佐 藤 研 究 室

アイルランドは
異国で見つけた
ふるさとです
佐藤研究室
アイルランドには、これまでに十数回は訪れて
いるという佐藤先生。行くたびに魅了され、と
きに望郷の念さえ感じるそうです。学生たちに
アイルランドの魅力と〝真実〟を伝えたいとい
地元の人との交流の場を設けてくれ
り、その結果、
残った地主たちは人が
えで亡くなるか、
国を捨てて移民とな
ういう側面もありますが、緑色の風
ました。彼らは紛争当時の暴動の様
いなくなった土地を牧草地へと変え
人との出会いがあったんです。彼は
の永田町」と何となくすみ分けされ
子や差別を受けたことなど、現地で
景がつくられた裏には飢饉という哀
――先生はアイルラン ド に 関 す る 研
ていますよね。でもアイルランドは
しい歴史があるんです。
多くの人が餓
究を専門とし、これま で に 本 も 出 さ
――学生の反応はどうですか?
た。
美しい風景はそういう傷からでき
多くの人に伝えていかなければいけ
最初はとても驚きますね。北アイ
ルランドになると、さらに驚きます。
ているんですよ。
授業では学生が描い
その瞬間
「この混沌とした響きと空
しました。
ない」
と考えるよう になり、アイルラ
しか知り得ない経験を聞かせてくれ
関心を持つようになり ま し た 。 ア イ
間は魅力的だ。
よし、
総合的にアイル
リンを訪れたときにふ と 入 っ た パ ブ
――その後、研究を本格的に開始し
ーマです。
――講義でも取り上げられているテ
ンドの歴史や文化についてより深い
て、ときに話の途中で感極まったの
ルランドという国を本 格 的 に 研 究 し
ランドの研究を始めよう!」と決意
で、ある場面に居合わ せ た こ と が き
たんですね。
僕が撮ってきた写真を見せながら
小さいのであらゆるものが同じ街に
年 近 く 前、ダ ブ
っかけでした。そこに は 政 治 家 や 映
ようと思ったのは
画監督、詩人、ミュージシャンがいて、
ほとんどの学生がアイルランドに
対 し て、
「牧歌的で緑豊か」という
らないことには「何それ、教えて!」と好奇心旺盛です。授業中はキリ
そのときは「本を出そう」とまで
は考えていませんでしたが、北アイ
に受け入れる ” という考え方が身につきました。博学な先生ですが、知
ルランド紛争の余韻が残るベルファ
ろにあります。先生は物事を否定することがなく、私自身 “ 否定する前
一つの空間の中にいろ ん な 声 が 響 き
佐藤ゼミの魅力は「本当に自分の好きなことを勉強しよう」というとこ
渡っていたんです。日本だと「若者の
小枝 嘉美さん
イメージを持っています。確かにそ
僕 自 身、 自 分 の 道 を 決 め る ま で に
少 し 遠 回 り を し ま し た が、 た く さ
ん の こ と を 得 る こ と が で き ま し た。
大学経営学部マーケティング学科4年
ストで、思いを新たにする宿屋の主
と言わしめる、知人特製の中判カメラ
ん で も 取 り 戻 す こ と は で き ま せ ん。
貴重な時間です。後でどんなに悔や
すが、学生時代は自らが学ぶための
一を願って活動家が獄
学 生 た ち も 急 が ず 焦 ら ず、 模 索 し
探究心を持たれる姿勢は、見習いたいと思っています。
ながら自分の信じる道を進んでく
としたときは、皆で大笑いしました。若者文化にも偏見がなく、むしろ
ださい。
をかけたままバナナボートに乗り、はしゃぎ過ぎた先生が眼鏡を湖に落
ゼミでは「文化」と「地域」を大き
な研究テーマとしているので、アイ
と驚くことばかりです。少し天然なところも魅力で、夏合宿の際、眼鏡
ルランドに限らず多くの地域を取り
佐藤先生はとても博識で「なんでこんなことまで知っているんだろう」
ク系とプロテスタント系住
上げています。前半は共通の教科書
をもとに議論し、後半は学生が、グ
ループもしくは個人で決めたテーマ
を研究する時間に充てています。独
創的な研究テーマも多く、発表のと
きは誰よりも僕が楽しんでいます。
ゼ ミ 生 に は「
『かわいい子には旅
させよ』の『かわいい子』とは自分
のことだから、自分を旅に出しなさ
山口 昂さん
民の居住する区域が高い壁
で隔てられていて、まるで
二つの違う国があるよう
だ」と説明をしても、実感
として受け止めるのはなか
なか難しいようです。僕自
身、紛争のことなど知識と
してはありましたが、現地
い 」 と、 よ く 言 い ま す。
「旅」は文
で実情を知るまでは遠い国
の出来事でした。北アイル
備期間になっているような気がしま
これは私が感じていることですが、
大学での4年間が就職するための準
――学生たちには何を望みますか。
自分は育ちにくい、と言っています。
きに自分を旅に出さないと、その後、
険でもいいです。とにかく、若いと
字通りの旅でもいいし、精神的な冒
ランドに内在している宗教、
国 家、経 済 な ど の 多 く の 問
題は、あらゆる国が抱えて
いる問題のひな形になると
考えています。学生たちに
は「この地域を学べば、世
界の民族や宗教の問題が読
めてくる」
と伝えています。
す。将来を考えるのは大事なことで
アイルランドの南北統
研究を開始しました。
詰まっていて、いろんな職業、さま
迎し、いろんなところを案内したり、
左はその一つ、キヤノンF1。右は「僕の宝物」
「来るべきところに来た」と僕を歓
小各種を使い分け、今もフィルムカメラを愛好。
れています。
う佐藤先生の研究室を訪ねました。
「カメラは相棒」と佐藤先生。現地調査では大
ているイメージを剥がしつつ、歴史
著書は『北アイルランドのインターフェイス』他
の実相を話します。
学大学院文学研究科英米文学専攻博士後期課程標準年限満了退学。
か泣いたりするんですよ。そんな光
大学大学院文学研究科英文学専攻博士前期課程修了、青山学院大
景に接するうちに「今聞いたことを
究、批評研究、英語圏文化研究。明治大学文学部文学科卒業、同
ざまな背景の人たちが混在していた。
大学経営学部マーケティング学科教授。
高 校 の 頃 か ら 現 代 詩 を 読 み 始 め、
特に 代後半からアイ ル ラ ン ド 詩 に
専門は現代イギリス・アイルランド詩研究、アイルランド地域研
『北アイルランドとミューラル』
(水声社/ 2011 年 3 月刊行)
「北アイルランドのミューラ
ル
(政治的主張をもった壁絵)
を解説した写文集」
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青山学報 247 Spring 2014
青山学報 247 Spring 2014
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SATO Toru
――ゼミの話を聞かせてく
ださい。
大学経営学部経営学科4年
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街、渋 谷。 官 庁 の あ る 霞 が 関、 政 治
『異邦のふるさと「アイルランド」』
(新評論/ 2005 年 7 月刊行)
「南北アイルランドの文化、社会、
歴史にまつわる 12 篇の論考」
中で制作したオブジェ
ッと、それ以外では凄くお茶目。ゼミ生は皆、先生が大好きです。
佐藤 亨
「ベルファストは、
カトリッ
「アイルランド以外ではニューヨークなんかが好きですね。ようするに “ 街 ” が好きなんです」
『北アイルランドのインターフェイス』
(水声社/ 2014 年 1 月刊行)
「ピース・ウォールで分断さ
れた北アイルランド社会を読
み解く写文集」
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