃金
の算定基礎に算入しなければならず、かつ、計算された割増賃金からその役職手当
分を控除することができない可能性があります。
③付加金の支払う可能性があります。
賃金債権の時効は2年ですから、2年分の未払い賃金を支払わなければならなくなり、
莫大な負担となります。
(3)労働基準監督署による監督・是正指導
労働基準監督署により、管理監督者性について違法と判断した場合は、是正勧告を出し、
労働時間管理と時間外・休日出勤に対する割増賃金の支払いを勧告します。
しかし、この判断は実態に沿った総合判断である性質上、労働基準監督署が違法と断定
して勧告するケースは少ないと予想されます。違法とまでは言えないが、改善すべしと判
断し指導票を出し、再検討を指導するケースがほとんどです。
指導票を出された場合、指定の期日までに是正し、労働基準監督署に是正報告書を提出
しなければなりません。是正事項によっては、期日に間に合わないこともあります、その
場合は、その具体策と予定年月日を報告することになります。
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■指導票 例
指
導
票
平成○○年○○月○○日
株式会社○○○○○
代表取締役○○○○○殿
○○○労働基準監督署
労動基準監督官
○○
○○
㊞
あなたの事業場の下記事項については改善措置をとられるようにお願いします。
なお、改善の状況については○○月○○日までに報告してください。
指
導 事 項
1.労働基準法第 41 条第2号の管理監督者について
労働基準法の管理監督者とは「労働条件の決定、その他労務管理について経営者と
一体的な立場にある者」と規定されており、名称ではなく、実態的に判断されるもの
とされており、具体的には①実態上の職務内容、責任と権限が伴うか、②勤務態様の
実態はふさわしいか、③適切な待遇がなされているか、④スタッフ職の場合は、経営上
の重要事項に関する企画立案の部門に配属され、ライン管理職と同格以上に適されて
いるか、によって判断すべきとされています。
ついては、上記の視点から、管理監督者の範囲について精査し、実態を踏まえた適正な
運用が図られるよう検討すること。
また、管理監督者といえども深夜勤務を行った際には、別途深夜労働手当が発生する
ことを説明するとともに、過重労働防止の概念から日々の労働時間の把握に努めて下さい。
2.(省略)
受領年月日
平成○○年○○月○○日
受領者職氏名
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■是正報告書 例
是
正
報
告
書
平成○○年○○月○○日
○○○労働基準監督署
労働基準監督官
○○
○○ 殿
事業所名
代表者職氏名
平成○○年○○月○○日貴署
○○
○○
代表取締役
○○
○○
㊞
監督官から、指導票により是正・改善を
指示された事項については、下記のとおり是正・改善しましたので報告します。
記
指導票
改善年月日
1.労働基準法第41
平成○○年○○
条第2号の管理監督
月○○日
者について
改善内容
管理監督者の労働時間について以下の是正を行い
ました。
①出勤・退勤に関して
(以下省略)
2.(省略)
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4| すぐにできる実務対応
会社が管理職に対して、すぐにできる対応例として、4つあります。
①時間管理の区分
②賃金の見直し
③管理職の権限の見直し
④残業代定額払い
以下に詳しく紹介します
(1)管理職と非管理職との時間管理を明確に区分する
自己の勤務時間に関する自由裁量の有無が「管理監督者」の該当性を判断する基準の1
つとされています。そこで、管理職と非管理職との間で時間管理を明確に区分するという
方法があります。具体的には、以下の3点になります。
管理職
非管理職
欠勤・遅刻・早退に
ついて
報告・届出事項とする
承認事項
賃金と労働時間
完全月給制
賞与と労働時間
連動しない
ノーワーク・ノーペイ
連動する
(例:欠勤・遅刻・早退などが査定
基準となる)
(2)下位の職位にある者との賃金の比較
「役付者以外の一般労働者に比し、優遇措置が講じられているか否か」として、下位の
職位の者との賃金比較も判断の基準の1つとされています。
特に、割増賃金を含めた月例給与において、管理職とその下位者との間で金額の逆転が
生じている場合、必ず対策を講じなければなりません。具体的には以下の2点があります。
①役付者にふさわしい役職手当、基本給を支給する
②賞与額の支給率を見直す
(3)管理職の権限の見直し
現実に部下もいないなど管理職としての実態に欠ける従業員までも管理職として扱うこ
とは妥当ではなく、「管理監督者」に該当する管理職の権限の見直しも行うべきです。「監
督権限・管理権限を有しているか否か」ということが判断の基準になります。
ここでいう監督権限とは、部下に対して、指揮命令の権限と業務命令権(例としては、
時間外・休日労働命令など)を合わせたものです。また、管理権限とは、採用、解雇、昇
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給等の人事権を指します。
このような監督権限、管理権限を有しない管理職については、管理監督者として扱うこ
とを再検討すべきです。
(4)残業代定額払いでの対応
管理監督者としての位置付けに自信を持てなければ、残業代定額払いでの対応を検討し
てください。一般的に、管理監督者へは、見込まれる残業時間に対する残業代を含めて、
役職手当や基本給に上乗せする形として、非管理職よりも高い給与を支給しているという
面があると思います。しかし、その上乗せしている部分が明確ではない以上、法的には所
定労働時間の賃金と見なされます。
そこで、これまでの賃金を所定労働時間分と時間外労働分に分け、残業代を支払ってい
ることを明確に従業員に示すことでトラブル防止対策にもなります。
所定労働時間分の賃金
(基本給、役職手当等)
管理職の賃金
時間外労働分の賃金
(定額の時間外手当)
また、管理監督者として位置付けている以上、実際の時間外労働の時間が、定額払いと
して支払済みの時間数を超えても、精算の必要はありません。ただし、管理監督者性が否
定された場合は、実際の時間外労働の時間に応じた精算が必要となります。
ただし、所定労働時間分の賃金は下がることになりますので、労働条件の不利益変更の
問題となりかねないので、従業員への説明を慎重に行わなければなりません。
2| 管理監督者性が否定された場合の対応法
管理監督者性が否定された場合、単純にそれを非管理職に位置付け直して残業代を支払
うことだけ行っても、問題の解決にはまったくなりません。人件費の負担だけ増えるだけ
です。抜本的な賃金制度の見直しによって、コスト増の問題を解決しなければいけません。
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①賞与査定の厳格化
従業員に支払う月例賃金が高くなっているのにも関わらず、当該従業員の出した成果
はそれまでと変わらず生産性が上がっていないということなら、業績配分が基本的性格
であるはずの賞与に反映させることによってコスト増を抑制します。賞与査定の中で、
成果が依然と変わらないということを重要項目として厳格に査定し、賞与額に反映すべ
きです。
②職務給の額を毎年改定する
従業員に支払った月例賃金の年額と当該従業員の年間の成果や生産性が見合わないと
きには、翌年の職務給を改定することを検討すべきです。賃金制度の中に、一定限成果
主義の要素を取り入れ、「月例賃金 = 基本給 + 職務給」などの構成とし、職務給は一
定の幅を持たせ、その幅の中で、年間の成果を評価して増減させるのです。
③降格
従業員に支払った月例賃金の年額と当該従業員の成果や生産性が見合わず、かつ改善
が見込めないと判断したときは、降格することも検討すべきです。ほとんどの企業で降
格ということは行っていないのが現状とは思いますが、成果や生産性が今までと変わら
ず、時間外手当分だけ給与が増えるということを考えれば、当該従業員の能力に見合っ
た職位に戻すことを検討すべきです。
<参考文献>
「これだけは知っておきたい労働法9
労働基準オンブズマン
著
(旬報社
しない・させないサービス残業」
2002 年)
「監督官がやってくる!小さな会社の労基署調査対策」
福田秀樹著
日労研
「サービス残業・労使トラブルを解消する就業規則の見直し方」
北見昌朗
著
東洋経済新報社
「ビジネスガイド
鈴木潔
編
2008 年6月号」「ビジネスガイド
2008 年8月号」
日本法令
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【著 者】日本ビズアップ株式会社
【発 行】森田 務 公認会計士事務所
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