「三人寄れば文殊の知恵」と言われる ように、複数の人間が集まっていろいろ 知恵を出せば、いい答えが出るはずだ。 だから会社経営でも、会議は健全な経営 判断を得るうえで、重要な機能を果たす Vol.42 会議の功罪 と考えるのが自然だ。だが日本のビジネ ス社会には「無駄な会議が多すぎる」と いう不満が渦巻いている。今回の「しお からトンボ」はこの問題について考える。 そう思いついた原因は、わが国の国会論 議にほとほとあきれ果てたということも ある。それはさておき、会議には目的に 応じておよそ三つの種類がある。その一つは「知恵出し会議」二つ目は「情報伝達・ 共有会議」そして三つめは「意思決定会議」である。 「知恵出し会議」の原則はブレーンストーミングで、活発かつ自由に意見を述べ、 他の参加者のアイデア提案の否定を禁止し、アイデアをできる限り多く出し、さ らにそれを膨らませることを目的とするものだ。このタイプの会議が無駄となる のは、知恵のないビジネスマンだけの会議になった時だけだ。 「知恵出し会議」は製品や商品の開発、組織や作業プロセスの改革などに威力を 発揮するために重要だ。ただこの手の会議を多人数で開くと、意見が拡散しすぎ てまとまらなくなる。あくまで少人数開催が前提であり、かつ時間を最長でも1 時間程度に区切り、アイデアが出尽くしたところで結論が出なくても閉会、日を 改めて再度開催するという方法を取るとよい。会議参加者は次回会議までに、他 の参加者のアイデア発信を参考にして、新しいアイデアを思いつくというメリッ トがあり、この二つを守れば「無駄な会議、時間の浪費」との批判はなくなるだろ う。 人間が集中して知恵出しするには、やはり時間的な上限がある。ちなみに小学 校での授業はたいてい45分がⅠ時限、20分授業して、5分インターバルを置 きさらに後半20分授業する。これで合計4 5 分になる。小学生年次では集中力を 維持できるのはせいぜい20分という経験則があるからだ。大人なら集中できる 時間はせいぜい1時間だろう。 「情報伝達・情報共有会議」は、集団活動社会である企業ではやはり重要だ。参 加者の理解共有を目的とするもので、議論し結論を出すものではない。内容次第 では別に人を集めなくても、メールや書面で代替できる。わざわざ人を集めるの は多くの社員の時間を消費するという欠点がある。 とは言うもののメールや文書では十分に意が伝わらないニュアンスもあるし、 社員同士のコミュニケ―ションの場ともなるから、 「無駄な会議」とは一概に言い 切れない。この会議は、突然の招集やテーマの事前通知がないときに、参加者から 批判が出ることが多い。開催時期と議事次第を早めに参加者に通知する労をとれ ば、このタイプの会議への批判も大きく減るだろう。 さて肝心の「経営意思決定会議」についてである。社員の考えを集約し最適な経 ― 13 ― 営方針を決定するこの会議は、 「無駄な会議」どころではない。にも拘らず参加者 が「無駄な会議」感を持つことは実際問題多い。その理由として考えられることに、 日本人の特性が潜んでいることに注意する必要がある。 本来「意思決定会議」では、会社の目指す方向について、会議参加者一人一人が 一票を持って意見を述べ、ロジカルに議論を進めることで最適結論を導き出すこ とが求められる。ところがわれら日本人が集まって会議をすると、この大原則が 見失われることが頻繁に起こる。その原因に日本人のメンタリティーがある、と いうのが筆者の長年のビジネスマン経験からくる答えである。 会議の席上では一人一人が持つ一票の重みは同じでなくてはならない。ところ が、平取より常務、常務より専務の意見の方が強くなる傾向がしばしば見られる。 参加者の知恵を集約し、議論を論理的に詰めて結論を導くプロセスにおいて一票 の重みは肩書に関係ないはずだが。 「意思決定会議」には各部門の長が列席するが、自部門の利害にこだわり、更に その部門の業績が好調な場合、その部門長の意見が通りやすい傾向がある。そし て別の部門では業績が低迷していたとする。するとその部門責任者である会議参 加者は意見を述べることを制止する雰囲気を感じることがある。会社全体の方向 性を定める会議において、参加者の部門の業績は二の次のテーマである。だがこ うした背景があって日本的会議では一票の重さが違ってくる。 かつて取締役であった筆者の会社の取締役会で、他の参加者(専務だった)の意 見の論理矛盾をついてそれを強く批判したところ、会議終了後に他の参加者(常務 だった)から「君は君が統括する本部の業績が思わしくないのに、よくあんな発言 ができるね」と注意されたことがある。読者諸氏はこの筆者の経験談をどう受け止 めるだろうか。筆者の行動は間違っていただろうか。 私に忠告した先輩であるその常務は、人格円満、ものごとを冷静に判断できる 先輩で、社長からの信頼も厚い人、筆者が日ごろから敬愛していた人だったとい うことを、念のために付け加えておく。 これらに加え、会議参加者間に流れる互いの好悪感情が、ロジカルな議論の応 酬を妨げるという問題もある。いやこれは万国共通かもしれないが。 会議参加者の心理を読み取りながら彼らの意見を集約し、感情を抑えてロジカ ルに議論して正しい結論を得る、その決め手に社長の会議運営の巧拙がある。 会社という集団活動においては「会して議す、議して決す、決して行う」が大原 則である。社内意思統一にも資する会議は無駄ではない。会議の進め方に工夫が ないから、社員が無駄と受け止める会議が多いだけである。社員たちにそんな不 満を抱かせては、社長の手腕を問われる。ご用心、ご用心。 (寺田欣司) しおからトンボ 世の中の動きをトンボの目で観察し、その中からちょいと『しおからい』経営の ヒントを見つけます。 ― 14 ―
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